行政救済法の地図と不服申立ての位置
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第10章 行政不服申立て #130/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
営業停止を命じられたら、どこへ何を求めるのか
図:今日の問い
- 前回の終わり=処分に不満があるとき、裁判所へ行く前に、または行かずに、行政機関自身に見直しを求める道
- 今日=第10章の初回・第10章から第19章まで続く行政救済法の入口
- 問い=営業停止を命じられた経営者は、どこに何を求められるのか。道はいくつあって、どう分かれるのか
- 道筋=道の分け方→3つの手続法→2軸で割れない3つ→不服申立ての強みと弱み
前回の終わりに予告したとおり、今日から第10章、行政不服申立てに入ります。ただ、今日はこの章の入口であるだけではありません。第10章から第19章まで続く、行政救済法の全体の入口でもあります。ですから、細かい条文に入る前に、まず地図を持ちます。行政救済の道は、裁判所に訴えることだけではありません。今日は、その全体を見渡します。設例を置きます。
図:設例の登場人物
- A=甲県の知事〔行政庁〕
- B=甲県内の飲食店の経営者〔処分の相手方〕
- AからBへ=営業停止2か月の命令〔食品の衛生基準の違反を理由とする不利益処分〕
- Bの考え=違反は無かった
甲県の知事をA、甲県内で飲食店を営む経営者をBとします。知事Aは、Bの店に食品の衛生基準の違反があったとして、法律に基づき、営業の停止を2か月命じました。不利益処分です。ところが、Bは、違反は無かったと考えています。さて、Bは、どこに、何を求めることができるでしょうか。裁判所に訴える以外に、道はあるのか。役所の中で見直してもらえるのか。道はいくつあって、どう分かれるのか。これが今日の問いです。先に答えの形だけ言うと、道は、Bが何を得たいかで、大きく2つに分かれます。処分を無かったことにする道と、損をお金で埋める道です。道順は4つです。1つ目、救済の道を、何を得たいかで分ける。2つ目、行手法、行審法、行訴法という3つの法律を、2本の軸の上に置く。3つ目、その2本の軸できれいに分かれない例外を、3つ押さえる。4つ目、行政不服申立てとは何か、訴訟と比べた強みと弱みです。
何を得たいかで、道は2系統に分かれる
図:救済の地図
- Bの願い→「営業を再開したい=処分の効力を否定する」→行政争訟〔行政上の不服申立て=通則法は行審法・Bなら審査請求/行政事件訴訟=通則法は行訴法・Bなら処分の取消しの訴え〕
- 「損害をお金で埋め合わせたい」→国家補償〔国家賠償=違法な行政活動による損害の填補/損失補償=適法な行政活動による財産上の損失の補償〕
- 両系統は要件が別・並行して使える
道の分け方の軸は、1本です。Bが何を得たいのか、です。Bの願いの1つ目は、営業を再開したい、というものです。営業停止という処分そのものを、無かったことにしたい。つまり、処分の効力を否定したい。こちらの系統を、行政争訟といいます。願いの2つ目は、停止されていた間の損害を、お金で埋め合わせてほしい、というものです。処分の効力を否定する必要は、必ずしもありません。こちらの系統を、国家補償といいます。さらに、それぞれが2つに分かれます。行政争訟は、行政機関に求める行政上の不服申立てと、裁判所に求める行政事件訴訟です。行政上の不服申立ての通則を定めるのが行政不服審査法、略して行審法で、Bなら審査請求にあたります。行政事件訴訟の通則を定めるのが行政事件訴訟法、略して行訴法で、Bなら処分の取消しの訴えです。取消しの訴えは、行訴法の3条2項に出てきます。取消訴訟とも呼びます。国家補償も2つです。違法な行政活動によって生じた損害を填補するのが、国家賠償です。国家賠償法に基づきます。Bは、処分が違法だと考えているので、この道がありえます。もう1つは、適法な行政活動によって生じた財産上の損失を補償する、損失補償です。設例とは別の人を1人だけ置きます。Cは、道路の拡幅のために、適法に土地を手放した人です。Cの損は、違法な行為から出たのではないので、損失補償の側です。国家賠償と損失補償は、違法か適法かで分かれる、と覚えてください。
取消しの訴えで勝っていなくても、国家賠償は求められます。2つは要件が別です。要件を満たすかぎり、どちらを使ってもよく、並行して使うこともできます。たとえば、営業停止の取消しを求めながら、同時に損害の賠償も求める、ということです。ただ、税のように、お金を納めさせる処分では、難しい論点があります。取り消さないまま賠償を認めると、納めたお金が実質的に戻ってきて、取り消したのと同じことになるからです。第4章の公定力の回で、固定資産税の事件として見た問題です。国家賠償と取消訴訟の関係として、第11章でもう一度扱います。今日は、地図の上の位置だけです。ここで一度まとめます。処分の効力を否定したいなら行政争訟、お金で埋めたいなら国家補償。何を得たいかで、道が分かれます。
3つの手続法を、2本の軸に置く
図:2軸の表
- 縦=行政の中の手続か、裁判の手続か
- 横=事前か事後か
- 行政の中×事前=行手法
- 行政の中×事後=行審法
- 裁判×事後=行訴法
- 時間軸=営業停止の前に知事Aが言い分を聞く〔行手法〕→停止処分→Bが行政機関に不服を申し立てる〔行審法〕・裁判所に取消しを求める〔行訴法〕
次に、行手法、行審法、行訴法を、1枚の表に置きます。その前に、第8章で見た区別を、1問だけ思い出してください。事前手続と事後手続でした。行手法は、そのどちらの一般法でしたか。そして、行審法は、どちらでしょうか。事前手続は、決定が出る前の段階で、手順の公正さと適正さを保つために置かれたルールでした。行手法は、その事前手続の一般法です。事後手続は、決定のあとで、考え直してもらうために、不服や苦情を申し立てる手続で、それが行審法です。第8章では、事後の不服申立ては第10章で扱う、と言っていました。その第10章が、ここです。では、もう1本の軸を足します。行政の中の手続か、裁判の手続か、です。これを縦の軸にして、いま思い出した事前か事後かを、横の軸に置きます。行政の中で、事前に置かれるのが、行手法です。違法や不当な行政活動がされることを、未然に防ぐために、活動に際して必要とされる手続です。行政の中で、事後に置かれるのが、行審法です。違法や不当な活動がされたあとで、国民を救済する手続ですが、裁判ではなく、行政の過程の中での救済です。裁判所での救済が、行訴法です。
行手法は事前の手続ですが、行政の手続は事前だけではありません。行審法も、行政の過程に組み込まれた手続です。表で見ると、行手法と行審法は、同じ行政の手続の欄に、事前と事後で並びます。設例を時間の順に置きます。まず、営業停止の前に、知事Aが、Bの言い分を聞きます。これが行手法の事前の手続です。そのあと、停止処分が出ます。Bが、行政機関に不服を申し立てるなら行審法、裁判所に取消しを求めるなら行訴法です。この3つの法律は、行政活動に対する国民の権利を守り、それを通じて行政を適正にする、という目的で共通しています。
2軸できれいに分かれない3つ
図:割れない3つ
- 原則=事前は行手法・事後の行政は行審法・事後の裁判は行訴法
- 例外1=行政指導の中止等の求め〔行手法36条の2〕=事後だが行審法の対象外〔行審法の対象は処分と不作為〕
- 例外2=義務付けの訴え〔行訴法3条6項〕・差止めの訴え〔3条7項〕=行訴法だが事後と言い切れない
- 例外3=申請の仕組みが無い不作為=不作為の審査請求ではなく処分等の求め〔行手法36条の3〕
原則は、これできれいです。ただし、きれいに割れない例外が、3つあります。1つ目。行政指導の中止等の求めです。行手法の36条の2です。第6章で見ましたね。法令の違反を直すよう求める、是正を求める型で、法律に根拠があり、弁明など、相手が言い分を述べる手続を経ていない行政指導の、相手方が、その行政指導をした機関に、中止その他の措置を求める申出です。これは、行政指導のあとの手続ですから、事後です。しかし、行審法の対象は、処分その他の公権力の行使と、3つ目で触れる不作為に限られます。行政指導は、従うかどうかを相手に任せる事実行為で、相手の権利義務を直接変える効果がありません。だから処分に当たらず、行審法の対象になりません。ですから、行審法が定める、審理員、つまり処分に関わっていない職員が審理する手続などは、保障されません。事後なのに、行審法ではない。これが1つ目です。設例で当てはめます。知事Aが、Bに、法律の衛生基準に違反しているから、営業のやり方を改めてほしい、と、その法律の規定に基づいて行政指導をしたとします。Bがその中止を求めるなら、中止等の求めです。審査請求ではありません。
図:割れない3つの2つ目
- 義務付けの訴え〔行訴法3条6項〕=されるべき処分がされないとき、すべき旨を命ずることを求める
- 差止めの訴え〔3条7項〕=処分がされようとしている段階で、してはならない旨を命ずることを求める
- どちらも、出た処分をあとから争う形ではない=事後と言い切れない
- 設例=営業停止が出る前に、Bが知事Aの処分の差止めを求める
2つ目。義務付けの訴えと差止めの訴えです。行訴法の訴訟ですが、事後の手続と言い切れません。差止めの訴えは、処分がされようとしているのに、まだされていない段階で、してはならない旨を命ずることを求めます。行訴法の3条7項です。義務付けの訴えは、されるべき処分がされないときなどに、すべき旨を命ずることを求めます。3条6項です。設例なら、知事Aが営業停止を出す前の段階で、Bが、出さないでほしい、と裁判所に求めるのが、差止めです。処分の前ですから、事前の性格を持ちます。義務付けも同じです。まだ出ていない処分を、出しなさい、と裁判所が先に命じます。出た処分を、あとから争う形ではありません。行訴法は事後、という原則に、当てはまりません。この2つの訴えの定義の条文は、第11章で読みます。
図:割れない3つの3つ目
- されるべき処分がされないとき
- 申請がある=不作為についての審査請求〔行審法3条〕
- 申請の仕組みが無い=行審法の対象外→処分等の求め〔行手法36条の3〕=行政庁は調査し、必要なら処分をする・申し出た人への返事の義務は無い
- 設例=Bの店の近所に住む人が、知事Aに取締りを求める
3つ目に入る前に、1問置きます。第8章で見たことを、思い出してください。申請に対して、何の処分もしないことを、何と呼びましたか?そして、申請の無い住民は、それを争えたでしょうか?不作為です。法令に基づく申請に対して、何の処分もしないことです。申請の無い住民は、申請に対する不作為にならないので、争えませんでした。3つ目は、そこにつながります。されるべき処分がされないとき、行政の過程での救済は、2つに分かれます。申請に対して処分がされないなら、不作為についての審査請求です。行審法の3条です。ところが、申請の仕組みが無いなら、行審法の対象外です。代わりに使うのが、処分等の求めです。行手法の36条の3です。この場合も、審理員による審理手続などは保障されません。申出を受けた行政庁は、調査をして、必要があれば処分をしなければなりません。ただ、申し出た人に返事をする義務までは、ありません。設例で見ます。Bの店の近所に住む人が、Bの店をもっと厳しく取り締まってほしい、と知事Aに求めるとします。この人は、営業許可を申請した人ではありません。だから、不作為についての審査請求ではなく、処分等の求めです。
3つとも、行審法の外側に残された道、か、事前と事後の線に載らない訴訟、なんです。そう整理できます。受験では、まず、行審法の対象は、処分と不作為だ、と言えれば、1つ目と3つ目は説明できます。
行政不服申立てとは、そして強みと弱み
図:行政不服申立ての定義と長所・短所
- 定義=国民が行政庁の公権力の行使について行政機関に不服を申し立てる手続・行政過程に組み込まれた事後救済
- 違法=法律に適合しない
- 不当=公益目的に合致しない
- 長所5=使う人〔簡易迅速・申立ての手数料なし〕・判断の範囲〔当・不当まで審査〕・行政側の都合〔自己統制・裁判所の負担軽減と争点の明確化〕
- 短所2=中立性が裁判所より劣る・事実認定が裁判所ほど厳格でない
ここから、今日の主役、行政不服申立てです。国民が、行政庁による公権力の行使について、行政機関に対して不服を申し立てる手続です。違法または不当な行政作用を直し、国民を救済する、行政の過程に組み込まれた事後の救済手続です。違法と不当を、定義で分けておきます。行政作用は、法律に適合し、かつ、公益の目的に合致している必要があります。法律に適合しないのが違法、公益の目的に合致しないのが不当です。ここで、第5章の話を思い出してください。行政庁の裁量の範囲内の判断が、まずいものだったとき、それは適法か違法かの問題になるでしょうか。取消訴訟で取り消せたでしょうか。そして、それを直す道は、何でしたか。
裁量の範囲内なら、まずい判断でも、当不当の問題になるだけで、適法違法の問題にならないので、取消訴訟では取り消せません。直す道は、職権取消しと、行審法の不服申立てでした。第5章では、不当まで見直せる道として予告していました。それが今日の不服申立てです。では、訴訟と比べた長所を5つ、3つのグループで並べます。まず、使う人にとっての長所です。1つ目は、簡易迅速な手続で救済できること。裁判に比べて、手続が軽く、早く結論が出ます。2つ目は、申立てに手数料がかからないこと。ただし、これは申立て自体の話です。審査請求をした人が、提出された書類などの写しの交付を受けるときには、実費の手数料が別に要ります。申立てに手数料がかからない、と限定して覚えてください。次に、判断の範囲の長所です。3つ目は、適法か違法かだけでなく、当か不当かまで審査できることです。裁判と異なり、裁量の範囲内の適否にまで踏み込めます。最後に、行政や裁判所の側の長所です。4つ目は、行政の自己統制です。行政が、自分の仕事の改善や、運用の統一性を確保する機会を得られます。5つ目は、裁判所の負担が軽くなり、専門的な問題では争点が明確になって、裁判所の審理がしやすくなることです。
この最後のグループが、国の側の都合でもある、という点は、あとで効いてきます。設例に戻します。Bが、営業停止2か月は、違反の程度に比べて重すぎる、と言うとします。違反は認めるけれど、処分が裁量の範囲内でまずいものにとどまるなら、取消訴訟では取り消せません。でも、不服申立てなら、当不当まで見てもらえます。長所の3つ目です。これに対して、Bが、そもそも違反は無かった、と言うなら、適法か違法かの問題ですから、どちらの道でも争えます。短所は2つです。1つ目は、中立性が、裁判所より劣ることです。審査するのが行政の側ですから、自分の処分を、仲間が見ることになります。2つ目は、事実の認定が、裁判所ほど厳格にされないことです。使いやすい代わりに、判断する人の立場が、裁判所ほど独立していません。
簡易迅速と公正の緊張、そして前置の頭出し
図:簡易迅速↔公正
- 簡易迅速にするほど手続が薄くなり、公正さが危うい
- 公正を厚くするほど時間がかかり、簡易迅速が損なわれる
- 課題=簡易迅速性を損なわずに審理の客観性・公正性を確保すること
- 行審法1条1項の「簡易迅速かつ公正な手続」
- 長所の自己統制と裁判所の負担軽減は国の都合でもある→訴訟の前に強制してよいか=不服申立前置の問題
長所と短所を並べると、制度の設計の課題が見えます。簡易迅速な手続にするほど、手続を薄くしたくなり、公正さが危うくなります。公正さを厚くするほど、時間がかかり、簡易迅速が損なわれます。簡易迅速を損なわずに、審理の客観性と公正さを確保する。この両立が、課題です。短所の2つが、公正への要請を出すわけです。この両立は、行審法の1条1項の言葉に、表れています。条文を、読みましょう。
条文行政不服審査法1条1項
行政不服審査法 第一条(第1項) この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。
読み方です。不服申立てができる対象は、行政庁の違法または不当な処分その他の公権力の行使です。国民が、簡易迅速かつ公正な手続の下で、広く不服申立てをできるための制度を定める。それによって、国民の権利利益を救済し、行政の適正な運営を確保する。簡易迅速と公正が、1つの文の中に並んでいます。もう1点。さっきの4つ目と5つ目の長所は、国の側の都合でもありました。そこで、こういう問題が出ます。行政の自己統制や裁判所の負担軽減を重く見て、訴訟の前に、不服申立てをしなさい、と強制してよいのか。強制すると、早く救われたい国民にとっては回り道になりかねません。国の側の都合と、国民の側の利益を、どこで折り合わせるか。これを、不服申立前置の問題といいます。訴訟の前に、先に不服申立てを経ることを要する、という意味です。
原則と例外の形があります。それは、行訴法の側で、行政不服申立てと取消訴訟の関係として見る回で扱います。今日は、問題の所在までです。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図
- 道の分け方=行政争訟〔効力を否定〕・国家補償〔お金〕
- 3法=行手法〔事前・行政〕・行審法〔事後・行政〕・行訴法〔裁判〕
- 割れない3つ
- 不服申立ての長所5・短所2
- 簡易迅速と公正の両立
- 今いる場所=第10章の入口・行政救済法の全体の入口
最初の問いに戻ります。営業停止を命じられたBは、どこに何を求められたのでしょうか。営業を再開したいなら、処分の効力を否定する行政争訟があります。行政機関に求める不服申立てと、裁判所に求める取消しの訴えです。損害をお金で埋めたいなら、国家補償として国家賠償があります。要件が別なので、並行して使うこともできます。持ち帰るのは、5点です。1つ目。救済の道は、何を得たいかで、行政争訟と国家補償に分かれます。国家賠償と損失補償は、違法か適法かで分かれます。2つ目。行手法は事前で行政の中、行審法は事後で行政の中、行訴法は裁判です。3つ目。きれいに割れないのは、行政指導の中止等の求め、義務付けと差止めの訴え、申請の仕組みが無いときの処分等の求めの3つです。行審法の対象は、処分と不作為です。4つ目。行政不服申立ては、違法または不当な処分等について行政機関に不服を申し立てる手続で、長所が5つ、短所が2つです。申立ての手数料はかかりません。5つ目。簡易迅速と公正の両立が課題で、行審法1条1項の言葉に表れています。今いる場所を、1文で確かめます。ここは、第10章の入口であり、行政救済法の全体の入口です。
参照条文
- 行政不服審査法1条1項