裁量基準と裁量審査①(基準の性質・基準から外れた処分)
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第5章 行政裁量 #67/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
役所が決めた基準から外れたら
図:今日の問い
- 架空の県条例=知事は遊漁船業者が安全基準に違反したとき180日以内の営業停止を命じられる
- 知事が公表した基準=救命胴衣の不備で死傷者なしなら標準は停止30日
- A社は同じ違反で停止90日・理由は「厳正に対処するため」だけ
- 問い=基準は法律でないのに外れただけで違法か
基準は法律ではありません。だから、基準に反したというだけでは、通りません。ただ、それで終わりでもありません。理由なく外れた処分は、違法になりうるからです。今日は、この二つがどう両立するのかを、具体的な例で確かめます。設例です。架空の県条例で、知事は、遊漁船業者が安全基準に違反したときは、180日以内の期間を定めて営業の停止を命ずることができる、とします。実在の条例ではありません。知事は処分の基準を公表していて、救命胴衣の不備で、死傷者が出ていない場合の標準は、停止30日です。ところが、救命胴衣の不備で、死傷者も出していないA社に、知事は90日の停止を命じました。理由欄には、厳正に対処するため、としか書かれていません。A社は、基準より重い、と争います。
前回の個人タクシーの判決では、内部的にせよ審査基準を作る必要がある、という考え方を見ました。では、作った基準から外れた処分はどうなるのか。今日は、基準の効き方を、順番に見ていきます。
図:今日の道順
- 1 基準に反しただけで違法か〔出発点〕
- 2 基準の性質を見分ける〔解釈基準か裁量基準か〕
- 3 裁量基準の審査は2段階
- 4 基準から外れた処分は違法か〔場面A・今日〕
- 5 重い方向と軽い方向
- 基準どおりの処分は次回
まず、出発点。基準に反しただけで違法になるのか。次に、基準にも種類があるので、その見分け方。そして、基準から外れた処分は違法か。最後に、重い方向と軽い方向で、誰が何を言えるかを分けます。
基準に反しただけでは違法にならない
図:出発点
- 裁量基準=法律の委任に基づかない行政内部の基準〔行政規則〕・法規ではない
- 基準に反した処分→原則として当不当の問題・当然に違法ではない
- 違法になるのは裁量権の範囲を超え又は濫用があった場合
ここで1問です。通達の回で、内部の基準は国民や裁判所を縛るか、という問いを見ました。縛るでしょうか、縛らないでしょうか?縛らない、でした。法律や省令のように、国民と行政の関係を決めるものではなくて、役所の内側の基準だからです。裁量が与えられた処分で、その使い方の目安として行政庁が決めておく基準を、裁量基準と呼びます。法律の委任に基づかない行政内部の基準で、行政規則です。法規ではありません。では、判例はこの点をどう述べたか。外国人の在留期間の更新をめぐるマクリーン事件の判決の、ある一段です。判断過程審査の回で、海岸の占用許可の判決が、準則に違背しても当然に違法となるわけではない、と述べたのを見ました。準則と裁量審査の関係を、ここで確かめます。事案は別の回で見ますので、今日はこの一段だけを読みます。
判例最大判昭53・10・4 民集32巻7号1223頁
裁量権行使の準則に反した処分 ところで、行政庁がその裁量に任された事項について裁量権行使の準則を定めることがあつても、このような準則は、本来、行政庁の処分の妥当性を確保するためのものなのであるから、処分が右準則に違背して行われたとしても、原則として当不当の問題を生ずるにとどまり、当然に違法となるものではない。処分が違法となるのは、それが法の認める裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限られるのであり、また、その場合に限り裁判所は当該処分を取り消すことができるものであつて、行政事件訴訟法三〇条の規定はこの理を明らかにしたものにほかならない。
判決の言う準則は、今日の裁量基準のことです。言い直します。裁量の使い方の準則は、処分の妥当性を確保するためのものです。だから、準則に反した処分は、原則として、当不当の問題にとどまります。当不当とは、よかったか悪かったか、という問題で、適法か違法かの問題とは別です。当然に違法になるわけではない。違法になるのは、裁量権の範囲を超えたか、濫用があった場合に限られる、ということです。違法になる場合があることは、あとで見ます。ここで押さえたいのは、基準に反したことだけでは、違法の理由にならない、という出発点です。
図:取り違えやすい問い
- 法規命令の問い=法律の委任の範囲を超えていないか〔委任があるから問える〕
- 裁量基準の問い=基準として合理的か
- 裁量基準に「委任の範囲を超えているか」と問うのは誤り
ここで、つまずきやすい点を、一つ挙げます。設例で、知事の30日の基準が、法律の委任の範囲を超えていないか、と考えたくなります。委任の範囲という、省令と同じ考え方は使えません。委任の範囲を問えるのは、法律の委任を受けた法規命令だからです。裁量基準は、委任に基づかない内部の基準なので、そもそも委任の範囲という問いが立ちません。裁量基準で問うのは、この基準は裁量基準として合理的か、です。法規命令の問いと混ぜないでください。
基準の性質を見分ける——名前でなく、裁量があるか
図:基準の見分け3ステップ
- 基準に従った処分→1 形式と名前で法規命令か〔政令・省令・施行令・施行規則〕→2 行政規則なら名前は定まらない〔通達・通知・要綱・指針・基準…〕→3 その処分に裁量があるか→なし=解釈基準〔裁判所は自分で解釈〕
- あり=裁量基準〔2段階で審査〕
裁量基準の回で、見分けの軸は、その処分に裁量があるか、だと見ました。今日は、その見分けを、裁判所の審査の入口として使います。処分が何かの基準に従ってされたとき、最初にやるのは、その基準の法的な性質を見ることです。三つ数えます。一つ目、法規命令か。政令や省令といった法形式で、名前も、施行令、施行規則のように決まっているので、見分けやすいです。二つ目、そうでなければ行政規則です。こちらは困ったことに、名前が定まっていません。通達、通知、要綱、要領、指針、基準。どれも行政規則になりえます。だから、名前では決めず、中身で判断します。三つ目。行政規則の中で、解釈基準か、裁量基準かを分けます。分かれ目は、その処分に裁量が認められるか、です。
図:解釈基準と裁量基準の違い
- 軸=その処分に裁量があるか
- 裁量が認められない処分で法令の読み方を示す=解釈基準
- 裁量が認められる処分で裁量権行使の目安を示す=裁量基準
- 法形式〔通達かどうか〕では決まらない
- 前提として「この処分に裁量があるか」を先に論じる
ここで1問です。通達という名前の文書は、解釈基準でしょうか、裁量基準でしょうか?名前では決まらない、だと思います。その処分に裁量があるかどうかで決まる、でした。例を二つ並べます。一つ目は、税金の額を決める処分に関する通達です。税は、法律の要件に当たれば課さなければならず、課すかどうかを選ぶ幅がありません。この処分に関する通達は、法律の読み方を示すもので、解釈基準です。二つ目は、遊漁船業者の営業停止の期間の目安を示す通達です。停止を命じるかどうか、何日にするかに、知事の判断の幅があります。この通達は、判断の幅の使い方を示すもので、裁量基準です。同じ通達という名前でも、性質が違います。見分けると、裁判所の審査が変わります。解釈基準なら、問題になるのは、その解釈が正しいかどうかです。通達は、上の行政機関が下の機関に出す、行政の内側の命令です。行政の内側は縛っても、裁判所は縛りません。法律をどう読むかを最後に決めるのは、裁判所の仕事だからです。だから裁判所は、通達の解釈が誤りだと考えるなら、自分の正しい解釈で当てはめます。通達の回で見た、墓地埋葬法の通達が争われた判決でも、裁判所は通達と異なる独自の解釈をすることができる、と述べました。裁量基準なら、次の節の二段階で見ます。
図:同じ日の別の判決に注意
小さな注意を一つ。墓地埋葬の通達の事件と同じ日に、別の判決が出ています。テレビ局の免許を競って申請し、拒否された側がその処分を争った、東京12チャンネルの事件です。今日の話とは関係がありません。通達と裁判所の関係で使うのは、墓地埋葬の通達の事件のほうです。取り違えないでください。行政手続法の用語とも、つなげておきます。申請を許すかどうかの基準を審査基準、不利益処分の基準を処分基準と、行政手続法が呼んでいます。条文を見ます。
条文行政手続法2条8号ロ・ハ
行政手続法第2条第8号(ロ・ハ) 八 命令等 内閣又は行政機関が定める次に掲げるものをいう。 …… ロ 審査基準(申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。) ハ 処分基準(不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。)
審査基準と処分基準は、呼び名です。中身は、裁量があれば、多くは裁量基準です。設例の、30日の目安も、不利益処分の基準なので処分基準で、中身は裁量基準です。なお、相手方を特定しない一般処分のように、申請に対する処分にも不利益処分にも当たらないものの裁量基準は、審査基準にも処分基準にも当たりません。ここは、そういう例外がある、と覚えておけば足ります。
裁量基準の審査は二段階
図:二段階の骨組み
- 裁量基準が使われた処分の審査=1 基準そのものの合理性〔基準自体が不合理ならそれに従った処分も違法〕→2 当てはめの合理性〔基準が想定しない個別事情の考慮など・次回〕
- 場面A=基準から外れた処分〔今日〕・場面B=基準どおりの処分〔次回〕
裁量基準だと分かったら、審査の形です。裁判所は、二段階で見ます。第一段階は、基準そのものが合理的か。基準自体が不合理なら、それに従った処分も違法になります。第二段階は、その基準の当てはめが合理的か。基準が想定していない個別の事情を考えたか、といった点です。なぜ二段階に分けるのか。基準が全体として理にかなっていても、法律が裁量を与えたのは、一件ごとの事情に応じさせるためです。だから、基準そのものと、その一件への当てはめを、別々に見ます。救命胴衣の不備で、死傷者なしなら30日、という標準の定め方が、理にかなっているかを見ます。第二段階は、その30日の標準を、A社の事情にそのまま当てはめてよいか、です。たとえば、救命胴衣が、点検の前の日に港の火事で焼けて、買い直す前だった、という事情があれば、30日をそのまま当てはめるのが理にかなうかが問われます。場面は二つあります。基準から外れた処分が場面A。基準どおりにした処分が場面B。今日は場面Aです。ここは、論文で論点になりうるところです。
場面A——基準から外れた処分は違法か
図:結論の置き方
- 1 基準に違反しただけでは当然に違法でない〔出発点〕
- 2 しかし合理的な理由なく公にされた基準から外れた処分は公正・平等な取扱いと信頼の保護の観点から逸脱・濫用となりうる
- 縛られるのは国民ではなく行政庁〔自己拘束〕
結論を二つの文を対にして置きます。一つ目、基準に違反しただけでは、当然に違法ではない。これは、先ほどの出発点です。二つ目、しかし、合理的な理由なく、公にされた基準から外れた処分は、違法となりうる。この二つ目が、今日の中心です。ここで1問です。裁量基準の回を思い出してください。公にされた基準は、国民と行政庁の、どちらを縛るのでしたか?行政庁を縛る、でした。国民が縛られるのではなくて、行政庁が自分で公にした基準に縛られる、という話でした。でも、内部の基準が、どうして外に効くのでしょう。法規ではないのに。
図:なぜ内部の基準が外に効くか
- 基準は法規でない→国民を拘束しない
- しかし公にされると行政庁に二つの要請が生まれる=1 同じ状況の人は同じに扱う〔公正・平等な取扱い〕2 基準を信じた人の信頼を守る〔信頼の保護〕
- 縛られるのは行政庁〔自己拘束〕
公にされると、行政庁の側に、二つの要請が生まれるからです。一つ目、同じ状況にある人は、同じに扱う。公正で、平等な取扱いです。二つ目、公表された基準を信じて行動した人の、信頼を守る。基準が国民に義務を課すのではなく、公にした行政庁が、自分の約束に縛られる。これが自己拘束です。裁量基準の回では、公にした基準から外れれば、特段の事情がない限り逸脱・濫用だ、と見ました。今日の出発点と矛盾はしません。違法にするのは、基準に反したという事実ではなく、公にしたことから生まれる、平等と信頼の要請だからです。日常の例にします。町営の運動場が、予約ルールを掲示しています。無断キャンセルの1回目は、予約停止1週間。ある人が1回目なのに、係員の気分だけで1か月停止にされたら、どうでしょう。ほかの人は1週間で済んでいるので不公平ですし、掲示を信じて予約していた人の信頼も裏切ります。これを判決の言葉で確かめます。裁量基準の回で読んだ、営業停止の基準の事件です。今日は、裁量審査の側から読み直します。ぱちんこ店への営業停止命令をめぐって、処分基準に、過去に処分を受けていると次の処分の重さを加重する、という定めがあり、その基準は公にされていました。この判決が直接に答えたのは、処分の効果が期間の経過でなくなった後も、基準が加重する期間内は取消しを求める利益がある、という訴えの利益の問題です。訴えの利益の読み込みは、別の回です。今日は、その判断の途中で述べられた、処分基準の性質の部分を使います。
判決は、まず、公にされた処分基準は、行政庁の運営上の便宜にとどまらない、と述べます。判断の過程を公正にして透明にし、処分を受ける側の権利利益を守るために、定められ、公にされるものだ、という趣旨です。この趣旨を受けて、続く一文が、今日の核心です。
判例最判平27・3・3 民集69巻2号143頁
営業停止の基準の事件——特段の事情 したがって,行政庁が同項の規定により定めて公にしている処分基準において,先行の処分を受けたことを理由として後行の処分に係る量定を加重する旨の不利益な取扱いの定めがある場合に,当該行政庁が後行の処分につき当該処分基準の定めと異なる取扱いをするならば,裁量権の行使における公正かつ平等な取扱いの要請や基準の内容に係る相手方の信頼の保護等の観点から,当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることを相当と認めるべき特段の事情がない限り,そのような取扱いは裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たることとなるものと解され,この意味において,当該行政庁の後行の処分における裁量権は当該処分基準に従って行使されるべきことがき束されており,先行の処分を受けた者が後行の処分の対象となるときは,上記特段の事情がない限り当該処分基準の定めにより所定の量定の加重がされることになるものということができる。
長い一文なので、三つに分けます。一つ目、公にしている処分基準と異なる取扱いをするなら、特段の事情がない限り、裁量権の逸脱または濫用になる。二つ目、その理由は、公正で平等な取扱いの要請と、基準の内容に係る相手方の信頼の保護など。三つ目、この意味で、行政庁の裁量権は、基準に従って使われるよう、縛られている。判決の言葉では、き束と書いてあります。縛られる、という意味です。量定は、処分の重さのことです。設例に戻ります。標準は30日なのに、90日。理由は、厳正に対処するため、だけ。これは、特段の事情の説明になっていません。A社の個別の事情が何も示されていないからです。逸脱・濫用の方向に傾きます。
図:特段の事情の境界
- 基準から外れてよい方向=基準が想定していなかった個別事情〔例=A社が過去の検査で虚偽の報告をしていた〕
- 社会情勢の急変で基準の改定が間に合わず応急的に外れる〔本来は基準を改正すべき〕
- 傾く方向=理由が示されない・担当者が代わって厳しくしたかっただけ・運用の都合のみ
特段の事情に当たる例と当たらない例を並べます。当たる例の一つ目は、基準が想定していなかった個別の事情がある場合です。A社が、過去の検査で、虚偽の報告をしていたとします。救命胴衣の不備だけを想定した30日の標準では、測れない悪質さがあります。この事情を示して重くしたなら、特段の事情がある、と言える余地があります。二つ目は、社会情勢が急に変わって、基準の改定が間に合わないときの応急の対応です。ただし、基準が社会に合わなくなったなら、本来は基準を改正すべきです。当たらない例は、理由が示されない場合や、担当者が代わって、もっと厳しくしたくなっただけ、という運用の都合です。これは、A社の事情ではなく、役所の都合ですから、特段の事情とは言いにくく、逸脱・濫用に傾きます。
慎重に使います。この判決が述べたのは、行政手続法12条1項の処分基準で、先行の処分を理由に重さを加重する定めがある場合です。審査基準や、補助金や手当を出す基準である給付基準、公務員の懲戒処分の指針に、そのまま及ぶとは言っていません。設例は、この判決の考え方を参考にした整理です。答案では、判例が述べたのは処分基準、一般の整理は自己拘束、と分けて書くと安全です。
図:比例原則は別に残る
- 基準から外れた処分=特段の事情の有無で逸脱・濫用を見る
- 基準どおりの処分も外れた処分も「重すぎないか」は比例原則で独立に問われる
- 設例の90日が重すぎないかは別の問い
もう一点。比例原則の回で、裁量を縛る物差しとして見た比例原則は、ここでも別に残ります。基準どおりでも外れていても、その処分が重すぎないかは、独立に問われます。設例の90日が重すぎないかは、特段の事情の問いとは別に、比例原則で検討できます。今日はこの点を名前だけ挙げて、先へ進みます。今日の中心に戻ります。公にした基準から、特段の事情なく外れた処分は、逸脱・濫用になります。
重い方向と軽い方向——誰が何を言えるか
図:重い方向と軽い方向
- 知事=行政庁
- A社=基準30日のところ90日〔重い方向〕
- B社=同じ違反で5日〔軽い方向〕
- C社=基準どおり30日
- 遺族=被害を受けた第三者
- 重い方向=名宛人が取消訴訟で争う
- 軽い方向=軽く外れたことは名宛人に有利で違法事由にしても救済にならず争う意味が無い・争うなら他の人〔入口の話〕
基準から外れる方向は、二つあります。重い方向と、軽い方向です。外れたという事実は同じでも、誰が何を言えるかが違います。登場人物を並べます。知事が行政庁、A社が基準より重い90日を受けた業者です。同じ違反で5日で済んだ業者を、B社と呼びます。基準どおり30日を受けた業者がC社、事故で被害を受けた乗客の遺族が第三者です。重い方向から。A社は、基準より重い処分を受けました。取消訴訟を起こして、基準との開きを、逸脱・濫用の手がかりとして使えます。公表された基準より重く、理由もない。同種の違反で30日だった他の業者との差は、平等の問題ですし、基準を信じて準備していた信頼も傷つきます。知事側に求められるのは、特段の事情の説明です。先ほどの、虚偽報告のような個別の事情を示せなければ、取消しに傾きます。判例は、基準から外れた処分について述べていますが、外れる向きは区別していません。次に、軽い方向です。B社は、同じ違反なのに、5日で済みました。ここから先は、判例が述べたことではなく、考え方の整理として話します。取消訴訟は、処分で不利益を受けた人が、処分を取り消して、その不利益を取り除いてもらう訴えです。B社が受けた5日の営業停止も、それ自体が不利益処分です。ですから、その取消しを求める利益は、B社にもあります。ただ、基準より軽く外れたことを違法の理由にしても、外れ方はB社に有利ですから、救済にはなりません。B社にとって、そこを争う意味はない、と考えられます。軽すぎることを争いうるのは、ほかの人です。
他の業者からの不平等の主張は、通りにくい、と考えられます。平等原則の回で見た、違法の平等は無い、という原則があるからです。他の人が違法に有利に扱われたことを理由に、自分にも同じ扱いを求めることは、原則としてできません。行政は法律に従わなければならない、という法律による行政の原理が先に立つので、直すべきなのは、B社への軽すぎる扱いのほうです。もう一つの道は、違反で被害を受けた乗客の遺族のような第三者が、軽すぎる、と争う場合です。この場合は、そもそも訴える資格があるか、という原告適格の壁があります。もっと重い処分をせよ、という義務付けの訴えの話にもなります。どちらも別の回で見ます。今日は入口だけです。
図:方向で分かれる意味
- 外れたという事実は同じ
- 重い方向=名宛人が取消訴訟で基準との乖離を逸脱・濫用の手がかりにする
- 軽い方向=軽く外れたことは名宛人に有利で争う意味が無い・争うなら第三者の訴えの入口の問題が先に来る
- 判例は外れる向きを区別していない・軽い方向は判例が述べたことではなく考え方の整理
整理します。基準から外れたという事実が同じでも、争う利益を持つ人が違います。重い方向なら、名宛人本人が、基準との開きを使って争います。軽い方向なら、軽く外れたことは名宛人に有利で、争う意味がありません。軽すぎると争うなら第三者で、その訴えの入口の問題が先に来ます。
今日の地図(保存版)
図:今日の持ち帰り
- 1 まず基準の性質〔名前でなく中身・裁量があるかで解釈基準か裁量基準か〕
- 2 裁量基準は二段階〔基準の合理性・当てはめの合理性〕
- 3 基準から外れた処分=当然には違法でないが理由なく外れれば逸脱・濫用〔特段の事情が要る〕
冒頭の問いに答えます。基準に反しただけでは、当然には違法になりません。基準は法規ではないからです。しかし、公にされた基準から、特段の事情もなく外れた処分は、公正で平等な取扱いと、相手方の信頼の保護の観点から、逸脱・濫用になりえます。縛られるのは国民ではなく、行政庁です。持ち帰りの三点です。一点目、まず基準の性質を見ます。名前ではなく中身で、その処分に裁量があるかで、解釈基準か裁量基準かが決まります。二点目、裁量基準は二段階で審査されます。基準そのものの合理性と、当てはめの合理性です。三点目、基準から外れた処分は、当然には違法でないが、理由なく外れれば逸脱・濫用で、特段の事情が必要です。
図:今日の短答の誤り肢
- 裁量基準に反した処分は当然に違法〔誤り〕
- 裁量基準が法律の委任の範囲を超えていないかを審査する〔誤り〕
- 解釈基準は裁判所を拘束する〔誤り〕
- 通達だから常に解釈基準〔誤り〕
- 営業停止の基準の事件の判断は公務員の懲戒処分や給付基準にそのまま及ぶ〔誤り〕
- 基準より軽い処分は誰でも自由に争える〔誤り〕
最後に、短答の誤り肢です。裁量基準に反した処分は、当然に違法、は誤りです。原則として、当不当の問題にとどまります。裁量基準が、法律の委任の範囲を超えていないかを審査する、も誤りです。問うのは、裁量基準として合理的か、です。解釈基準は、裁判所を拘束する、も誤りです。裁判所は、自分の解釈で判断します。通達だから常に解釈基準、も誤りです。その処分に裁量があれば、裁量基準です。営業停止の基準の事件の判断は、公務員の懲戒処分や給付基準にそのまま及ぶ、も誤りです。述べたのは、処分基準についてです。基準より軽い処分は、誰でも自由に争える、も誤りです。名宛人は、軽く外れたことを争っても救済にならず、第三者は入口の壁があります。
参照条文
- 行政手続法2条8号ロ・ハ