行政法ゼロから行政法#51

瑕疵の治癒と違法行為の転換

印刷用PDFを開く

第4章 行政行為 #51/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

理由が足りない命令は、あとから補えるのか

設例ア(町の役場Aが喫茶店の店主Bに営業停止命令/命令書の理由の欄=「違反があった」の一言だけ/後日、Aが別の紙で詳しい理由をBに知らせた/問い=足りなかった理由は、これで補われたと言えるのか・それとも取り消しか) 図:設例ア

  • 町の役場Aが喫茶店の店主Bに営業停止命令
  • 命令書の理由の欄=「違反があった」の一言だけ
  • 後日、Aが別の紙で詳しい理由をBに知らせた
  • 問い=足りなかった理由は、これで補われたと言えるのか・それとも取り消しか

今回は、瑕疵があっても処分が維持される場合を扱う回です。公定力の回から使っている、町の役場Aと喫茶店の店主Bの設例に戻ります。AがBに営業停止命令を出しました。ところが、命令書の理由の欄には、違反があった、という一言しか書かれていませんでした。理由が足りないので、この命令は違法です。ここで、Aが、あとから別の紙で、どの違反なのかを詳しくBに知らせたとします。足りなかった理由は、これで補われたことになるのでしょうか。それとも、やはり取り消しなのでしょうか。その迷いが、今回の中心です。瑕疵があるのに、維持される場合と、維持されない場合があります。この分かれ目を見ます。持ち帰るものは3つです。1つ目は、瑕疵があっても処分が維持される例外が3つあること、そして、その共通の発想と、慎重さの理由です。2つ目は、あとから補えた例と、補えなかった例を分けるものさしです。設例の命令は、あとからの説明では治らない側です。3つ目は、根拠を別の条文に読み替えて処分を維持する、転換の3つの条件です。入口として、前回の内容を確かめます。軽微な瑕疵は、取消事由の中の軽いほうだったでしょうか?

いえ、取消事由にすらならない瑕疵でした。取り消してもやり直しになるだけだから、無視してよい、という整理でした。今回は、取消事由があるのに、維持される場合です。

例外は3つ——共通の発想と慎重さ

例外3つの一覧(原則=取消事由のある処分は取消訴訟で取り消される/①瑕疵の治癒=あとから欠けたものが補われる/②違法行為の転換=別の根拠による処分と捉え直して適法と扱う/③理由の差替え=処分は同じまま訴訟で理由を入れ替える/共通の発想=やり直すより維持が効率的で私人にも酷でない場合がある/歯止め=手続の目的があとからでも果たせるか/軽微な瑕疵=取消事由にならない) 図:例外3つの一覧

  • 原則=取消事由のある処分は取消訴訟で取り消される
  • ①瑕疵の治癒=あとから欠けたものが補われる
  • ②違法行為の転換=別の根拠による処分と捉え直して適法と扱う
  • ③理由の差替え=処分は同じまま訴訟で理由を入れ替える
  • 共通の発想=やり直すより維持が効率的で私人にも酷でない場合がある
  • 歯止め=手続の目的があとからでも果たせるか
  • 軽微な瑕疵=取消事由にならない

原則から確認します。取消事由のある処分は、取消訴訟で取り消されます。その原則に対する例外が、3つあります。1つ目は、瑕疵の治癒です。処分のあとで、欠けていたものが補われることです。2つ目は、違法行為の転換です。処分はそのままで、根拠を別の条文による処分として捉え直し、適法と扱うことです。3つ目は、理由の差替えです。処分は同じままで、訴訟の段階で、処分の理由を別のものに入れ替えることです。違法なのに維持するなんて、法律による行政に反しませんか。そこが、この3つに共通する緊張です。まず、維持を認める発想を見ます。瑕疵を理由に取り消しても、行政庁が瑕疵を直して、同じ処分をやり直すだけになる場合があります。それなら、維持したほうが効率的で、私人にとっても酷でない場合がある、という発想です。設例で考えます。もしAが、直せばそのまま同じ命令を出せる状況で、命令書の書き方を誤っただけなら、取り消してやり直させても、Bの営業停止は、少し遅れて同じ結果になるだけです。ただし、やり直しで同じ結果になる、とはいつも言えません。それは、このあとの判例で確かめます。次に、慎重さの理由です。手続を踏ませること自体に価値がある、と重く見られるほど、あとから補ったり、読み替えたりすることは、認めにくくなります。行政の判断の合理性を保つことや、私人が手続の中で争う機会を守ることを、大切にするからです。たとえば、処分の理由を示す手続は、その重いものに当たります。その手続の目的が、あとからでも果たせるか。この見方を頭に置いて、進みます。

軽微な瑕疵は、取消事由にならないので、維持されるのが当然です。治癒や転換は、取消事由があるのに、特別に維持される場合です。ここを混ぜると、短答の誤り肢に引っかかります。

瑕疵の治癒とは

瑕疵の治癒(治癒=瑕疵のある処分がされたあと、その瑕疵が補われること/追完=あとから補うこと/設例ア=理由が足りない命令にあとから別の紙で理由を知らせた→治るのか/判例2件=認めた例〔手続の順序の瑕疵〕・認めなかった例〔理由付記の不備〕) 図:瑕疵の治癒

  • 治癒=瑕疵のある処分がされたあと、その瑕疵が補われること
  • 追完=あとから補うこと
  • 設例ア=理由が足りない命令にあとから別の紙で理由を知らせた→治るのか
  • 判例2件=認めた例〔手続の順序の瑕疵〕・認めなかった例〔理由付記の不備〕

治癒とは、瑕疵のある処分がされたあとで、その瑕疵が補われることです。あとから補うことなので、追完とも言います。補われたのなら、処分を取り消さずに維持できないか、という発想です。設例アに戻ります。理由の足りない命令に、あとから別の紙で理由を知らせました。これは治癒になるのか。最高裁には、治癒を認めた判決と、認めなかった判決の、両方があります。この2件を見比べると、ものさしが見えてきます。瑕疵の種類だけでは決まりません。認めた例は、手続の順序の瑕疵です。認めなかった例は、理由付記の不備です。どちらも手続の瑕疵で、同じ種類なのに結論が分かれています。だから、何が分けたのかを、判決の中身から読み取ります。もう1点、前回の無効との関係です。認めた例は、処分が最初から無効かどうかを争う、無効確認の訴えの事件でした。最高裁は、その瑕疵は無効原因、つまり処分を最初から無効にする理由にはならないし、あとの裁決で治癒される、と述べました。無効になるのは原則として重大かつ明白な瑕疵だけ、という前回の線とつながっています。

認めた例——裁決を待たずに進めた農地買収

農地買収の流れ(A=県の農地委員会側/B=持ち主/①Bが買収計画に不服申立て〔訴願〕→②Aは裁決を待たずに、棄却の裁決があることを条件に買収計画を承認し、買収令書を発行→③その後、訴願を棄却する裁決が出た/問い=あとの裁決で瑕疵は治るか) 図:農地買収の流れ

  • A=県の農地委員会側
  • B=持ち主
  • ①Bが買収計画に不服申立て〔訴願〕→②Aは裁決を待たずに、棄却の裁決があることを条件に買収計画を承認し、買収令書を発行→③その後、訴願を棄却する裁決が出た
  • 問い=あとの裁決で瑕疵は治るか

治癒を認めた例です。国が農地を買い取る手続の事件でした。買収の計画に、持ち主が不服を申し立てていました。当時の不服申立ての一種で、訴願と呼びます。その結論が出ていないのに、県の農地委員会は、次の手続に進みました。ただし、訴願を棄却する裁決があることを条件にして、買収計画を承認する、という形でした。条件が満たされたときに効力が生じる、という約束事で、停止条件と呼びます。県知事は、買い取りを持ち主に告げる書面である、買収令書も発行しました。その後、実際に、訴願を棄却する裁決が出ました。不服申立ての判断を待たずに、先へ進んだんですね。それは違法ではないんですか。違法です。不服申立てに決着がつく前に、次の手続を進めてはならないのに、進めたからです。持ち主は、買収処分の無効確認を求めました。原審は、裁決を経ずに手続を進めた瑕疵は重大で、あとの裁決でも治癒されない、としました。最高裁は、これを破棄しました。判旨です。

判例最判昭36・7・14 民集15巻7号1814頁

裁決を経ずに進めた違法は、あとの裁決で治癒される 農地買収計画につき異議・訴願の提起があるにもかかわらず、これに対する決定・裁決を経ないで爾後の手続を進行させたという違法は、買収処分の無効原因となるものではなく、事後において決定・裁決があつたときは、これにより買収処分の瑕疵は治癒されるものと解するのを相当とする……訴願棄却の裁決がなされる前に承認その他の買収手続を進行させたという瑕疵は、その後訴願棄却の裁決がなされたことによつて治癒された、と解すべきである。

判断は2つです。1つ目は、この違法は、無効原因にならないこと。2つ目は、あとで裁決があれば、買収処分の瑕疵は治癒されることです。なぜ治るのか。ここで乱れたのは、不服申立ての判断を待つ、という手続の順序だけでした。そして実際に、あとから裁決が出て、その結論は、買収計画を維持するものでした。先に進めた承認や令書は、あとの裁決によって、裏付けられた形になります。では、あとの裁決が逆に処分を取り消す結論だったらどうなるか。判決は、その場合を述べていません。ただ、この事件では、あとの裁決は処分を維持する結論でした。判決の一般論は、裁決の結論で場合を分けてはいません。判決文から言えるのは、ここまでです。短答では、手続の順序の瑕疵が、あとの裁決で治癒された例として出てきます。

認めなかった例——理由が簡略な更正

更正の流れ(更正通知書の理由の欄=「営業譲渡補償金計上もれ」「認定利息計上もれ」など項目と金額が並ぶだけ→のちの審査裁決で処分の具体的な根拠が明らかにされた→治癒されない/理由付記の2つの趣旨=①処分庁の判断の慎重・合理性を担保し恣意を抑制②処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える/取消しの実益=更正期間の制限で新たな更正の余地がないことがある) 図:更正の流れ

  • 更正通知書の理由の欄=「営業譲渡補償金計上もれ」「認定利息計上もれ」など項目と金額が並ぶだけ→のちの審査裁決で処分の具体的な根拠が明らかにされた→治癒されない
  • 理由付記の2つの趣旨=①処分庁の判断の慎重・合理性を担保し恣意を抑制②処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える
  • 取消しの実益=更正期間の制限で新たな更正の余地がないことがある

次は、治癒を認めなかった例です。法人税の、青色申告をしている会社の事件でした。税務署長が、申告された税額を直す処分をしました。これを更正と言います。更正の通知書の理由の欄には、営業譲渡補償金の計上もれ、認定利息の計上もれ、といった項目と金額が並んでいるだけでした。なぜその金額になるのか、具体的な根拠は書かれていません。設例アの、違反があった、という一言と、よく似ています。そのあと、更正への不服申立てを受けて、税務署長とは別の機関がした審査裁決で、処分の具体的な根拠が明らかにされました。根拠が明らかになったのだから、理由付記の不備は治癒された、という主張が出ました。最高裁は、治癒を認めませんでした。

最高裁は、理由を書かせる趣旨に戻って考えました。判断は3段です。理由を書かせる目的、その目的があとから果たせるか、取り消す意味が残るか、です。この事件の条文は、当時の個別の税法の規定でした。ただ、理由を示させる趣旨は、いまの行政手続法の理由の提示と、同じ趣旨と理解されています。まず、行政手続法の一般規定を見ます。

条文行政手続法14条1項

行政手続法第14条第1項 行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。

不利益処分をするときは、名あて人に、同時に、理由を示さなければなりません。営業停止命令は、不利益処分の典型です。設例アは、理由を示す義務のある処分として考えます。町が条例にもとづいて出す命令なら、行政手続法ではなく、町の行政手続条例の問題になります。ただ、理由を示す定めがある点は同じです。では、更正の事件で、最高裁は、理由付記の趣旨を、どう述べたでしょうか。

判例最判昭47・12・5 民集26巻10号1795頁

理由付記の趣旨は、判断の慎重さの担保と、不服申立ての便宜 処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立の便宜を与えることを目的として

理由付記の2つの趣旨(①処分庁の判断の慎重・合理性を担保し恣意を抑制する/②処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える/問い=あとから根拠を示して、①②は果たせるか) 図:理由付記の2つの趣旨

  • ①処分庁の判断の慎重・合理性を担保し恣意を抑制する
  • ②処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える
  • 問い=あとから根拠を示して、①②は果たせるか

目的は2つです。1つ目は、処分をする側に、理由を書く作業を通じて慎重に判断させ、思いつきの勝手な判断、つまり恣意を抑えること。2つ目は、理由を相手に知らせて、不服申立ての準備ができるようにすることです。判決は、そこを見ています。審査裁決の段階で初めて具体的な根拠を知らされたのでは、それ以前の審査の手続で、十分に不服を主張できません。相手に不利益が残ります。1つ目の目的も、処分をした機関とは違う機関が、あとから根拠を示しても、処分そのものの慎重さは確保されません。

判例最判昭47・12・5 民集26巻10号1795頁

審査裁決で根拠が明らかになっても、理由付記の不備は治癒されない 処分庁と異なる機関の行為により附記理由不備の瑕疵が治癒されるとすることは、処分そのものの慎重、合理性を確保する目的にそわないばかりでなく、処分の相手方としても、審査裁決によつてはじめて具体的な処分根拠を知らされたのでは、それ以前の審査手続において十分な不服理由を主張することができないという不利益を免れない。……更正における附記理由不備の瑕疵は、後日これに対する審査裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしても、それにより治癒されるものではないと解すべきである。

設例アに当てはめます。この判決は、処分庁と違う機関が補った事案です。Aが自分で補う設例アは、そのままの事案ではありません。ただ、判決の2つの目的に戻ると、結論は同じ方向です。命令を出した時点の慎重さは、あとから戻りません。Bが不服を申し立てる準備のときには、具体的な理由を知らされていなかったことになります。この判決の枠組みなら、設例アの理由の不備は、あとの説明では治癒されません。では、取り消しても同じ命令が出し直されるだけなら、取り消す意味はないのか。判決は、そこにも触れています。更正が理由付記の不備で取り消されると、更正をできる期間の制限のために、あらためて更正をする余地がなくなることがある、と述べています。更正は、法律の決めた期間を過ぎると、もうできなくなるからです。つまり、取り消すことは、無意味で不必要だ、とは言えません。やり直しができるとは限らない、ということです。軽微な瑕疵の、取り消しても同じ処分がやり直されるだけ、という理屈は、当てはまりません。理由の提示の趣旨と程度は、別の回で詳しく扱います。ここでは、趣旨の2つを押さえてください。

2件を分けたもの——手続の目的が、あとから果たせるか

2件の比較表(農地の事件=欠けたもの:不服申立ての結論を待つこと/働き:結論が出る前に処分を進めない/あとからの補い:後の裁決が処分を維持/結論:治癒される ・ 更正の事件=欠けたもの:処分の理由を書くこと/働き:判断の慎重さ・不服申立ての準備/あとからの補い:別の機関の審査裁決で根拠が明らかに/結論:治癒されない/軸=補ったあとも手続の目的がなお果たせるか・相手方に不利益が残らないか) 図:2件の比較表

  • 農地の事件=欠けたもの:不服申立ての結論を待つこと
  • 働き:結論が出る前に処分を進めない
  • あとからの補い:後の裁決が処分を維持
  • 結論:治癒される
  • 更正の事件=欠けたもの:処分の理由を書くこと
  • 働き:判断の慎重さ・不服申立ての準備
  • あとからの補い:別の機関の審査裁決で根拠が明らかに
  • 結論:治癒されない
  • 軸=補ったあとも手続の目的がなお果たせるか・相手方に不利益が残らないか

ここで、1問です。同じ、あとから補った、なのに、農地の事件は治り、更正の事件は治りませんでした。何が違うのでしょうか?判決は、2件を比べていません。ここからは、判決文から読み取れる整理です。見るのは、欠けていた手続が、何のためのものだったか、という目的です。農地の事件で欠けたのは、不服申立ての結論を待つことでした。その働きは、結論が出る前に、処分を進めないことです。あとから結論が出て、それが処分を維持するものなら、先に進めた処分は、その結論に裏付けられます。順序が乱れただけで、手続が果たすはずだった働きは、あとからでも満たせました。更正の事件で欠けたのは、処分の理由を書くことでした。目的は、処分のときの判断の慎重さと、不服申立ての前に理由を知らせることです。どちらも、あとからでは、また、別の機関が示したのでは、果たせません。相手には不利益が残り、取り消しの実益も残ります。軸を言葉にします。あとから補って、その手続が果たすはずだった目的が、なお果たせるか。補ったあとも、相手方に不利益が残らないか。この2つです。

冒頭の慎重さにも、つながります。理由を示すような、手続の価値の重いものほど、あとからの補いは認められにくくなります。ただし、2件の判決文から言えるのは、この2つの場合の結論と理由までです。手続の瑕疵は一般に治癒されにくい、とまでは、断定できません。治癒を論じる答案では、欠けた手続の趣旨を挙げ、あとからの補いでその趣旨がなお果たせるか、相手方に不利益が残らないか、を当てはめます。ここは論文で論点になりうる所です。手続の瑕疵があるとき、そもそも取り消されるのかどうかは、別の回で扱います。

違法行為の転換とは

転換と治癒の違い・設例イ(Aは条例の甲条〔飲食店が衛生基準に違反したときの営業停止〕に基づく命令を出した/甲条は小規模の店には適用されない/同じ目的・同じ内容の命令を出せる乙条〔小規模店向け〕はある/問い=乙条に基づく命令として適法と扱えるか/治癒=あとから欠けたものを補う・転換=処分は同じまま根拠を見直す) 図:転換と治癒の違い・設例イ

  • Aは条例の甲条〔飲食店が衛生基準に違反したときの営業停止〕に基づく命令を出した
  • 甲条は小規模の店には適用されない
  • 同じ目的・同じ内容の命令を出せる乙条〔小規模店向け〕はある
  • 問い=乙条に基づく命令として適法と扱えるか
  • 治癒=あとから欠けたものを補う・転換=処分は同じまま根拠を見直す

2つ目の例外、違法行為の転換です。そのままでは違法な処分を、別の行政行為、つまり別の根拠に基づく処分として捉え直すことで、適法と扱う、解釈の技術です。根拠の条文を読み替えて、処分の効力を維持します。治癒との違いを整理します。治癒は、あとから、欠けていたものが補われます。転換は、処分そのものは変わらず、その根拠を、別の条文として見直します。設例イで考えます。町の条例の甲条は、飲食店が衛生基準に違反したときに、営業停止を命じられる、と定めています。Aは、甲条に基づいて、Bに営業停止命令を出しました。ところが、甲条は、Bのような小規模の店には適用されません。一方、小規模の店向けに、同じ目的で、同じ内容の命令を出せる乙条は、ありました。この命令を、乙条に基づくものとして、適法と扱えるでしょうか。

実質的には、そう思えます。でも、根拠の条文を読み替えることには、危うさがあります。処分は法律の根拠に基づいてしなければならない、という法律による行政の原理があるからです。読み替えを広く認めると、法律の根拠なしに出した処分まで、あとから救えてしまいます。そこで、条件が要ります。次に、最高裁が確かめた3点を見ます。

転換の3点と歯止め——補助金の財産処分の承認

補助金の事案(A=国の機関/B=交付事業者/C=間接補助事業者/AがBに交付決定・条件=Bが間接補助事業者に財産処分を承認するときは事前にAの承認/補助金はBからCへ・Cが施設を整備/Cは操業停止・施設は担保権の実行で売却/Bが22条に基づく承認を申請→Aは補助金相当額の納付を条件に承認/Bは納付後「承認は根拠法条を欠く」として不当利得の返還を請求) 図:補助金の事案

  • A=国の機関
  • B=交付事業者
  • C=間接補助事業者
  • AがBに交付決定・条件=Bが間接補助事業者に財産処分を承認するときは事前にAの承認
  • 補助金はBからCへ・Cが施設を整備
  • Cは操業停止・施設は担保権の実行で売却
  • Bが22条に基づく承認を申請→Aは補助金相当額の納付を条件に承認
  • Bは納付後「承認は根拠法条を欠く」として不当利得の返還を請求

事案です。国の機関Aが、事業者Bに、補助金の交付を決めました。この交付決定には、Bが、間接補助事業者に財産の処分を承認するときは、事前にAの承認を受ける、という条件が付いていました。間接補助事業者とは、Bから補助金を、さらに回してもらう側のことです。補助金は、BからCに回され、Cは、その補助金で施設を整備しました。その後、Cは操業を停止し、施設は、担保権の実行で売却されました。BはAに、財産処分の承認を申請しました。Aは、補助金に相当する額を納付することを条件に、承認しました。Bは、納付したあとで、この承認は根拠となる法条を欠き、納付の条件も無効だと主張して、国に、不当利得の返還を求めました。不当利得の返還とは、法律上の原因なく納めたお金を、返してもらう請求のことです。ここで必要なのは、2つの条文の骨格だけです。補助金の仕組みは、別の回で扱います。

条文補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律22条1項

補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第22条第1項 補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。ただし、政令で定める場合は、この限りでない。

22条1項は、補助事業者等が、補助金で取得した財産を、国の機関の承認を受けないで、補助金の目的に反して処分してはならない、という条文です。直接の補助事業者等についての規定です。

条文補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律7条3項

補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第7条第3項 前二項の規定は、これらの規定に定める条件のほか、各省各庁の長が法令及び予算で定める補助金等の交付の目的を達成するため必要な条件を附することを妨げるものではない。

7条3項は、前の2つの項に定める条件のほかにも、交付の目的を達成するために必要な条件を、交付決定に付けてよい、という条文です。Aが付けた、財産処分の事前承認という条件が、この3項に基づく条件です。原審は、22条は直接の補助事業者等の規定で、Cの処分には当たらず、この承認は根拠法条を誤っている、としました。そのうえで、いわゆる違法行為の転換の理論によっても、7条3項の条件に基づく承認とすることはできない、として、Bの請求を認めました。最高裁は、これを破棄して、Bの請求を退けました。ここで、出どころを分けて言います。判決は、これから見る3点を、順に確かめて、承認は適法だ、と結論しました。最高裁自身の判断の部分では、転換という言葉を使っていません。この3点を、転換が認められるための条件と整理して、厳格に限る必要があると述べたのは、補足意見です。補足意見は、結論に加わった裁判官が個人として書き足した意見で、法廷意見ではない、と公定力の限界の回で見ました。

判決が確かめた3点と補足意見の整理(左=判決が確かめた3点:①2つの承認は目的を共通にする/②根拠を見直してもBの不利益にならない/③もう一方の根拠でも承認しなかったであろう事情は見当たらない/右=補足意見の整理:この3点を転換の条件とし、法律による行政の原理を空洞化させないため厳格に限る/事案の登場人物=A〔国の機関〕・B〔交付事業者〕・C〔間接補助事業者〕) 図:判決が確かめた3点と補足意見の整理

  • 左=判決が確かめた3点:①2つの承認は目的を共通にする
  • ②根拠を見直してもBの不利益にならない
  • ③もう一方の根拠でも承認しなかったであろう事情は見当たらない
  • 右=補足意見の整理:この3点を転換の条件とし、法律による行政の原理を空洞化させないため厳格に限る
  • 事案の登場人物=A〔国の機関〕・B〔交付事業者〕・C〔間接補助事業者〕

板の左が判決の確かめた3点、右が補足意見の整理です。左から、判決文で順に確かめます。

判例最判令3・3・2 民集75巻3号317頁

1点目——2つの承認は、目的を共通にする 法22条に基づく承認と法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認は,その目的を共通にするものということができる。

1点目は、目的が共通であることです。22条に基づく承認と、7条3項の条件に基づく承認は、目的を共通にする、とされました。中身としては、補助金で整備した財産の処分を、国の機関が承認で管理する、という点で重なっています。ここで比べるのは、同じ1つの承認を、もとの根拠による処分と見るか、別の根拠による処分と見るか、の2つです。前の処分の違法を、後の処分を争う中で持ち出せるか、という違法性の承継で比べた、順に出される先行と後行の2つの処分とは、相手が違います。

判例最判令3・3・2 民集75巻3号317頁

2点目——根拠を見直しても、Bの不利益にならない 法22条に基づいてされた本件承認を法7条3項による本件交付決定条件に基づいてされたものとすることは,被上告人にとって不利益になるものでもない。

2点目は、Bの不利益にならないことです。22条に基づく承認を、7条3項の条件に基づく承認として扱っても、Bにとって不利益にはならない、とされました。ここでは、承認の内容は変わらず、見直すのは根拠だけでした。

判例最判令3・3・2 民集75巻3号317頁

3点目——もう一方の根拠でも承認しなかったであろう事情は、見当たらない 被上告人及び関東農政局長において,仮に法22条に基づいて本件承認をすることができないという認識であった場合に,これと目的を共通にする法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認の申請及び承認をしなかったであろうことをうかがわせる事情は見当たらない。

3点目は、もとの根拠ではできないと分かっていたら、もう一方の処分もしなかっただろう、という事情がないことです。もとの根拠では承認できない、と承認する側も申請する側も分かっていたとしても、目的を共通にするもう一方の根拠で、申請し、承認していただろう、と見られました。そうでないことをうかがわせる事情は、見当たらなかったのです。裏返すと、もとの根拠が使えないと分かっていたら、そもそも承認をやめていた、と見られる事情があれば、転換はできません。行政庁がするつもりのなかった処分を、あとからしたことにしないための確認です。3点を確かめたうえで、判決は、この承認を、7条3項の条件に基づいてされたものとして適法だ、と結びました。補足意見は、この3点を、転換が認められるための条件として整理します。ここで、立ち止まります。転換が認められるための3つの条件を、自分の言葉で、言えるでしょうか?

目的が同じであること。相手に不利益がないこと。もとの根拠ではできないと分かっていたら、もう一方の処分もしなかったはず、という事情がないこと。この3つです。では、なぜ、これほど厳しく限るのでしょうか。補足意見は、こう述べています。

判例最判令3・3・2 民集75巻3号317頁(補足意見)

転換は、法律による行政の原理を空洞化させないため、厳格に限る 法律による行政の原理を空洞化させないために,違法行為の転換が認められる場合は厳格に限定する必要がある

根拠条文を読み替えて救えるのなら、行政庁は、根拠のはっきりしない処分を出しても、あとから助けてもらえます。それでは、処分は法律の根拠に基づく、という原理が空洞になります。だから、3点がそろう場合に限ります。補足意見は、この3点を、必要条件であって、必要十分とは限らない、とも述べています。3点がそろわなければ転換できないが、そろえば必ず転換できる、とまでは言えない、という意味です。補足意見は、慎重に検討すべき場面も挙げています。1つは、行政庁が裁判に似た手続で事実を調べる、審判の手続で審理されなかった事実を、訴訟で持ち出して転換する場合です。もう1つは、一方に利益、他方に不利益が及ぶ、二重効果的な処分で、第三者に効果が及ぶ場合です。今日は、そういう場面がある、というところまでにします。

⭐ 論文で書く規範:規範(判例の判断枠組みと補足意見の整理):違法行為の転換が認められるためには、少なくとも、①転換の前後の処分の目的が共通であり、②転換が関係者にとって不利益にならず、③転換前の処分ができないという認識であった場合に転換後の処分をしなかったであろう事情がないことが必要である。もっとも、法律による行政の原理を空洞化させないため、厳格に限られる (短答・論文共通)

これは、条文にない物差しです。言葉どおりに覚えます。ここは論文で論点になりうる所です。

設例イへの当てはめ(①甲条も乙条も衛生基準違反に対する営業停止=目的共通/②内容・効果が同じ=Bに不利益なし/③乙条でも出していたと見られる=しなかったであろう事情なし→乙条に基づく命令として適法/変形=乙条のほうが停止期間が長い→Bの不利益が増える→②で不可) 図:設例イへの当てはめ

  • ①甲条も乙条も衛生基準違反に対する営業停止=目的共通
  • ②内容・効果が同じ=Bに不利益なし
  • ③乙条でも出していたと見られる=しなかったであろう事情なし→乙条に基づく命令として適法
  • 変形=乙条のほうが停止期間が長い→Bの不利益が増える→②で不可

設例イに当てはめます。1点目、甲条も乙条も、衛生基準違反に対する営業停止で、目的は共通です。2点目、乙条に基づいても、命令の内容と効果は同じなので、Bに不利益はありません。3点目、乙条でも同じ命令を出せたのですから、甲条ではできないと分かっていたなら乙条でも出さなかっただろう、という事情はなさそうです。そこで、乙条に基づく命令として、適法と扱えます。乙条に基づく命令のほうがBに不利益なら、2点目を満たしません。転換はできません。逆に、乙条のほうが期間が短いなど、Bに有利な違いなら、2点目は問題になりません。1点でも欠ければ、転換は認められない、という使い方をします。

理由の差替え——名前出しまで

3つの例外の対比(治癒=処分のあとに欠けたものを補う・理由付記は補えなかった/転換=処分は同じで根拠条文を見直す/差替え=処分は同じで訴訟の段階で理由を入れ替える/判例あり=青色申告の更正処分の取消訴訟〔最判昭56・7・14〕・情報公開の非公開決定〔最判平11・11・19〕) 図:3つの例外の対比

  • 治癒=処分のあとに欠けたものを補う・理由付記は補えなかった
  • 転換=処分は同じで根拠条文を見直す
  • 差替え=処分は同じで訴訟の段階で理由を入れ替える
  • 判例あり=青色申告の更正処分の取消訴訟〔最判昭56・7・14〕・情報公開の非公開決定〔最判平11・11・19〕

3つ目の例外、理由の差替えです。処分そのものは同じまま、処分のときに示した理由を、訴訟の段階で、別の理由に入れ替えて、適法性を保てるか、という問題です。治癒は、理由をあとから補う。転換は、根拠条文を読み替える。差替えは、処分は同じで、理由を入れ替える。こう区別します。これについても、判例があります。青色申告の更正処分の取消訴訟で、追加した理由の主張を認めた判決と、情報公開の非公開決定で、付記した理由以外の理由の主張を認めた判決です。今日は、こういう判決があるという名前までを押さえます。理由を入れ替えてよいなら、理由を示す意味が薄れませんか。そこが、この問題の形です。入れ替えを広く認めると、処分のときに理由を示させる意味が薄れます。認めないと、行政庁が別の理由で同じ処分を出し直し、争いがくり返されます。どちらに重みを置くかは、取消訴訟で裁判所が何を審理するのか、という仕組みを見てからでないと決められません。だから、訴訟の回で扱います。

今日の地図(保存版)

今日の整理①(原則=取消事由のある処分は取り消される/例外3つ=治癒・転換・差替え/共通の発想=やり直すより維持が効率的/歯止め=手続の目的があとで果たせないなら治癒しない・転換は厳格・法律による行政の原理) 図:今日の整理①

  • 原則=取消事由のある処分は取り消される
  • 例外3つ=治癒・転換・差替え
  • 共通の発想=やり直すより維持が効率的
  • 歯止め=手続の目的があとで果たせないなら治癒しない・転換は厳格・法律による行政の原理

まとめます。冒頭の問いに答えます。理由の欄が一言だけの命令に、あとから別の紙で理由を知らせても、治癒されません。理由を書くことは、処分のときの判断の慎重さと、不服申立ての準備のためで、どちらも、あとからは果たせないからです。取り消しの実益も残ります。取消事由のある処分は、取り消されるのが原則です。その例外が、治癒、転換、理由の差替えの3つです。共通の発想は、やり直すより維持したほうが効率的で、私人にも酷でない場合がある、というものです。ただし、手続の目的が、あとからでは果たせない場合には、治癒は認められず、転換も厳格に限られます。

今日の整理②(治癒=農地の事件〔認める〕・更正の事件〔認めない〕=後から補って手続の目的がなお果たせるか/転換=3点+厳格に限る〔補足意見〕/差替え=判例あり・別の回/軽微な瑕疵=取消事由にならない) 図:今日の整理②

  • 治癒=農地の事件〔認める〕・更正の事件〔認めない〕=後から補って手続の目的がなお果たせるか
  • 転換=3点+厳格に限る〔補足意見〕
  • 差替え=判例あり・別の回
  • 軽微な瑕疵=取消事由にならない

治癒は、あとから補って、手続の目的がなお果たせるかで分かれます。順序の瑕疵は、あとの裁決で治癒されました。理由付記の不備は、審査裁決で根拠が明らかになっても、治癒されませんでした。転換は、判決が確かめた3点を、補足意見が条件として整理したものです。目的の共通、関係者の不利益にならないこと、しなかったであろう事情がないこと、です。歯止めの理由は、法律による行政の原理を空洞化させないためです。軽微な瑕疵は取消事由にならない瑕疵で、今回の3つとは別の話でした。

今日の短答の誤り肢(理由付記の不備は審査裁決で理由が示されれば治癒される〔誤り〕/違法行為の転換は処分の相手方の不利益にかかわらず認められる〔誤り〕/治癒や転換は軽微な瑕疵と同じく取消事由にならない瑕疵の話である〔誤り〕) 図:今日の短答の誤り肢

  • 理由付記の不備は審査裁決で理由が示されれば治癒される〔誤り〕
  • 違法行為の転換は処分の相手方の不利益にかかわらず認められる〔誤り〕
  • 治癒や転換は軽微な瑕疵と同じく取消事由にならない瑕疵の話である〔誤り〕

最後に、短答の誤り肢です。理由付記の不備は、審査裁決で理由が示されれば治癒される、は誤りです。判決は、治癒を認めませんでした。違法行為の転換は、処分の相手方の不利益にかかわらず認められる、も誤りです。関係者の不利益にならないことが、条件の1つです。治癒や転換は、取消事由にならない瑕疵の話である、も誤りです。取消事由があるのに、例外として維持される場合の話です。

参照条文

  • 行政手続法14条1項
  • 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律22条1項
  • 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律7条3項

行政法 全体ロードマップへ →