住民の権利と直接請求
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第2章 行政組織法 ㉚/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
選んだあとの4年間
図:ひばり市の公用車契約
- A=住民〔有権者約24万〕
- B=市長
- C=市議会
- D=業者
- B→D=公用車の買い替え契約を相場より高い値で結ぶ
- A→B・A→C=4年に1度の選挙で選ぶ
- A⇢B・A⇢C=選挙のあいだは?
今日は、地方の組織の最後に、住民の側から見ます。まず、議会と長の回の確認です。議会が市長の不信任を議決したとき、市長が取れる道は何でしたか?10日以内に議会を解散するか、解散しなければ失職する、でした。市長が議会を解散する道は、長の側にある道でした。今日は、その反対側を見ます。板は、ひばり市です。人口は約30万人で、選挙権を持つ人は約24万人います。この市が、公用車の買い替え契約を、特定の業者と結びました。値段は、相場よりかなり高い。市長も議会も、問題にしようとしません。住民には、次の選挙を待たずに動かせる道があります。憲法の回で、地方自治の本旨の住民自治を見ました。そこでは、住民が自分の手で動かす道があるとだけ紹介して、中身は別の機会に、と送っていました。今日は、その道を条文で開けます。
図:今日の問い
- ①住民が自分の手で動かせる道は何本あるか
- ②それぞれ、最後に決めるのは誰か
- ③名前の似た2つの監査請求はどう違うか
問いは3つです。1つ目。住民が自分の手で動かせる道は何本あるか。2つ目。それぞれの道で、最後に決めるのは誰か。3つ目。名前の似た2つの監査請求は、どう違うのか。持ち帰ってほしいのは、条文の番号ではなく、骨組みです。
住民とは誰か
図:3つの輪
- A=住民〔区域内に住所がある〕
- B=日本国民たる住民
- C=選挙権を有する者〔日本国民・満18歳以上・引き続き3か月以上住所〕
- C⊂B⊂A の入れ子
- ひばり市=A約30万人・C約24万人
道に入る前に、言葉を分けます。住民と、日本国民たる住民と、選挙権を有する者は、別のものです。ここを混ぜると、あとの署名の話が崩れます。まず住民から。
条文地方自治法10条1項・2項
地方自治法第10条 市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。 2 住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。
骨格は、市町村の区域内に住所がある人が、その市町村の住民で、同時にそれを包括する県の住民でもある、です。住所とは、生活の本拠のことです。国籍も年齢も、条文のどこにも書かれていません。2項は、住民の地位です。役務の提供、つまり公共サービスをひとしく受ける権利があり、その費用の負担を分け合って担う義務があります。分任とは、分け合って担うことです。住所がなくても、関わりの深い人は、住民に準ずる地位にある者として、公の施設の利用で差別されない、と前に見ました。今日は、住所のある人に絞って進めます。次に、選挙権です。
条文地方自治法18条
地方自治法第18条 日本国民たる年齢満十八年以上の者で引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有するものは、別に法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する。
骨格は、日本国民で、満18年以上で、引き続き3か月以上その市町村に住所がある人が、議員と長の選挙権を持つ、です。ひばり市で数えます。住民は約30万人で、選挙権を持つ人は約24万人です。差の約6万人には、18歳未満の人と、外国籍の住民と、引っ越してきて3か月に満たない人が入っています。この6万人も、ひばり市の住民です。選挙の投票だけが、できません。これから見る直接請求は、条文が日本国民たる住民の権利と書き、署名できる人も選挙権を有する者と決めています。だから、外国籍の住民は、署名の数には入りません。ただし、あとで見る住民監査請求は、住民としか書かれていません。この違いが、2つの監査請求を分ける決め手になります。覚えておいてください。
直接請求の全体像
図:4つの見分け方
- 直接請求の4種〔条例の制定改廃/事務の監査/議会の解散/解職〕を、①何を求めるか②署名の数③誰に出すか④その後、誰が決めるか、の4つで見分ける
- 署名の数は2段階=50分の1・3分の1
住民が動かす道は、法律が4つに具体化しています。入口は12条と13条です。
条文地方自治法12条1項・2項
地方自治法第12条 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の条例(地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料及び手数料の徴収に関するものを除く。)の制定又は改廃を請求する権利を有する。 2 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の事務の監査を請求する権利を有する。
条文地方自治法13条1項・2項
地方自治法第13条 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の議会の解散を請求する権利を有する。 2 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の議会の議員、長、副知事若しくは副市町村長、第二百五十二条の十九第一項に規定する指定都市の総合区長、選挙管理委員若しくは監査委員又は公安委員会の委員の解職を請求する権利を有する。
骨格は、条例の制定や改廃を求める道と、事務の監査を求める道が12条です。議会の解散を求める道と、議員や長や副市長などの解職を求める道が13条です。合わせて4つの道になります。解職の請求は、通称リコールと呼ばれます。13条3項には、教育長と教育委員の解職の請求もあります。これは教育行政の法律に定めがあるので、今日は名前だけにします。この4つを、板の4つの問いで見分けます。何を求めるのか。署名は何分の1か。誰に出すのか。その後、誰が決めるのか。覚えるのは数字の羅列ではありません。この4つの問いに、理由で答えられるようにします。
理由は、求める重さが違うからです。条例を作ってほしい、事務を調べてほしい、という請求は、議会や監査委員に、判断してくださいと促すだけです。促すのに必要な数は、有権者の50分の1です。ひばり市なら4800人です。一方、議会を解散する、市長を辞めさせる、という請求は、いまその職にある人から、地位を奪う話です。議会の解散なら、議員全員が一度に職を失います。判断を促すだけの請求より、ずっと重いので、有権者の3分の1です。ひばり市なら8万人です。数字を暗記する前に、軽い請求と重い請求に分かれる、と覚えてください。軽いほうは、決めるのが議会や監査委員です。重いほうは、決めるのが住民の投票です。例外が1つあります。あとで出します。
4つの道をひとつずつ
図:直接請求の出し先
- A=住民〔署名する有権者〕
- B=長
- C=選挙管理委員会
- D=監査委員
- E=議会
- A→B=条例の制定改廃〔50分の1〕→B→E 付議
- A→D=事務の監査〔50分の1〕→公表
- A→C=議会の解散・議員と長の解職〔3分の1〕→住民の投票
- A→B=主要公務員の解職〔3分の1〕→B→E 議会が決める
1つずつ見ます。最初は、ひばり市の公用車の契約を透明にする条例を、住民が求める場面です。
条文地方自治法74条1項・3項
地方自治法第74条第1項・第3項 普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する者(以下この編において「選挙権を有する者」という。)は、政令で定めるところにより、その総数の五十分の一以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の長に対し、条例(地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料及び手数料の徴収に関するものを除く。)の制定又は改廃の請求をすることができる。 3 普通地方公共団体の長は、第一項の請求を受理した日から二十日以内に議会を招集し、意見を付けてこれを議会に付議し、その結果を同項の代表者(以下この条において「代表者」という。)に通知するとともに、これを公表しなければならない。
骨格は、選挙権を有する者のうち50分の1以上が連署して、代表者から長に、条例の制定や改廃を請求できる、です。連署とは、請求の書面に並べて署名することです。代表者とは、署名を集めて請求書を出す役の人です。請求を受けた長は、20日以内に議会を招集し、意見を付けて議会に付議します。付議とは、議会の議題にのせることです。ひばり市なら、署名を4800人分集めて、市長に出します。市長は、20日以内に議会を開き、意見を付けて議題にのせます。賛成すれば条例になり、反対すれば条例になりません。住民が条例を直接つくるのではなく、議会の議題にのせる権利です。最後に決めるのは議会です。括弧書きにも注意してください。地方税の賦課徴収と、分担金と、使用料と、手数料の徴収に関する条例は、この請求の対象外です。分担金は、特定の人が得をする事業の費用を、その人たちから集めるお金です。使用料は、市民プールのような施設を使った対価、手数料は、住民票の写しの交付のような事務の対価です。負担を決める条例は、財政の根幹です。署名で発議できるとすると、負担を軽くする案が出やすくなります。負担を下げれば収入が減り、ほかの仕事の財源をどうするかが残ります。その全体の釣り合いに責任を負うのは、予算を組む長と、それを議決する議会です。そこで、この2つが決める形にしてあります。条例の審議や公布の手続は、別の回で扱います。
図:事務の監査請求の流れ
- A=住民4800人〔50分の1〕
- D=監査委員
- A→D=公用車の管理を調べるよう請求
- D→監査して結果を公表
- D→議会・長に結果を提出
- ここで終わり=是正の命令は出ない
2つ目は、事務の監査の請求です。市の公用車の管理が、全体として適正かを調べさせたい場面です。
条文地方自治法75条1項
地方自治法第75条第1項 選挙権を有する者(道の方面公安委員会については、当該方面公安委員会の管理する方面本部の管轄区域内において選挙権を有する者)は、政令で定めるところにより、その総数の五十分の一以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の監査委員に対し、当該普通地方公共団体の事務の執行に関し、監査の請求をすることができる。
骨格は、50分の1以上の連署で、代表者から監査委員に、事務の執行に関して監査を請求できる、です。監査委員とは、地方公共団体の事務や財務を点検する、独立の機関です。市長の部下ではありません。請求を受けた監査委員は、請求された事項を監査し、結果の報告を決めて、代表者に送り、公表し、議会と長などに提出します。75条3項が定めています。ここで、この道は終わります。調べて公表するところまでが仕事で、この契約をやめなさいという命令までは出ません。結果を受けて動くかどうかは、議会と長の判断です。財務に限らず、一部の例外を除いて事務全般が対象になる広い道です。広いけれど、結末が軽い。この組み合わせを覚えておいてください。あとの比較で効きます。
図:署名数の段階
- 有権者が40万以下=総数の3分の1
- 40万超80万以下=40万を超える部分は6分の1
- 80万超=80万を超える部分は8分の1
- 各段階を積み上げて合算
- ひばり市〔24万〕=8万人
- 有権者100万人=13万3千人強+6万6千人強+2万5千人=約22.5万人
- 条例の制定改廃と事務の監査〔50分の1〕にこの段階は無い
3つ目の議会の解散の前に、議会と長の回を思い出してください。市長が議会を解散できたのは、どんな議決を受けたときでしたか?議会が市長の不信任を議決したときです。市長の側から解散できるのは、不信任を受けたときだけです。住民の側から解散を求める道は、そうした条件なしに、署名で始まります。
条文地方自治法76条1項・3項
地方自治法第76条第1項・第3項 選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の議会の解散の請求をすることができる。 3 第一項の請求があつたとき、委員会は、これを選挙人の投票に付さなければならない。
骨格は、3分の1以上の連署で、代表者から選挙管理委員会に、議会の解散を請求できる。請求があれば、委員会は、これを選挙人、つまり選挙権を有する者の投票に付す、です。選挙管理委員会とは、選挙の事務を担当する機関です。出し先が長でなく、選挙管理委員会であることに注意してください。投票を実際に行うのが、この委員会だからです。括弧書きは、大きな団体の緩和です。有権者が40万人以下なら、3分の1です。40万人を超える部分は6分の1にして、80万人を超える部分は8分の1にして、段階ごとに積み上げます。有権者が100万人なら、約22万5千人です。ひばり市は24万人なので、そのまま3分の1の8万人です。
条文地方自治法78条
地方自治法第78条 普通地方公共団体の議会は、第七十六条第三項の規定による解散の投票において過半数の同意があつたときは、解散するものとする。
署名が集まっただけでは解散しません。署名で決まるのは、投票にかけるところまでです。投票で過半数の同意があって、はじめて議会は解散します。決めるのは、住民の投票です。長も議会も、これを止められません。憲法の回で、住民投票の結果には法的な拘束力がない、と見ました。あれは、原発や基地をめぐって行われるような、結果の効力を法律が定めていない住民投票の話です。解散の投票は違います。78条が、過半数の同意があれば解散する、と結果そのものに効力を与えています。
条文地方自治法79条
地方自治法第79条 第七十六条第一項の規定による普通地方公共団体の議会の解散の請求は、その議会の議員の一般選挙のあつた日から一年間及び同条第三項の規定による解散の投票のあつた日から一年間は、これをすることができない。
期間の制限があります。議員の一般選挙、つまり議員全員を選ぶ選挙のあった日から1年間と、解散の投票のあった日から1年間は、請求できません。選ばれたばかりの議会に、仕事をする時間を与える趣旨です。
図:解職の2系統
- 長・議員=選挙で選ばれた者→選管へ〔3分の1〕→住民の投票で過半数→職を失う
- 議員は所属の選挙区の有権者で数え、その選挙区の投票〔選挙区が無いときは全体〕
- 主要公務員〔副市長・選管委員・監査委員・公安委員会委員など〕=住民の選挙でなく、議会が選任に関わる者→長へ〔3分の1〕→議会が決める
4つ目は解職請求です。まず、市長の解職から見ます。
条文地方自治法81条1項
地方自治法第81条第1項 選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の請求をすることができる。
条文地方自治法83条
地方自治法第83条 普通地方公共団体の議会の議員又は長は、第八十条第三項又は第八十一条第二項の規定による解職の投票において、過半数の同意があつたときは、その職を失う。
骨格は、3分の1以上の連署で、選挙管理委員会に、長の解職を請求できる。投票で過半数の同意があれば、長はその職を失う、です。解散の請求と同じ形です。ひばり市なら、8万人の署名で、市長の解職が投票にかけられます。議員の解職は80条にあります。形は同じですが、議員は1人ずつ請求の対象になります。数える有権者は、その議員の所属する選挙区の有権者で、投票もその選挙区で行います。選挙区がないときは、全体で数えます。
条文地方自治法84条
地方自治法第84条 第八十条第一項又は第八十一条第一項の規定による普通地方公共団体の議会の議員又は長の解職の請求は、その就職の日から一年間及び第八十条第三項又は第八十一条第二項の規定による解職の投票の日から一年間は、これをすることができない。ただし、公職選挙法第百条第六項の規定により当選人と定められ普通地方公共団体の議会の議員又は長となつた者に対する解職の請求は、その就職の日から一年以内においても、これをすることができる。
解散と同じく、就職の日から1年間と、解職の投票の日から1年間は、請求できません。ただし書きは、投票をせずに当選が決まった人、いわゆる無投票当選の人には、就職から1年以内でも請求を認めるものです。選挙で住民の判断を受けていないからです。ここで、立ち止まって考えてください。議会の解散と、長の解職は、住民の投票で決まりました。では、ひばり市の副市長の解職は、誰が決めると思いますか。住民の投票ですか。それとも議会ですか。住民の投票ではありません。副市長の解職を決めるのは議会です。条文で確かめます。
条文地方自治法86条1項
地方自治法第86条第1項 選挙権を有する者(第二百五十二条の十九第一項に規定する指定都市(以下この項において「指定都市」という。)の総合区長については当該総合区の区域内において選挙権を有する者、指定都市の区又は総合区の選挙管理委員については当該区又は総合区の区域内において選挙権を有する者、道の方面公安委員会の委員については当該方面公安委員会の管理する方面本部の管轄区域内において選挙権を有する者)は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の長に対し、副知事若しくは副市町村長、指定都市の総合区長、選挙管理委員若しくは監査委員又は公安委員会の委員の解職の請求をすることができる。
条文地方自治法87条1項
地方自治法第87条第1項 前条第一項に掲げる職に在る者は、同条第三項の場合において、当該普通地方公共団体の議会の議員の三分の二以上の者が出席し、その四分の三以上の者の同意があつたときは、その職を失う。
骨格は、3分の1以上の連署で、今度は選挙管理委員会ではなく、長に、副市長や監査委員などの解職を請求する。長は、これを議会に付議する。議会の議員の3分の2以上が出席し、その4分の3以上が同意すれば、その職を失う、です。86条に並ぶ、副市長、選挙管理委員、監査委員、公安委員会の委員を、まとめて主要公務員と呼びます。どれも、住民が選挙で選んだのではなく、議会が選任に関わって選ばれた役職です。監査委員や選挙管理委員は、職権の行使は長から独立していましたが、それは仕事のやり方の話で、どう選ばれるかとは別です。長が議会に付議するところまでが86条3項、議決の要件が87条1項です。理由は、選ばれ方にあります。長と議員は、住民が選挙で選んだ人です。だから、辞めさせるのも住民の投票です。副市長は、住民が選んだのではなく、市長が議会の同意を得て選んだ人です。選んだ側が議会の同意を得ていたので、辞めさせるときも議会が決めます。任命の道筋を、逆にたどる形です。出席が3分の2以上、同意が4分の3以上という、議決の要件は重いです。解職の議決は、簡単には通らないようになっています。
図:直接請求の比較表
- 条例の制定改廃〔74条〕=50分の1・長へ・長が20日以内に議会を招集して付議→議会が決める
- 事務の監査〔75条〕=50分の1・監査委員へ・監査して結果を公表し議会と長に提出
- 議会の解散〔76条・78条〕=3分の1・選管へ・住民の投票で過半数
- 長・議員の解職〔80条・81条・83条〕=3分の1・選管へ・住民の投票で過半数
- 主要公務員の解職〔86条・87条〕=3分の1・長へ・議会で3分の2以上出席・4分の3以上の同意
- 欄外=有権者40万・80万の段階
- 解散・長と議員の解職は就職・選挙・投票から1年は不可
4つの道を、1枚の表にまとめます。見分けるときの順番は、決めるのは誰か、です。議会が決める道は2つあります。条例の制定改廃と、主要公務員の解職です。住民の投票が決める道も2つあります。議会の解散と、長や議員の解職です。監査委員が調べて公表する道は、事務の監査です。署名の数は、決めるのが誰かではなく、求める重さで決まります。判断を促すだけなら50分の1です。職にある人の地位を奪うなら3分の1です。主要公務員の解職も、人の地位を奪う請求なので、決めるのが議会でも、署名は3分の1です。署名の数は重さで、決める人は選ばれ方で決まる。軸が2本あるので、ここだけ食い違って見えるのです。出し先も、選管でなく長に出す点で、長・議員の解職とは違います。
名前の似た2つの監査請求
図:2つの監査請求
- 事務の監査請求〔75条〕=選挙権を有する者の50分の1以上の署名・事務の執行全般〔一部除外あり〕・期間制限なし・結末=監査して結果を公表・その先の道はない
- 住民監査請求〔242条〕=住民なら1人でも・国籍も選挙権の有無も問わない・財務会計上の行為と怠る事実だけ・行為から1年・結末=理由ありなら措置の勧告、理由なしなら通知と公表・先に住民訴訟が控える
ここまでに出てきた事務の監査請求と、名前のよく似た制度があります。住民監査請求です。まず条文を読みます。
条文地方自治法242条1項・2項
地方自治法第242条第1項・第2項 普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体の被つた損害を補塡するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。 2 前項の規定による請求は、当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
骨格は、住民が、長や職員の違法または不当な公金の支出、契約の締結などについて、監査委員に、監査と必要な措置を請求できる、です。公金の支出や契約の締結のような、お金や財産に関わる行為を、財務会計上の行為と呼びます。怠る事実とは、やるべきことをやらない状態です。たとえば、市が業者に請求できる代金を、請求しないまま放っておく場合です。これも対象になります。括弧書きにある通り、まだ行われていない行為でも、相当の確実さをもって予測されるなら、請求できます。契約を結ぶ直前に、止めさせる道もあるということです。2項は期間です。行為のあった日か、終わった日から1年を過ぎると請求できません。ただし、正当な理由があれば別です。
請求できる人です。事務の監査請求は、選挙権を有する者の50分の1以上の署名が要りました。住民監査請求の条文は、住民としか書いていません。選挙権を有する者という限定も、署名の数の定めもありません。だから、住民が1人でも請求できます。なぜ、1人でよいのですか。制度の趣旨が違うからです。住民監査請求は、地方公共団体のお金の使い方を、住民が正すための仕組みです。公金の不正に気づくのは、ごく少数の人ということがあります。署名を集める条件を付けると、気づいた人が動けなくなります。だから、1人でもよい作りです。代わりに、対象は狭くなっています。財務会計上の行為と怠る事実だけです。1人で出せる代わりに、的を絞る形です。逆に、事務の監査請求は、事務全般という広さを得た代わりに、署名が必要で、結末も調べて公表するだけでした。境界で確かめます。公用車の契約は、契約の締結なので、財務会計上の行為です。住民監査請求の対象になります。一方、市の保育の方針が気に入らない、という不満は、お金の支出や契約の話ではありません。住民監査請求の対象外で、事務の監査請求の出番になります。決め手は、お金や財産に関わる行為かどうかです。結末も違います。242条5項は、監査委員が監査をして、請求に理由がなければ、理由を付けて通知し、公表すると定めます。理由があれば、議会や長に、期間を示して必要な措置を勧告します。事務の監査請求の結果が、調べて公表するだけだったのと違い、措置の勧告まで進みます。
4項には、さらに強い手があります。違法と思われる行為で、回復の難しい損害を避ける緊急の必要があるときは、監査委員が、手続が終わるまで、その行為を停止するよう勧告できます。ただし、停止の勧告で、人の命や体に重大な危害が生じるなど、公共の福祉を著しく損なうおそれがあるときは、出せません。6項は、監査と勧告を、請求から60日以内に行うと定めています。
図:ひばり市で2つを使い分ける
- A=住民1人〔契約から1年以内〕
- B=署名した住民4800人〔50分の1〕
- D=監査委員
- E=公用車の高値契約〔財務会計上の行為〕
- B→D=公用車の管理体制を全体として調べさせたい→事務の監査請求
- A→D=この契約の差止めと、すでに払った分の損害の補塡を求めたい→住民監査請求
ひばり市で、一周します。市の公用車の管理体制を、全体として調べさせたい。この場合に使うのは、事務の監査請求です。有権者の50分の1にあたる署名を4800人分集めて、監査委員に出します。結果は公表されて、議会と市長に提出されます。もう1つ。この高い契約そのものを止めさせたい。すでに払った分の損害も取り戻したい。この場合に使うのは、住民監査請求です。ひばり市の住民が1人で、契約から1年以内に、監査委員に請求できます。同じ監査委員に出す、よく似た名前の請求でも、出す人の範囲と、署名の数と、対象の広さと、結末が違います。名前でなく、この4つで見分けてください。
住民監査請求から住民訴訟へ
図:住民監査請求から住民訴訟へ
- A=住民
- D=監査委員
- F=裁判所
- A→D=住民監査請求〔まず先に〕→D=監査して60日以内に結論
- 理由あり→措置の勧告
- 理由なし→通知と公表
- A→F=監査の結果や勧告・措置に不服がある、または監査委員が60日以内に動かない・勧告を受けた者が措置を講じない→住民訴訟〔監査請求を先に経ることが必要=監査請求前置〕
住民監査請求には、続きがあります。監査委員が、請求に理由がないと判断したらどうなるか。あるいは、60日たっても何もしなかったらどうなるか。その先に、裁判所の道があります。
条文地方自治法242条の2第1項(柱書)
地方自治法第242条の2第1項(柱書) 普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第五項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第五項の規定による監査若しくは勧告を同条第六項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
骨格は、住民は、住民監査請求をした場合に、その結果などに不服があるとき、または監査委員が期間内に動かないときに、裁判所に訴えを起こして、一定の請求ができる、です。これが住民訴訟です。住民訴訟の名前は、これまでにも出てきました。専決の回で、住民が水道事業の管理者個人の責任を問うた裁判も、住民訴訟でした。その入口が、この条文です。大事なのは順番です。住民は、先に住民監査請求をしていなければ、訴えられません。これを、監査請求前置と呼びます。まず行政の内側で、監査委員に正してもらう。それで足りないときに、外側の裁判所に出る。二段構えです。
住民が、公用車の契約について住民監査請求をします。監査委員が、理由なしと判断した。あるいは、60日たっても結論を出さない。この場合、請求をした住民は、裁判所に訴えを起こせます。この訴えで何を請求できるか、訴えを起こせる期間は、住民訴訟の中身にあたります。後の回で扱います。今日は、位置を押さえるところまでです。
問いの答えとまとめ
図:今日の答え
- 住民の道は4本+お金の使い方を正す道
- 決めるのは議会〔条例・主要公務員の解職〕・住民の投票〔解散・長と議員の解職〕・監査委員〔事務の監査〕
- 署名=判断を促すだけなら50分の1・職にある人の地位を奪うなら3分の1
- 住民監査請求=1人でも・財務会計上の行為と怠る事実だけ→住民訴訟へ
冒頭の問いに戻ります。選んだあとの任期の間、住民は黙って見ているしかないのか。1つ目の問いの答えです。道は全部で4本あります。条例を求める道、事務を調べさせる道、議会を解散させる道、長や議員や主要な役職員を辞めさせる道です。これに加えて、お金の使い方を正す道として、住民監査請求がありました。2つ目の問いの答えです。最後に決めるのは、議会か、住民の投票か、監査委員か、で見分けます。条例の制定と、副市長などの解職は、議会が決めます。議会の解散と、長や議員の解職は、住民の投票が決めます。事務の監査は、監査委員が調べて公表して終わります。署名の数は、求める重さで説明できました。判断を促すだけなら50分の1です。ひばり市で4800人です。職にある人の地位を奪うなら3分の1です。副市長の解職も、ここに入ります。ひばり市で8万人です。3つ目の問いの答えです。事務の監査請求は、選挙権を有する者の50分の1以上の署名が要り、事務全般が対象で、結末は調べて公表するところまででした。住民監査請求は、住民なら1人でも出せますが、対象は財務会計上の行為と怠る事実だけで、行為から1年という期間があり、措置の勧告まで進みます。最後の手段は、裁判所です。条例は議会が決めますし、監査請求は命令までは出せません。その先に、住民訴訟があります。ひばり市の住民は、見ているだけではなく、動かせる道を持っています。
参照条文
- 地方自治法10条1項・2項
- 地方自治法18条
- 地方自治法12条1項・2項
- 地方自治法13条1項・2項
- 地方自治法74条1項・3項
- 地方自治法75条1項
- 地方自治法76条1項・3項
- 地方自治法78条
- 地方自治法79条
- 地方自治法81条1項
- 地方自治法83条
- 地方自治法84条
- 地方自治法86条1項
- 地方自治法87条1項
- 地方自治法242条1項・2項
- 地方自治法242条の2第1項(柱書)