行政法ゼロから行政法#52

職権取消しと撤回

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第4章 行政行為 #52/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

規定が無いのに、取り消してよいのか

設例ア・イ(町の役場A・喫茶店の店主B/設例ア=許可の申請書の店舗面積が実際より広く偽られていたと後で分かり、Aが許可を取り消した/設例イ=許可の時点では要件を満たしていたが、許可のあとBが衛生上の重大な違反を繰り返し、Aが許可を取り消した/条例には取消しの規定が無い/問い=規定が無いのに取り消してよいか・2つの取消しは同じ扱いか) 図:設例ア・イ

  • 町の役場A・喫茶店の店主B
  • 設例ア=許可の申請書の店舗面積が実際より広く偽られていたと後で分かり、Aが許可を取り消した
  • 設例イ=許可の時点では要件を満たしていたが、許可のあとBが衛生上の重大な違反を繰り返し、Aが許可を取り消した
  • 条例には取消しの規定が無い
  • 問い=規定が無いのに取り消してよいか・2つの取消しは同じ扱いか

今回は、行政が自分で取り消す場合です。前に一言だけ出てきた職権取消しを、ここで正面から扱います。公定力の回から使っている、町の役場Aと喫茶店の店主Bの設例に戻ります。場面を2つ用意します。1つ目は、AがBに営業許可を出したあとのことです。Aは、Bの申請書に書かれた店舗の広さが、実際より広く偽られていたと気づきました。許可には一定の広さが要件でしたが、実際には足りていませんでした。そこでAは、許可を取り消しました。これが設例アです。2つ目も、AがBに営業許可を出しました。許可の時点では、何の問題もありませんでした。ところが許可のあと、Bは衛生上の重大な違反を繰り返しました。そこでAは、許可を取り消しました。これが設例イです。どちらの場合も、町の条例には、許可を取り消せるという規定がありません。

規定が無くても取り消せるのか、2つの取消しを同じに扱ってよいのか。この2点が、今回の中心です。持ち帰るものは3つあります。1つ目は、職権取消しと撤回の見分け方です。2つ目は、職権取消しに法律の根拠は要るのかを、判例で確かめること。3つ目は、撤回に法律の根拠は要るのかを、同じく判例で確かめることです。先に答えを言います。2つを見分ける鍵は、取り消す理由が、許可を出した時点の問題か、そのあとに生じた事情か、です。そして、どちらも、取消しを認める規定が無くても、取り消せます。ただし、規定が要らないことと、いつでも自由にできることは別です。

処分が効力を失う3つの道

3つの道の一覧(争訟取消し=起点:私人の不服申立て・取消訴訟/原因:処分の違法・不当/効果:さかのぼる/誰が:裁決庁・裁判所/期間制限あり・職権取消し=起点:行政が自分で動く・申立て不要/原因:成立時からの瑕疵/効果:さかのぼる/誰が:処分庁〔上級行政庁もとされる〕/期間制限なし・撤回=起点:行政が自分で動く/原因:あとから生じた事情/効果:将来に向かう/誰が:原則として処分庁) 図:3つの道の一覧

  • 争訟取消し
    • 起点:私人の不服申立て・取消訴訟
    • 原因:処分の違法・不当
    • 効果:さかのぼる
    • 誰が:裁決庁・裁判所
    • 期間制限あり
  • 職権取消し
    • 起点:行政が自分で動く・申立て不要
    • 原因:成立時からの瑕疵
    • 効果:さかのぼる
    • 誰が:処分庁〔上級行政庁もとされる〕
    • 期間制限なし
  • 撤回
    • 起点:行政が自分で動く
    • 原因:あとから生じた事情
    • 効果:将来に向かう
    • 誰が:原則として処分庁

入口として、公定力の回で見たことを思い出します。違法な処分でも、取り消されるまでは有効でした。では、取り消されるとは、誰が、どんな形でするのでしたか?取り消される1つ目の道は、私人が不服申立てや取消訴訟で争い、裁決や判決で取り消してもらう形で、争訟取消しと呼びます。起点は私人の申立てで、申立てには期間の制限があります。今回の主役は、残りの2つです。どちらも、Bが争わなくても、行政が自分で動きます。2つ目が職権取消しで、成立した時から瑕疵があった処分を、さかのぼって失わせます。3つ目が撤回で、いったん適法に成立した処分を、あとから生じた事情を理由に、将来に向かって失わせます。公定力の回では、取り消される道は、争訟取消しと職権取消しの2つ、と見ました。違法な処分を失わせる道だからです。撤回は、適法な処分を失わせるので、そこには入っていませんでした。

職権取消しには、争訟取消しのような、申立ての期間制限はありません。不可争力の回で見たとおり、期間が過ぎても、行政が自分で取り消すことは妨げられません。ただし、期間が無いことと、いつでも取り消せることは別です。相手の信頼などから、別の制限がかかります。板の見方は、横が3つの道、縦が起点、原因、効果の向き、誰ができるかです。設例イで、Bが何も争わなくても、Aは動けます。それが、2つ目と3つ目の道です。

職権取消しとは——さかのぼって、なかったことにする

職権取消しの時間軸(設例ア/許可を出した時点で、すでに要件を欠いていた→のちに取消し→許可を出した時点にさかのぼって、許可は無かったことになる/定義=成立した時から瑕疵〔違法または不当〕のある処分を、さかのぼって効力を失わせる/取消しそれ自体も別個の処分/上級行政庁もできるとされる) 図:職権取消しの時間軸

  • 設例ア
  • 許可を出した時点で、すでに要件を欠いていた→のちに取消し→許可を出した時点にさかのぼって、許可は無かったことになる
  • 定義=成立した時から瑕疵〔違法または不当〕のある処分を、さかのぼって効力を失わせる
  • 取消しそれ自体も別個の処分
  • 上級行政庁もできるとされる

職権取消しは、成立した時から瑕疵、つまり違法または不当のある処分を、さかのぼって効力を失わせることです。初めからなかったことにして、正しい法律関係を取り戻します。設例アで考えます。許可を出した時点で、Bの店はすでに広さの要件を欠いていました。Aが取り消すと、効力は許可を出した時点までさかのぼります。許可があることを前提にしたBの営業は、許可の無い状態だったことになります。不当は、瑕疵の回で見たとおり、違法ではないけれど、裁量の使い方が不適切な状態でした。裁判所が取消訴訟で判断できるのは違法です。しかし、行政が自分で直すときは、不当な処分も直せます。注意が2つあります。1つ目は、取消しそれ自体も、もとの許可とは別の処分だということです。Bが争えば、その取消しが、また取消訴訟の対象になります。2つ目は、取り消せる行政庁です。処分をした行政庁はもちろんできます。上級行政庁、つまり監督庁も、職権で取り消す場合がある、とされています。ただし、不可変更力の回で見た裁決のように、争いを裁いた行政庁は、自分で結論を変えられません。

撤回とは——適法だった処分を、これから先だけ失わせる

撤回の時間軸(設例イ/許可の時点では適法→Bが許可のあとに重大な違反を繰り返す→Aが撤回→それまでのBの営業は適法のまま・撤回の時点から先だけ許可が無くなる/定義=適法に成立した処分を、あとから生じた事情により維持するのが適当でなくなったとき、将来に向かって失わせる/撤回できるのは原則として処分庁・監督庁は命じるところまで/撤回それ自体も別個の処分) 図:撤回の時間軸

  • 設例イ
  • 許可の時点では適法→Bが許可のあとに重大な違反を繰り返す→Aが撤回→それまでのBの営業は適法のまま・撤回の時点から先だけ許可が無くなる
  • 定義=適法に成立した処分を、あとから生じた事情により維持するのが適当でなくなったとき、将来に向かって失わせる
  • 撤回できるのは原則として処分庁・監督庁は命じるところまで
  • 撤回それ自体も別個の処分

次は撤回です。いったん適法に成立した処分を、あとで生じた事情のために、維持するのが適当でなくなったとき、将来に向かって効力を失わせることです。設例イで見ます。許可の時点では、適法でした。Bが許可のあとに重大な違反を繰り返したので、Aが撤回します。それまでのBの営業は、適法なままです。撤回の時点から先だけ、許可が無くなります。これを遡及しない、と言います。ただし、原則です。法律が、すでに交付した分の返還まで定めている場合があります。たとえば、前回の事案にも出てきた補助金の法律は、交付のあとに補助金をほかの用途に使った、といった違反を理由に、交付の決定を取り消した場合に、すでに交付された分の返還を命じる、と定めています。名前は取消しですが、交付のあとの事情が理由なので、中身は撤回です。

条文補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律18条1項

補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第18条第1項 各省各庁の長は、補助金等の交付の決定を取り消した場合において、補助事業等の当該取消に係る部分に関し、すでに補助金等が交付されているときは、期限を定めて、その返還を命じなければならない。

将来だけの話ではなく、すでに出したお金に及びます。個別の法律の規定なので、暗記は要りません。遡及しないのは原則で、法律の定めによって例外がある、と押さえてください。撤回には、あと2点あります。まず、撤回できるのは、原則として処分庁です。監督庁は、処分庁に撤回を命じることはできますが、実際に撤回するのは処分庁です。2つ目は、撤回もそれ自体が別個の処分だということです。撤回の理由には、いくつかの顔があります。義務に違反したことへの制裁として行われる場合。処分の基になる要件が、あとから欠けた場合。それ以外の、公益上の必要が生じた場合です。ただ、制裁かどうかは、あとの判例で効いてきます。

つまずきどころ——法令は「取り消す」と書く

見分け方(法令の語=職権取消しも撤回も、ふつう「取り消す」と書く/免許の取消しなどの多くは、学問上は撤回/見分け方=取消しの理由を見て、許可を出した時点で問題があったか、そのあとに生じた事情かを問う/時点で問題あり→職権取消し・あとに生じた→撤回/設例ウ=同じ欠格事由でも、許可の前にあれば職権取消し・許可のあとに生じたなら撤回) 図:見分け方

  • 法令の語=職権取消しも撤回も、ふつう「取り消す」と書く
  • 免許の取消しなどの多くは、学問上は撤回
  • 見分け方=取消しの理由を見て、許可を出した時点で問題があったか、そのあとに生じた事情かを問う
  • 時点で問題あり→職権取消し・あとに生じた→撤回
  • 設例ウ=同じ欠格事由でも、許可の前にあれば職権取消し・許可のあとに生じたなら撤回

条文に「取り消す」と書いてあれば、職権取消しと思っていいのでしょうか。違います。ここが最大のつまずきどころです。法令は、職権取消しも撤回も、ふつう「取り消す」と書きます。免許の取消しなどの多くは、前にも一言触れたとおり、学問上は撤回です。条文の言葉からは、区別がつきません。取消しの理由を見ます。許可を出した時点で問題があったのか。それとも、そのあとに生じた事情なのか。前者なら職権取消し、後者なら撤回です。設例アは、申請書の偽りで、許可の時点で要件を欠いていました。職権取消しです。設例イは、許可の時点では適法で、あとの違反が理由です。撤回です。設例ウで練習します。一定の罪で処罰されたことが、許可の欠格事由だとします。Bが許可を受けるより前に、その事由がすでにあったなら、許可の時点で問題があったことになり、職権取消しです。許可のあとに、その事由が生じたなら、撤回です。同じ理由でも、時点で分かれます。ここで、行政手続法の規定を見ます。不利益処分の手続の入口です。

条文行政手続法13条1項(柱書・1号イ)

行政手続法第13条第1項 行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。 一 次のいずれかに該当するとき 聴聞 イ 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。

許認可等を取り消す不利益処分をしようとするときは、聴聞の手続を執らなければなりません。聴聞は、処分の前に、相手の言い分を聞く手続です。この「取り消す」には、職権取消しも撤回も含まれると解されています。どちらも、相手がすでに持っている許認可を奪う点で、相手への打撃は同じだからです。区別を問わず、手続は聴聞です。ここで、1問です。次の2つの取消しは、職権取消しか撤回か、理由から言えるでしょうか。まず、許可の申請書に偽りがあったと、後で分かった場合。2つ目は、許可のあとに、重大な違反が繰り返された場合です。

この問いでは、1つ目が職権取消し、2つ目が撤回です。「免許の取消し」と書いてあるから職権取消し、と決めてはいけません。理由の時点を見てください。

法律の根拠は要るか①——職権取消し

職権取消しに根拠は要るか(問い=条例に取消しの規定が無いのに、Aは取り消せるか/結論=取消しを認める明文は不要/理由①=違法な処分を放置しないことは法律による行政の原理の要請そのもの/理由②=もとの処分の根拠規定が与えた権限の中に、瑕疵があれば取り消す権限も含まれる/これは判例が明文の要否を正面から判断した結論ではなく、解釈〔通説〕) 図:職権取消しに根拠は要るか

  • 問い=条例に取消しの規定が無いのに、Aは取り消せるか
  • 結論=取消しを認める明文は不要
  • 理由①=違法な処分を放置しないことは法律による行政の原理の要請そのもの
  • 理由②=もとの処分の根拠規定が与えた権限の中に、瑕疵があれば取り消す権限も含まれる
  • これは判例が明文の要否を正面から判断した結論ではなく、解釈〔通説〕

ここから、法律の根拠の話です。まず職権取消しです。設例アでは、条例に取消しの規定がありません。それでもAは取り消せるのでしょうか。規定が無ければ取り消せないと考えたくなるのは、自然です。侵害には根拠が要る、という原則が頭にあるからです。ただ、結論は、職権取消しに、取消しを認める明文は不要です。理由の説明が2つあります。1つ目は、違法な処分を放置しないことが、法律による行政の原理の要請そのものだ、という説明です。行政は法律に従います。法律に反した処分があれば、それを正すのは、原理が求めることです。正す側に、さらに根拠は要りません。2つ目は、もとの処分の根拠規定が与えた権限の中に、瑕疵があれば取り消す権限も含まれている、という説明です。設例アなら、許可を出す権限を与えた条例が、許可に瑕疵があるときに取り消す権限も、与えていると読みます。1つ目は、法律に反した状態を正す、という説明でした。不当は、法律に反してはいないので、1つ目では、不当を理由とする取消しを説明しにくいのです。2つ目は、瑕疵があれば取り消せる権限なので、違法も不当も含められます。だから、2つ目のほうが広く説明できます。大事な注意です。これは判例が明文の要否を正面から判断した結論ではなく、解釈、つまり通説の整理です。明文が要らないとすると、次の問いは、どんなときなら取り消してよいか、です。そこを最高裁が判断した事件を見ます。

事案です。県の前の知事が、公有水面の埋立ての承認をしました。いまの知事は、その承認に瑕疵があるとして、承認を取り消しました。国は、この取消しは違法だとして、是正の指示を出しました。県が従わなかったので、国は、取り消さないことの違法の確認を求めました。承認を受けた側は国です。国と地方の争いの出口の回で、是正の指示の例として見た事件です。今回は、その取消しが適法だったか、の見方だけを見ます。

事案の関係(A=県の知事〔前の知事が承認・後任の知事が取消し〕/B=国〔承認を受けた側・是正の指示を出した〕/A→B 承認(前の知事)/A→B 承認の取消し(後任の知事)/B→A 是正の指示) 図:事案の関係

  • A=県の知事〔前の知事が承認・後任の知事が取消し〕
  • B=国〔承認を受けた側・是正の指示を出した〕
  • A→B 承認(前の知事)
  • A→B 承認の取消し(後任の知事)
  • B→A 是正の指示

板では、県の知事をA、国をBとします。前の知事が承認をし、後任の知事がそれを取り消し、承認を受けた国が、取消しは違法だと指示を出した、という関係です。処分をした側がA、受けた側がB、という役割は、設例と同じです。判旨です。

判例最判平28・12・20 民集70巻9号2281頁

取消しの適否は、もとの処分がされた時点の事情で判断する 一般に,その取消しにより名宛人の権利又は法律上の利益が害される行政庁の処分につき,当該処分がされた時点において瑕疵があることを理由に当該行政庁が職権でこれを取り消した場合において,当該処分を職権で取り消すに足りる瑕疵があるか否かが争われたときは,この点に関する裁判所の審理判断は,当該処分がされた時点における事情に照らし,当該処分に違法又は不当(以下「違法等」という。)があると認められるか否かとの観点から行われるべきものであり,そのような違法等があると認められないときには,行政庁が当該処分に違法等があることを理由としてこれを職権により取り消すことは許されず,その取消しは違法となるというべきである。 したがって,本件埋立承認取消しの適否を判断するに当たっては,本件埋立承認取消しに係る上告人の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用が認められるか否かではなく,本件埋立承認がされた時点における事情に照らし,前知事がした本件埋立承認に違法等が認められるか否かを審理判断すべきであり,本件埋立承認に違法等が認められない場合には,上告人による本件埋立承認取消しは違法となる。

判断の骨格は3つです。1つ目は、取消しの適否を、裁判所は、もとの処分がされた時点の事情に照らして、処分に違法または不当があったかという観点で見ること。2つ目は、そのような違法等が認められないなら、取り消すことは許されず、取消しのほうが違法になること。3つ目は、見る対象が、取り消した人の判断の当否ではないことです。取り消したいまの知事に、広い裁量があったかどうかは問題にしません。見るのは、あくまで、もとの承認が出された時点で、承認自体に違法や不当があったかどうかです。そして、この事件では、承認に違法等は認められず、取消しは違法とされました。なぜ、取り消した人の判断ではなく、もとの承認を見るのでしょうか。職権取消しは、もとの処分の瑕疵を正すための権限でした。正すべき瑕疵が無ければ、取り消す理由そのものがありません。設例アに当てはめます。Aは、許可の時点の事情、つまりBの店舗が広さの基準を満たしていたかに照らして、許可に違法等があったかを問われます。偽りがあって足りなかったなら、許可に違法があり、取消しは適法です。反対に、実は広さが足りていたなら、取消しのほうが違法になります。取消しに、あとで生じた事情は関係しません。あとの事情は撤回の話です。理由の時点を見分けた先に、この判断の見方があります。最後にもう一点です。違法等があっても、相手に利益を与えた処分を取り消す場合は、信頼保護の回で見たように、相手の信頼を害するので、いつでもできるわけではありません。

法律の根拠は要るか②——撤回

撤回に根拠は要るか(3つの立場/通説=不要〔撤回は公益に合う状態を取り戻す行為・撤回自由の原則〕/反対説=授益的処分の撤回は相手にとって侵害そのものだから法律の根拠が必要/折衷=明文は要らないが、許可・免許の仕組み自体が、あとの事情で維持できなくなれば撤回できることを前提にしていると読む/理由=明文が無いと撤回できないなら、後発の事情で維持できない場面で行政が責任を果たせない) 図:撤回に根拠は要るか

  • 3つの立場
  • 通説=不要〔撤回は公益に合う状態を取り戻す行為・撤回自由の原則〕
  • 反対説=授益的処分の撤回は相手にとって侵害そのものだから法律の根拠が必要
  • 折衷=明文は要らないが、許可・免許の仕組み自体が、あとの事情で維持できなくなれば撤回できることを前提にしていると読む
  • 理由=明文が無いと撤回できないなら、後発の事情で維持できない場面で行政が責任を果たせない

次は撤回です。撤回は、職権取消しと違って、瑕疵のない処分を、あとの事情で失わせます。相手にとって、許可のような利益を与える処分の撤回は、利益を取り上げることです。侵害そのものに見えます。そのため、根拠が要るかどうかに争いがあります。撤回のほうが根拠を要すると考える見方が、反対説の出発点です。学説は3つに整理できます。1つ目が通説で、根拠は不要です。撤回は、公益に合わなくなった状態を、公益に合う状態に戻す行為だからです。公益に合わなくなれば、処分は取り上げられるのが原則で、これを撤回自由の原則と呼びます。2つ目が反対説です。授益的処分、つまり相手に利益を与えた処分の撤回は、相手にとって侵害そのものなので、法律の根拠が必要だ、とします。前に見た侵害留保説の物差しに乗せると、利益を与えることには根拠が要らなくても、取り上げることは侵害だ、という発想です。3つ目が折衷の考え方です。根拠が要らない、という結論は通説と近いのですが、撤回の権限を、もとの処分の仕組みの中に読み込む点が違います。明文は要らないけれど、許可や免許の仕組みそのものが、あとの事情で維持できなくなれば撤回できる、ということを前提にしている、と読みます。明文が無ければ撤回できないとすると、許可のあとにどんな事情が出ても、行政は動けなくなります。実際には、そのまま維持できない場面があります。そこで、仕組みの中に撤回の権限が含まれていると見るのです。

ここで判例です。事案を、設例とは別の登場人物で説明します。人工妊娠中絶を行える医師を、医師会が指定する制度がありました。医師会が指定の権限を持ち、医師が指定を受けます。この医師は、虚偽の出生証明書を発行して、他人の子として育てさせる、いわゆる実子あっせんを、繰り返しました。罰金刑に処せられ、医師会は、この医師の指定を取り消しました。取消しは、学問上は撤回です。当時の優生保護法、いまの母体保護法には、指定の取消しを定める明文がありませんでした。

事案の関係(A=医師会〔指定の権限を持つ〕/B=医師〔指定を受けていた〕/A→B 指定/Bが実子あっせんを繰り返す・罰金刑/A→B 指定を撤回/法律には撤回の明文が無い) 図:事案の関係

  • A=医師会〔指定の権限を持つ〕
  • B=医師〔指定を受けていた〕
  • A→B 指定
  • Bが実子あっせんを繰り返す・罰金刑
  • A→B 指定を撤回
  • 法律には撤回の明文が無い

板では、医師会をA、医師をBとします。まず、指定の根拠規定を見ます。いまの母体保護法の条文です。

条文母体保護法14条1項(現行文。判決当時の法律名は優生保護法)

母体保護法14条1項 都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。 一 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの 二 暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの

医師会の指定する医師、つまり指定医師だけが、人工妊娠中絶を行える、という仕組みです。そして、この条文には、指定を取り消せる、という言葉がありません。個別の法律の条文なので、暗記は要りません。仕組みを押さえてください。では、最高裁は、明文が無い撤回を、どう判断したでしょうか。

判例最判昭63・6・17 集民154号201頁

明文がなくても、指定の権限を付与された者は、その権限で撤回できる そうすると、被上告人医師会が昭和五一年一一月一日付の指定医師の指定をしたのちに、上告人が法秩序遵守等の面において指定医師としての適格性を欠くことが明らかとなり、上告人に対する指定を存続させることが公益に適合しない状態が生じたというべきところ、実子あつせん行為のもつ右のような法的問題点、指定医師の指定の性質等に照らすと、指定医師の指定の撤回によつて上告人の被る不利益を考慮しても、なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められるから、法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、指定医師の指定の権限を付与されている被上告人医師会は、その権限において上告人に対する右指定を撤回することができるものというべきである。

明文が無いのに、撤回できました。ここで、1問です。その理由を、権限と衡量の2点で言えるでしょうか?指定の権限を持つ医師会は、その権限の中で撤回できる、というのが1点目です。2点目は、撤回で医師が被る不利益を考えても、なお公益上の必要性が高い、と比べたことです。もう少し読みどころを足します。1つ目は、撤回を、義務違反への制裁とは捉えていない、と読めることです。判旨は、指定のあとに、指定医師としての適格性を欠くことが明らかになり、指定を存続させることが公益に適合しない状態が生じた、と述べています。制裁ではなく、状態が公益に合わなくなった、という捉え方です。制裁と見れば、より明文が要ると考えやすくなります。制裁は、違反を責めて不利益を科すもので、罰に近いからです。罰なら、法律であらかじめ定めておくべきだ、となります。この判決は、制裁ではなく状態の問題と捉えたので、直接の明文を求めずに済んだ、と読めます。2つ目は、権限の中の撤回だということです。判旨の言う「その権限において」とは、指定の根拠規定が授けた権限の中に、撤回する権限も含まれている、という読み方です。職権取消しの2つ目の説明と、同じ考え方です。3つ目は、衡量です。撤回で医師が被る不利益を考慮しても、なお公益上の必要性が高いと認められる、と比べています。根拠が要らなくても、相手の不利益と公益上の必要を比べて、撤回できる場合が絞られます。反対説が心配した相手の不利益は、明文を求めることではなく、この比べ方で守られる、という形です。

⭐ 論文で書く規範:規範(判例の判断枠組み):直接明文の規定がなくとも、処分の権限を付与されている行政庁は、その権限において処分を撤回することができる。ただし、撤回によって相手方の被る不利益を考慮しても、なお撤回すべき公益上の必要性が高いことを要する (短答・論文共通)

これは条文にない物差しです。言葉どおりに覚えます。ここは論文で論点になりうる所です。根拠が要らない、というのは、法律の根拠が何も無くていい、という意味ですか。違います。誤解しやすいところです。要らないのは、取消しや撤回を認める明文です。処分の権限そのもの、つまり、もとの処分の根拠規定は必要です。撤回も、相手の地位を動かす処分です。だから、法律上の根拠そのものは要ります。その根拠を、もとの処分の根拠規定が与えている、というのが一般的な理解です。設例イに当てはめます。条例には、許可を撤回する規定がありません。この判例の枠組みなら、許可の権限を与えられたAは、その権限で撤回できる可能性があります。ただし、Bの違反の重大さと、撤回でBが被る不利益の比べ方しだいです。重大な違反を繰り返したBなら、公益上の必要が高いと言いやすい場面です。

ほかの例——撤回が認められた事例

ほかの例(①有害な副作用が分かり有用性を欠くとされた医薬品の製造承認〔最判平7・6・23〕=法律に明文の規定が無くても大臣は承認を取り消す〔撤回する〕権限を有する/②あとから給付の要件を欠いた給付決定=要件を定める規定があればそれが撤回の根拠・給付のあとの事情なので撤回/見方=明文が無くても撤回できる場合があり、規定があればそれが根拠になる) 図:ほかの例

  • ①有害な副作用が分かり有用性を欠くとされた医薬品の製造承認〔最判平7・6・23〕=法律に明文の規定が無くても大臣は承認を取り消す〔撤回する〕権限を有する
  • ②あとから給付の要件を欠いた給付決定=要件を定める規定があればそれが撤回の根拠・給付のあとの事情なので撤回/見方=明文が無くても撤回できる場合があり、規定があればそれが根拠になる

撤回の例は、前の指定医師の判決のほかにもあります。判決の例と、制度の場面を、1つずつ見ます。1つ目は、有害な副作用が分かって、有用性が無いと認められた医薬品について、大臣は、法律に明文の規定が無くても、製造の承認を取り消す、つまり撤回する権限を持つ、とした判決です。承認のあとに、医学の知見が進んで有用性が否定された、という、あとの事情なので、撤回です。危ない薬を売らせ続けない、という公益上の必要が高い場面です。なお、この事件は、国が承認を取り消さなかったことの責任を問う、国家賠償の事件で、撤回の権限は、その前提として述べられました。もう1つの場面も見ておきます。金銭の給付を決めたあとで、給付の要件が欠けることがあります。法律が、そういう場合に給付をやめる、と定めていれば、その規定が撤回の根拠になります。給付のあとの事情なので撤回ですが、明文が無い場面ではなく、根拠の規定がある場面です。

ただし、撤回の根拠の出どころは、3つの場面で同じではありません。明文が無くても撤回できたのは、指定医師の判決と医薬品の判決です。給付の場面は、規定を根拠にした例です。利益を与えた処分でも、公益上の必要性が高ければ、明文が無くても撤回できる場合があり、規定があれば、それが根拠になる、と整理してください。

今日の地図(保存版)

今日の整理①(3つの道=争訟取消し・職権取消し・撤回/見分け方=理由が処分の時点の問題か、あとの事情か/効果の向き=職権取消しはさかのぼる・撤回は将来に向かう/できる主体=撤回は原則として処分庁〔監督庁は命じるところまで〕/法令は両方を「取り消す」と書く/行手法13条1項1号イの「取り消す」は両方を含む) 図:今日の整理①

  • 3つの道=争訟取消し・職権取消し・撤回
  • 見分け方=理由が処分の時点の問題か、あとの事情か
  • 効果の向き=職権取消しはさかのぼる・撤回は将来に向かう
  • できる主体=撤回は原則として処分庁〔監督庁は命じるところまで〕
  • 法令は両方を「取り消す」と書く
  • 行手法13条1項1号イの「取り消す」は両方を含む

まとめます。冒頭の問いに答えます。条例に規定が無くても、Aは、設例アの職権取消しも、設例イの撤回も、できます。ただし、職権取消しは、許可の時点の事情に照らして違法等が無ければ、取消しのほうが違法です。撤回は、Bが被る不利益と公益上の必要の比べ方が、問題になります。見分け方は、取消しの理由が、処分の時点の問題か、あとの事情か、でした。職権取消しは、さかのぼります。撤回は、将来に向かいます。撤回できるのは、原則として処分庁で、監督庁は命じるところまでです。法令は両方を「取り消す」と書き、行政手続法の聴聞の規定の「取り消す」も、両方を含みます。

今日の整理②(職権取消し=根拠不要〔法律による行政の原理の要請/もとの処分の権限〕・適法性はもとの処分がされた時点の事情で判断・無ければ取消しが違法/撤回=通説は不要〔撤回自由の原則〕・反対説は必要・折衷あり/判例=明文が無くても処分の権限を持つ者が撤回できる〔制裁でなく状態の問題と読める・権限の中・不利益と公益上の必要の衡量〕/ただしいつでも自由にできるわけではない) 図:今日の整理②

  • 職権取消し=根拠不要〔法律による行政の原理の要請/もとの処分の権限〕・適法性はもとの処分がされた時点の事情で判断・無ければ取消しが違法
  • 撤回=通説は不要〔撤回自由の原則〕・反対説は必要・折衷あり
  • 判例=明文が無くても処分の権限を持つ者が撤回できる〔制裁でなく状態の問題と読める・権限の中・不利益と公益上の必要の衡量〕
  • ただしいつでも自由にできるわけではない

根拠は、職権取消しなら不要です。違法の是正は、法律による行政の原理の要請で、もとの処分の権限に取消しの権限も含まれます。適法性は、もとの処分がされた時点の事情で見ます。撤回は、通説も不要で、反対説があり、判例は、明文が無くても、処分の権限を持つ者が撤回できるとしました。ただし、根拠が要らなくても、いつでも自由にできるわけではありません。

今日の短答の誤り肢(「免許の取消し」とあるから職権取消しである〔誤り〕/撤回は遡及しないので、法律に遡及の定めがあっても遡及しない〔誤り〕/職権取消しには取消しを認める明文の規定が必要〔誤り〕/監督庁は処分を撤回できる〔誤り〕) 図:今日の短答の誤り肢

  • 「免許の取消し」とあるから職権取消しである〔誤り〕
  • 撤回は遡及しないので、法律に遡及の定めがあっても遡及しない〔誤り〕
  • 職権取消しには取消しを認める明文の規定が必要〔誤り〕
  • 監督庁は処分を撤回できる〔誤り〕

最後に、短答の誤り肢です。「免許の取消し」と書いてあるから職権取消しである、は誤りです。法令は両方を取消しと書きます。理由の時点で見ます。撤回は遡及しないので、法律に遡及の定めがあっても遡及しない、も誤りです。補助金の法律の規定のように、法律が定めれば、すでに交付した分に及びます。職権取消しには、取消しを認める明文の規定が必要、も誤りです。明文は要りません。監督庁は処分を撤回できる、も誤りです。原則として、監督庁は、処分庁に撤回を命じるところまでです。

参照条文

  • 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律18条1項
  • 行政手続法13条1項(柱書・1号イ)
  • 母体保護法14条1項(現行文。判決当時の法律名は優生保護法)

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