判断過程審査①(専門機関の検討過程・原子炉・教科書検定・生活保護基準)
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第5章 行政裁量 #63/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
原子炉の安全を、裁判官は自分では決めない
図:今日の問い
- 原子炉は安全か
- 裁判官は自分では決めない
- では何を見て違法と言えるのか
- 見るのは結論ではなく、専門家たちの検討の道筋
裁判官は、原子炉が安全かどうかを、自分では決めません。それでも、許可を違法にすることはできます。決める代わりに、許可の土台になった専門家たちの検討を、たどり直すからです。今日の問いは、結論を自分で決めない裁判所が、何を見て違法と言えるのか、です。先に答えの形を言います。見るのは2つです。専門家が物差しにした基準そのものに、不合理な点がないか。そして、その基準に当てはめた検討に、見過ごせない誤りや抜けがなかったか。後者は、行政庁の判断がその誤りに乗っていれば、違法になります。
図:今日の持ち帰り
- 1 結果を見る審査と、道筋を見る審査の違い
- 2 専門機関の検討をたどる型の物差し〔原子炉設置許可〕
- 3 同じ型が教科書検定と生活保護基準にも使われている
- 4 この型の限界とつまずきどころ
前回までの審査を思い出してください。事実誤認、目的違反、信義則、平等、比例、人権。どれも、出来上がった処分の中身を見る物差しでした。今回は、その処分に至る道筋を見ます。持ち帰るものは4つです。結果を見る審査と、道筋を見る審査の違い。専門機関の検討をたどる型の物差し。その型が、原子炉のほかに、教科書検定と生活保護基準でも使われていること。そして、この型の限界と、つまずきやすい点です。
結果を見る審査と、道筋を見る審査
図:統制の手法の地図
- 1 結果=出来上がった処分の違法〔前回まで〕
- 2 過程=判断に至る道筋の合理性〔今日〕
- 3 手続=決めるまでの手順〔別の回〕
行政裁量を統制するときに見る場所は、3つに分かれます。1つ目は結果で、出来上がった処分の中身です。2つ目は過程で、そこに至る考え方の道筋です。そして3つ目は手続で、決めるまでの手順です。前回までが1つ目で、今日は2つ目です。この2つ目を、判断過程審査と呼びます。定義です。判断過程審査とは、行政庁が判断を形づくった過程に着目して、その合理性を審査する方法です。裁判所は、結論が正しいかを自分で決め直しません。結論に至る道筋に、おかしいところがないかを見ます。
図:設例の関係図
- A=市長
- B=専門委員会
- C=橋を使っていた住民
- BがAに答申→Aが老朽化した橋の通行を止める→Cが通行止めを争う
- 実在しない仮定の事例
自分で作った事例で、結果と過程の違いを確かめます。実在しない仮定の事例です。市長Aが、専門委員会Bの答申に基づいて、老朽化した橋の通行を止めました。橋を使っていた住民Cが、この通行止めを争います。
図:同じ通行止めを2つの見方で
- 結果を見る審査=止めた判断そのものが行き過ぎか
- 過程を見る審査=委員会Bの検討と、Aがそれに頼って決めたか
- 過程が壊れている例=点検の数値を古い計算方法のまま読んで答申
結果を見る審査は、止めた判断そのものが行き過ぎかを見ます。車だけを通れなくすれば足りるのに、歩行者まで止めていないか、期間が長すぎないか、といった点です。過程を見る審査は、委員会Bがどんな資料をどう検討して答申したか、市長Aがその答申に頼って決めたか、を見ます。過程が壊れている例を挙げます。委員会Bが、橋の点検で得た数値を、古い計算方法のまま読んで、危険だと答申したとします。市長Aは、その答申をそのまま土台にして通行を止めました。この場合は、止めた範囲が妥当かを論じる前に、検討の道筋が壊れています。
図:原型の判決
- 分限処分の4点=裁量はあるが純然たる自由裁量ではない
- 目的と関係のない目的・動機や恣意は許されない
- 考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮すれば違法〔道筋を見る出発点〕
- 許される限度を超えた不当も違法〔結果の側の言い方〕
- 呼び名=考慮不尽・他事考慮
この見方の原型になった判決を読みます。前々回、目的違反の型で前半を読んだ、地方公務員の分限処分の判決です。そのとき別の回に残した続きを、今日読みます。分限処分とは、公務員が職務に向かないときなどに、降任や免職をする処分で、非行への制裁である懲戒とは別のものです。この事件では、降任の処分が争われました。
判例最判昭48・9・14 民集27巻8号925頁
分限処分と任命権者の裁量 任命権者にある程度の裁量権は認められるけれども、もとよりその純然たる自由裁量に委ねられているものではなく、分限制度の上記目的と関係のない目的や動機に基づいて分限処分をすることが許されないのはもちろん、処分事由の有無の判断についても恣意にわたることを許されず、考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して判断するとか、また、その判断が合理性をもつ判断として許容される限度を超えた不当なものであるときは、裁量権の行使を誤つた違法のものであることを免れないというべきである。
4つに分けて読みます。1つ目、任命権者に裁量はあるが、それは純然たる自由裁量ではない。2つ目、分限制度の目的、つまり公務の能率を保ち、その適正な運営を確保するという目的と関係のない目的や動機は許されず、処分事由の有無の判断も、恣意にわたることは許されない。3つ目、考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して判断すれば違法になる。4つ目、判断が、合理性をもつものとして許される限度を超えた不当なものであるときも、違法です。ここで1問です。3つ目の、考慮すべき事項を考慮したか、という見方は、処分の結果を見ているでしょうか、それとも、結論に至る道筋を見ているでしょうか?
道筋だと思います。何を材料にして判断したかを見ていて、出来上がった処分の重さは見ていません。考慮すべき事項を考慮したか、は、判断に取り込んだ材料の選び方の話で、これが道筋を見る審査の出発点です。4つ目の、許される限度を超えた不当、は結果の側の言い方です。出来上がった判断が許される幅の外に出ているかを見ていて、どんな材料で判断したかは問うていないからです。なお、ここでの不当は、幅の外に出たという意味で、違法の側の言葉です。違法と不当を分けるときの不当とは向きが逆なので、気をつけてください。この判決には、両方が入っています。呼び名を2つだけ持っておいてください。考慮すべき事項を考慮しないことを考慮不尽、考慮すべきでない事項を考慮することを他事考慮と呼びます。もう1点、審査できる範囲です。許される限度の内側にある判断なら、もっとよい判断があったと言えても、それは不当の問題で、裁判所の審査には及びません。裁判所が見るのは、違法かどうかまでです。
図:道筋を見る審査の2つの型
- 型① 行政庁が頼った専門機関の検討をたどる〔今日〕
- 型② 行政庁自身が何を考慮し、どれだけ重く見たかをたどる〔次回〕
道筋を見る審査には、2つの型があります。1つ目は、行政庁が頼った専門機関の検討をたどる型です。審議会や委員会が検討して、行政庁がそれに基づいて決めた場面で使います。2つ目は、行政庁が自分で何を考慮して、何をどれだけ重く見たかをたどる型です。前々回、体育館の使用不許可の判決で、判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないか、という言い回しを、もう1つの型として残しました。あれは、この2つ目の型の言葉です。どちらも道筋を見るのに、なぜ型を分けるんですか。見る相手が違うからです。専門機関が間に入る場面では、裁判所が見る道筋の大半は、専門機関の検討の中にあります。行政庁が自分で材料を集めて比べた場面では、その行政庁の考え方そのものが道筋です。同じ道筋でも、たどる先が違うので、物差しの言葉も変わってきます。
⭐ 論文で書く規範:解釈(判例・講学上):判断過程審査は、結果ではなく、結論に至る過程の合理性を見る審査。原型は「考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して判断する」ことを違法とする言い回し。型は、専門機関の検討をたどる型と、行政庁自身の考慮をたどる型の2つ (短答・論文共通)
なぜ裁判所は自分で判断しないのか
図:専門技術的裁量の呼び戻し
- 判断代置=裁判所が自分の判断を行政庁の判断に置き換えること
- 将来の予測を含む高度な専門技術的判断では最初からそれをしない
- 審査は「不合理な点があるか」の形になる
型の1つ目に入る前に、一度思い出します。専門技術的裁量の回で見た、原子炉の許可の判決です。ここで1問です。原子炉の許可で、裁判所が安全性を最初から自分で判断しないのは、なぜだったでしょうか?将来の予測を含む、高度な専門技術的知見に基づく総合的な判断で、専門家の委員会の意見を尊重して行う行政庁の合理的な判断に、委ねる趣旨だから、でした。裁判所が最初から自分で答えを出し直す、判断代置をしないのでした。たとえば、何十年も先の地震に施設が持ちこたえるかを、裁判官が証拠を見て決め直すのは、向きません。ここで次の疑問が出ます。判断代置をしないなら、裁判所は何を見て、違法だと言えるのか。答えは、専門機関がどう検討したかという道筋と、その検討が拠り所にした物差しです。専門技術的裁量の回で、審査の仕方の中身は後の回で、と残しました。今回がその回です。
図:型①の構造
- A=行政庁
- B=専門機関
- C=裁判所
- BがAに検討結果を示す→AがBの検討に依拠して判断する→CがBの検討の過程をたどる→見過ごせない欠陥があり、Aの判断がそれに依拠していればAの判断が違法
型の1つ目の構造を図にします。専門機関Bが検討して、行政庁Aが、その検討に頼って判断します。裁判所Cは、Aの結論の当否を自分で決めるのではなく、Bの検討の過程をたどります。たどった先に、見過ごせない欠陥があり、Aの判断がそれに乗っていれば、Aの判断が違法になります。これが、この型の全体の形です。
原子炉設置許可——見るのは基準と検討の過程
図:判決当時の仕組み
- 周辺住民が内閣総理大臣の原子炉設置許可の取消しを求めた
- 原子力委員会・原子炉安全専門審査会が安全性を調査審議→総理大臣が許可
- 今は原子力規制委員会が許可し基準の書き方も変わっている
- 検討をたどる物差しの考え方は参照される
原子炉設置許可の判決、伊方原発訴訟です。周辺の住民が、内閣総理大臣による原子炉の設置許可の取消しを求めました。専門技術的裁量の回で断ったとおり、判決当時の仕組みで読みます。当時は、原子力委員会や原子炉安全専門審査会が、安全性を調査審議して、総理大臣が、それを基に許可をしました。今は、許可をするのは原子力規制委員会で、基準の書き方も変わっています。ただ、検討をたどる、というこの物差しの考え方は、新しい仕組みのもとでも参照されます。判旨を読みます。カードの、右の、は、前に述べた、という意味です。被告行政庁とは、許可をした行政庁のことです。
判例最判平4・10・29 民集46巻7号1174頁
原子炉設置許可の取消訴訟と審理の観点 以上の点を考慮すると、右の原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。
図:判旨の2段
- 出発点=専門機関の調査審議・判断を基にした行政庁の判断に不合理な点があるか
- 1つ目=現在の科学技術水準に照らし、調査審議で用いた具体的審査基準に不合理な点があるか〔基準そのもの〕
- 2つ目=基準に適合するとした調査審議・判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、行政庁の判断がこれに依拠してされたか〔当てはめの検討〕
- どちらかがあれば許可は違法
読みます。出発点は、専門的な調査審議と判断を基にした行政庁の判断に、不合理な点があるか、という観点で見る、です。そのうえで、違法になる場合が2つあります。1つ目は、現在の科学技術水準に照らして、調査審議で使われた具体的審査基準に、不合理な点がある場合です。そして2つ目は、その基準に原子炉が適合するとした調査審議と判断の過程に、看過し難い過誤、欠落があり、行政庁の判断がそれに依拠してされたと認められる場合です。どちらかがあれば、行政庁の判断に不合理な点があるとして、許可は違法になります。ここで1問です。基準そのものを疑うのは、1つ目と2つ目のどちらでしょうか?
図:2段の具体例(仮定の例)
- 1つ目=審査基準にずっと古い想定の数値を使っていた〔基準そのものの問題〕
- 2つ目=基準は適切だが、地盤の必要な調査結果を見落としたまま適合と判断した〔当てはめの検討の欠落〕
基準そのものを疑うのは、1つ目と2つ目のどちらか。1つ目です。2つ目は、基準はそのままにして、基準に当てはめた検討のほうを疑うものです。1つ目は物差しの段、2つ目は物差しを当てた段です。具体例で輪郭を見ます。仮定の例です。専門審査会が、地震への備えの審査基準として、ずっと古い想定の数値を使っていたとします。現在の科学技術水準から見て、その想定が不合理なら、基準そのものの問題で、1つ目です。次に、基準は適切だったとします。ところが審査会は、その基準に当てはめる際に、原子炉の敷地の地盤について、必要な調査結果を見落としたまま、適合だと判断しました。基準は疑っていません。当てはめの検討に抜けがあります。これが2つ目の、欠落です。
図:2つの絞り
- 看過し難い=適合の判断を左右する誤りや欠落
- 依拠=行政庁の判断が過誤のある検討を土台にしてされたと認められること
- 絞る理由=小さな傷のたびに違法にすれば裁判所が検討をやり直すことになる
- 本件の結論=適法の判断を是認し上告棄却
検討に少しでも誤りがあれば、その2つ目で違法になるんでしょうか。違います。2つの絞りがあります。1つ目の絞りは、看過し難い、です。審査会の報告書の言い回しの不備や、結論に関係のない細かな数値の誤りは、看過し難い過誤とは言いにくいでしょう。地盤の調査結果の見落としのように、適合の判断を左右する誤りや欠落が、これにあたると考えられます。2つ目の絞りは、依拠、です。過誤があるだけでは足りず、行政庁の判断が、その過誤のある検討を土台にしてされたと認められる必要があります。判旨の、依拠してされたと認められる場合、という文言から読めます。
どうして、そんなに絞るんですか。判断代置をしないと決めた以上、専門家の検討に小さな傷があるたびに違法にしていくと、実質的には、裁判所が検討をやり直すことになってしまうからです。だから、結論を左右するほどの傷に限る趣旨だと整理できます。本件の結論です。最高裁は、原審の適法という判断を是認して、上告を棄却しました。調査審議と判断に、不合理な点があるとはいえない、としたのです。住民側は負けました。この判決は、不合理な点があることを誰がどこまで立証するのか、という話も述べています。立証の負担とは、証明しきれなかったときに、どちらが不利を負うかの割り振りです。また、現在の、という言葉で、科学技術水準をどの時点で見るかも示しています。どちらも、今日の2段の物差しの形は変えません。別の回で扱います。
⭐ 論文で書く規範:解釈(判例):原子炉設置許可の取消訴訟では、専門機関の調査審議・判断を基にした行政庁の判断に不合理な点があるかを見る。現在の科学技術水準に照らして、調査審議で用いた具体的審査基準に不合理な点がある場合、または、基準への適合を認めた調査審議・判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合は、許可は違法 (短答・論文共通)
教科書検定——審議会の検討と、大臣の依拠
図:教科書検定の物差し
- 国家賠償請求の事件〔取消訴訟ではない〕
- 追う検討=教科用図書検定調査審議会の判断の過程〔検定意見の付与を含む〕
- ハードル=看過し難い過誤
- 結び目=文部大臣の判断がこれに依拠
- 違法の形=国家賠償法上違法
次は教科書検定です。専門技術的裁量の回で見たとおり、この判決は国家賠償請求の事件で、判断も、国家賠償法上違法となるか、の形です。取消訴訟ではありません。教科書の著者が、国に賠償を求めた事件です。取消訴訟は、処分そのものを取り消してもらう訴えです。国家賠償は、処分を有効なままにして、受けた損害をお金で償ってもらう訴えです。求めるものは違いますが、この判決は、違法になる筋道を、裁量権の範囲を逸脱したものとして、と、裁量の審査と同じ言葉で書いています。だから、原子炉と同じ型で読めます。判決の前半は、検定が学術的、教育的な専門技術的判断で、文部大臣の合理的な裁量に委ねられる、というものでした。これは前に読みました。今回のカードは、その続きの、審査の物差しの部分です。
判例最判平5・3・16 民集47巻5号3483頁
教科書検定の判断の過程と違法 したがって、合否の判定、条件付合格の条件の付与等についての教科用図書検定調査審議会の判断の過程(検定意見の付与を含む)に、原稿の記述内容又は欠陥の指摘の根拠となるべき検定当時の学説状況、教育状況についての認識や、旧検定基準に違反するとの評価等に看過し難い過誤があって、文部大臣の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、右判断は、裁量権の範囲を逸脱したものとして、国家賠償法上違法となると解するのが相当である。
読みます。見る対象は、教科用図書検定調査審議会の判断の過程です。合否の判定や条件の付与のほか、検定意見の付与も含みます。どんな過誤が看過し難いのか、判旨は次の2つを挙げています。原稿の記述や、欠陥の指摘の根拠になる、検定当時の学説状況や教育状況についての認識。それと、旧検定基準に違反するという評価です。これらに看過し難い過誤があって、文部大臣の判断がこれに依拠してされたと認められるときに、裁量権の範囲を逸脱したものとして、国家賠償法上違法になります。この事件で、最高裁は、検定は国家賠償法上違法ではないとして、上告を棄却しました。
図:検定当時の認識の過誤の例
- 看過し難い過誤の対象=検定当時の学説状況・教育状況の認識
- 旧検定基準に違反するとの評価
- 例=学界で広く認められていた説を知らないまま誤りと決めつけた
- 学説が分かれ、状況を踏まえて一方を採ったのは専門家の判断の領域
たとえばです。理科の教科書の記述について、審議会が、この記述は誤りだ、と指摘したとします。ところが、その記述は、検定の当時すでに学界で広く認められていた説に沿ったもので、審議会は、その説を知らないまま誤りと決めつけていました。これが、検定当時の学説状況についての認識の過誤です。大臣が、その指摘を理由に条件を付けたなら、過誤に依拠した判断になりえます。学説が分かれている場面で、審議会がその状況を踏まえたうえで一方の評価を採ったのなら、それは専門家の判断の領域です。裁判所が、自分ならこう評価する、と言えるだけでは、過誤にはなりません。見るのは、検定当時の状況の認識が誤っていたか、基準違反の評価に看過し難い誤りがあるか、です。
図:原子炉との違い
- 原子炉=1つ目に基準そのものの段がある
- 教科書検定=違法になる場合を示した判旨に基準の段は無い〔旧検定基準は別の箇所で必要かつ合理的な範囲を超えないとされた〕
- 審議会の判断の過程=原子炉の2つ目の段と同じ型
原子炉と同じ型です。追うのは専門機関の判断の過程。ハードルは看過し難い過誤。そこに、行政庁の判断が依拠している必要があります。ただ、違いが1つあります。原子炉には、基準そのものに不合理な点がないか、という1つ目の段がありました。この判決の、違法になる場合を示した判旨には、その段がありません。旧検定基準そのものについては、憲法の主張に答える別の箇所で、必要かつ合理的な範囲を超えていない、としています。違法になる場合として見ているのは、審議会の判断の過程と、旧検定基準に違反するとした評価です。原子炉の2つ目の段と同じ型、と持っておいてください。
⭐ 論文で書く規範:解釈(判例):教科書検定は、教科用図書検定調査審議会の判断の過程(検定意見の付与を含む)に、検定当時の学説状況・教育状況の認識や旧検定基準違反の評価について看過し難い過誤があり、文部大臣の判断がこれに依拠してされたと認められる場合に、裁量権の範囲を逸脱したものとして国家賠償法上違法になる (短答)
生活保護基準の改定——数字と専門的知見との整合
図:老齢加算廃止の事案
- A=厚生労働大臣
- B=専門委員会〔社会保障審議会の下〕
- C=70歳以上の生活保護の受給者
- BがAに廃止の方向を中間取りまとめで示す→Aが老齢加算を3年かけて段階的に減額・廃止→Cが争う
最後は生活保護基準の改定です。厚生労働大臣Aが、70歳以上の生活保護の受給者に上乗せしていた老齢加算を、3年かけて段階的に減らして、廃止しました。老齢加算とは、高齢者に特別な需要があると見込んで、生活扶助に上乗せしていた加算です。この廃止の前に、社会保障審議会の専門委員会Bが、中間取りまとめで、廃止の方向を示していました。70歳以上の受給者Cが、この改定を争いました。専門技術的裁量の回で見たとおり、この改定には、専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が、大臣に認められます。広い裁量です。それでも審査はされます。その物差しを、2枚のカードで読みます。1枚目は枠です。
判例最判平24・2・28 民集66巻3号1240頁
生活保護基準の改定が違法になる場合(枠) 老齢加算の廃止を内容とする保護基準の改定は,①当該改定の時点において70歳以上の高齢者には老齢加算に見合う特別な需要が認められず,高齢者に係る当該改定後の生活扶助基準の内容が高齢者の健康で文化的な生活水準を維持するに足りるものであるとした厚生労働大臣の判断に,最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続における過誤,欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合,あるいは,②老齢加算の廃止に際し激変緩和等の措置を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当であるとした同大臣の判断に,被保護者の期待的利益や生活への影響等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に,生活保護法3条,8条2項の規定に違反し,違法となるものというべきである。
図:老齢加算廃止が違法になる2つの場合
- 1つ目=老齢加算に見合う特別な需要が認められず健康で文化的な生活水準を維持できるとした判断に、判断の過程及び手続の過誤、欠落の観点から逸脱・濫用がある〔今日の本題〕
- 2つ目=激変緩和の措置の方針と選んだ措置の相当性に、期待的利益や生活への影響の観点から逸脱・濫用がある〔別の物差し〕
読みます。違法になる場合は2つです。1つ目は、70歳以上の高齢者に老齢加算に見合う特別な需要は認められず、改定後も、健康で文化的な生活水準を維持できる、とした大臣の判断に、判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無等の観点から見て、逸脱や濫用がある場合です。2つ目は、激変緩和の措置をとるかどうか、とる場合にその措置が相当か、という判断に、被保護者の期待的利益や生活への影響の観点から、逸脱や濫用がある場合です。激変緩和とは、生活が急に変わらないように、段階的に減らすなどして調整することです。期待的利益とは、加算がこれからも続くと見込んで暮らしを組み立ててきた、受給者の側の利益です。2つ目は、期待的利益や生活への影響を見る別の物差しで、専門機関の検討をたどる型とは別です。今日の本題は、1つ目です。
図:意見に沿っただけでは足りない
- 問い=大臣が専門委員会の意見に沿って判断しただけで過程に過誤はないと言えるか
- 答え=言えない
- 見る点=意見の中身が統計などの数字や専門的知識と合っているか
- 判旨もまず意見の中身を検討している
ここで1問です。大臣が専門委員会の意見に沿って判断した、というだけで、過程に過誤はないと言えるでしょうか?言えないと思います。委員会の意見そのものがおかしければ、それに沿った大臣の判断も、おかしくなるはずです。沿ったという事実だけでは足りません。意見の中身が、統計などの数字や専門的な知識と合っているかを見ます。判旨も、まず意見の中身を検討しています。2枚目は、その当てはめです。
判例最判平24・2・28 民集66巻3号1240頁
生活保護基準の改定の当てはめ 統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところはない。そして,70歳以上の高齢者に老齢加算に見合う特別な需要が認められず,高齢者に係る本件改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持するに足りない程度にまで低下するものではないとした厚生労働大臣の判断は,専門委員会のこのような検討等を経た前記第1の3(5)アの意見に沿って行われたものであり,その判断の過程及び手続に過誤,欠落があると解すべき事情はうかがわれない。
読みます。冒頭の、欠けるところはない、と評価されているのは、専門委員会の検討とその意見です。統計などの客観的な数値との合理的関連性にも、専門的な知識との整合性にも、欠けるところはない。そして、大臣の判断は、専門委員会のこのような検討を経た意見に沿って行われていて、判断の過程及び手続に、過誤や欠落があると解すべき事情はうかがわれない、と結論しました。カードの、前記の、は、判決の中で前に出てきた、専門委員会の意見を指す記号です。この事件の結論は、改定は適法で、受給者側の上告は棄却されました。
図:2つの物差しの読み方
- 統計等の客観的な数値等との合理的関連性=検討の結論が、実際の数字につながっているか
- 専門的知見との整合性=検討の結論が、専門の知識と食い違っていないか
- 例=委員会が「70歳以上は出費が少ない」と結論づけたのに、示した数字は逆を示している→関連性を欠く
新しく出た2つの言葉を、噛み砕きます。合理的関連性とは、検討の結論が、実際の数字につながっているか、です。たとえば委員会が、70歳以上は出費が少ない、と結論づけたのに、示した数字が逆を示していたなら、関連性を欠きます。整合性とは、結論が、専門の知識と食い違っていないか、です。専門家の常識に反する計算で結論を出していたなら、整合性を欠きます。注意が1つあります。この判旨には、判断の過程及び手続、と手続という言葉が出てきます。判旨は、この過程及び手続を定義していませんが、ここでは、判断を形づくる道筋、つまり、どんな資料や専門的知見を、どう使って決めたか、のことと読めます。この判決では、専門委員会の検討と資料の使い方が、まさにそれです。そう読める理由は、2枚目のカードにあります。判旨が、過程及び手続に過誤がない、と言う前に確かめたのは、委員会の検討が数字や専門の知識とつながっているか、と、大臣がその意見に沿ったか、でした。聴聞や理由の提示は、物差しとして出てきません。聴聞を開いたか、理由を示したか、という手続の審査とは別のものです。手続の審査は、別の回で扱います。
専門技術的かつ政策的な裁量で、広い裁量なのに、どうして審査できるんですか。広い裁量でも、判断の土台になった検討が、数字や専門的知見から外れていれば、そこは裁判所が点検できるからです。結論の当否を決め直すのではなく、検討の道筋が数字や知識につながっているかを見る。判断代置をしない審査の、典型の形です。専門技術的裁量の回で、最近の最高裁が生活扶助の基準の改定を違法とした、と触れました。あの判決が、同じ物差しの例です。基準の改定の一部を、物価変動率だけを指標にしたのは、専門的知見との整合性を欠く、として違法としました。この物差しが、そのまま使われて、違法の結論に至った例です。詳しくは、別の回で扱います。
⭐ 論文で書く規範:解釈(判例):生活保護基準の改定は、大臣の判断に、判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無等の観点から、裁量権の逸脱・濫用がないかを見る。本件では、専門委員会の検討が、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠かず、大臣がその検討を経た意見に沿って判断していたことから、過程に過誤、欠落はないとされた (短答・論文共通)
3つの判決を並べる——限界とつまずきどころ
図:3判決の並べ表
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原子炉〔平4〕=追う検討は原子力委員会・原子炉安全専門審査会
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見る層は①基準②適合判断の過程
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ハードルは不合理な点・看過し難い過誤、欠落
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行政庁の判断がこれに依拠
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教科書検定〔平5〕=教科用図書検定調査審議会
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判断の過程
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看過し難い過誤
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文部大臣の判断がこれに依拠
-
生活保護基準〔平24〕=社会保障審議会の専門委員会
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判断の過程及び手続〔統計等との合理的関連性・専門的知見との整合性〕
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過誤、欠落
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大臣の判断が委員会の意見に沿う
3つの判決を、誰の検討を、どの物差しで見たか、で並べます。3つに共通するのは、専門機関が検討して、行政庁がそれに基づいて判断する、という2段の構造です。裁判所は、行政庁の結論ではなく、専門機関の検討をたどります。違いは3点です。見る層は、原子炉だけが、基準そのものと、基準への当てはめの検討の2層で、検定と生活保護基準は、検討の過程の1層です。ハードルの言葉は、不合理な点、看過し難い過誤、過誤や欠落と、少しずつ違います。行政庁の判断と専門機関の検討をつなぐ部分、つまり結び目は、依拠、あるいは、意見に沿う、です。
結び目の2つの言い方は、どちらも、行政庁の判断が専門機関の検討の上に立っている、ということを言っています。原子炉と検定は、検討の欠陥に行政庁の判断が依拠したかを問う言い方で、生活保護基準は、検討を経た意見に沿った判断かを見る言い方です。言葉は違っても、見ているのは、専門機関の検討と行政庁の判断のつながりです。この型の限界を確認します。ただ、これは判決の言葉そのものではなく、判決の構造から言える整理です。この型の物差しの内側では、専門機関の検討に過誤や欠落がなければ、裁判所は結論の当否には踏み込みません。たとえば、専門委員会が十分な資料を検討して、筋の通った答申を出し、大臣がそれに沿ったなら、結論に別の意見があっても、違法にはなりません。判断代置をしないと決めた以上、過程が整っているのに結論へ踏み込めば、判断代置に戻ってしまうからです。だからこそ、物差しそのものの合理性を疑う1つ目の段が効きます。基準が古ければ、その基準に当てはめた検討をいくら点検しても、結論は救えません。裁判所が結論を決め直せない代わりに、検討の質と、検討が拠り所にした物差しの合理性を問う。これが、この型の役割です。専門機関の検討をたどる型は、論文で論点になりうる場面です。
図:つまずきどころ
- 過程を見る=判断に至る検討の道筋を見る
- 手続を見る=聴聞を開いたか・理由を示したかなど決めるまでの手順を見る〔別の回〕
- 例=聴聞も理由提示も整った処分でも、検討の資料の読みが誤っていれば過程の過誤
つまずきやすい点を1つ。過程を見る、というのは、手続を見ることではありません。聴聞を開いたか、理由を示したか、は、決めるまでの手順で、別の審査です。過程で見るのは、判断の中身に至る、検討の道筋です。たとえば、橋の通行止めで、市長Aが、住民への説明会も開いて、理由もきちんと示したとします。手順は整っています。それでも、委員会Bが点検の数値を読み違えていれば、検討の道筋に過誤があります。手順が整っていても、道筋が壊れていれば、過程の審査では問題になります。手続を見る審査は、別の回で扱います。
今日の地図(保存版)
図:今日の整理
- 結果を見る審査と過程を見る審査
- 型①=専門機関の検討をたどる
- 構造=専門機関→行政庁、裁判所は検討の過程をたどる
- 原子炉=①基準の不合理 または ②適合判断の過程の看過し難い過誤、欠落+依拠〔どちらかで違法・依拠は②だけ〕
- 教科書検定=審議会の判断の過程+看過し難い過誤+依拠〔国賠〕
- 生活保護基準=過程及び手続〔統計等との合理的関連性・専門的知見との整合性〕
- 限界(整理)=この型の物差しの内側では、過程が整えば結論の当否には踏み込まない
冒頭の問いに答えます。結論を自分で決めない裁判所が見るのは、結論に至る道筋です。専門機関が検討して行政庁が決めた場面では、専門機関の検討をたどって、基準そのものに不合理な点がないか、当てはめの検討に看過し難い過誤、欠落がないかを見ます。後者は、行政庁の判断がそれに依拠していれば、違法です。原子炉は、物差しの段と、当てはめの検討の段の2つを見ました。教科書検定は、審議会の判断の過程に、看過し難い過誤があり、大臣の判断がそれに依拠しているかを見ました。生活保護基準は、専門委員会の意見が、統計などの数字や専門的知見と合っているかを見ました。限界は、この型の物差しの内側では、過程が整っていれば結論には踏み込まないことで、だから基準そのものを疑う段が効きます。
図:今日の短答の誤り肢
- 判断過程審査は行政庁が聴聞を行ったかを審査する〔誤り〕
- 原子炉の取消訴訟で裁判所は安全性を自ら判断してよい〔誤り〕
- 教科書検定の判決は取消訴訟で不合格処分の違法を判断した〔誤り〕
- 生活保護基準は専門委員会の意見に従った以上、常に適法〔誤り〕
- 原子炉判決は過誤があれば行政庁の判断が依拠していなくても違法とした〔誤り〕
最後に、短答の誤り肢です。判断過程審査とは、行政庁が聴聞を行ったかを審査することである、は誤りです。見るのは判断に至る検討の道筋で、手続の審査は別です。原子炉設置許可の取消訴訟で、裁判所は原子炉の安全性を自ら判断してよい、も誤りです。専門機関の調査審議と判断を基にした行政庁の判断に、不合理な点があるかを見ます。教科書検定の判決は、取消訴訟で検定不合格処分の違法を判断したものである、も誤りです。国家賠償請求の事件で、国家賠償法上違法かどうかが判断されました。生活保護基準の改定は、専門委員会の意見に従った以上、常に適法である、も誤りです。意見が統計などの数字や専門的知見と合っていなければ、過程に過誤があります。原子炉判決は、調査審議の過程に過誤があれば、行政庁の判断がそれに依拠していなくても違法とした、も誤りです。行政庁の判断が、過誤に依拠してされたと認められる場合に、違法になります。