行政不服審査法の全体像と不服申立ての3種類
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第10章 行政不服申立て #131/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
営業停止を命じられたBは、どの手続を選ぶのか
図:今日の問い
- 前回の続き=知事Aに営業停止2か月を命じられたBは審査請求をすることにした
- 問い=Bは誰に、どんな手続で不服を申し立てるのか。手続は何種類あって、どう使い分けるのか
- 落とし穴=「審査請求」の意味は旧法と新法で違う
- 道筋=沿革→1条→3種類と手続保障の差→個別法の読み方
混乱するのは自然です。しかも「審査請求」という言葉そのものが、2014年の法律の改正で、意味が変わっています。旧法の感覚のままだと、思わぬところで間違えます。前回は、行審法の1条1項を全文で見て、簡易迅速と公正が1つの文に並んでいることを確かめました。今日は、その法律がどういう経緯で今の形になったのか、どんな種類の手続を用意しているのかを見ます。今日の問いは、Bは誰に、どんな手続で不服を申し立てるのか。手続は何種類あって、どう使い分けるのか、です。先に答えの形だけ言います。手続は3種類で、原則は審査請求。ほかの2つは、個別法が認めたときだけ使えます。そして3つは、手続保障の厚さで使い分けられています。道順は4つです。1つ目、沿革。なぜ2014年に全部改正されたのか。2つ目、1条を全文で読みます。3つ目、3種類の手続と、手続保障の差。4つ目、個別法の条文の読み方です。
訴願法から2014年の全部改正まで
図:行審法の沿革
- 訴願法〔1890年〕=行政の自己統制が主眼・救済の対象は法に列記された事項だけ〔列記主義〕→旧行政不服審査法〔1962年〕=原則すべての処分が対象〔一般概括主義〕・簡易迅速な手続
- 関連する改革=行手法〔1993年〕・行訴法の改正〔2004年〕→行政不服審査法の全部改正〔2014年・施行は2016年4月〕=公正性の向上と利便性の向上
- 行手法も同時に改正
まず沿革です。3段で言えます。1段目は、訴願法です。1890年にできた、明治の訴願法です。主眼は、国民の権利救済というより、行政の自己統制でした。そして、不服を申し立てられる事項は、法律に列記されたものだけ。これを列記主義といいます。列記されていないものは、不服を申し立てられないんですか。そうなります。列記から漏れた処分には、不服申立ての道が無かったわけです。日本国憲法のもとでも、しばらくこの法律が続き、戦後に作られた行政事件訴訟特例法は、訴えの前に訴願などを経ることを原則にしました。訴願の手続そのものに不備が多いのに、それを経なければ裁判に進めない。そのため、不服申立ての不備が、救済制度全体の弊害になったのです。2段目は、1962年の旧行政不服審査法です。目的は、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済と、行政の適正な運営の確保でした。大きな転換は、原則としてすべての処分を対象にしたことです。これを一般概括主義といいます。訴願法の列記主義からの転換です。3段目が、2014年の全部改正で、今の行審法です。施行は2016年の4月でした。背景には、行手法の1993年の制定、行訴法の2004年の改正など、周りの制度の整備があります。事前の手続も、裁判の手続も整ってきた。そうなると、間にある不服申立ても見直そう、という機運が高まったわけです。
全部改正って、条文を少し直したのとは違うんですか。違います。法律の骨格から作り直しました。あとで見ますが、「審査請求」の定義が変わるほどです。
図:新しい行政不服審査制度のポイント
- 公正性の向上3=審理員による審理〔処分に関与していない職員が審理〕
- 行政不服審査会等への諮問〔第三者機関が審査庁の判断を点検〕
- 審査請求人・参加人の手続的権利の拡充〔書類の写しの交付・処分庁への質問など〕
- 利便性の向上4=不服申立期間の延長〔60日→3か月〕
- 異議申立ての廃止〔審査請求に一元化〕
- 審理の迅速化〔標準審理期間・計画的審理〕
- 不服申立前置の見直し
- 覚え方=公正性は審理する人・点検する人・請求人の権利、利便性は期間・一元化・早さ・前置
改正の趣旨は2つです。公正性の向上と、利便性の向上です。公正性の向上は3つあります。1つ目は審理員による審理。処分に関与していない職員が、審理を進めます。2つ目は、行政不服審査会などへの諮問。審査庁の判断を、第三者機関が点検します。3つ目は、審査請求人の手続的な権利の拡充。提出された書類の写しの交付を求めたり、処分庁に質問したりできるようになりました。覚え方は、審理する人、点検する人、請求人の権利、の3つです。利便性の向上は4つです。1つ目は、不服申立期間の延長。60日から3か月になりました。2つ目は、異議申立ての廃止、つまり審査請求への一元化。これはあとの節で見ます。3つ目は、審理の迅速化。標準審理期間を定め、審理員が計画的に審理します。4つ目は、不服申立前置の見直しです。覚え方は、期間、一元化、早さ、前置です。細かい中身は、それぞれ別の回で扱います。ここで1問です。同時に改正された行手法の話です。2014年の行手法の改正で入った、行政指導と処分について国民が求められる2つの手続は、何でしたか?
行政指導の中止等の求めと、処分等の求めです。どちらも2014年の行手法の改正で入りました。36条の2と、36条の3です。前回、事前は行手法、事後は行審法と行訴法、ときれいに割れない例外を3つ見ました。そのうち2つは、この同時改正で入ったものです。不服申立ての周りを、行手法と一緒に整えた改正だった、と位置づけてください。
1条を読む——目的・対象・「公正」・一般法
図:行政不服審査法1条の読み方
- ①対象=違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為
- ②方法=簡易迅速かつ公正な手続で・広く
- ③「公正」は2014年の全部改正で加わった
- ④2つの目的=権利利益の救済・行政の適正な運営の確保
- ⑤2項=一般法〔他の法律に特別の定めがある場合を除くほか〕
次に、1条を全文で読みます。その前に、前回の問いを1つ。簡易迅速な手続にするほど、何が危うくなると言いましたか?手続が薄くなって、公正さが危うくなる、でした。簡易迅速と公正は緊張します。この両立を目指すと、条文はどう書いているか。見てください。
条文行政不服審査法1条
行政不服審査法 第一条(目的等) この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。 2 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下単に「処分」という。)に関する不服申立てについては、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。
1項を5つに割って読みます。1つ目は、対象です。「違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為」。違法だけでなく、不当まで入っています。前回見た、裁量の範囲内のまずい判断も、不服申立てなら見直せる、という長所の、条文上の根拠です。処分の定義は2項の括弧書きにあって、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」を、以下単に「処分」と呼びます。2つ目は、方法です。「簡易迅速かつ公正な手続の下で広く」不服申立てをできる制度。「広く」は、原則としてすべての処分を対象にする、一般概括主義を引き継いだ言葉です。3つ目が大事です。「公正」は、新しく入った言葉です。旧法の1条1項は、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済、とだけ書いていました。2014年の全部改正で、「公正な」が加わりました。先ほどの公正性の向上3つ、つまり審理員、諮問、手続的権利は、この「公正」の具体化です。
4つ目は、2つの目的です。国民の権利利益の救済と、行政の適正な運営の確保。前回の長所のうち、行政の自己統制と裁判所の負担軽減は、この2つ目の目的の側です。5つ目は、2項、一般法の宣言です。処分に関する不服申立ては、「他の法律に特別の定めがある場合を除くほか」この法律による。つまり、実際に不服申立てをするときは、個別法に特別の定めが無いかを、必ず確かめます。この「特別の定め」の窓口は、あとで見るように、1条2項、4条の柱書、5条1項、6条1項の4か所に出てきます。今日の合言葉にしてください。
審査請求——3種類のうちの原則

ここから3種類です。不服申立ての種類は、3つ。1つ目が審査請求、2つ目が再調査の請求、3つ目が再審査請求です。原則は、審査請求です。再調査の請求と再審査請求は、個別法に定めがあるときだけ使える、いわばオプションです。時間軸を先に持ってください。処分があって、審査請求がある。再調査の請求は、その審査請求の前にあります。再審査請求は、審査請求の裁決の後です。名前の罠で、「再調査」は前、「再審査」は後です。まず、審査請求から。2条と3条です。
条文行政不服審査法2条
行政不服審査法 第二条(処分についての審査請求) 行政庁の処分に不服がある者は、第四条及び第五条第二項の定めるところにより、審査請求をすることができる。
条文行政不服審査法3条
行政不服審査法 第三条(不作為についての審査請求) 法令に基づき行政庁に対して処分についての申請をした者は、当該申請から相当の期間が経過したにもかかわらず、行政庁の不作為(法令に基づく申請に対して何らの処分をもしないことをいう。以下同じ。)がある場合には、次条の定めるところにより、当該不作為についての審査請求をすることができる。
審査請求は、2本立てです。2条は、処分についての審査請求。3条は、不作為についての審査請求です。不作為は、申請に対して何の処分もしないことです。前回見たとおり、申請の仕組みが無いと、不作為にはなりません。要件の細かい中身は、次の回で扱います。2条の中の「第四条及び第五条第二項の定めるところにより」は、4条がどこに出すか、5条2項が再調査の請求をしたときの順序、を定めています。では、4条です。ここで1問。Bの審査請求は、誰に出すのでしょうか。知事Aの上に、Aの処分を見直す、上級の役所はあるでしょうか。
県の自治事務なら、国の大臣は、知事の上級行政庁ではありません。そこが分かれ目です。設例では、営業停止の事務は県の自治事務だと仮定します。知事は、国から独立した県という団体の長です。第2章で見たとおり、大臣が知事を指揮監督する機関委任事務は、廃止されました。ですから、知事の上に上級行政庁はありません。法定受託事務なら、地方自治法が特に、所管の大臣への審査請求を定めていますが、それは別の話です。4条を読みます。
条文行政不服審査法4条
行政不服審査法 第四条(審査請求をすべき行政庁) 審査請求は、法律(条例に基づく処分については、条例)に特別の定めがある場合を除くほか、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める行政庁に対してするものとする。 一 処分庁等(処分をした行政庁(以下「処分庁」という。)又は不作為に係る行政庁(以下「不作為庁」という。)をいう。以下同じ。)に上級行政庁がない場合又は処分庁等が主任の大臣若しくは宮内庁長官若しくは内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項若しくは第二項若しくは国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に規定する庁の長である場合 当該処分庁等 二 宮内庁長官又は内閣府設置法第四十九条第一項若しくは第二項若しくは国家行政組織法第三条第二項に規定する庁の長が処分庁等の上級行政庁である場合 宮内庁長官又は当該庁の長 三 主任の大臣が処分庁等の上級行政庁である場合(前二号に掲げる場合を除く。) 当該主任の大臣 四 前三号に掲げる場合以外の場合 当該処分庁等の最上級行政庁
読み方です。原則は4号で、処分庁等の最上級行政庁に出します。直近の上級ではなく、最上級です。ただし1号が先に来て、処分庁等に上級行政庁が無いときは、処分庁等自身に出します。結論の語は「当該処分庁等」です。2号と3号は、上に庁の長や大臣がいる場合の整理で、細目は次の回で扱います。設例に当てはめます。知事Aには、上級行政庁がありません。だから1号です。審査庁は、知事A自身です。前回の短所の1つ目、中立性の問題が、ここで顔を出します。この不安に応えるのが、さきほどの審理員、つまり処分に関与していない職員が審理する仕組みです。細かい手続は別の回で扱います。なお、4条の柱書は「法律に特別の定めがある場合を除くほか」と書いています。審査庁を、個別法が決める場合があります。生活保護法の例を、あとで読みます。
異議申立ての廃止——「審査請求」の意味が変わった
図:旧法と新法の対応
- 旧法=審査請求〔処分庁に上級行政庁がある→その上級行政庁へ〕
- 異議申立て〔上級行政庁が無い→処分庁自身へ〕→2014年の全部改正→新法=審査請求〔原則・処分庁自身が審査庁になる場合を含む〕
- 再調査の請求〔個別法に定めがあるときだけ〕
- 設例=知事Aへの不服申立て=旧法は異議申立て・新法は審査請求
さきほどの落とし穴に入ります。旧法では、不服申立てが、審査庁の違いで2種類に分かれていました。処分庁に上級行政庁があるときに、その上級行政庁に対してするのが、審査請求。上級行政庁が無いときに、処分庁自身に対してするのが、異議申立てです。2014年の全部改正で、異議申立てが廃止され、原則の形が審査請求に一元化されました。上級行政庁があるかどうかは、不服を申し立てる人には関係の無い事情です。それで手続保障の水準が変わるのは不合理でした。異議申立ては、審査請求より手続保障が劣るところがありました。そこで審査請求に揃えて、全体として水準を引き上げたのです。ここが一番の罠です。旧法の審査請求は、処分庁以外への不服申立てでした。新法の審査請求は、処分庁自身が審査庁になる場合を含みます。言葉は同じでも、定義が違うのです。旧法の知識を引きずって、「処分庁に出すのは審査請求ではない」と考えると、間違えます。設例なら、旧法では、BがAに出す不服申立ては異議申立てでした。新法では、審査庁が知事A自身の、審査請求です。異議申立ての流れをくむ手続の1つが、次に見る再調査の請求です。ただし、同じものではありません。異議申立ては、上級行政庁が無いときの原則的な手段でした。再調査の請求は、上級行政庁などに審査請求ができる場合の、選べる前段として、個別法に定めがあるときだけ残りました。
再調査の請求——処分庁自身が簡易に見直す
図:②再調査の請求
- 処分庁自身が審査請求より簡易な手続で事実関係を調べ直す
- 要件=処分庁以外の行政庁に審査請求ができる場合・法律に再調査の請求ができる旨の定めがある
- 典型=国税
- 順序=審査請求を先にしたら再調査はできない・再調査をしたら原則その決定の後に審査請求
- 設例=所得税の更正処分を受けた事業者C
2つ目、再調査の請求です。5条を読みます。
条文行政不服審査法5条
行政不服審査法 第五条(再調査の請求) 行政庁の処分につき処分庁以外の行政庁に対して審査請求をすることができる場合において、法律に再調査の請求をすることができる旨の定めがあるときは、当該処分に不服がある者は、処分庁に対して再調査の請求をすることができる。ただし、当該処分について第二条の規定により審査請求をしたときは、この限りでない。 2 前項本文の規定により再調査の請求をしたときは、当該再調査の請求についての決定を経た後でなければ、審査請求をすることができない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。 一 当該処分につき再調査の請求をした日(第六十一条において読み替えて準用する第二十三条の規定により不備を補正すべきことを命じられた場合にあっては、当該不備を補正した日)の翌日から起算して三月を経過しても、処分庁が当該再調査の請求につき決定をしない場合 二 その他再調査の請求についての決定を経ないことにつき正当な理由がある場合
定義は、処分庁自身が、審査請求よりも簡易な手続で、事実関係を調べ直して処分を見直す手続です。要件は2つで、どちらも必要です。1つ目、処分につき、処分庁以外の行政庁に審査請求ができる場合であること。処分庁自身に審査請求をする場合は、その審査請求がすでに処分庁による見直しなので、前に同じ役所の見直しをもう1つ挟む意味が無い、という整理です。2つ目、法律に、再調査の請求ができる旨の定めがあること。つまり個別法です。定めが無ければ使えません。典型的には、どんな場面ですか。国税です。大量に行われ、もっぱら事実認定の当否が争われる処分では、処分庁自身が簡易に見直すほうが、国民にとっては早く、行政にとっては審査請求の対応の負担軽減になります。設例を1人置きます。所得税の更正処分を受けた事業者Cです。処分庁は税務署長です。国税通則法75条1項を、板で見ます。個別法は覚える対象ではないので、読むのは骨格だけです。
条文国税通則法75条1項
国税通則法 第七十五条(国税に関する処分についての不服申立て)(第1項) 国税に関する法律に基づく処分で次の各号に掲げるものに不服がある者は、当該各号に定める不服申立てをすることができる。 一 税務署長、国税局長又は税関長がした処分(次項に規定する処分を除く。) 次に掲げる不服申立てのうちその処分に不服がある者の選択するいずれかの不服申立て イ その処分をした税務署長、国税局長又は税関長に対する再調査の請求 ロ 国税不服審判所長に対する審査請求 二 国税庁長官がした処分 国税庁長官に対する審査請求 三 国税庁、国税局、税務署及び税関以外の行政機関の長又はその職員がした処分 国税不服審判所長に対する審査請求
税務署長の処分なら、Cは、税務署長に対する再調査の請求か、国税不服審判所長に対する審査請求かを、選べます。個別法の条番号は暗記しなくて構いません。「選べる形」だけ持ってください。ここで1問。再調査の請求と審査請求は、自由に選べる、とされます。では、審査請求をしたあとで、やっぱり再調査の請求に切り替えられるでしょうか?自由に選べるなら、切り替えられそうですけど、だめなんですか。だめです。5条1項のただし書で、すでに2条の審査請求をしたときは、再調査の請求はできません。より手厚い審査請求をもう始めているのに、同じ処分を、簡易な手続で重ねて見直させても、手続が重複するだけ、という整理です。選べるのは、最初の1回だけです。逆に、再調査の請求を選んだ場合は、2項本文で、その決定を経た後でなければ審査請求ができません。ただし、例外が2つあります。1つ目は、再調査の請求から3か月が経っても、処分庁が決定をしないとき。2つ目は、決定を経ないことに正当な理由があるときです。補足を3つ。1つ目、再調査の請求は、処分に対するものです。5条1項は「行政庁の処分につき」と書いていますから、不作為には再調査の請求がありません。2つ目、再調査の請求への判断は、「決定」と呼びます。審査請求への判断は「裁決」です。用語だけ、持ってください。3つ目、再調査の請求は、簡易な手続なので、審理員による審理も、行政不服審査会等への諮問もありません。この点は、あとで表にします。
「再調査」という名前ですが、時間軸は審査請求の前です。処分庁に対する、最初の見直しです。
再審査請求——審査請求の裁決への、さらなる不服
図:③再審査請求
- 審査請求の裁決に納得できない者が、法律の定める行政庁にもう一度審査を求める
- 個別法に定めがあるときだけ
- 処分のみ〔不作為には無い〕
- 審理員による審理はある・行政不服審査会等への諮問は無い
- 出訴との関係=再審査請求か裁判所かは原則自由に選べる
- 不服申立前置が求めるのは審査請求の裁決まで
3つ目、再審査請求です。6条1項です。
条文行政不服審査法6条1項
行政不服審査法 第六条(再審査請求)(第1項) 行政庁の処分につき法律に再審査請求をすることができる旨の定めがある場合には、当該処分についての審査請求の裁決に不服がある者は、再審査請求をすることができる。
定義は、審査請求の裁決に納得できない者が、法律の定める行政庁に、もう一度審査を求める手続です。再調査の請求と同じく、個別法に定めがあるときだけ使えます。社会保険や労働保険のように、専門性のある審査会が二段階目の救済を担う分野で残されています。もう1つ、国などが地方公共団体の処分に関わる場面でも認められる例があります。生活保護が、あとで見るその例です。時間軸は、審査請求の裁決の後です。再調査の請求と、逆の位置ですね。「再調査」は、もう一度調べ直す。処分のすぐ後です。「再審査」は、審査請求の審査をもう一度する。だから裁決の後です。そう言い分けると、忘れません。補足です。6条1項も「行政庁の処分につき」と書いていますから、不作為についての審査請求の裁決への再審査請求はありません。手続は審査請求に準じるので、審理員による審理はあります。ただ、行政不服審査会等への諮問は、ありません。裁判所との関係です。ここで、前回名前を出した不服申立前置を思い出してください。取消訴訟の前に、先に審査請求を経なければならない、という決まりです。ただ、原則は逆です。行政事件訴訟法の8条1項本文により、審査請求をするか、すぐに取消訴訟を起こすかは、自分で選べます。前置は、個別法が定めたときだけの例外です。再審査請求も同じです。審査請求の裁決に納得できない人は、次に再審査請求へ進んでもいいし、そこで取消訴訟を起こしてもいい。原則として、本人の選択です。個別法が前置を定めていても、前置が求めるのは、審査請求の裁決までで、再審査請求の裁決まで経ることは求められません。これは生活保護法で確かめます。
3種類の比較——手続保障の差
図:3種類の比較表
- 審査請求
- 再調査の請求
- 再審査請求の順=位置づけ〔原則/個別法に定めがあるときだけ/個別法に定めがあるときだけ〕・対象〔処分と不作為/処分だけ/処分だけ〕・相手方〔審査庁=原則は最上級行政庁で上級が無ければ処分庁自身/処分庁自身/個別法が定める行政庁〕・時間軸〔処分の後/処分の後で審査請求の前/審査請求の裁決の後〕・終わり方〔裁決/決定/裁決〕・審理員〔あり/なし/あり〕・行政不服審査会等への諮問〔あり/なし/なし〕
3種類を、1枚の表に並べます。その前に1問です。審理員が付くのは、どの手続でしょうか。行政不服審査会等への諮問があるのは、どの手続でしょうか。再調査の請求は簡易な手続なので、審理員も諮問もないですよね。再審査請求は、審理員はあるけど諮問は無い、でしたか。そうすると、審理員は審査請求と再審査請求、諮問は審査請求だけです。表にします。位置づけは、審査請求が原則で、あとの2つは個別法に定めがあるときだけ。対象は、審査請求が処分と不作為、あとの2つは処分だけ。相手方は、審査請求が審査庁で、原則は最上級行政庁、上級が無ければ処分庁自身。再調査の請求は処分庁自身。再審査請求は個別法が定める行政庁です。終わり方は、審査請求と再審査請求が裁決、再調査の請求は決定です。手続保障の差は、いちばん厚いのが審査請求です。審理員と諮問の両方があります。再審査請求は審理員だけ。再調査の請求は、どちらも無い、簡易な手続です。前回の、簡易迅速と公正の緊張が、3種類の中で割り振られているわけです。再調査の請求は簡易迅速の寄り、審査請求は公正の寄りです。設例で言い直します。Cが税務署長に出す再調査の請求は、処分をした役所自身に、もう一度見直してもらう道です。早い代わりに、審理員も、外からの点検もありません。Bが知事Aに出す審査請求は、同じ県の職員でも処分に関与していない審理員が審理し、第三者機関が点検する道です。手間はかかりますが、そのぶん公正です。再審査請求は、個別法が認めたときだけ、審査請求の裁決に対して、もう一段の審査を受ける道です。審理員はいますが、諮問は重ねません。
異議申立てを原則から外して審査請求に揃えた意味も、ここで回収できます。手続保障の薄い手続を原則にしない、という改正でした。暗記の仕方は、「審理員は再調査だけ無し、諮問は審査請求だけ」です。2つの「無し」の位置を覚えてください。
個別法の読み方——誰に、再調査や再審査は、その次は
図:個別法を読む3つの問い
- ①誰に審査請求をするか〔4条の原則か個別法の特則か〕②再調査の請求・再審査請求はあるか③その次〔裁判所〕はどうなるか
- 3つの型=型1〔特則なし=設例A・B=審査庁は知事A自身・再調査なし・再審査なし〕・型2〔再調査の請求あり=設例C・国税〕・型3〔再審査請求と前置あり=生活保護の申請を却下された人E〕
- 特別の定めの窓口=1条2項・4条柱書・5条1項・6条1項
最後に、個別法の読み方です。実際の事案では、行審法のほかに、個別法の特別の定めを必ず見ます。窓口は、さきほどの4か所です。そのとき、3つの問いを持ってください。1つ目、誰に審査請求をするのか。2つ目、再調査の請求や再審査請求はあるのか。3つ目、その次、つまり裁判所に行くときはどうなるのか。型は3つあります。型1は、個別法に特則が無い場合です。設例のAとBの営業停止がそうです。審査庁は知事A自身、再調査の請求も再審査請求も無し。裁判所へは、審査請求の後でも、審査請求をせずにすぐでも行けます。型2は、再調査の請求がある場合で、さきほどのCの国税です。型3は、再審査請求と前置がある場合です。ここは、生活保護で見ます。設例を、もう1人置きます。市に住む、生活に困っている人です。生活保護の申請をしましたが、市の福祉事務所長に、世帯の収入が基準を超えるとして、却下されました。この人は、これを争いたい。なお、市長は、保護の決定と実施の事務を、福祉事務所長に委任しています。生活保護法の19条4項です。ここで問いです。この人の審査請求は、誰に出すでしょう。4条の原則どおりなら、福祉事務所長の最上級行政庁ですから、市長のはずです。生活保護法は、何と言っているでしょうか。64条です。個別法ですから、骨格だけ読みます。
条文生活保護法64条
生活保護法 第六十四条(審査庁) 第十九条第四項の規定により市町村長が保護の決定及び実施に関する事務の全部又は一部をその管理に属する行政庁に委任した場合における当該事務に関する処分並びに第五十五条の四第二項(第五十五条の五第二項において準用する場合を含む。第六十六条第一項において同じ。)の規定により市町村長が就労自立給付金又は進学・就職準備給付金の支給に関する事務の全部又は一部をその管理に属する行政庁に委任した場合における当該事務に関する処分についての審査請求は、都道府県知事に対してするものとする。
読んだ部分だけで言うと、保護の決定と実施の事務を委任した場合のその処分についての審査請求は、都道府県知事に対してする、です。4条柱書の「法律に特別の定めがある場合を除くほか」に当たります。ですから、市長ではなく、都道府県知事です。誰が審査庁になるかは、個別法しだいなのです。型1の知事Aは、自分の処分を自分で見直しました。ここでは、市の処分を、別の団体の長である知事が見直します。生活保護法には、再調査の請求の定めがありません。だから、5条1項本文の要件を満たさず、できません。一方、再審査請求は、66条1項にあります。
条文生活保護法66条1項
生活保護法 第六十六条(再審査請求)(第1項) 市町村長がした保護の決定及び実施に関する処分若しくは第十九条第四項の規定による委任に基づいて行政庁がした処分に係る審査請求についての都道府県知事の裁決又は市町村長がした就労自立給付金若しくは進学・就職準備給付金の支給に関する処分若しくは第五十五条の四第二項の規定による委任に基づいて行政庁がした処分に係る審査請求についての都道府県知事の裁決に不服がある者は、厚生労働大臣に対して再審査請求をすることができる。
骨格は、保護の決定と実施に関する処分に係る審査請求についての、都道府県知事の裁決に不服がある者は、厚生労働大臣に再審査請求ができる、です。期間は、裁決を知った日の翌日から1か月です。行審法の62条1項に書いてあります。3つ目の問い、その次です。生活保護法の69条です。短いので、全文を読みます。
条文生活保護法69条
生活保護法 第六十九条(審査請求と訴訟との関係) この法律の規定に基づき保護の実施機関又は支給機関がした処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ、提起することができない。
処分の取消しの訴えは、審査請求に対する裁決を経た後でなければ、起こせません。審査請求を先にしなければならない。さきほどの不服申立前置を、この69条が定めているわけです。ここで大事なのは、前置が求めているのは、審査請求の裁決までという点です。再審査請求の裁決まで経る必要は、ありません。
図:生活保護の連鎖
- 生活保護の申請を却下された人E→市の福祉事務所長の却下→①審査請求〔都道府県知事・生活保護法64条〕→裁決→②再審査請求〔厚生労働大臣・66条1項〕
- ③取消訴訟〔審査請求の裁決を経た後・69条〕
- 型1との対比=知事Aは自分の処分を見直す・型3は市の処分を都道府県知事が見直す
連鎖を通しで言います。この人は、市の福祉事務所長の却下に対して、都道府県知事に審査請求をします。その裁決に不服なら、厚生労働大臣に再審査請求ができます。取消訴訟を起こすなら、審査請求の裁決の後です。前置の一般論と、なぜ例外が許されるかは、別の回で扱います。ここでは、個別法が前置を定めている型を見るだけで十分です。第2章で、法定受託事務の審査請求先の話がありました。その話が、ここにつながります。法定受託事務の処分の審査請求先は、所管の大臣や知事で、地方自治法の255条の2です。生活保護の保護の決定と実施は法定受託事務なので、市長自身の処分なら、この255条の2で、審査請求先は知事です。ところが、福祉事務所長に委任すると、処分をするのは市長の下の行政庁になり、4条の原則どおりなら、さきほどのとおり市長に出すことになります。そこを生活保護法64条が、委任した場合も、最初から知事に審査請求をする形に、特に定めているのです。
裁定的関与——名前と問題の所在
図:裁定的関与
- 市など地方公共団体の機関が下した処分をめぐる不服申立てで、国等が裁決という形で判断に入ってくること
- 例=市の福祉事務所長の処分→都道府県知事の裁決→厚生労働大臣の再審査請求の裁決
- 法定受託事務の審査請求先〔地方自治法255条の2〕も同じ仕組み
- 問題の所在=地方公共団体が自分の事務として下した判断を国等が裁決で覆せる→地方分権の観点から見直しが議論されている
最後に、名前を1つ。裁定的関与です。市など地方公共団体の機関が下した処分をめぐる不服申立てで、国などが、裁決という形で判断に入ってくることをいいます。例は、いま見た生活保護です。市の福祉事務所長の処分を、都道府県知事が裁決し、さらに厚生労働大臣が再審査請求を裁決します。法定受託事務の審査請求先を定める255条の2も、同じ仕組みです。問題は、地方公共団体が、自分の事務として下した判断を、国などが裁決で覆せることです。地方分権の観点から、見直しが議論されています。ここまで言えれば、足ります。補足を1文。第2章で見た「関与」の定義、地方自治法245条の、第3号の括弧書きには、審査請求その他の不服申立てに対する裁決が除かれています。裁決による国などの関わりは、「関与」として扱われる枠の外側にある、ということです。そのため、第2章で見た、国地方係争処理委員会への審査の申出の対象にもなりません。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図
- 沿革=訴願法→旧行審法→2014年の全部改正
- 1条=違法又は不当・簡易迅速かつ公正・2つの目的・一般法
- 3種類=審査請求が原則・再調査の請求と再審査請求は個別法に定めがあるときだけ
- 手続保障=審理員は再調査だけ無し・諮問は審査請求だけ
- 個別法の読み方=誰に・再調査や再審査は・その次は
- 今いる場所=第10章の2本目
最初の問いに戻ります。Bは誰に、どんな手続で不服を申し立てるのか。Bがするのは審査請求です。審査庁は、設例では知事A自身です。営業停止の事務が自治事務で、上級行政庁が無いからで、4条1号です。再調査の請求も再審査請求も、個別法に定めが無いので、使えません。持ち帰るのは、5点です。1つ目、沿革。訴願法の列記と自己統制、旧行審法の一般概括主義と簡易迅速、2014年の全部改正の公正性と利便性の向上。行手法も同時に改正されました。2つ目、1条。対象は違法又は不当な処分等、簡易迅速かつ公正、2つの目的、そして一般法です。特別の定めを確かめます。3つ目、3種類。審査請求が原則で、再調査の請求と再審査請求は、個別法に定めがあるときだけ。不作為は審査請求だけです。4つ目、手続保障。審理員は再調査だけ無し、諮問は審査請求だけ。異議申立ての廃止で、審査請求の意味が変わりました。5つ目、個別法の読み方。誰に、再調査や再審査は、その次は、です。今いる場所は、第10章の2本目、行審法の全体像です。
参照条文
- 行政不服審査法1条
- 行政不服審査法2条
- 行政不服審査法3条
- 行政不服審査法4条
- 行政不服審査法5条
- 国税通則法75条1項
- 行政不服審査法6条1項
- 生活保護法64条
- 生活保護法66条1項
- 生活保護法69条