行政法ゼロから行政法#8

法律による行政の原理

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第1章 行政法の基礎 ⑧/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

同じ町で起きた3つの出来事

山あいの町で起きた3つの出来事(1つ目=税務署が、法律どおりに計算すれば10万円になるBの税を、「祭りに協力的だから」と判断で8万円にした/2つ目=ある省が、法律になんの定めも委任も無いまま、省令だけで全国の喫茶店に仕入れ額の届出を義務づけた〔仮の話〕/3つ目=国の役所が、法律になんの定めも無いまま、予算だけでBの店の段差をなくす工事に補助を出した) 図:山あいの町で起きた3つの出来事

  • 1つ目=税務署が、法律どおりに計算すれば10万円になるBの税を、「祭りに協力的だから」と判断で8万円にした
  • 2つ目=ある省が、法律になんの定めも委任も無いまま、省令だけで全国の喫茶店に仕入れ額の届出を義務づけた〔仮の話〕
  • 3つ目=国の役所が、法律になんの定めも無いまま、予算だけでBの店の段差をなくす工事に補助を出した

山あいの町で、国の役所が3つのことをしました。いずれも、喫茶店の店主のBに関わる話です。1つ目。税務署が、法律どおりに計算すれば10万円になるBの税を、「Bは町の祭りに協力的だから」と判断して、8万円にしました。相手が得をする行為でも、法律から外れていれば、違法になります。ここが、今日の入り口です。2つ目は、仮の話です。ある省が、法律になんの定めも委任も無いのに、省令だけで、全国の喫茶店に、毎月の仕入れ額を届け出るよう義務を課した、とします。3つ目。国の役所が、法律になんの定めも無いまま、予算だけで、Bの店の入口の段差をなくす工事に、補助を出しました。

3つの出来事は、どれも法律と行政の関係の話ですが、問題の種類は1つずつ違います。今日の1問は、行政の行為を見たとき、最初に何を確かめるか、です。答えを先に見せます。

最初に確かめること(その事柄に法律の定めがあるか→ある=行政がその定めから外れていないか〔法律の優位〕/無い=一般的なルール作りか〔法律の法規創造力〕・目の前の個別の行為か〔法律の留保〕) 図:最初に確かめること

  • その事柄に法律の定めがあるか→ある=行政がその定めから外れていないか〔法律の優位〕
  • 無い=一般的なルール作りか〔法律の法規創造力〕・目の前の個別の行為か〔法律の留保〕

答えは、その事柄について、法律の定めがあるか、です。定めがあるなら、行政がその定めから外れていないかを見ます。これが、法律の優位です。定めが無いなら、行政がしたのが、一般的なルール作りか、目の前の個別の行為かを見ます。ルール作りは法律の法規創造力、個別の行為は法律の留保の問題です。この3つが、法律による行政の原理の、3つの内容です。1つ目は、税の定めがあるのに外れたので、法律の優位です。2つ目は、定めも委任も無いのにルールを作ったので、法律の法規創造力です。3つ目は、定めが無いまま個別の補助を出したので、法律の留保が問われます。順に、中身を見ていきます。

法律による行政の原理とは

法律による行政の原理(行政活動は、法律に基づき、法律に従って行われなければならない/基づく=法律を根拠にする/従う=法律に反しない) 図:法律による行政の原理

  • 行政活動は、法律に基づき、法律に従って行われなければならない
  • 基づく=法律を根拠にする
  • 従う=法律に反しない

法律による行政の原理とは、行政活動は、法律に基づき、法律に従って行われなければならない、という原理です。行政法でいちばん土台になる原理です。法律による行政の原理と法治主義は、同じ原理を指す、2つの呼び名です。どちらの言い方も出てくるので、両方言えるようにしておいてください。

原理の呼び名と中身(法律による行政の原理=法治主義〔同じ原理を指す2つの呼び名〕/基づく=法律を根拠にする→法律の法規創造力・法律の留保へ/従う=法律に反しない→法律の優位へ/ここでの法律=国会が制定する法律) 図:原理の呼び名と中身

  • 法律による行政の原理=法治主義〔同じ原理を指す2つの呼び名〕
  • 基づく=法律を根拠にする→法律の法規創造力・法律の留保へ
  • 従う=法律に反しない→法律の優位へ
  • ここでの法律=国会が制定する法律

原理の中身を、2つの言葉に分けます。基づくは、法律を根拠にすること。従うは、法律に反しないことです。たとえば、Bの店に何かを命じるなら、命じる根拠になる法律があるのが、基づく。その法律が決めた条件や中身から外れないのが、従うです。基づくは、あとで見る法律の法規創造力と法律の留保に、従うは、法律の優位に、それぞれつながります。ここでの法律は、国会が制定する法律のことです。この回は、国会の法律と行政の関係で話します。町の条例が同じ働きをする場面は、後の回で扱います。

2つの局面と、憲法の4つの条文

原理の2つの局面(国会と行政の関係=国会が法律で、行政が守るべき行動の基準をあらかじめ決める/裁判所と行政の関係=行政が法律に反したとき、裁判所があとから正す) 図:原理の2つの局面

  • 国会と行政の関係=国会が法律で、行政が守るべき行動の基準をあらかじめ決める
  • 裁判所と行政の関係=行政が法律に反したとき、裁判所があとから正す

法律による行政の原理は、2つの局面でできています。1つ目は、国会と行政の関係です。国会が法律で、行政が守るべき行動の基準を、あらかじめ決めておきます。2つ目は、裁判所と行政の関係です。行政が法律に反したとき、裁判所が違法と判断して、適法な状態へ戻す仕組みが用意されています。あとから正す局面です。あらかじめ決めておくだけでは、足りません。基準があっても、行政が破ったときに誰も正せなければ、絵に描いた餅です。税務署が法律と違う額を決めても、違法だと判断して戻す仕組みが無ければ、基準は守られません。あらかじめ決める、あとから正す。2つがそろって、原理が働きます。この2つの局面を、憲法の4つの条文で確かめます。まず、あらかじめ決める側の1つ目、41条です。

条文日本国憲法41条

日本国憲法第41条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

行政が守る基準になる法律は、国会が決めます。次に、その法律を実行する側です。73条の柱書と、1号を見ます。

条文日本国憲法73条(柱書・1号)

日本国憲法第73条(柱書・1号) 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。 一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。

内閣は、一般の行政事務のほかに、法律を誠実に執行する仕事を持ちます。国会が決めた法律を、そのとおりに実行する役目です。この2つの条文が、あらかじめ決める局面にあたります。次は、その役目が内閣に置かれている土台です。

条文日本国憲法65条

日本国憲法第65条 行政権は、内閣に属する。

国の働きを3つに分けて、立法は国会、行政は内閣、司法は裁判所に割り振る。権力分立の考え方です。そして、あとから正す役目は裁判所です。76条1項を見ます。

条文日本国憲法76条1項

日本国憲法第76条第1項 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。

違法かどうかを判断して正す役目は、裁判所にあります。ただし、裁判所が動くのは、訴えがあったときです。裁判所が自分から行政を見回って、違法を探すわけではありません。どんな訴えなら裁判所が扱えるかは、後の回で扱います。

2つの局面と憲法の言葉(あらかじめ決める=国会が法律で行動の基準を決める〔41条〕・内閣が法律を誠実に執行する〔73条1号〕/土台=行政権は内閣に属する〔65条〕/あとから正す=司法権は裁判所に属する〔76条1項〕) 図:2つの局面と憲法の言葉

  • あらかじめ決める=国会が法律で行動の基準を決める〔41条〕・内閣が法律を誠実に執行する〔73条1号〕
  • 土台=行政権は内閣に属する〔65条〕
  • あとから正す=司法権は裁判所に属する〔76条1項〕

整理します。あらかじめ決めるが、41条と73条1号。土台が、65条。あとから正すが、76条1項です。立法は国会、行政は内閣、司法は裁判所という役割分担から、この原理が出てきます。4つの条文は、覚える対象です。41条は国会、73条1号は内閣で、機関は違いますが、役目は同じ向きです。国会が基準を決め、内閣が実行する。どちらも、行政が動く前に、基準が先にあることを支える条文です。

法律という形と、その中身

形だけで足りるか(問い=法律という形さえあれば、それでよいのか/国会が作った法律に、行政が従っている→?) 図:形だけで足りるか

  • 問い=法律という形さえあれば、それでよいのか
  • 国会が作った法律に、行政が従っている→?

ここで、もう1つの問いです。法律という形さえあれば、それでいいのでしょうか。

法治主義の2つの見方(形式的法治主義=法律という形があるか/実質的法治主義=あらかじめ用意する基準の中身と、行政の誤りを正す仕組みの作り方) 図:法治主義の2つの見方

  • 形式的法治主義=法律という形があるか
  • 実質的法治主義=あらかじめ用意する基準の中身と、行政の誤りを正す仕組みの作り方

法律という形さえあれば、中身は問わない、という見方があります。形式的法治主義で、形式的法治国論とも呼ばれます。この見方では、中身が不当な法律でも、国会が決めたというだけで通ります。たとえば、理由なく特定の1軒だけを店じまいさせる法律でも、形が整っていれば、行政は法律に従っている、と言えてしまいます。そこで、いまは、あらかじめ用意する基準の中身と、行政の誤りを正す仕組みの作り方まで、問います。実質的法治主義です。基準の中身は、国民の自由や権利を、不当に縛っていないかを見ることです。物差しは、たとえば憲法が保障する自由や権利です。先ほどの、理由なく1軒だけを店じまいさせる法律は、形が整っていても、ここで通りません。正す仕組みの作り方は、行政が基準を破ったとき、実際に争って戻せる仕組みになっているかを見ることです。あらかじめ決める、あとから正す、のそれぞれの質を問う、ということです。

法の支配との関係(法の支配=権力を法で縛る、英米に由来する考え方で、法の内容の正しさまで求める/実質的法治主義=基準の中身を問う点で、法の支配に近づいている/両者の違い=相対的になっている) 図:法の支配との関係

  • 法の支配=権力を法で縛る、英米に由来する考え方で、法の内容の正しさまで求める
  • 実質的法治主義=基準の中身を問う点で、法の支配に近づいている
  • 両者の違い=相対的になっている

似た言葉に、法の支配があります。権力を法で縛る、英米に由来する考え方で、法の内容の正しさまで求めます。実質的法治主義は、基準の中身を問う点で、この法の支配に近づいていて、両者の違いは相対的になっています。行政法で持ち帰るのは、基準の中身と、正す仕組みの作り方が問われる、という点です。

法律があるとき——法律の優位

税務署とBの税(A=国の役所〔税務署〕/B=喫茶店の店主/法律どおりに計算した額=10万円/税務署が判断で決めた額=8万円) 図:税務署とBの税

  • A=国の役所〔税務署〕
  • B=喫茶店の店主
  • 法律どおりに計算した額=10万円
  • 税務署が判断で決めた額=8万円

ここから、原理の3つの内容を、最初の分かれ道の順に見ます。まず、法律があるときです。最初の出来事に戻ります。税務署が、法律どおりに計算すれば10万円になるBの税を、判断で8万円にしました。この税について、法律の定めは、あります。税務署は、そこから外れました。違法かどうかは、相手から苦情が出るかどうかでは決まりません。法律の定めがあるのに、そこから外れたこと自体が、違法です。税の額の基準は、国会があらかじめ法律で決めたものです。執行する側の税務署が、自分の判断で書き換えてよいなら、国会が基準を決めた意味がなくなります。内閣に課された、法律を誠実に執行する、という憲法73条1号の役目が、ここで効いてきます。得をする側であっても、同じです。この見方が、法律の優位です。

法律の優位(内容=法律があるとき、行政活動は法律に反してはならない/対象=行政活動の全部〔権利を制限する活動・利益を与える活動・行政が作る命令・個別の行政活動〕/向き=法律の優位は、してはならない、という消極の縛り・法律の留保は、動くのに法律の根拠を求める、積極の側の問い) 図:法律の優位

  • 内容=法律があるとき、行政活動は法律に反してはならない
  • 対象=行政活動の全部〔権利を制限する活動・利益を与える活動・行政が作る命令・個別の行政活動〕
  • 向き=法律の優位は、してはならない、という消極の縛り・法律の留保は、動くのに法律の根拠を求める、積極の側の問い

法律の優位の原理とは、法律があるとき、行政活動はそれに反してはならない、という内容です。対象は、行政活動の全部です。Bの権利を制限する活動に限りません。利益を与える活動でも、法律の定めから外れることは許されません。行政が作る命令も、個別の行政活動も、法律に反すれば違法です。向きの違いを1つ。法律の優位は、してはならない、という消極の縛りです。法律の留保は、動くのに法律の根拠を求める、積極の側の問いです。税を判断で減らせないことには、法律の優位に加えて、税ならではの理由もあります。その中身は、後の回で扱います。今日は、法律の定めがあるのに外れた、というところまでです。

法律でしか決められないこと——法規と法律の法規創造力

前の回の復習(命令で国民に義務を課す→要るもの=?) 図:前の回の復習(命令で国民に義務を課す→要るもの=?)

次は、法律でしか決められないことの話です。その前に、前の回の1問です。前の回、命令で国民に義務を課すには、何が要るとされていましたか?命令で国民に義務を課すには、法律の委任が要る。委任は、法律が、定めの一部を命令に任せることでした。この内容に付いた名前が、3つの内容の2つ目、法律の法規創造力です。名前の前に、法規という言葉を用意します。

法規の歴史(王が税を取るには議会の同意=法律が要る→租税法律主義〔憲法84条〕はその名残り→国民の自由を制約し義務を課す定め全体へ→法規=国民の権利義務に関する一般的・抽象的な定め) 図:法規の歴史

法規とは、国民の権利義務に関する、一般的で抽象的な定めです。一般的とは、相手が不特定多数であること。抽象的とは、起こりうる出来事を類型で定めていることです。法規と法律は、別の言葉です。法規は、中身で見た呼び名。法律は、国会が作る形で見た呼び名です。法規の歴史から見ます。議会の力は、税の問題から育ちました。王が税を取るには、議会の同意、つまり法律が要る。この沿革の名残りが、憲法84条の租税法律主義です。

条文日本国憲法84条

日本国憲法第84条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

議会の力が広がると、法律で決める範囲は、税から、国民の自由を制約し義務を課す定め全体へ広がりました。負担を受ける国民が、代表である議会を通じて同意する、という考え方です。だから、法規のうち、国民の自由を制約し、義務を課す定めは、必ず法律で、という点に、争いがありません。憲法41条の立法に、少なくともこの、自由を制約し義務を課す定めが含まれることにも、争いがありません。41条の立法は、少なくとも法規を含みます。ほかに何を含むかは、見解が分かれます。行政組織の定めを含むとする見解もあり、あとで触れます。

法律の法規創造力(法規を作れるのは法律だけ/行政が命令で、新たに国民に義務を課し、権利を制限する→法律の委任が要る/法律を実施するための細かい手続や様式を定める命令=新たな義務を作るものではないので、別に扱う) 図:法律の法規創造力

  • 法規を作れるのは法律だけ
  • 行政が命令で、新たに国民に義務を課し、権利を制限する→法律の委任が要る
  • 法律を実施するための細かい手続や様式を定める命令=新たな義務を作るものではないので、別に扱う

法規を作れるのは法律だけ。これが、法律の法規創造力の原理です。行政が命令で、新たに国民に義務を課し、権利を制限するには、法律の委任が要ります。前の回の委任命令の話に、名前が付いた、ということです。なお、法律を実施するための細かい手続や様式を定める命令は、新たな義務を作るものではないので、別に扱います。命令の種類や、任せてよい限界は、後の回で扱います。

省令だけの届出義務(A=国の省→B=全国の喫茶店/省令=毎月の仕入れ額の届出を義務づける/法律の定め=無し/法律の委任=無し) 図:省令だけの届出義務

  • A=国の省→B=全国の喫茶店
  • 省令=毎月の仕入れ額の届出を義務づける
  • 法律の定め=無し
  • 法律の委任=無し

2つ目の出来事です。ある省が、法律になんの定めも委任も無いまま、省令だけで、全国の喫茶店に、毎月の仕入れ額を届け出るよう義務を課した、という仮の話でした。反する法律は、確かにありません。問題は、法律の無いところで、行政が法規を作ったことです。相手は、全国の喫茶店という不特定多数なので、一般的です。毎月の仕入れという、これから起こる出来事を型で決めているので、抽象的です。届出の義務という、権利義務に関わる定めなので、これは法規です。法規を作れるのは法律だけなので、法律の優位ではなく、法律の法規創造力の問題になります。当然のこととして認められているのは、ここまでの、優位と法規創造力です。学説でいちばん議論されてきたのは、3つ目です。

法律が無いとき——問いは憲法へ上がる

法律が何も定めていないとき(問い=行政は自由に動いてよいのか/法律の定め=無し→?) 図:法律が何も定めていないとき

  • 問い=行政は自由に動いてよいのか
  • 法律の定め=無し→?

法律が何も定めていないとき、行政は自由に動いてよいのでしょうか。法律が無ければ、何をしても、法律に反することにはなりません。法律の優位は、働きません。ただ、法律に反しないことと、動いてよいことは、別の話です。動いてよいかは、憲法が、法律の定めなしに行政が動くことを禁じているか、という問いに移ります。

憲法が禁じているか(法律の定め=無し→憲法が、定めなしに動くことを禁じているか→一般的なルール作り=41条が禁じる〔法律の法規創造力〕/個別の行為=41条だけでは決まらず憲法全体の趣旨から考える〔法律の留保〕) 図:憲法が禁じているか

  • 法律の定め=無し→憲法が、定めなしに動くことを禁じているか→一般的なルール作り=41条が禁じる〔法律の法規創造力〕
  • 個別の行為=41条だけでは決まらず憲法全体の趣旨から考える〔法律の留保〕

分かれ道は2つです。1つ目は、命令で法規を定める、一般的なルール作りです。ここでいうルールは、国民の権利義務に関わるルール、つまり法規のことです。前に町の補助で見た要綱のように、国民の権利義務を直接には決めない、行政の内部の基準は、ここには入りません。法律の定めなしに、法規を命令で定めることは、41条が禁じます。立法は国会、と定める条文だからです。先ほどの、法律の法規創造力です。2つ目は、目の前の1人に命じる、与える、という個別の行政活動です。こちらは、必ずしも立法とはいえないので、41条だけからは答えが出ません。41条や65条をはじめ、憲法全体の趣旨から、どんな性質の行政活動に法律の根拠が要るかを考えます。この問いが、法律の留保です。

補助と法律の留保(3つ目の出来事=国の役所が、法律の定めなしに、Bの店に補助を出してよいか/権利を制限する行政=法律の根拠が要る〔どの立場でも争いなし〕/補助のような与える行政=同じ歯止めがそのまま要るのかで、考え方が分かれる) 図:補助と法律の留保

  • 3つ目の出来事=国の役所が、法律の定めなしに、Bの店に補助を出してよいか
  • 権利を制限する行政=法律の根拠が要る〔どの立場でも争いなし〕
  • 補助のような与える行政=同じ歯止めがそのまま要るのかで、考え方が分かれる

3つ目の出来事が、この問いにあたります。国の役所が、法律の定めなしに、Bの店に補助を出してよいか。まず、権利を制限する行政に法律の根拠が要る点は、どの立場でも争いがありません。国会が法律で認めた場合に限る、という歯止めが無いと、行政の判断ひとつで、権利や自由が奪われてしまうからです。補助のような与える行政は、権利を取り上げるわけではありません。だから、同じ歯止めがそのまま要るのかで、考え方が分かれます。各説の中身は、後の回で扱います。今日は、問いの形までです。

どれの問題かを見分ける練習

見分ける練習1と2(1問目=町の役場が、建築基準法の基準どおりに審査して適合を確かめたのに、「隣のCが反対しているから」と確認済証は出さないと決め、Bに伝えた/2問目=内閣が、法律に定めも委任も無いまま、政令だけで全国の喫茶店に営業日の掲示を義務づけ、守らない店には過料を科すと定めた〔仮の話〕/見る順=その事柄に法律の定めはあるか→ある=外れたか/無い=ルール作りか、個別の行為か) 図:見分ける練習1と2

  • 1問目=町の役場が、建築基準法の基準どおりに審査して適合を確かめたのに、「隣のCが反対しているから」と確認済証は出さないと決め、Bに伝えた
  • 2問目=内閣が、法律に定めも委任も無いまま、政令だけで全国の喫茶店に営業日の掲示を義務づけ、守らない店には過料を科すと定めた〔仮の話〕
  • 見る順=その事柄に法律の定めはあるか→ある=外れたか
  • 無い=ルール作りか、個別の行為か

練習です。出来事を1つずつ見せます。見る順番は決まっています。まず、その事柄に法律の定めがあるか。あれば、外れたか。無ければ、ルール作りか、個別の行為か。この順で、どの問題かを答えてください。1問目です。この町の役場には、建築の計画を確かめる担当者の、建築主事が置かれているとします。役場は、Bの建て替え計画を、建築基準法の基準どおりに審査して、基準に適合していることを確かめました。ところが、「隣のCが反対しているから」という理由で、工事を始めるのに要る確認済証は、出さないと決めて、Bにそう伝えました。2問目は、仮の話です。内閣が、法律になんの定めも委任も無いのに、政令だけで、全国の喫茶店は店先に営業日を掲示せよ、守らない店には過料を科す、と定めたとします。過料は、金銭を納めさせる制裁です。

答え合わせ1と2(1問目=法律の定めがある→基準に適合しているのに、法律に無い理由で拒んだ→法律の優位/2問目=法律の定めも委任も無い→全国の喫茶店に義務を課す一般的なルール作り→法律の法規創造力) 図:答え合わせ1と2

  • 1問目=法律の定めがある→基準に適合しているのに、法律に無い理由で拒んだ→法律の優位
  • 2問目=法律の定めも委任も無い→全国の喫茶店に義務を課す一般的なルール作り→法律の法規創造力

1問目は、法律の優位です。建築基準法は、基準に適合していると確かめたときは、確認済証を出さなければならない、と定めています。定めがあるのに、法律に無い、隣の反対という理由で拒みました。外れています。税の例は、Bが得をする側でした。こちらは、Bが不利益を受ける側です。優位は、どちらにも働きます。2問目は、法律の法規創造力です。法律に定めも委任も無いのに、全国の喫茶店に、掲示の義務と、過料という不利益を課しました。一般的で抽象的な定め、つまり法規を、法律の無いところで行政が作っています。決め手は、法律の定めが無い点と、相手が全国に及ぶ一般的なルール作りである点です。

見分ける練習3と4(3問目=国の役所が、法律になんの定めも無いまま、1軒の喫茶店Bにだけ、予算で運営費を出した/4問目=国の役所が、法律になんの定めも無いのに、Bの店に「来週1週間、営業をやめよ」と命じた/見る順=その事柄に法律の定めはあるか→ある=外れたか/無い=ルール作りか、個別の行為か) 図:見分ける練習3と4

  • 3問目=国の役所が、法律になんの定めも無いまま、1軒の喫茶店Bにだけ、予算で運営費を出した
  • 4問目=国の役所が、法律になんの定めも無いのに、Bの店に「来週1週間、営業をやめよ」と命じた
  • 見る順=その事柄に法律の定めはあるか→ある=外れたか
  • 無い=ルール作りか、個別の行為か

3問目です。国の役所が、法律になんの定めも無いまま、1軒の喫茶店のBにだけ、予算で運営費を出しました。4問目です。国の役所が、法律になんの定めも無いのに、Bの店に、来週1週間、営業をやめよ、と命じました。

答え合わせ3と4(3問目=法律の定めが無い→1軒への、与える個別の行為→法律の留保〔考え方が分かれる〕/4問目=法律の定めが無い→1軒への、制限する個別の行為→法律の留保〔法律の根拠が無いので違法〕) 図:答え合わせ3と4

  • 3問目=法律の定めが無い→1軒への、与える個別の行為→法律の留保〔考え方が分かれる〕
  • 4問目=法律の定めが無い→1軒への、制限する個別の行為→法律の留保〔法律の根拠が無いので違法〕

3問目も4問目も、法律の留保の問題です。定めが無く、目の前の1軒への個別の行為だからです。2問目と4問目は、定めが無く、Bの側に不利益が及ぶ点が似ています。分かれ目は、全国の喫茶店に当てはまる一般的なルールか、目の前の1軒への個別の行為か、です。ただし、結論の確かさは違います。3問目は、与える行政です。法律の根拠が要るかは、考え方が分かれるので、ここでは結論を言いません。4問目は、権利を制限する行政です。国会の法律という歯止めが要る場面で、この点は、どの立場でも争いがありません。法律の根拠が無いので、違法です。4問を並べ直します。定めがあって外れた1問目が、法律の優位。定めが無く、ルールを作った2問目が、法律の法規創造力。定めが無く、個別に動いた3問目と4問目が、法律の留保。どの問いでも、最初に確かめたのは、その事柄に法律の定めがあるか、でした。

法律で定めるのが望ましい事項——行政組織

置いたままの問い(問い=41条の立法は、法規だけか/材料=行政組織の定め=どんな役所を置き、何を担当させるか、という定め) 図:置いたままの問い

  • 問い=41条の立法は、法規だけか
  • 材料=行政組織の定め=どんな役所を置き、何を担当させるか、という定め

最後に、法規のところで置いたままの問いに戻ります。41条の立法は、法規だけか、でした。材料は、行政組織の定めです。どんな役所を置き、何を担当させるか、という定めです。

行政組織の定めと法律(中身=国民の権利義務を直接に決める定めではないので、法規ではない/それでも=行政全体の形を決める事柄→国民の代表である国会が決めるのがふさわしい→主な組織は法律で定めるのが望ましい〔国家行政組織法・各省の設置法〕/41条の立法に組織の定めも含まれるとする見解も有力/憲法が法律で定めると書いている組織=内閣・会計検査院) 図:行政組織の定めと法律

  • 中身=国民の権利義務を直接に決める定めではないので、法規ではない
  • それでも=行政全体の形を決める事柄→国民の代表である国会が決めるのがふさわしい→主な組織は法律で定めるのが望ましい〔国家行政組織法・各省の設置法〕
  • 41条の立法に組織の定めも含まれるとする見解も有力
  • 憲法が法律で定めると書いている組織=内閣・会計検査院

行政組織の定めは、中身としては法規ではありません。国民の権利義務を直接に決める定めではないので、自由を制約し義務を課す定めのように、争いなく、必ず法律で、とは言えません。それでも、どんな役所が何を担当するかは、行政全体の形を決める事柄です。国民の代表である国会が決めるのがふさわしい。これが、民主主義の見地から、主な組織は法律で定めるのが望ましい、という考え方です。実際に、国家行政組織法や、各省の設置法といった法律があります。望ましい、にとどまらず、憲法41条の立法に、組織の定めも含まれるとする見解も有力です。さらに、憲法自身が、法律で定めると書いている組織があります。たとえば、内閣と会計検査院です。憲法が命じているので、これらは法律で定めます。

法律との関係(法規=必ず法律で/憲法が法律で定めると書いている組織=法律で〔たとえば内閣の組織=66条1項・会計検査院の組織=90条2項〕/その他の主な行政組織=法律で定めるのが望ましい〔国家行政組織法・各省の設置法〕) 図:法律との関係

  • 法規=必ず法律で
  • 憲法が法律で定めると書いている組織=法律で〔たとえば内閣の組織=66条1項・会計検査院の組織=90条2項〕
  • その他の主な行政組織=法律で定めるのが望ましい〔国家行政組織法・各省の設置法〕

3つに分けて持ち帰ります。法規は、必ず法律で。憲法が法律で定めると書いている組織は、法律で。その他の主な行政組織は、法律で定めるのが望ましい。組織の定めの種類や、役所の編成と法律の関係は、後の回で扱います。

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今日のまとめ(法律による行政の原理=法律に基づき、法律に従う/あらかじめ決める+あとから正す/法律の定めがあるとき=法律の優位/無いとき=一般的なルール作りは法律の法規創造力・目の前の個別の行為は法律の留保) 図:今日のまとめ

  • 法律による行政の原理=法律に基づき、法律に従う
  • あらかじめ決める+あとから正す
  • 法律の定めがあるとき=法律の優位
  • 無いとき=一般的なルール作りは法律の法規創造力・目の前の個別の行為は法律の留保

最初の1問に戻ります。行政の行為を見たとき、最初に何を確かめるか。確かめるのは、その事柄に法律の定めがあるか、です。定めがあれば、行政がその定めから外れていないかを見ます。これが法律の優位で、利益を与える活動でも、外れれば違法です。定めが無ければ、一般的なルール作りか、個別の行為かを見ます。ルール作りは、法規を作れるのは法律だけ、という法律の法規創造力。個別の行為は、法律の根拠がどこまで要るかを問う、法律の留保です。原理全体は、国会が法律であらかじめ決め、裁判所があとから正す、この2つの局面でできています。内容は、法律に基づき、法律に従う、でした。4つの条文は、41条、73条1号、65条、76条1項です。当然とされているのは、優位と法規創造力。いちばん議論されてきたのは、留保です。

参照条文

  • 日本国憲法41条
  • 日本国憲法73条(柱書・1号)
  • 日本国憲法65条
  • 日本国憲法76条1項
  • 日本国憲法84条

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