行政法ゼロから行政法#50

取消事由と無効事由

印刷用PDFを開く

第4章 行政行為 ㊿/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

取り消されるまで有効なのに、最初から無効?

設例(町の役場Aが喫茶店の店主Bに営業停止命令/命令の根拠=Bの違反の事実/認定の誤りは同じ・ア=通報書類にB本人の名・役場の手元の資料だけでは取り違えと分からない/イ=命令書の理由の欄に、違反をした店としてBの店ではないCの店の名前と所在地が書いてある・名宛人はB・担当者が見落とした/問い=アとイで何が分かれるか) 図:設例

  • 町の役場Aが喫茶店の店主Bに営業停止命令
  • 命令の根拠=Bの違反の事実
  • 認定の誤りは同じ・ア=通報書類にB本人の名・役場の手元の資料だけでは取り違えと分からない
  • イ=命令書の理由の欄に、違反をした店としてBの店ではないCの店の名前と所在地が書いてある・名宛人はB・担当者が見落とした
  • 問い=アとイで何が分かれるか

実は、ごく一部の違法は、取り消しを待たずに、最初から無効です。今日は、その線がどこにあるかを見ます。その線の名前は、これまでの回で言葉だけ何度か出てきた、重大かつ明白です。公定力の回から使っている営業停止命令に戻ります。町の役場Aが、喫茶店の店主Bに、営業停止命令を出しました。命令の根拠は、Bの店が違反をした、という事実です。ところが、この事実の認定が、間違っていました。たとえば、2通りに分けます。設例アは、通報の書類に、B本人の名前でそれらしく書いてあった場合です。役場の手元の資料だけを見ても、取り違えとは分かりません。設例イは、役場が出す命令書の理由の欄に、違反をした店として、Bの店ではなく、Cの店の名前と所在地が書いてあるのに、担当者が見落として、名宛人をBにして命令を出した場合です。

違反の事実の誤りは同じ違法です。ただ、アは取り消されるまで有効、イは最初から無効、と分かれます。何が分かれ目なのか。これが今日の1問です。持ち帰るものは3つです。無効の線は重大かつ明白であること。明白でなくても無効になる、例外的な事情があること。そして、無効だと言う側が、それを示す必要があること。この線が実際に問われるのは、争える期間を過ぎたあとです。

瑕疵とは何か——違法と不当

瑕疵の2種類と、是正の道(瑕疵=行政行為の欠陥/違法=法令違反・裁量の逸脱濫用→最終的に裁判所/不当=裁量の使い方が不適切→職権取消し・行政不服申立て/瑕疵の現れる面=主体・内容・手続・形式) 図:瑕疵の2種類と、是正の道

  • 瑕疵=行政行為の欠陥
  • 違法=法令違反・裁量の逸脱濫用→最終的に裁判所
  • 不当=裁量の使い方が不適切→職権取消し・行政不服申立て
  • 瑕疵の現れる面=主体・内容・手続・形式

まず言葉です。瑕疵とは、行政行為にある欠陥のことです。欠陥には2種類あります。法令に違反している違法と、裁量の使い方が適切でない不当です。営業停止命令で考えます。たとえば、法律が営業停止の期間を、1か月以内と定めているのに、Aが6か月の停止を命じたら、法令違反で違法です。では、法律の範囲内で、1か月の停止にしたけれど、Bの違反は、ごく軽いものだったとします。命令は法律の範囲内ですが、重すぎます。こちらは不当にあたりえます。ただし、軽い違反に重すぎる処分をしたと言える程度が極端なら、裁量の逸脱や濫用として、違法になります。

裁判所は、適法か違法かを判断する機関です。どちらがよりよい判断だったかまでは決めません。条文を見ます。

条文行政事件訴訟法30条

行政事件訴訟法第30条 行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。

裁量処分を取り消せるのは、範囲をこえるか濫用があった場合に限られます。不当にとどまるなら、裁判所は取り消せません。では、不当な処分は、どこで直すのでしょうか。条文を見ます。

条文行政不服審査法1条1項

行政不服審査法第1条第1項 この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。

条文は、違法又は不当と並べています。行政庁に対する不服申立てなら、不当も争えます。行政庁が自分で直す、前回見た職権取消しもあります。不服申立ての手続と、職権取消しの細かい要件は、別の回で扱います。つまり、不当は行政庁の中で直し、違法は最終的に裁判所が判断する、という分担です。短答では、不当な裁量行使も取消訴訟で取り消せる、は誤りです。もう1つ、瑕疵が現れる面を整理します。誰が出したか、何を決めたか、どんな手続を踏んだか、どんな形で出したか、の4つです。たとえば、権限のない人が命令を出せば主体の瑕疵、内容が法律に反すれば内容の瑕疵です。聴聞を省いたなら手続の瑕疵、書面にすべきものを口頭で済ませたなら形式の瑕疵です。今日の設例は、違反の事実を誤った、内容の瑕疵です。手続の瑕疵が取消事由になるかは、別の回で扱います。

公定力から逆算する——取消事由と無効事由

瑕疵の2つの扱い(公定力=取消訴訟の排他的管轄の結果/取消事由=取り消されるまで有効・出訴期間が過ぎると争えない〔不可争力〕/無効事由=最初から効力なし・公定力なし・不可争力なし・出訴期間なし) 図:瑕疵の2つの扱い

  • 公定力=取消訴訟の排他的管轄の結果
  • 取消事由=取り消されるまで有効・出訴期間が過ぎると争えない〔不可争力〕
  • 無効事由=最初から効力なし・公定力なし・不可争力なし・出訴期間なし

思い出す問いです。公定力のある処分は、違法なら、当然に無効になるでしょうか?いえ、違法でも、取り消されるまでは有効でした。公定力は、取消訴訟の排他的管轄の結果でした。処分の効力を争う窓口は取消訴訟だけで、ほかの訴えには持ち込めない、という仕組みです。だから、処分の効力を消せるのは、取消訴訟という正式な手続だけです。ここから、逆算します。取消訴訟で取り消されるまでは、有効なものとして通用させてよい軽さの瑕疵があります。これが取消事由です。反対に、取消訴訟を経なくても、無効として扱うしかない重い瑕疵があります。これが無効事由です。たとえば、役場の判が押された書類は、間違いがあっても、判を取り消してもらうまでは、書類として通用します。でも、判そのものが誰が見ても偽物で、書類の体をなしていないなら、取り消してもらうまでもありません。最初から、紙切れとして扱えます。

取消訴訟の排他的管轄が及ばないので、公定力が及びません。出訴期間の縛りもかかりません。前回見た不可争力、つまり、期間が過ぎると私人が取消訴訟で争えなくなる力も、生じません。では、無効かどうかを争う訴えは、どう書かれているでしょうか。

条文行政事件訴訟法3条4項

行政事件訴訟法第3条第4項 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。

処分や裁決の、存否や効力の有無の確認を求める訴訟です。処分がはじめから無効だと確かめてもらう、無効確認訴訟がその代表です。今日は定義の確認までです。訴訟要件は、別の回で扱います。ここで、今日の軸が出ます。取消訴訟では、瑕疵がある、つまり違法で足ります。でも、無効を主張するなら、重大かつ明白な瑕疵まで要ります。この差が、このあとの全部の節につながります。なぜ、そんなに差を付けるんですか。無効の範囲が広いと、出訴期間の意味がなくなるからです。期間を過ぎても、違法なら何でも無効だと言えるなら、法律関係がいつまでも安定しません。反対に、無効が狭すぎると、期間を過ぎた人は、重い違法でも救われません。この両方の要請の釣り合いで、線が引かれます。では、設例に戻ります。アとイは、どちらが取消事由で、どちらが無効でしょうか。判例の基準で確かめます。

無効の線——重大かつ明白

重大と明白(重大=処分要件の重要部分の誤り/明白=外形上・客観的に誤認が明らか・何人の判断でもほぼ同じ結論/設例ア=重大だが明白でない→取消事由/設例イ=重大かつ明白→無効/行政庁が資料を見落としたかどうかは明白性に関係しない) 図:重大と明白

  • 重大=処分要件の重要部分の誤り
  • 明白=外形上・客観的に誤認が明らか・何人の判断でもほぼ同じ結論
  • 設例ア=重大だが明白でない→取消事由
  • 設例イ=重大かつ明白→無効
  • 行政庁が資料を見落としたかどうかは明白性に関係しない

判例の基準は、重大かつ明白な瑕疵です。重大明白説と呼びます。重大とは、処分の要件の重要な部分を誤ったことです。営業停止命令なら、違反の事実という要件の根幹を誤った、という意味です。アもイも、これにあたります。ここは同じです。分かれるのは、明白かどうかです。最高裁は、明白をこう言っています。

判例最判昭36・3・7 民集15巻3号381頁

明白とは、外形上、客観的に誤認が明らかなこと 瑕疵が明白であるというのは、処分成立の当初から、誤認であることが外形上、客観的に明白である場合を指すものと解すべきである。……行政庁が怠慢により調査すべき資料を見落したかどうかは、処分に外形上客観的に明白な瑕疵があるかどうかの判定に直接関係を有するものではなく、行政庁がその怠慢により調査すべき資料を見落したかどうかにかかわらず、外形上、客観的に誤認が明白であると認められる場合には、明白な瑕疵があるというを妨げない。

ポイントは2つです。1つ目は、処分が出た当初から、外形上、客観的に明らかなこと。2つ目は、行政庁が資料を見落としたかどうかは、直接関係しないことです。もう1つの判決は、明白の程度を、こう言い換えています。

判例最判昭37・7・5 民集16巻7号1437頁

明白とは、何人の判断でもほぼ同じ結論になる程度 処分関係人の知、不知とは無関係に、特に権限ある国家機関の判断をまつまでもなく、何人の判断によつても、ほぼ同一の結論に到達し得る程度に明らかであることを指すものと解すべきである。……本件処分の瑕疵は客観的に明白なものであると認定するを相当とする。従つて本件処分は結局無効と認めざるを得ないのであつて

言い換えると、誰が見ても、同じ結論になる程度、ということです。学説では、外観上一見明白説とも呼ばれます。

設例ア・イへの当てはめ(明白=処分の外から見える事実で決める/ア=通報の書類にB本人の名前・手元の資料では取り違えと分からない→重大だが明白でない→取消事由/イ=命令書の理由の欄に違反をした店としてCの店が書かれ名宛人はB→書面だけで名宛人と違反した店の食い違いが誰でも分かる→重大かつ明白→無効/担当者の見落とし・怠慢は明白性に直接関係しない/調査義務違反説ならアも明白になる余地) 図:設例ア・イへの当てはめ

  • 明白=処分の外から見える事実で決める
  • ア=通報の書類にB本人の名前・手元の資料では取り違えと分からない→重大だが明白でない→取消事由
  • イ=命令書の理由の欄に違反をした店としてCの店が書かれ名宛人はB→書面だけで名宛人と違反した店の食い違いが誰でも分かる→重大かつ明白→無効
  • 担当者の見落とし・怠慢は明白性に直接関係しない
  • 調査義務違反説ならアも明白になる余地

担当者が気づいたか、怠けたか、といった役場の側の事情ではなく、処分の外から見える事実で決める、という意味です。設例に当てはめます。アは、通報の書類にB本人の名前があり、役場の手元の資料だけでは、取り違えとは分かりません。誰が見ても同じ結論にはなりません。重大ですが、明白ではないので、取消事由です。イは、命令書の理由の欄に、違反をした店として、Bの店ではなくCの店の名前と所在地が書かれていますが、名宛人はBです。書面を読むだけで、誰でも、名宛人と違反した店が食い違っていると分かります。重大かつ明白で、無効です。

担当者の落ち度で無効かどうかが決まる、と考えるのは落とし穴です。さっきの判決のとおり、見落としたかどうかは、明白かどうかに直接関係しません。かりに担当者がきちんと命令書を読み直していたとしても、書面に書いてある事実は同じなので、明白かどうかは変わりません。明白性は、役場の落ち度の程度ではなく、外から見て誤りが分かるかで測ります。ここで、1問です。同じ取り違えなのに、アは取消事由、イは無効になるのは、何が違うからでしょうか?担当者の落ち度ではなく、誰が見ても誤りだと分かるかどうかです。違反の事実を誤った重大さは、どちらも同じです。誰から見て明白か、には別の見方もあります。行政庁が当然すべき調査をしていれば分かった誤りなら明白だ、とする見解で、調査義務違反説と呼ばれます。この見解だと、アでも、役場が店に一度確認すれば取り違えが分かったなら、明白になる余地が出ます。判例は、調査を怠ったかを問わず、外から見て分かるかで測るので、アは明白ではありません。反対にイは、調査をするまでもなく、命令書そのものから誤りが分かるので、どちらの見方でも明白です。

そもそも、なぜ、誰が見ても分かるかで、線を引くんですか。処分を信じた人を守るためです。誤りが外から見えなければ、命令を見て店は休みだと受け取った取引先が納品を止める、役場が命令を前提に見回りや次の手続を進める、といった形で、有効だと信じて動く人が出ます。あとから無効にすると、その人たちが不意打ちを受けます。誰が見ても誤りなら、信じる人がそもそもいないので、取消訴訟を待たずに無効と扱っても、困る人が出ません。もう1点。2つ目の判決の原審は、処分をした側の主観的な事情を基準にしたのではないかと疑われる、と最高裁は述べつつ、結論としては、客観的に明白だとして、無効を維持しました。基準は、処分庁の主観ではなく、客観です。

⭐ 論文で書く規範:規範(判例で立てる):行政処分が当然無効となるのは、瑕疵が重大かつ明白な場合である。明白とは、処分成立の当初から、誤認であることが外形上客観的に明白で、何人の判断によってもほぼ同一の結論に達し得る程度に明らかなことをいう (短答・論文共通)

これは、条文にない判断の物差しを、判例が立てたものです。言葉どおりに覚えます。ここは論文で論点になりうる所です。

明白性は補充的か

明白性補充要件説(重大な瑕疵があれば足りる見解/理由=法治主義からは重大な違法なら無効が筋・明白性を足す理由がはっきりしない・救済の幅を狭めすぎる/その見解では明白性まで求めるかは場面ごとの利益衡量で判断〔第三者の信頼や法的安定が要る場面で補って求める〕/判例=一般には明白性を不要としない) 図:明白性補充要件説

  • 重大な瑕疵があれば足りる見解
  • 理由=法治主義からは重大な違法なら無効が筋・明白性を足す理由がはっきりしない・救済の幅を狭めすぎる
  • その見解では明白性まで求めるかは場面ごとの利益衡量で判断〔第三者の信頼や法的安定が要る場面で補って求める〕
  • 判例=一般には明白性を不要としない

重大な瑕疵があれば足り、明白性は必ずしも要らない、という見解があります。明白性補充要件説です。理由は3つ挙げられます。1つ目は、法治主義からは、重大な違法のある処分は無効とするのが筋だということ。2つ目は、そこへ明白性まで足す理由が、はっきりしないこと。3つ目は、救われる範囲を、狭めすぎてしまうことです。この見解では、処分を信じた第三者を守る必要や、法的安定の要請がある場面で、明白性を補って求めます。どこまで求めるかは、法律関係ごとに衡量して決めます。ここは、のちの節につながります。ただし、判例は、明白性を一般に不要とはしていません。設例アのように、命令を信じて動く取引先がいる場面では、この見解でも、明白性が補って求められることがあります。重大明白の物差しでは、アは取消事由です。明白性を外すと、外から見えない誤りまであとから無効になり、処分を信じた人が不意打ちを受けるからです。原則は、重大かつ明白です。明白性がなくても無効になる場合は、例外的な事情がある場合に限られます。短答では、判例は重大性だけで足りるとする、は誤りです。その例外を、次に見ます。

明白でなくても無効になる例外的事情

事案の流れ(Y=税務署長/X=名義を使われた夫婦2人/Z=無断で登記・書類を整えて売却した人/Z→Xの名義で土地を売却・建物はXの間で名義を移しただけ/Y→Xに譲渡所得があるとして課税処分/Xは異議申立期間内に争わず期間後に無効確認を求めた/買主は図の外) 図:事案の流れ

  • Y=税務署長
  • X=名義を使われた夫婦2人
  • Z=無断で登記・書類を整えて売却した人
  • Z→Xの名義で土地を売却・建物はXの間で名義を移しただけ
  • Y→Xに譲渡所得があるとして課税処分
  • Xは異議申立期間内に争わず期間後に無効確認を求めた
  • 買主は図の外

事案です。ある人が、夫婦2人に無断で、2人の名義を使って登記や書類を整え、土地を売り、建物の名義も動かしました。税務署長は、登記簿の記載を主な資料に、名義を使われた夫婦に譲渡所得があるとして、課税処分をしました。名義を使われた人たちは、争える期間の内には争いませんでした。期間が過ぎてから、処分は無効だと確認を求めました。先に言葉を1つ。課税要件とは、誰に、何に対して、どれだけ課すか、という、税がかかるための条件です。この事件の税なら、その人が土地や建物を譲り渡して、所得を得たことが出発点です。ところが、売ったのは名義を使った人で、名義を使われた夫婦は、何も売っていません。原審は、課税要件のないところに課税した点で、瑕疵は重大だが、明白とは言えないとして、無効を否定しました。最高裁は、これを破棄して、差し戻しました。判旨は、無効になる場合の一般論と、この事件へのあてはめの、2段です。まず一般論です。

判例最判昭48・4・26 民集27巻3号629頁

当然無効を認めるときは慎重に、例外的事情があれば無効 もつとも、課税処分につき当然無効の場合を認めるとしても、このような処分については、前記のように、出訴期間の制限を受けることなく、何時まででも争うことができることとなるわけであるから、更正についての期間の制限等を考慮すれば、かかる例外の場合を肯定するについて慎重でなければならないことは当然であるが……課税処分が課税庁と被課税者との間にのみ存するもので、処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要のないこと等を勘案すれば、当該処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであつて、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵は、当該処分を当然無効ならしめるものと解するのが相当である。

無効とした判断の組み立て(前提=課税処分は課税庁と被課税者の間にのみ存し処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要がない/事情①内容上の過誤が課税要件の根幹についてのもの/事情②不服申立期間の徒過による不可争的効果を理由に不利益を甘受させることが著しく不当と認められる/前提のうえで事情①②があれば明白性に触れなくても当然無効/「慎重でなければならない」) 図:無効とした判断の組み立て

  • 前提=課税処分は課税庁と被課税者の間にのみ存し処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要がない
  • 事情①内容上の過誤が課税要件の根幹についてのもの
  • 事情②不服申立期間の徒過による不可争的効果を理由に不利益を甘受させることが著しく不当と認められる
  • 前提のうえで事情①②があれば明白性に触れなくても当然無効
  • 「慎重でなければならない」

読み方を整理します。まず、無効を認めるのは慎重に、という前置きがあります。無効なら、いつまでも争えることになるからです。そのうえで、判断は、前提1つと事情2つです。前提は、課税処分は、課税庁と課税された人の間だけの話で、処分を信頼した第三者を守る必要がないことです。この前提のもとで、1つ目の事情は、過誤が、課税要件の根幹についてのものであること。2つ目の事情は、期間が過ぎたという理由で、不利益を我慢させるのが、著しく不当と認められることです。この2つがそろう例外的な事情があれば、無効としました。2つ目の事情にある、不可争的効果とは、期間が過ぎたら争えなくなる、という効果、つまり不可争力のことです。ここで、立ち止まります。判断の前提と2つの事情を、自分の言葉で、言えるでしょうか?

前提は、第三者の保護が要らないことです。事情は、課税要件の根幹の過誤であることと、期間が過ぎたからと不利益を我慢させるのは、著しく不当なこと、です。この事件では、後半で、あてはめています。

判例最判昭48・4・26 民集27巻3号629頁

譲渡所得の全くないところへの課税は、根幹の過誤 本件課税処分は、譲渡所得の全くないところにこれがあるものとしてなされた点において、課税要件の根幹についての重大な過誤をおかした瑕疵を帯有するものといわなければならない。

名義を使われた人たちには、譲渡所得が全くありません。税額の計算を少し誤ったのとは違い、税をかける出発点そのものが無いところに課税したので、課税要件の根幹の過誤です。ただし、名義を使われた人たちが、あとから登記を認めたとか、見かけの権利関係から特別の利益を受けたとかの特段の事情があれば、不利益を我慢させても不当とは言えない余地があります。その点の審理が足りないとして、差し戻されました。明白かどうかについては、最高裁は、原審が、重大だが明白とは言えないとした点には触れています。ただ、明白かどうかは、最高裁自身は判断していません。例外的事情を顧慮しなかったことを理由に、破棄しました。事案で重く見たのは、名義を使われた人たちに責められる事情がなく、救済の必要が大きいことです。その前提として、守るべき第三者がいないことがあります。重大明白の節で見たとおり、明白性は、処分を信じた人を守るための要件でした。この事件には、守るべき第三者がいません。だから、最高裁は、明白かどうかを判断しないで、救済の側を重く見ることができた、と読めます。

⭐ 論文で書く規範:規範(判例で立てる):課税処分は、処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要がないことを前提に、①内容上の過誤が課税要件の根幹についてのもので、②不服申立期間の徒過による不可争的効果を理由に不利益を甘受させることが著しく不当と認められる例外的事情があれば、明白性に触れなくても当然無効となる (短答・論文共通)

判示は、課税処分についての判断です。第三者のいない二面関係であることが、理由の1つになっています。ほかの処分にも広がるかは、判例の射程の問題で、断定はできません。答案では、同様に考えられる、と留保して書きます。

同じ枠組みで無効を否定した、無限連鎖講の主宰者の事件

事案の流れ(Y=課税庁/D=団体を名乗らせて申告・納付した主宰者/E=団体〔法人でない社団〕/DがE名義で法人税等を申告・納付/YがEを法人でない社団と認定して増額更正/破産管財人らが実体は無く更正は無効と主張して納付金の還付を請求/最高裁=明白でなく・例外的事情もない→当然無効とは言えない) 図:事案の流れ

  • Y=課税庁
  • D=団体を名乗らせて申告・納付した主宰者
  • E=団体〔法人でない社団〕
  • DがE名義で法人税等を申告・納付
  • YがEを法人でない社団と認定して増額更正
  • 破産管財人らが実体は無く更正は無効と主張して納付金の還付を請求
  • 最高裁=明白でなく・例外的事情もない→当然無効とは言えない

次は、同じ枠組みを使って、無効を否定した事件です。無限連鎖講、いわゆるねずみ講を主宰していた個人が、団体の名義で、法人税などを申告して納めていました。課税庁は、その団体を、法人でない社団と認定して、税額を増やす更正をしました。法人でない社団とは、法人格はないが、組織と代表を備えた団体のことで、課税上は法人と同じように扱われます。のちに、破産管財人らが、団体の実体はなく、更正は無効だと主張して、納付金の返還を求めました。原審は無効としましたが、最高裁は、そうは言えないとしました。判旨は2段です。

判例最判平16・7・13 集民214号751頁(D=主宰者・E=団体)

外形上は社団に見える——明白とは言えない 課税庁においてEが法人でない社団の要件を具備すると認定したことには、それなりの合理的な理由が認められるのであって、仮にその認定に誤りがあるとしても、誤認であることが本件各更正の成立の当初から外形上,客観的に明白であるということはできない。

判例最判平16・7・13 集民214号751頁(D=主宰者・E=団体)

自ら社団化して負担を免れた——例外的事情にも当たらない 仮に本件各更正に課税要件の根幹についての過誤があるとしても,前記事実関係によれば,Dは,税務対策等の観点から講事業の社団化を図り,自ら,Eの定款の作成にかかわり,発起人会,会員総会及び理事会を開催し,Eの名において事業活動を展開するとともに,Eに所得が帰属するとして法人税,法人事業税,法人県民税及び法人市民税の申告をし,申告に係るこれらの税を納付して,高額の所得税の負担を免れたというのである。そうすると,徴税行政の安定とその円滑な運営の要請をしんしゃくしても,なお,不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由としてDに本件各更正による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的な事情がある場合……に該当するということもできない。

1段目は、重大明白の当てはめです。外から見ると、この団体には、定款があり、総会や理事会が開かれ、代表もいて、団体としての組織が備わって見えます。だから、課税庁の認定には合理的な理由があり、誤認だとしても、外形上、客観的に明白とは言えません。2段目は、例外的事情の当てはめです。主宰者は、自分で団体の設立にかかわり、団体の名前で事業を展開して、申告して納め、高額の所得税の負担を免れていました。かりに課税要件の根幹の過誤があるとしても、自分から税務対策で団体化を図った人に、期間が過ぎたからと不利益を我慢させるのが、著しく不当とまでは言えません。名義を勝手に使われた事件の人たちは、被害者でした。ここが、決め手です。

先ほどの例外的事情の枠組みを前提にして、両方とも否定しました。短答では、この枠組みは、課税処分なら無効が認められやすくなる、という意味ではありません。要件は厳格です。

無効事由は誰が示すのか——衡量の見方

区別が問われる場面(処分→出訴期間の経過〔知った日から6か月・処分の日から1年〕→取消訴訟は不可→無効確認訴訟には出訴期間がない→主張する瑕疵が無効事由に値するかが争点/取消訴訟=瑕疵〔違法〕で足りる・無効確認=重大かつ明白〔または例外的事情〕まで原告が主張立証) 図:区別が問われる場面

  • 処分→出訴期間の経過〔知った日から6か月・処分の日から1年〕→取消訴訟は不可→無効確認訴訟には出訴期間がない→主張する瑕疵が無効事由に値するかが争点
  • 取消訴訟=瑕疵〔違法〕で足りる・無効確認=重大かつ明白〔または例外的事情〕まで原告が主張立証

ここまでで、無効の線が見えました。では、その線は、どの訴訟で、誰が示すのでしょうか。まず、前回の復習です。無効の処分に、不可争力は生じるでしょうか?生じません。出訴期間の縛りがかからないので、あとからでも争えます。出訴期間の条文を、もう一度出します。

条文行政事件訴訟法14条1項

行政事件訴訟法第14条第1項 取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

条文行政事件訴訟法14条2項

行政事件訴訟法第14条第2項 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

取消訴訟は、この期間を過ぎたら起こせません。一方、無効確認訴訟には、この14条を準用する定めがなく、出訴期間はありません。詳しくは別の回で扱います。だから、実際にこの区別が問われるのは、期間を過ぎてから起こす無効確認訴訟で、主張する瑕疵が、無効事由に値するかどうかです。では、無効事由があることは、誰が示すのでしょうか。最高裁は、裁量に任された処分の無効確認訴訟について、こう述べています。

判例最判昭42・4・7 民集21巻3号572頁

無効確認を求める者が、重大かつ明白な違法を主張立証する 行政庁の裁量に任された行政処分の無効確認を求める訴訟においては、その無効確認を求める者において、行政庁が右行政処分をするにあたつてした裁量権の行使がその範囲をこえまたは濫用にわたり、したがつて、右行政処分が違法であり、かつ、その違法が重大かつ明白であることを主張および立証することを要するものと解するのが相当である。

事案を短く言います。家畜の放牧や採草に使う土地を、国が売り渡した処分について、無効の確認を求めた事件です。原告は、裁量の逸脱や濫用、重大明白性を基礎づける具体的な事実を、主張していませんでした。最高裁は、無効とは言えないとして、請求を退けました。事実の真偽が分からないとき、どちらが負けるか、という問題です。事実を示す責任を負う側が、示せなければ負けます。民事訴訟の考え方と同じで、一般論は別の回で扱います。温度を分けます。この判例は、裁量処分の無効確認訴訟の事案で述べたものです。ただ、無効確認訴訟では、無効事由の主張立証を、原告が負うと理解されています。処分は取り消されるまで有効が原則で、無効はその例外なので、例外を言う側が示す、という考え方です。設例イで、Bが期間を過ぎてから無効の確認を求めるなら、命令書の理由の欄に、違反をした店としてBの店ではないCの店が書かれているという事実を、B自身が示すことになります。取消訴訟では、違法という瑕疵があれば足りるのに対し、無効確認では、重大かつ明白まで、原告が示します。

短答で、無効事由は被告の行政庁が立証する、とあれば、誤りです。無効事由を主張立証するのは、無効を言う原告の側です。

衡量の見方(判例の定式=重大明白・例外的事情/ひとつの見方=法的安定・第三者の信頼の要請と、期間を過ぎた原告の救済の必要とを事例ごとに衡量/例外的事情の判決の「慎重に」=安定の側の要請・「第三者を守る必要がない」=衡量で比べる重りが1つ減る/設例イ=誰も有効と信じない→救済の側へ/設例ア=信じて動く取引先や役場がいる→安定の側が重い→取消事由/無効確認訴訟=時機に遅れた取消訴訟として使われることが多い) 図:衡量の見方

  • 判例の定式=重大明白・例外的事情
  • ひとつの見方=法的安定・第三者の信頼の要請と、期間を過ぎた原告の救済の必要とを事例ごとに衡量
  • 例外的事情の判決の「慎重に」=安定の側の要請・「第三者を守る必要がない」=衡量で比べる重りが1つ減る
  • 設例イ=誰も有効と信じない→救済の側へ
  • 設例ア=信じて動く取引先や役場がいる→安定の側が重い→取消事由
  • 無効確認訴訟=時機に遅れた取消訴訟として使われることが多い

最後に、今日の見方をまとめます。判例の定式は、重大明白と、例外的事情です。そのうえで、この区別は、法的安定や第三者の信頼の要請と、期間を過ぎた原告の、裁判で救われる必要とを、事例ごとに衡量して決めるものだ、という見方があります。無効確認訴訟は、時機に遅れた取消訴訟として使われることが多い、とも言われます。この見方に立つと、例外的事情の判決の、無効を認めるのは慎重に、という言葉は、法的安定の側の要請と読めます。第三者を守る必要がない、という言葉は、衡量で比べる重りが、1つ減っていることを言っている、と読めます。重大明白という標準形も、例外的事情という枠組みも、同じ衡量の言い換えと見ることもできます。設例に戻すと、イは、命令書を読めば誰も有効とは信じないので、安定の側に載る重りがほとんどありません。だから、期間を過ぎたBを救う側に傾きます。アは、命令を見て店は休みだと受け取る取引先や、命令を前提に手続を進める役場など、有効と信じて動く人がいるので、安定の側が重く、取消事由にとどまります。

軽微な瑕疵と、3種類のまとめ

瑕疵の3種類(取消事由=公定力あり・取消訴訟で争う・出訴期間あり・原告は違法を主張/無効事由=公定力なし・重大かつ明白または例外的事情・出訴期間なし・原告が主張立証/軽微な瑕疵=取り消してもやり直されるだけ・法的には無視してよい) 図:瑕疵の3種類

  • 取消事由=公定力あり・取消訴訟で争う・出訴期間あり・原告は違法を主張
  • 無効事由=公定力なし・重大かつ明白または例外的事情・出訴期間なし・原告が主張立証
  • 軽微な瑕疵=取り消してもやり直されるだけ・法的には無視してよい

最後に、取消事由にも届かない瑕疵があります。軽微な瑕疵です。たとえば、営業停止命令の書面に、日付の書き間違いがあったとします。命令の中身は何も変わりません。これを理由に取り消しても、Aは、日付を直して、同じ命令を、もう一度出せます。だから、軽微な瑕疵は、取り消しても得るものが少なく、そのまま維持するほうが、当事者の負担も軽く、事の収まりもよくなります。そこで、法的には無視してよいとされます。軽微な瑕疵は、取消事由の中の、軽いほうですか。違います。そこが誤解しやすい所です。取消事由にすらならないものです。取消事由は、取り消されるまで有効、軽微な瑕疵は、取り消す必要もない、という違いです。これで、瑕疵は3種類です。取消事由は、取消訴訟の排他的管轄が及ぶ、公定力のある瑕疵です。無効事由は、重大かつ明白な、公定力のない瑕疵です。軽微な瑕疵は、無視してよい瑕疵です。

今日の地図(保存版)

今日の整理(瑕疵=違法・不当/公定力から逆算=取消事由と無効事由/無効=重大かつ明白〔外形上・何人の判断でも〕+例外的事情〔昭48・平16〕/主張立証は原告〔昭42〕/軽微な瑕疵は無視) 図:今日の整理

  • 瑕疵=違法・不当
  • 公定力から逆算=取消事由と無効事由
  • 無効=重大かつ明白〔外形上・何人の判断でも〕+例外的事情〔昭48・平16〕
  • 主張立証は原告〔昭42〕
  • 軽微な瑕疵は無視

まとめます。冒頭の問いに答えます。アとイは、違反の事実を誤った重大さが同じです。分かれ目は、外形上、誰が見ても誤りと分かるかです。アは取消事由、イは無効です。担当者が資料を見落としたかどうかは、関係ありません。無効の線は、重大かつ明白です。明白でなくても、課税処分は第三者の保護の必要がないことを前提に、課税要件の根幹の過誤があり、期間を理由に不利益を我慢させるのが著しく不当なら、無効になりえます。無限連鎖講の事件は、その両方を当てはめて、否定しました。無効だと言う側が、無効事由を示す必要があります。

今日の短答の誤り肢(不当な裁量行使も取消訴訟で取り消せる〔誤り〕/判例は重大性だけで無効とする〔誤り〕/行政庁が調査を怠ったときに限り明白とする〔誤り〕/無限連鎖講の事件は例外的事情の枠組みで無効とした〔誤り〕/無効事由は被告行政庁が立証する〔誤り〕) 図:今日の短答の誤り肢

  • 不当な裁量行使も取消訴訟で取り消せる〔誤り〕
  • 判例は重大性だけで無効とする〔誤り〕
  • 行政庁が調査を怠ったときに限り明白とする〔誤り〕
  • 無限連鎖講の事件は例外的事情の枠組みで無効とした〔誤り〕
  • 無効事由は被告行政庁が立証する〔誤り〕

最後に、短答の誤り肢です。不当な裁量行使も、取消訴訟で取り消せる、は誤りです。裁判所が取り消せるのは、違法だけです。判例は、重大性だけで無効とする、も誤りです。原則は重大かつ明白で、例外は、例外的事情がある場合です。行政庁が調査を怠ったときに限り、明白とする、も誤りです。外形上客観的に判断し、怠慢は直接関係しません。無限連鎖講の事件は、例外的事情の枠組みで、無効とした、も誤りです。同じ枠組みで、否定しました。無効事由の存在は、被告の行政庁が立証する、も誤りです。無効を主張する原告が示す、と理解されています。

参照条文

  • 行政事件訴訟法30条
  • 行政不服審査法1条1項
  • 行政事件訴訟法3条4項
  • 行政事件訴訟法14条1項
  • 行政事件訴訟法14条2項

行政法 全体ロードマップへ →