行政法ゼロから行政法#23

指揮監督と権限の委任・代理

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第2章 行政組織法 ㉓/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

3通の許可通知書

3通の許可通知書の名義欄(A=市長/B=課長〔補助機関〕/C=副市長/D=支所長/E=申請者/1通目 A→E=許可〔B が決裁〕/2通目 C→E=許可〔A の職務を代理〕/3通目 D→E=許可〔点線 A→D=権限を任せている〕/問い=権限が動いたのはどれか) 図:3通の許可通知書の名義欄

  • A=市長
  • B=課長〔補助機関〕
  • C=副市長
  • D=支所長
  • E=申請者
  • 1通目 A→E=許可〔B が決裁〕
  • 2通目 C→E=許可〔A の職務を代理〕
  • 3通目 D→E=許可〔点線 A→D=権限を任せている〕
  • 問い=権限が動いたのはどれか

A市に、3人の人が、同じ種類の許可を申請しました。どれも、市長の権限に属する許可です。数日後、3人のもとに、許可の通知書が届きました。中身は同じ許可です。ところが、差出人の欄が、3通とも違います。1通目の差出人は、「A市長」です。ただ、実際に決めたのは担当課長で、市長は、書類を見てもいません。2通目は、「A市長職務代理者 副市長」です。市長が、長期入院中だからです。3通目は、「A市 支所長」です。市長が、条例で設けた支所の長に、この許可の権限を任せています。3通とも有効です。問題は、名義欄の下に隠れている、権限の所在です。今日の1問は、これです。3通のうち、権限が市長から動いたのはどれか。権限を使った人が違うなら、争うときの被告も、3通とも別になるのか。そして、名義が違うと、法律の根拠が要るものと、要らないものが出るのか。前の回の最後に、委任、代理、専決を次に見ると言いました。そのうち1通目の仕組み、専決は、次の動画の主役です。今日は、その手前の、2通目と3通目、つまり代理と委任から片づけて、答えを出します。先に、答えの形だけ言います。見るのは、名義欄ではなく、権限が、もとの市長から動いたかどうかです。そして、名義欄が違っても、被告は変わりません。

今日の3つの問い(①上下の関係=上級機関は下級機関に何ができるか/②横の関係=対等な機関はどう協力するか/③権限を代わりに使う仕組み〔代理と委任〕=名義・権限の移動・法律の根拠で見分ける/専決と、機関に座る人の側の法は次の動画) 図:今日の3つの問い

  • ①上下の関係=上級機関は下級機関に何ができるか
  • ②横の関係=対等な機関はどう協力するか
  • ③権限を代わりに使う仕組み〔代理と委任〕=名義・権限の移動・法律の根拠で見分ける/専決と、機関に座る人の側の法は次の動画

順番は、板のとおりです。1つ目は、上下の関係。上の機関は、下の機関に何ができるのか。次に2つ目は、横の関係。対等な機関は、どう協力するのか。3つ目が、権限を代わりに使う仕組みのうち、代理と委任です。ここが山場です。専決と、機関に座る人の側の法、つまり公務員法は、次の動画で見ます。

上下の関係

上下の関係(階層制=同じ行政主体の中の機関は上級・下級のピラミッド/上級機関は下級機関に指揮監督権をもつ〔上命下服〕/範囲の注意=国と地方公共団体は別の主体で上下ではない・独立して職権を行使する行政委員会は指揮監督を受けない) 図:上下の関係

  • 階層制=同じ行政主体の中の機関は上級・下級のピラミッド
  • 上級機関は下級機関に指揮監督権をもつ〔上命下服〕
  • 範囲の注意=国と地方公共団体は別の主体で上下ではない・独立して職権を行使する行政委員会は指揮監督を受けない

本編に入る前に、1問です。前の回で、条文が主語に置いて、処分を自分の名で行う機関を、何と呼びましたか?行政庁です。今日は、その行政庁を含めた機関どうしが、どんな関係にあるのかを見ます。最初は、上下の関係です。同じ行政主体の中の機関は、原則として、上級と下級のピラミッドをつくります。これを、階層制といいます。市長の下に支所長がいて、大臣の下に局長がいる形です。そして、上級の機関は、下級の機関に対して、指揮監督権をもちます。上の命令に下が従う関係なので、上命下服ともいいます。範囲を、2つ区切っておきます。1つ目。国と地方公共団体は、別々の行政主体です。国が上で、市が下、という関係ではありません。国と地方の関与の仕組みは、地方の回で見ます。2つ目。公安委員会のように、複数の委員の合議で決め、独立して職権を行使する行政委員会は、上級の機関の指揮監督を受けません。この点は、後で、所轄という言葉と一緒に見ます。

指揮監督権の5つ(①監視権=事務処理の状況を調べる〔例:市長が支所に報告を求める〕/②同意・承認権=権限行使に上級の同意や承認を受けさせる〔例:支所長が運用細則を決める前に市長の承認を要する〕/③訓令権=訓令・通達の形で命令・指示する/④取消停止権=下級機関の行為を取り消し・停止する/⑤権限争議裁定権=下級機関どうしの権限の争いに決着をつける) 図:指揮監督権の5つ

  • ①監視権=事務処理の状況を調べる〔例:市長が支所に報告を求める〕
  • ②同意・承認権=権限行使に上級の同意や承認を受けさせる〔例:支所長が運用細則を決める前に市長の承認を要する〕
  • ③訓令権=訓令・通達の形で命令・指示する
  • ④取消停止権=下級機関の行為を取り消し・停止する
  • ⑤権限争議裁定権=下級機関どうしの権限の争いに決着をつける

指揮監督権は、1つの権限ではなく、5つの働きの束です。暗記してください。1つ目、監視権。下級機関の事務の処理状況を調べる権限です。市長が、支所に、処理状況の報告を求めるのが例です。2つ目、同意・承認権。下級機関が権限を使うときに、上級機関の同意や承認を受けさせる権限です。たとえば、支所長が運用の細則を決める前に、市長の承認を要する、と定める場合です。3つ目、訓令権。下級機関の権限の行使について、訓令や通達という、組織の内側に向けた文書の形で、命令や指示をする権限です。次に、4つ目、取消停止権。下級機関のした行為を、上級機関が取り消し、停止する権限です。5つ目、権限争議裁定権。下級機関どうしの権限の争いに、上級機関が決着をつける権限です。

動詞で覚えると楽です。調べる、同意を求める、命じる、取り消す、決着をつける。この、5つの動作です。明文の条文を、2つ見ます。取消停止権から、地方自治法の154条の2です。

条文地方自治法154条の2

地方自治法第154条の2 普通地方公共団体の長は、その管理に属する行政庁の処分が法令、条例又は規則に違反すると認めるときは、その処分を取り消し、又は停止することができる。

長は、自分の管理に属する行政庁の処分が、法令などに違反すると認めたとき、取り消したり、停止したりできる、です。市長が、福祉事務所長のように、管理に属する行政庁のした処分を取り消す場面が、これです。国の側にも、同じ型の条文があります。内閣法の8条です。

条文内閣法8条

内閣法第8条 内閣総理大臣は、行政各部の処分又は命令を中止せしめ、内閣の処置を待つことができる。

総理大臣は、行政各部の処分や命令を中止させて、内閣の判断を待つことができます。取消停止権の仲間です。次は、権限争議裁定権です。内閣法の7条を読みます。

条文内閣法7条

内閣法第7条 主任の大臣の間における権限についての疑義は、内閣総理大臣が、閣議にかけて、これを裁定する。

大臣どうしの権限の争いは、総理大臣が裁定します。ここで1問です。市長が、支所長のした許可を、法令に違反すると考えて取り消しました。5つのうち、どれでしょうか。取り消しているので、取消停止権です。では、2つの支所の間で、どちらの担当かをめぐる争いが起きて、市長が決着をつけました。なお、総理大臣の指揮監督権の本体は、国の行政組織の回で見ます。今日は、条文の位置を知っておけば足ります。

訓令・通達と告示(国家行政組織法14条=1項 告示〔公示を必要とするとき〕/2項 訓令・通達〔所管の諸機関・職員に命令・示達をする〕/告示=国民に知らせる形・訓令通達=組織の内側への命令の形/通達=上級機関が下級機関を名宛人にその職務権限の行使を指揮するもの・個々の職員に直接義務を課すものではない) 図:訓令・通達と告示

  • 国家行政組織法14条=1項 告示〔公示を必要とするとき〕
  • 2項 訓令・通達〔所管の諸機関・職員に命令・示達をする〕
  • 告示=国民に知らせる形・訓令通達=組織の内側への命令の形
  • 通達=上級機関が下級機関を名宛人にその職務権限の行使を指揮するもの・個々の職員に直接義務を課すものではない

3つ目の訓令権を支える条文を見ます。国家行政組織法の14条です。1項は告示、2項は訓令と通達です。1項は骨格だけ、2項を読みます。

条文国家行政組織法14条

国家行政組織法第14条 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、公示を必要とする場合においては、告示を発することができる。 2 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達をするため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる。

骨格は、大臣などは、所管の機関や職員に対して、命令や示達、つまり指示を伝えるために、訓令や通達を出せる、です。1項の告示は、国民に知らせる形です。これに対して、訓令や通達は、組織の内側に向けた、命令や指示の形です。宛先が、国民か、組織の内側か。ここが違います。最高裁は、通達について、こう位置づけました。通達は、上級の機関が、下級の機関を名宛人にして、その職務権限の行使を指揮するために出すものです。個々の職員を名宛人にして、それだけで具体的な義務を課すものではありません。信義則の回で、町が通達で給付を打ち切った話を見ました。あの通達も、組織の内側に向けた指示でした。通達の法的性質と、国民への効力は、行政立法の回で扱います。次に、代行です。下級機関がするべき行為をしないとき、上級機関が、代わって執行することを、代行といいます。名前が似ていますが、前に見た行政代執行とは別物です。あれは、義務を果たさない私人に代わって、行政がやる仕組みでした。今日の代行は、行政の機関どうしの話です。命じることと、代わりにやることを、分けて考えてください。

命令できても、代わりにやってよいことにはなりません。会社で考えます。部長が課長に、「この件を処理しなさい」と命じるのは、指揮です。ところが、課長が動かないからと、部長が課長の机から判を出して、自分で押してしまう。これは、仕事の割り振りそのものを変えることです。そこで、代行は、特別の法律の根拠がある場合にだけ認められます。下級機関に割り振られた権限を、上級機関が直接使うのは、実質的に、権限配分の変更になるからです。どの機関に、どの権限を割り振るかは、組織規範、つまり法律が決めています。法律が決めた割り振りを変えるのだから、法律の根拠が要るのです。国と地方の場面の代執行は、地方の回で扱います。暗記します。命じることは、指揮監督権でできる。代わりにやることは、特別の法律の根拠が要る。ここが、あとの委任や代理にも響く考え方です。

統轄と所轄(統轄=上級機関が複数の下級機関を総合調整しつつ指揮監督する〔国組法3条3項・自治法147条〕/所轄=組織上、形式的に別の機関の下に属することを示す言葉・職権行使への指揮監督は含まない〔警察法38条1項〕・独立性を保つ趣旨) 図:統轄と所轄

  • 統轄=上級機関が複数の下級機関を総合調整しつつ指揮監督する〔国組法3条3項・自治法147条〕
  • 所轄=組織上、形式的に別の機関の下に属することを示す言葉・職権行使への指揮監督は含まない〔警察法38条1項〕・独立性を保つ趣旨

最後に、似た言葉を、ひと組、見分けます。統轄と、所轄です。まず、統轄。上級の機関が、複数の下級機関を、総合調整しながら指揮監督することです。たとえば、国家行政組織法の3条3項は、省が、内閣の統轄の下に置かれる、と定めています。地方自治法の147条を読みます。

条文地方自治法147条

地方自治法第147条 普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を統轄し、これを代表する。

長は、団体全体を統轄します。上から全体を束ねる、強い言葉です。これに対して、所轄は、違う言葉です。警察法の38条1項を読みます。

条文警察法38条1項

警察法第38条第1項 都道府県知事の所轄の下に、都道府県公安委員会を置く。

公安委員会は、知事の所轄の下に置かれます。前の回で見た、合議制の行政庁です。所轄は、組織の上で、形式的にどこかの下に属することを示す言葉です。具体的な職権の行使について、知事が指揮監督することは、含みません。むしろ、公安委員会の独立性を保つために使われる言葉です。知事は、公安委員会の個々の判断にまでは指揮監督が及ばない、と説明されます。統轄は、上から総合調整して指揮監督する。所轄は、形式上の所属で、職権行使への指揮監督は含まない。この違いを覚えてください。なお、所轄という言葉がなくても、独立性が否定されるわけではありません。行政委員会の本体は、国の組織の回で見ます。

横の関係

横の関係の5つの型(共管=複数の機関が共同で1つの意思決定をする/協議=権限を使う際に他の機関と協議する/同意=権限を使う際に他の機関の同意が要る/共助=対等で独立した機関どうしの援助・協力/勧告・要請=他の機関が権限をもつ機関に勧告・要請する) 図:横の関係の5つの型

  • 共管=複数の機関が共同で1つの意思決定をする
  • 協議=権限を使う際に他の機関と協議する
  • 同意=権限を使う際に他の機関の同意が要る
  • 共助=対等で独立した機関どうしの援助・協力
  • 勧告・要請=他の機関が権限をもつ機関に勧告・要請する

次は、横の関係です。上下ではなく、対等な機関どうしの調整と協力です。型は5つあります。見分けの軸は、相手の機関が、こちらの決定に、どこまで関わるかです。共管は、複数の機関が、共同で1つの意思決定をすること。たとえば、法律が2人の大臣に共同で担わせた事務について、2人が連名で1つの省令を出す場合です。協議は、権限を使う前に、ほかの機関と話し合うこと。たとえば、大臣が基準を決める前に、別の省の大臣と協議する、と法律が定める場合です。同意は、決めるのは自分ですが、ほかの機関の同意がなければ、権限を使えないこと。共助は、決定には加わらず、対等で独立した機関どうしが手を貸し合うこと。たとえば、市長の求めに応じて、市の教育委員会が、災害のときに学校の体育館を避難所に使えるよう協力する場合です。勧告と要請は、ほかの機関が意見を言うだけで、決めるのは、権限をもつ機関です。実例を2つ、条文で確かめます。同意から。建築基準法の93条1項です。ただし書は、骨格では読みません。

条文建築基準法93条1項

建築基準法第93条第1項 特定行政庁、建築主事等又は指定確認検査機関は、この法律の規定による許可又は確認をする場合においては、当該許可又は確認に係る建築物の工事施工地又は所在地を管轄する消防長(消防本部を置かない市町村にあつては、市町村長。以下同じ。)又は消防署長の同意を得なければ、当該許可又は確認をすることができない。ただし、確認に係る建築物が防火地域及び準防火地域以外の区域内における住宅(長屋、共同住宅その他政令で定める住宅を除く。)である場合又は建築主事等若しくは指定確認検査機関が第八十七条の四において準用する第六条第一項若しくは第六条の二第一項の規定による確認をする場合においては、この限りでない。

骨格は、特定行政庁などは、許可や確認をするとき、消防長か消防署長の同意を得なければできない、です。消防長は、確認をする建築主事の上級機関でも部下でもありません。建築とは別の、消防の系統の機関です。だから、これは横の同意です。場面にします。A市で、ある人が、店を建てようと、建築確認を申請しました。市の建築主事は、消防署長の同意をもらうまで、確認を出せません。同意は、2つの場面で出ます。下級機関が、上級機関の同意を要する。これは縦です。上下の関係にない別の機関の同意を要する。これは横です。見分けは、相手が上級かどうか、だけです。次に、勧告です。地方自治法の180条の4第1項を、骨格で読みます。

条文地方自治法180条の4第1項

地方自治法第180条の4第1項 普通地方公共団体の長は、各執行機関を通じて組織及び運営の合理化を図り、その相互の間に権衡を保持するため、必要があると認めるときは、当該普通地方公共団体の委員会若しくは委員の事務局又は委員会若しくは委員の管理に属する事務を掌る機関(以下本条中「事務局等」という。)の組織、事務局等に属する職員の定数又はこれらの職員の身分取扱について、委員会又は委員に必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。

骨格は、長は、必要があると認めるときは、委員会や委員に、必要な措置を講ずべきことを勧告できる、です。長と委員会は対等なので、命令ではなく、勧告です。

権限を代わりに使う代理と委任

権限を代わりに使う3つの仕組み(代理・委任・専決/見分ける3つの軸=名義は誰か・権限は動くか・法律の根拠は要るか/今回は代理と委任・専決は次の動画) 図:権限を代わりに使う3つの仕組み

  • 代理・委任・専決
  • 見分ける3つの軸=名義は誰か・権限は動くか・法律の根拠は要るか
  • 今回は代理と委任・専決は次の動画

ここから、今日の山場です。行政庁の権限を、別の機関が代わって使う。この仕組みが、3つあります。代理と、委任と、専決です。なぜ、こんな仕組みが要るのか。行政庁が、膨大な事務を、全部自分で判断することは、現実にはできないからです。3つを見分ける軸も、先に出しておきます。名義は誰か。権限は動くのか。法律の根拠は要るのか。この3つです。今日は、代理と委任を見ます。専決は、次の動画です。

代理(本人の名に代理である旨を添えて行う・行為は本人の行為として効力が生じる〔顕名〕・権限は動かない/法定代理=狭義の法定代理〔要件が生じれば当然〕・指定代理〔指定によって決まる〕/授権代理=授権を受けて代理する・法律の根拠は不要〔通説〕) 図:代理

  • 本人の名に代理である旨を添えて行う・行為は本人の行為として効力が生じる〔顕名〕・権限は動かない
  • 法定代理=狭義の法定代理〔要件が生じれば当然〕・指定代理〔指定によって決まる〕
  • 授権代理=授権を受けて代理する・法律の根拠は不要〔通説〕

まず、代理です。別の機関が代理機関となって、もとの機関の名で、権限を使います。行為は、もとの機関の行為として効力が生じます。本人の名に、代理であることを添えて出すことを、顕名といいます。そして、権限そのものは動きません。持ち主は、あくまで本人です。これを、権限の代理と呼びます。代理には、2つの種類があります。1つ目は、法定代理です。法律の定める要件が生じたときの代理です。さらに2つに分かれます。要件が生じれば、法律上当然に代理関係が生じるものが、狭義の法定代理です。要件が生じたとき、もとの機関の指定によって、代理する者が決まるものが、指定代理です。地方自治法の152条が、両方の例です。

条文地方自治法152条1項・2項

地方自治法第152条(第1項・第2項) 普通地方公共団体の長に事故があるとき、又は長が欠けたときは、副知事又は副市町村長がその職務を代理する。この場合において副知事又は副市町村長が二人以上あるときは、あらかじめ当該普通地方公共団体の長が定めた順序、又はその定めがないときは席次の上下により、席次の上下が明らかでないときは年齢の多少により、年齢が同じであるときはくじにより定めた順序で、その職務を代理する。 2 副知事若しくは副市町村長にも事故があるとき若しくは副知事若しくは副市町村長も欠けたとき又は副知事若しくは副市町村長を置かない普通地方公共団体において当該普通地方公共団体の長に事故があるとき若しくは当該普通地方公共団体の長が欠けたときは、その補助機関である職員のうちから当該普通地方公共団体の長の指定する職員がその職務を代理する。

骨格を読みます。1項は、長に事故があるとき、または長が欠けたときは、副市長が職務を代理する、です。副市長が当然に代理するので、狭義の法定代理です。2項は、副市長にも事故があるときなどは、長の指定する職員が代理する、です。長の指定で決まるので、指定代理です。冒頭の2通目は、1項の代理です。市長が入院中で、副市長が、市長の職務を代理した。だから、名義が、市長職務代理者、なのです。2つ目は、授権代理です。本来の権限をもつ機関が、授権をして、他の機関に代理させるものです。地方自治法の153条の1項を読みます。

条文地方自治法153条1項

地方自治法第153条第1項 普通地方公共団体の長は、その権限に属する事務の一部をその補助機関である職員に委任し、又はこれに臨時に代理させることができる。

長は、権限に属する事務の一部を、補助機関の職員に、臨時に代理させることができます。この授権代理には、法律の根拠は不要と解されています。理由は、権限が動かないからです。権限はそのまま長にあって、長の指揮監督も残ります。法律が決めた割り振りは変わらないので、根拠までは要りません。条文には、委任とも書かれています。1項には、補助機関の職員への委任と、臨時の代理が、並んで書かれています。見分けは、条文の言葉ではなく、権限が動くかどうかです。次の委任で、その差を見ます。

委任(権限の一部が受任庁に移る・委任庁は権限を失い受任庁が自己の名と責任で使う・法律の根拠が必要/「委任」の3つの意味=民法の委任・法律から命令への委任・権限の委任/読む手順=法律が委任できると置く→政令・省令で範囲が決まる→受任庁が行政庁) 図:委任

  • 権限の一部が受任庁に移る・委任庁は権限を失い受任庁が自己の名と責任で使う・法律の根拠が必要
  • 「委任」の3つの意味=民法の委任・法律から命令への委任・権限の委任
  • 読む手順=法律が委任できると置く→政令・省令で範囲が決まる→受任庁が行政庁

次は、委任です。委任とは、ある機関の権限の一部を、別の機関に任せて、使わせる仕組みです。ただし、代理と決定的に違うのは、権限そのものが、受任機関に移ることです。任せた側の委任庁は、その権限を失います。任された側の受任庁が、自分の名と責任で、権限を使います。会社で言えば、さっきの部長が課長に、『この種の契約は、君の名前で結んでよい』と、判の持ち主ごと渡すのが、委任です。ここで、言葉を切り分けます。委任という言葉には、3つの意味があります。1つ目は、民法の委任。人に仕事を頼む契約で、頼んだ側は、自分の権利を失いません。2つ目は、前に見た、法律が政令や省令に定めを任せる委任です。今日の委任は、3つ目の、権限の委任です。権限そのものが移るので、委任した側は、その権限を失います。名義も、委任した側ではなく、受任庁の名が出ます。法律の根拠は、必要です。法律が与えた権限が、別の機関に移るので、移すこと自体に、法律の根拠が要るのです。冒頭の3通目は、この型です。地方自治法の153条1項を、もう一度、前半だけ読みます。

条文地方自治法153条1項

地方自治法第153条第1項 普通地方公共団体の長は、その権限に属する事務の一部をその補助機関である職員に委任し、又はこれに臨時に代理させることができる。

長は、権限に属する事務の一部を、補助機関である職員に委任できます。条例で設けた支所の長は、市長の補助機関である職員です。市長が、条例で設けた支所の長に、許可の権限を委任した。これで、3通目の許可は、受任庁である支所長の名で出ます。委任したことを理由にしては、出せません。権限の行使の責任は、受任庁が負うからです。ただし、市長は、支所長の上級機関でもあります。上級機関としての指揮監督権は、別に残ります。先ほど見た5つの働きは、今も市長にあります。委任は、一部に限られます。条文も、事務の一部、と書いています。また、委任を受けた庁が、さらに別の機関に委任する、多段階の仕組みもあります。たとえば、法務大臣から出入国在留管理庁の長官へ、さらに地方の出入国在留管理局長へ、という流れです。ここで、条文の読み方を1つ。法律の主語の大臣を、そのまま処分庁だと考えてはいけません。法律が、委任できる、と定める。政令や省令などで、実際に委任された範囲が決まる。その範囲の処分は、受任庁が行政庁になる。この順で読みます。前の回の、条文の主語を見る読み方の、一歩先です。根拠のない委任は、どうなるか。有名な判決があります。近鉄特急料金の事件です。

近鉄特急料金認可処分取消事件(私鉄の特急料金改定の認可を大阪陸運局長がした/陸運局長に権限を移す根拠だった戦時の特別法〔措置法・措置令〕は認可当時すでに失効/根拠法令なし=無権限=違法/ただし取消しで混乱が生じるため事情判決〔行訴法31条1項〕) 図:近鉄特急料金認可処分取消事件

  • 私鉄の特急料金改定の認可を大阪陸運局長がした
  • 陸運局長に権限を移す根拠だった戦時の特別法〔措置法・措置令〕は認可当時すでに失効
  • 根拠法令なし=無権限=違法
  • ただし取消しで混乱が生じるため事情判決〔行訴法31条1項〕

私鉄の特急料金を値上げする認可を、大阪陸運局長がしました。陸運局長に認可の権限を移す根拠は、戦時の特別法でした。ところが、その法律は、認可のときには、すでに効力を失っていた。そこで、認可の取消しが求められました。判決は、こう述べます。

判例大阪地判昭57・2・19

近鉄特急料金認可処分取消事件(根拠を欠く委任) 以上のいずれの理由によつても、措置法は、本件認可処分当時、その効力がなかつたから、措置法を受けて制定された措置令も、その効力を肯定することができないことに帰着する。したがつて、被告陸運局長が本件認可処分をする権限を根拠づける法令上の根拠はないのであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件認可処分は違法といわざるをえない。

続けて、こうも述べています。

判例大阪地判昭57・2・19

近鉄特急料金認可処分取消事件(事情判決) 本件認可処分は、それをした被告陸運局長が無権限である点で違法である。しかし、本件認可処分を、このことを理由に取り消すことにすると、利用者が一日約一〇万人にものぼる近鉄特急の運行に多大の混乱を惹起するばかりか、特急料金を徴収している他の私鉄(名鉄、小田急、西武、東武、南海など)にも影響を及ぼしかねない。

決め手を整理します。権限を移す委任には、法律の根拠が要ります。根拠がなければ、受け取った側は、権限を持っていません。その人がした処分は、無権限で、違法です。ただし、この事件では、取り消すと混乱が大きいので、行政事件訴訟法の31条1項の、事情判決になりました。事情判決とは、処分は違法だと宣言しつつ、取消しの請求は退ける判決です。違法でも、取り消されるとは限りません。次に、争う相手です。行政主体の回で、取消訴訟の被告は、処分をした行政庁の所属する主体だと見ました。確認の1問です。以前、処分をした行政庁が、国にも公共団体にも所属しないとき、被告は誰でしたか?

行政庁自身でした。では、条文を全文で読みます。11条の1項です。

条文行政事件訴訟法11条1項

行政事件訴訟法第11条第1項 処分又は裁決をした行政庁(処分又は裁決があつた後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁。以下同じ。)が国又は公共団体に所属する場合には、取消訴訟は、次の各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める者を被告として提起しなければならない。  一 処分の取消しの訴え 当該処分をした行政庁の所属する国又は公共団体  二 裁決の取消しの訴え 当該裁決をした行政庁の所属する国又は公共団体

全文を読みました。処分の取消しの訴えの被告は、処分をした行政庁の所属する国または公共団体です。所属しないなら行政庁自身が被告、というのが、いま答えてもらった2項でした。最後に、4項です。

条文行政事件訴訟法11条4項

行政事件訴訟法第11条第4項 第一項又は前項の規定により国又は公共団体を被告として取消訴訟を提起する場合には、訴状には、民事訴訟の例により記載すべき事項のほか、次の各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める行政庁を記載するものとする。  一 処分の取消しの訴え 当該処分をした行政庁  二 裁決の取消しの訴え 当該裁決をした行政庁

国や公共団体を被告にするときは、訴状に、処分をした行政庁を書きます。これで、委任の場面が整理できます。委任があると、処分をした行政庁は、受任庁になります。ところが、被告は、その受任庁の所属する主体です。市長がしても、支所長がしても、所属するのはA市です。委任の前も後も、被告は変わりません。変わるのは、訴状に書く処分庁です。支所長に委任したなら、訴状には、支所長と書きます。国にも公共団体にも所属しない私人が受任者なら、その私人が行政庁として扱われ、2項により、その人自身が被告です。以前に見た、指定確認検査機関と同じ型です。注意点が1つあります。被告が主体になるからといって、行政庁を特定しなくてよいわけではありません。まず、委任の規定を探して、処分庁を特定する。それから、その所属主体を見る。この手順です。被告適格の詳しい話は、別の回で扱います。ここで1問です。長が、補助職員に、臨時に代理させました。これは、代理でしょうか、委任でしょうか。法律の根拠は要りますか。

臨時に代理させるので、授権代理です。権限は動かないので、根拠は要りません。では、条例で設けた支所の長に、権限を任せました。

代理と委任の比較(名義=代理はもとの行政庁の名+代理である旨〔顕名〕・委任は受任庁の名/権限は動くか=代理は動かない・委任は動き委任庁は失う/法律の根拠=法定代理は法律そのもの・授権代理は不要〔通説〕・委任は必要/市長の指揮監督=授権代理は残る・委任は上級機関としてなら残る/被告=どちらも所属主体のA市) 図:代理と委任の比較

  • 名義=代理はもとの行政庁の名+代理である旨〔顕名〕・委任は受任庁の名
  • 権限は動くか=代理は動かない・委任は動き委任庁は失う
  • 法律の根拠=法定代理は法律そのもの・授権代理は不要〔通説〕・委任は必要
  • 市長の指揮監督=授権代理は残る・委任は上級機関としてなら残る
  • 被告=どちらも所属主体のA市

名義と、権限の移動と、根拠。3つの軸で答えられました。

前編のまとめ

3通の名義欄の中間整理(2通目=法定代理〔自治法152条1項〕:名義は市長職務代理者・権限は動かない・根拠は法律そのもの/3通目=委任〔自治法153条1項〕:名義は支所長・権限は動く・根拠が要る・訴状の処分庁は支所長/被告は2通ともA市〔行訴法11条1項〕/1通目=次の動画) 図:3通の名義欄の中間整理

  • 2通目=法定代理〔自治法152条1項〕:名義は市長職務代理者・権限は動かない・根拠は法律そのもの
  • 3通目=委任〔自治法153条1項〕:名義は支所長・権限は動く・根拠が要る・訴状の処分庁は支所長
  • 被告は2通ともA市〔行訴法11条1項〕
  • 1通目=次の動画

冒頭の3通のうち、2通を片づけます。2通目は、法定代理でした。名義は、市長職務代理者の副市長。権限は動かず、根拠は、法律そのものです。地方自治法の152条1項が、副市長の代理を定めています。3通目は、委任でした。名義は支所長。権限が動いたのは、この3通目です。法律の根拠が要り、153条1項の前半があります。訴状に書く処分庁は、支所長です。そして、被告は、2通とも、A市です。名義欄が違っても、行政事件訴訟法11条1項のとおり、被告は、処分をした行政庁の所属する主体です。残る1通目、市長が見ていないのに、市長の名前で出る許可は、権限が動くのか。法律の根拠は要るのか。それが、次の動画の主役、専決です。

前編のまとめ(①指揮監督権は5つ・命じることはできても代行には特別の法律の根拠が要る/②代理と委任は名義・権限の移動・法律の根拠で見分ける/③被告は処分庁の所属主体・変わるのは訴状に書く処分庁) 図:前編のまとめ

  • ①指揮監督権は5つ・命じることはできても代行には特別の法律の根拠が要る
  • ②代理と委任は名義・権限の移動・法律の根拠で見分ける
  • ③被告は処分庁の所属主体・変わるのは訴状に書く処分庁

持ち帰りは3つです。1つ目。指揮監督権は5つ、監視、同意承認、訓令、取消停止、権限争議裁定。命じることはできても、代行には、特別の法律の根拠が要る。2つ目。代理と委任は、名義と、権限の移動と、法律の根拠で見分ける。3つ目。被告は、処分をした行政庁の所属する主体で、変わるのは、訴状に書く処分庁です。次の動画は、専決と代決、そして、機関に座る人の側の法、公務員法です。

参照条文

  • 地方自治法154条の2
  • 内閣法8条
  • 内閣法7条
  • 国家行政組織法14条
  • 地方自治法147条
  • 警察法38条1項
  • 建築基準法93条1項
  • 地方自治法180条の4第1項
  • 地方自治法152条1項・2項
  • 地方自治法153条1項
  • 行政事件訴訟法11条1項
  • 行政事件訴訟法11条4項

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