行政法ゼロから行政法#7

法源と個別法の読み方

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第1章 行政法の基礎 ⑦/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

初見の条文を、どこから読むか

窓口の相談(C=隣の住民が役所の窓口へ「柱が足りない気がする、何とかしてください」/A=役所の担当者はまず、この場面を定めた個別法の条文を開く/B=駅前の喫茶店の店主〔3階建てに建て替え中〕) 図:窓口の相談

  • C=隣の住民が役所の窓口へ「柱が足りない気がする、何とかしてください」
  • A=役所の担当者はまず、この場面を定めた個別法の条文を開く
  • B=駅前の喫茶店の店主〔3階建てに建て替え中〕

山あいの町の役所の窓口に、隣の住民のCが来ました。「駅前の喫茶店が、3階建てに建て替えている。柱が足りない気がする。なんとかしてください。」窓口の担当者は、役所のAです。Aは、その場で「分かりました、直させます」とは、すぐには言えません。まず開くのは、この場面を定めた個別法の条文、つまり建築を定めた法律です。誰が、どんな場合に、何をできるのか。この3つを、条文から取り出します。取り出す順番は、決まっています。先に結論です。個別法は、条文を覚える対象ではなく、読む素材です。初めて見る法律でも、読む順番は4つに決まっています。

論文式の問題文には、個別法の関係条文の抜粋が資料として付く、と前に言いました。付いている条文を正しく読めるか。その読み方を、今日渡します。どの分野にも共通する通則的な法律や憲法の条文は、手元の六法で読みながら覚えていく対象ですが、個別法は、読む順番を身につけておくほうが役に立ちます。前に、条文を要件と効果に分けて読む手順は、あとで、と言いました。その回が今日です。

個別法を読む4つの手順(1.目的規定=何を守る法律か/2.誰が・どんな要件で・何をできるか/3.手続=その前に何をしなければならないか/4.違反への対応=従わないとどうなるか/毎回=どの段〔法律・政令・省令・条例〕に書いてあるか/添え書き=建築基準法で実演) 図:個別法を読む4つの手順

  • 1.目的規定=何を守る法律か
  • 2.誰が・どんな要件で・何をできるか
  • 3.手続=その前に何をしなければならないか
  • 4.違反への対応=従わないとどうなるか
  • 毎回=どの段〔法律・政令・省令・条例〕に書いてあるか
  • 添え書き=建築基準法で実演

今日の1問は、初めて見る個別法を、どの順で読むか、です。答えを先に板で見せます。1つ目は目的規定です。その法律は何を守るためのものか、を見ます。2つ目は、誰が、どんな要件で、何をできるのか、です。要件は、その行政活動をするための条件です。3つ目は手続です。その前に何をしなければならないか、を見ます。4つ目は違反への対応です。従わないとどうなるか、を見ます。そして、どの手順でも毎回、いま読んでいる言葉が、どの段、つまり法律、政令、省令、条例のどこに書いてあるかを確かめます。これは、この講座での読み方の整理です。手順は覚える対象、個別法の条文は読む素材。今日は、前に5段の流れとして読んだ建築基準法を、この手順で読み直します。

手順の前に、土台が要ります。誰が何をできるかを読む手順と、毎回の確認は、どの段に何が書かれるのかを知らないと使えません。そこで、手順を支える土台を3つ置きます。まず、法がどんな形で存在するか。次に、憲法、法律、命令の上下。最後に、憲法の目と、行政法の目です。

法はどんな形で存在するか

行政法の法源(成文法源=憲法・条約・法律・命令・地方公共団体の自主法〔条例と規則〕/不文法源=慣習法・判例法・法の一般原則) 図:行政法の法源

  • 成文法源=憲法・条約・法律・命令・地方公共団体の自主法〔条例と規則〕
  • 不文法源=慣習法・判例法・法の一般原則

いま、土台の1つ目です。法源という言葉から。法源は、法の存在形式、つまり、法がどんな形で存在するか、という意味です。行政法では、行政と国民の間の争いで判断の基準になるルールの形を、一覧にしたものと考えてください。大きく、書かれているものと、書かれていないものに分かれます。書かれているものを成文法源、書かれていないものを不文法源と呼びます。成文法源は5つです。1つ目は憲法です。憲法は、行政の基本も定めています。2つ目は条約です。国際法の形式ですが、国内の行政法の法源にもなります。3つ目は法律で、国会が作ります。4つ目は命令で、行政機関が作ります。ここで言う命令は、省令のように行政が作るルールの意味です。前に見た、特定の相手への指図としての命令とは別です。5つ目が、地方公共団体の自主法で、条例と規則のことです。

2つの意味は名前が同じなので、法源の一覧に出てきたら、行政が作るルールの意味だと読んでください。次に、不文法源は3つです。最初は慣習法です。慣習のうち、人々が法として従うべきだという確信を得たものを言います。行政法では補充的な役割で、書かれた法が足りないときに、それを補う役割です。2つ目は判例法です。判例が法源かどうかは、議論があります。ただし実際には、判例が重要な意味をもつ場面が多くあります。3つ目は法の一般原則です。前の回に名前を出した平等原則と比例原則のほか、信義誠実の原則、権利濫用禁止の原則などがあり、ものの道理という意味で、条理とも呼ばれます。中身は、後の回で扱います。

判例は、裁判所が判決で示した判断で、法律のように条文の形で定められたものではありません。そこで、法源に含めるかどうかは議論があります。けれども行政法では、判例が大きな意味をもつ場面が多いので、一覧に入れておきます。法源の一覧は、覚える対象です。成文が5つ、不文が3つ。Bの建物でいえば、建築基準法が法律、柱の細かい基準を書く政令などが命令です。町が上乗せの決まりを作るなら、それが条例です。このうち、憲法、法律、命令には上下があります。次の土台です。ここでは、この3つの上下だけを見ます。

上下がある——制定法のピラミッド

制定法のピラミッド(憲法/法律=国会が作る/命令=政令〔内閣が作る〕・省令〔各省の大臣が作る〕など/「法令」=法律と命令にかけたくくり) 図:制定法のピラミッド

  • 憲法
  • 法律=国会が作る
  • 命令=政令〔内閣が作る〕・省令〔各省の大臣が作る〕など
  • 「法令」=法律と命令にかけたくくり

土台の2つ目です。上から、憲法、法律、命令の順に積み重なります。頂点の憲法から見ましょう。前の回にも読んだ、98条1項です。

条文日本国憲法98条1項

日本国憲法第98条第1項 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

憲法に反する法律や命令などは、全部か一部が、効力をもちません。ですから憲法が頂点です。法律を作るのは、国会です。41条を見ます。

条文日本国憲法41条

日本国憲法第41条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

法律という形のルールを作れるのは、国会だけです。内閣や大臣が作る命令は、国会が作るものとは別の、その下の段のルールになります。では、内閣は何を作れるのか。73条です。柱書と6号を見ます。

条文日本国憲法73条(柱書・6号)

日本国憲法第73条(柱書・6号) 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。 六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。

内閣は、憲法と法律を実施するために、政令を作れます。政令に罰則を置けるのは、法律が特に委任したときだけ、という線も書かれています。委任は、任せることです。法律が、定めの一部を命令に任せるこの話は、憲法の勉強では、立法の委任と呼ばれます。この回は、法律が任せた場合に絞って見ます。法律が任せたなら、その範囲で、国民の権利義務にかかわる定めを政令に置けます。各省の大臣が出す省令も、法律や政令から任された範囲で作れます。このように法律から任されて作られる命令が、前に名前を出した委任命令です。すでに見たとおり、法律が大枠を決め、細かいことは任されて省令に落ちます。任せる理由は、実情を知る役所のほうが的確に決められることと、改正が間に合うことでした。ここで1問です。法律の委任がないのに、省令で、国民に義務を課す定めを置けるでしょうか?

置けないと思います。国民に義務を課すなら、法律か、法律の委任が要るはずです。命令で、国民に義務を課す、権利を制限する、罰則を置く。このどれにも、法律の委任が要ります。委任の範囲を超えた命令は、無効です。逆に、範囲の中なら、命令に、国民の権利義務にかかわる定めを置けます。国民の権利義務にかかわる定めを置く命令を、法規命令と呼びます。なお、行政機関が作るルールの形式を、学問上は行政立法とも呼びます。どちらも、いまは名前を聞いておけば足ります。命令の種類や、任せてよい限界は、後の回で扱います。多くの個別法では、法律と命令が一体になって、はじめて効果を生みます。そこで、法律と命令をあわせて、法令と呼ぶことがあります。ただし法令の範囲は、法律ごとに定義が置かれることがあります。たとえば行政手続法は、条例と規則まで含めて定義しています。法令という言葉に出会ったら、その法律の定義に注意してください。

どの段で何が決まっているか(法律の段=安全な構造でなければならない、という大枠/政令の段=細かい基準/上の段が決めていない部分→下の段が判断で埋める余地が生まれることがある=裁量〔中身は後の回〕) 図:どの段で何が決まっているか

  • 法律の段=安全な構造でなければならない、という大枠
  • 政令の段=細かい基準
  • 上の段が決めていない部分→下の段が判断で埋める余地が生まれることがある=裁量〔中身は後の回〕

ここからが、毎回使う着眼点です。読むたびに、どの段で何が決まっていて、何が決まっていないかを見ます。下の段が上の段を受けて、どう細かく決めているか。上の段に反していないか。この見方が、手順の毎回の確認になります。上の段では決まっていないことも、あります。たとえば法律が、建築物は安全な構造でなければならない、とだけ決めて、細かい基準は政令に任せたとします。法律の段では、どんな構造なら安全かは、決まっていません。上の段が決めていない部分には、下の段が自分の判断で埋める余地が、生まれることがあります。この判断の余地を、裁量と呼びます。中身は後の回で扱います。ここで持ち帰るのは、判断の余地が生まれうる場所を、段ごとに指差せるようになることです。ピラミッドの上下と、どの段で何が決まっているかを見る。覚える対象は、この見方です。

憲法の目と、行政法の目

憲法の目と行政法の目の違い(見る関係/見る問い/BとCの場面での使い方) 図:憲法の目と行政法の目の違い(見る関係/見る問い/BとCの場面での使い方)

土台の3つ目に入る前に、前の回の1問です。前の回、行政に関する個々の法律は、憲法に対して何をするものだと見ましたか?憲法の価値を具体化するもの、でした。抽象的な憲法の価値を、実際に使える細かい決まりにするのが、個々の法律でした。個々の法律は憲法より下にあるので、憲法の勉強と行政法の勉強では、見る場所が違ってきます。憲法の勉強で主に問うのは、法律が憲法に反していないか、です。行政法の勉強で主に問うのは、個別の行政活動が法律に反していないか、です。行政法の勉強でも、法律が憲法に反していないことは前提で、法律は、憲法の趣旨を踏まえて読みます。

Bには、建てる自由があります。財産権や営業の自由に当たります。Cには、安全に暮らす利益があります。憲法の言葉だけでは、どちらをどこまで優先するのかは決まりません。そこを決めているのが建築基準法です。最低の基準、工事の前に計画を確かめる建築確認、是正命令という仕組みで、調整を具体的に決めています。この場面に限りません。憲法の条文だけで結論が出る紛争は、まれです。ですから、個別法の仕組みを飛ばして、憲法論だけで片づけようとはしません。個別法が憲法に反しない限り、憲法に合うように読んで使います。前の回の、仕組みと趣旨で読む、の続きです。この違いが、読む手順を決めます。行政法の目で問うのは、個別の行政活動が法律に反していないか、でした。それを言うには、その法律が、誰に、どんな要件で、何をできると定めているのかを、先に読み取らなければなりません。ですから手順は、個別法の条文を読むところから始まります。憲法は、条文の言葉の意味に迷ったときの、読む手がかりとして使います。一方で、初めて見る法律でも、仕組みさえつかめば、細部を全部読み切る必要はありません。ここから、その仕組みの読み方、つまり手順に入ります。

条文の形——要件と効果

行政の根拠条文の形(決まった条件がそろったとき=要件→行政機関が行政活動をする・できる=効果/民事の要件=その事実があれば効果が生じる/行政の要件=行政が動いてよいための条件〔行為要件〕) 図:行政の根拠条文の形

  • 決まった条件がそろったとき=要件→行政機関が行政活動をする・できる=効果
  • 民事の要件=その事実があれば効果が生じる
  • 行政の要件=行政が動いてよいための条件〔行為要件〕

土台がそろいました。ここから、手順の2つ目を先に深く見ます。行政の活動の根拠になる条文は、基本的に、決まった形をしています。決まった条件がそろったときに、行政機関が、決まった行政活動をする、またはできる、という形です。この条件を要件、行政活動のほうを効果と呼びます。ただし、要件や効果をはっきり書いていない条文もあります。基本的に、という言い方は、そのためです。民事法にも、要件と効果があります。事案が要件を満たすかどうかを判断する枠組みは、行政法令と共通です。ただし性質が違います。民事の要件は、その事実があれば効果が生じる、という関係です。売買の合意があれば、代金を払う義務が生じる、という具合です。行政の要件は、行政が動いてよいための条件で、行為要件と呼ばれます。もう1つ違いがあります。民事法は、私人どうしの関係を直接決めます。行政法令が決めるのは、行政機関の活動です。行政の活動は、相手方だけでなく、周りの人の暮らしにも響くので、その利益も見る場面が多くなります。BとCとAの三面関係を思い出してください。実際の条文で確かめます。前に、是正命令の条文として読んだ、建築基準法の9条1項です。行政が何をできるかを定める条文です。3本の柱でいえば、作用法です。

条文建築基準法9条1項

建築基準法第9条第1項 特定行政庁は、建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づく許可に付した条件に違反した建築物又は建築物の敷地については、当該建築物の建築主、当該建築物に関する工事の請負人(請負工事の下請人を含む。)若しくは現場管理者又は当該建築物若しくは建築物の敷地の所有者、管理者若しくは占有者に対して、当該工事の施工の停止を命じ、又は、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他これらの規定又は条件に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができる。

条文は、許可の条件に違反した場合や、敷地が違反している場合、請負人や所有者など建築主以外の人に命じる場合も含みます。ここでは、建物が基準に違反していて、建築主のBに命じる場合を読みました。命じる中身は、工事を止めさせる、または、期限を付けて、取壊し、つまり条文でいう除却や、修繕などの是正の措置をとらせる、の2つの型です。

要件と効果(9条1項を色分け=主語:特定行政庁/要件:建築基準法令の規定に違反した建築物/効果:施工の停止、または期限を付けた除却などの是正措置を命ずることができる) 図:要件と効果

  • 要件:建築基準法令の規定に違反した建築物
  • 効果:施工の停止、または期限を付けた除却などの是正措置を命ずることができる

板の色分けで読みます。主語は、特定行政庁。要件は、建築基準法令の規定に違反した建築物。効果は、施工の停止を命じる、または、期限を付けて除却などの是正措置を命ずることができる、です。特定行政庁は、前に見たとおり、市町村長か都道府県知事で、この場面では役所のAの側です。条文には、要件を満たしたら必ず命じなければならない、とは書かれていません。できる、と書いてあるだけです。命じるかどうか、何を命じるかが、条文で1つに決まっていない。ここは、判断の余地が生まれうる場所です。先ほどは、政令などのルールを作る側の余地でした。ここは、Bに是正を命じる場面の余地です。どちらも、同じ裁量という言葉で呼びます。

違法の典型と検討の出発点(典型=要件を満たさないのに満たすと判断して行政活動をした/出発点=根拠法令を見る→要件と効果を定めた条文を特定する→事案が要件を満たすかを見る/条文がはっきり定めていないとき→裁量などの理論〔後の回〕) 図:違法の典型と検討の出発点

  • 典型=要件を満たさないのに満たすと判断して行政活動をした
  • 出発点=根拠法令を見る→要件と効果を定めた条文を特定する→事案が要件を満たすかを見る
  • 条文がはっきり定めていないとき→裁量などの理論〔後の回〕

行政活動が違法になる典型は、事案が要件を満たさないのに、満たすと判断して、効果の行政活動をした場合です。たとえば、図面どおりに建っていて基準に反していない建物なのに、基準に違反していると判断して、是正を命じる場合です。最初の回に見た、事案を解く順路の、3つ目。行政活動の違法性を検討するところの中身が、これです。検討の出発点は、根拠法令を見て、要件と効果を定めた条文を特定し、事案が要件を満たすかを見ることです。法律や、任された命令が、要件も効果もはっきり定めていないことも、よくあります。そこで、裁量などの理論が必要になります。ただし、一般論を持ち出す前に、まず根拠条文の要件と効果です。ここまでで、読む順を決められる理由が見えました。行政の根拠条文は、要件がそろったときに行政が動ける、という形が中心にあります。その周りに、なんのための法律かという目的、動く前に踏む手続、従わないときの対応が付きます。形が決まっているので、読む順も決められます。目的を先に読むのは、要件の言葉を読む手がかりになるからです。

4つの手順で、建築基準法を読み直す

個別法を読む4つの手順(1.目的規定=何を守る法律か/2.誰が・どんな要件で・何をできるか/3.手続=その前に何をしなければならないか/4.違反への対応=従わないとどうなるか/毎回=どの段〔法律・政令・省令・条例〕に書いてあるか/添え書き=建築基準法で実演) 図:個別法を読む4つの手順

  • 1.目的規定=何を守る法律か
  • 2.誰が・どんな要件で・何をできるか
  • 3.手続=その前に何をしなければならないか
  • 4.違反への対応=従わないとどうなるか
  • 毎回=どの段〔法律・政令・省令・条例〕に書いてあるか
  • 添え書き=建築基準法で実演

いま、手順の実演です。前に、この建物の条文を、行政の関わりの5段の流れとして読みました。今回は、同じ条文を、読む手順として読み直します。まず、1つ目の手順、目的規定から。1条です。

条文建築基準法1条

建築基準法第1条 この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。

この法律は、建物の敷地や構造などの最低の基準を定めて、国民の生命、健康、財産を守る法律だ、と読めます。Cのような周りの人も、守られる側に入ります。目的規定は、要件の言葉の意味や、役所が考慮してよい事項を考える、手がかりにします。ただし、要件を定めた条文に書いていない事情を、目的規定の言葉だけで足すことはしません。行政が動いてよい条件を決めているのは、要件を定めた条文のほうだからです。目的規定は手がかりであって、決め手ではありません。次は、2つ目の手順、誰が、どんな要件で、何をできるか、です。これは、さっき読んだ9条1項です。特定行政庁が、建築基準法令の規定に違反した建築物について、是正を命ずることができる。ここで、毎回の確認を使います。要件の言葉、建築基準法令の規定は、どの段に書いてあるのか。9条1項の要件の言葉、建築基準法令の規定を、6条1項のかっこ書きが定義しています。前に読んだときは、読み飛ばした部分です。

条文建築基準法6条1項(柱書のかっこ書き)

建築基準法第6条第1項(柱書のかっこ書きの一部) この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)

建築基準法令の規定とは、この法律の規定、これに基づく命令の規定、これに基づく条例の規定、の3つです。1つの要件の言葉が、法律から、命令、条例へと降りていきます。

1つの言葉が段を降りる(要件の言葉=建築基準法令の規定→法律=安全な構造の大枠→政令=柱などの構造耐力上主要な部分・構造の種類ごとの技術的基準→大臣の定め=柱の大きさの割合など政令から任された細目/別枠=省令:申請の書類など手続の細目・条例:地方の上乗せ) 図:1つの言葉が段を降りる

  • 要件の言葉=建築基準法令の規定→法律=安全な構造の大枠→政令=柱などの構造耐力上主要な部分・構造の種類ごとの技術的基準→大臣の定め=柱の大きさの割合など政令から任された細目
  • 別枠=省令:申請の書類など手続の細目・条例:地方の上乗せ

柱を例に、降りてみます。法律は、建築物は地震などに対して安全な構造でなければならない、という大枠を定めて、細かい技術的基準は政令で定める、と任せます。政令は、柱などを構造耐力上主要な部分として挙げ、構造の種類ごとに基準を並べます。大きさの割合や計算の方法は、政令からさらに任されて、国土交通大臣が定めることがあります。申請の書類など、手続の細目は、省令が定めます。そして地方が、条例で上乗せして定める場合もあります。条例との関係は、後の回で扱います。条番号や数字を、覚える必要はありません。柱が足りるかどうかを測る細かい物差しは、法律ではなく、政令や、さらに大臣の定めに書かれています。法律だけ読んでも、足りるかどうかは決まりません。覚えるのは、要件の言葉に出会ったら、どの段に書いてあるかを降りて確かめる、という動きです。3つ目の手順は、手続です。要件と効果の後に読むのは、何を命じるのかが分からないと、その前に踏む手続も探せないからです。命じる前に、命じようとする措置とその事由を書いた通知書を渡して、意見書や有利な証拠を出す機会を与える。相手の言い分を聴くための定めで、前に見たものです。9条1項の命令には、手続の定めが付いている。それを見るのが、3つ目の手順です。どの段かといえば、通知書と、意見を出す機会は、法律に書いてあります。手続によっては、申請書の様式のような細目を、省令に任せているものもあります。

4つ目の手順は、違反への対応です。最後に読むのは、命じた後に、相手が従わないときの定めだからです。命令に従わなければ、罰則が予告されています。ただし罰則を科しても、柱の足りない建物は直りません。そこで、行政が自分で取壊しなどを行う、行政代執行の定めもあります。罰則も代執行も、法律に書かれています。罰則の重さなどの数字は、素材です。

4つの手順×建築基準法(1.目的規定→1条→法律の段/2.誰が・どんな要件で・何をできるか→9条1項と6条1項のかっこ書き→法律・政令・条例の段/3.手続→命じる前の通知書と意見書→法律の段/4.違反への対応→命令違反の罰則と行政代執行→法律の段) 図:4つの手順×建築基準法

  • 1.目的規定→1条→法律の段
  • 2.誰が・どんな要件で・何をできるか→9条1項と6条1項のかっこ書き→法律・政令・条例の段
  • 3.手続→命じる前の通知書と意見書→法律の段
  • 4.違反への対応→命令違反の罰則と行政代執行→法律の段

4つの手順を、建築基準法に当てはめた板です。見てほしいのは、右端の、どの段、の列です。目的規定と、命じる前の手続と、違反への対応は、法律の段で足ります。要件と効果は、法律から政令、条例まで降りないと、要件の言葉が埋まりません。前に読んだときは、条文を5段の流れに並べて、行政の関わり方を見ました。今回は、同じ条文を、誰が何をできるか、どの段に書いてあるか、という読み方で見ました。冒頭の窓口でAがすぐに答えられなかったのも、柱が基準に反するかは政令や大臣の定めまで降りないと決まらず、命じるとしても、その前に、Bの言い分を聴く手続を踏まなければならないからです。個別法が変わっても、この4つの手順と毎回の確認で、読み始められます。

争いが生まれる3つの場面

3つの場面×手順(1.要件に当たるか=要件の言葉の意味→手順2/2.考慮してよい事項=その法律の目的と仕組みから決まる→手順1と2/3.手続と実体の読み分け→手順3と2/手順4はこの回の3つの場面では扱わない) 図:3つの場面×手順

  • 1.要件に当たるか=要件の言葉の意味→手順2
  • 2.考慮してよい事項=その法律の目的と仕組みから決まる→手順1と2
  • 3.手続と実体の読み分け→手順3と2
  • 手順4はこの回の3つの場面では扱わない

手順に沿って読むと、争いが生まれる場所も見えてきます。3つの場面です。1つ目は、事案が要件に当たるか。要件の言葉の意味が問われます。2つ目は、行政が判断するときに、考慮してよい事項の範囲。3つ目は、手続の規定と、実体の規定の読み分けです。それぞれ、どの手順で出会うかも、あわせて見ます。事例は、Bの建物のままです。ここから、場面ごとに仮の枝を足します。枝は、1つ目と2つ目の場面に1つずつ、3つ目の場面に2つです。1つ目の場面、要件に当たるか、の枝です。仮に、町の条例が、建築基準法に基づいて、建物の安全のための追加の制限を定めていたとします。この枝では、柱の話はいったん脇に置いて、Bの建物は、法律と政令の基準は満たしていたけれど、この条例の制限には反していた、と仮定します。この条例の違反は、9条1項の要件に入るでしょうか?

見る場所は、要件の言葉です。建築基準法令の規定に違反した建築物。この言葉の中身は、6条1項のかっこ書きが定めていました。この法律に基づく条例も、入ります。この枝の条例は、建築基準法に基づくものと仮定したので、要件に当たります。逆に、建築基準法とは関係なく、町が独自に作った条例の違反は、この定義の言葉の外にあって、この要件には入りません。ただし、要件に当たることと、命令が適法であることは別です。命じるかどうか、何を命じるかは、効果の側の話で、判断の余地が生まれうる場所でした。この場面は、手順の2つ目で出会います。2つ目の場面、考慮してよい事項、の枝です。是正命令を出すかを決めるとき、役所が、Bは町の祭りに協力的だから、今回は見逃そう、と考えてよいでしょうか。

建築基準法の目的は、建物の最低の安全基準で、国民の生命、健康、財産を守ることでした。祭りへの協力は、その目的と関係のない事情です。是正を命じる力は、この目的のために、法律が役所に与えたものです。目的と関係のない事情で、命じるかどうかを決めれば、力を与えた目的から外れてしまいます。ですから、考慮の材料にしてはいけない、と考えます。逆に、柱の不足で建物がどれだけ危ないかは、建物の安全という目的にかかわる事情なので、考慮の材料になります。考慮してよい事項の範囲は、その法律の目的と仕組みから決まります。目的規定は手がかり、でした。命じるかどうかを決めるのは手順の2つ目、そこで手がかりにするのが手順の1つ目です。審査の仕方は、後の回で扱います。

手続と実体の読み分け(実体=命令の中身〔要件と効果〕/手続=踏むべき手順/仮の枝=通知書を渡さずに命令を出した→中身が正しくても問題になりうる/仮の枝=手続を任された省令に構造の基準を書き足した→任された範囲を超える) 図:手続と実体の読み分け

  • 実体=命令の中身〔要件と効果〕
  • 手続=踏むべき手順
  • 仮の枝=通知書を渡さずに命令を出した→中身が正しくても問題になりうる
  • 仮の枝=手続を任された省令に構造の基準を書き足した→任された範囲を超える

3つ目の場面は、手続と実体の読み分けです。実体は、命令の中身にあたる、要件と効果のことです。この場面の枝は2つです。まず、通知書を渡さずに、命令を出しました。命令の中身、つまり柱が基準に反している、という判断は、正しかったとします。それでも問題になるでしょうか?命令の中身の当否と、踏むべき手順を踏んだかは、別に見ます。通知書を渡して言い分を聴くことも、法律が、命じる前に踏むよう役所に求めた定めです。行政法の目で見るのは、行政活動が法律に反していないか、でした。要件に当たっていても、手続の定めに反していれば、法律に反した点が残ります。ですから、手続の定めに従わなかったこと自体も、問題になりえます。効果がどうなるかは、後の回で扱います。ここは手順の3つ目、手続で出会う場面です。この場面の、もう1つの枝です。申請の書類など、手続の細目は、省令に任されています。その省令の定めに、法律にない構造の基準が書き足されていたら、どうでしょう。

法律が省令に任せたのが、手続だけの場合を考えています。構造の基準が増えれば、建てる人が守らなければならない義務が増えます。命令で国民に義務を課すには、法律の委任が要りました。手続しか任されていない省令には、構造の基準についての委任がありません。ですから、その省令に構造の基準を書き足すのは、任された範囲を超えます。手続だけを任された省令で、実体の要件は足せません。ピラミッドの、委任の範囲を超えた命令は無効、に戻ります。手順の3つ目と2つ目が、ここで出会います。

3つの場面×手順(1.要件に当たるか=要件の言葉の意味→手順2/2.考慮してよい事項=その法律の目的と仕組みから決まる→手順1と2/3.手続と実体の読み分け→手順3と2/手順4はこの回の3つの場面では扱わない) 図:3つの場面×手順

  • 1.要件に当たるか=要件の言葉の意味→手順2
  • 2.考慮してよい事項=その法律の目的と仕組みから決まる→手順1と2
  • 3.手続と実体の読み分け→手順3と2
  • 手順4はこの回の3つの場面では扱わない

板の右の列が、出会う手順です。手順の4つ目、違反への対応は、この回の3つの場面には出てきません。

判例の重み

手本になる判例(納骨堂の経営許可を周辺住民が争った事件=最判令5・5・9 民集77巻4号859頁/護身用スプレー〔催涙剤の稀溶液〕の輸入業の登録拒否を争った事件=最判昭56・2・26 民集35巻1号117頁) 図:手本になる判例

  • 納骨堂の経営許可を周辺住民が争った事件=最判令5・5・9 民集77巻4号859頁
  • 護身用スプレー〔催涙剤の稀溶液〕の輸入業の登録拒否を争った事件=最判昭56・2・26 民集35巻1号117頁

最後に、判例の重みを確かめます。判例が法源かどうかは、議論がありました。けれども行政法は、個別法ごとに条文がばらばらで、通則的な条文が少ない法分野です。そのため、判例が、個別法の仕組みをどう読むかの手本になる場面が多くあります。判例を覚えるときも、その事件の個別法の仕組みから読みます。結論だけを切り離して覚えるより、どの法律のどの仕組みの話だったかと一緒に持っておくほうが、別の個別法に出会ったときに使えます。名前だけ、2件出します。1件目は、大阪市長がした納骨堂の経営許可に対して、周辺に住む人が取消しを求めた事件です。2件目は、催涙剤を薄めた液を噴射する護身用スプレーの輸入業の登録申請を、行政が拒否した事件です。どちらの事件も、判決は、許可や登録の要件が、法令のどこに、どう書かれているかを読むところから、結論を出しています。納骨堂の事件では、法律は許可の要件を特に書かず、市の規則が要件を具体的に定めていました。ここでも、どの段に書いてあるか、が効いています。護身用スプレーの事件では、法律が、登録を拒む場合として書いていたのは、設備が基準に合わない場合などでした。こちらは、要件に何が書かれているか、を読んだ例です。2件とも、判決が根拠として読んだのは、今日の手順の2つ目、誰が、どんな要件で、何をできるかと、その要件がどの段に書いてあるか、です。手本になるのは、結論よりも、この読む順です。

結論や理由づけは、別の回で扱います。今日持ち帰るのは、判例を読むときも、個別法の仕組みから始める、という姿勢です。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ(4つの手順=目的規定→誰が・どんな要件で・何をできるか→手続→違反への対応〔毎回、どの段に書いてあるか〕/法源=成文5・不文3/ピラミッド=憲法・法律・命令〔法令〕/憲法の目と行政法の目/3つの場面=要件に当たるか・考慮してよい事項・手続と実体) 図:今日のまとめ

  • 4つの手順=目的規定→誰が・どんな要件で・何をできるか→手続→違反への対応〔毎回、どの段に書いてあるか〕
  • 法源=成文5・不文3
  • ピラミッド=憲法・法律・命令〔法令〕
  • 憲法の目と行政法の目
  • 3つの場面=要件に当たるか・考慮してよい事項・手続と実体

最初の1問に戻ります。初めて見る個別法を、どの順で読むか。読む順は、4つの手順です。まず目的規定。次に、誰が、どんな要件で、何をできるか。それから手続。最後に、違反への対応です。そして毎回、いま読んでいる言葉が、法律、政令、省令、条例のどの段に書いてあるかを確かめます。土台も3つありました。法源は、成文が5つ、不文が3つ。ピラミッドは、上から憲法、法律、命令で、読むたびに、どの段で何が決まっていて何が決まっていないかを見ます。法律と命令をあわせた法令は、範囲が法律ごとの定義で決まることがあります。憲法の目と行政法の目は、主に、法律が憲法に反しないかと、個別の行政活動が法律に反しないか、の違いでした。条文は、基本的に、要件と効果の形です。争いが生まれる場所は、3つの場面でした。事案が要件に当たるか。考慮してよい事項は何か。手続と実体の読み分け。判例を読むときも、個別法の仕組みから始めます。

個別法は、覚える対象ではなく、読む素材です。覚えるのは、この4つの手順と、読み方の土台です。通則的な法律や憲法の条文は、別に、読みながら覚えていく対象です。初めて見る個別法の前でも、この順で読み始められます。

参照条文

  • 日本国憲法98条1項
  • 日本国憲法41条
  • 日本国憲法73条(柱書・6号)
  • 建築基準法9条1項
  • 建築基準法1条
  • 建築基準法6条1項(柱書のかっこ書き)

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