裁量基準・給付基準・行政指導指針
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第3章 行為形式の地図と行政基準 ㊶/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
前回の続き——内部の基準は外にどう効くか
図:架空の屋上菜園登録制度の続き
- 実在の制度とは無関係
- 架空の法律の抜粋=国土交通大臣は、登録を受けた者が公益を害する行為をしたときは、登録を取り消すことができる。※条番号は付けない
- 大臣が公表した目安=違反1回目は登録の停止30日、過去3年以内にも違反があれば停止60日
- 事業者Aの3つの疑問〔1 目安を外れた取消しは違法か/2 町が予算と要綱だけで出す補助を断られて、申請型の訴えは使えるか/3 町の指導要綱が求める協力金を断ったら、拘束されるか〕
前回の最後に、行政規則の種類の地図だけを見ました。解釈基準、裁量基準、行政指導の指針、給付基準の4つです。今日は、解釈基準以外の3つの中身に入ります。前回の軸は、縛らない、でも響く、でした。今日は、その響き方が、基準の種類ごとにどう違うかを調べます。公にした基準は、行政自身を縛る。給付の基準は、断られた人の争い方を決める。要綱は、住民を縛らない。この3本です。設例は、架空の屋上菜園の登録制度の続きです。実在の制度とは関係がありません。法律に、こう書いてあるとします。国土交通大臣は、登録を受けた者が公益を害する行為をしたときは、登録を取り消すことができる。大臣は、目安を決めて公表しています。違反が1回目なら、登録の停止30日。過去3年以内にも違反があれば、停止60日です。事業者のAには、3つの疑問があります。1つ目。1回目の違反なのに、この目安を外れて、取消しにされた。目安は法律でも省令でもないのに、違法になるのか。2つ目。設置補助金を、予算と要綱だけで出している町の窓口が、Aの申請を断った。申請に応じない役所を訴える、不作為の違法確認の訴えや、義務付けの訴えは使えるのか。そして3つ目。町の指導要綱が求める地域交流への協力金を断ったら、要綱に拘束されるのか。
前回、内部の基準は国民も裁判所も縛らない、と見ました。その考え方からは、1つ目の疑問に、違法とまでは言えない、と答えたくなります。ただ、その答えは、少し複雑です。3つとも、最後に答えます。まず、裁量基準が何かから入ります。
裁量基準とは何か——見えない判断を見える形にする
図:裁量とは
入る前に、前の回で見た話を思い出します。法規命令と行政規則を見分ける物差しは何でしたか?国民と行政の関係を、直接規律するかどうか、です。名前ではなく中身で決まる、でした。この物差しを、今日の基準に当てていきます。まず、裁量とは何か。法律が、行政庁に、一定の判断の幅を与えていることです。設例の「取り消すことができる」は、取り消すかどうか、取り消すなら、どの程度の違反からか、を大臣の判断に任せています。裁量の本体は後の回で詳しく見るので、今日は、判断の幅、と受け取ってください。この幅の使い方を、あらかじめ定めておく内部の基準が、裁量基準です。設例の停止30日、60日という目安が、まさにそうです。
図:裁量基準とは
- 法律=「取り消すことができる」〔取り消すか・どの程度で取り消すかに判断の幅=裁量〕→その使い方の目安=裁量基準〔設例の停止30日・60日〕
- 基準が無いと=①外から判断が見えない②予測できない③役所に緊張感が無い
- 物差し=国民と行政の関係を直接規律するか→行政規則=委任は要らない・委任の範囲は問わない
基準を置かずに幅だけ与えると、不都合が3つ出ます。1つ目、なぜその処分になったのかが、外からは読み取れません。2つ目、事業者は先を読めません。同じ違反でも、停止になる人と取消しになる人が出て、その差の理由が分からないのです。3つ目、担当者の気分で決めても気づかれないので、役所の側に緊張感が生まれません。行政手続法1条1項が、行政運営の公正の確保と透明性の向上を目的に掲げているのは、この不都合を防ぐためでもあります。たとえば、先生が成績を付けるのに、採点基準を黙っていて、気分で点を付けたら、生徒は納得できませんよね。採点基準があって初めて、判断が見えて、予測もできます。では、裁量基準を、物差しで見ます。目安は、判断の幅の使い方を、役所の内側で整えるものです。国民に新しい義務を課すものではありません。ですから行政規則で、法律の委任は要りません。ここから、答案に効く結論が1つ出ます。裁量基準は法規命令ではないので、法律の委任の範囲を超えていないか、とは問いません。法規命令なら、委任の範囲を超えれば無効でした。裁量基準では、問いの立て方が違うのです。
法律の委任が要らないので、基準を作ること自体はできます。ただ、基準の中身が合理的か、基準どおりにしてよいかは、別に問われます。それは後の回、裁量審査で見ます。今日は、見えない判断を、見える形にする方向を追います。次の節です。
基準を作るべきだ——個人タクシー事件と行政手続法
図:基準を作るべきだ
- 個人タクシー事件=免許基準を定めた道路運送法6条は抽象的→内部的にせよ、趣旨を具体化した審査基準を設定し、公正かつ合理的に適用すべき
- この回で読むのは基準設定の前半だけ
- 行政手続法=審査基準〔5条・申請に対する処分・設定と公開は義務〕・処分基準〔12条・不利益処分・設定と公開は努力義務〕→公開を予定された内部基準=内部基準の外部化を法律が後押し
判例が、この見える形を求めたことがあります。個人タクシー事件です。個人タクシーの免許を申請して、断られた人がいました。免許の基準を定めた道路運送法6条は、抽象的な書き方でした。この判決は、続けて、申請人に主張と証拠の機会を与えるべきだ、という手続の話もしています。この手続の側面は、適正手続の回で、審査の手続に欠陥があれば却下の処分が違法になりうる判例として、位置づけだけ見ました。判決の文を読むのは、後の回です。今日は、基準を作るべきだ、という前半だけを読みます。
判例最判昭46・10・28 民集25巻7号1037頁
個人タクシー事件——基準を設定すべき 右六条は抽象的な免許基準を定めているにすぎないのであるから、内部的にせよ、さらに、その趣旨を具体化した審査基準を設定し、これを公正かつ合理的に適用すべく、……
言い直します。法律が抽象的な基準しか定めていないなら、役所は、その趣旨を具体化した基準を作る。そして、公正かつ合理的に使う。大事なのは、内部的にせよ、という点です。外に出さなくてもよいから、基準は持て、と言ったのです。この考え方を、法律が受け止めました。行政手続法です。まず、申請に対する処分の基準、審査基準を定める5条です。
条文行政手続法5条
行政手続法第5条 1 行政庁は、審査基準を定めるものとする。 2 行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。 3 行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。
3つの項の役割は、定める、具体的にする、公にする、です。1項で設定、2項で具体化、3項で公開。行政上特別の支障がなければ、公にしておく義務があります。次に、不利益処分の基準、処分基準を定める12条です。
条文行政手続法12条
行政手続法第12条 1 行政庁は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない。 2 行政庁は、処分基準を定めるに当たっては、不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。
5条と12条は、義務の強さが違います。申請に対する処分の審査基準は、定める、公にしておかなければならない、という義務です。不利益処分の処分基準は、定め、公にするよう努める、という努力義務です。努力義務になっている理由は、後の回で見ます。設例の登録の停止や取消しは、不利益処分ですから、大臣の目安は、処分基準にあたります。注目してほしいのは、どちらの条文も、基準を公にしておくことを予定している点です。本来、内部だけのはずの基準を、外から見える形にする。内部の基準の外部化を、法律が後押ししているのです。設例の大臣が目安を公表しているのも、この後押しに沿ったものです。そして、公にされた基準には、特別な力が生まれます。次の節です。
公にした基準は行政自身を縛る——自己拘束
図:自己拘束
- 設例1=目安〔公表〕は1回目なら停止30日→Aは1回目なのに取消し
- 営業停止の基準の事件=処分基準が前歴により量定を加重・基準は公表済み
- 直接の争点=訴えの利益〔後の回〕・今日は基準の性質の部分
- 理由①公正かつ平等な取扱い②基準の内容に係る相手方の信頼の保護
設例の1つ目です。Aは、1回目の違反なのに、目安を外れて取消しにされました。これを考えるのに使うのが、営業停止の基準の事件です。ぱちんこ店の営業停止命令をめぐる事件で、処分基準に、過去に処分を受けていると次の処分の量定、つまり重さを加重する、と定められ、その基準は公にされていました。先に断っておきます。この判決が直接に答えたのは、処分の効果が期間の経過でなくなった後も、基準が加重する期間内は取消しを求める利益がある、という訴えの利益の問題です。その本体は後の回です。今日は、その判断の途中で語られた、処分基準とは何か、という部分だけを読みます。平等原則の回では、この判決の、特段の事情の部分だけを短く見ました。今日は、その前の段から通して読みます。判決の述べ方は2段です。処分基準は何のためにあるか。そこから何が導かれるか。1枚目です。行政手続法12条1項の処分基準は、何のために定められ、公にされるのか。
判例最判平27・3・3 民集69巻2号143頁
営業停止の基準の事件——処分基準の趣旨 ……行政手続法の規定の文言や趣旨等に照らすと,同法12条1項に基づいて定められ公にされている処分基準は,単に行政庁の行政運営上の便宜のためにとどまらず,不利益処分に係る判断過程の公正と透明性を確保し,その相手方の権利利益の保護に資するために定められ公にされるものというべきである。
言い直します。公にされた処分基準は、役所の運営上の便宜にとどまらない。判断の過程を公正にして、透明にする。そして、処分を受ける側の権利利益を守る。そのために、定められ、公にされる。ここまでが理由です。2枚目は、そこから何が導かれるか、です。
判例最判平27・3・3 民集69巻2号143頁
営業停止の基準の事件——特段の事情と羈束 したがって,行政庁が同項の規定により定めて公にしている処分基準において,先行の処分を受けたことを理由として後行の処分に係る量定を加重する旨の不利益な取扱いの定めがある場合に,当該行政庁が後行の処分につき当該処分基準の定めと異なる取扱いをするならば,裁量権の行使における公正かつ平等な取扱いの要請や基準の内容に係る相手方の信頼の保護等の観点から,当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることを相当と認めるべき特段の事情がない限り,そのような取扱いは裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たることとなるものと解され,この意味において,当該行政庁の後行の処分における裁量権は当該処分基準に従って行使されるべきことがき束されており,先行の処分を受けた者が後行の処分の対象となるときは,上記特段の事情がない限り当該処分基準の定めにより所定の量定の加重がされることになるものということができる。
長い1文なので、3つに分けます。1つ目、公にしている処分基準と異なる取扱いをするなら、特段の事情がない限り、裁量権の逸脱または濫用になる。2つ目、その理由は2つ。裁量権の行使における公正かつ平等な取扱いの要請と、基準の内容に係る相手方の信頼の保護等です。3つ目、この意味で、裁量権は基準に従って使われるよう、き束されている。判決は、き束、と書いています。縛られている、という意味です。日常の例にします。店が、初回のお客は1割引、と掲示して、公に約束したとします。ほかのお客は皆1割引なのに、あるお客にだけ、理由もなく割引なしにする。これは不公平です。そして、掲示を信じて来たお客の信頼も裏切ります。これが2つの理由、公正で平等な取扱いと、基準への信頼です。ここで1問です。公にした処分基準と違う取扱いをするには、何が要るでしょうか?
特段の事情がなければ、逸脱・濫用になります。この力を、行政の自己拘束と呼びます。行政が、自分で公にした基準に、自分で縛られる、という意味です。向きに注意してください。国民が基準に縛られるのではなく、行政が縛られるのです。
図:縛る向きの違い
- 前回の問い=内部の基準は国民や裁判所を縛るか→縛らない
- 今日の問い=公にした処分基準は行政自身を縛るか→特段の事情がない限り縛る〔自己拘束〕
- 国民に義務が生じるのではない
- 理由=公にして生まれた相手方の信頼
前回は、内部の基準は国民も裁判所も縛らない、と言いましたよね。矛盾しませんか。矛盾しません。向きが違います。前回の問いは、基準が国民や裁判所を縛るか、で、答えは、縛らない、でした。今日の問いは、公にした基準が、行政自身を縛るか、です。答えは、特段の事情がない限り、縛る。基準が国民に義務を課すわけではありません。ただ、公にして、相手方の信頼が生まれると、守る責任が行政の側に生まれるのです。もう1点。特段の事情という言葉は、内部の基準という性質が残っていることを表しています。基準は、機械的に当てはめるものではありません。もともと裁量を与えたのは、個別の事情に応じて判断させるためです。だから、基準が想定していなかった事情があれば、外れられる余地が残ります。
図:特段の事情の境界
- 設例1=1回目の違反で取消し
- 外れる余地がある=人の健康に被害が出るほど悪質=目安の想定外
- 外れにくい=見せしめにしたいだけ=役所の都合→逸脱・濫用に傾く
- 判例が述べたのは12条1項の処分基準で前歴による加重の定めがある場合
- 基準どおりでも適法とは限らない〔比例原則は別〕
境界のペアにします。設例で、目安は、1回目なら停止30日でした。Aの違反が、1回目でも、人の健康に被害が出るほど悪質だったとします。目安が想定していなかった事情があるので、取消しが特段の事情で正当化される余地があります。他方、取消しにした理由が、最近、違反が多いので見せしめにしたい、というだけだったとします。これはAの事情ではなく、役所の都合なので、特段の事情とは言いにくく、逸脱・濫用に傾きます。注意が2つあります。1つ目。この判決が述べたのは、行政手続法12条1項の処分基準についてです。判決の事案は、前歴を理由に量定を加重する定めのある処分基準です。設例1は、その考え方の延長として答えます。審査基準や給付基準にも、そのまま及ぶ、とは言っていません。学説は、これを手がかりに、公にされた裁量基準一般について、行政の自己拘束を語ります。答案では、判例が述べたのは処分基準、一般の整理は自己拘束、と分けて書くと安全です。2つ目。基準どおりにした処分が、必ず適法とは限りません。基準が合理的か、個別の事情を考えたか、という別の問題が残ります。重すぎないか、という比例原則も、別に残ります。基準から外れた処分も、基準どおりの処分も、違法かどうかの判断は、後の回で見ます。
基準より軽く外れたら、どうなるか。設例で、1回目なのに停止10日にした場合です。Aにとって不利益ではないので、A自身は争いにくいです。他の事業者が何を言えるかは、後の回です。ここは、論文で論点になりうるところです。
解釈基準と裁量基準の見分け方
図:解釈基準と裁量基準の区別
- 軸=その処分に裁量があるか
- 裁量が無い→解釈基準〔例=課税の通達〔租税法律主義〕・罰則付きの構成要件の読み方を示す通達〔墓地埋葬通達事件〕〕→裁判所は条文を自分で読む
前回、審査基準や処分基準は、中身次第で、解釈基準にも裁量基準にもなる、と言いました。その見分け方を確かめます。軸は1つです。その処分に、裁量があるか。条文の読み方を定めた部分は、解釈基準。判断の幅の使い方を定めた部分は、裁量基準。つまり、裁量があるところに、裁量基準があります。審査基準や処分基準は、行政に何らかの裁量の余地があるのが普通なので、多くは裁量基準です。裁量が無ければ、解釈基準です。例を2つ見ます。1つ目は、課税の通達です。税は、租税法律主義によって、法律の根拠が厳密に求められます。誰に、いくら課税するかは、法律の要件で決まります。要件に当たれば課税しなければならず、当たらなければ課税できません。課税庁が、課税するかどうかを選ぶ幅は無いのです。だから、課税の通達は、条文の読み方を示す解釈基準です。2つ目は、前回の墓地埋葬通達事件です。墓地の管理者は、埋葬の求めを、正当の理由がなければ拒めません。通達は、その正当の理由の読み方を示すものでした。前回は触れませんでしたが、正当の理由なく拒んだ管理者には、法律に罰則があります。罪刑法定主義では、何をすれば罰せられるかは、あらかじめ法律で決まっていなければなりません。どこまで拒んでよいかを役所が裁量で決めれば、罰せられる範囲を役所が決めることになってしまいます。だから、正当の理由の中身は法律の読み方の問題で、行政の判断の幅はありません。解釈基準です。この見方は、学説の整理です。
図:解釈基準と裁量基準の区別
- 軸=その処分に裁量があるか
- 裁量が無い→解釈基準〔例=課税の通達〔租税法律主義〕・罰則付きの構成要件の読み方を示す通達〔墓地埋葬通達事件〕〕→裁判所は条文を自分で読む
- 裁量がある→裁量基準〔例=登録取消しの目安〕→基準の内容と当てはめが合理的かを見る
- 審査基準・処分基準=裁量があれば裁量基準・無ければ解釈基準
逆に、設例の登録取消しの目安は、取り消すかどうかの判断の幅の使い方なので、裁量基準です。さきほど、この目安を処分基準と呼びました。処分基準は、行政手続法での呼び名です。中身で分けると、裁量基準です。見分けると、裁判所の扱いが変わります。解釈基準なら、裁判所は条文を自分で読みます。裁量基準なら、基準の内容と、当てはめが合理的かを見ます。短答の誤り肢を確認します。裁量基準に反する処分は当然に違法、は誤りです。特段の事情があれば別です。裁量基準は法規命令だから、法律の委任の範囲を問う、も誤りです。裁量基準は行政規則です。
給付基準——法律に根拠が無くても自由ではない
図:給付基準
- 設例2=町の窓口が予算と要綱だけで出す設置補助金
- 法律・条例に根拠が無い補助金の交付基準=給付基準〔侵害留保説=侵害でない給付に法律の根拠は必須でない〕
- それでも平等原則には縛られる〔公金を使う行政活動〕
- 実例=持続化給付金の事件〔国の給付規程・申請→事務局審査→長官が給付額決定・贈与契約の形・対象から外された事業者が憲法14条1項違反を主張→棄却〕
次は給付基準です。設例の2つ目に入ります。屋上菜園の設置補助金を、町が、予算と要綱だけで出している。法律にも条例にも、根拠は無い補助です。この、補助金の交付や融資の基準が、給付基準です。この補助金も、架空の話です。前に見た話を、確かめます。法律の根拠が無い補助金でも、なぜ平等原則には縛られるのでしたか?公金を使う行政活動だからです。補助の目的に沿った区別かどうか、で見るんでした。もう1つ、そもそもなぜ法律の根拠が無くてよいのか。侵害留保説です。国民の権利や自由を侵害するなら、法律の根拠が要ります。補助金を配ることは侵害ではないので、法律の根拠は必須ではない。前に見ました。そこで、補助金には、法律や条例に根拠を持つものと、持たないものがあります。持たないものは、予算を根拠に、要綱などの内部の規則で、交付の基準が定められます。これが給付基準です。実例を見ます。持続化給付金の事件です。コロナ禍で売上げが減った事業者を支える給付金で、国が給付規程を定めて配りました。規程は、一定の事業者を給付の対象から外していました。外された事業者が、憲法14条1項に反するとして、給付金の支払を求めました。平等原則の回では、14条1項の一般論の段を読みました。今日は、別の段です。仕組みを一言。申請を受けて、事務局が審査し、中小企業庁の長官が給付額を決めます。給付は、贈与契約の形でした。この点は、次の節で効いてきます。カードの本件各給付金とは、持続化給付金と家賃支援給付金です。
判例最判令7・6・16 民集79巻4号1523頁
持続化給付金の事件——給付対象者の範囲 本件各給付金は、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響等により売上げが減少するなどした中小法人等の事業の継続を支えるとの政策目的を実現するため公費により給付されるものであって、給付対象とされない者の権利の制約を伴うものでもないことからすると、被上告人国において本件各給付金に係る制度を設けるに当たっては、政策的な見地から種々の考慮要素を勘案して給付対象者の範囲を画することが許されるというべきである。
言い直します。この給付金は、公費で配るもので、対象にならない人の権利を制限するものでもない。だから、制度を作るとき、政策的な見地から、いろいろな要素を考えて、対象の範囲を決めてよい。結論は、棄却です。憲法14条1項に反しない、という判断でした。対象の範囲を決めるのは、まったくの自由ではありません。侵害ではないので、政策的に範囲を画す広めの余地が認められる、ということです。目的と関係のない区別まで許される、という意味ではありません。境界のペアにします。設例の設置補助金の要綱が、対象を、屋上の面積が一定以上の事業者に限っていた。これは、補助の目的に沿った絞り込みと言えます。他方、同じ面積でも、役所の知り合いにだけ配る。これは目的と関係のない区別で、平等原則に反します。ここで、同じ給付の基準でも、法律に根拠があるものと比べます。生活保護の保護基準です。
図:保護基準と給付基準の違い
- 表=列は保護基準/要綱の給付基準
- 根拠:保護基準=生活保護法8条1項の委任を受け、厚生労働大臣が告示で定める〔8条2項=最低限度の生活の需要を満たすに十分なもので、これをこえないもの〕・要綱の給付基準=法律・条例の根拠なし〔予算と要綱〕
- 審査:保護基準=法律の枠の中の裁量として審査〔判断過程などの過誤・欠落の有無〕・要綱の給付基準=平等原則などを手がかり
- 生活扶助基準の改定の事件=裁量権の逸脱・濫用で違法・国家賠償は否定〔判断過程の審査の中身は後の回〕
生活保護法8条1項は、保護の基準を、厚生労働大臣が定める、と委ねています。大臣は、その委任を受けて、告示で、生活扶助、つまり食べ物や衣服など日々の暮らしの費用にあてる扶助の基準を定めます。8条2項は、その基準が、最低限度の生活の需要を満たすに十分で、これをこえないものでなければならない、と枠を置いています。この保護基準の改定が争われた判決があります。判決は、法律の枠の中で、大臣に専門技術的、政策的な裁量がある、として、判断の過程などに過誤や欠落がないかを審査しました。そして、この改定を、裁量権の逸脱・濫用で違法としました。国家賠償は否定しました。判断過程の審査の中身は、後の回で見ます。前に老齢加算の判決を見ました。その延長です。今日の対比は、1つだけです。保護基準は、法律の委任を受けた基準なので、法律の枠の中の裁量として審査されます。要綱の給付基準は、法律に根拠が無い。この違いが、次の節の争い方に効いてきます。
給付基準を断られたら——争い方
図:給付基準を断られたときの道
- 設例2=Aの申請を町の窓口が断った
- 要綱だけの給付基準に基づく申請は「法令に基づく申請」でない→不作為の違法確認の訴え〔行訴法3条5項〕・申請型の義務付けの訴え〔6項2号〕は使えない
- 道① 平等原則などを手がかりに端的に給付を求める訴え〔学説の整理〕
- 道② 補助金適正化法の適用がある国の補助金=交付の申請は法令に基づく申請・交付決定等が処分として組まれている→抗告訴訟
- 町独自の補助には適用されない→設例2は道①
設例の2つ目に答えます。Aは、不作為の違法確認の訴えや、義務付けの訴えを使えるか。条文を見ます。
条文行政事件訴訟法3条5項・6項(1号は省略)
行政事件訴訟法第3条第5項・第6項(第6項は柱書と第2号) 5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。 6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。 二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
太字に注目してください。5項の不作為の違法確認の訴えも、6項2号の申請型の義務付けの訴えも、法令に基づく申請が出されたのに、行政庁が応じない場面の訴えです。では、設例の補助のように、要綱だけで出す補助、つまり法律にも条例にも根拠の無い補助の申請は、法令に基づく申請でしょうか。要綱は内部の基準で、法令ではありません。この補助金の申請は、法令ではなく、要綱と予算に基づく申請です。だから、法令に基づく申請とは言えず、5項も6項2号も使えない、と整理されます。道は、2つあります。1つ目は、給付を求める訴えです。学説は、平等原則などを手がかりに、端的に、補助金の給付を求める訴えを起こす、と整理します。判例の定式ではなく、学説の整理です。持続化給付金の事件も、給付金の支払を求める訴えでした。給付規程は、贈与契約の形でした。贈与契約なら、給付の決定は、法令で処分として組まれたものではなく、契約を結ぶかどうかの話です。取り消すべき処分が無いので、処分を争う訴えではなく、契約の相手として、直接、お金を払ってほしい、と求めることになります。前に、要綱で配る町の補助は、条件付きで贈る契約として扱われる、と見ました。2つ目は、補助金適正化法が適用される補助金の場合です。国が国以外の者に交付する補助金等には、この法律が適用されます。そして、この法律に基づく交付の申請は法令に基づく申請にあたり、交付の決定や、その取消しなどが、行政処分として組まれています。処分があるので、取消訴訟などの抗告訴訟で争えます。骨格だけ言います。申請を審査して交付を決定する。その決定を取り消すこともできる。細かい条文は暗記しません。処分性の本体は、後の回で見ます。
町が独自に出す補助には、この法律は適用されません。前に見ました。その場合は1つ目の道です。設例の2つ目に答えます。Aの補助は、町が要綱だけで独自に出すものなので、適正化法は適用されません。法令に基づく申請でもないので、申請型の訴えは使えず、給付を求める訴えです。もし国の補助金で、適正化法の対象なら、交付の決定が処分なので、抗告訴訟で争います。どちらの型になるかは、法令に基づく申請か、処分が組まれているか、で決まります。ここは、論文で論点になりうるところです。
行政指導指針と要綱——住民を縛らない
図:行政指導指針と要綱
- 行政手続法2条8号ニ=行政指導指針〔前に読んだ〕
- 36条=国の行政機関は指導指針を定め公表
- 3条3項=地方公共団体の機関がする行政指導には第2章から第6章までの規定を直接には適用しない〔36条は第4章〕・46条=法の趣旨にのっとり措置を講ずる努力義務
最後の種類、行政指導指針です。前に見た話を確かめます。行政指導に応じるかどうかは、誰が決めるのでしたか?相手方です。任意の協力を求める働きかけで、応じるかどうかは相手が決める、でした。指導指針は、その行政指導の内容や方針を、まとめて定めたものです。定義は、行政手続法2条8号ニで、前に全文を読みました。同一の行政目的のために、一定の条件に当たる複数の者に行政指導をするとき、共通して内容となるべき事項です。設例なら、屋上菜園の近隣への配慮を求める方針が、典型です。国の行政機関には、義務があります。36条です。
条文行政手続法36条
行政手続法第36条 同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは、行政機関は、あらかじめ、事案に応じ、行政指導指針を定め、かつ、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければならない。
国の行政機関は、指導指針を、あらかじめ定めて、公表する。ここも、内部の基準を公にする方向です。審査基準、処分基準と、同じ流れです。ただし、地方公共団体は別です。行政手続法3条3項です。
条文行政手続法3条3項(括弧書きは省略)
行政手続法第3条第3項 3 第一項各号及び前項各号に掲げるもののほか、地方公共団体の機関がする処分(……)及び行政指導、地方公共団体の機関に対する届出(……)並びに地方公共団体の機関が命令等を定める行為については、次章から第六章までの規定は、適用しない。
処分や届出、命令等も並んでいますが、今日見るのは行政指導です。次章から第六章まで、つまり第2章から第6章までです。地方公共団体の機関がする行政指導には、その規定を、直接には適用しない、としています。36条は第4章にあるので、直接は適用されません。地方公共団体は、法の趣旨にのっとって、必要な措置を講ずる努力義務を負っています。そして、地方公共団体の行政指導の基準は、実際には、要綱で定められることが多いのです。要綱とは、行政が自分で決める内部の基準でした。前に町の補助で見ました。
図:要綱は住民を縛らない
- 設例3=町の指導要綱が地域交流への協力金を求める・Aが断った
- 教育施設負担金の指導要綱の事件=議会の全員協議会に諮った要綱でも、法令の根拠に基づかない行政指導のための内部基準
- 読み方は2段=①内部基準にとどまる②その要綱に基づいて制裁〔給水契約の締結の拒否等〕を背景に納付を迫る行為は指導の限度を超える
- 境界=条例で定めれば外の規範・断った人に給水を断る圧力は限度超え
設例の3つ目です。町が、屋上菜園を設置する事業者に、地域交流への協力金を求める指導要綱を定めています。Aが断りました。要綱に拘束されるのか。参考になる判決があります。教育施設負担金の指導要綱の事件です。市が、マンションなどを建てる事業主に、教育施設の負担金を求める指導要綱を定めていました。議会の全員協議会に諮って定めた要綱です。全員協議会は、議員が集まって意見を交わす場で、条例を議決する本会議とは別のものです。この要綱に基づいて、市は寄付金を求めました。判決は、まず、寄付金の納付を求めること自体は、強制にわたるなどして事業主の任意性を損なわない限り、違法とはいえない、と述べます。その後に続く、しかし、で始まる段が、要綱の性質を述べています。
判例最判平5・2・18 民集47巻2号574頁
教育施設負担金の指導要綱の事件——要綱の性質 しかし、指導要綱は、法令の根拠に基づくものではなく、被上告人において、事業主に対する行政指導を行うための内部基準であるにもかかわらず、水道の給水契約の締結の拒否等の制裁措置を背景として、事業主に一定の義務を課するようなものとなっており、また、これを遵守させるため、一定の手続が設けられている。
カードの被上告人は、市です。言い直します。要綱は、法令の根拠に基づくものではなく、市が事業主に行政指導をするための内部基準である。それなのに、給水契約の締結の拒否などの制裁を背景に、事業主に義務を課すものとなっている。しかも、守らせるための手続まで設けられている。読み方は2段です。1段目。議会の全員協議会に諮って制定した要綱でも、内部基準にとどまる。民主的な手続を踏んだからといって、住民に義務を課す外の規範にはなりません。2段目。その要綱に基づいて、制裁を背景に納付を迫る行為は、行政指導の限度を超えてしまう。負担金の求めと行政指導の限界の本体は、後の回です。
住民を拘束できるのは、法律や条例のように、住民の代表が決める外の規範です。要綱は、行政の内部の基準なので、議会の全員協議会に諮っても、その性質は変わりません。判決は、議会に諮った事実を認定したうえで、内部基準と述べています。なお、要綱を公表しても拘束力は生じない、という点は、学説の整理です。判決は、公表の点には触れていません。境界のペアにします。同じ協力金でも、条例で定めた場合は、住民の代表が決めた外の規範の話になり、要綱とは前提が違います。他方、要綱だけで、断った人には給水を断る、と圧力をかける場合。内部基準が、制裁と結び付いているので、行政指導の限度を超える問題になります。設例の3つ目に答えます。Aは、町の要綱に拘束されません。協力金の求めに応じなくても、それだけで法的な不利益は受けません。これで3つの種類がそろいました。公にした基準は行政自身を縛り、給付基準は争い方を決め、要綱は住民を縛らない、です。
答案での動き方と設例の答え
図:答案での動き方
- 1 その基準は何の基準か〔解釈/裁量/給付/指導指針〕
- 2 裁量基準なら公にされているか→自己拘束〔特段の事情〕+内部の基準という性質+比例原則は別
- 3 給付基準なら法令に基づく申請か→訴訟の型
- 4 要綱は住民を縛らない・制裁と結び付くと指導の限度を超える
- 5 基準に沿った処分でも別に違法がありうる
今日の内容を、答案での動き方にします。1つ目に、その基準は何の基準かを見ます。解釈基準、裁量基準、給付基準、行政指導指針のどれか。見分けは、その処分に裁量があるかと、何を定めているかです。2つ目に、裁量基準なら、公にされているかを見ます。公にした処分基準から外れた取扱いは、特段の事情がない限り、逸脱・濫用です。ただし、内部の基準という性質は残ります。判例が述べたのは12条1項の処分基準で、比例原則は別に残ります。3つ目に、給付基準なら、法令に基づく申請かを見ます。要綱だけの補助で、法令に基づく申請でなければ、5項と6項2号の訴えは使えず、給付を求める訴えです。適正化法の補助金なら、処分を抗告訴訟で争います。平等原則が手がかりです。4つ目に、要綱は、住民を縛りません。議会に諮っても、内部基準です。制裁と結び付くと、行政指導の限度を超えます。5つ目に、基準に沿った処分でも、別に違法がありうる点です。冒頭の設例の答えを確かめます。1つ目、目安を外れた取消しは違法か。公にした処分基準から外れた取扱いなので、特段の事情がない限り、逸脱・濫用の方向です。ただし、目安が想定しなかった悪質さなどの特段の事情があれば、外れられます。内部の基準という性質は残るので、当然に違法とは言えません。2つ目、町の窓口の補助金を断られた場合。適正化法は及ばず、法令に基づく申請でもないので、申請型の訴えは使えません。給付を求める訴えです。国の補助金で適正化法の対象なら、交付決定が処分なので、抗告訴訟です。
3つ目、町の要綱の協力金。拘束されません。要綱は内部の基準で、住民を縛りません。
図:つまずき7つ
- 1 裁量基準に反する処分は当然に違法→誤り〔特段の事情がない限り〕
- 2 裁量基準は法規命令だから委任の範囲を問う→誤り
- 3 基準どおりの処分は必ず適法→誤り
- 4 要綱だけの補助の拒否に不作為の違法確認・義務付けの訴えを使える→誤り〔適正化法は別〕
- 5 議会の全員協議会に諮った要綱は住民を拘束する→誤り
- 6 行手法36条は地方公共団体の行政指導にも直接適用→誤り〔3条3項〕
- 7 平27判決は審査基準・給付基準にもそのまま及ぶ→誤り〔処分基準の判断〕
短答のつまずきを、7つ確認します。そのうち、答案の動き方と重ならない2つを確かめます。2つ目、裁量基準は法規命令ではないので、委任の範囲は問いません。6つ目、行政手続法36条は、地方公共団体の行政指導には、直接は適用されません。3条3項です。
今日のまとめ
図:今日の地図(保存版)
今日の内容を整理します。1つ目、裁量基準は、法律が与えた判断の幅の使い方の目安です。行政規則で、法律の委任は要りません。2つ目、個人タクシー事件は、内部的にせよ、審査基準を設定すべきだとしました。行政手続法の5条と12条は、基準を公にすることを予定しています。3つ目、公にした処分基準から外れるには、特段の事情が要ります。これが行政の自己拘束です。ただし、内部の基準という性質は残ります。4つ目、解釈基準と裁量基準は、その処分に裁量があるかで見分けます。5つ目、給付基準は、法律の根拠が無くてもよいけれど、平等原則には縛られます。要綱だけの補助は、法令に基づく申請ではないので、申請型の訴えは使えず、給付を求める訴えです。適正化法の補助金なら、交付決定を抗告訴訟で争います。6つ目、行政指導指針は、国の行政機関が定めて公表します。要綱は、議会に諮っても、住民を縛りません。内部の基準は、国民を縛りません。それでも、公にした基準は行政自身を縛り、給付基準は争い方を決め、要綱は住民を縛らない。基準が外に向かってどんな力を持つかを、種類ごとに見る。それが、今日の理解です。
参照条文
- 行政手続法5条
- 行政手続法12条
- 行政事件訴訟法3条5項・6項(1号は省略)
- 行政手続法36条
- 行政手続法3条3項(括弧書きは省略)