行政法ゼロから行政法#24

専決・代決と公務員法の基礎

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第2章 行政組織法 ㉔/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

残る1通の許可

3通の名義欄(A=市長/B=課長〔補助機関〕/C=副市長/D=支所長/E=申請者/1通目 A→E=許可〔B が決裁・強調〕/2通目 C→E=許可〔前の動画で回収済み・薄く〕/3通目 D→E=許可〔前の動画で回収済み・薄く〕/問い=1通目は誰がした許可か) 図:3通の名義欄

  • A=市長
  • B=課長〔補助機関〕
  • C=副市長
  • D=支所長
  • E=申請者
  • 1通目 A→E=許可〔B が決裁・強調〕
  • 2通目 C→E=許可〔前の動画で回収済み・薄く〕
  • 3通目 D→E=許可〔前の動画で回収済み・薄く〕
  • 問い=1通目は誰がした許可か

前の動画の3通の許可通知書のうち、2通は片づきました。市長職務代理者の名で出た2通目と、支所長の名で出た3通目です。残るのは、1通目だけです。板の強調された1通を見てください。差出人の欄は、「A市長」です。ところが、実際に決めたのは担当課長で、市長は、書類を見てもいません。それでも通知書には市長の名前が載り、市長の許可として、外に出ました。名義は市長なのに、決めたのは課長という食い違いが、今日の入口です。問いは3つあります。この許可は、法的には誰がしたことになるのか。課長に、権限が移ったのか。そして、課長に任せるのに、法律の根拠は要るのか。答えの形だけ、先に言います。課長が決めても、権限は、市長から動いていません。だから、市長の許可で、法律の根拠も要りません。

今日の2つの問い(①専決とは何か・委任や代理とどこが違うか/②機関に座る人=公務員の法はどこから始まるか) 図:今日の2つの問い

  • ①専決とは何か・委任や代理とどこが違うか
  • ②機関に座る人=公務員の法はどこから始まるか

今日は、2つの問いで進めます。1つ目は、専決とは何か、委任や代理と、どこが違うのか。2つ目は、機関に座って働く人、つまり公務員の法は、どこから始まるのか。以前、職員の多くは補助機関で、自分の名で処分をする権限をもたない、と見ました。その補助機関が決裁をしても、行政庁の名で外に出る仕組み。これを、次の回で扱うと予告しました。それが、これから見る専決です。

専決と代決

専決・代決(専決=補助機関が決裁する・外へは行政庁の名で出る・権限は動かない・法的には行政庁の行為/代決=本来の決裁権者の不在時に指定された者が決裁・事後に報告/どちらも内部の規程で足りる) 図:専決・代決

  • 専決=補助機関が決裁する・外へは行政庁の名で出る・権限は動かない・法的には行政庁の行為
  • 代決=本来の決裁権者の不在時に指定された者が決裁・事後に報告
  • どちらも内部の規程で足りる

まず、なぜこんな仕組みが要るのか。市長が、許可を全部、自分で読んで判断するのは、現実にはできません。ここで、行政庁だけが処分をする、というたてまえと、現場の実態が離れます。そこで、補助機関が決裁をして、外へは行政庁の名で出す、という処理が生まれました。日常の例で言います。店長の名前で出す領収書があるとします。店長が、毎回、自分でハンコを押すわけではありません。経理の担当者が、決められた範囲の領収書に、店長印を押して出します。押す手は経理担当者です。でも、領収書の出し手は、あくまで店長の店です。これが、専決の感覚です。定義を読みます。専決とは、法律で権限を与えられた行政庁の権限を、補助機関が決裁することです。最終的な決裁は補助機関が行いますが、外へは行政庁の名で出て、法的には、本来の権限をもつ行政庁の行為になります。専決は内部委任、代決は内部代理と呼ぶこともあります。ただ、権限が移る本当の委任でも、代理であることを示す本当の代理でもありません。内部の割り振りなので、内部、とつくのです。

決めるのは補助機関でも、権限をもっているのは、行政庁のままだからです。補助機関は、行政庁の代わりに決裁印を押すだけで、権限を受け取ったのではありません。ここが、前の動画の委任との決定的な違いです。

架空の事務決裁規程(例)(第3条 許可の決裁は、別表に掲げる事項について、課長が専決する/第4条 専決権者が不在のときは、あらかじめ指定された者が代決し、事後に報告する/※架空の例) 図:架空の事務決裁規程

  • 例
  • (第3条 許可の決裁は、別表に掲げる事項について、課長が専決する/第4条 専決権者が不在のときは、あらかじめ指定された者が代決し、事後に報告する/※架空の例)

具体的に、A市の決裁規程で考えます。板は、私が作った架空の例です。第3条。許可の決裁は、別表の事項について、課長が専決する。これが専決です。決裁権者と、決裁する事項が、あらかじめ規程で定まっています。第4条は、代決です。専決権者が不在のときは、あらかじめ指定された者が代わって決裁し、事後に報告する。代決は、原則として、本来の決裁権者が不在のときに、直下の近い者が決裁するものです。具体的な事項は、特定されません。冒頭の1通目は、この第3条の型です。許可は、別表の事項で、課長が専決し、市長名で出しました。だから、外から見れば、市長の許可なのです。

理屈の上では、専決は恒常的な処理、代決は不在のときの処理、と分けます。ただ、実務では、不在でなくても、軽微な事案で代決が広く行われています。そのため、違いは相対的で、まとめて、専決・代決と呼ぶのが普通です。試験では、専決・代決の定義を押さえれば足ります。

専決は権限が動かない(専決=補助機関が決裁し外へは行政庁の名/権限は行政庁のまま・法律の根拠は不要・訓令などの内部規程で足りる/権限の配分を法律で決める考え方を貫けば疑問もありうるが、権限が動かない以上、根拠は不要と考えられている) 図:専決は権限が動かない

  • 専決=補助機関が決裁し外へは行政庁の名
  • 権限は行政庁のまま・法律の根拠は不要・訓令などの内部規程で足りる
  • 権限の配分を法律で決める考え方を貫けば疑問もありうるが、権限が動かない以上、根拠は不要と考えられている

次に、法律の根拠です。専決には、法律の根拠は要りません。理由は、権限が動かないからです。権限の配分は、法律が決めています。専決は、その配分を変えず、ハンコを押す手を、内部で割り振っただけです。だから、訓令などの内部の規程で、足ります。権限の配分を法律で決めるという考え方を貫くなら、法律なしの専決は問題になりえます。けれども、権限が動かない以上、法律の根拠までは要らないと考えられています。結論の暗記ではなく、権限が動くか動かないか、そこから導いてください。動かないなら、根拠は要らない。前の動画の、授権代理と同じ筋です。争うときは、どうなるか。専決は、委任のように、処分をする行政庁が変わるわけではありません。ですから、行政救済法の面では、原則として影響がありません。1通目の許可の取消訴訟は、被告がA市で、訴状に書く処分庁は、市長です。被告は、処分をした行政庁の所属する主体、という前の動画の、行政事件訴訟法11条のとおりです。

代決と法定代理の区別が、つまずきどころです。法定代理は、法律が代理人を決めて、代理人であることを示して行います。顕名です。2通目の名義は、市長職務代理者でした。代決は、内部の決裁規程によるもので、外へは、行政庁の名で出ます。臨時に任される授権代理も、代理であることを示すので同じです。名義欄を見れば、区別できます。なお、専決が、例外的に結論に響く場面があります。職員個人の責任が追及される場面です。これは、あとの場面で見ます。

委任・授権代理・専決の見分け

3段の見分け(①名義は誰か→②権限は動いたか→③法律の根拠は要るか/受け取った側の名=委任・もとの行政庁の名=代理か専決〔代理=本人の名+代理である旨(顕名)/専決=行政庁の名だけ〕) 図:3段の見分け

  • ①名義は誰か→②権限は動いたか→③法律の根拠は要るか
  • 受け取った側の名=委任・もとの行政庁の名=代理か専決〔代理=本人の名+代理である旨(顕名)/専決=行政庁の名だけ〕

見分けに入る前に、1問です。前の動画で、委任と授権代理は、どこが違うと言いましたか?委任は権限が移って、法律の根拠が要ります。授権代理は権限が動かないので、根拠が要りません。それを、専決にも広げます。見分け方は、前の動画で先に出した3つの軸を、この順に当てる3段です。1段目、名義は誰か。受け取った側の名なら、委任です。もとの行政庁の名なら、代理か専決です。代理は、本人の名に、代理であることを添えて出します。顕名です。専決は、行政庁の名だけで出ます。2段目、権限は動いたか。委任は動きます。授権代理と専決は動きません。3段目、法律の根拠は要るか。委任は要ります。授権代理と専決は要りません。

委任・授権代理・専決の比較(名義/権限は動くか/法律の根拠/取消訴訟の被告/訴状に書く処分庁/委任=受任庁〔支所長〕・動く・要る・受任庁の所属主体〔A市〕・支所長/授権代理=本人〔市長〕+代理である旨(顕名)・動かない・不要・A市・市長/専決=行政庁〔市長〕の名だけ・動かない・不要・A市・市長/法定代理は名義が本人+代理である旨・権限は動かない・根拠は法律そのもの) 図:委任・授権代理・専決の比較

  • 名義
  • 権限は動くか
  • 法律の根拠
  • 取消訴訟の被告
  • 訴状に書く処分庁
  • 委任=受任庁〔支所長〕・動く・要る・受任庁の所属主体〔A市〕・支所長
  • 授権代理=本人〔市長〕+代理である旨(顕名)・動かない・不要・A市・市長
  • 専決=行政庁〔市長〕の名だけ・動かない・不要・A市・市長
  • 法定代理は名義が本人+代理である旨・権限は動かない・根拠は法律そのもの

比較表です。暗記の中心になります。名義、権限、根拠の3列は、いま見た3段のとおりです。右に2列を足しました。取消訴訟の被告と、訴状に書く処分庁です。法定代理は、授権代理と同じく、名義は本人の名に代理であることを添えた形で、権限は動きません。根拠は、法律そのものです。3つは、同じ軸でつながっています。権限が動くとは、法律が割り振った配分を変えることです。だから、根拠が要ります。動かないなら、持ち主の行政庁が、指揮監督のもとで使うだけです。だから、根拠は要りません。取消訴訟の被告は、委任でも、授権代理でも、専決でも、処分をした行政庁の所属する主体です。ここは、変わりません。変わるのは、訴状に書く処分庁です。委任なら支所長、授権代理と専決なら市長です。

委任と専決は何に基づくか(委任=権限が移る・規則などの法令に基づく・受任庁の名〔例=市の規則で支所長に許可の権限を任せる〕/専決=権限が動かない・訓令など内部の規程で足りる・行政庁の名〔例=市の決裁規程で課長に決裁させる〕) 図:委任と専決は何に基づくか

  • 委任=権限が移る・規則などの法令に基づく・受任庁の名〔例=市の規則で支所長に許可の権限を任せる〕
  • 専決=権限が動かない・訓令など内部の規程で足りる・行政庁の名〔例=市の決裁規程で課長に決裁させる〕

紛らわしい場面を1つ。委任と専決は、何に基づくかも違います。委任は、権限が移るので、規則などの法令に基づきます。専決は、権限が動かないので、決裁規程のような内部の訓令で足ります。市の規則で支所長に許可の権限を任せれば委任、市の決裁規程で課長に決裁させれば専決。名義も、委任は受け取った支所長の名、専決は市長の名です。前の動画の近鉄特急料金の事件のように、権限を移すのに法令の根拠がなければ、受け取った側の処分は無権限で違法になります。専決で根拠が要らないのは、権限が移らないからでした。

見分け練習の5問(①県知事が政令に基づき地方事務所長に許可の権限を任せ所長名で許可/②市長が補助職員に臨時に許可を代理させ「市長代理人」の名義で出した/③決裁規程で毎回課長が決裁し通知は市長名/④局長の不在時に指名された次長が決裁し局長名で通知/⑤市の事務決裁規程〔訓令〕で課長に許可を専決させている場合、権限の配分は動くか) 図:見分け練習の5問

  • ①県知事が政令に基づき地方事務所長に許可の権限を任せ所長名で許可
  • ②市長が補助職員に臨時に許可を代理させ「市長代理人」の名義で出した
  • ③決裁規程で毎回課長が決裁し通知は市長名
  • ④局長の不在時に指名された次長が決裁し局長名で通知
  • ⑤市の事務決裁規程〔訓令〕で課長に許可を専決させている場合、権限の配分は動くか

練習です。名義、権限、根拠の、3つで答えてください。1問目。県知事が、法律の委任を受けた政令に基づいて、地方事務所長に許可の権限を任せ、事務所長の名で許可をした。2問目。市長が、補助職員に、臨時に許可を代理させました。通知は、「市長代理人」の名義です。3問目。決裁規程で、毎回課長が決裁することになっていて、通知は市長名で出ました。4問目。局長が休暇のあいだ、指名された次長が決裁して、局長名で通知しました。5問目。市の事務決裁規程、つまり訓令で、課長が許可を専決することになっています。法令ではない訓令で定めて、権限の配分は動きませんか?

動きません。専決は権限が動かないので、訓令で足ります。法律や規則の根拠は要りません。名義を見る。権限が動いたかを見る。根拠を見る。この3段で、全部答えられました。冒頭の1通目も、同じです。名義は市長、権限は動かず、根拠は不要です。

専決が効いてくる場面

水道事業の専決をめぐる最高裁判決の事案(大阪府の水道事業の管理者/訓令にあたる事務決裁規程で、一件100万円未満の支出は総務課長の専決/総務課長が、開かれない会議接待を仮装して約67万円を支出/住民が管理者個人の責任を問う住民訴訟/争点=専決させていた管理者は、課長の違法な支出で賠償責任を負うか) 図:水道事業の専決をめぐる最高裁判決の事案

  • 大阪府の水道事業の管理者
  • 訓令にあたる事務決裁規程で、一件100万円未満の支出は総務課長の専決
  • 総務課長が、開かれない会議接待を仮装して約67万円を支出
  • 住民が管理者個人の責任を問う住民訴訟
  • 争点=専決させていた管理者は、課長の違法な支出で賠償責任を負うか

専決が、実際に結論に響く場面を、1つ見ます。大阪府の水道事業の事件です。水道事業の管理者の権限に属する支出のうち、1件100万円未満のものは、訓令にあたる事務決裁規程で、総務課長の専決とされていました。ところが、総務課長が、実際には開かれていない会議の接待を仮装して、約67万円の公金を支出させました。そこで、住民が、管理者個人の責任を問う、住民訴訟を起こしました。住民訴訟の仕組み自体は、住民訴訟の回で見ます。今日は、専決との関係だけを見ます。争点は、こうです。専決させていた管理者は、課長の違法な支出について、賠償責任を負うのか。最高裁の答えは、2つに分かれます。1つ目は、管理者が、そもそも住民訴訟で賠償の責任を問われる側、判決の言葉でいう当該職員にあたるか。2つ目は、どんなときに、実際に賠償責任を負うか。読みます。

判例最判平3・12・20

水道事業の専決と管理者の責任(その1) …右財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている以上、右財務会計上の行為の適否が問題とされている当該代位請求住民訴訟において、法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当するものと解すべきである。そして、右専決を任された補助職員が管理者の権限に属する当該財務会計上の行為を専決により処理した場合は、管理者は、右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、普通地方公共団体に対し、右補助職員がした財務会計上の違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である。

骨格を読みます。専決させていても、管理者は、権限を法令上本来的に有している。だから、住民訴訟の当該職員にあたる。ただし、補助職員が専決で違法な行為をした場合、管理者が賠償責任を負うのは、阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意または過失で阻止しなかったときに限る、です。常に負わないわけではありません。阻止すべき義務に違反して、故意か過失があるなら、負います。ここで大事なのは、理由です。続けて読みます。

判例最判平3・12・20

水道事業の専決と管理者の責任(その2) けだし、管理者が右訓令等により法令上その権限に属する財務会計上の行為を特定の補助職員に専決させることとしている場合においては、当該財務会計上の行為を行う法令上の権限が右補助職員に委譲されるものではないが、内部的には、右権限は専ら右補助職員にゆだねられ、右補助職員が常時自らの判断において右行為を行うものとされるのであるから、右補助職員が、専決を任された財務会計上の行為につき違法な専決処理をし、これにより当該普通地方公共団体に損害を与えたときには、右損害は、自らの判断において右行為を行った右補助職員がこれを賠償すべきものであって、管理者は、前記のような右補助職員に対する指揮監督上の帰責事由が認められない限り、右補助職員が専決により行った財務会計上の違法行為につき、損害賠償責任を負うべきいわれはないものというべきだからである。

決め手を整理します。専決では、権限は課長に委譲されません。だから、管理者は、当該職員にあたります。しかし、内部では、実際の判断は課長にゆだねられ、課長が自分の判断でおこなっています。だから、管理者は、指揮監督上の落ち度がなければ、責任を負いません。ここで、最高裁自身が、専決は権限の委譲ではない、と書いています。ここまで見てきた、権限は動かない、という軸が、そのまま判決に出ています。誤読に注意してください。この裁判で訴えられたのは管理者で、課長ではありません。最高裁は、理由の中で、損害は自分の判断で支出した課長が賠償すべきもの、と述べていますが、それは管理者の責任を絞る理由づけで、課長に賠償を命じた判決ではありません。原審を破棄し、管理者に落ち度があったかを審理させるため差し戻しました。現在の条文の形や、職員の責任の議論は、住民訴訟の回で扱います。1問です。専決させていた管理者は、課長の違法な支出について、常に賠償責任を負うでしょうか。

常には負いません。阻止すべき指揮監督上の義務に違反して、故意か過失で阻止しなかったときに限ります。

公務員法の基礎

公務員の種類(国家公務員/地方公務員×一般職/特別職/公務員法は一般職に適用・特別職には原則として適用しない〔国公2条5項・地公4条2項〕/特別職の例=大臣・議員・地方の審議会の非常勤委員など) 図:公務員の種類

  • 国家公務員
  • 地方公務員×一般職
  • 特別職
  • 公務員法は一般職に適用・特別職には原則として適用しない〔国公2条5項・地公4条2項〕
  • 特別職の例=大臣・議員・地方の審議会の非常勤委員など

ここまでは、機関という地位の話でした。ここからは、機関に実際に座って働く人、公務員の法です。入口だけを、骨組みで見ます。公務員は、国家公務員と地方公務員に分かれます。さらに、それぞれ、一般職と特別職があります。特別職は、法律が1つずつ挙げた職で、一般職は、それ以外のすべての職です。公務員法が適用されるのは、一般職です。特別職には、原則として、適用されません。国家公務員法の2条5項を読みます。

条文国家公務員法2条5項

国家公務員法第2条第5項 この法律の規定は、この法律の改正法律により、別段の定がなされない限り、特別職に属する職には、これを適用しない。

骨格は、この法律は、特別職には適用しない、です。特別職の例は、大臣、議員、そして地方では審議会の非常勤の委員などです。地方の審議会の非常勤の委員は、ここに出てきます。なぜ外すのか。大臣は政治の判断で選ばれ、議員は選挙で選ばれます。審議会の委員は、ほかに本業をもったまま務めます。このあと見る、能力の実証で採る任用や、意に反して辞めさせない身分の保障は、こうした職には合いません。だから、公務員法は、一般職に向けて作られています。地方公務員法も、4条2項に同じ型の規定があります。

任用と欠格事由(任用=受験成績・人事評価その他の能力の実証に基づく〔国公33条1項・地公15条〕/欠格事由=拘禁刑以上の刑に処せられ執行を終わるまで等・懲戒免職から2年を経過しない者など〔国公38条・地公16条〕) 図:任用と欠格事由

  • 任用=受験成績・人事評価その他の能力の実証に基づく〔国公33条1項・地公15条〕
  • 欠格事由=拘禁刑以上の刑に処せられ執行を終わるまで等・懲戒免職から2年を経過しない者など〔国公38条・地公16条〕

次に、任用です。公務員の採用や昇任は、受験成績、人事評価、その他の能力の実証に基づいて行います。縁故や好き嫌いではなく、能力で決める。そのための原則です。そして、官職に就く能力をもたない人、つまり欠格事由が決まっています。国家公務員法の38条1項です。

条文国家公務員法38条1項

国家公務員法第38条第1項 次の各号のいずれかに該当する者は、人事院規則で定める場合を除くほか、官職に就く能力を有しない。  一 拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者  二 懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者  三 人事院の人事官又は事務総長の職にあつて、第百九条から第百十二条までに規定する罪を犯し、刑に処せられた者  四 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者

1号と2号だけ読みます。拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでの者。懲戒免職の処分を受けて、2年を経過しない者。この2つは、官職に就く能力がありません。3号と4号は、今日は読みません。2号は、あとで、懲戒免職と当然失職を分けるところで効いてきます。覚えておいてください。

服務の義務(全体の奉仕者として勤務・職務に専念〔国公96条1項・地公30条〕/法令に従い上司の職務上の命令に忠実に従う義務〔国公98条1項・地公32条〕/信用失墜行為の禁止〔国公99条〕/秘密を守る義務〔国公100条・地公34条〕/争議行為の禁止〔国公98条2項・地公37条〕) 図:服務の義務

  • 全体の奉仕者として勤務・職務に専念〔国公96条1項・地公30条〕
  • 法令に従い上司の職務上の命令に忠実に従う義務〔国公98条1項・地公32条〕
  • 信用失墜行為の禁止〔国公99条〕
  • 秘密を守る義務〔国公100条・地公34条〕
  • 争議行為の禁止〔国公98条2項・地公37条〕

採用された人には、勤務のしかたの義務があります。服務といいます。全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、職務に専念する。信用を傷つける行為をしない。職務上知った秘密を守る。争議行為をしない。この中で、答案に出てきやすいのが、法令と上司の職務上の命令に従う義務です。国家公務員法の98条1項と、地方公務員法の32条を読みます。

条文国家公務員法98条1項

国家公務員法第98条第1項 職員は、その職務を遂行するについて、法令に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。

条文地方公務員法32条

地方公務員法第32条 職員は、その職務を遂行するに当つて、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。

骨格は、法令に従い、上司の職務上の命令に忠実に従う、です。地方の側は、条例や規則、機関の定める規程まで並びます。守秘義務の中身は、別の回で見ます。ここで、前の動画の、訓令や通達と、職務命令を区別します。訓令や通達は、上級の機関が、下級の機関の権限行使を指揮する命令です。これに対して、職務命令は、上司が、個々の職員に、職務に関して出す命令です。服務の義務の面の話です。2つが重なる場面もあります。通達を受けた校長が、教職員に職務命令を出す場合です。通達や職務命令が処分にあたるかは、別の回で扱います。

おおまかには、宛先が組織か、個々の職員か、で分けてかまいません。

責任追及の3路線(懲戒=勤務秩序の維持のため個別の行為の責任を追及する制裁/分限=懲戒以外の身分の不利益な変動・責任追及の要素なし・制裁ではない/当然失職=処分を介さず当然に職を失う) 図:責任追及の3路線

  • 懲戒=勤務秩序の維持のため個別の行為の責任を追及する制裁
  • 分限=懲戒以外の身分の不利益な変動・責任追及の要素なし・制裁ではない
  • 当然失職=処分を介さず当然に職を失う

公務員が職を失ったり、不利益を受けたりする道は、3つに分かれます。ここが、今日の公務員法の山場です。1つ目、懲戒。勤務秩序を保つために、個別の行為の責任を追及する、制裁です。2つ目、分限。懲戒以外の、身分の不利益な変動です。責任追及の要素はありません。制裁ではありません。3つ目、当然失職。処分を介さず、当然に職を失います。覚え方を、スポーツで言います。懲戒は、反則を取られて退場する。分限は、けがで交代する。当然失職は、そもそも出場資格を失う。反則かどうか、が懲戒と分限の分かれ目です。懲戒の種類は、以前、地方公務員法29条1項で、戒告、減給、停職、免職の4つと見ました。国家公務員法も、同じ4つです。事由を、国家公務員法の82条1項で読みます。

条文国家公務員法82条1項

国家公務員法第82条第1項 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。  一 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合  二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合  三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

骨格は、法律に違反した場合、職務上の義務に違反したり職務を怠った場合、国民全体の奉仕者にふさわしくない非行があった場合に、懲戒処分ができる、です。地方公務員法の29条1項も、1号から3号まで同じ型です。どの処分を選ぶかの裁量は、以前、比例原則の回で入口を見ました。その続きは、別の回で扱います。次は、分限です。降任や免職になる事由を、国家公務員法の78条1項で読みます。

条文国家公務員法78条1項

国家公務員法第78条第1項 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、人事院規則の定めるところにより、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。  一 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合  二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合  三 その他その官職に必要な適格性を欠く場合  四 官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合

骨格は、勤務実績がよくない、心身の故障で職務に支障がある、適格性を欠く、廃職や過員が生じた。この場合に、本人の意に反して、降任か免職にできる、です。ここに、責任追及の色合いはありません。職務を続けられない事情や、組織の都合です。続けて、休職を、79条1項で読みます。

条文国家公務員法79条1項

国家公務員法第79条第1項 職員が、左の各号の一に該当する場合又は人事院規則で定めるその他の場合においては、その意に反して、これを休職することができる。  一 心身の故障のため、長期の休養を要する場合  二 刑事事件に関し起訴された場合

骨格は、心身の故障で長期の休養が必要なとき、刑事事件で起訴されたときに、本人の意に反して休職にできる、です。起訴されたからといって、職を失うわけではありません。休職です。ただし、懲戒も分限も、法定の事由がなければできません。身分保障の規定を、75条1項で読みます。

条文国家公務員法75条1項

国家公務員法第75条第1項 職員は、法律又は人事院規則で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、休職され、又は免職されることはない。

骨格は、法律か人事院規則で定める事由がなければ、意に反して、降任も休職も免職もされない、です。懲戒でも分限でもない、第3の型が、当然失職です。76条1項を読みます。

条文国家公務員法76条1項

国家公務員法第76条第1項 職員が第三十八条各号(第二号を除く。)のいずれかに該当するに至つたときは、人事院規則で定める場合を除くほか、当然失職する。

骨格は、38条の欠格事由に該当するに至ったとき、2号を除いて、当然失職する、です。先ほどの、拘禁刑以上の刑で執行が終わるまで、が典型です。ここには、処分がありません。法律の定めで、そのまま職を失います。

懲戒免職と分限免職(懲戒免職=制裁・処分の日から2年は官職に就く能力を失う〔国公38条1項2号・地公16条1項2号〕/分限免職=制裁でない・この欠格にならない/当然失職の欠格事由は38条1項2号を除く=懲戒免職は含まれない) 図:懲戒免職と分限免職

  • 懲戒免職=制裁・処分の日から2年は官職に就く能力を失う〔国公38条1項2号・地公16条1項2号〕
  • 分限免職=制裁でない・この欠格にならない
  • 当然失職の欠格事由は38条1項2号を除く=懲戒免職は含まれない

ここで、深く効く区別が1つあります。懲戒免職と分限免職です。どちらも職を失います。でも、懲戒免職は制裁で、処分の日から2年は、官職に就く能力を失います。さっきの38条1項2号です。地方公務員法は16条1項2号で、当該地方公共団体で懲戒免職を受けたとき、です。分限免職は、制裁ではないので、この欠格にはなりません。2号に当たるのは、懲戒免職の処分を受けた人です。その人は、懲戒免職の時点で、もう職を失っています。職に就いたまま2号に当たることは起こらないので、当然失職の事由から外してあるのです。懲戒免職は、処分で職を失い、欠格だけが残る。この流れです。

判別練習の8問(①窓口で扱った個人情報を知人に話した/②上司の職務命令を正当な理由なく無視し続けた/③勤務時間外に飲酒運転をした/④ストライキを行った/⑤長期の病気で職務に支障/⑥刑事事件で起訴された/⑦組織の改廃で職が廃止/⑧拘禁刑に処せられ執行を終わるまで) 図:判別練習の8問

  • ①窓口で扱った個人情報を知人に話した
  • ②上司の職務命令を正当な理由なく無視し続けた
  • ③勤務時間外に飲酒運転をした
  • ④ストライキを行った
  • ⑤長期の病気で職務に支障
  • ⑥刑事事件で起訴された
  • ⑦組織の改廃で職が廃止
  • ⑧拘禁刑に処せられ執行を終わるまで

練習です。懲戒か、分限か、当然失職か。型で答えてください。1問目。窓口で扱った個人情報を、知人に話した。2問目。上司の職務命令を、正当な理由なく無視し続けた。3問目。勤務時間外に、飲酒運転をした。4問目。ストライキを行った。5問目。長期の病気で、職務に支障が出た。6問目。刑事事件で起訴された。7問目。組織の改廃で、職そのものが廃止になった。8問目。拘禁刑に処せられ、その執行を終わるまでの間にある。当然失職です。処分を介さずに、欠格事由に当たるので。制裁か、制裁でない身分の変動か、処分を介さないか。この3つで割れば、迷いません。

3通の最終回収とまとめ

3通の最終回収(①専決:名義=市長・権限は動かない・根拠は不要・被告A市・訴状の処分庁は市長/②法定代理:名義=市長職務代理者・権限は動かない・根拠は法律そのもの・被告A市/③委任:名義=支所長・権限は動く・根拠が要る・被告A市・訴状の処分庁は支所長/権限が動いたのは③だけ・被告は3通ともA市) 図:3通の最終回収

  • ①専決:名義=市長・権限は動かない・根拠は不要・被告A市・訴状の処分庁は市長
  • ②法定代理:名義=市長職務代理者・権限は動かない・根拠は法律そのもの・被告A市
  • ③委任:名義=支所長・権限は動く・根拠が要る・被告A市・訴状の処分庁は支所長/権限が動いたのは③だけ・被告は3通ともA市

冒頭の問いに答えます。1通目の許可は、法的には、市長がした処分です。課長に、権限は移っていません。課長に任せるのに、法律の根拠は要りません。内部の決裁規程で足ります。3通を並べます。1通目は専決。名義は市長、権限は動かず、根拠は不要。2通目は法定代理。名義は市長職務代理者、権限は動かず、根拠は法律そのもの。3通目は委任。名義は支所長、権限は動き、根拠が要る。権限が動いたのは、3通目だけです。そして、被告は、3通ともA市です。

後編のまとめ(①専決=補助機関が決裁・外へは行政庁の名・権限は動かない・根拠不要〔代決は不在時〕②名義・権限・根拠の3段で委任・授権代理・専決を見分ける/専決は権限の委譲ではない〔最高裁〕③懲戒=制裁/分限=制裁でない/当然失職=処分を介さない) 図:後編のまとめ

  • ①専決=補助機関が決裁・外へは行政庁の名・権限は動かない・根拠不要〔代決は不在時〕②名義・権限・根拠の3段で委任・授権代理・専決を見分ける
  • 専決は権限の委譲ではない〔最高裁〕③懲戒=制裁
  • 分限=制裁でない
  • 当然失職=処分を介さない

持ち帰りは3つです。1つ目。専決は、補助機関が決裁し、外へは行政庁の名で出て、権限は動かない。だから、法律の根拠は不要です。代決は、不在のときの処理です。2つ目。名義、権限、根拠の3段で、委任、授権代理、専決を見分ける。最高裁も、専決は権限の委譲ではない、と述べました。3つ目。懲戒は制裁、分限は制裁でない身分の変動、当然失職は処分を介さない。次の動画は、国の行政組織です。内閣と、内閣総理大臣を見ます。

参照条文

  • 国家公務員法2条5項
  • 国家公務員法38条1項
  • 国家公務員法98条1項
  • 地方公務員法32条
  • 国家公務員法82条1項
  • 国家公務員法78条1項
  • 国家公務員法79条1項
  • 国家公務員法75条1項
  • 国家公務員法76条1項

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