内閣と内閣総理大臣
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第2章 行政組織法 ㉕/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
同じ日の、総理の3つの場面
図:同じ日の総理の3つの場面
- A=総理
- B=閣議〔内閣〕
- C=省の大臣
- D=内閣府の職員
- A→B=閣議で案件を発議する
- A→C=閣議で決めた方針に沿って進めてほしいと求める
- A→D=事務の運用を命じる通達を出す
- 問い=3つの権限は同じ肩書きから出ているのか
ある日の、総理大臣を追いかけます。朝は閣議です。総理は「この法案を、国会に出したい」と、案件を出しました。昼前には、閣議で決まった方針に沿って、総理が省の大臣に「この方針を、進めてほしい」と求めました。午後には、内閣府の職員に向けて、事務の運用を命じる通達を出しました。同じ人が、同じ日に、3つの場面で動いています。同じ総理大臣なんですから、3つとも、同じ権限なんじゃないですか。そう考えたくなります。ところが、3つの権限は、別々の条文から出ています。同じ肩書きの下に、資格が3つ重なっているのです。今日の1問は、これです。総理のこの権限は、どの資格で、どの条文から出ているのか。内閣そのものは、憲法の動画で見ました。今日は、その内閣を、内閣法などの条文から、組織として見直します。
図:今日の2つの問い
- ①内閣はどう組み立てられ、総理はどの資格で何ができるか
- ②内閣を助ける役所〔内閣官房・内閣府・デジタル庁〕は、なぜ省と違う形なのか/おまけ=内閣から独立した会計検査院の位置づけ
問いは2つです。1つ目は、内閣はどう組み立てられていて、総理はどの資格で何ができるのか。2つ目は、内閣を助ける役所、つまり内閣官房、内閣府、デジタル庁は、なぜ省とは違う形をしているのか。最後に、内閣から独立している会計検査院も、位置づけだけ見ます。先に、答えの形だけ言います。総理の資格は、3つあります。そして、大臣には、2つの顔があります。この2つを使って、権限の出どころを見分けます。
内閣という機関
図:内閣の組み立て
- 合議体=首長たる総理+総理が任命する国務大臣
- 内閣が職権を行うのは閣議による
- 各行政機関は内閣の統轄の下
- 国務大臣の数は本則14人以内・特別に必要なら3人を限度に増やして17人以内
本編に入る前に、1問です。憲法の動画で見ました。内閣は、誰の集まりで、決定はどうやってするのでしたか?総理大臣と国務大臣の合議体で、閣議で決めます。この2つが、条文でどう書かれているのかを見ます。まず、組織から。内閣法の2条です。
条文内閣法2条
内閣法第2条 内閣は、国会の指名に基づいて任命された首長たる内閣総理大臣及び内閣総理大臣により任命された国務大臣をもつて、これを組織する。 2 前項の国務大臣の数は、十四人以内とする。ただし、特別に必要がある場合においては、三人を限度にその数を増加し、十七人以内とすることができる。
骨格は、内閣は、首長である総理と、総理が任命した国務大臣で組織する、です。首長という言葉の理由は、憲法の動画で見ました。まとめ役の総理に、大臣を任命し罷免する強い権限を集めて、内閣を一体にし、国会への連帯責任を実際に働かせるためでした。人数は、本則で14人以内。特別に必要なら、3人を限度に増やして、17人以内です。国会が指名するのは総理だけで、国務大臣は、総理が任命します。国民から国会へ、国会から総理へ、総理から大臣へ。この線は、あとで1本の図にします。次は、内閣が実際に動く手続です。内閣法の4条です。
条文内閣法4条
内閣法第4条 内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする。 2 閣議は、内閣総理大臣がこれを主宰する。この場合において、内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関する基本的な方針その他の案件を発議することができる。 3 各大臣は、案件の如何を問わず、内閣総理大臣に提出して、閣議を求めることができる。
骨格は3つです。1項、内閣が職権を行うのは閣議による。2項、閣議は総理が主宰して、総理は重要政策の基本方針などの案件を発議できる。3項、各大臣は、どんな案件でも、総理に提出して、閣議を求められる。例で言います。ある大臣が、自分の省の仕事について、内閣として決めてほしいことが出てきました。大臣は、その案件を総理に提出して、閣議を求めます。閣議が開かれ、内閣としての意思が決まります。内閣の職権は、こうして、閣議を通して行われます。憲法の動画で見たとおり、全員一致という言葉は、条文のどこにもありません。長年の実務が積み重ねた慣習です。閣議の決定には、閣議決定と閣議了解という呼び名があります。どちらも、閣議で決まる内閣の意思の呼び名です。試験では、名前を知っていれば足ります。
図:統轄の下にある行政機関
- 国家行政組織法2条2項
- 内閣府設置法5条2項
- デジタル庁設置法5条2項=各行政機関は内閣の統轄の下に、相互の調整と連絡を図り、一体として行政機能を発揮する
- 統轄=総合調整しながら指揮監督すること
次は、内閣と行政機関の関係です。復習です。前の動画で、統轄と所轄は何が違うと言いましたか?統轄は、総合調整しながら指揮監督すること。所轄は、形式上の所属を示すだけで、職権行使への指揮監督は含みません。この統轄が、内閣と各行政機関をつなぐ言葉です。省も、内閣府も、デジタル庁も、内閣の統轄の下で、互いに調整と連絡を図りながら、一体として行政の機能を発揮するものとされています。根拠の条番号は、板にまとめました。
図:国民から行政までの線
- 国民が選挙で国会を作る→国会が総理を指名〔憲法67条〕→総理が国務大臣を任免〔68条〕→内閣は国会に連帯責任〔66条3項〕→大臣が各省を分担管理→各省が国民に処分をする
- 作用の側のコントロール〔法律による行政〕とは別に組織の側にも国民につながる線がある
ここで、国民から行政までの線を、1本の図にします。国民が選挙で国会をつくり、国会が総理を指名する。総理が国務大臣を任命する。内閣は、国会に連帯責任を負う。大臣が各省を分担管理し、つまり省ごとに仕事を受け持ち、各省が国民に処分をする。これまで見てきた法律による行政は、行政の作用の側から、行政を縛る考え方でした。ところが、行政の組織の側にも、国民につながる線があります。省がする処分は、大臣を通じて内閣につながり、内閣は国会に責任を負い、国会は国民が選んでいます。次の節で見ます。その前に、この仕組みの弱点を1つ。各省が自分の分担管理の事務に強い自律性をもつと、省をまたぐ案件を、誰も調整できなくなります。縦割り行政です。たとえば、会社の事業部が、自分の数字だけを追うと、事業部をまたぐ案件が、誰の仕事でもなくなります。そこで、2001年の中央省庁改革では、内閣を助ける機構を強めて、内閣の側から調整する形にしました。その機構が、あとで見る内閣官房と、内閣府です。
大臣の2つの顔
図:大臣の2つの顔
- 国務大臣=内閣の一員として閣議に座る
- 主任の大臣=役所の長として行政事務を分担管理する〔行政大臣ともいう〕
- ほとんどの大臣は両方を兼ねる=国務大臣・行政長官同一人制
- 憲法74条=法律・政令には主任の国務大臣が署名し総理が連署する
内閣の次は、内閣を構成する大臣です。大臣には、2つの顔があります。1つ目は、内閣の一員としての顔です。閣議に座って、内閣の意思を一緒に決める立場で、国務大臣といいます。2つ目は、役所の長としての顔です。財務省なら財務省という役所を預かり、その行政事務を管理する立場で、主任の大臣といいます。行政大臣と呼ぶこともあります。会社に置き換えます。取締役が、取締役会のメンバーであると同時に、自分の事業部の責任者でもある形です。取締役会に座る顔と、事業部を預かる顔。この両方を、ほとんどの大臣が兼ねています。これを、国務大臣・行政長官同一人制といいます。名前は板に出しますが、覚えるのは、2つの顔を兼ねる、という中身です。
兼ねさせる理由は、内閣で決めた方針が、役所の運用に届くようにするためです。もし役所の長が、内閣の外の人なら、閣議で決めたことと、役所の現場の動きが、離れてしまいます。内閣の一員が役所の長を務めるから、政治の決定が、行政の現場へそのまま届くのです。条文で確かめます。内閣法の3条です。
条文内閣法3条
内閣法第3条 各大臣は、別に法律の定めるところにより、主任の大臣として、行政事務を分担管理する。 2 前項の規定は、行政事務を分担管理しない大臣の存することを妨げるものではない。
骨格は、各大臣は、主任の大臣として、行政事務を分担管理する、です。分担管理とは、役所ごとに仕事を分けて、それぞれの大臣が管理する、という意味です。これを、分担管理原則といいます。2項は、分担管理しない大臣がいてもよい、と言っています。役所を預からず、閣議にだけ出る大臣。これを、無任所大臣と呼びます。省の場合は、国家行政組織法の5条が、長を決めています。1項と3項を読みます。2項は、各省大臣が自分の省に関わる重要政策の企画や総合調整も担う、という定めです。今日は、読みません。
条文国家行政組織法5条
国家行政組織法第5条 各省の長は、それぞれ各省大臣とし、内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣として、それぞれ行政事務を分担管理する。 2 各省大臣は、前項の規定により行政事務を分担管理するほか、それぞれ、その分担管理する行政事務に係る各省の任務に関連する特定の内閣の重要政策について、当該重要政策に関して閣議において決定された基本的な方針に基づいて、行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に関する事務を掌理する。 3 各省大臣は、国務大臣のうちから、内閣総理大臣が命ずる。ただし、内閣総理大臣が自ら当たることを妨げない。
骨格は、各省の長は各省大臣で、内閣法にいう主任の大臣として、行政事務を分担管理する。各省大臣は、国務大臣のうちから総理が命じる。ただし、総理が自ら当たってもよい、です。つまり、各省大臣は、必ず国務大臣です。そして、総理が財務大臣を自分で兼ねることも、条文の上でできます。憲法の動画で、総理の連署として、74条に触れました。74条では、法律と政令に、主任の国務大臣が署名し、総理が連署します。署名をするのは、役所の長の顔です。憲法の動画のとおり、署名と連署は、その法律の執行に責任を持つ人をはっきりさせるためのものでした。執行を担うのは、主任の大臣が預かる役所だからです。総理は、内閣の首長として、署名に並べて名前を書きます。これが連署です。
総理は、全部の省に命令できるんでしょうか。そこが、次の節の話です。もし総理が、一人で、どの省にも何でも命令できるなら、役所ごとに分担管理する意味が崩れます。逆に、総理に何もできないなら、内閣は一体になれません。この釣り合いをとる条文が、次の節の内閣法6条です。
図:練習:大臣の顔を見分ける
- ①財務大臣
- ②役所を預からず閣議にだけ出る大臣
- ③総理が財務大臣も自分で兼ねる/答え方=国務大臣だけ・主任の大臣も兼ねる
練習です。国務大臣だけか、主任の大臣も兼ねているか、で答えてください。1つ目。財務大臣は、どうでしょう。閣議にも出るし、財務省の長でもあるので、両方を兼ねています。2つ目。特定の役所を預からず、閣議にだけ出る大臣は?国務大臣だけです。無任所大臣ですね。3つ目。総理が、財務大臣も自分で兼ねることは、できますか?国家行政組織法5条3項のただし書で、できます。国務大臣ではない人が各省大臣になることはなく、各省大臣は、必ず国務大臣の中から選ばれます。
総理の3つの資格
図:総理の3つの資格
- 資格=内閣の首長
- 行政各部を指揮監督する立場
- 内閣府〔とデジタル庁〕の長
- 権限の例=首長は国務大臣の任免・閣議の主宰と発議・内閣を代表して議案を国会に提出
- 指揮監督は閣議にかけて決定した方針に基づく指揮監督・権限争議の裁定・処分や命令の中止
- 内閣府の長は内閣府の事務の統括・内閣府令・訓令と通達
- 条文=憲法66条1項・68条・内閣法4条2項・5条
- 憲法72条・内閣法6条・7条・8条
- 内閣府設置法6条・7条・デジタル庁設置法6条・7条
ここから、今日の山場です。総理の権限を、3つの資格に分けて見ます。板の3列です。1つ目、内閣の首長。2つ目、行政各部を指揮監督する立場。3つ目、内閣府、それからデジタル庁の長。暗記する中心は、この3つの資格です。権限の条文は、その資格の根拠として、あとから付いてきます。憲法の動画では、総理の権限は、どれも首長という一本の理由から出ている、と見ました。今日の3つは、その理由ではなく、根拠の条文で分けた区別です。1つ目の首長は、憲法の動画で見たので、確認だけにします。首長としての総理は、国務大臣を任命し、罷免します。閣議を主宰して、案件を発議します。内閣を代表して、議案を国会に提出します。どれも、内閣という合議体をまとめる役割です。2つ目が、行政各部の指揮監督です。憲法72条のとおり、総理は、内閣を代表して、行政各部を指揮監督します。条文を見ます。内閣法の6条です。
条文内閣法6条
内閣法第6条 内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する。
図:行政各部の指揮監督
- 内閣法6条=閣議にかけて決定した方針に基づいて行政各部を指揮監督する
- 縛りの理由=合議体の内閣と各大臣の分担管理を崩さない
- 7条=主任の大臣の間の権限争議は総理が閣議にかけて裁定
- 8条=行政各部の処分や命令を中止させ内閣の処置を待つ
- 方針が無いとき=内閣の明示の意思に反しない限り指導・助言等の指示ができる〔最大判平7・2・22〕・ただし事実上の指示にとどまる
総理は、閣議にかけて決定した方針に基づいて、行政各部を指揮監督する、です。この、閣議にかけて決定した方針に基づいて、という縛りに注目します。さきほどの釣り合いが、答えです。内閣は合議体で、各大臣は役所を分担管理しています。総理が閣議を通さず、自分の考えだけで各省に命令できるなら、合議体の意味も、分担管理の意味も崩れます。そこで、内閣全体で決めた方針に基づいて、という縛りを置きました。閣議で、ある政策の方針が決まったとします。総理は、その方針に沿って、関係する省の大臣に、進めるよう求められます。冒頭の2つ目の場面は、これです。前の動画で見た、内閣法の7条と8条も、この資格の権限です。指揮監督権の5つでいえば、7条は権限争議裁定権で、大臣どうしの権限の争いを、総理が閣議にかけて裁定する。8条は取消停止権の仲間で、行政各部の処分や命令を中止させて、内閣の処置を待つ。8条の最後に注目してください。総理は、中止させるだけで、あとは内閣の処置を待ちます。一人で結論を出さず、最後は内閣の判断へ戻す形になっています。
憲法の動画で見た、ロッキード事件の最高裁判決が、この問いに答えています。方針が無くても、内閣の明示の意思に反しない限り、総理は行政各部に、指導や助言などの指示を与える権限をもつ、と判断しました。首長として内閣をまとめる総理が、変わり続ける行政の需要に、遅れずに応じられるようにするためです。ただし、6条の指揮監督とは、法的な強さが違います。憲法の動画で見たとおり、6条の指揮監督には、主任の大臣が従う法的な義務がありますが、方針が無いときの指導や助言は、事実上の指示にとどまります。ここは、論文で論点になりうる部分です。この指示の向き先は、行政各部です。民間の事業者への働きかけが、どこまで許されるかは、行政指導の回で扱います。また、行政事件訴訟で、執行停止に対して総理が異議を述べる権限も、総理の権限のひとつですが、これは別の回で扱います。
図:内閣府の長としての総理
- 内閣府の長=総理〔内閣府設置法6条〕
- デジタル庁の長=総理〔デジタル庁設置法6条〕
- 省の長=各省大臣〔国家行政組織法5条1項〕
- つまずき=内閣の首長〔憲法66条1項〕と内閣府の長は別の資格・根拠の条文が違う
3つ目は、内閣府の長としての資格です。ここで、つまずきを先に言います。総理は、内閣の首長です。そして、同時に、内閣府の長でもあります。この2つは別の資格で、根拠の条文も違います。首長は、憲法66条1項。内閣府の長は、内閣府設置法の6条です。
条文内閣府設置法6条
内閣府設置法第6条 内閣府の長は、内閣総理大臣とする。 2 内閣総理大臣は、内閣府に係る事項についての内閣法にいう主任の大臣とし、第四条第三項に規定する事務を分担管理する。
骨格は、内閣府の長は総理で、総理は内閣府について、内閣法にいう主任の大臣となる、です。さきほどの2つの顔でいえば、総理は、内閣府という役所の、主任の大臣です。次に、7条1項です。
条文内閣府設置法7条1項
内閣府設置法第7条第1項 内閣総理大臣は、内閣府の事務を統括し、職員の服務について統督する。
総理は、内閣府の事務を統括し、職員の服務について統督します。統括は、事務をまとめて取り仕切ること。服務は、職員としての勤めぶり、統督は、それをまとめて監督することです。ほかにも、内閣府の所掌事務について、内閣府令、つまり、省でいう省令にあたる内閣府の命令を出したり、所管の機関や職員に、訓令や通達を出したりできます。冒頭の3つ目の場面、内閣府の職員に事務の運用を命じる通達は、この資格です。デジタル庁も同じ型で、デジタル庁の長も総理です。省の長は各省大臣、内閣府とデジタル庁の長は総理です。ここが、省との大きな違いです。なぜそうなっているのかは、次の節で見ます。
図:練習:6つの行為を3つの資格に振り分ける
- ①閣議で案件を発議する
- ②国務大臣を罷免する
- ③閣議で決めた方針に沿って省の大臣に実施を求める
- ④2つの省の大臣の権限争いを閣議にかけて裁定する
- ⑤内閣府の事務について内閣府令を出す
- ⑥内閣府の職員に訓令を出す/答え方=首長・指揮監督・内閣府の長
練習です。6つの行為を、首長、指揮監督、内閣府の長、のどれかで答えてください。まず1つ目。閣議で案件を発議する。2つ目。国務大臣を罷免する。3つ目。閣議で決めた方針に沿って、省の大臣に実施を求める。4つ目。2つの省の大臣の、権限の争いを、閣議にかけて裁定する。5つ目。内閣府の事務について、内閣府令を出す。6つ目。内閣府の職員に、訓令を出す。全部、正解です。1つ目と2つ目は首長、3つ目と4つ目は指揮監督、そして5つ目と6つ目は内閣府の長です。行為を見たら、まず資格を決める。それから、その資格の条文を引く。この順番が、答案でも使えます。
内閣を補助する機構
図:内閣を助ける機構の入口
- 省=自分の事務を分担管理する
- 内閣官房・内閣府・デジタル庁=内閣の側で企画・調整を助ける
- 縦割り行政への対応として内閣の機能を強化
次は、2つ目の問いです。内閣を助ける機構を見ます。内閣は、閣僚の会議体です。日々の企画や調整を担う手足が、要ります。省は、自分の事務を分担管理するだけです。さきほどの会社でいえば、事業部をまたぐ案件のために、社長の横に、事業部を横断して調整する社長室を置く形です。内閣官房と内閣府は、この社長室にあたります。さきほどの縦割り行政への対応です。最初は、内閣官房です。内閣法の12条1項と、13条です。
条文内閣法12条1項
内閣法第12条第1項 内閣に、内閣官房を置く。
内閣に、内閣官房を置く、です。長については、13条です。
条文内閣法13条
内閣法第13条 内閣官房に内閣官房長官一人を置く。 2 内閣官房長官は、国務大臣をもつて充てる。 3 内閣官房長官は、内閣官房の事務を統轄し、所部の職員の服務につき、これを統督する。
骨格は、内閣官房の長は内閣官房長官で、国務大臣が充てられる。官房長官は、内閣官房の事務を統轄し、職員の服務を統督する、です。ここでは、内閣官房の事務をまとめて取り仕切る、という意味です。
図:内閣官房
- 内閣法12条=内閣に置く
- 12条2項=閣議事項の整理その他内閣の庶務・重要政策の基本方針の企画立案と総合調整・各省の施策の統一のための企画立案と総合調整ほか
- 長=内閣官房長官〔国務大臣〕
- 内閣人事局=内閣官房に置かれ幹部職員の人事を一元的に管理
- 内閣官房の中の局や官は改正のたびに増える=列挙しない
内閣官房の仕事は、板のとおりです。閣議事項の整理や、内閣の庶務。重要政策の基本方針の、企画立案と総合調整。各省の施策を統一するための、企画立案と総合調整。内閣官房の仕事は、内閣の側からの調整です。危機管理、安全保障、情報、サイバー、人事などの部署が置かれています。ただ、改正のたびに増えているので、個々の名前は覚えなくて構いません。ひとつだけ、内閣人事局は押さえてください。内閣官房に置かれて、幹部職員の人事を、一元的に管理します。幹部の人事を、省ごとではなく内閣の側でまとめて扱うことで、縦割りを、人事の面から調整する仕組みです。
図:内閣に置かれる、ほかの機関
- 内閣法制局=内閣に置かれ法律案・政令案の審査ほかを行う〔内閣法制局設置法1条・3条〕
- 国家安全保障会議=内閣に置かれ安全保障の重要事項を審議〔同会議設置法1条〕
- 国家情報会議=内閣に置かれる〔国家情報会議設置法2条〕
- 人事院=内閣の所轄の下〔国家公務員法3条1項〕
内閣には、ほかにも機関が置かれています。内閣法制局は、法律案や政令案の審査などを行います。国家安全保障会議は、安全保障の重要事項を審議します。国家情報会議も、内閣に置かれます。これらは、名前と位置づけを知っておけば足ります。もうひとつ、人事院は、内閣の所轄の下に置かれます。所轄は、前の動画の語です。人事院は、節の最後に、もう一度見ます。次は、内閣府です。条文は、2条と3条1項です。
条文内閣府設置法2条
内閣府設置法第2条 内閣に、内閣府を置く。
内閣に、内閣府を置く、です。任務は、3条1項です。
条文内閣府設置法3条1項
内閣府設置法第3条第1項 内閣府は、内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けることを任務とする。
内閣府の任務は、内閣の重要政策に関する、内閣の事務を助けることです。ここで、言葉を2つ使います。内閣を助ける仕事を、内閣補助事務。内閣府が自分の役所として預かる仕事を、分担管理事務と呼びます。
図:内閣府の二本立て
- 内閣補助事務=内閣の重要政策に関する内閣の事務を助ける〔内閣府設置法3条1項〕
- 分担管理事務=内閣府が自分の事務として分担管理する〔設置法3条2項・4条3項=栄典や公式制度など国として行うべき事務など〕
- 所掌は改正が頻繁=列挙しない
- 長・主任の大臣は総理
内閣府は、二本立てです。ひとつは、内閣を助ける顔。もうひとつは、自分の役所の仕事を預かる顔。後者は、たとえば栄典や公式制度のような、国として行うべき事務です。内閣府の所掌は、改正が多いので、板でも並べません。覚えるのは、二本立てという形です。省は、自分の事務を分担管理するだけでしたよね。内閣府は、省と同じ仲間じゃないんですか。そこが、2つ目の問いの核心です。国家行政組織法の1条を見ます。
条文国家行政組織法1条
国家行政組織法第1条 この法律は、内閣の統轄の下における行政機関で内閣府及びデジタル庁以外のもの(以下「国の行政機関」という。)の組織の基準を定め、もつて国の行政事務の能率的な遂行のために必要な国家行政組織を整えることを目的とする。
この法律が対象にする行政機関は、内閣の統轄の下にある行政機関のうち、内閣府とデジタル庁以外のものです。つまり、内閣府とデジタル庁は、原則として、国家行政組織法の外に置かれています。理由は、内閣府が、省と横並びの役所ではないからです。国家行政組織法は、省や委員会や庁のように、自分の事務を分担管理する役所に、共通の組織の基準を決める法律です。内閣府も、分担管理事務を持ちます。ただ、主な仕事は、内閣の側に立って、省どうしの調整を助けることです。調整される側の省と同じ基準で作ると、内閣府も、省の一つとして横に並んでしまいます。社長室を、事業部の一つとしては作らないのと同じです。そこで、内閣を助ける性格を重視して、省と同じ組織の基準には入れませんでした。デジタル庁も、同じ考え方です。近く、ここは変わります。11月2日から、防災を担う防災庁が、内閣に置かれます。国家行政組織法1条も、内閣府、デジタル庁及び防災庁以外のもの、という文言になります。今見た条文は、施行前の今の文言です。11月2日からは、防災庁を加えた新しい文言で答えます。防災庁の長と主任の大臣も、総理になります。内閣府の運営も見ておきます。実際の事務の統括は、官房長官が、総理の指示を受けて行います。さきほどの、総理の統括を、官房長官が、総理の指示を受けて実際に動かす、という関係です。また、特命担当大臣という職があります。重要政策のために特に必要があるときに、総理が内閣府に置く職で、国務大臣が充てられます。特命担当大臣は、総理を助けて事務を掌理し、つまり受け持って取り仕切り、関係する行政機関の長に、資料の提出を求めたり、勧告をしたりできます。
重要政策に関する会議も、内閣府に置かれます。経済財政諮問会議と、総合科学技術・イノベーション会議です。どちらも、議長は総理です。名前だけ、知っておいてください。特命担当大臣が、内閣府の主任の大臣なんですか。違います。ここは間違えやすい点です。内閣府の主任の大臣は、総理です。設置法の6条2項のとおりです。特命担当大臣は、総理を助けて、その指示を受けて事務を掌理する職です。主任の大臣とは、別です。
図:デジタル庁
- 内閣府と同じ型
- デジタル庁設置法2条=内閣に置く
- 3条1号=デジタル社会の形成に関する内閣の事務を内閣官房と共に助ける〔内閣補助事務〕
- 3条2号=行政事務の迅速かつ重点的な遂行〔分担管理事務〕
- 長・主任の大臣は総理〔6条〕
- デジタル庁令〔7条3項〕
- デジタル大臣〔8条=国務大臣〕
デジタル庁も、同じ型です。条文は、2条と6条です。
条文デジタル庁設置法2条
デジタル庁設置法第2条 内閣に、デジタル庁を置く。
内閣に、デジタル庁を置く、です。長は、6条です。
条文デジタル庁設置法6条
デジタル庁設置法第6条 デジタル庁の長は、内閣総理大臣とする。 2 内閣総理大臣は、デジタル庁に係る事項についての内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣とし、第四条第二項に規定する事務を分担管理する。
骨格は、デジタル庁の長は総理で、総理が主任の大臣になる、です。任務は、3条に2つあります。1号が、デジタル社会の形成に関する内閣の事務を、内閣官房と共に助けること。これが内閣補助事務です。2号が、デジタル社会の形成に関する行政事務の、迅速で重点的な遂行。これが分担管理事務です。内閣府と同じ、二本立てです。注意が1つあります。デジタル庁は、国家行政組織法の庁、つまり、省の外局として置かれる庁とは違います。外局は、省に属しながら、省の内部の局とは別に、ある程度独立して仕事をする組織です。外局の庁は、省の下にあります。デジタル庁は、内閣に置かれます。ほかの庁との違いは、次の動画で見ます。
図:内閣を助ける機構の比較
- 内閣官房=設置の根拠は内閣法12条
- 長は内閣官房長官〔国務大臣〕
- 国組法の対象ではない〔内閣法が定める内閣の補助部局〕・内閣府=内閣府設置法2条
- 長は総理〔6条1項〕
- 内閣府令〔7条3項〕
- 国組法の対象外・デジタル庁=デジタル庁設置法2条
- 長は総理〔6条1項〕
- デジタル庁令〔7条3項〕
- 国組法の対象外・省=各省設置法・国組法3条
- 長は各省大臣〔国組法5条1項〕
- 省令
- 国組法の対象
比較表で整理します。内閣官房は、内閣法12条を根拠にして、長は官房長官。国家行政組織法の対象ではなく、内閣法が定める内閣の補助部局です。内閣府は、内閣府設置法2条。長は総理で、命令の名は内閣府令。国家行政組織法の対象外です。デジタル庁は、デジタル庁設置法2条。長は総理で、命令の名はデジタル庁令。同じく対象外です。一方、省は、各省設置法と、国家行政組織法3条を根拠にして、長は各省大臣。命令の名は省令。国家行政組織法の対象です。3条2項は、行政機関という言葉の意味を見た回で、一度読みました。
図:練習:条文の置き場所
- ①内閣府に特命担当大臣を置けるという定め
- ②デジタル庁が内閣に置かれるという定め
- ③内閣府に外局として委員会や庁を置けるという定め/答え方=国家行政組織法か・内閣府設置法か・デジタル庁設置法か/条番号まで暗記する問いではない
練習です。どの法律に書いてあるかで、答えてください。国家行政組織法か、内閣府設置法か、デジタル庁設置法か。1つ目。内閣府に、特命担当大臣を置けるという定めは?内閣府設置法です。2つ目。デジタル庁が、内閣に置かれるという定めは?デジタル庁設置法です。2条でした。3つ目。内閣府に、外局として委員会や庁を置けるという定めは?内閣府設置法は、国家行政組織法に当たる、外局の組織の基準も、自分で定めています。外局の中身は、次の動画で見ます。
内閣から独立した会計検査院
図:会計検査院
- 憲法90条=決算は会計検査院が検査・組織と権限は法律で定める
- 会計検査院法1条=内閣に対し独立の地位を有する
- 2条=3人の検査官の検査官会議と事務総局
- 4条1項=検査官は両議院の同意を経て内閣が任命
- 20条1項=決算の検査のほか法律に定める会計の検査
最後に、内閣の統轄にも、所轄にも入らない機関を、ひとつ見ます。会計検査院です。行政機関の回でも、憲法に書かれた機関として、内閣と並んで名前が出ました。憲法の動画で、決算の検査を見ました。憲法90条は、決算を誰が検査すると書いていましたか?会計検査院です。組織と権限は、法律で定める、とありました。条文を見ます。
条文日本国憲法90条
日本国憲法第90条 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。 2 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。
決算を検査するのは会計検査院で、内閣は、検査報告とともに決算を国会に提出する。組織と権限は、法律で定める、です。その法律が、会計検査院法です。1条を読みます。
条文会計検査院法1条
会計検査院法第1条 会計検査院は、内閣に対し独立の地位を有する。
会計検査院は、内閣に対し、独立の地位を有する、です。なぜ独立なのか。決算の検査は、予算を使った側のお金の使い方を、調べる仕事です。予算を執行するのは、内閣と、その統轄の下の行政機関です。調べられる側の統轄の下に、調べる機関がいたら、検査の中立は保てません。自分の財布を、自分で監査するようなものです。組織と権限は、名前と位置づけまでで足ります。3人の検査官で構成する検査官会議と、事務総局で組織されます。検査官は、両議院の同意を経て、内閣が任命します。決算の検査のほか、法律に定める会計の検査も行います。ここで、さっき後回しにした人事院です。国家公務員法の3条1項です。
条文国家公務員法3条1項
国家公務員法第3条第1項 内閣の所轄の下に人事院を置く。人事院は、この法律に定める基準に従つて、内閣に報告しなければならない。
内閣の所轄の下に、人事院を置く、です。1問です。人事院が内閣の所轄の下に置かれているとき、内閣は、人事院の個々の判断まで、指揮監督できるでしょうか?できません。所轄は、形式上の所属で、職権行使への指揮監督は含まないからです。ここまでの3つの距離を、板に並べます。
図:内閣との3つの距離
- 内閣の統轄の下=省・内閣府・デジタル庁〔総合調整しながら指揮監督する〕
- 内閣の所轄の下=人事院〔形式上は内閣の下・職権の行使は独立〕
- 内閣に対し独立=会計検査院〔会計検査院法1条・憲法90条〕
- 独立行政委員会・行政審判は別の回
1つ目、内閣の統轄の下。省と、内閣府と、デジタル庁です。内閣は、総合調整もし、指揮監督もします。2つ目、内閣の所轄の下。人事院です。形式の上では、内閣の下ですが、職権の行使は独立しています。そして3つ目、内閣に対し独立。会計検査院です。内閣の下にさえ、入りません。独立行政委員会や、行政審判は、別の回で扱います。
3つの場面の回収とまとめ
図:冒頭の3つの場面を資格に戻す
- A=閣議で案件を発議する→内閣の首長〔内閣法4条2項〕
- B=閣議で決めた方針に沿って大臣に求める→行政各部の指揮監督者〔内閣法6条〕
- C=内閣府の職員に通達を出す→内閣府の長〔内閣府設置法7条〕
- 同じ総理でも権限の出どころは3つ
冒頭の、3つの場面に戻ります。閣議で案件を発議するのは、内閣の首長としての資格で、根拠は内閣法4条2項でした。閣議で決めた方針に沿って、大臣に求めるのは、行政各部の指揮監督者としての資格で、根拠は内閣法6条でした。内閣府の職員に通達を出すのは、内閣府の長としての資格で、根拠は内閣府設置法の7条でした。同じ総理でも、権限の出どころは、3つに分かれていました。肩書きではなく、どの資格で動いたのかを見る。これが、今日の答えです。
図:今日のまとめ
- ①総理の3つの資格=内閣の首長/行政各部の指揮監督者〔内閣法6条の閣議にかけて決定した方針〕/内閣府・デジタル庁の長
- ②大臣の2つの顔=国務大臣〔内閣の一員〕と主任の大臣〔役所の長・分担管理〕
- ③内閣官房・内閣府・デジタル庁は内閣を助ける機構・内閣府とデジタル庁は国組法の外で長は総理・会計検査院は内閣に対し独立
持ち帰りは、3つです。1つ目。総理の資格は3つ。内閣の首長、行政各部の指揮監督者、内閣府とデジタル庁の長。指揮監督は、閣議にかけて決定した方針に基づきます。2つ目。大臣には2つの顔があります。内閣の一員としての国務大臣と、役所の長としての主任の大臣です。3つ目。内閣官房、内閣府、デジタル庁は、内閣を助ける機構です。内閣府とデジタル庁は、原則として国家行政組織法の外にあり、長は総理で、内閣を助ける仕事と自分の役所の仕事の二本立てです。会計検査院は、内閣に対し独立しています。次の動画は、国の行政組織の続きで、省、委員会、庁です。今日、国家行政組織法の外と言った内閣府と見比べながら、国家行政組織法の中の組織を見ます。
参照条文
- 内閣法2条
- 内閣法4条
- 内閣法3条
- 国家行政組織法5条
- 内閣法6条
- 内閣府設置法6条
- 内閣府設置法7条1項
- 内閣法12条1項
- 内閣法13条
- 内閣府設置法2条
- 内閣府設置法3条1項
- 国家行政組織法1条
- デジタル庁設置法2条
- デジタル庁設置法6条
- 日本国憲法90条
- 会計検査院法1条
- 国家公務員法3条1項