行政法ゼロから行政法#49

不可争力・執行力・不可変更力

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第4章 行政行為 ㊾/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

同じ営業停止命令を、3方向から見る

設例(町の役場Aが喫茶店の店主Bに営業停止命令/問い1=Bが期限内に争わなかったら/問い2=Bが命令に従わなかったらAは勝手に店を閉められるか/問い3=Bの審査請求に出た裁決を出した庁は後から変えられるか/共通の答え方=誰が何をできなくなるか) 図:設例

  • 町の役場Aが喫茶店の店主Bに営業停止命令
  • 問い1=Bが期限内に争わなかったら
  • 問い2=Bが命令に従わなかったらAは勝手に店を閉められるか
  • 問い3=Bの審査請求に出た裁決を出した庁は後から変えられるか
  • 共通の答え方=誰が何をできなくなるか

今日は、その不可争力を、執行力や不可変更力とあわせて見ていきます。行政行為の効力は、規律力、公定力、不可争力、執行力、不可変更力の5つでした。公定力の回で、その一覧を出して、最初の2つを埋めました。今日は、まだ空いていた3つを埋めて、完成させる回です。公定力の回で見た営業停止命令に戻ります。町の役場Aが、喫茶店の店主Bに、営業停止命令を出しました。これを、3つの方向から見ます。1つ目。Bが、争える期間のうちに、何もしなかったら、どうなるでしょうか。2つ目。Bが、命令に従わず、店を開け続けたら、Aは勝手に店を閉められるでしょうか。3つ目。Bが審査請求をして、裁決が出たとします。その裁決を、出した庁が、あとから自分で変えられるでしょうか。

別々に見えます。でも、答え方は同じです。それぞれの効力を、誰が、何をできなくなる力なのか、で言い切ります。私人が争えなくなるのか、行政だけができるのか、した庁が変えられなくなるのか。主語を先に言う、という整理です。順番は、こうです。不可争力、執行力、不可変更力と、それに近い実質的確定力。そのあと、通常の処分には確定判決のような蒸し返しの禁止がないこと。最後に、5つを一覧にして完成させます。

不可争力——期間が過ぎたら、私人は争えない

不可争力の時間軸(処分が出る→出訴期間の内=取消訴訟を起こせる・公定力は働く→期間の経過=私人は取消訴訟で争えない〔不可争力〕) 図:不可争力の時間軸

1つ目の問いです。Bが、営業停止命令を、争える期間のうちに争わなかったとします。ここで働くのが、不可争力です。不可争力とは、一定の期間が過ぎると、私人の側から、取消訴訟で処分の効力を争えなくなる力のことです。形式的確定力とも呼ばれます。出どころは、取消訴訟の出訴期間の制度です。条文を見ます。前回も並べた、行政事件訴訟法の14条です。

条文行政事件訴訟法14条1項

行政事件訴訟法第14条第1項 取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

条文行政事件訴訟法14条2項

行政事件訴訟法第14条第2項 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

条文行政事件訴訟法14条3項

行政事件訴訟法第14条第3項 処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があつたときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、前二項の規定にかかわらず、これに対する裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

処分を知った日から6か月、処分の日から1年を過ぎると、取消訴訟は起こせません。正当な理由があれば別です。審査請求をした場合は、その裁決が基準になる、というのが3項です。今日は、期間の制限がある、という点だけ使います。この制度の趣旨は、法律関係を早く安定させることです。処分から何年もたってから、ひっくり返されては困る人がいます。たとえばBの店が止まっている間に、隣では別の店が新しく客を集めています。いつまでも処分の効力が動くと、周りの人も計画が立てられません。不可争力は、公定力と近く、混ざりやすい所です。時間軸で分けます。期間の内は、Bはまだ取消訴訟を起こせます。でも、取り消されるまでは、命令は有効と扱われます。これが公定力です。期間が過ぎると、取消訴訟という道そのものが閉じます。これが不可争力です。つまり、期間の内は公定力だけが働いています。期間が過ぎると、そこに不可争力が重なって働きます。公定力は、違法でも有効と扱う力で、不可争力は、争う道を閉じる力です。

不可争力の別枠(無効の処分は期間に関係なし・行政庁の職権取消しは期間後も可) 図:不可争力の別枠(無効の処分は期間に関係なし・行政庁の職権取消しは期間後も可)

立ち止まります。出訴期間が過ぎたら、行政庁も、その処分を取り消せなくなりますか?期間が過ぎたら誰も動かせない、と考えるのは罠です。答えは、取り消せます。不可争力は、私人が争えなくなる力です。行政庁が、自分で誤りに気づいて取り消すことまでは、妨げません。期間が過ぎたあとでも、行政庁は、自ら取り消せます。職権取消しといいます。公定力の回で、命令はAも縛り、変えるには取り消すなどの正式な手続が要る、と見ました。職権取消しは、その正式な手続です。中身は別の回で見ます。不可争力が及ばない場面が、もう1つあります。無効の処分です。違法が重大かつ明白で、初めから効力がない処分には、出訴期間の縛りがかからず、不可争力は生じません。前に、公定力も及ばない、と見た、あの無効です。初めから効力がないので、期間内に取り消してもらう必要が、そもそもありません。無効かどうかを争う無効等確認訴訟には、出訴期間がありません。暗記する文は、これです。不可争力は、出訴期間の経過により、私人が取消訴訟で処分の効力を争えなくなる効力であり、行政庁が自ら取り消すことを妨げない。前回の違法性の承継も、ここに戻ります。先行処分の期間が過ぎたとき、後の訴訟でその違法を言えるとすると、不可争力が空になってしまう。だから原則は、言えない、という結論でした。

執行力——処分があれば、強制できる?

自力救済の禁止と行政の自力執行(私人=金を貸した人は勝手に取立てに入れない・裁判所を通す/行政=裁判所を通さず自分で内容を実現できる〔執行力〕/ただし処分の根拠規定があるだけでは足りない・強制を認める別の法律の根拠が要る) 図:自力救済の禁止と行政の自力執行

  • 私人=金を貸した人は勝手に取立てに入れない・裁判所を通す
  • 行政=裁判所を通さず自分で内容を実現できる〔執行力〕
  • ただし処分の根拠規定があるだけでは足りない・強制を認める別の法律の根拠が要る

2つ目の問いです。Bが命令に従わず、店を開け続けたら、Aは勝手に店を閉められるでしょうか。ここで出てくるのが、執行力です。執行力とは、処分の内容を、行政が、裁判所を通さずに、自分の力で実現できる力です。自力執行力ともいいます。私人は、これができません。たとえば、お金を貸した人が、返してもらえないからといって、借りた人の家に上がり込んで、物を持ち出したら、許されません。これを自力救済の禁止といいます。権利の実現は、裁判所を通して国の手でやる、というのが私人の世界の決まりです。行政にだけ、これが許されるなら、とても大きな特権になります。

Aが、実力でBの店を閉めさせることは、当然にはできません。ここが今日の一番の注意点です。処分があれば、当然に執行力がある、というのは誤りです。命令の根拠になる法律があるだけでは足りません。義務を強制的に実現するには、強制を認める、別の法律の根拠が要ります。なぜ、別の根拠が要るのか。強制は、国民の自由や財産に、直接、実力を加えるものだからです。命令を出す根拠と、実力で従わせる根拠は、別の話です。実力を使えるかどうかは、法律で、はっきり決めておく必要があります。法律の留保の考え方です。昔は、旧行政執行法という法律が、行政に包括的な執行の権限を与えていました。ところが、それは廃止されました。今、一般法として残っているのは、代執行を定めた行政代執行法です。お金の取り立てには、国税徴収法があります。出どころは、強制を認めるこうした法律です。行政代執行法の、最初の2つの条文を見ます。

条文行政代執行法1条

行政代執行法第1条 行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる。

条文行政代執行法2条

行政代執行法第2条 法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。

代執行の骨格(2条=命じられた行為〔他人が代わってできる行為に限る〕を義務者が履行しない→他の手段で履行を確保するのが困難→放置が著しく公益に反する→行政庁が自らやる・第三者にやらせる→費用は義務者から徴収/1条=別の法律に定めがなければこの法律による) 図:代執行の骨格

  • 2条=命じられた行為〔他人が代わってできる行為に限る〕を義務者が履行しない→他の手段で履行を確保するのが困難→放置が著しく公益に反する→行政庁が自らやる・第三者にやらせる→費用は義務者から徴収
  • 1条=別の法律に定めがなければこの法律による

個別の法律なので、暗記はしません。骨格だけ押さえます。1条は、行政上の義務を守らせる方法は、別の法律に定めがあるもの以外は、この法律による、という意味です。2条は、代執行ができる場面です。法律で命じられた行為で、他人が代わってできるものについて、義務者がやらない。他の手段では確保が難しく、放置すると、著しく公益に反する。そのとき、行政庁が自らやるか、第三者にやらせて、その費用を義務者から取り立てられます。たとえば、違法な建物を取り壊す義務を果たさない人に代わって、役場が取り壊し、費用を請求する、という形です。税金の滞納には、国税徴収法が根拠になります。滞納処分で、行政が自ら財産を差し押さえて、取り立てられます。強制徴収と呼びます。では、Bの営業停止命令に戻ります。Bが従わなかったとき、Aは、勝手に店を閉められるか。命令の根拠法があるだけでは、できません。強制を認める別の法律の根拠が要ります。

営業停止命令の違反には、代執行は使えません。営業をやめる、というのは、Bが何かをするのではなく、しないことを求める義務です。2条の括弧にある、他人が代わってできる行為とは言えません。ですから、代執行の対象になりません。こういう、しない義務は、違反に罰則があれば、その罰則が間接的に支えます。公定力の限界の回で、Bが命令違反で起訴されたのは、その形です。暗記する文は、これです。行政行為に執行力があるといえるのは、法律が行政上の強制執行を認めている場合に限られる。効力の一覧を出した回で、執行力の出どころを、法律の根拠と言いました。今日の言い方に直すと、命令を出す根拠とは別に、強制を認める根拠が要る、ということです。

不可変更力——裁決は、出した庁でも変えられない

不可変更力の位置づけ(通常の処分=処分庁が瑕疵を理由に自ら取り消せる〔職権取消し〕/争いを裁く性質の行為〔審査請求に対する裁決など〕=した庁は変更できない〔不可変更力〕/理由=裁いた庁があとで結論を変えられたら裁いた意味が無くなる) 図:不可変更力の位置づけ

  • 通常の処分=処分庁が瑕疵を理由に自ら取り消せる〔職権取消し〕
  • 争いを裁く性質の行為〔審査請求に対する裁決など〕=した庁は変更できない〔不可変更力〕
  • 理由=裁いた庁があとで結論を変えられたら裁いた意味が無くなる

3つ目の問いです。Bが審査請求をして、裁決が出ました。その裁決を、出した庁は、あとから変えられるでしょうか。その前に、思い出す問いです。前に見た農地委員会の事件で、自分でした裁決を取り消した行為は、有効と扱われましたか、無効でしたか?違法だけれど、取り消されるまでは有効、と扱われました。公定力の事件でした。あの事件は、実は、今日の不可変更力に反した行為でもあります。違法だけれど有効、という2つの力の分担を、頭に置いて聞いてください。不可変更力とは、一度した行政行為を、した庁自身が、自分で変更できない力です。ただし、すべての処分にあるわけではありません。審査請求に対する裁決のように、争いを裁く性質をもつ行為にだけ認められます。争訟裁断的な性質といいます。通常の処分は違います。営業停止命令に誤りがあれば、Aは、自分で取り消せます。さっきの職権取消しです。でも、裁決は違います。争いを裁いた庁が、あとから自分で結論を変えられたら、裁いた意味がなくなるからです。

では、最高裁の判決を見ます。農地買収計画に対して、地主が異議を申し立てました。それが退けられたので、さらに不服を申し立てて、地主の主張を認める裁決を得ました。ところが、あとになって、その裁決をした農地委員会が、自分で、その裁決を取り消しました。取り消された地主が争った事件です。判旨を読みます。

判例最判昭29・1・21 民集8巻1号102頁

裁決庁自らは裁決を取り消せない この裁決が行政処分であることは言うまでもないが、実質的に見ればその本質は法律上の争訟を裁判するものである。……かかる性質を有する裁決は、他の一般行政処分とは異り、特別の規定がない限り、原判決のいうように裁決庁自らにおいて取消すことはできないと解するを相当とする。

判旨の読み方(1 裁決は行政処分だが本質は法律上の争訟を裁判するもの/2 他の一般行政処分とは異なる/3 特別の規定がない限り裁決庁自らは取り消せない/結論=自己取消しは許されないとした原判決を維持・上告棄却/通常の処分=処分庁は自ら取り消せる) 図:判旨の読み方

  • 1 裁決は行政処分だが本質は法律上の争訟を裁判するもの
  • 2 他の一般行政処分とは異なる
  • 3 特別の規定がない限り裁決庁自らは取り消せない
  • 結論=自己取消しは許されないとした原判決を維持・上告棄却
  • 通常の処分=処分庁は自ら取り消せる

読み方を3つに分けます。まず、裁決は行政処分だが、本質は争いを裁判するものである。次に、だから、他の一般の行政処分とは違う。最後に、特別の規定がない限り、裁決をした庁自らは、取り消せない。結論は、自己取消しは許されないとした原判決が維持されました。裁決をした庁の自己取消しは、許されない。判決の決め手は、裁決の本質が争いを裁くことにある、という点です。今の判決では、地主が争って、自己取消しが取り消されました。公定力の回の事件では、取り消されていなかったので、有効とされました。自己取消しは違法です。でも、取り消されるまで有効です。不可変更力が、した庁の自己取消しを違法にし、公定力が、それでも有効と扱う。2つの力は、答える問いが別です。暗記する文は、これです。争訟裁断的性質をもつ行為は、特別の規定がない限り、した庁自らは取り消し、変更できない。

実質的確定力——した庁だけでなく、誰も覆せない

不可変更力と実質的確定力の同心円(中心=した庁は取消し・変更できない〔不可変更力〕/外側=上級庁・裁判所・当事者も動かせない〔実質的確定力〕/当事者は争えない・行政庁は特別の規定がない限り取消し・変更できない/争訟手続を経て確定した決定・裁決) 図:不可変更力と実質的確定力の同心円

  • 中心=した庁は取消し・変更できない〔不可変更力〕
  • 外側=上級庁・裁判所・当事者も動かせない〔実質的確定力〕
  • 当事者は争えない・行政庁は特別の規定がない限り取消し・変更できない
  • 争訟手続を経て確定した決定・裁決

次は、近い仲間の、実質的確定力です。効力の一覧を出した回で、不可変更力の側にまとめて数える、と言いました。ここで、違いを回収します。不可変更力は、した庁が、自分で変えられない力です。実質的確定力は、もっと広くて強い確定です。争訟の手続を経て確定した決定や裁決は、当事者が争えなくなるだけでなく、した庁以外の行政庁も、取り消したり変更したりできません。不可争力との違いは、ここです。不可争力では、私人が争えなくなっても、行政庁は自分で取り消せました。実質的確定力は、行政庁の側まで縛ります。同心円で言えば、中心がした庁で、外側に、上級庁や裁判所や当事者が入ります。

事件を見ます。ある人たちが、地主の宅地を買収してほしいと、農地委員会に申請しました。農地委員会は、その申請に基づいて、宅地の買収計画を立てました。宅地の買収計画は、この申請があって、はじめて立てられる仕組みです。ところが、地主が異議を申し立てると、委員会は、その異議を認めて、買収計画を取り消しました。この決定は確定しました。確定とは、もう不服申立てや訴訟で争えなくなった、ということです。ところが、府の農地委員会が、計画を立て直すよう指示しました。そこで、同じ委員会が、同じ宅地について、もう一度、買収計画を立てました。地主は、これは違法だと争いました。判旨を読みます。

判例最判昭42・9・26 民集21巻7号1887頁

確定した異議の決定は、行政庁も覆せない 異議の決定、訴願の裁決等は、一定の争訟手続に従い、なかんずく当事者を手続に関与せしめて、紛争の終局的解決を図ることを目的とするものであるから、それが確定すると、当事者がこれを争うことができなくなるのはもとより、行政庁も、特別の規定がない限り、それを取り消し又は変更し得ない拘束を受けるにいたること、当裁判所の判例とするところである……上告人らの宅地買収の申請は、却下等別段の意思表示をまつまでもなく、当然その効力を失うものと解するのが相当である。……本件各宅地について再度樹立された買収計画は、その前提要件としての申請を欠く違法のものといわなければならない。

判旨の読み方(前半=一般論:争訟手続に当事者を関与させ紛争の終局的解決を図る→確定すると当事者は争えない・行政庁も特別の規定がない限り取消し・変更できない/判旨の言葉は当事者と行政庁まで・上級庁と裁判所まで含めるのは学説の整理/後半=当てはめ:異議を認める決定が確定→買収の申請は当然に効力を失う→府委員会の指示は特別の規定に当たらない→再度の買収計画は申請を欠き違法/最判昭42・9・26) 図:判旨の読み方

  • 前半=一般論:争訟手続に当事者を関与させ紛争の終局的解決を図る→確定すると当事者は争えない・行政庁も特別の規定がない限り取消し・変更できない
  • 判旨の言葉は当事者と行政庁まで・上級庁と裁判所まで含めるのは学説の整理
  • 後半=当てはめ:異議を認める決定が確定→買収の申請は当然に効力を失う→府委員会の指示は特別の規定に当たらない→再度の買収計画は申請を欠き違法
  • 最判昭42・9・26

読み方は、2段です。前半が一般論、後半がこの事件への当てはめです。判旨の訴願は、公定力の回で見た、今の審査請求にあたる昔の不服申立てです。異議の決定や裁決は、手続に当事者を関与させて、紛争を終局的に解決するためのものです。だから、確定すると、当事者は争えなくなります。行政庁も、特別の規定がない限り、取り消しも変更もできません。判旨が言葉にしているのは、当事者と行政庁までです。上級庁や裁判所まで含めるのは、紛争を終局的に解決するという同じ理由を広げた、学説の整理です。本件では、異議を認めて計画を取り消す決定が確定していました。地主の宅地についての買収の申請は、当然に効力を失います。決定が確定した以上、委員会はそれに縛られ、同じ申請で計画を立て直せないからです。府の委員会の指示にも法律の根拠はなく、縛りを外す特別の規定には当たりません。ですから、その後にもう一度立てられた買収計画は、申請を欠いていて、違法です。原判決は破棄され、買収計画は違法とされました。決め手は、争訟手続を経て確定した判断は、紛争の終局的な解決を目的とする、という点です。一度解決したことを、行政庁が蒸し返しては、手続の意味がなくなります。

縛られたのは、決定をした委員会自身です。上の委員会の指示があっても、その縛りは外れませんでした。前の判決との違いは、縛る理由です。前の判決は、裁決という行為の性質から、した庁が変えられない、という話でした。今回は、争訟の手続を経て確定したから、行政庁も変えられない、という話です。暗記する文は、これです。争訟手続を経て確定した裁決・決定等は、当事者が争えなくなるだけでなく、行政庁も、特別の規定がない限り、取り消し、変更できない。これが実質的確定力です。

行政処分には、一事不再理が無い

通常の処分と争いを裁く行為の対比(通常の拒否処分=実質的確定力は生じない→事情が変われば再び同じ申請ができる〔申請権の濫用でない限り〕/争いを裁く性質の裁定=一度した裁定を取り消して違う裁定はできない・棄却後の再申請は許されない/最判昭29・5・14) 図:通常の処分と争いを裁く行為の対比

  • 通常の拒否処分=実質的確定力は生じない→事情が変われば再び同じ申請ができる〔申請権の濫用でない限り〕
  • 争いを裁く性質の裁定=一度した裁定を取り消して違う裁定はできない・棄却後の再申請は許されない
  • 最判昭29・5・14

ここで、逆向きの問いを1つ立てます。拒否された申請は、もう二度とできないのでしょうか。確定判決には、同じ事件を二度と争えない、一事不再理という考え方があります。ですが、通常の行政処分には、これがありません。申請を拒否されても、事情が変われば、再び同じ申請ができます。当初の拒否処分には、実質的確定力が生じていないからです。たとえばBが、2軒目の店を出そうと、営業の許可を申請して、断られたとします。断られた理由は、設備の基準を満たさないことでした。Bが設備を整えて、事情が変わったなら、また申請できます。行政庁も、申請権の濫用でない限り、改めて審査して、認めることができます。

実質的確定力があると、拒否されたら終わりになりませんか。そこが分かれ目です。実質的確定力が生じるのは、争いを裁く性質の行為です。通常の拒否処分は、争いを裁いたわけではありません。だから、確定の効果は生じません。ここで、判例の注意です。最高裁は、再申請を許さなかった事件で、この一般論を述べています。結論と一般論が、逆を向いているので、分けて読みます。事案です。農地を借りていた人が、地主との間で、借りる権利を取り戻せるかを争いました。取り戻せるかは、法律が決めた過去のある日に、借りていたかどうかで決まります。話し合いがつかないとき、借りていた人の申請で、農地委員会が、その争いを解決する裁定をします。この申請は棄却されました。その人が、事情は何も変わらないまま、もう一度申請したことが許されるか、が争われました。判旨を読みます。

判例最判昭29・5・14 民集8巻5号937頁

通常の処分は再申請できる、裁定はできない ……右裁定によつて両者間の私法上の権利関係が定まるわけであるから、このような行政処分に関しては、法律関係の安定の要求から言つても、市町村農地委員会としては、一度した裁定を取り消して違つた裁定をすることはゆるされないものと解するを相当とする。……通常の行政処分に関しては、ひとたび申請が斥けられても、再び申請をすることは必ずしもゆるされないわけではなく、ことに、その後の事情の変更によつて、再び同じ処分を申請することがゆるされなければならないのは当然であるが、……申請事由の有無について、通常、その後の事情の変更は考えられず……

前半は、この事件の裁定の話です。裁定は、借りる権利を取り戻せるかの争いを解決する行政処分です。裁定によって、当事者の間の私法上の権利関係が定まります。そのため、一度した裁定を取り消して、違う裁定をすることは、許されません。後半は、通常の行政処分の話です。一度申請が斥けられても、再び申請することは、必ずしも許されないわけではありません。ことに、事情の変更があれば、再び申請できるのは当然です。ですが、この申請は、その過去の日に借りていたかどうかが根拠なので、あとから事情が変わることは、普通ありません。事情が同じまま申請し直させて、違う裁定を出せば、裁定のやり直しと同じです。だから、結論は、再申請を許さない、でした。決め手は、この裁定が、当事者間の権利関係を定める、争いを裁く性質の行為だから、という点です。さっきの実質的確定力の判決の判旨に、当裁判所の判例とするところである、という一言がありました。そこで引かれている判例に、この判決が入っています。通常の処分は再申請できる。争いを裁く裁定は再申請できない。この対比で覚えてください。この判決は再申請を認めた、と覚えると誤りです。拒否されたあとに、もう一度申請できるかは、申請権の回でも、また見ます。

効力の一覧を完成させる

効力の一覧(規律力=誰が相手方と行政庁の双方・何を成立した内容に反する行動・出どころ行政行為の定義/公定力=誰も〔私人・他の機関〕・取消し手続を経ずに処分の効力を否定すること・取消訴訟の排他的管轄/不可争力=私人・期間経過後に取消訴訟で争うこと・出訴期間の制度/執行力=行政が裁判所を通さず内容を実現〔法律の根拠があれば〕・強制執行を認める法律/不可変更力〔実質的確定力〕=した庁〔上級庁・裁判所・当事者も〕・裁決等を自ら変えること・争訟裁断的性質) 図:効力の一覧

  • 規律力=誰が相手方と行政庁の双方・何を成立した内容に反する行動・出どころ行政行為の定義
  • 公定力=誰も〔私人・他の機関〕・取消し手続を経ずに処分の効力を否定すること・取消訴訟の排他的管轄
  • 不可争力=私人・期間経過後に取消訴訟で争うこと・出訴期間の制度
  • 執行力=行政が裁判所を通さず内容を実現〔法律の根拠があれば〕・強制執行を認める法律
  • 不可変更力〔実質的確定力〕=した庁〔上級庁・裁判所・当事者も〕・裁決等を自ら変えること・争訟裁断的性質

効力の一覧を出した回の表に、誰が、何を、の列を足して、完成させます。規律力は、相手方と行政庁の双方が、成立した内容に反する行動をとれなくなる力です。出どころは、行政行為の定義です。公定力は、私人も他の機関も、取消しの手続を経ずに、処分の効力を否定できなくなる力です。出どころは、取消訴訟の排他的管轄です。不可争力は、私人が、期間が過ぎたあとに、取消訴訟で争えなくなる力です。出どころは、出訴期間の制度です。執行力は、行政が、裁判所を通さずに、内容を実現できる力です。ただし、強制を認める法律の根拠があるときだけです。出どころは、その法律です。不可変更力は、した庁が、裁決などを自分で変えられなくなる力です。実質的確定力は、さらに上級庁や裁判所、当事者までが動かせなくなる広がりです。出どころは、争いを裁く性質です。

私人が争えないなら不可争力。した庁が変えられないなら不可変更力。行政だけが自分でできるなら執行力。主語から入ると、答案で崩れません。公定力があるから、で止めずに、出どころまで書くのが答案のコツです。

今日の地図(保存版)

今日の整理(不可争力=私人が期間後に取消訴訟で争えない・行政庁の職権取消しを妨げない・無効の処分には生じない/執行力=強制を認める別の法律の根拠が要る・行政代執行法・国税徴収法/不可変更力=争訟裁断的な行為をした庁が変えられない/実質的確定力=上級庁・裁判所・当事者も動かせない/通常の処分に一事不再理は無い・事情変更で再申請可) 図:今日の整理

  • 不可争力=私人が期間後に取消訴訟で争えない・行政庁の職権取消しを妨げない・無効の処分には生じない
  • 執行力=強制を認める別の法律の根拠が要る・行政代執行法・国税徴収法
  • 不可変更力=争訟裁断的な行為をした庁が変えられない
  • 実質的確定力=上級庁・裁判所・当事者も動かせない
  • 通常の処分に一事不再理は無い・事情変更で再申請可

まとめます。冒頭の3つの問いに答えます。Bが、期限内に争わなかったら、期間が過ぎたあとは、私人の側から取消訴訟で争えなくなります。不可争力です。ただし、行政庁が自ら取り消すことは、妨げません。無効の処分には、生じません。Bが命令に従わなかったとき、Aは勝手に店を閉められません。執行力は、処分に当然あるのではなく、強制を認める別の法律の根拠が要ります。裁決は、出した庁が、あとから自分で変えられません。不可変更力です。争いを裁く性質の行為にだけ認められます。さらに、確定した争訟の判断は、上級庁や裁判所、当事者も動かせません。実質的確定力です。

今日の短答の誤り肢(不可争力が生じると行政庁も職権で取り消せなくなる〔誤り〕/無効の処分にも不可争力が生じ出訴期間後は無効を主張できない〔誤り〕/処分があれば根拠規定が無くても行政は義務を強制的に実現できる〔誤り〕/不可変更力はすべての行政行為に認められる〔誤り〕/判例は拒否処分後の再申請を一般に許さないとした〔誤り〕) 図:今日の短答の誤り肢

  • 不可争力が生じると行政庁も職権で取り消せなくなる〔誤り〕
  • 無効の処分にも不可争力が生じ出訴期間後は無効を主張できない〔誤り〕
  • 処分があれば根拠規定が無くても行政は義務を強制的に実現できる〔誤り〕
  • 不可変更力はすべての行政行為に認められる〔誤り〕
  • 判例は拒否処分後の再申請を一般に許さないとした〔誤り〕

最後に、短答の誤り肢を確認します。不可争力が生じると、行政庁も職権で取り消せなくなる、は誤りです。不可争力は、私人が争えなくなる力です。無効の処分にも不可争力が生じて、出訴期間のあとは、無効を主張できない、も誤りです。無効の処分には、不可争力が生じません。処分があれば、根拠規定が無くても、行政は義務を強制的に実現できる、も誤りです。強制を認める別の法律の根拠が要ります。不可変更力は、すべての行政行為に認められる、も誤りです。争いを裁く性質の行為にだけ認められます。最高裁は、拒否処分後の再申請を、一般に許さないとした、も誤りです。通常の処分では、事情が変われば許されます。争いを裁く裁定では、許されませんでした。結論と一般論を分けて覚えてください。この効力の整理は、論文でも論点になりうる所です。

参照条文

  • 行政事件訴訟法14条1項
  • 行政事件訴訟法14条2項
  • 行政事件訴訟法14条3項
  • 行政代執行法1条
  • 行政代執行法2条

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