行政法ゼロから行政法#61

裁量統制の基準①(事実誤認・目的違反・信義則・平等原則)

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第5章 行政裁量 #61/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

裁量があると言われたら、もう争えないのか

裁量があっても争えるのか(裁量が広い処分でも違法になることがある/役所の判断のどこが壊れたら取り消せるのか/今日の問い) 図:裁量があっても争えるのか

  • 裁量が広い処分でも違法になることがある
  • 役所の判断のどこが壊れたら取り消せるのか
  • 今日の問い

争えます。裁量があることと、何をしても適法であることは、別の話です。今回は、裁量が認められた処分でも違法になるのは、判断のどこが壊れたときか、を見ます。先に答えを言うと、壊れ方は大きく4つに分けられます。判断の土台にした事実が違っていた。向かった目的が別だった。過去の経緯を無視した。他の人との並びを崩した。この4つです。順に、判決で確かめます。その前に、道具を2つ用意します。1つは、行政事件訴訟法30条の言葉です。もう1つは、社会観念上著しく妥当を欠く、という物差しの読み方です。前回、この物差しの中身は後で、と言いました。今回がその前半です。

今日の持ち帰り(1 逸脱と濫用の意味と判例の決まり文句の読み方/2 裁量を統制する手法の地図/3 判断のどこが壊れたかを見分ける4つの基準) 図:今日の持ち帰り

  • 1 逸脱と濫用の意味と判例の決まり文句の読み方
  • 2 裁量を統制する手法の地図
  • 3 判断のどこが壊れたかを見分ける4つの基準

持ち帰るものは3つです。1つ目は、逸脱と濫用の意味と判例の決まり文句の読み方。2つ目は、統制の手法の地図。3つ目が4つの壊れ方を見分ける目です。丸暗記は要りません。役所の判断は、事実を土台にして、目的に向かい、過去の経緯と他の人との並びを見ながら決まります。この流れのどこで壊れたかを問えば、4つは自然に出てきます。

逸脱と濫用——30条の言葉

設例ノの当事者(A=町長/B=屋台を出す営業者/C=別の屋台の営業者/条例〔実在の条例ではない仮定〕「町長は、屋外で飲食物を販売する者が町の衛生の基準に違反したときは、30日以内の期間を定めて営業の停止を命ずることができる」) 図:設例ノの当事者

  • A=町長
  • B=屋台を出す営業者
  • C=別の屋台の営業者
  • 条例〔実在の条例ではない仮定〕「町長は、屋外で飲食物を販売する者が町の衛生の基準に違反したときは、30日以内の期間を定めて営業の停止を命ずることができる」

設例ノで考えます。実在しない仮定の事例です。町の条例が、屋外で飲食物を販売する者が町の衛生の基準に違反したときは、町長は30日以内の期間を定めて営業の停止を命ずることができる、と定めています。町長がA、屋台を出すのがB、別の屋台がCです。停止を命じるかどうかも、何日にするかも、町長の判断に任されています。つまり効果裁量があります。ここまでは、前回までの内容です。そのうえで、裁量処分を裁判所がどこまで取り消せるのか。前に、裁判所が自分で選び直す判断代置と、逸脱・濫用だけを見るしかたの、2つを比べました。後者の根拠が、この条文です。

条文行政事件訴訟法30条

行政事件訴訟法第30条 行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。

逸脱と濫用(逸脱=客観的に法の定める範囲を超える/濫用=範囲の中でも法が裁量を認めた趣旨・目的に合わない使い方/設例ノ:45日の停止=上限30日を超える逸脱/20日でも衛生と無関係な目的で使えば濫用) 図:逸脱と濫用

  • 逸脱=客観的に法の定める範囲を超える
  • 濫用=範囲の中でも法が裁量を認めた趣旨・目的に合わない使い方
  • 設例ノ:45日の停止=上限30日を超える逸脱
  • 20日でも衛生と無関係な目的で使えば濫用

条文の読み方です。裁量処分は、裁量権の範囲をこえるか、その濫用があった場合に限って、取り消せます。限り、がポイントです。裏から言えば、範囲の中で、濫用もなければ、取り消せません。取消しは、枠を踏み外したときに限られます。範囲の中の当・不当は、第5章の最初の回で見たとおり、取消訴訟ではなく、不服申立てなどで正す話です。範囲をこえることを、逸脱と言います。客観的に、法の定める範囲を超えている状態です。濫用は、範囲の中にあるようでも、法が裁量を認めた趣旨や目的に合わない使い方をした状態です。設例ノで確かめます。条例の上限は30日です。Aが45日の停止を命じたら、幅の外に出ていますから逸脱です。では20日ならよいのか。20日は幅の中です。それでも、Bが町長選で対立候補を応援したことへの報復として命じたのなら、衛生という趣旨から外れた使い方ですから、濫用です。第5章の最初の回で見た、町長選の例と同じ形です。

条例が書いた上限を超えるのは、法の枠を直接に破っていますから、逸脱の分かりやすい例です。ただ、実際の争いの中心は、条例の内側で、停止するかどうか、何日にするかを選ぶ場面です。今回の4つの壊れ方も、その内側の統制を扱います。答案で逸脱と濫用を書き分ける必要はありません。どちらに当たっても、取り消せるという効果は同じだからです。判例も、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した、と並べて使い、2つを区別していません。答案では、裁量権の逸脱・濫用、とひとまとめに書けば足ります。

⭐ 論文で書く規範:解釈(一般的な整理):逸脱=客観的に法の定める範囲を超えること。濫用=範囲の中でも、法が裁量を認めた趣旨・目的に合わない使い方をすること。判例は両者を区別せず「裁量権の逸脱又は濫用」と並べて判断するので、答案ではひとまとめでよい (短答・論文共通)

判例の決まり文句——社会観念審査

2つの決まり文句(全く事実の基礎を欠く=土台の事実が無い/社会観念上〔社会通念上〕著しく妥当を欠く=評価の水準/どちらも裁量権の逸脱・濫用が認められる場合の言い方/社会観念=社会通念=世間の常識) 図:2つの決まり文句

  • 全く事実の基礎を欠く=土台の事実が無い
  • 社会観念上〔社会通念上〕著しく妥当を欠く=評価の水準
  • どちらも裁量権の逸脱・濫用が認められる場合の言い方
  • 社会観念=社会通念=世間の常識

判例には、裁量処分が違法になる場面を示す決まり文句が、2つあります。1つ目は、全く事実上の根拠に基かない、つまり、全く事実の基礎を欠く。2つ目は、社会観念上著しく妥当を欠く。言葉の確認です。社会観念と社会通念は、判決によって言葉が違うだけで、同じ種類の物差しです。世間の常識、くらいに受け取ってください。2つが並ぶ代表的な判決を読みます。大学の学生に対する懲戒処分の事件で、退学処分が争われました。最高裁は、懲戒権者、つまり処分を決める権限を持つ学長の裁量を認めるとき、こう述べました。

判例最判昭29・7・30 民集8巻7号1501頁

学生の懲戒処分の判旨 学生の行為に対し、懲戒処分を発動するかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶかを決定することは、その決定が全く事実上の根拠に基かないと認められる場合であるか、もしくは社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、懲戒権者の裁量に任されているものと解するのが相当である。

判旨の読み方(懲戒処分をするか・どの処分を選ぶかは懲戒権者の裁量/ただし次の場合は除く:全く事実上の根拠に基かない場合/もしくは社会観念上著しく妥当を欠き裁量権の範囲を超える場合/=どちらか一方に当たれば裁量の外) 図:判旨の読み方

  • 懲戒処分をするか・どの処分を選ぶかは懲戒権者の裁量
  • ただし次の場合は除く:全く事実上の根拠に基かない場合
  • もしくは社会観念上著しく妥当を欠き裁量権の範囲を超える場合
  • =どちらか一方に当たれば裁量の外

構造を読みます。原則は、懲戒するかどうか、どの処分にするかは、懲戒権者の裁量に任される。ただし、を除く、という形です。除かれるのは、全く事実上の根拠に基づかない場合、もしくは、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を超える場合です。ここで1問です。この2つの文句は、両方に当たらなければ違法にならないのでしょうか、それともどちらか一方に当たれば足りるのでしょうか?2つの文句は、どちらか一方に当たれば足りる、選択的な関係です。1つ目は土台の話で、処分を支える事実上の根拠が全く無いかを問います。2つ目は評価の水準の話で、事実はあるとして、そこから導いた処分が世間の常識から見て著しくおかしくないかを問います。見ている場所が違うので、どちらかに当たれば裁量の外です。

学生の懲戒処分の結論(退学処分は学長の裁量権の範囲内の行為/原審の判断は正当/上告棄却=退学処分は適法/理由づけ:学内の事情に通じ、直接教育に当たる者に任せなければ適切な結果を期することができない/同日の別判決〔民集8巻7号1463頁〕:「懲戒処分が全く真実の基礎を欠くものであるかどうかの点は、裁判所の審判権に服すべきことは当然である」) 図:学生の懲戒処分の結論

  • 退学処分は学長の裁量権の範囲内の行為
  • 原審の判断は正当
  • 上告棄却=退学処分は適法
  • 理由づけ:学内の事情に通じ、直接教育に当たる者に任せなければ適切な結果を期することができない
  • 同日の別判決〔民集8巻7号1463頁〕:「懲戒処分が全く真実の基礎を欠くものであるかどうかの点は、裁判所の審判権に服すべきことは当然である」

この事件の結論は、退学処分は学長の裁量権の範囲内で、適法でした。理由づけは、学内の事情に通じて直接教育に当たる者に任せなければ、適切な結果を期することができない、という趣旨です。同じ日の別の判決では、懲戒処分が全く真実の基礎を欠くかどうかは、裁判所の審判権に服する、と述べて、事実の基礎を欠くとした原審を正当としています。土台の事実は、裁判所がきちんと見る。この点は、後で1つ目の壊れ方を見るときに使います。

社会観念審査(古典的な審査/裁判所は最小限しか踏み込まない=最小限審査/見るのは明らかな行き過ぎ/判断代置はしない/設例ノ:自分なら7日と思っても10日の停止は取り消せない) 図:社会観念審査

  • 古典的な審査
  • 裁判所は最小限しか踏み込まない=最小限審査
  • 見るのは明らかな行き過ぎ
  • 判断代置はしない
  • 設例ノ:自分なら7日と思っても10日の停止は取り消せない

この2つの決まり文句を物差しにした審査を、社会観念審査と呼びます。裁判所が最小限しか踏み込まない、古典的な審査で、最小限審査とも言われます。設例ノで考えます。Bの違反が小さな衛生違反で、Aが10日の停止を命じたとします。裁判所が、自分なら7日にした、と思っても、それだけでは取り消せません。裁判所は選び直さない。前回の税関職員の懲戒免職の判決で読んだ、判断代置をしない、という考え方です。見るのは、10日の停止が、世間の常識から見て明らかな行き過ぎか、だけです。最小限しか見ないのなら、裁判所に持ち込んでも勝てないんじゃないですか。勝てないわけではありません。最小限というのは、見る点を絞る、という意味です。次の4つの壊れ方は、その絞った見方の中で、裁判所がはっきり踏み込める入口です。土台が崩れている。目的が違う。経緯が無視されている。並びが崩れている。どれも、世間の常識から見て説明がつきにくい壊れ方です。

近年の最高裁(懲戒免職・退職手当の全部不支給で、原審は処分を違法としたが最高裁が破棄し処分を適法とした例/市の課長の飲酒運転等・退職手当の全部不支給〔最判令6・6・27 集民271号129頁〕/バス運転手の運賃着服・退職手当の全部不支給〔最判令7・4・17〕/消防職員の懲戒免職〔最判令7・9・2〕) 図:近年の最高裁

  • 懲戒免職・退職手当の全部不支給で、原審は処分を違法としたが最高裁が破棄し処分を適法とした例
  • 市の課長の飲酒運転等・退職手当の全部不支給〔最判令6・6・27 集民271号129頁〕
  • バス運転手の運賃着服・退職手当の全部不支給〔最判令7・4・17〕
  • 消防職員の懲戒免職〔最判令7・9・2〕

古い審査だから、今は使われない、ということもありません。近年の最高裁は、公務員の懲戒免職や、退職手当を全部支給しない処分について、原審が違法とした判断を破棄して、処分を適法とした例が続いています。市の課長の飲酒運転の事件や、バスの運転手が運賃を着服した事件が、板に載せた例です。消防職員の懲戒免職の事件は、判旨を読みます。消防長が、部下の消防職員を免職にした事件です。免職を受けた職員が、被上告人です。事案は、この職員が部下に、鉄棒に掛けたロープでの懸垂や宙づり、人格を否定する発言などを、十数年にわたって繰り返したというものです。

判例最判令7・9・2 民集79巻6号2453頁

消防職員の懲戒免職の判旨(基準) 公務員に対する懲戒処分について、懲戒権者は、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をするか否か、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となるものと解される……

近年の判旨の読み方(懲戒権者は、懲戒するか・どの処分を選ぶかの裁量権を有する/その判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱・濫用と認められる場合に違法/決まり文句は今も同じ形) 図:近年の判旨の読み方

  • 懲戒権者は、懲戒するか・どの処分を選ぶかの裁量権を有する
  • その判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱・濫用と認められる場合に違法
  • 決まり文句は今も同じ形

基準の部分は、さきほどの学生の事件や、前回の税関職員の判決と、同じ形をしています。結論の部分です。

判例最判令7・9・2 民集79巻6号2453頁

消防職員の懲戒免職の判旨(結論) 被上告人に対する処分として免職を選択した消防長の判断が、社会観念上著しく妥当を欠くものであるとはいえず、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。

近年の判旨の結論(原審:免職は「重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なもの」/最高裁:「原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある」→原判決中上告人敗訴部分を破棄・第1審の該当部分を取り消して請求を棄却=免職は適法/同日の別判決〔停職6月〕は出典のみ) 図:近年の判旨の結論

  • 原審:免職は「重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なもの」
  • 最高裁:「原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある」→原判決中上告人敗訴部分を破棄・第1審の該当部分を取り消して請求を棄却=免職は適法
  • 同日の別判決〔停職6月〕は出典のみ

原審は、免職を重きに失するとして違法としました。最高裁は、原審の判断には裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるとして、その部分を破棄し、請求を棄却しました。免職は適法です。下級審が考慮すべき事情の評価を誤って重すぎると判断すれば、最高裁が破棄する。裁量のある処分に対する審査が、今も生きている実際の姿です。

⭐ 論文で書く規範:解釈(判例):裁量処分は、判断が全く事実上の根拠に基づかない場合、又は社会観念(社会通念)上著しく妥当を欠く場合に、裁量権の逸脱・濫用として違法になる(選択的)。裁判所は判断を置き換えず、明らかな行き過ぎだけを見る(社会観念審査=最小限審査) (短答・論文共通)

統制の手法の地図——結果・過程・手続

統制の手法の地図(1 結果に着目して実体的な違法を類型化する=この回と次の回/2 判断に至る過程の合理性を見る=判断過程審査/3 手続を見る=手続的審査/裁量の広さや判断の性質に応じて使い分けられる) 図:統制の手法の地図

  • 1 結果に着目して実体的な違法を類型化する=この回と次の回
  • 2 判断に至る過程の合理性を見る=判断過程審査
  • 3 手続を見る=手続的審査
  • 裁量の広さや判断の性質に応じて使い分けられる

4つの壊れ方に入る前に、裁量を統制する手法の地図を渡します。大きく3つです。1つ目は、結果に着目する方法です。処分の中身や、その土台に実体的な違法がないかを見て、違法の型を整理します。今回と、次の回が、この方法です。2つ目は、判断に至る過程を見る方法で、判断過程審査と呼ばれます。考慮すべき事項を考慮したか、といった道筋を追う型で、別の回で扱います。3つ目は、手続を見る方法です。理由の提示などがここに入ります。これも別の回です。まず、3つは見る場所が違います。結果は、出来上がった処分の中身を見ます。過程は、そこに至る考え方の道筋を見ます。手続は、決めるまでの手順を見ます。設例ノなら、20日という日数そのものが行き過ぎかを見るのが結果、日数を決めるときに考えるべき事情を考えたかを見るのが過程、停止の理由を示したかを見るのが手続です。そのうえで、専門的な判断のように、裁判所が中身の当否に踏み込みにくい場面ほど、道筋や手順を見る方法が頼りになります。使い分けが、裁量の広さや判断の性質に応じて、と言われるのは、このためです。今回の4つは、結果の側から、どこが壊れたかを整理する型だ、と持っておいてください。

壊れ方1 土台の事実が違う——事実誤認

設例ノ①(Aは3件の苦情を理由にBへ停止を命令/場合1 3件とも別の屋台の件でBとは無関係/場合2 3件のうち2件が別の屋台の件で停止の決め手がその2件/場合3 3件ともBの件だが苦情の日付が1つ違った) 図:設例ノ①

  • Aは3件の苦情を理由にBへ停止を命令
  • 場合1 3件とも別の屋台の件でBとは無関係
  • 場合2 3件のうち2件が別の屋台の件で停止の決め手がその2件
  • 場合3 3件ともBの件だが苦情の日付が1つ違った

1つ目の壊れ方は、土台の事実が違う、です。前に、事実の基礎を欠く、という言い方は、事実の認定に裁量を認めた言葉ではない、と整理しました。事実があったかどうかは、証拠で決まりますから、裁判所が自分で認定します。そこに裁量はありません。見るのは、行政庁が土台にした事実と、裁判所が認定した事実が、どれだけずれているかです。設例ノで、Aは、3件の苦情を理由に、Bへ停止を命じたとします。場合分けで線を引きます。場合1。3件とも、別の屋台の件で、Bとは無関係でした。土台が丸ごと無いので、全く事実の基礎を欠く、に当たります。近年の判決は、土台の肝心な部分を欠く場合を、重要な事実の基礎を欠く、と言います。場合1は、こちらにも当たります。場合2。3件のうち2件が別の屋台の件で、停止の決め手になったのが、その2件でした。残る1件は本当にBの件です。事実上の根拠が一部残っていますから、全く、とまでは言えません。でも、判断の肝心な土台は崩れていますから、重要な事実の基礎を欠く、とは言えます。場合3。3件ともBの件ですが、苦情の日付が1つ違っていました。違いは、判断に響かない細部です。重要な事実の基礎を欠くとは言えず、これだけでは違法と言えません。ここで1問です。場合2のように、3件のうち2件が別の屋台の件だったとき、全く事実の基礎を欠く、と言えるでしょうか?

場合2は、全く事実の基礎を欠く、とは言えません。全く、という言い方は、事実上の根拠がほんの少しでも残れば当たりません。そこで、土台の肝心な部分が崩れた場合も拾える、重要な、という後の言い方が出てきます。

公立中学校の体育館等の使用不許可の事件(市教委が不許可/原審は不許可を裁量権の逸脱とした/審査の段落:判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、重要な事実の基礎を欠くか又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合に限って違法) 図:公立中学校の体育館等の使用不許可の事件

  • 市教委が不許可
  • 原審は不許可を裁量権の逸脱とした
  • 審査の段落:判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、重要な事実の基礎を欠くか又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合に限って違法

公立中学校の体育館などの使用を、市の教育委員会が不許可にした事件です。最高裁は、裁量権の行使が逸脱濫用に当たるかの審査について、こう述べました。

判例最判平18・2・7 民集60巻2号401頁

公立中学校の体育館等の使用不許可の判旨(審査の基準) その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては,その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で,その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し,その判断が,重要な事実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って,裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものと解するのが相当である。

言い回しの比べ(学生の判決:全く事実上の根拠に基かない/体育館の判決:重要な事実の基礎を欠く/どちらも選択的:事実の基礎を欠くか、又は水準が著しく妥当を欠く/結論:不許可処分を裁量権の逸脱とした原審の判断を結論において是認〔上告棄却=不許可は違法〕) 図:言い回しの比べ

  • 学生の判決:全く事実上の根拠に基かない
  • 体育館の判決:重要な事実の基礎を欠く
  • どちらも選択的:事実の基礎を欠くか、又は水準が著しく妥当を欠く
  • 結論:不許可処分を裁量権の逸脱とした原審の判断を結論において是認〔上告棄却=不許可は違法〕

読みます。ここでも、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認められる場合に限って、違法になります。選択的な形は、学生の判決と同じです。変わったのは1つ目で、全く事実上の根拠に基かない、が、重要な事実の基礎を欠く、になりました。判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないか、という部分は、審査のもう1つの型です。今回は触れません。この事件の結論は、不許可処分を裁量権の逸脱とした原審の判断を是認する、というもので、不許可は違法でした。

都市計画の変更の判決(最判平18・11・2 民集60巻9号3249頁/「その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合」/高架式の採用は適法) 図:都市計画の変更の判決

  • 最判平18・11・2 民集60巻9号3249頁
  • 「その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合」
  • 高架式の採用は適法

都市計画の変更が争われた事件でも、最高裁は同じ系統の言い方を使いました。基礎とされた重要な事実に誤認があること等により、重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、という形です。こちらは、結論としては適法でした。詳しくは別の回で扱います。全く、と、重要な、を比べると、後の言い方のほうが、当たる場面は広い、と言えます。全く欠く場合は、重要な部分を欠く場合に含まれると考えられますから、重要な、のほうが当たる場面は広い、と整理できます。ただし、学説では、後の言い方のほうが審査が濃い、つまり裁判所がより深く踏み込む、と評価する見方もあれば、実質は変わらないとする見方もあります。判決自身が濃さの違いを述べたわけではありません。ここでは、言い回しが違う、という点までを確実に持っていってください。

⭐ 論文で書く規範:解釈(判例):処分の土台にした事実が誤っていれば、裁量権の逸脱・濫用として違法になる。昭和の判決は「全く事実上の根拠に基かない」場合を挙げ、近年の判決は「重要な事実の基礎を欠く」場合を挙げる(言い回しの違い) (短答・論文共通)

壊れ方2 向かう目的が違う——目的違反・動機違反

設例ノ②(Bの氷の保管に軽い衛生違反は本当にある/Aは先の町長選でBが対立候補を応援したことへの報復として20日の停止を命令/名目は衛生・本当の動機は報復/条例が停止の権限を与えた目的=衛生の確保) 図:設例ノ②

  • Bの氷の保管に軽い衛生違反は本当にある
  • Aは先の町長選でBが対立候補を応援したことへの報復として20日の停止を命令
  • 名目は衛生・本当の動機は報復
  • 条例が停止の権限を与えた目的=衛生の確保

2つ目の壊れ方です。設例ノで、Bに軽い衛生違反があったことは本当でした。他の屋台なら注意で済む程度の違反です。ところがAは、先の町長選でBが対立候補を応援したことへの報復として、20日の停止を命じたとします。違反の事実はあり、20日は条例の幅の中です。それでも、これは許されません。悪いのは、向かった先です。条例が停止の権限を町長に与えたのは、衛生を確保するためです。報復のために使うのは、権限を与えた目的とは別の目的で使うことで、目的違反と言います。名目は衛生で、本当の動機が別にある、という面を取り出して、動機違反と呼ぶこともあります。30条のところで見た、幅の中の日数であっても濫用に当たる、という形と同じです。裁量は、目的のために与えられた幅です。目的を外れた使い方は、幅の外に出たのと同じことになります。

内心をどう見るか(動機は内心で直接は見えない→客観的な事情から推す:時期=選挙の直後か/同じ違反の他の屋台の扱い/停止しなければならない衛生上の必要性があったか/町の説明に食い違いはないか/問われるのは主たる動機) 図:内心をどう見るか

  • 動機は内心で直接は見えない→客観的な事情から推す:時期=選挙の直後か
  • 同じ違反の他の屋台の扱い
  • 停止しなければならない衛生上の必要性があったか
  • 町の説明に食い違いはないか
  • 問われるのは主たる動機

動機は人の内心ですから、直接は見えません。裁判所は、客観的な事情から推します。時期が選挙の直後か。同じ違反の他の屋台は、どう扱われたか。停止しなければならない衛生上の必要性が、あったか。町の説明に食い違いがないか。こうした事情を積み重ねて、主たる動機がどこにあったかを認定します。町長がBに反感を持っていた、というだけで、直ちに違法になるわけではありません。処分が衛生の目的で十分に説明できるなら、話は別です。問われるのは、主たる動機が目的の外にあったかどうかです。

分限処分の判決(公立小学校長の降任/地方公務員法28条=分限処分の根拠条文/前の文:「地方公務員法二八条所定の分限制度は、公務の能率の維持およびその適正な運営の確保の目的から同条に定めるような処分権限を任命権者に認めるとともに、他方、公務員の身分保障の見地からその処分権限を発動しうる場合を限定したものである」) 図:分限処分の判決

  • 公立小学校長の降任
  • 地方公務員法28条=分限処分の根拠条文
  • 前の文:「地方公務員法二八条所定の分限制度は、公務の能率の維持およびその適正な運営の確保の目的から同条に定めるような処分権限を任命権者に認めるとともに、他方、公務員の身分保障の見地からその処分権限を発動しうる場合を限定したものである」

目的違反を示す一般論を、判決で確かめます。公立小学校の校長を降任にした事件です。降任のような、公務員の身分に関する不利益な処分を、分限処分と言います。根拠は地方公務員法28条です。この分限制度は、公務の能率の維持と適正な運営の確保という目的から、処分権限を、職員を任命する権限を持つ任命権者に認める一方、公務員の身分保障の見地から、権限を発動できる場合を限定したものだ、というのが、判決の前の文です。そのうえで、こう述べました。

判例最判昭48・9・14 民集27巻8号925頁

公立小学校長の降任の判旨(「同条」は地方公務員法28条) 同条に基づく分限処分については、任命権者にある程度の裁量権は認められるけれども、もとよりその純然たる自由裁量に委ねられているものではなく、分限制度の上記目的と関係のない目的や動機に基づいて分限処分をすることが許されないのはもちろん、処分事由の有無の判断についても恣意にわたることを許されず、……

判旨の読み方と結論の向き(任命権者に裁量はあるが純然たる自由裁量ではない/制度の目的と関係のない目的や動機で処分することは許されない/恣意にわたることも許されない/この事件の結論:原審の判断には「裁判所のなすべき審査判断の範囲を超えて処分庁の裁量の当否に立ち入つた違法がある」→原判決を破棄・広島高裁へ差戻し〔目的違反を認めた事件ではない〕) 図:判旨の読み方と結論の向き

  • 任命権者に裁量はあるが純然たる自由裁量ではない
  • 制度の目的と関係のない目的や動機で処分することは許されない
  • 恣意にわたることも許されない
  • この事件の結論:原審の判断には「裁判所のなすべき審査判断の範囲を超えて処分庁の裁量の当否に立ち入つた違法がある」→原判決を破棄・広島高裁へ差戻し〔目的違反を認めた事件ではない〕

一般論として押さえるのは、2点です。分限制度の目的と関係のない目的や動機で処分することは許されない。処分事由の有無の判断も、恣意にわたってはならない。裁量は純然たる自由ではない、ということです。注意があります。この事件の結論は、目的違反を認めたものではありません。原審が、裁判所のなすべき審査の範囲を超えて、処分庁の裁量の当否に立ち入ったとして、最高裁は原判決を破棄して差し戻しました。カードは、目的違反の型を確かめるための一般論の部分です。続く、考慮すべき事項を考慮したか、という部分は、判断過程の話で、別の回で扱います。

生活保護の事件の傍論(最大判昭42・5・24 民集21巻5号1043頁/主文:原告の死亡で訴訟終了/そのあと「念のため」付した意見:「現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によつて与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となることをまぬかれない」/傍論=結論を支える部分ではない) 図:生活保護の事件の傍論

  • 最大判昭42・5・24 民集21巻5号1043頁
  • 主文:原告の死亡で訴訟終了
  • そのあと「念のため」付した意見:「現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によつて与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となることをまぬかれない」
  • 傍論=結論を支える部分ではない

もう1つ、よく引かれる大法廷の判決があります。生活保護の基準が争われた事件で、本人が亡くなって訴訟が終わった、というのが主文でした。そのあとに、念のため述べた意見の中で、法の趣旨や目的に反して裁量の限界をこえれば、違法として司法審査の対象になる、という趣旨が語られています。傍論ですから、結論を支える部分ではありません。裁量の限界の語り方の出発点として引かれる、という位置づけです。

余目町の事件(児童遊園の設置認可/設置基準に適合していた/主たる動機は個室付浴場の開業を阻むこと/ほかに必要性が見当たらない/行政権の著しい濫用で違法/最判昭53・5・26 民集32巻3号689頁) 図:余目町の事件

  • 児童遊園の設置認可
  • 設置基準に適合していた
  • 主たる動機は個室付浴場の開業を阻むこと
  • ほかに必要性が見当たらない
  • 行政権の著しい濫用で違法
  • 最判昭53・5・26 民集32巻3号689頁

目的違反の有名な例は、以前に見た余目町の事件です。児童遊園の設置認可は、設置基準に適合していました。でも、主たる動機は、個室付浴場の開業を阻むことでした。基準を満たしていても、使い道が外れていれば濫用です。判決の言葉は、行政権の著しい濫用でした。前に見たとおり、裁量が乏しい処分なので、行政権の濫用の例として説明されることが多く、裁量権の濫用の例とみる整理もあります。ここでは、目的を外れた使い方、という形が、設例ノ②と同じだ、という点だけを確かめておきます。

⭐ 論文で書く規範:解釈(判例):制度の目的と関係のない目的や動機で処分をすれば、裁量権の濫用として違法になる(目的違反・動機違反)。主たる動機が目的の外にあったかは、時期・他の者への扱い・必要性の有無などの客観的な事情から認定する (短答・論文共通)

壊れ方3 過去の経緯を無視する——信義則違反

設例ノ③(Aは文書でBの設備を「衛生基準に適合」と確認/Bはそれを前提に設備を整えた/翌年Aは同じ設備を理由に停止を命令) 図:設例ノ③

  • Aは文書でBの設備を「衛生基準に適合」と確認
  • Bはそれを前提に設備を整えた
  • 翌年Aは同じ設備を理由に停止を命令

3つ目です。設例ノで、Aは、文書で、Bの設備は衛生の基準に適合している、と確認しました。Bは、それを前提に設備を整えて営業しました。翌年、Aは、同じ設備を理由に、停止を命じました。前に示した態度と矛盾しています。これが信義則の問題です。信義則とは、相手の正当な期待を裏切らない、という考え方です。前に見た信義則の問いは、役所の公的な見解の表示があったか、それを信じて行動したか、のちの処分で不利益を受けたか、でした。租税の場面では、法律による行政との関係で、慎重に考えるのでした。今回は、裁量処分の中で信義則が効く例を見ます。停止するかどうか、何日にするかを選ぶ裁量の行使で、自分が示した態度や、それを信頼した相手の事情を踏まえずに判断すれば、裁量の濫用になりえます。

公的見解の表示か(文書で組織として「基準に適合する」と回答=公的な見解の表示と言いやすい/窓口の雑談で担当者が「たぶん大丈夫でしょう」と言っただけ=信頼の対象になる公的な見解とは言いにくい/分かれ目=信頼に値する形が整っているか) 図:公的見解の表示か

  • 文書で組織として「基準に適合する」と回答=公的な見解の表示と言いやすい
  • 窓口の雑談で担当者が「たぶん大丈夫でしょう」と言っただけ=信頼の対象になる公的な見解とは言いにくい
  • 分かれ目=信頼に値する形が整っているか

境界も確かめます。文書で、組織として基準に適合すると確認した場合は、公的な見解の表示と言いやすいです。一方、窓口の雑談の中で、担当者が、たぶん大丈夫でしょう、と言っただけの場合は、信頼の対象になる公的な見解とは言いにくいです。信頼に値するだけの形が整っているか、が分かれ目です。役所が前に言ったことなら、何でも守られるんですか。何でもではありません。守ると法律に反してしまう場面、たとえば設備が基準そのものを満たしていない場面では、原則として通りません。法律による行政が優先するからです。信義則が効きやすいのは、どちらの扱いをしても法律に反しない場面、つまり裁量の場面です。もう1つ、型の違いがあります。今話したのは、役所の公的な見解を信じた私人を保護する型です。次の判例は、別の型です。行政庁自身が先にした処分の経緯から、後の処分で取るべき手順を信義則が求めた、という型です。どちらも、過去の経緯を無視しない、という点で束ねられます。

在留期間更新不許可の事件の流れ(日本人の配偶者として上陸→別居・出国準備のための短期の更新が続く→行政庁が本人の意に反して在留資格を「短期滞在」へ変更する申請があったものとして扱い許可→婚姻無効確認訴訟・婚姻は有効と確定→「短期滞在」の更新申請→確定後に不許可処分) 図:在留期間更新不許可の事件の流れ

外国人の在留期間の更新が不許可にされた事件です。流れを追います。この外国人は、日本人の配偶者として日本に入りました。その後、配偶者と別居し、出国の準備のための短期の更新許可が続きました。やがて行政庁は、日本人の配偶者としての活動に当たらないと判断し、本人の意に反して、在留資格を短期滞在に変更する申請があったものとして扱い、変更を許可しました。その後、配偶者から婚姻の無効確認の訴えが起こされましたが、婚姻は有効と確定しました。この外国人は短期滞在の更新を重ね、更新の申請をしました。ところが行政庁は、婚姻の有効が確定したあとで、これを不許可にしました。国が処分をした側で、この外国人は、被上告人です。最高裁の判断は、2段です。経緯から、信義則上どんな手順が要ったか。その手順を欠いたことが、裁量権の逸脱・濫用になるか。順に読みます。

判例最判平8・7・2 集民179号435頁

在留期間更新不許可の判旨(信義則) 少なくとも、被上告人の在留資格が「短期滞在」に変更されるに至った右経緯にかんがみれば、上告人は、信義則上、「短期滞在」の在留資格による被上告人の在留期間の更新を許可した上で、被上告人に対し、「日本人の配偶者等」への在留資格の変更申請をして被上告人が「日本人の配偶者等」の在留資格に属する活動を引き続き行うのを適当と認めるに足りる相当の理由があるかどうかにつき公権的判断を受ける機会を与えることを要したものというべきである。

判旨の読み方(変更に至った経緯にかんがみれば/信義則上、短期滞在の更新を許可したうえで/日本人の配偶者等への変更申請をして公権的判断を受ける機会を与えることを要した/変更許可の効力いかんは「さておくとしても」=効力は判断していない) 図:判旨の読み方

  • 変更に至った経緯にかんがみれば
  • 信義則上、短期滞在の更新を許可したうえで
  • 日本人の配偶者等への変更申請をして公権的判断を受ける機会を与えることを要した
  • 変更許可の効力いかんは「さておくとしても」=効力は判断していない

読み方です。行政庁は、変更に至った経緯を踏まえれば、信義則上、まず短期滞在の更新を許可して、そのうえで、日本人の配偶者等への変更申請をして、改めて公権的な判断を受ける機会を、外国人に与えなければならなかった、と言っています。なぜ経緯が効くのか。短期滞在に移したのは、本人の申請ではなく、行政庁自身の扱いでした。そのまま不許可にすれば、婚姻が有効と確定したのに、配偶者として在留を続けてよいかを正式に審査してもらう機会が、一度も無いまま終わってしまいます。判決は、変更許可の効力そのものは、さておくとして、と断っています。変更許可が有効か無効かは判断していません。経緯にかんがみて、機会を与えることを信義則が求めた、という筋です。結論の部分です。

判例最判平8・7・2 集民179号435頁

在留期間更新不許可の判旨(結論) 以上によれば、被上告人が平成三年七月六日にした在留期間の更新申請に対し、これを不許可とした本件処分は、右のような経緯を考慮していない点において、上告人がその裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものであるとの評価を免れず、本件処分を違法とした原審の判断は、結論において是認することができる。

平8・7・2の結論(不許可処分は違法/上告棄却=処分をした側の負け/信義則違反だけで違法としたのではなく、経緯を考慮していない点で「裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した」=裁量権の逸脱・濫用の中身として信義則上の機会付与の必要を使った) 図:平8・7・2の結論

  • 不許可処分は違法
  • 上告棄却=処分をした側の負け
  • 信義則違反だけで違法としたのではなく、経緯を考慮していない点で「裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した」=裁量権の逸脱・濫用の中身として信義則上の機会付与の必要を使った

結論は、不許可処分は違法です。処分をした側の上告は棄却されました。注意したいのは、書き方です。信義則違反と言い切って終わるのではなく、経緯を考慮していない点で、裁量権の範囲を逸脱し又は濫用した、と述べています。裁量権の逸脱・濫用の中身として、信義則上の機会付与の必要が使われているわけです。設例ノ③に引き寄せると、Aは、自分で文書の確認をした経緯を考慮しないまま、停止を命じています。この経緯の無視が、停止の裁量の濫用になる、という筋になります。

⭐ 論文で書く規範:解釈(判例):処分をする側が先に示した態度や、先にした処分の経緯を考慮せず、相手に不利益を及ぼす形で裁量を行使すれば、裁量権の逸脱・濫用として違法になりうる。信頼の対象になる公的な見解の表示があったか、先行する処分の経緯から手順を尽くす必要があったかが手がかりになる (短答・論文共通)

壊れ方4 他の人との並びを崩す——平等原則違反

設例ノ④(BとCは同じ程度の氷の保管の違反をした/Cは注意だけで済ませた/Bにだけ30日の停止を命令/町は理由を説明していない) 図:設例ノ④

  • BとCは同じ程度の氷の保管の違反をした
  • Cは注意だけで済ませた
  • Bにだけ30日の停止を命令
  • 町は理由を説明していない

4つ目です。設例ノで、BとCが、同じ程度の氷の保管の違反をしていました。町は、Cには注意だけで済ませ、Bにだけ30日の停止を命じました。理由の説明は、特にありません。ここで1問です。平等原則の回を思い出してください。他の人が違法に有利に扱われていたことを理由に、自分にも同じ扱いを求められるでしょうか?違法な扱いを同じにしてほしい、とは言えないんですよね。違法の平等は無い、でした。ここで問題にするのは、Cへの注意も、Bへの停止も、どちらも条例の幅の中の扱いだという場合です。だから、並びの崩れを問題にできます。問いは、Bを別扱いした理由が、停止の権限を与えた目的、つまり衛生の確保に沿っているか、です。逆に、Cへの注意のほうが違法に軽かっただけなら、Bは自分も注意に、とは言えません。違法な扱いを手本にはできないからです。

平等原則の判決(産米の供出割当の通知で、ある農家だけ別の手続・時期で通知された/行政庁は何等いわれがなく特定の個人を差別的に取り扱う自由を有しない/結論:事情を考えると差別とは言えず違法ではない・上告棄却) 図:平等原則の判決

  • 産米の供出割当の通知で、ある農家だけ別の手続・時期で通知された
  • 行政庁は何等いわれがなく特定の個人を差別的に取り扱う自由を有しない
  • 結論:事情を考えると差別とは言えず違法ではない・上告棄却

判例です。供出割当とは、戦後の食糧が足りない時期に、農家が国へ売り渡す米の量を割り当てたものです。産米の供出割当の通知で、ある農家だけが、他の農家と別の手続や時期で通知された、という事件です。最高裁は、行政庁の裁量権には限界がある、として、こう述べました。

判例最判昭30・6・24 民集9巻7号930頁

供出割当の判旨(平等原則) もつとも、かような場合においても、行政庁は、何等いわれがなく特定の個人を差別的に取り扱いこれに不利益を及ぼす自由を有するものではなく、この意味においては、行政庁の裁量権には一定の限界があるものと解すべきである。

判旨の読み方と結論(行政庁は何等いわれがなく特定の個人を差別的に取り扱う自由を有しない→ここに裁量の限界/この事件の結論:「被上告人が供出割当について上告人を前記の程度において区別して取り扱つたとしても、これをもつていわれのない差別取扱による違法処分というには当らず」→違法とはせず・上告棄却) 図:判旨の読み方と結論

  • 行政庁は何等いわれがなく特定の個人を差別的に取り扱う自由を有しない→ここに裁量の限界
  • この事件の結論:「被上告人が供出割当について上告人を前記の程度において区別して取り扱つたとしても、これをもつていわれのない差別取扱による違法処分というには当らず」→違法とはせず・上告棄却

一般論として、いわれのない差別なら違法になる、と述べた判決です。ただし、この事件の結論は、違法とはしませんでした。この農家を区別して扱ったとしても、いわれのない差別取扱いによる違法処分とは言えない、として、上告を棄却しています。処分を違法とした判決ではありません。結論の向きを取り違えると、短答の誤りの選択肢に引っかかりやすいところです。取り消された実例は少ない、ということですか。少ない、と整理されます。勝つには、比べる相手が本当に同じ事情だった、と示す必要があります。設例ノなら、BとCの氷の量、違反の回数、改善の有無まで同じだったかが争われます。行政は、個別の事情が違うと主張しやすいのです。

境界の例(Cの違反は一度きりですぐ改善・Bは3回目の違反で改善せず=扱いを分ける合理的な理由がある/同じ程度の違反・同じ回数・同じ改善なのにBだけ重い扱いで説明なし=合理的な理由が無く平等原則違反の筋) 図:境界の例

  • Cの違反は一度きりですぐ改善・Bは3回目の違反で改善せず=扱いを分ける合理的な理由がある
  • 同じ程度の違反・同じ回数・同じ改善なのにBだけ重い扱いで説明なし=合理的な理由が無く平等原則違反の筋

境界の例を置きます。Cの違反は一度きりで、すぐに改善した。Bは3回目の違反で、改善もしていない。これなら、Bを重く扱う合理的な理由があります。反対に、違反の程度も回数も改善の状況も同じなのに、Bだけ重く扱い、説明もない。これが、合理的な理由のない区別です。平等原則の使いどころがもう1つあります。役所が公にした処分基準と違う扱いをするには、特段の事情が要る、とした判決です。これは前に見ました。これで4つそろいました。土台、目的、経緯、並び。どれも、判断のどこが壊れたかを指さす基準です。

⭐ 論文で書く規範:解釈(判例):行政庁は、いわれなく特定の者を差別的に取り扱ってはならず、そこに裁量の限界がある。ただし、違法とされた実例は少ない。違法の平等は無い (短答・論文共通)

今日の地図(保存版)

4つの壊れ方の整理(土台の事実=事実誤認〔設例ノ① 苦情3件〕:学生の懲戒・体育館の使用不許可/向かう目的=目的違反・動機違反〔② 選挙の報復〕:分限処分・生活保護の傍論/過去の経緯=信義則違反〔③ 文書で適合と確認済み〕:在留期間更新の不許可/他の人との並び=平等原則違反〔④ 同じ違反なのにBだけ停止〕:供出割当) 図:4つの壊れ方の整理

  • 土台の事実=事実誤認〔設例ノ① 苦情3件〕:学生の懲戒・体育館の使用不許可
  • 向かう目的=目的違反・動機違反〔② 選挙の報復〕:分限処分・生活保護の傍論
  • 過去の経緯=信義則違反〔③ 文書で適合と確認済み〕:在留期間更新の不許可
  • 他の人との並び=平等原則違反〔④ 同じ違反なのにBだけ停止〕:供出割当

冒頭の問いに答えます。裁量が広いと言われた処分でも、争えます。裁量権の逸脱・濫用があれば、取り消せます。そして、その中身は、判断のどこが壊れたかで見つけられます。4つを、並べ直します。土台の事実が違えば、事実誤認。向かう目的が違えば、目的違反・動機違反。過去の経緯を無視すれば、信義則違反。他の人との並びを崩せば、平等原則違反です。どれも、世間の常識から見て著しく妥当を欠くかを、具体的に言い直したものです。判例の決まり文句は、全く事実上の根拠に基かない、つまり全く事実の基礎を欠く、と、社会観念上著しく妥当を欠く、の2つで、どちらか一方に当たれば足りました。1つ目は土台の話、2つ目は評価の水準の話です。審査は、裁判所が最小限しか踏み込まない社会観念審査で、判断を置き換えないのでした。統制の手法は、結果・過程・手続の3つです。今回は、結果の側の前半でした。

今日の短答の誤り肢(逸脱と濫用は答案で書き分けなければならない〔誤り〕/決まり文句の2つは両方に当たらなければ違法にならない〔誤り〕/社会観念審査で裁判所は自分ならどの処分かを考えて比べる〔誤り〕/供出割当の判決は差別的取扱いを理由に処分を違法とした〔誤り〕/在留期間更新の判決は不許可を適法とした〔誤り〕/消防職員の懲戒免職の判決は原審の違法判断を是認した〔誤り〕) 図:今日の短答の誤り肢

  • 逸脱と濫用は答案で書き分けなければならない〔誤り〕
  • 決まり文句の2つは両方に当たらなければ違法にならない〔誤り〕
  • 社会観念審査で裁判所は自分ならどの処分かを考えて比べる〔誤り〕
  • 供出割当の判決は差別的取扱いを理由に処分を違法とした〔誤り〕
  • 在留期間更新の判決は不許可を適法とした〔誤り〕
  • 消防職員の懲戒免職の判決は原審の違法判断を是認した〔誤り〕

最後に、短答の誤り肢です。逸脱と濫用は、答案で書き分けなければならない、は誤りです。判例は両者を区別していませんから、ひとまとめで足ります。全く事実上の根拠に基かない場合と、社会観念上著しく妥当を欠く場合の、両方に当たらなければ違法にならない、も誤りです。どちらか一方に当たれば足ります。社会観念審査で、裁判所は自分ならどの処分にするかを考えて、行政庁の処分と比べる、も誤りです。裁判所は選び直さず、著しく妥当を欠くかだけを見ます。供出割当の判決は、差別的な取扱いを理由に、処分を違法とした、も誤りです。一般論は述べましたが、その事件では違法とは言えないとして、上告を棄却しました。在留期間の更新を不許可にした判決は、不許可を適法とした、も誤りです。経緯を考慮していない点で、裁量権の逸脱・濫用にあたり、不許可は違法でした。消防職員の懲戒免職の判決は、原審の違法判断を是認した、も誤りです。最高裁は原審を破棄して、免職を適法としました。

参照条文

  • 行政事件訴訟法30条

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