判断過程審査②後(濃さ・最善を尽くしたか・手続的審査)
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第5章 行政裁量 #66/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
裁判所が見るのは、最善か、最善を尽くしたか
図:今日の問い
- 行政庁が決めた結果が最善だったかを、裁判所は見るのか
- それとも最善を尽くしたかを見るのか
- 決め方の手続を見る審査は、道筋を見る審査と何が違うのか
そもそも裁判所は、行政庁の決めた結果が最善だったかどうかを、見ているんでしょうか。見ていません。見ているのは、結果が最善かではなく、最善を尽くしたと言える決め方だったか、です。今日は、この整理を具体的な例で確かめます。結果の審査が無くなるわけではありません。結果が著しく妥当を欠かないかを見る古典の審査も、残っています。ただ、判断過程審査の目線は、最善を尽くしたかです。今日はもう一つ、決め方を縛る別の方法も扱います。結論でも道筋でもなく、手続の側から縛る審査です。手紙や生活扶助基準の判決のような道筋の点検と、手続の点検は、何が違うのか。これが今日の問いです。
図:統制の手法の地図
- 結果を見る=実体的な違法を類型化する〔すでに扱った〕
- 過程を見る=判断過程審査〔前回まで=型・下位基準・広がり/今日=濃さとまとめ〕
- 手続を見る=手続的審査〔今日の後半〕
地図を1枚だけ。行政裁量を統制する見方は、結果、過程、手続の三方向でした。過程の側は、型と下位基準と広がりを、前回までに見ました。今日は、過程の側の深さと、まとめの整理を済ませてから、まだ扱っていなかった手続の側に入ります。
図:今日の持ち帰り
- 1 同じ審査でも濃さが違う
- 2 結果が最善かでなく最善を尽くしたかを見る・行為規範と裁判規範
- 3 手続的審査=結論でなく決め方の公正さを見る3つ目の手法
持ち帰りは三点です。一点目、同じ審査でも濃さが違うこと。二点目、結果が最善かではなく、最善を尽くしたかを見る、という整理。行為規範と裁判規範です。三点目、手続的審査です。
同じ審査でも濃さが違う
図:濃さの階段の想起
- いちばん濃い=裁量の問題にせず解釈で厳しく絞る
- 次=裁量は認めつつ重視してよい事情や求める配慮を絞る
- 基本=明らかな行き過ぎだけを見る
ここで1問です。前に見た濃さの階段を思い出してください。信仰上の理由で剣道の実技に参加できなかった高専の学生が、代わりの措置の検討もないまま退学になった、剣道実技の事件は、階段のどの段でしたか?
図:濃さの階段の想起
- いちばん濃い=裁量の問題にせず解釈で厳しく絞る
- 次=裁量は認めつつ重視してよい事情や求める配慮を絞る〔剣道実技〕
- 基本=明らかな行き過ぎだけを見る
真ん中の、裁量は認めつつ、重視してよい事情や求める配慮を絞る段です。信仰に関わり、退学という重い不利益だったからです。前回見た都市計画の定式と並べます。
図:同じ言葉の深さの比較
- 剣道実技=考慮すべき事項を考慮しておらず又は評価が明白に合理性を欠く→信仰に関わり退学という重い不利益→代替措置の検討の有無まで踏み込む
- 都市計画=評価が明らかに合理性を欠く・考慮すべき事情を考慮しない→政策的・技術的な総合判断が不可欠→考慮事項と評価に広い幅
- 言葉は似ていても深さが違う
- 深さを決めるのは言葉でなく処分の性質・権利の重さ・任せ方
剣道実技の判決は、考慮すべき事項を考慮しておらず、又は、考慮された事実に対する評価が明白に合理性を欠き、という言葉を使いました。都市計画の定式は、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、考慮すべき事情を考慮しないこと、という言葉を使います。ほとんど同じ言葉です。言葉がほとんど同じなら、審査の深さも同じになるんじゃないんですか。違います。深さを決めるのは、言葉ではなく処分の性質です。前に階段を作ったときの二つの軸、処分が侵す権利や不利益の重さと、法律が行政にどこまで任せているかです。以下は講学上の整理で、判決の言葉ではありません。剣道実技は、信仰に関わり、退学という重い不利益でした。そこで裁判所は、学校が代わりの措置を検討したかまで踏み込みました。都市計画は、政策的、技術的な総合判断が不可欠で、考慮する事項も評価の仕方も、行政庁に広い幅があります。そこで裁判所は、その幅を残したうえで、重要な事実の基礎があるか、評価に明らかな不合理がないかを点検します。
図:前回の判決を階段に置く
- いちばん濃い段=裁量の問題にせず解釈で厳しく絞る→前回の判決には無い
- 次の段=裁量は認めつつ見るべき問いを絞る=受刑者の手紙〔剣道実技と同じ段〕
- その下=海岸・入札〔法令の趣旨から考慮要素を絞って点検〕
- 裁量が広い側=生活扶助基準・都市計画〔専門技術的・政策的でも道筋の点検は及ぶ〕
- ここでの置き方で判決が階段を述べたわけではない
前回の判決を、この階段に置きます。これは、ここでの置き方で、判決が階段を述べたわけではありません。いちばん上の、解釈で厳しく絞る段に入る判決は、前回にはありません。受刑者が新聞社に宛てた手紙を、所長が許さなかった事件は、裁量は認めたうえで、障害が生じる見込みという見るべき問いまで絞りました。剣道実技と同じ、次の段です。階段を上がるほど、裁判所が自分で判断する判断代置に近づきます。採石業者の桟橋のための海岸の占用の不許可と、村が長年の業者を村外業者として指名しなくなった入札は、法令の趣旨から考慮要素を絞って点検した、その下あたり。厚生労働大臣が生活扶助の基準を引き下げた改定と、都市施設の規模や配置を決める都市計画は、専門技術的で政策的な、裁量が広い側です。それでも道筋の点検は及び、生活扶助基準の判決は、改定のうち、物価の変動だけを指標にした部分を違法としました。整理します。判断過程審査は道具の名前で、濃さは、その道具をどこまで深く使うかです。別の軸なので、判断過程審査をしたら必ず濃い、とは限りません。
最善を尽くしたか——行為規範と裁判規範、そして年表
図:裁量を与える理由
- 法律が行政庁に裁量を与える=その問題はその行政庁に任せるのが最も適切な結果を期待できると考えたから
- 海岸の判決の言葉=裁量にゆだねるのでなければ適切な結果を期待することができない
ここまでの全部を、1本の筋にまとめます。そもそも法律は、なぜ行政庁に裁量を与えるのか。その問題は、その行政庁に任せるのが最も適切な結果を期待できると考えたから、です。前回の海岸の判決で、この理由の要旨を聞きました。その判決の文そのものを、ここで読みます。
判例最判平19・12・7 民集61巻9号3290頁
海岸の占用の許否と、裁量にゆだねる理由 なぜなら,同法37条の4の前記立法趣旨からすれば,一般公共海岸区域の占用の許否の判断に当たっては,当該地域の自然的又は社会的な条件,海岸環境,海岸利用の状況等の諸般の事情を十分に勘案し,行政財産の管理としての側面からだけではなく,同法の目的の下で地域の実情に即してその許否の判断をしなければならないのであって,このような判断は,その性質上,海岸管理者の裁量にゆだねるのでなければ適切な結果を期待することができないからである。
同法は海岸法です。占用の許否は、地域の自然や社会の条件、海岸環境、海岸利用の状況などを十分に勘案し、地域の実情に即して判断しなければならず、その性質上、海岸管理者の裁量にゆだねるのでなければ適切な結果を期待できない。だから裁量がある、という理由です。任せるのが最善だから任せる。任せた以上、後から点検する裁判所が、自分の考える最善で置き換えれば、任せた意味がなくなります。ここから、行為規範と裁判規範が分かれます。講学上の整理で、判決の言葉ではありません。設例を作ります。市立図書館が、買う本を選ぶ仕事を、司書に任せているとします。
図:行為規範
- 設例=市立図書館が買う本を選ぶ仕事を司書に任せる
- 行為規範=任された司書の側の規範
- 趣旨〔利用者の役に立つ蔵書〕に沿って最善を尽くす・予約の多い分野を調べる・利用者の声を聞く・知人の書店に偏らない
司書の側の規範が、行為規範です。任された趣旨、つまり利用者の役に立つ蔵書を作るという趣旨に沿って、最善を尽くします。予約の多い分野を調べる。利用者の声を聞く。知人の書店に偏らない。高い要求です。
図:裁判規範
- 後から点検する側の規範=選んだ本が最善かを決め直さず最善を尽くしたと言えない事情があるかを見る
- 予約の多い分野を調べなかった=考慮不尽
- 館長の知人の書店の本ばかり選んだ=他事考慮
- 分野の評価の付け方が明らかにおかしい=評価の明白な合理性欠如
後から点検する側の規範が、裁判規範です。選んだ本が最善だったかを決め直すのではなく、最善を尽くしたと言えない事情があるかを見ます。予約の多い分野を調べなかったなら、考慮不尽。館長の知人の書店の本ばかり選んだなら、他事考慮。ある分野の評価の付け方が明らかにおかしいなら、評価の明白な合理性欠如です。反対に、予約も利用者の声も調べたうえで選んだのに、後から見ればもっと良い本があった、という場合は、最善を尽くしていますから、違法にはなりません。ここで1問です。予約の多い分野を調べなかったのは、三種類の下位基準のどれでしょうか?
考慮不尽です。考慮すべき事項を、考慮していないからです。同じ決まりでも、行政が自分を律する場面と、裁判所が後から点検する場面とでは、効き方が変わります。これも講学上の整理ですが、行政手続法が、努めなければならない、にとどめた手続、たとえば処分基準を定めて公にしておくことは、行政が従うべき規範としては重くても、裁判で、その手続を欠いたことだけを理由に処分を違法とするのは難しいと整理されます。努力義務の手続の裁判での扱いは、別の回で扱います。古典との対比を一言。社会観念審査は、結果が著しく妥当を欠くかを見ました。判断過程審査は、道筋を見ます。基準が定められているときは、基準の合理性と、基準への当てはめを見る形になります。
図:年表
- 日光太郎杉の下級審判決〔昭48〕=道筋を見る原型
- 神戸税関〔昭52〕・マクリーン〔昭53〕=社会観念審査の古典
- 剣道実技〔平8〕=最高裁での転機
- 学校施設〔平18〕=3つの下位基準
- 手紙〔平18〕・公園の区域〔平18〕・入札〔平18〕・都市計画〔平18〕・海岸〔平19〕=広がり
- 生活扶助基準〔令7〕=基準の改定の一部を違法とした
- 講学上の整理で判決が流れを述べたわけではない
流れを年表にします。これも講学上の整理で、判決が流れを述べたわけではありません。道筋を見る審査の原型は、道路の拡幅で太郎杉を切る事業認定を争った、下級審の日光太郎杉の判決でした。同じ頃、最高裁は、公務員の懲戒の神戸税関や、外国人の在留期間の更新のマクリーンで、結果の著しい不当を見る社会観念審査を語っていました。そこから、社会観念審査の言葉に道筋の点検を結び付けた剣道実技の判決が転機になり、教職員組合の教育研究集会に学校施設を使わせなかった判決で下位基準が出そろいます。その後、手紙、公園、入札、都市計画、海岸と広がり、最近の生活扶助基準の判決では、基準を引き下げた改定の一部が違法とされるところまで来ました。
3つ目の手法——手続的審査
図:3つ目の手法
- 結果を見る
- 過程を見る=橋の例〔説明会も理由の提示もあり手順は整っていた・それでも過程の審査で問題になるのは?〕
- 手続を見る=今日〔決めるまでの手順を踏んだか〕
ここで1問です。判断過程審査の最初の回の、橋の通行止めの例を思い出してください。市長が説明会を開き、理由も示して、手順は整っていました。それでも過程の審査で問題になるのは、どんなときでしたか?
図:3つ目の手法
- 結果を見る
- 過程を見る=橋の例〔手順が整っていても委員会が点検の数値を読み違えれば道筋が壊れている〕
- 手続を見る=今日〔決めるまでの手順を踏んだか〕
専門委員会が、点検の数値を読み違えていたときです。手順が整っていても、検討の道筋が壊れていれば、過程の審査では問題になります。そうでしたね。過程を見ることと、手続を見ることは別です。前に、判決の言う「判断の過程及び手続」の手続は、検討の道筋のことだと読みました。今日の手続は、それとは別の、決めるまでに踏む手順のことです。では、手続を見る審査とは何か。
図:手続的審査とは
- 裁量処分の違法性を結論の当否や道筋の点検とは別の次元で処分庁が踏むべき手続を踏んだかに着目して審査する方法
- 見る点=理由を示したか・言い分を聴いたか・基準を設けたか
- 裁量にはどの手続を踏むかを選ぶ段階がある=その選択を手続の面から縛る考え方
手続的審査とは、裁量処分の違法性を、結論の当否や道筋の点検とは別の次元で、処分庁が踏むべき手続を踏んだかに着目して審査する方法です。理由を示したか、言い分を聴いたか、基準を設けたか、といった点を見ます。この章の最初のほうで、裁量には、どの手続を踏むかを選ぶ段階がある、と見ました。その手続の選択を、手続の面から縛る考え方が、手続的審査です。
図:なぜ手続を見るのか
- 広い裁量や専門技術的な判断では中身に踏み込みにくい=法律が中身の判断を行政庁に任せ専門の知見も行政庁の側にある
- 決め方が公正だったかを問えば裁判所が自分で答えを出さなくても行政を統制できる
- 例=町の朝市:出店枠5つ・希望者多数→どの店がふさわしいかは運営に任せるしかないが選び方が公正だったかは外から点検できる
結論が妥当かを見れば足りるのに、なぜ手続を見るんですか。裁量処分で、とくに効くからです。広い裁量や専門技術的な判断では、裁判所は、中身には踏み込みにくい。法律が中身の判断を行政庁に任せ、その判断に要る専門の知見も、行政庁の側にあるからです。そこで、決め方が公正だったかを問えば、裁判所が自分で答えを出さなくても、行政を統制できます。たとえば、町の朝市に、出店枠が5つあり、希望者が多数います。どの店がふさわしいかは、運営に任せるしかありませんが、選び方が公正だったかは、外から点検できます。
図:朝市の2つの運営の違いの比較
- 出店枠5つ・希望者多数・営業実績の評価は資料を見ないと決められない
- 一方の運営=選考基準は内部のメモだけ・不採用の店に営業実績の資料を出す機会が全く無かった→手続に問題
- もう一方の運営=基準は同じく内部のメモ・選考の前に全店へ営業実績の資料を出す機会を与えて選んだ→落ちる店が出ても手続は問題なし
対照的な運営を並べます。どちらも、営業実績の評価は微妙で、資料を見ないと決められない選考です。一方は、選考基準が内部のメモだけにあり、不採用の店に、営業実績の資料を出す機会が全く与えられませんでした。もう一方は、基準は同じく内部のメモですが、選考の前に、全部の店へ営業実績の資料を出す機会を与え、それを踏まえて選びました。後者は、落とされる店が出ても、手続の面では問題がありません。基準が内部のメモでも、です。この違いが、これから見る判決の骨子です。
図:個人タクシー事件の事案
- 一人一車の個人タクシー免許
- 申請は6000件を超え免許の枠は千に満たない
- 却下の理由=他に事業を自営する場合に転業が困難でないこと・運転歴7年以上の二つの基準に当たらない
- 聴聞担当官の多くは審査基準を知らされておらず二点について申請人の事情を聴いていない
- 最高裁=却下処分は違法とした原審を支持し上告棄却
個人タクシー事件です。ここでは判示の骨子だけを先に示し、判決の文を順に読むのは、行政手続の回に譲ります。運転手が1人で1台を持つ個人タクシーの免許で、申請は6000件を超え、枠は千に満たないほどでした。申請したBは、他に事業を自営する場合に転業が困難でないこと、運転歴が7年以上であること、という二つの基準に当たらないとして、却下されました。ところが、申請人から事情を聴く聴聞を担当した職員の多くは、審査基準の存在すら知らされず、その二点について、Bの事情を聴いていませんでした。最高裁は、却下処分を違法とした原審を支持しました。判決の骨子は、三つに分かれます。
⭐ 論文で書く規範:解釈(判例・骨子):多数の者のうちから少数特定の者を選んで免許の許否を決める行政庁は、事実の認定につき、行政庁の独断を疑うことが客観的にもっともと認められるような不公正な手続をとってはならない。免許の基準は抽象的なので、内部的にせよ、その趣旨を具体化した審査基準を設定し、公正かつ合理的に適用する。基準の内容が微妙で高度の認定を要するなどの場合は、基準を適用する上で必要な事項について、申請人に主張と証拠の提出の機会を与えなければならない。これに反する審査手続による却下処分は違法 (短答・論文共通)
図:骨子の三番目
- 取り違えやすい点
- 判決が求めたのは基準を申請人に示すことではない
- 基準の設定は内部的でもよい
- 求められるのは基準を適用するのに必要な事項について申請人が言い分と証拠を出せる機会
取り違えやすいのは、骨子の三番目です。判決が求めたのは、基準を申請人に示すことではありません。基準の設定は、内部的でもよいのです。求められているのは、基準を適用するのに必要な事項について、申請人が言い分と証拠を出せる機会です。ここで1問です。朝市の一方の運営で、不採用の店に営業実績を出す機会がありませんでした。個人タクシー事件の骨子では、何が問題になるでしょうか?基準を適用するのに必要な事項について、主張と証拠の機会が与えられていないことです。結果として落ちたとしても、独断を疑われても仕方のない手続だからだと思います。基準が内部のメモにとどまることは、問題ではありません。機会を与えなかったことが問題です。基準に当たるかが微妙なときは、本人の事情を聴かなければ、基準を正しく当てはめられないからです。
図:個人タクシー事件の3つの顔(角度の違い)
- 1 基準を作るべきだという角度=裁量基準・審査基準を扱う回
- 2 裁量統制の手法という角度=手続の公正さ〔今日〕
- 3 行政手続法ができる前の判例法理という角度=告知聴聞・理由付記・基準の設定を扱う回
- 同じ判決を3つの角度から使う
この判決は、三つの場面で顔を出します。見る角度が違うだけで、同じ判決です。最初は、基準を作るべきだ、という角度で、裁量基準や審査基準を扱った回で触れました。次が、今日の、裁量統制の手法としての角度で、手続の公正さです。最後は、行政手続法ができる前の判例法理としての角度です。告知や聴聞、理由の付記、基準の設定といった問題を、行政手続の回で、判決の文を読みながら見ます。手続の面から裁量処分を点検した判決を、もう1つ挙げます。群馬中央バス事件です。同じ時期に、バス事業の免許の前に審議会へ諮る手続が問われた事件で、適正手続の回で見ました。審議会に諮っていても、審議や答申の過程に重大な瑕疵があれば、処分は違法になりうる。ただし事案では、違法とは言えませんでした。
図:行政手続法への引継ぎ
- 判例が示した枠→行政手続法
- 基準を設ける→審査基準を定め行政上特別の支障がなければ公にしておく〔5条〕
- 判断の理由→申請を拒否する処分の理由の提示〔8条〕
- 言い分を聴く→聴聞・弁明の機会の付与〔13条〕は不利益処分の手続
- 申請を拒否する処分は不利益処分から除かれる〔2条4号のロ〕=個人タクシー型は聴聞・弁明の対象外
行政手続法ができた今、この手法は、どこへ引き継がれたのか。地図を示します。まず、基準を設ける。判決は、内部的にせよ、と言いました。行政手続法5条は、さらに進んで、審査基準を定め、行政上特別の支障があるときを除いて、公にしておくことを求めています。次に、判断の理由。申請を拒否する処分には、8条が、理由を同時に示すことを求めています。言い分を聴く機会が今の聴聞に引き継がれたと考えるなら、気をつけてください。行政手続法の聴聞や弁明の機会の付与は、13条で、不利益処分の手続です。そして、個人タクシー型の、申請を拒否する処分は、不利益処分の定義から除かれています。2条4号のロです。つまり、申請を拒否する処分には、聴聞も弁明も、行政手続法には用意されていません。事件で出てきた聴聞は、行政手続法ができるずっと前に、役所が申請人から事情を聴いた手続で、今の行政手続法の聴聞とは別のものです。この対応は、行政手続法の回で詰めます。基準を設けて公にする部分は、条文になりました。一方、手続に瑕疵があったとき処分の取消しにつながるか、という問題は、判例の議論として残っています。
図:つまずきどころ
- 1 手続的審査は結論の当否を審査するのではない
- 手続を踏めば結論は問われないという意味でもない
- 2 手続に瑕疵があれば常に取消しか=別の問題・判決も「異なる判断に到達する可能性がなかったとはいえない」と述べた
- 3 過程の審査と手続の審査は別
つまずきどころは三点です。一点目、手続的審査は、結論が妥当かを審査するものではありません。かといって、手続さえ踏めば結論は問われない、という意味でもありません。結論は、結果の審査や過程の審査の対象として残ります。二点目、手続に瑕疵があれば、いつも取消しになるのか。これは別の問題です。個人タクシー事件でも判決は、機会を与えて結果をしんしゃくしていれば、異なる判断に到達する可能性がなかったとは言えない、という言い方をしたうえで、却下処分を違法としました。手続の瑕疵と取消しの関係は、手続の瑕疵の回で扱います。三点目、過程の審査と手続の審査は別です。手順が整っていても、道筋が壊れていれば、過程の審査で問題になります。
裁量処分の違法を論じる場面では、論文で論点になりうるところです。
今日の地図(保存版)
図:今日の整理
- 最善を尽くしたか=行為規範と裁判規範
- 濃さ=言葉でなく処分の性質・権利の重さ・任せ方
- 手続的審査=結論でなく決め方の公正さ
冒頭の問いに答えます。裁判所が見るのは、結果が最善だったかではなく、最善を尽くしたと言える決め方だったかです。そして手続を見る審査は、道筋の点検とは別で、結論や道筋の中身ではなく、決めるまでに踏むべき手続を踏んだかを見ます。道筋を見るのと、手続を見るのは、どこで分かれるんでしょうか。見る対象です。道筋の審査は、行政庁が何を考え、何を考えなかったかという、考えの中身を見ます。手続の審査は、言い分を聴く機会や基準の設定のような、決めるまでの手順を見ます。手順が整っていても考えの中身が壊れていれば過程の審査の問題になり、考えの中身に問題が無くても手順が不公正なら手続の審査の問題になります。持ち帰りの三点を確認します。一点目は濃さです。同じ言葉でも、深さは処分の性質や権利の重さで決まります。二点目は、最善を尽くしたかです。裁判所は、結果が最善かを決め直さず、最善を尽くしたと言えない事情を見ます。三点目は手続的審査です。結論ではなく、決め方の公正さを見る、3つ目の手法です。
図:今日の短答の誤り肢
- 同じ言葉を使う判決は同じ深さで審査される〔誤り〕
- 裁判規範とは選んだ結果が最善かを裁判所が決め直すことである〔誤り〕
- 個人タクシー事件は審査基準を申請人に示す義務を認めた〔誤り〕
- 個人タクシー事件の機会付与は行政手続法の聴聞に引き継がれた〔誤り〕
- 手続的審査は処分の結論が妥当かを審査する〔誤り〕
- 過程の審査と手続の審査は同じものである〔誤り〕
最後に、短答の誤り肢です。同じ言葉を使う判決は、同じ深さで審査される、は誤りです。深さを決めるのは、言葉ではなく、処分の性質や権利の重さ、任せ方です。裁判規範とは、選んだ結果が最善かを裁判所が決め直すことである、も誤りです。最善を尽くしたと言えない事情があるかを見ます。個人タクシー事件は、審査基準を申請人に示す義務を認めた、も誤りです。求められたのは、必要な事項についての主張と証拠の機会です。その機会付与が行政手続法の聴聞に引き継がれた、も誤りで、申請の拒否は、聴聞の対象になる不利益処分から除かれています。手続的審査は、処分の結論が妥当かを審査する、も誤りです。結論の当否とは別の次元で、踏むべき手続を踏んだかを見ます。過程の審査と手続の審査は同じものである、も誤りです。手順が整っていても、道筋が壊れていれば、過程の審査で問題になります。次は、行政庁が自分で定める裁量基準、つまり審査基準や処分基準が、裁判でどう扱われるかを見ます。