緊急の措置・公表・租税の減免
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第1章 行政法の基礎 ⑫/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
大雨の前の夜
図:大雨の前の夜
- 場面=山あいの町の取水堰の水路を、誰かが無断で置いた資材がふさぎ、下流の集落にあふれそう
- 町長A=独断で資材を撤去
- 町にその権限を与える定めは無い
- 問い=よくやった、と言えるか。根拠が無い、とも言えないか
大雨の前の夜です。山あいの町の取水堰の水路に、誰かが無断で置いた資材が引っかかり、水の流れをふさいでいます。このままだと、下流の集落に水があふれます。町長のAは、独断で資材を撤去させました。町に、その権限を与える定めは、ありません。どちらも言えそうなところが、今日の入口です。ここで、問いを2つに分けます。1つ目は、法律が無いときに、行政が目の前の個別の行為をしてよいか。これが法律の留保でした。2つ目は、法律があるときに、行政はそこから外れてよいか。これが法律の優位でした。定めが無いままルールを作るのは、法規創造力の問いでしたが、今日の4つの場面は、どれも個別の行為です。町長の撤去は、1つ目の問いです。
図:2つの問い
- 法律が無いとき、動けるか=法律の留保
- 法律があるとき、外れてよいか=法律の優位
- 今日の4つの場面=緊急の措置〔無いとき〕・公表〔無いとき〕・料金を取る作用〔無いとき〕・租税の減免〔あるとき〕
今日は、この2つの問いを、行政が実際に迷う場面で使い分けます。場面は4つです。緊急の措置、公表、料金を取る作用、租税の減免。最後の1つだけ、実は2つ目の問いです。得をさせる行為なのに、行政が勝手にはできない。その理由を見ます。実際に最高裁まで争われた事件があります。そこから見ます。
緊急の措置
図:事案の図
- A=町長
- C=杭を不法に打ち込んだ設置者
- D=住民
- 漁港の区域内の川に、鉄道のレール約100本、全長約750メートルの杭
- 船の航行の妨げ・夜間と干潮時の危険
- 設置者に撤去を求めたが応じない
- A=町として強制撤去を決め、業者と請負契約〔130万円〕を結ぶ
- 町には漁港管理規程が制定されていなかった
- D=公金の違法な支出だとして、町長Aに賠償を求める
前の回を思い出してください。権限を与える定めを、何と呼びましたか?根拠規範です。では事件です。漁港の区域内の川に、不法に鉄道のレールの杭が、約100本、全長約750メートルにわたって打ち込まれました。船の航行の妨げになり、夜間と干潮時は危険です。町が県に撤去を要請しても、県はすぐには動けません。県も、杭を打った設置者Cに、至急の撤去を求めましたが、応じません。数日後には、ヨット約70隻が、この杭に係留される予定でした。町長Aは、町として強制撤去を決めました。業者に請け負わせ、代金130万円を払って撤去させます。ところが町には、漁港の管理規程が制定されていませんでした。管理規程があれば、それに基づく管理の権限で撤去できます。無かったので、撤去を命じる根拠規範が見当たりません。住民Dは、法律の根拠の無い違法な撤去で、公金の違法な支出だとして、町長に賠償を求めました。住民訴訟です。要件は後の回で扱います。
問いにします。裁判所は、この撤去を、適法と認めたでしょうか。そして、町長は賠償責任を負ったでしょうか。この2つは、別の問いです。順に、判決の言葉で見ます。
判例最判平3・3・8 民集45巻3号164頁
管理規程が無かった点 しかし、当時、c町においては漁港管理規程が制定されていなかったのであるから、上告人がd漁港の管理者たる同町の町長として本件鉄杭撤去を強行したことは、漁港法の規定に違反しており、これにつき行政代執行法に基づく代執行としての適法性を肯定する余地はない。
1つ目の答えは、ここに出ています。管理規程が無かったので、撤去は漁港法に違反します。代執行として適法とする余地もない、という判断です。代執行は、法律に基づく命令があって初めて使えます。その命令の根拠が無かったのです。代執行の中身は、後の回で扱います。続きが、2つ目の答えです。なお、次のカードの最後に出てくる浦安市は、事件当時は町だった、同じ自治体です。のちに市になったので、呼び名が変わっています。
判例最判平3・3・8 民集45巻3号164頁
適法とは認められない、しかし賠償責任は負わない そうすると、上告人がc町の町長として本件鉄杭撤去を強行したことは、漁港法及び行政代執行法上適法と認めることのできないものであるが、右の緊急の事態に対処するためにとられたやむを得ない措置であり、民法七二〇条の法意に照らしても、c町としては、上告人が右撤去に直接要した費用を同町の経費として支出したことを容認すべきものであって、本件請負契約に基づく公金支出については、その違法性を肯認することはできず、上告人が浦安市に対し損害賠償責任を負うものとすることはできないといわなければならない。
図:判決の読み方3点
- ①撤去そのもの=漁港法及び行政代執行法上、適法とは認められない
- ②否定されたもの=公金支出の違法性、つまり町長の損害賠償責任
- ③民法720条=「適用」ではなく「法意に照らして」。撤去する権限を与える定めではない/結論=根拠規範が無い緊急の撤去を適法にした判決ではない
読み方は3点です。1点目、撤去そのものは、適法と認められていません。判決自身が、適法と認めることのできないもの、と書いています。2点目、否定されたのは、公金支出の違法性、つまり町長の損害賠償責任です。緊急の事態に対処するための、やむを得ない措置だったので、町が撤去の費用を負担することは容認すべきだ、という理由でした。緊急の場合は、法律の根拠が無くても行政は動いてよい、と最高裁が認めたことになりませんか。なりません。認められたのは、動いてよいことではなく、賠償を負わなくてよいことです。権限があったから許されたのではなく、権限は無かったが責任は問わない、という結論です。この違いが、今日いちばんのつまずきどころです。3点目に、民法720条との関係です。条文を見ます。
条文民法720条1項
民法第720条第1項 他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
他人の不法行為から権利を守るために、やむを得ず加害行為をした人は、損害賠償の責任を負わない、という定めです。私人どうしの定めで、責任を免れさせる働きです。他人の財産を撤去してよい、という権限を与える定めではありません。判決も、720条を適用した、とは言っていません。720条の法意に照らして、と述べています。条文そのものではなく、その趣旨を借りて、責任を否定したのです。借りたのは責任の側であって、権限の側ではありません。なぜ責任を負わせないのか。危険から守るために、ほかに手が無く、やむを得ずした行為なら、その人を責めるのは筋が違う。720条は、私人どうしでこの考えを定めています。判決は同じ考えで、町の危険を除くために直接要った費用は、町が持つべきだ、と見たのです。
根拠が無ければ違法。ただし、緊急のやむを得ない措置なら、責任は別に考える。この2段です。緊急に備えて、あらかじめ根拠を置く仕組みは、後の回で扱います。冒頭の町長の撤去も同じです。町に権限を与える定めが無い以上、撤去は違法のままです。責任をどうするかは、別に問われます。
公表
図:前に残した問い
- 山あいの町
- A=国の役所
- B=駅前の喫茶店の店主
- AがBに、看板の照明を消してもらえませんか、とお願い。ただし「応じなければ、店の名前を公表します」と書き添えた
- 義務は無いのに、断りにくい
- 問い=応じなかったとき、実際に何が待っているか
次は公表です。前に、こういう場面を見ました。国の役所Aが、喫茶店のBに、看板の照明を消してもらえませんか、とお願いします。ただし、応じなければ店の名前を公表します、と書き添えました。形はお願いで、義務はありません。けれども断りにくい。侵害かどうかは、結論を保留していました。今日、答えます。答えの軸は、その公表が何として働くか、です。公表は、2種類に分けて考えます。1つ目は、情報提供や注意喚起を主な目的にする公表。2つ目は、制裁や義務の履行確保として働く公表です。
図:公表の2種類
- 情報提供・注意喚起として働く公表=目的は知らせて注意を促すこと
- 法律の根拠=要らない
- 例=町が「この水は飲まないで」と知らせる。制裁・義務履行確保として働く公表=目的は従わせること、懲らしめること
- 法律の根拠=要ると考えられる〔侵害に当たる〕
- 例=町の条例に基づき、勧告に従わない店の名前を公表する
町の看板に例えます。町が、この井戸の水は飲まないでください、と貼り出すのは、住民に注意を促す公表です。誰かを従わせる仕掛けではありません。ところが、町の勧告に従わない店の名前を貼り出す、と決めておくのは、従わせるための仕掛けです。従わなければ名前を出す、と先に決めておくことで、従うように仕向けているのです。後者は、制度として制裁の働きをするように仕組まれているので、侵害に当たります。侵害留保説に立てば、法律の根拠が要ると考えられます。前者は、知らせるだけなので、根拠は要りません。では3問です。1問目、町が、水質の悪化に気づき、この水は飲まないで、と住民に知らせる。2問目、町の条例に、勧告に従わない店の名前を公表できる、と定めがあり、その条例に基づいて公表する。3問目、条例に何の定めも無いのに、町が、従わない店の名前を公表する。それぞれ、どちらの公表か。根拠は要るか。要るなら、あるか。
図:練習の問い
- 1=町が「この水は飲まないで」と住民に知らせる
- 2=町の条例に定めがあり、勧告に従わない店の名前を、その条例に基づいて公表する
- 3=条例に定めが無いまま、町が、従わない店の名前を公表する
- 各問い=情報提供か、制裁か。根拠は要るか、あるか
3問とも、情報提供か制裁かの見分けも、根拠が要るかどうかの結論も、合っています。
図:練習の答え
- 1=情報提供・根拠不要
- 2=制裁・根拠が要る。条例の定めがあるので、適法となる前提がある
- 3=制裁・根拠が要るのに、無い。侵害留保に反し、違法
- 見分ける軸=その公表が、従わせる仕掛けとして働くか
1問目は、情報提供で根拠不要。2問目は、制裁で、根拠があります。3問目は、制裁なのに根拠が無く、侵害留保に反して違法です。軸は、その公表が、従わせる仕掛けとして働くかどうかです。最初の場面に戻ります。国の役所が、応じなければ店の名前を公表する、と添えたお願いです。形はお願いでも、応じない者に公表という不利益を待たせて従わせる仕組みなら、制裁として働く公表です。その場合は、根拠が要ると考えられます。
図:情報提供でも無制約ではない
- 東京高裁の判断の2段=①公表に、明示の法的根拠は不要〔制裁など、法律上の不利益を課すことを予定していない。売上の激減は事実上の不利益で、公表の法的効果ではない〕
- ②でも、公表は何の制限も受けないわけではない〔目的・方法・生じた結果から是認できることが必要。注意義務に違反すれば、国家賠償法1条1項の責任〕
情報提供の側の代表例を見ます。ある地域で、O157による集団下痢症が起きました。国は、記者会見で、原因食材の可能性がある、として、貝割れ大根を公表しました。売上が激減した業者が、国に賠償を求めた事件です。
判例東京高判平15・5・21 判時1835号77頁
根拠は不要 本件各報告の公表は,現行法上,これを許容し,又は命ずる規定が見あたらないものの,関係者に対し,行政上の制裁等,法律上の不利益を課すことを予定したものでなく,これをするについて,明示の法的根拠を必要としない。本件各報告の公表を受けてされた報道の後,貝割れ大根の売上が激減し,これにより控訴人らが不利益を受けたことも,前記(原判決157頁以下)のとおりであるが,それらの不利益は,本件各報告の公表の法的効果ということはできず,これに法的根拠を要することの裏付けとなるものではない。本件各報告の公表について法律上の根拠を要することを前提とする控訴人らの主張は,前提を欠き,また,憲法29条2項違反をいう点も,採用の限りではない。
決め手は、この公表が制裁などの法律上の不利益を課すものではなく、売上の激減は事実上の不利益にとどまる、という点です。法的な効果ではないので、根拠は要らないとされました。客が減ることは、どちらでも起きます。違いは、公表が何のために置かれているかです。制裁の公表は、従わないことへの報いとして、不利益を与えるために仕組まれています。貝割れ大根の公表は、知らせることが目的で、売上の激減は、その結果として起きたものでした。だから、法律の根拠は要らないとされたのです。情報提供なら何でも公表してよい、というわけではありません。そこが落とし穴です。続きを見ます。
判例東京高判平15・5・21 判時1835号77頁
無制約ではない しかしながら,本件各報告の公表は,なんらの制限を受けないものでもなく,目的,方法,生じた結果の諸点から,是認できるものであることを要し,これにより生じた不利益につき,注意義務に違反するところがあれば,国家賠償法1条1項に基づく責任が生じることは,避けられない。
根拠が要らないことと、何をしてもよいことは、別です。判決は、公表の目的、方法、結果から是認できることを求めました。そのうえで、何について注意を促し、どう行動してほしいのかが不明のまま、曖昧な内容をそのまま公表し、貝割れ大根が原因だと疑われている、という誤解を広く生じさせた点を問題にしました。公表の方法は違法で、請求は一部が認められました。根拠が不要でも、やり方次第で、国家賠償の責任を負うのです。根拠の問題は、法律の留保の問いでした。やり方の相当性は、別の問いです。
条文食品衛生法69条
食品衛生法第69条 厚生労働大臣、内閣総理大臣及び都道府県知事は、食品衛生上の危害の発生を防止するため、この法律又はこの法律に基づく処分に違反した者の名称等を公表し、食品衛生上の危害の状況を明らかにするよう努めるものとする。
食品衛生法には、違反した者の名称等を公表し、危害の状況を明らかにするよう努める、という定めがあります。条文は暗記しなくて構いません。見る点は2つです。1つ目。違反した者の名前を出すのに、制裁ではないのか。条文の目的は、食品衛生上の危害の発生を防ぎ、危害の状況を明らかにすることです。主な目的が知らせて守ることにあるので、情報提供の側に入ります。名前を出すかどうかではなく、何のための公表かで分けます。2つ目。この定めは、公表してよいという権限を与える根拠規範ではなく、規制規範の働きをするものと解されます。前の回で、やり方を縛る定めを、規制規範と呼びました。公表できることは前提のまま、公表するときの目的や心がまえを示している、という見方です。命じる書き方ではなく、努めるものとする、という促す書き方なのも、その見方と合います。
食品衛生法がなければ、公表できないのですか。違います。情報提供の公表は、根拠が無くても行えます。この定めは、そのうえで、積極的に公表するよう促しているのです。公表の分類の細かい議論は、後の回で扱います。
料金を取る作用
図:水道代と下水道代
- どちらも使った分を払う
- 問い=法律の根拠が要るのは、下水道の使用料と上水道の料金の、どちらか
- ヒント=侵害留保説の物差し〔義務を課す作用か〕
次は、お金を取る作用です。山あいの町が、水道の料金と下水道の使用料を取るとします。どちらも、使った分を払う点は同じに見えます。問いです。法律の根拠が要るのは、どちらでしょうか。物差しは、侵害に当たるか、でした。お金の場面では、払う義務を課す作用かどうかが分かれ目です。水道料金と下水道使用料では、根拠が要るかどうかが分かれます。まず下水道です。下水道の供用が始まると、排水区域内の土地の所有者らは、排水設備を設置しなければなりません。
条文下水道法10条1項
下水道法第10条第1項 公共下水道の供用が開始された場合においては、当該公共下水道の排水区域内の土地の所有者、使用者又は占有者は、遅滞なく、次の区分に従つて、その土地の下水を公共下水道に流入させるために必要な排水管、排水渠その他の排水施設(以下「排水設備」という。)を設置しなければならない。ただし、特別の事情により公共下水道管理者の許可を受けた場合その他政令で定める場合においては、この限りでない。
条文下水道法20条1項
下水道法第20条第1項 公共下水道管理者は、条例で定めるところにより、公共下水道を使用する者から使用料を徴収することができる。
教える点は2つだけです。1つ目、排水設備を設置する義務が、法律で課されていること。2つ目、使用料の徴収は、条例の定めによること。つまり、接続を義務づけたうえで、使用料を徴収する仕組みです。義務を課す作用なので、法律の根拠が要ります。実際に、法律が徴収を条例の定めに委ねています。駅前の喫茶店のBで考えます。町に下水道が通ると、Bは、店の排水を下水道へつなぐ工事をしなければなりません。つないだ以上、流した分の使用料がかかります。Bには、つながない、払わない、という選択がありません。だから、義務を課す作用なのです。上水道は、違います。利用を望む者が、自由に契約を結び、料金は契約に基づく対価として払います。Bが、井戸の水だけで店をやっていくと決めれば、契約しなくて構いません。払うかどうかの入口を、B自身が選べるのです。義務を課す作用ではありません。侵害留保説の物差しでは、契約の対価として取る限り、法律の根拠は要りません。水道法には、給水契約の申込みを、正当な理由なく拒んではならない、という定めもあります。拒めないのは水道の側で、使う側ではありません。
図:対比表
- 下水道=排水設備の設置を義務づける→使用料を徴収する→義務を課す作用→法律の根拠が要る〔徴収は条例の定めによる〕
- 上水道=利用を望む者が契約を結ぶ→料金は契約に基づく対価→義務を課す作用ではない→侵害留保の物差しでは法律の根拠は要らない
- 注意=上水道は何の定めも要らない、という意味ではない。物差しの上での整理
上水道には何の定めも要らない、とまでは言えません。侵害留保説の物差しで、契約の対価として取る限り、義務を課す作用ではないので、法律の根拠は要らない、という整理です。料金の決め方を条例でどう定めるか、といった仕組みの話は別で、今日は広げません。日常では同じに見える二つが、義務を課すかどうかで分かれる。そこを持ち帰ってください。
租税の減免
図:町の担当の決定
- A=町の担当
- B=駅前の喫茶店の店主
- Aが「Bの店は町の顔だから、固定資産税を半分にまけてやる」と決める
- 町の条例に、減免の定めは無い
- 問い=得をさせるだけの行為に、法律の根拠は要るか
最後の場面です。町の担当のAが、駅前の喫茶店のBの店は町の顔だから、固定資産税を半分にまけてやる、と決めました。町の条例に、減免の定めはありません。問いです。得をさせるだけの行為に、法律の根拠は要るでしょうか。侵害留保説の物差しだけを当てると、根拠は要らないように見えます。けれども答えは、要ります。しかも、理由が違います。留保の問題ではなく、優位の問題だからです。順に組み立てます。まず、租税を課す根拠から見ます。
条文日本国憲法84条
日本国憲法第84条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
租税を課すには、法律が要ります。租税法律主義です。税は、国民の財産を取り上げる侵害の典型なので、国会が法律で先に決める。これが1つ目です。2つ目。84条の考えを徹底すると、法律で定まった税は、行政の判断で、取るかどうかを選べません。前に、税を判断で減らせないことには、税ならではの理由もある、と後に残しました。それが、これです。84条が、誰からいくら取るかを法律で決めさせたのは、それを行政の判断に任せないためです。行政が、取るか取らないかを選べるなら、誰がいくら払うかを、結局は行政が決めることになります。それでは、法律で決めた意味がありません。必ず賦課し、徴収しなければなりません。行政に、取らないという選択の自由は、無いのです。町内会の会計係が、規約で額の決まった会費を、気に入った人だけ半額にするのと同じです。額を決めたのは規約であって、会計係ではありません。3つ目。だから、担当のAが独自の判断でまけることは、法律で定まった額から外れることになります。定めが無いのに動いたのではなく、定めがあるのに外れたのです。これは法律の優位に反します。減免したいなら、法律や条例の減免の定めが要ります。
優位は、得をする側にも働きます。前に、税務署が、法律どおりなら10万円になるBの税を、判断で8万円にした例を見ました。あれも、Bが得をする側でした。固定資産税の減免については、地方税法に、条例の定めるところにより市町村長が減免できる、という趣旨の定めがあります。減免できるのは、法律と条例が認めたときだけです。個別法なので、暗記は要りません。災害の被害者への国税の減免も、特別の法律に基づきます。同じBの店でも、町の条例に、天災で被害を受けた者は減免できる、という定めがあり、大雨で店が水に浸かったので、その定めに基づいて半額にするなら、定めの内側で動いています。外れていないので、問題はありません。違法かどうかを分けるのは、得をさせるかどうかではなく、定めから外れたかどうかです。
図:租税の減免の論理
- ①課税には法律の根拠が要る〔憲法84条〕→②法律で定まった税を、賦課・徴収しない自由が行政には無い→③行政の判断でまけることは、定めから外れる=法律の優位に反する→減免にも法律や条例の定めが要る
- 留保の問題ではなく優位の問題
84条について、最高裁大法廷の判決も引いておきます。国民健康保険の保険料に関する事件です。保険料は税ではありませんが、84条の趣旨が及ぶかが問われました。
判例最大判平18・3・1 民集60巻2号587頁
84条の趣旨(租税の減免を判断した判決ではない) もっとも,憲法84条は,課税要件及び租税の賦課徴収の手続が法律で明確に定められるべきことを規定するものであり,直接的には,租税について法律による規律の在り方を定めるものであるが,同条は,国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明文化したものというべきである。
借りるのは、この1箇所だけです。84条は、義務を課し権利を制限するには法律の根拠が要る、という原則を、租税について厳格に明文化したものだ、という理解です。注意点があります。この判決は、租税の減免を判断したものではありません。減免に法律が要るとした判決ではないのです。賦課の要件の明確性などの中身は、後の回で扱います。課税の根拠、徴収の義務、だから勝手な減免は定めから外れる。定めが無いのに動けるか、ではなく、定めがあるのに外れてよいか。留保ではなく、優位の問いです。
今日の地図(保存版)
図:2つの問いへの振り分け
- 法律が無いとき、動けるか=法律の留保:緊急の措置〔措置は適法と認められず、責任だけ別〕・公表〔制裁として働くなら根拠が要る。情報提供なら不要だが、やり方が相当でないと国賠違法〕・料金〔義務を課すなら根拠が要る。下水道は要る・上水道は物差しの上では要らない〕
- 法律があるとき、外れてよいか=法律の優位:租税の減免〔徴収しない自由が無い。得をさせる行為でも外れてはならない〕
大雨の前の夜に戻ります。町長が根拠なく撤去したのは、法律が無いときに動けるか、の問いでした。動けません。撤去は違法です。ただし、緊急のやむを得ない措置なら、賠償責任は別に考えられます。適法にした判決ではありません。2つの問いに振り分けます。法律が無いときに動けるか。これが法律の留保です。緊急の措置は、根拠が無ければ違法。公表は、制裁として働くなら根拠が要り、情報提供なら不要ですが、やり方が相当でなければ国家賠償の責任が生じます。料金は、義務を課す作用なら根拠が要ります。下水道は要り、上水道は侵害留保の物差しの上では要りません。法律があるときに外れてよいか。これが法律の優位です。租税の減免は、法律で定まった税を徴収しない自由が行政に無いので、得をさせる行為でも、定めから外れてはなりません。
場面が出たら、まず、定めが無いのか、あるのか、を見るのですね。無いなら、動いてよいかを見ます。あるなら、外れていないかを見ます。通常の答案では、法律の規定に反するから違法、と書けば足り、優位という言葉は必須ではありません。大事なのは、問いを取り違えないことです。
参照条文
- 民法720条1項
- 食品衛生法69条
- 下水道法10条1項
- 下水道法20条1項
- 日本国憲法84条