行政法ゼロから行政法#11

組織規範・根拠規範・規制規範

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第1章 行政法の基礎 ⑪/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

止められた車

止められた車(場面=山あいの町の幹線道路で、Bの車が警察官に止められた/違反の覚えは無い/「交通の取締りのため、通る車を全部止めています」/3つの問い=①誰が担当か ②何をしてよいか ③どうやってやるか) 図:止められた車

  • 場面=山あいの町の幹線道路で、Bの車が警察官に止められた/違反の覚えは無い/「交通の取締りのため、通る車を全部止めています」/3つの問い=①誰が担当か
  • ②何をしてよいか
  • ③どうやってやるか

山あいの町の幹線道路を、駅前の喫茶店の店主Bが、車で走っています。前方で、警察官が手を挙げました。Bは車を止めます。「交通の取締りのため、通る車を全部止めて、短く質問しています」。Bに、違反をした覚えはありません。警察の仕事を決めた法律があるなら止めてよいのか。そこが、今日の入口です。警察の仕事を決めた法律は、あります。それでも、止めてよい法律の根拠がある、とは、すぐには言えません。担当を決めた定めと、権限を与える定めは、別物だからです。行事の係決めに喩えます。係の名簿に名前が載っていることと、人の荷物を預かってよいという許可があることは、別です。名簿があっても、許可が無ければ、他人の荷物には手を出せません。前の回の最後に、問いを残しました。役所の組織と担当を決めた定めがあれば、それを根拠にできるのか。できるなら、組織の定めさえあれば、どんなことでもできることにならないか。今日は、この問いに答えます。先に、答えの一部を言います。法律の根拠がある、と言えるのは、その活動をしてよいと権限を与える定めがあるときです。これを、根拠規範と呼びます。順に見ていきます。

条文を3つの働きで分ける

3つの規範(組織規範=問い〔誰が担当か〕・働き〔どんな機関を置き、何を担当させるか〕・これだけでは足りないこと〔相手の権利を制限し義務を課す力は与えない〕/根拠規範=問い〔何をしてよいか〕・働き〔どんな要件のときに、何をしてよいか、権限を与える〕/規制規範=問い〔どうやってやるか〕・働き〔その活動をするなら、どんな手続・条件・基準でするか〕・これだけでは足りないこと〔その活動をしてよいという権限は与えない〕) 図:3つの規範

  • 組織規範=問い〔誰が担当か〕・働き〔どんな機関を置き、何を担当させるか〕・これだけでは足りないこと〔相手の権利を制限し義務を課す力は与えない〕
  • 根拠規範=問い〔何をしてよいか〕・働き〔どんな要件のときに、何をしてよいか、権限を与える〕
  • 規制規範=問い〔どうやってやるか〕・働き〔その活動をするなら、どんな手続・条件・基準でするか〕・これだけでは足りないこと〔その活動をしてよいという権限は与えない〕

1つの行政活動には、3つの問いがあります。誰が担当か。何をしてよいか。どうやってやるか。法律の条文を、この3つのどれに答えているか、という働きで分けます。通説的な整理です。1つ目は、組織規範です。どんな機関を置き、何を担当させるか、という定めです。担当の中身は、任務や所掌事務と呼ばれます。所掌事務は、その機関が受け持つ仕事のことです。前に見た、行政組織の定めです。2つ目は、根拠規範です。その機関が、どんな要件のときに、何をしてよいか、を定めて、権限を与える定めです。要件は、どんな場合に、という条件。効果は、そのとき何をしてよいか、です。要件と効果が書いてある、と押さえてください。3つ目は、規制規範です。その活動をするなら、どんな手続や条件や基準でしなければならないか、という、やり方を縛る定めです。活動ができることを前提に、やり方を決めます。最初の行事の喩えに戻せば、係の名簿が組織規範、荷物を預かってよいという許可が根拠規範、預かるなら札を付けて番号を控える、と決めた進行表が規制規範です。進行表は、預かってよいとは言っていません。預かるなら、こう預かれ、と決めているだけです。

組織規範は、事務を機関に割り振る定めです。担当者がした行為を、その人個人のものではなく、国や町の行為として扱わせる働きもあります。けれども、相手の権利を制限したり、義務を課したりする力は与えません。前に見たとおり、組織の定めは、国民の権利義務を直接決める法規ではありませんでした。もう1点、大事な注意です。この3つは、法律の種類の分け方ではなく、条文の働きの分け方です。1つの法律の中に、複数の働きの条文が並ぶことがあります。あとで、例を見ます。

3つを具体の条文で見る

条文を読むときの3つの問い(①この条文は、誰が担当かを決めているか ②何をしてよいかを決めているか ③どうやってやるかを決めているか/読み方=その条文の働きを見る) 図:条文を読むときの3つの問い

  • ①この条文は、誰が担当かを決めているか
  • ②何をしてよいかを決めているか
  • ③どうやってやるかを決めているか/読み方=その条文の働きを見る

実際の条文で確かめます。条文は、素材です。条番号や文言を覚える必要はありません。見るのは、その条文が3つの問いのどれに答えているか、です。まず、財務省の任務を定めた条文です。

条文財務省設置法3条1項

財務省設置法第3条第1項 財務省は、健全な財政の確保、適正かつ公平な課税の実現、税関業務の適正な運営、国庫の適正な管理、通貨に対する信頼の維持及び外国為替の安定の確保を図ることを任務とする。

問いです。この条文は、担当、権限、やり方のどれを決めていますか。財務省は課税の実現を任務とする、とあります。誰が担当か、を決めている、と思います。ここには、どんな場合に誰へ課税してよいか、という要件も効果も書かれていません。担当を決めるだけです。次は、警察の責務を定めた条文です。

条文警察法2条1項

警察法第2条第1項 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。

警察の責務の中に、交通の取締が入っています。この条文は、3つの問いのどれでしょう。これも、警察は何を担当するか、を決めているので、担当だと思います。担当を決めた、組織規範です。ここで、Bが止められた場面を思い出してください。警察には、交通の取締という担当があります。では、それが、車を止めてよい権限になるのか。それは、あとで見ます。先に、権限を与える条文を見ます。警察官職務執行法の、職務質問の条文です。

条文警察官職務執行法2条1項

警察官職務執行法第2条第1項 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。

この条文は、3つの問いのどれでしょう。要件があって、停止させて質問することができる、という効果が書いてあります。何をしてよいか、だと思います。異常な挙動などから、疑うに足りる相当な理由のある者、という要件のときに、停止させて質問することができる、という効果。権限を与える、根拠規範です。最後は、補助金の条文です。前に見た、補助金等適正化法です。

条文補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律6条1項

補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第6条第1項 各省各庁の長は、補助金等の交付の申請があつたときは、当該申請に係る書類等の審査及び必要に応じて行う現地調査等により、当該申請に係る補助金等の交付が法令及び予算で定めるところに違反しないかどうか、補助事業等の目的及び内容が適正であるかどうか、金額の算定に誤がないかどうか等を調査し、補助金等を交付すべきものと認めたときは、すみやかに補助金等の交付の決定(契約の承諾の決定を含む。以下同じ。)をしなければならない。

この条文は、どれでしょう。申請があれば審査して、交付すべきものと認めたら決定をしなければならない。補助金の出し方を決めているので、やり方だと思います。申請から決定までの手続を定めた、規制規範です。補助金を出してよい、という権限を与える働きではありません。この点は、あとで詳しく見ます。

4つの条文の振り分け(財務省設置法3条1項=担当を決める→組織規範/警察法2条1項=担当を決める→組織規範/警察官職務執行法2条1項=要件と、できることを決める→根拠規範/補助金等適正化法6条1項=申請から決定までのやり方を決める→規制規範) 図:4つの条文の振り分け

  • 財務省設置法3条1項=担当を決める→組織規範
  • 警察法2条1項=担当を決める→組織規範
  • 警察官職務執行法2条1項=要件と、できることを決める→根拠規範
  • 補助金等適正化法6条1項=申請から決定までのやり方を決める→規制規範

4つを振り分けると、組織規範が2つ、根拠規範が1つ、規制規範が1つです。

留保でいう法律は根拠規範

組織の定めだけを根拠にしたら(仮の場面=警察官が、警察の責務を定めた条文だけを根拠に、Bの店に営業を止めよと命じる/警察の責務を定めた条文には、どんな場合に命じてよいかの要件も、命じるという効果も書かれていない/問い=これは、法律の根拠のある措置と言えるか) 図:組織の定めだけを根拠にしたら

  • 仮の場面=警察官が、警察の責務を定めた条文だけを根拠に、Bの店に営業を止めよと命じる
  • 警察の責務を定めた条文には、どんな場合に命じてよいかの要件も、命じるという効果も書かれていない
  • 問い=これは、法律の根拠のある措置と言えるか

ここで、前の回の内容を思い出してください。法律の留保は、どんな性質の行政活動に、法律の根拠が要るか、という問いでした。では、そこで求める法律の根拠とは、どんな定めのことでしたか?行政に、これこれの場合に、これをしてよい、と権限を与える定めでした。この言葉で、前の回の問いの前半に答えられます。仮の話です。警察官が、警察の責務を定めた条文だけを根拠に、Bの店に、営業を止めよ、と命じたとします。責務の条文は、担当を決めているだけです。どんな場合に営業を止めさせてよいか、という要件も、止めさせるという効果も、書かれていません。相手の権利を制限する力は、与えられていないのです。

留保でいう法律(法律の留保で求める「法律の根拠」=根拠規範/組織規範=担当を決めるだけで、権利を制限し義務を課す要件と効果は定めていない→これだけでは足りない/営業を止めさせる命令のような措置=要件と効果を定めた根拠規範が別に要る) 図:留保でいう法律

  • 法律の留保で求める「法律の根拠」=根拠規範
  • 組織規範=担当を決めるだけで、権利を制限し義務を課す要件と効果は定めていない→これだけでは足りない
  • 営業を止めさせる命令のような措置=要件と効果を定めた根拠規範が別に要る

整理します。法律の留保で求める法律の根拠は、根拠規範です。組織規範だけでは足りません。担当を決めただけの定めには、相手の権利を制限し義務を課す要件と効果がないからです。侵害留保説は、相手の自由や財産を侵害する行為には、法律の根拠が要る、とする説でした。この説に立てば、店に営業を止めさせるような措置は侵害に当たるので、要件と効果を定めた根拠規範が、別に要ります。前の回で、侵害は自由主義の見地から縛る、と説明しました。自由主義は、個人の自由を守るべきだ、という考え方です。店の営業を止めさせるような、自由を取り上げる向きの活動は、どんな場合に何をしてよいかを、国会が法律で先に決めた場合に限る。そうしておけば、行政が、その場の判断だけで、Bの店を止めさせることはできません。この歯止めの役目を果たすのが、要件と効果を定めた根拠規範です。反対に、同じ警察官が、Bに、店の前の車を少し動かしてもらえませんか、とお願いするだけなら、話が違います。応じるかどうかはBが決められるので、権利を制限していません。前の回で見たとおり、侵害留保説では、こうした任意の協力を求める働きかけに、法律の根拠は要りません。どこまで許されるかは、このあと、一斉検問で見ます。

分かれる例と同居する例

働きで見る(別の法律に分かれる例=警察法〔警察の責務・都道府県警察を置く=担当〕と警察官職務執行法〔職務質問の要件と効果=権限〕/1つの法律に同居する例=私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の27条1項〔公正取引委員会を置く=担当〕と7条1項〔違反行為があるとき、必要な措置を命ずることができる=権限〕/補助金等適正化法=申請・決定の手続〔やり方〕と、17条1項の交付決定の取消し〔権限〕が並ぶ) 図:働きで見る

  • 別の法律に分かれる例=警察法〔警察の責務・都道府県警察を置く=担当〕と警察官職務執行法〔職務質問の要件と効果=権限〕
  • 1つの法律に同居する例=私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の27条1項〔公正取引委員会を置く=担当〕と7条1項〔違反行為があるとき、必要な措置を命ずることができる=権限〕
  • 補助金等適正化法=申請・決定の手続〔やり方〕と、17条1項の交付決定の取消し〔権限〕が並ぶ

3つの働きは、条文の働きなので、法律ごとに1つ、とは限りません。まず、別の法律に分かれる型です。警察の責務や都道府県警察を置くことは、警察法が定めます。職務質問の要件と効果は、警察官職務執行法が定めます。担当と権限が、別の法律に置かれています。次に、1つの法律に同居する型です。私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律には、27条1項に、公正取引委員会を置く、という担当の定めがあります。7条1項には、違反行為があるときに、必要な措置を命ずることができる、という権限を与える定めがあります。1つの法律の中に、担当と権限が並んでいます。行事の喩えなら、係の名簿と許可が、別々の紙に書かれることもあれば、1枚の紙に並ぶこともある、ということです。

交付決定を取り消すことができる、と書いた17条1項があります。この条文は、補助金をほかの用途に使ったときなど、どんな場合に取り消してよいかを定めて、いったん決めた交付を取り消す権限を、国の側に与えています。だから、働きは、権限を与える定めです。このように、法律の名前ではなく、条文ごとに働きを見ます。

見分けの練習(次の3つの一文は、担当・権限・やり方のどれを決めているか/①「警察官は、…停止させて質問することができる。」②「…公正取引委員会を置く。」③「補助金等の交付の申請をしようとする者は、…申請書に…添え、…提出しなければならない。」) 図:見分けの練習

  • 次の3つの一文は、担当・権限・やり方のどれを決めているか
  • ①「警察官は、…停止させて質問することができる。」②「…公正取引委員会を置く。」③「補助金等の交付の申請をしようとする者は、…申請書に…添え、…提出しなければならない。」

練習です。3つの一文を見せます。それぞれ、担当、権限、やり方のどれを決めているでしょう。1つ目は、警察官は、停止させて質問することができる。2つ目は、公正取引委員会を置く。3つ目は、補助金等の交付の申請をしようとする者は、申請書に書類を添え、提出しなければならない。

見分けの練習の答え(①「警察官は、…停止させて質問することができる。」=根拠規範〔何をしてよいか〕/②「…公正取引委員会を置く。」=組織規範〔誰が担当か〕/③「補助金等の交付の申請をしようとする者は、…提出しなければならない。」=規制規範〔どうやってやるか〕/目安=「置く・任務とする」は組織、「することができる」は根拠、「しなければならない」は規制/ただし目安は目安=法律の名前や述語でなく、条文が何を決めているかで見る) 図:見分けの練習の答え

  • ①「警察官は、…停止させて質問することができる。」=根拠規範〔何をしてよいか〕
  • ②「…公正取引委員会を置く。」=組織規範〔誰が担当か〕
  • ③「補助金等の交付の申請をしようとする者は、…提出しなければならない。」=規制規範〔どうやってやるか〕/目安=「置く・任務とする」は組織、「することができる」は根拠、「しなければならない」は規制/ただし目安は目安=法律の名前や述語でなく、条文が何を決めているかで見る

答え合わせです。1つ目は、何をしてよいか、の根拠規範。2つ目は、誰が担当か、の組織規範。3つ目は、どうやってやるか、の規制規範です。見分けの目安は、述語です。置く、任務とする、は組織。することができる、は根拠。しなければならない、は規制です。ただし、あくまで目安です。先ほどの17条1項のように、やり方を定める法律の中にも、権限を与える条文があります。法律の名前や述語だけでなく、その条文が何を決めているかを見てください。手続を定める法律も、働きは規制規範です。行政手続法がその例ですが、中身は後の回で扱います。

規制規範があっても根拠があるとは限らない

補助金の出し方と出す根拠(A〔国〕→B〔店〕に補助金を出す/補助金等適正化法=申請・決定・条件・取消しの共通のやり方を定める/問い=この法律があるから、国は補助金を出してよいのか) 図:補助金の出し方と出す根拠

  • A〔国〕→B〔店〕に補助金を出す
  • 補助金等適正化法=申請・決定・条件・取消しの共通のやり方を定める
  • 問い=この法律があるから、国は補助金を出してよいのか

次に、つまずきやすい点です。国が国以外の者に交付する補助金について、前に見た補助金等適正化法は、申請、決定、条件、取消しなどの、共通のやり方を定めています。そこで、思い出してください。国の補助金のうち、法律の根拠なく、予算だけで出す補助を、何と呼びましたか?予算補助です。それを踏まえて、問いです。補助金等適正化法があるのだから、国が補助金を出してよい根拠も、あるのではないでしょうか。取り違えやすいところです。6条1項などの手続や条件の条文は、規制規範の働きです。補助を出してよいと権限を与える働きではありません。補助を出すことが許されることを前提に、出し方を適正にする定めです。たとえば、国が、Bの店の設備の改修に、予算補助で補助金を出すとします。適正化法が決めるのは、Bが申請書を出し、国が審査して交付を決める、というやり方です。国がBに補助金を出してよい、とは、どこにも書いていません。

規制規範と根拠(規制規範=補助金等適正化法の手続・条件の条文=出し方を縛る→出してよいという権限は与えない/前の回の整理=侵害留保説に立てば、給付である補助金に法律の根拠は要らない/予算補助=法律の根拠なく予算だけで出す補助/結論=出す根拠が無くても出せる補助がある。出すなら、出し方の規制は守る) 図:規制規範と根拠

  • 規制規範=補助金等適正化法の手続・条件の条文=出し方を縛る→出してよいという権限は与えない
  • 前の回の整理=侵害留保説に立てば、給付である補助金に法律の根拠は要らない
  • 予算補助=法律の根拠なく予算だけで出す補助
  • 結論=出す根拠が無くても出せる補助がある。出すなら、出し方の規制は守る

前の回の整理と、つなげます。侵害留保説が法律の根拠を求めるのは、相手の自由や財産を侵害する行為だけでした。補助金は、相手から取り上げるのではなく、与える給付なので、侵害に当たらず、この説では法律の根拠は要りません。与える活動は、法律を待たずにすぐ対応できる余地を残したほうがよい、という理由でした。だから、国が予算補助で出すこと自体は、許されます。そのうえで、出すなら、適正化法の手続や条件を守る。出す根拠の問いと、出し方の問いは、別の問いです。手続や条件に反すれば、違法になりえます。法律があるとき、それに反してはならない、という、法律の優位の側の問いです。定めがあるとき外れてよいか、が優位でした。定めが無いとき動けるか、が留保でした。補足です。権力留保説は、行政が権力的な形式で活動するときに、法律の根拠を求める説でした。この説に立つと、交付の決定を行政処分とする法律の定めが、根拠になりうる、という見方もあります。ここでは、一言だけです。交付決定が処分に当たるかは、後の回で扱います。

組織規範だけで動ける場面はあるか

自動車の一斉検問(場面=交通違反の予防・検挙のため、警察官が通る自動車に、外観上の不審の有無を問わず短い時間の停止を求め、運転者に必要な事項を質問する/問い=警察の責務を定めた組織の定めだけで、止めて質問してよいか) 図:自動車の一斉検問

  • 場面=交通違反の予防・検挙のため、警察官が通る自動車に、外観上の不審の有無を問わず短い時間の停止を求め、運転者に必要な事項を質問する
  • 問い=警察の責務を定めた組織の定めだけで、止めて質問してよいか

Bが止められた場面に戻ります。これは、自動車の一斉検問です。交通違反の予防や検挙のために、通る自動車に、外観上の不審な点があるかどうかにかかわらず、短い時間の停止を求めて、運転者に必要な事項を質問します。職務質問の条文は、異常な挙動などの要件を定めていました。一斉検問は、不審な点の有無を問わず止めます。だから、職務質問の要件を満たす形では、ありません。問いです。警察の責務を定めた、組織の定めだけで、止めて質問してよいでしょうか。最高裁は、この問いに、2段で答えました。1段目は、任意の手段なら、一般的に許される、という原則。2段目は、それでも無制限ではない、という限定です。判示を見ます。

判例最決昭55・9・22 刑集34巻5号272頁

任意手段の許容と限界 警察法二条一項が「交通の取締」を警察の責務として定めていることに照らすと、交通の安全及び交通秩序の維持などに必要な警察の諸活動は、強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容されるべきものであるが、それが国民の権利、自由の干渉にわたるおそれのある事項にかかわる場合には、任意手段によるからといつて無制限に許されるべきものでないことも同条二項及び警察官職務執行法一条などの趣旨にかんがみ明らかである。

ここまでが、原則と限定です。続きが、一斉検問そのものへの答えです。

判例最決昭55・9・22 刑集34巻5号272頁

一斉検問が適法となる条件 しかしながら、自動車の運転者は、公道において自動車を利用することを許されていることに伴う当然の負担として、合理的に必要な限度で行われる交通の取締に協力すべきものであること、その他現時における交通違反、交通事故の状況などをも考慮すると、警察官が、交通取締の一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所において、交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは、それが相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法なものと解すべきである。

一斉検問の判示(挙げた条文=警察法2条1項〔交通の取締を責務とする〕/警察の活動=強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容される/ただし=国民の権利、自由の干渉にわたるおそれのある事項は、任意手段でも無制限には許されない/一斉検問=相手方の任意の協力を求める形で、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法) 図:一斉検問の判示

  • 挙げた条文=警察法2条1項〔交通の取締を責務とする〕
  • 警察の活動=強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容される
  • ただし=国民の権利、自由の干渉にわたるおそれのある事項は、任意手段でも無制限には許されない
  • 一斉検問=相手方の任意の協力を求める形で、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法

判示が使った条文は、警察法の2条1項です。警察官職務執行法の2条1項ではありません。担当を決めた、組織の定めです。この責務に照らすと、警察の活動は、強制力を伴わない任意の手段による限り、一般的に許される、としました。ただし、限定が付いています。国民の権利や自由の干渉にわたるおそれのある事項は、任意の手段でも、無制限には許されません。一斉検問は、相手の任意の協力を求める形で、自動車の利用者の自由を不当に制約しない方法、態様で行われる限り、適法、とされました。なぜ、任意なら許されるのか。応じるかどうかを相手が決められるなら、権利を制限していないからです。では、自由に関わる一斉の停止が、なぜ許されるのか。判示は、公道で車を使うことを許されている以上、運転者は、必要な限度の交通の取締りに協力すべきだ、という点を挙げています。

判示の限定のもとでは、適法です。強制ではなく、運転者の協力を求める形で、短い停止と質問にとどまる場合です。協力すべき、という点は、停止を求めてよい理由です。それでも判示は、相手方の任意の協力を求める形で行われる限り、と限っています。整理します。判例は、任意の手段に限って、組織の定めを手がかりに、許しました。強制にわたるなら、根拠規範が要ります。ここは論文でも論点になりえます。検問の適法性の判断の枠組みなどは、後の回で扱います。

組織法を根拠にすることへの批判

組織の定めを根拠にすることへの批判(見解=組織の定めを、法律の留保の根拠にできる場合があるとする〔全部留保説の、素早く応えられない難点に応える形で出た〕/批判=組織の定めさえあれば、どんな行政活動も認められてしまい、個人の自由を守る歯止めが薄れる/再批判=規律密度を、要件と効果がまるごと抜け落ちるところまで下げてよいのか/整理=組織規範で行えるのは、権利を制限せず義務を課さない任意の活動) 図:組織の定めを根拠にすることへの批判

  • 見解=組織の定めを、法律の留保の根拠にできる場合があるとする〔全部留保説の、素早く応えられない難点に応える形で出た〕
  • 批判=組織の定めさえあれば、どんな行政活動も認められてしまい、個人の自由を守る歯止めが薄れる
  • 再批判=規律密度を、要件と効果がまるごと抜け落ちるところまで下げてよいのか
  • 整理=組織規範で行えるのは、権利を制限せず義務を課さない任意の活動

前の回の問いの後半です。担当を決めた定めを根拠にできるなら、組織の定めさえあれば、どんなことでもできることにならないか。学説には、組織の定めを、法律の留保の根拠にできる場合がある、という見解があります。前の回の全部留保説、つまり、すべての行政活動に法律の根拠が要る、という説には、素早く応えられない、という難点がありました。問題が起きるたびに、どんな場合に何をしてよいかを、前もって全部、法律に書いておくことはできないからです。そこで、この説に立つ論者の一部から、場合によっては、要件と効果を定めた根拠規範でなくても、担当を決めた組織規範で足りる、という見解が出されました。

この見解は、批判されます。組織の定めさえあれば、事実上、どんな行政活動も認められてしまいます。国家権力から個人の自由を守る、という法律の留保の問題意識が、薄れてしまう。これが批判です。たとえば、さっきの、Bの店に営業を止めよと命じる場面も、警察の責務の条文だけで、できることになってしまいます。再批判もあります。前の回で、どこまで細かく、法律自身が決めておくべきかを、規律密度と呼びました。根拠規範なら、どんな場合に何をしてよいか、という要件と効果を、法律が決めます。組織規範は、担当を決めるだけです。組織規範で足りるとすれば、法律が決めておく中身は、少し粗くなるのではなく、要件と効果がまるごと抜け落ちます。Bの店なら、どんな場合に営業を止めさせてよいかを、法律は何も決めていないことになる。規律密度を、そこまで下げてよいのか、という問いです。前の回の問いに答えます。組織の定めがあれば、何でもできる、のではありません。組織規範は担当を決めるだけなので、権利を制限し、義務を課す活動はできません。組織規範で行えるのは、相手の権利を制限せず、義務を課さない、任意の活動に限られる、と整理されます。一斉検問の判示が、強制力を伴わない任意の手段に限定していたのも、この整理と合っています。

任意の活動は、行えます。できないのは、権利を制限し、義務を課す活動です。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ(「根拠はあるか」と問われたら=①その活動を許す根拠規範を探す〔要件と効果を定めて、権限を与える定め〕②無ければ、組織規範だけで足りる任意の活動かを見る〔強制力を伴わず、相手の協力を求める形〕③根拠規範があっても、規制規範の手続・条件を守っているかは別に問う〔法律の優位の側〕/3つの規範=組織規範〔誰が担当か〕・根拠規範〔何をしてよいか〕・規制規範〔どうやってやるか〕) 図:今日のまとめ

  • 「根拠はあるか」と問われたら=①その活動を許す根拠規範を探す〔要件と効果を定めて、権限を与える定め〕②無ければ、組織規範だけで足りる任意の活動かを見る〔強制力を伴わず、相手の協力を求める形〕③根拠規範があっても、規制規範の手続・条件を守っているかは別に問う〔法律の優位の側〕
  • 3つの規範=組織規範〔誰が担当か〕・根拠規範〔何をしてよいか〕・規制規範〔どうやってやるか〕

最初の問いに戻ります。Bが一斉検問で止められました。法律の根拠はあるのか。法律の根拠はあるか、と問われたら、3段で考えます。1段目は、その活動を許す根拠規範を探します。要件と効果を定めて、権限を与える定めです。2段目は、無ければ、組織規範だけで足りる任意の活動かを見ます。強制力を伴わず、相手の協力を求める形か、です。一斉検問は、判示の限定のもとで、この形でした。3段目は、根拠規範があっても、規制規範の手続や条件を守っているかは、別に問います。法律の優位の側の問いです。3つの規範は、組織規範が、誰が担当か。根拠規範が、何をしてよいか。規制規範が、どうやってやるか、でした。法律の留保で求める法律の根拠は、根拠規範です。組織規範だけでは、権利を制限し義務を課す活動はできません。規制規範は、出し方を縛る定めで、出す根拠とは別の問いです。分けるのは、法律の種類ではなく、条文の働きです。

参照条文

  • 財務省設置法3条1項
  • 警察法2条1項
  • 警察官職務執行法2条1項
  • 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律6条1項

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