事務の2区分と国の関与
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第2章 行政組織法 ㉘/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
みなと県に届いた2通の文書
図:みなと県に届いた2通の文書
- A=担当大臣
- B=みなと県
- C=子育て支援金〔県が独自に運営〕
- D=旅券の交付〔県の窓口で処理〕
- A→B=文書1 Cについて「運用の是正を求める」
- A→B=文書2 Dについて「こう改めよと指示する」
地方公共団体の組織を見終えました。今日は、その団体の仕事と、国との関わりを見ます。みなと県に、担当大臣から文書が2通届きました。1通目は、県が独自に運営している子育て支援金について、運用が法令に反しているとして、その是正を求める文書です。2通目は、県の窓口で処理している旅券の交付について、扱いが法令に反しているとして、こう改めるよう指示する文書です。どちらも、理由を書いた文書でした。旅券は、憲法の回で出てきた、あの旅券の交付です。名前が違います。1通目は是正の要求、2通目は是正の指示で、法律は別々の手として用意しています。名前が違えば、使える相手も、従わなかったときに続く手も違います。県は、2通とも従わなければならないのでしょうか。従わなかったら、大臣は何ができるのでしょうか。設例を一つ置いておきます。この回では、子育て支援金を県の自治事務として扱います。実際にある制度がどちらの事務にあたるかは、その制度の法律ごとに決まります。支援金だから必ず自治事務、という意味ではありません。
図:今日の2つの問い
- ①県の仕事は、国の仕事の代行なのか
- ②国は県にどんな手を、どこまで使えるのか/国と地方は上下ではない別の主体→その関係の中身を今日は条文で見る
今日の問いを整理します。1つは、県の仕事は、国の仕事の代行なのかどうか。もう1つは、国は県にどんな手を、どこまで使えるのか、です。国と地方公共団体は別々の行政主体で、国が上、地方が下という関係ではない、と前に見ました。国と地方の関わり方は、地方の回で見ますと言っていました。その別々の主体の間の関係の中身を、今日は条文で見ていきます。答えの形だけ、先に言っておきます。県の仕事は、国の仕事の代行ではありません。そして、どちらの事務かという性質が、国の使える手の強さを決めます。
事務の2区分——機関委任事務から自治事務・法定受託事務へ
図:国と地方の役割分担
- 1条の2第1項=地方公共団体は地域における行政を自主的かつ総合的に広く担う
- 2項=国は国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねる
最初の問いから入ります。まず、国と地方の役割分担を決めている条文を読みます。1条の2です。
条文地方自治法1条の2第1項・2項
地方自治法第1条の2 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。 2 国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。
地方は地域の行政を広く担い、国は国にしかできない役割を重点的に担う。身近な行政は、できる限り地方にゆだねる。この分け方が出発点です。国が本来果たすべき役割とは、国際社会での国家の存立にかかわる事務や、全国で統一して定めるのが望ましい基準に関する事務などです。次の条文は、その分担を法令の作り方に反映させる定めです。
条文地方自治法2条11項・13項
地方自治法第2条第11項・第13項 11 地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づき、かつ、国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえたものでなければならない。 13 法律又はこれに基づく政令により地方公共団体が処理することとされる事務が自治事務である場合においては、国は、地方公共団体が地域の特性に応じて当該事務を処理することができるよう特に配慮しなければならない。
間の12項は、この趣旨に沿って法令を解釈し運用する義務を定めています。自治事務は、地域の特性に応じて処理するものだと、法律が先に宣言しているわけです。国が本来果たすべき役割、というと、結局は国の仕事のことですよね。地方がやる国の仕事、というのは何なんですか。そこが今日の中心です。順に説明します。その前に、昔の制度を見ます。
図:機関委任事務の廃止
- 旧=知事・市町村長が国の機関として国の事務を処理・主務大臣の包括的な指揮監督〔通達〕・地方の事務ではない
- 1999年の地方分権改革で廃止→2000年4月施行
- 現行=自治事務・法定受託事務〔どちらも地方公共団体の事務〕
- 旧三分類=公共事務・団体委任事務・行政事務・機関委任事務〔名前だけ〕
かつて、機関委任事務という制度がありました。知事や市町村長が、国の仕事をするときだけは、国の機関という立場に立つ制度です。みなと県の旅券の交付のような仕事を、知事が国の機関として処理していました。この制度では、主務大臣が知事を、包括的に指揮監督できました。通達で、こう処理せよと直接言えたのです。実際に働くのは県の職員ですが、仕事は地方公共団体の事務ではなく、長が国の機関として担う事務という扱いでした。県の議会は口を出しにくく、住民のコントロールも及びにくい。地方が、国の縦割り行政の下請けのようになる、と批判されました。この制度は、1999年の地方分権一括法で廃止が決まり、2000年4月に廃止されました。廃止された機関委任事務の多くは、自治事務と法定受託事務に振り分けられました。改革前の事務の分類は、板に名前だけ並べておきます。公共事務、団体委任事務、行政事務です。機関委任事務と合わせて、名前を知っておく程度で構いません。大臣の通達が知事や市町村長に向けて出されていた事件の例として、墓地埋葬通達事件があります。古い判例で、通達が知事や市町村長を縛る場面が出てきたら、当時は機関委任事務の時代で、長が国の機関だったからだ、と読んでください。通達の法的性質は別の回で扱います。
図:2つの事務区分の定義
- 自治事務=法定受託事務以外の地方公共団体の事務〔控除的定義=原則は自治事務〕
- 法定受託事務=国〔または都道府県〕が本来果たすべき役割に係り、その適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律・政令に特に定めたもの
- 第1号=国→都道府県・市町村・特別区
- 第2号=都道府県→市町村・特別区
では、現在の2つの区分を、条文で確認します。2条8項と9項です。
条文地方自治法2条8項・9項
地方自治法第2条第8項・第9項 8 この法律において「自治事務」とは、地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のものをいう。 9 この法律において「法定受託事務」とは、次に掲げる事務をいう。 一 法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(以下「第一号法定受託事務」という。) 二 法律又はこれに基づく政令により市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、都道府県が本来果たすべき役割に係るものであつて、都道府県においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(以下「第二号法定受託事務」という。)
読み飛ばした部分に、法定受託事務の大事な要素があります。国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして、法律や政令に特に定めたもの、という部分です。国が本来果たすべき役割に係るから、適正な処理を特に確保したい。この考え方が、あとで見る国の関与の強さにつながります。もう一つのポイントは、自治事務が控除的に定義されていることです。法定受託事務以外は全部、自治事務です。事務の原則は自治事務で、法定受託事務が例外です。法定受託事務には2種類あります。第1号は、国が本来果たすべき役割に係る事務で、都道府県、市町村、特別区が処理するもの。第2号は、都道府県が本来果たすべき役割に係る事務で、市町村と特別区が処理するもの、つまり県と町の役割分担の話です。どの事務が法定受託事務かは、自治法の別表第一・別表第二や、政令に書かれています。別表に載っていなくても、政令で法定受託事務と定められているものがあります。法定受託事務と定められていなければ、自治事務になります。
図:設例の仕事を当てはめる
- みなと県=A 子育て支援金の運営〔設例上は自治事務〕
- B 旅券の交付〔旅券法に基づく県の事務→第1号法定受託事務〕
- あおば町=C 戸籍の届出の受理〔戸籍法に基づく町の事務→第1号法定受託事務〕
- D 県議会議員選挙の町の選挙事務〔公職選挙法に基づく町の事務→第2号法定受託事務〕
- E 町道の管理〔別表にも政令にも定めなし→控除的に自治事務〕
設例の仕事を当てはめます。みなと県の旅券の交付は、旅券法に基づく県の事務で、第1号法定受託事務です。あおば町の戸籍の届出の受理は、戸籍法に基づく町の事務で、やはり第1号です。あおば町が県議会議員選挙のために行う選挙の事務は、第2号です。県議会の選挙は県の選挙なので、その事務は本来、県の役割に係ります。そのうち町が受け持つ部分を、町が処理するからです。一方、町道の管理は、別表にも政令にも法定受託事務として定められていないので、控除的に自治事務になります。憲法の回では、地方選挙は自治事務、国政選挙は法定受託事務、と大づかみに例を挙げました。県が自分の議会の選挙を管理する事務は、そのとおり県の自治事務です。今日は、その選挙のために町が受け持つ事務まで、精密に分けました。同じ選挙でも、誰の役割の事務を、誰が処理するかで、区分が変わります。
第2号は県と町の間の話で、国は直接には出てきません。町の事務に国がどう関わるかは、あとで県と町の二層として見ます。確認です。前の動画で読んだ議会の調査権、100条1項には括弧書きがありました。あの括弧書きは何を除いていましたか?調査の対象にしない事務の除外でした。自治事務と法定受託事務で、書き分けていた気がします。今日、その意味が回収されます。ここからが、この回で一番つまずきやすいところです。
法定受託事務も、地方公共団体の事務
図:つまずきどころ
- 憲法の回の入口=国の仕事を地方が代わりに担うイメージ→精密化=国が本来果たすべき役割に係るから適正な処理を特に確保したい。ただし処理するのは地方公共団体自身の事務〔138条の2の2=自らの判断と責任において誠実に管理し及び執行〕
- 例え=受託製造〔依頼元から品質を特に厳守と頼まれても、作るのは自社工場・自社の責任〕
憲法の回で、法定受託事務は、本来は国の事務で、国の仕事を地方が代わりに担うイメージだと説明しました。入口のイメージとしては悪くありません。ここで、本来は国の事務、という部分を精密にします。法定受託事務を処理する主体は、国ではなく、地方公共団体です。本来は国の、と言えるのは、事務そのものではなく、役割のほうです。国が本来果たすべき役割に係るものなので、適正な処理を特に確保したい。だから国の関与が強くなります。けれども、処理するのは、あくまで地方公共団体自身です。喩えで考えます。メーカーが、取引先から、この商品は衛生基準を特に厳守で作ってほしい、と受託製造を頼まれたとします。依頼元は、品質について強く口を出せます。けれども、作るのは自社の工場で、責任も自社が負います。依頼元の工場ではありませんし、依頼元が工場の従業員に直接命令するわけでもありません。法定受託事務は、これに近い関係です。前の動画で、自治法138条の2の2を読みました。執行機関は、自らの判断と責任において、誠実に管理し執行する義務を負う、という条文です。これは法定受託事務にも当てはまります。県知事が旅券の交付をするとき、それは国の機関としてではなく、県の知事としてです。
図:法定受託事務も地方の事務だと、何が変わるか
- 国の包括的な指揮監督は無い→関与は法律の根拠が要る
- 通達はそのまま拘束しない〔大臣と知事は上級・下級でない〕
- 条例の対象になる
- 議会の調査・検閲・監査委員の監査の対象になる
この考え方から、帰結が出てきます。順に見ます。まず、大臣に、知事に対する包括的な指揮監督はありません。国が関与するには、法律の根拠が要ります。このあと詳しく見ます。次に、通達が、そのまま県を拘束するわけではありません。前に、通達は上級機関から下級機関への命令だと見ました。大臣と県知事は、上級と下級の関係にありません。機関委任事務の時代は、知事が国の機関だったので、通達が効きました。今は国と県が別々の行政主体なので、上下の命令としての通達では縛れません。ただし法定受託事務については、法律に根拠を置いて、大臣が処理の基準を定める仕組みが別にあります。さらに、法定受託事務も、条例の対象になります。どこまで条例で決められるかは、別の回で扱います。最後に、議会の調査や検閲、監査委員の監査の対象にもなります。先ほどの100条1項の括弧書きの話です。
図:除外の範囲の違い
- 調査〔100条1項〕・検閲検査〔98条1項〕・監査の請求〔98条2項〕・監査〔199条2項〕に同じ型の括弧書き
- 自治事務=労働委員会・収用委員会の権限に属する事務で政令で定めるものを除く
- 法定受託事務=国の安全を害するおそれがあることその他の事由により対象とすることが適当でないものとして政令で定めるものを除く
- どちらも原則は対象
100条1項の括弧書きは、自治事務については、労働委員会と収用委員会の権限に属する事務で、政令で定めるものを除いていました。法定受託事務については、国の安全を害するおそれがあることなどの事由で、調査の対象にするのが適当でないとして、政令で定めるものを除いていました。除く範囲が違うのです。議会の検閲・検査を定める98条1項、議会が監査委員に監査を求める98条2項、監査委員の監査を定める199条2項にも、同じ型の括弧書きがあります。いずれも、原則は法定受託事務も対象で、除かれるのは政令で定めたものだけ、という構えです。練習です。法定受託事務の処理について、みなと県の議会は調査できるでしょうか。
法定受託事務も県自身の事務だから、議会の調査は及びます。例外は、政令で除かれたものだけです。これで、最初の問いの中身が見えました。法定受託事務は、国の事務の代行ではなく、地方公共団体自身の事務です。
図:2つの事務の共通点と相違点
- 共通=地方公共団体の事務
- 条例制定権の対象
- 相違=国の関与の強さ〔自治事務は是正の要求まで・法定受託事務は是正の指示・代執行まで〕
- 議会の調査・検閲の除外の範囲
- 監査委員の監査の除外の範囲
- 処分の審査請求先〔法定受託事務は所管大臣や知事へ・255条の2〕
共通点と相違点を、板にまとめます。共通するのは、どちらも地方公共団体の事務であること、そして条例制定権の対象になることです。違うのは、国の関与の強さ、議会の調査や検閲の除外の範囲、監査委員の監査の除外の範囲です。最後の行に、法定受託事務についての処分に不服がある人が、見直しを求める審査請求は、所管の大臣や知事に行く、という点を一行入れてあります。審査請求先の一般論は別の回で扱います。国の関与の強さは、このあと条文で読みます。
国の関与の枠組み——類型・法定主義・強さの段階
図:国の関与とは
- 国または都道府県の機関が、普通地方公共団体の事務の処理に関し行う次の行為
- 固有の資格において名宛人となるものに限る
- 1号=イ助言・勧告 ロ資料の提出の要求 ハ是正の要求 ニ同意 ホ許可・認可・承認 ヘ指示 ト代執行
- 2号=協議
- 3号=具体的かつ個別的に関わる行為
もう1つの問いです。国は県にどんな手を、どこまで使えるのか。まず、国の関与という言葉の意味を条文で確認します。245条です。長いので、3枚に分けて読みます。
条文地方自治法245条(柱書の国の行政機関の列挙は…で省略)
地方自治法第245条(柱書・1号イ・ロ) この章並びに第二百五十二条の二十六の三第一項及び第二項において「普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与」とは、普通地方公共団体の事務の処理に関し、…又は都道府県の機関が行う次に掲げる行為(普通地方公共団体がその固有の資格において当該行為の名宛人となるものに限り、国又は都道府県の普通地方公共団体に対する支出金の交付及び返還に係るものを除く。)をいう。 一 普通地方公共団体に対する次に掲げる行為 イ 助言又は勧告 ロ 資料の提出の要求
国の関与とは、地方公共団体の事務の処理に関して、国や都道府県の機関が行う行為です。括弧書きに、固有の資格という言葉があります。国が地方公共団体を、私人でも立ちうる立場で相手にする行為は、関与に当たりません。たとえば、町が公営のバスを走らせるために、民間のバス会社と同じ許可を受ける場面です。町は私人と同じ立場で許可の相手になっているので、この許可は関与に当たりません。固有の資格の一般論は、別の回で扱います。1号の最初は、助言または勧告、資料の提出の要求です。続きを読みます。
条文地方自治法245条(1号ハ〜ト)
地方自治法第245条(1号ハ〜ト) ハ 是正の要求(普通地方公共団体の事務の処理が法令の規定に違反しているとき又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害しているときに当該普通地方公共団体に対して行われる当該違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことの求めであつて、当該求めを受けた普通地方公共団体がその違反の是正又は改善のため必要な措置を講じなければならないものをいう。) ニ 同意 ホ 許可、認可又は承認 ヘ 指示 ト 代執行(普通地方公共団体の事務の処理が法令の規定に違反しているとき又は当該普通地方公共団体がその事務の処理を怠つているときに、その是正のための措置を当該普通地方公共団体に代わつて行うことをいう。)
関与は、助言から代執行まで幅のある総称です。その中で、是正の要求だけは、定義の中に、受けた団体が必要な措置を講じなければならないもの、と入っています。ここが、助言や勧告との大きな違いです。聞こえは似ています。けれども助言は、従う義務がありません。是正の要求は、受けた団体が措置を講じなければなりません。みなと県に届いた1通目が、後者でした。残りの2号と3号です。
条文地方自治法245条(2号・3号)
地方自治法第245条(2号・3号) 二 普通地方公共団体との協議 三 前二号に掲げる行為のほか、一定の行政目的を実現するため普通地方公共団体に対して具体的かつ個別的に関わる行為(相反する利害を有する者の間の利害の調整を目的としてされる裁定その他の行為(その双方を名宛人とするものに限る。)及び審査請求その他の不服申立てに対する裁決、決定その他の行為を除く。)
図:関与の類型と義務
- 助言・勧告=従う義務なし
- 資料の提出の要求
- 是正の要求=受けた団体が措置を講じなければならない〔定義に入っている〕
- 同意・許可・認可・承認=得なければ進めない手
- 指示・代執行=強い手〔あとで見る〕
- 協議=話し合い
- 3号=その他の具体的かつ個別的な関わり
3号は、1号と2号に当てはまらない関わりを拾う受け皿です。類型を板に並べました。このあと、強い順に並べ替えて読みます。その前に、そもそも国は、何を根拠にこれらの手を使えるのか。245条の2です。
図:関与の法定主義
- 245条の2=法律又はこれに基づく政令によらなければ関与を受けず、要することとされない
- 通達や告示で関与は作れない
- 境界のペア=旅券法に承認の定めがある場合は許される・通達だけで承認を求めるのは反する
条文は、次のとおりです。
条文地方自治法245条の2
地方自治法第245条の2 普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律又はこれに基づく政令によらなければ、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとされることはない。
地方公共団体は、法律かそれに基づく政令によらなければ、国の関与を受けることも、要することとされることもない。これを関与の法定主義と呼びます。決め手は、地方の自主性を守ることです。機関委任事務の時代は、大臣が通達で地方に細かく指示できました。通達は国の内部の文書で、地方はその内容を決める場に加われません。関与を、法律という公開の場で決めさせることで、通達による関与を排除したのです。境界のペアで見ます。仮に、旅券法が、県は旅券の交付について大臣の承認を受けなければならない、と定めているとします。承認を要することの根拠が法律にあるので、許されます。これに対して、法律にも政令にも根拠がないのに、大臣が通達で、承認を受けるよう県に求める。これは、承認を要することとされる関与を、法律でも政令でもないもので作るので、245条の2に反します。
大臣が決めること自体が、だめなのではありません。法律や政令の根拠が無いのが、だめなのです。告示という形で、そこが争われた判例があります。順に説明します。
図:泉佐野市の事件
- ふるさと納税の対象にできる団体を総務大臣が指定する制度が法律で導入された→大臣は、制度の導入前に返礼品で多額の寄附を集めていたことなどを理由に泉佐野市を指定しなかった→指定の基準は大臣が告示で定めていた→その基準の効力が争われた
- 判旨=告示の指定基準は国の関与にあたる基準→策定には法律上の根拠を要する→委任の範囲を逸脱する部分は効力を有しない
ふるさと納税の対象にできる団体を総務大臣が指定する制度が、法律で導入されました。大臣は、泉佐野市が制度の導入前に返礼品で多額の寄附を集めていたことなどを理由に、同市を指定しませんでした。指定の基準は、大臣が告示で定めていました。その基準の効力が争われた事件です。判旨を読みます。
判例最判令2・6・30 民集74巻4号800頁
関与の法定主義 地方自治法245条の2は、普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律又はこれに基づく政令によらなければ、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与(同法245条)を受け、又は要することとされることはないとする関与の法定主義を規定するところ、本件告示2条3号は、普通地方公共団体に対する国の関与に当たる指定の基準を定めるものであるから、関与の法定主義に鑑みても、その策定には法律上の根拠を要するというべきである。 そうすると、本件告示2条3号の規定が地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱するものである場合には、その逸脱する部分は違法なものとして効力を有しないというべきである。
指定を受けられないと、市はふるさと納税の対象から外れます。判決は、その指定の基準を、国の関与にあたる基準だと見ました。だから、その策定には法律上の根拠が要ります。そして、法律の委任の範囲を逸脱する部分は、効力を持たない、と述べました。通達だけでなく、告示という形でも、法律の根拠なしに関与は作れない、というのがこの判旨の読み方です。授権の趣旨をどう読むかという委任命令の論点は、別の回で扱います。
図:国の関与の基本原則
- 245条の3第1項=必要な最小限度のもの・自主性及び自立性に配慮
- 2項=自治事務は代執行・その他の関与〔3号〕をできる限り避ける
- 法定受託事務は3号の関与をできる限り避ける
- 3項=協議を要することとしない〔事務一般・調整が必要な場合を除く〕
- 4項=同意を要することとしない〔自治事務・例外あり〕
- 5項=許可・認可・承認を要することとしない〔自治事務・例外あり〕
- 6項=指示に従わなければならないこととしない〔自治事務・緊急等を除く〕
関与を法律で決めるとき、無制限でよいわけではありません。245条の3第1項です。
条文地方自治法245条の3第1項
地方自治法第245条の3第1項 国は、普通地方公共団体が、その事務の処理に関し、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとする場合には、その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない。
国が関与を定めるときは、目的を達成するために必要な最小限度のものにして、地方の自主性と自立性に配慮しなければならない。法定主義が、関与に法律の根拠を求める定めなら、こちらは、その法律の中身を絞る定めです。2項以下は板に骨格を並べました。自治事務については、代執行と、その他の具体的かつ個別的な関与を、できる限り避けます。同意と、許可・認可・承認を要することとはしません。指示に従わなければならないこととはしません。ただし、それぞれに例外があります。4項の同意は、国の施策と地方の施策の整合性を確保しないと、実施に著しく支障が生ずる場合などです。5項の許可・認可・承認は、特別の法律で法人を設立する場合のように、ほかの方法では処理の適正を確保しにくい場合などです。6項の指示は、国民の生命などを守るため緊急に必要な場合などです。法定受託事務は、その他の関与をできる限り避けます。協議を要することとしないのは、事務一般についてで、国と地方の施策の調整が必要な場合は別です。ここから出てくる帰結が大事です。自治事務について避けるとされたのは、同意、許可・認可・承認、指示、代執行のように、国が結論を決めたり、代わりにやったりする手でした。残るのは、助言、資料の提出の要求、是正の要求です。是正の要求は、直すことは求めますが、直し方までは決めないので、自主性への配慮と両立します。協議は、義務づけることは原則しませんが、国と地方の施策の調整が必要な場面では使えます。個別の法律に特別の定めがある場合は別です。
図:強さの段階
- 弱→強:技術的な助言・勧告・資料の提出の要求=従う義務なし
- 是正の要求=自治事務・措置を講じる義務
- 是正の指示=法定受託事務
- 代執行=法定受託事務・高等裁判所の裁判を挟む
- 自治事務はここまで〔是正の要求まで〕
国の手は、強さの順に段階があります。いちばん弱いのが、技術的な助言と勧告と資料の提出の要求です。次が、自治事務に対する是正の要求。その上が、法定受託事務に対する是正の指示。いちばん強いのが、法定受託事務に対する代執行です。1段ずつ、条文で見ていきます。
図:助言の段
- 助言・勧告・資料の提出の要求=従う義務なし〔245条の4第1項〕
- 従わなくても不利益な取扱いを受けない〔247条3項〕
- 令2判決=助言等に従って事務を処理すべき法律上の義務を負わない
いちばん弱い段の根拠は、245条の4第1項です。
条文地方自治法245条の4第1項(括弧書きは…で省略)
地方自治法第245条の4第1項 …又は都道府県知事その他の都道府県の執行機関は、その担任する事務に関し、普通地方公共団体に対し、普通地方公共団体の事務の運営その他の事項について適切と認める技術的な助言若しくは勧告をし、又は当該助言若しくは勧告をするため若しくは普通地方公共団体の事務の適正な処理に関する情報を提供するため必要な資料の提出を求めることができる。
国の機関や県の機関は、地方公共団体に、技術的な助言や勧告をして、必要な資料の提出を求めることができます。ここには、従え、という言葉がありません。助言に従わなかった団体の扱いは、247条3項に書いてあります。
条文地方自治法247条3項
地方自治法第247条第3項 国又は都道府県の職員は、普通地方公共団体が国の行政機関又は都道府県の機関が行つた助言等に従わなかつたことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
泉佐野市の判決も、この趣旨を述べています。
判例最判令2・6・30 民集74巻4号800頁
助言に従わないことと不利益取扱い 同法247条3項は、国の職員は普通地方公共団体が国の行政機関が行った助言等に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないと規定するところ、その趣旨は、普通地方公共団体は助言等に従って事務を処理すべき法律上の義務を負わず、これに従わなくても不利益な取扱いを受ける法律上の根拠がないため、その不利益な取扱いを禁止することにあると解される。
判決は、地方公共団体は助言等に従って事務を処理する法律上の義務を負わない、と言いました。助言は、受け手を縛らないのです。話を告示の基準に戻します。この基準は、制度の導入前の募集実績を理由に指定を受けられないとする趣旨のものでした。指定を受けられないという不利益を定める側面を持つので、判決は、いまの247条3項の趣旨も考慮して、次のように述べました。
判例最判令2・6・30 民集74巻4号800頁
不利益を定める基準と授権の趣旨 ……同項の趣旨も考慮すると、本件告示2条3号が地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱したものではないというためには、前記(ア)のような趣旨の基準の策定を委任する授権の趣旨が、同法の規定等から明確に読み取れることを要するものというべきである。 …… 本件告示2条3号の規定のうち、本件改正規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分は、地方税法37条の2第2項及び314条の7第2項の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。
不利益な取扱いを定める側面を持つ基準が委任の範囲内だと言うには、授権の趣旨が法律の規定などから明確に読み取れることを要する、としたのです。結論は、導入前の募集実績を理由にする部分は、委任の範囲を逸脱して無効、というものでした。最高裁は、原判決を破棄し、不指定の決定を取り消しました。
図:是正の要求の段
- 245条の5=各大臣が都道府県の自治事務の処理について
- 要件=法令違反、又は著しく適正を欠き、かつ明らかに公益を害する
- 効果=求めを受けた団体は必要な措置を講じなければならない〔5項〕
- 冒頭の1通目はこれ
次の段は、是正の要求です。245条の5です。
条文地方自治法245条の5第1項・5項
地方自治法第245条の5第1項・第5項 各大臣は、その担任する事務に関し、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該自治事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることができる。 5 普通地方公共団体は、第一項、第三項又は前項の規定による求めを受けたときは、当該事務の処理について違反の是正又は改善のための必要な措置を講じなければならない。
大臣は、都道府県の自治事務の処理が法令に違反していたり、著しく適正を欠いて明らかに公益を害していたりするときは、是正のために必要な措置を求められます。求めを受けた団体は、措置を講じなければなりません。みなと県に届いた1通目が、これです。要件にも注目してください。支援金の配り方が法令どおりで、大臣が別のやり方を好むだけ、では足りません。法令違反か、著しく適正を欠いて明らかに公益を害している、という重い要件です。強い手には、重い要件が付いています。
図:是正の指示の段
- 245条の7=各大臣が所管する法律・政令に係る都道府県の法定受託事務の処理について
- 要件は是正の要求と同じ型
- 要求と指示の違い=対象事務
- 自治事務に是正の指示は出せない〔個別の法律に特別の定めがある場合を除く〕
- 冒頭の2通目はこれ
その上の段が、是正の指示です。245条の7です。
条文地方自治法245条の7第1項
地方自治法第245条の7第1項 各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。
大臣は、所管する法律や政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が、同じ要件にあたるときは、必要な指示ができます。みなと県の旅券の交付についての2通目が、これです。是正の要求と是正の指示は、要件の書き方がそっくりです。違うのは対象です。要求は自治事務、指示は法定受託事務です。対象の事務の性質が、手の名前と強さを分けています。では、指示の何が強いのか。是正の要求は、さきほど見たとおり、直すことは求めても、どう直すかは県が決める手でした。是正の指示は、講ずべき措置に関し、必要な指示をする手です。どう直すかの中身まで、大臣が示せます。法定受託事務は、国が適正な処理を特に確保したい事務なので、直し方まで指示できる。自治事務は、地域の特性に応じて処理する事務なので、直し方は県に任せる。これが、1段の差です。練習です。自治事務に、大臣は是正の指示を出せるでしょうか。
原則として、自治事務に是正の指示は出せません。指示は法定受託事務への手です。ただし、個別の法律に特別の定めがある場合は別です。自治事務は要求まで、法定受託事務は指示と代執行まで、と押さえてください。
図:代執行の前提
- 命じることと代わりにやることは別
- 対等な国と県・最も強い手→代わりにやる前に高等裁判所の裁判を挟む
- 自治法の代執行は行政代執行法の代執行とは別の制度
最後の段、代執行に入る前に、確認です。前に、命じることと代わりにやることは、何が違うと言いましたか?命じるのは指揮監督権でできます。代わりにやるには、特別の法律の根拠が要りました。ここでの代執行は、その代行の延長です。ただし国と県は対等な主体です。そのうえで、国が県に代わってやる前に、高等裁判所の裁判を挟みます。決め手は、国が一人で決めないことです。代執行は、県の判断を国が丸ごと置き換える、いちばん強い手です。だから、第三者の裁判所が、これは行うべき事項だと命じてから初めて、代わって行える形にしています。ここで使う代執行は、自治法の代執行です。前に見た、私人の義務を行政が代わりに実現する行政代執行とは、名前が同じだけの別の制度です。行政代執行の要件と手続は、別の回で詳しく扱います。
図:代執行の手続
- 要件=他の方法で是正を図ることが困難+放置すれば著しく公益を害することが明らか→①文書で勧告〔期限を定める〕→②文書で指示〔期限を定める〕→③高等裁判所に「行うべきことを命ずる旨の裁判」を請求→④裁判に従わない→⑤大臣が知事に代わって行う〔日時・場所・方法を事前に通知〕
- 口頭弁論は提訴から15日以内・上告期間は1週間
流れは板のとおりです。勧告、指示、裁判の請求、裁判に従わないとき代わりに行う、の順です。条文は、245条の8です。1枚ずつ読みます。まず勧告です。
条文地方自治法245条の8第1項
地方自治法第245条の8第1項 各大臣は、その所管する法律若しくはこれに基づく政令に係る都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定若しくは当該各大臣の処分に違反するものがある場合又は当該法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合において、本項から第八項までに規定する措置以外の方法によつてその是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるときは、文書により、当該都道府県知事に対して、その旨を指摘し、期限を定めて、当該違反を是正し、又は当該怠る法定受託事務の管理若しくは執行を改めるべきことを勧告することができる。
法定受託事務の管理や執行が違法または怠られていて、ほかの方法では是正が困難で、放置すれば著しく公益を害することが明らかなとき。この重い要件がそろって初めて、文書で勧告ができます。ここまでは、あくまで勧告です。従わなければ、次は指示と裁判の請求です。みなと県が、2通目の是正の指示を受けても、旅券の交付を法令に反する扱いのまま続けたとします。それでも大臣は、すぐに窓口を代わりに動かせるわけではありません。代わりにやるには、245条の8が専用の手順を用意しています。これから出てくる指示は、その手順の2段目で、2通目の是正の指示とは、条文も役目も別のものです。いま読んだ勧告から、一つずつ踏みます。
条文地方自治法245条の8第2項・3項
地方自治法第245条の8第2項・第3項 2 各大臣は、都道府県知事が前項の期限までに同項の規定による勧告に係る事項を行わないときは、文書により、当該都道府県知事に対し、期限を定めて当該事項を行うべきことを指示することができる。 3 各大臣は、都道府県知事が前項の期限までに当該事項を行わないときは、高等裁判所に対し、訴えをもつて、当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判を請求することができる。
勧告に従わなければ指示、指示にも従わなければ、高等裁判所に、行うべきことを命ずる裁判を請求します。ここで初めて、裁判所が出てきます。裁判所の手続は急がされていて、口頭弁論は提訴から15日以内、上告期間は1週間です。請求に理由があれば、高等裁判所は、期限を定めて、行うべきことを命じる裁判をします。次の条文に出てくる第6項の裁判は、これのことです。それでも知事が従わないとき、いよいよ代わりに行う段階です。
条文地方自治法245条の8第8項
地方自治法第245条の8第8項 8 各大臣は、都道府県知事が第六項の裁判に従い同項の期限までに、なお、当該事項を行わないときは、当該都道府県知事に代わつて当該事項を行うことができる。この場合においては、各大臣は、あらかじめ当該都道府県知事に対し、当該事項を行う日時、場所及び方法を通知しなければならない。
裁判に従わないときに限って、大臣が知事に代わって行えます。しかも代わって行う前に、日時、場所、方法を通知します。勧告、指示、裁判と、何重にも手順を踏む。これが、対等な主体に対する最も強い手の姿です。要件が重く、手順も重い。この対応は、段階全体に通じています。
図:県と町の二層
- A=担当大臣
- B=みなと県
- C=あおば町
- 町の自治事務の是正の要求=A→B「町に求めよ」と指示→B→C 求める〔245条の5第2項・3項〕・緊急その他特に必要なときだけA⇢C 直接〔4項〕
- 町の自治事務への県の手=是正の勧告〔245条の6〕
- 町の法定受託事務の是正の指示=B→C〔245条の7第2項〕・第1号法定受託事務はA→Bの指示も可〔3項〕・緊急時はA⇢C〔4項〕
- 町長の法定受託事務の代執行=県知事が主体〔245条の8第12項〕
ここまでは、大臣と県の話でした。あおば町が登場すると、手が二層になります。町の事務に対する関与は、原則として、県を通ります。たとえば、あおば町の町道の管理が法令に反していて、大臣が直させたいとします。町道の管理は自治事務でした。大臣は、みなと県に、町に是正を求めるよう指示し、県があおば町に求めます。大臣が直接町に求めるのは、緊急その他、特に必要があるときだけです。県が自分の判断で町の自治事務に出せる是正の手は、是正の勧告です。町の法定受託事務への是正の指示は、県が町に出します。第1号法定受託事務については、大臣が県に指示することもできて、緊急のときは直接も可能です。町長の法定受託事務の代執行は、県知事が主体になります。大臣が町に直接、という形が原則ではありません。国と地方の間の手続のルールも、自治法は用意しています。
図:関与の手続
- 助言・勧告・資料要求を書面によらずに行ったとき→相手が求めれば趣旨・内容を記載した書面を交付〔247条1項・248条〕
- 是正の要求・指示→同時に内容及び理由を記載した書面を交付〔249条1項・差し迫った必要があれば後で〔2項〕〕
- 協議は誠実に〔250条〕
- 許認可等の審査基準の設定・公表〔250条の2〕
- 標準処理期間〔250条の3〕
- 拒否処分・取消しの理由を記載した書面〔250条の4〕
- 届出は到達で履行〔250条の5〕
- 国の行政機関が自治事務と同一の事務を自ら処理するときは事前通知〔250条の6〕
板の表は、暗記用ではありません。形を見てください。助言などを口頭でしたときは、相手が求めれば書面を渡します。是正の要求と指示は、内容と理由を記載した書面を同時に渡します。差し迫った必要があるときだけ、後からでも構いません。協議は誠実に行います。許可や認可などを出すかどうかの物差しである審査基準を定めて公表し、結論までにかかる目安の期間である標準処理期間は、定めるよう努めて、定めたら公にし、拒否のときは理由を書面で示します。行政手続法の審査基準、標準処理期間、理由の提示と、同じ発想のルールです。行政手続法は国と地方の間のやりとりには及ばない場面があるので、自治法が国と地方の間に同じ型のルールを置いているのです。行政手続法の側は、後の回で見ます。みなと県に届いた2通が、書面で理由付きで届いていたのも、この249条のおかげです。
図:国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の特例
- 2024年の改正で第14章に追加
- 資料・意見の提出要求〔252条の26の3〕
- 事務処理の調整の指示〔26の4〕
- 生命等の保護の措置に関する指示〔26の5=他の法律に基づき指示できる場合を除き・閣議の決定を経て・必要な限度で/指示したときは国会に報告〕
- 応援の要求・指示〔26の6〜26の8〕
- 職員派遣〔26の9・26の10〕
最後に、2024年の改正で加わった特例を位置づけます。大規模な災害や感染症のまん延のような、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に、国が地方公共団体に指示できる特例です。第14章に、資料の提出の要求、事務処理の調整の指示、応援の要求と指示、職員の派遣などが並びます。その中心が252条の26の5です。
条文地方自治法252条の26の5第1項・4項
地方自治法第252条の26の5第1項・第4項 各大臣は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の規模及び態様、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に係る地域の状況その他の当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に関する状況を勘案して、その担任する事務に関し、生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため特に必要があると認めるときは、他の法律の規定に基づき当該生命等の保護の措置に関し必要な指示をすることができる場合を除き、閣議の決定を経て、その必要な限度において、普通地方公共団体に対し、当該普通地方公共団体の事務の処理について当該生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。 … 4 各大臣は、第一項の指示をしたときは、その旨及びその内容を国会に報告するものとする。
生命等の保護の措置を的確かつ迅速に実施するため特に必要があるときに、大臣が、閣議の決定を経て、必要な限度で指示できます。指示をしたときは、その旨と内容を国会に報告します。条文の言い方は、他の法律の規定に基づき指示ができる場合を除き、です。個別の法律に指示の定めが無い場面を、自治法という一般法が補う形なので、補充的な指示と呼ばれることがあります。通称で、条文の文言ではありません。位置づけとして大事なのは、これも法定主義の線の上にあることです。根拠は自治法という法律にあり、閣議決定と国会への報告という歯止めが付いています。ここまでで、国の手の枠組みがそろいました。
2つの問いの答えとまとめ
図:2つの問いの答え
- ①法定受託事務も地方公共団体自身の事務〔国の事務の代行ではない〕・違いは国の関与の強さと議会・監査の除外の範囲
- ②国の関与は法律の根拠が要り〔法定主義〕必要最小限度・強さの段階=助言<是正の要求〔自治事務〕<是正の指示〔法定受託事務〕<代執行〔法定受託事務〕
冒頭の問いに戻ります。順に答えます。1つは、県の仕事は、国の仕事の代行なのか。違います。法定受託事務も、国が本来果たすべき役割に係るから適正な処理を特に確保したいだけで、処理するのは地方公共団体自身の事務です。自治事務との違いは、国の関与の強さと、議会の調査や監査の除外の範囲です。もう1つは、国は県にどんな手を、どこまで使えるのか。関与には法律の根拠が要り、必要最小限度で、強さに段階があります。助言には従う義務がありません。自治事務には是正の要求まで、法定受託事務には是正の指示と、裁判を挟んだ代執行まで使えます。最初の2通の文書に戻ります。1通目の是正の要求は、自治事務への手で、受けた県が措置を講じなければならない力を持っています。2通目の是正の指示は、法定受託事務への手で、助言ではなく、より強い手です。従わなかったときに、大臣が取れる手の上限は、自治事務なら是正の要求まで、法定受託事務なら代執行までです。同じ直せでも、事務の性質が、国の手の強さを分けていたのです。県が納得できないときに、裁判所で争う道は、次の回で見ます。
参照条文
- 地方自治法1条の2第1項・2項
- 地方自治法2条11項・13項
- 地方自治法2条8項・9項
- 地方自治法245条(柱書の国の行政機関の列挙は…で省略)
- 地方自治法245条(1号ハ〜ト)
- 地方自治法245条(2号・3号)
- 地方自治法245条の2
- 地方自治法245条の3第1項
- 地方自治法245条の4第1項(括弧書きは…で省略)
- 地方自治法247条3項
- 地方自治法245条の5第1項・5項
- 地方自治法245条の7第1項
- 地方自治法245条の8第1項
- 地方自治法245条の8第2項・3項
- 地方自治法245条の8第8項
- 地方自治法252条の26の5第1項・4項