判断過程審査①(考慮要素の重みづけ・剣道実技・学校施設)
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第5章 行政裁量 #64/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
巨木を切って道路を広げる事業は、何を重く見て認められたのか
図:今日の問い
- 秤にのせるのは行政庁の仕事
- それでも、のせた物の選び方と重さの付け方が違法になることがある
- 巨木を切って道路を広げる事業の認定は、何を重く見て認められたのか
重さを付ける作業は、行政庁の仕事です。裁判所は、重さを付け直すのではなく、何を秤にのせたか、のせた物にどれだけの重さを与えたかを点検します。そこに誤りがあれば、違法になることがあります。今日の問いは、裁判所がその誤りをどうやって見つけるのか、です。入口に、1つの事件を置きます。景勝地の巨木を切って、道路を広げる事業です。国は、この事業を、土地を収用してまで進める価値がある、と認めました。何を重く見て認めたのか。そして、その重さの付け方が、なぜ違法とされたのか。ここから入ります。
図:今日の持ち帰り
- 1 型②の入口と、先駆けの下級審
- 2 判決の指摘を「材料を選ぶ段」と「重さを付ける段」に割る
- 3 最高裁での定着と3つの下位基準
- 4 考慮すべき事項の出どころと、審査の濃さ
前回は、専門機関の検討をたどる型でした。今日は、行政庁自身の考慮をたどる型です。持ち帰りは4つです。1つ目、この型の入口と、先駆けになった下級審の判決。2つ目、その判決の指摘を、材料を選ぶ段と、重さを付ける段に割る見方。3つ目、最高裁での定着と、3つの下位基準。4つ目、考慮すべき事項はどこから出てくるのか、と、審査の濃さです。前回は、考慮すべき事項を考慮しないことを考慮不尽、考慮すべきでない事項を考慮することを他事考慮、と呼びました。その2つに、もう1つ足して3つです。今日、中身を言い切ります。
型②の入口——行政庁の比べ方が、そのまま道筋になる
図:型②の構造
- 型①=専門機関Bが検討→行政庁Aが依拠して判断→裁判所CがBの検討をたどる
- 型②=行政庁A自身が材料を集める→選ぶ→重さを付ける→結論→裁判所CがAの考え方そのものをたどる
型の2つ目の構造から確認します。前回の型では、専門機関Bが間に入りました。裁判所は、行政庁Aの結論ではなく、Bの検討をたどりました。今回は、Bがいません。行政庁A自身が、材料を集めて、選んで、重さを付けて、結論を出します。裁判所Cがたどるのは、そのAの考え方です。この型がいちばん活きるのは、比較衡量の場面です。比較衡量とは、得られる利益と失われる利益を秤にかけて決める判断です。道路を広げれば便利になりますが、その場所の景観は失われます。どちらをどれだけ重く見るかで、結論が変わります。条文から見ます。土地収用法20条です。国土交通大臣か都道府県知事は、申請された事業が、4つの号のすべてに当たるときに、事業の認定をすることができます。事業の認定とは、この事業は土地を収用してでもやる公益上の価値がある、と認める行政の判断です。判決当時の大臣は、建設大臣でした。
条文土地収用法20条
土地収用法第20条 国土交通大臣又は都道府県知事は、申請に係る事業が左の各号のすべてに該当するときは、事業の認定をすることができる。 一 事業が第三条各号の一に掲げるものに関するものであること。 二 起業者が当該事業を遂行する充分な意思と能力を有する者であること。 三 事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること。 四 土地を収用し、又は使用する公益上の必要があるものであること。
争いになったのは3号、事業計画が、土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであること、です。3号には、適正かつ合理的な利用かを測る詳しい基準が書かれていません。そこが比較衡量の余地です。道路ができて得られる利益と、失われる景観や歴史的な価値を比べて、この土地の使い方が適正かを決めるしかありません。この比べ方が、裁判で問われました。
図:事案の関係図
- A=建設大臣
- B=日光東照宮
- C=栃木県知事〔起業者〕
- D=収用委員会
- CがAに事業認定を申請→AがCの事業を認定→Dが収用の裁決→Bが事業認定・収用裁決などの取消しを求める
事案です。日光東照宮の神橋の近くを通る国道120号を、広げる事業がありました。計画の線上には、太郎杉と呼ばれる巨杉を含む杉の群れと、丘陵部がありました。事業を行う側、つまり起業者は、栃木県知事Cです。Cが申請して、建設大臣Aが事業の認定をしました。そのあと、収用委員会Dが、土地の所有権を起業者に移す、収用の裁決をしています。東照宮Bは、事業認定や収用裁決などの取消しを求めました。事業認定は、収用裁決へ続く一連の手続の最初の処分で、以前に違法性の承継を見たときの、先行処分に当たります。事業認定の違法を、後の収用裁決の段階で言えるか、という話でした。今日は、その事業認定そのものが違法かを見ます。1審は請求を認め、高裁は控訴を棄却しました。事業認定が、20条3号の要件を満たさず違法だ、という判断が維持されたのです。起業者は、道路の通し方を4つの案で比べて、費用が最も少なく、工期が最も短く、工事が簡単な案を選びました。それが、巨杉群を切る案でした。この比べ方を、判決がどう評価したかを、判旨で読みます。カードの、同控訴人、は、控訴人、つまり建設大臣のことです。
判例東京高判昭48・7・13 行集24巻6=7号533頁
事業認定と裁量判断の方法・過程の誤り しかし、この点の判断が前認定のような諸要素、諸価値の比較考量に基づき行なわるべきものである以上、同控訴人がこの点の判断をするにあたり、本来最も重視すべき諸要素、諸価値を不当、安易に軽視し、その結果当然尽すべき考慮を尽さず、または本来考慮に容れるべきでない事項を考慮に容れもしくは本来過大に評価すべきでない事項を過重に評価し、これらのことにより同控訴人のこの点に関する判断が左右されたものと認められる場合には、同控訴人の右判断は、とりもなおさず裁量判断の方法ないしその過程に誤りがあるものとして、違法となるものと解するのが相当である。
読みます。前提は、3号の判断が、諸要素、諸価値の比較考量に基づいて行われるべきものだ、ということです。そのうえで、建設大臣が、本来最も重視すべきものを、不当に、安易に軽く見て、その結果、当然尽くすべき考慮を尽くさなかった場合。または、考慮に入れるべきでない事項を入れたり、本来過大に評価すべきでない事項を重く評価したりした場合。そして、これらのことによって判断が左右されたと認められるときは、裁量判断の方法ないし過程に誤りがあるものとして、違法になる、と言っています。ここで1問です。この判決が違法の根拠にしているのは、結論の当否でしょうか、それとも判断の方法や過程でしょうか?
判断の方法や過程です。判決の言葉も、裁量判断の方法ないしその過程に誤りがある、になっています。道路を広げるべきか、広げるべきでないか、という結論そのものを、裁判所が決めたのではありません。結論に至る比べ方に誤りがあった、と言ったのです。最後の、判断が左右された、という部分も大切です。誤りがあっても、それがなくても同じ結論になったなら、違法にはなりません。誤りと結論のつながりが、要ります。
図:裁判所が見たこと
- 1 付近は国立公園の特別保護地区で景観・風致・宗教的歴史的価値がかけがえなく、長く将来にわたり保全すべき→最大限に尊重すべき
- 2 道路は費用と時間をかければ別の場所にも造れる→保全と整備を調和させる手段の探究が足りない
- 3 オリンピックに伴う一時的な交通量増加の予想→本来考慮に入れるべきでない
- 4 暴風による倒木・樹勢の衰えの可能性→本来過大に評価すべきでない
- 過誤がなければ異なる結論に達する可能性があった
この規範を、事案に当てはめた部分を整理します。1つ目。付近は国立公園の特別保護地区で、景観や風致、宗教的、歴史的な価値は、かけがえのないものです。長く将来にわたって保全すべきものです。だから、本来、最大限に尊重すべき、最も重く見るべきものでした。2つ目。道路は、費用や時間をかければ、別の場所にも造れます。かけがえのない景観と違って、代わりが利くのです。ところが、保全と整備を調和させる方法を探る努力が、足りませんでした。当然尽くすべき考慮を尽くさなかった、という指摘です。3つ目は、オリンピックに伴う一時的な交通量の増加の予想です。一時的な増加は、永く残る景観を壊す理由にはなりにくく、本来、考慮に入れるべきでない事項だとされました。4つ目は、暴風による倒木や、樹勢の衰えの可能性です。可能性の話を重く見て、切る方向の理由にしたことが、本来過大に評価すべきでない事項を過重に評価した、と評価されました。そして判決は、これらの過誤がなければ、建設大臣が異なる結論に達する可能性があった、と述べて、違法としました。
⭐ 論文で書く規範:解釈(下級審判決):土地収用法20条3号の判断が諸要素・諸価値の比較考量に基づくべきものである以上、行政庁が、本来最も重視すべきものを不当・安易に軽視して当然尽くすべき考慮を尽くさず、または考慮に容れるべきでない事項を考慮し、もしくは過大に評価すべきでない事項を過重に評価して、判断が左右されたと認められる場合は、裁量判断の方法ないし過程に誤りがあるものとして違法 (短答)
4つの指摘を「材料を選ぶ段」と「重さを付ける段」に割る
図:4つの指摘を2段に割る表
- 材料を選ぶ段=何を入れるか入れないか:考慮不尽〔入れるべきものを入れない〕・他事考慮〔入れるべきでないものを入れる〕
- 重さを付ける段=入れた材料にどれだけの重さを与えたか:不当・安易な軽視・過大な評価
- 「最も重視すべきものを軽く見た」=選んだが軽くした=両方にまたがる
判決の4つの指摘は、言葉が長くて、整理しにくいと思います。そこで、判断を2つの段に割る見方を持ち込みます。献立を決める人を思い浮かべてください。まず、どの食材を買い物かごに入れるかを選びます。次に、入れた食材のうち、どれを主菜にするかの重さを付けます。判断も同じで、材料を選ぶ段と、重さを付ける段があります。材料を選ぶ段の誤りは2種類です。入れるべきものを入れなかった。入れるべきでないものを入れた。前者が考慮不尽、後者が他事考慮と呼ばれます。重さを付ける段の誤りは、入れた材料への重さの付け方がおかしい、です。必要な材料なのに軽く見る、関係の薄い材料を過大に評価する、という形です。
判決の言う、最も重視すべきものを軽く見た、は、材料を選ぶ段と重さを付ける段の、両方にまたがります。景観という材料は、かごには入っていました。つまり選んではいます。けれども、軽く見ました。選んだうえで、重さを誤った例です。そのうえで、その結果、尽くすべき考慮を尽くさなかった、とつながります。軽く見たから、探るべき別の方法を探らなかった、という流れです。
図:設例の関係図
- A=町長
- B=風力発電の事業者
- BがAに町有地の使用許可を申請→Aが不許可→Bが争う
- 実在しない仮定の事例
自分で作った事例で、2つの段を体感します。実在しない仮定の事例です。事業者Bが、町の持つ土地に風力発電施設を設けたいと、町長Aに使用の許可を申請しました。Aは、これを許可しませんでした。Bが争います。
図:設例の中身
- 町長Aの判断の材料=発電による町の電力への寄与〔考慮してよい〕
- 漁協との協議の経過を調べずに判断〔考慮不尽〕
- 選挙で対立した陣営の関係者という事情を理由に入れた〔他事考慮〕
- 騒音の測定が1回基準を超えたことを「常に基準超え」と評価〔評価の不合理〕
Aの判断の材料を、4つ並べます。1つ目、発電によって町の電力に寄与するという点は、許可を考える際に考慮してよい、まっとうな材料です。2つ目、近くの漁協とBの協議がどう進んでいたかを、Aは調べませんでした。協議の経過は、考えるべき材料なのに、入れていません。これは、材料を選ぶ段の、入れるべきものを入れなかった型で、考慮不尽です。3つ目、Bの関係者が、選挙でAと対立した陣営の人だった、という事情を、不許可の理由に入れました。町有地の使用を許すかとは関係のない事情です。材料を選ぶ段の、入れるべきでないものを入れた型で、他事考慮です。4つ目、騒音の測定が1回だけ基準を超えたことを、常に基準を超えている、と評価しました。材料は入っていますが、その評価が明らかにおかしい。これは、重さを付ける段の誤りです。
1つの判断に、複数の誤りが重なることはよくあります。この設例は、あとで、3つの下位基準を当てはめるときにも使います。
図:日光太郎杉の判決の特徴
- 講学上の整理=判決の言葉ではない
- 材料の選び方だけでなく重さの付け方にまで詳しく立ち入った〔かけがえのない景観は最大限に尊重すべき・一時的な交通量は考慮に入れるべきでない〕
- 判断代置に近づいている
- 下級審の原型=あとで見る最高裁の形との違いの伏線
ここで、この判決の特徴を確認します。以下は、判決の言葉ではなく、講学上の整理です。この判決は、材料の選び方だけでなく、重さの付け方にまで、詳しく立ち入りました。かけがえのない景観は最大限に尊重すべき、一時的な交通量は考慮に入れるべきでない、と、重さの付け方にまで詳しく立ち入ったのです。実質は、判断代置、つまり裁判所が行政庁と同じ立場に立って判断をやり直すやり方に、近づいています。これが、下級審の原型です。あとで見る最高裁の形との違いの、伏線になります。
図:二風谷ダム事件
- 同じ土地収用法20条3号
- アイヌ民族の原告らがダム建設のための収用裁決の取消しを求めた
- 札幌地裁=3号を比較衡量の要件と読み、考慮に誤りがあれば違法とする枠組みを日光太郎杉とほぼ同じ文言で示した
- 建設大臣は必要な調査・研究等を怠り、最も重視すべき諸要素・諸価値を不当に軽視または無視→裁量権逸脱の違法
- 主文=請求棄却+収用裁決の違法を宣言
同じ条文の事件を、もう1つ短く見ます。ダムを造るための収用で、アイヌ民族の原告らが、収用裁決の取消しを求めた、二風谷ダム事件です。札幌地裁は、3号を、比較衡量を求める要件と読みました。そして、行政庁の考慮に誤りがあれば違法になる、という枠組みを、日光太郎杉の判決とほぼ同じ文言で示しました。そのうえで、建設大臣は、判断に必要な調査や研究を怠って、最も重視すべきものを不当に軽く見たり、無視したりした、として、違法を認めました。結論の形には注意が要ります。請求は棄却されました。ダムがすでに完成していたため、取り消すことが公共の福祉に適合しない、という判断です。その代わりに、収用裁決が違法だったことは、宣言されました。前に近鉄特急の料金の事件で見た、事情判決です。処分は違法だと宣言しつつ、取消しの請求は退ける判決でした。違法でも、取り消されるとは限りません。ここで1問です。必要な調査を怠った、という指摘は、材料を選ぶ段と重さを付ける段のどちらに近いでしょうか?
材料を選ぶ段だと思います。材料そのものを、集めていないからです。考慮不尽に近い型です。材料が足りなければ、重さを付ける以前の問題です。調査を尽くしたかを問う方向へ、この審査が伸びていくことは、あとで触れます。
最高裁での定着——剣道実技と在留期間更新
図:下級審の原型と最高裁の形
- 下級審〔日光太郎杉〕=過程に誤りがあり判断が左右された→違法
- 最高裁=過程に不合理がある→その結果、処分が社会観念上著しく妥当を欠く→違法
- 社会観念審査と判断過程審査を結び付けた形
- 審査の入口が一段高い
ここまでの判決は、高裁と地裁の判決でした。最高裁の形は、下級審の原型と違います。下級審は、過程に誤りがあり、判断が左右されれば、違法でした。最高裁は、過程に不合理があり、その結果、処分が社会観念上著しく妥当を欠くと言えるときに、違法とします。社会観念審査は、明らかな行き過ぎだけを見る、裁判所が最小限しか踏み込まない審査でした。その言葉と、判断過程審査の言葉を、結び付けた形です。過程の不合理が、最終的に結論の著しい不当に至るときだけ違法になる、という言い方なので、下級審の原型より、審査の入口が一段高くなっています。過程にきずがあるだけでは足りない、ということです。なぜ一段高いのか、判決は理由を述べていません。形の違いから読み取れる整理として、過程のきずだけで違法にすると、日光太郎杉の判決のように、裁判所が重さの付け方まで読み直す、判断代置に近づくから、と見ることができます。結論の著しい不当まで求めることで、重さを付ける仕事を、行政庁の側に残している、という見方です。剣道実技の判決を、この形で読み直します。事案は、前々回に見ました。高専の生徒が、信仰上の理由で剣道の実技に参加できず、代わりの措置の検討もされないまま、原級留置になり、退学になった事件です。判決の評価の部分を、道筋の側から読みます。
図:剣道実技の判決の2つの語
- 評価の言葉=代替措置について何ら検討することもなく
- 不認定の主たる理由及び全体成績について勘案することなく→「考慮すべき事項を考慮しておらず」〔考慮不尽〕
- 信仰上の理由による履修拒否を、正当な理由のない履修拒否と区別することなく→「考慮された事実に対する評価が明白に合理性を欠き」〔評価の不合理〕
- 2つは「又は」でつながる=片方で足りる
判決の文は、3つの事実を並べて結論づけています。道筋の側から読むと、代替措置について何ら検討することもなく、不認定の主たる理由や全体成績を勘案することなく、というのは、考慮すべき事項を考慮していない、つまり考慮不尽の指摘に読めます。信仰上の理由による履修拒否を、正当な理由のない履修拒否と、区別することなく扱った、というのは、考慮した事実に対する評価が、明白に合理性を欠く、つまり重さの付け方の指摘に読めます。判決は、この2つを、又は、でつなぎます。考慮すべき事項を考慮しておらず、又は、考慮された事実に対する評価が明白に合理性を欠き、その結果、社会観念上著しく妥当を欠く、という形です。この2つが、あとで見る3つの下位基準のうちの2つの原型になります。ここで1問です。学校が代替措置を検討はしたけれど、その評価が明らかに不合理だった場合、この基準で違法になるでしょうか?
又は、でつながっているので、片方で足りて、違法になりそうです。検討していなくても、検討した評価がおかしくても、どちらでも当たるからです。考慮不尽と評価の不合理は、選択的です。ただし、どちらの場合も、その結果、社会観念上著しく妥当を欠く、ところまで行かないと、違法にはなりません。
図:在留期間の更新不許可
- 外国人の在留期間の更新を法務大臣が不許可にした
- 法務大臣が、本人の意に反して、在留資格を短期滞在へ変えてしまった経緯があった
- その経緯を考慮せずに不許可=裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものとの評価を免れない
- 経緯という材料を入れなかった=考慮不尽の型
- 信義則の観点も理由に挙げており、考慮不尽だけでは読み切れない
もう1つ、薄く見ておきます。外国人の在留期間の更新を不許可にした事件です。法務大臣が、本人の意に反して、在留資格を短期滞在へ変えてしまった経緯があったのに、その経緯を考慮せずに更新を不許可にしました。判旨は、短くこう言います。
判例最判平8・7・2 集民179号435頁
在留期間の更新不許可と裁量権の逸脱・濫用 以上によれば、被上告人が平成三年七月六日にした在留期間の更新申請に対し、これを不許可とした本件処分は、右のような経緯を考慮していない点において、上告人がその裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものであるとの評価を免れず、本件処分を違法とした原審の判断は、結論において是認することができる。
読みます。右のような経緯を考慮していない点で、裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用したものと評価を免れない、と言っています。経緯という材料を入れなかった、つまり考慮不尽の型です。ただ、この判決は、信義則の観点も理由に挙げています。ですので、純粋に考慮不尽だけで読み切れる判決ではない、という点は、覚えておいてください。
学校施設の使用不許可——結論の一文を3つに割る
図:前々回の想起
- 学校施設の使用不許可=管理者の裁量を認めたうえで、判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを点検する型
- 結論=不許可は違法
- 今日=この点検の中身を3つに割って読む
ここで1問です。前々回に見た学校施設の使用不許可の判決は、管理者の裁量を認めたうえで、どこを点検する型だったでしょうか?判断要素の選択や、判断過程に合理性を欠くところがないか、を点検する型でした。その点検の中身を、今日、3つに割って読みます。事件は、教職員の職員団体が、教育研究集会のために、中学校の体育館などを借りようとして、不許可になった事件です。国家賠償が求められ、原審は、不許可を裁量権の逸脱と判断しました。審査の枠の言葉は、前に見ました。今日は、その中で行われた当てはめを、考慮された要素ごとに読みます。
図:3つの下位基準
- 1 他事考慮=重視すべきでない考慮要素を重視する〔材料を選ぶ段・重さを付ける段にまたがる〕
- 2 評価の明白な合理性欠如=考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠く〔重さを付ける段〕
- 3 考慮不尽=当然考慮すべき事項を十分考慮していない〔材料を選ぶ段〕
- 枠=重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合に限り違法
- 3つは結論の文の読み分けで、全部そろうことが要件ではない
- 呼び名は講学上のもの
先に、3つの下位基準を示します。1つ目は他事考慮で、重視すべきでない考慮要素を重視することです。2つ目は評価の明白な合理性欠如で、考慮した事項に対する評価が、明らかに合理性を欠くことです。3つ目は考慮不尽で、当然考慮すべき事項を、十分に考慮していないことです。判決の枠は、判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認められる場合に限って、違法とするものです。3つは、この事件の結論の文を読み分けた整理で、全部そろうことが要件ではありません。3つの読み分けのもとになる結論の文の形は、前に見た剣道実技の判決と同じです。剣道実技の判決は社会観念、この判決は社会通念と言いますが、判決によって言葉が違うだけで、同じ物差しでした。
他事考慮・評価の明白な合理性欠如・考慮不尽という3つの呼び名は、判決の言葉ではありません。判決の文言を、講学上、こう呼んで整理しています。呼び名は覚えやすいように付いたもので、判決の中にあるのは、重視すべきでない考慮要素を重視する、という文言のほうです。では、当てはめを読みます。まず、考慮してよい要素から。
判例最判平18・2・7 民集60巻2号401頁
学校施設の使用許可と、考慮してよい要素 過去,教育研究集会の会場とされた学校に右翼団体の街宣車が来て街宣活動を行ったことがあったというのであるから,抽象的には街宣活動のおそれはあったといわざるを得ず,学校施設の使用を許可した場合,その学校施設周辺で騒じょう状態が生じたり,学校教育施設としてふさわしくない混乱が生じたりする具体的なおそれが認められるときには,それを考慮して不許可とすることも学校施設管理者の裁量判断としてあり得るところである。
読みます。過去に、教育研究集会の会場になった学校へ、右翼団体の街宣車が来たことがありました。だから、抽象的には、街宣活動のおそれはあった、と認めています。そして、騒がしい状態や、学校にふさわしくない混乱が生じる具体的なおそれが認められるときは、それを考慮して不許可にすることも、管理者の裁量判断としてありえる、と言っています。ここが大切です。街宣のおそれは、考慮してよい要素です。ただし、考慮してよいのは、具体的なおそれがあるときです。ここまでは、判決は管理者に厳しくありません。
図:学校施設の当てはめを要素ごとに
- 街宣のおそれ=不許可の時点で具体的な妨害の動きは認められず
- 集会は休校日の土日で生徒への影響は間接的にとどまる可能性が高い
- 集会の要綱の批判的な記載=抽象的で、教育上の悪影響という評価は合理的でない
- 従前の許可の運用と、学校施設を使う必要性の高さ=大きな考慮要素なのに十分考慮されていない
- 教育委員会と職員団体の緊張関係を背景とした指導
そのうえで、判決は、1つ1つの要素を点検しました。街宣のおそれは、不許可を決めた時点で、具体的な妨害の動きは認められませんでした。集会が開かれるのは休校日の土日で、生徒への影響は、間接的にとどまる可能性が高いものでした。集会の要綱にある批判的な記載も、抽象的で、教育上の悪影響が出るという評価は、合理的とは言えません。反対に、考えるべきものが、考えられていません。それまでの許可の運用と、学校施設を使う必要性の高さです。以前に許可してきた実績があり、教育研究集会を開くために、この施設を使う必要は高かったのに、それらは大きな考慮要素として扱われませんでした。さらに判決は、教育委員会と職員団体との緊張関係を背景に、教育委員会が不許可の方向へ指導していたことにも、目を向けています。この点検の結果が、結論の文です。読みます。
判例最判平18・2・7 民集60巻2号401頁
学校施設の使用不許可の結論 上記の諸点その他の前記事実関係等を考慮すると,本件中学校及びその周辺の学校や地域に混乱を招き,児童生徒に教育上悪影響を与え,学校教育に支障を来すことが予想されるとの理由で行われた本件不許可処分は,重視すべきでない考慮要素を重視するなど,考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており,他方,当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず,その結果,社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものということができる。
読みます。先ほど示した3つが、この1つの文に、そのまま入っています。並びは、他事考慮、評価の不合理、そして、他方、のあとに考慮不尽です。最後は、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠く、で結ばれています。文の作りを見ると、重視すべきでない考慮要素を重視する、は、考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠く、の例として挙げられています。ですから、判決の文の上では、他事考慮は、評価の不合理の代表的な形として出てきます。それでも、入れるべきでないものを重く見たか、という問いは、ほかの2つと見分けやすいので、講学上は独立に数えて、3つと呼びます。同じ判断が、複数の基準に当たることもあります。3つは、互いに排他的ではありません。この判決そのものが、3つに当たります。
図:3つの下位基準の見分け表
- 他事考慮=入れるべきでないものを入れて重くしたか
- 設例:選挙で対立した陣営の関係者という事情
- 評価の不合理=入れた材料の重さの付け方が明らかにおかしいか
- 設例:騒音1回の超過を「常に基準超え」と評価
- 考慮不尽=入れるべきものを入れなかったか
- 設例:漁協との協議の経過を調べない
見分ける軸を、3つの問いにします。1つ目の問い、入れるべきでないものを入れて、重くしたか。これが他事考慮です。設例では、選挙で対立した陣営の関係者という事情を、不許可の理由に入れた点です。2つ目の問い、入れた材料の重さの付け方が、明らかにおかしいか。これが評価の不合理です。設例では、騒音の1回の超過を、常に基準超え、と評価した点です。3つ目の問い、入れるべきものを入れなかったか。これが考慮不尽です。設例では、漁協との協議の経過を調べなかった点です。ここで1問です。読みとして、結論の文の中で、重視すべきでない考慮要素を重視する、に近いのは、どれでしょうか? 候補は3つです。街宣のおそれを、具体的な根拠がないまま重く見たこと。従前の許可の運用を考慮しなかったこと。要綱の批判的な記載から、教育上の悪影響を読み取ったこと。
図:学校施設の事実の割付
- 結論の文からの読み
- 他事考慮=具体的な根拠のない街宣のおそれを重く見た
- 評価の不合理=抽象的な要綱の批判的な記載から教育上の悪影響を読み取った
- 考慮不尽=従前の許可の運用と、学校施設を使う必要性の高さを十分考慮しなかった
- 休校日で生徒への影響は間接的=街宣のおそれを重く見たことへの反論の材料
- ※判決が事実ごとに割り付けたものではない
ここから先は、判決が事実ごとに割り振ったものではなく、結論の文の読み方です。他事考慮に読めるのは、街宣のおそれを、具体的な根拠がないまま重く見たことです。重視すべきでないものを、重視した、が他事考慮でした。残りの2つも、学校施設の事実に当てはめます。評価の不合理には、抽象的な要綱の記載から、教育上の悪影響を読み取った点が当たります。休校日で生徒への影響が間接的な点は、街宣のおそれを重く見たことへの反論の材料です。考慮不尽には、従前の許可の運用と、学校施設を使う必要性の高さを、十分考慮しなかったことが当たります。
図:他事考慮のつまずき
- 前回の短い言い方=考慮すべきでない事項を考慮する〔材料を選ぶ段から見た言い方〕
- 判決の言葉=重視すべきでない考慮要素を重視する〔材料を選ぶ段と重さを付ける段にまたがる〕
- 街宣のおそれは考慮してよい要素=それでも具体的な根拠がないまま重く見たことが咎められた
つまずきやすい点を1つ。他事考慮は、入れた材料が、事案と無関係な事項、という意味だけに限られません。判決の言葉は、重視すべきでない考慮要素を重視する、です。街宣のおそれは、考慮してよい要素でした。それでも、具体的な根拠がないまま重く見たことが、咎められています。入れたこと自体より、重視したことが問題になる場面もあります。前回の短い言い方、考慮すべきでない事項を考慮する、は、材料を選ぶ段から見た言い方です。判決の言葉は、重視する、です。ですから、板では他事考慮を、材料を選ぶ段と、重さを付ける段にまたがるものとして置きました。考慮してよい材料でも、根拠なく重く見れば、他事考慮に当たります。3つの下位基準は、どれも、材料を選ぶ段と、重さを付ける段の、どちらかに不合理がないかを点検しています。何を秤にのせたか、のせた物にどれだけの重さを与えたか。この2つを点検して、学校施設の不許可は、違法とされたのです。
⭐ 論文で書く規範:解釈(判例):裁量権の行使の司法審査では、判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って違法。この事件の結論の文を読み分けた整理として、他事考慮・評価の明白な合理性欠如・考慮不尽の3つがあるが、全部そろうことが要件ではない (短答・論文共通)
考慮すべき事項は、どこから出てくるのか
図:考慮すべき事項の出どころ
- 1 根拠法令の趣旨・目的=日光太郎杉は国立公園の特別保護地区の指定の趣旨
- 学校施設は行政財産の用途・目的を妨げない限度で許可する仕組み
- 2 関係する権利・利益の性質=剣道実技は信仰の核心部分と密接に関連する真摯な理由・信教の自由を間接に制約
- 3 当事者の従前の関係・経緯=在留資格変更の経緯・従前の許可の運用
考慮すべき事項は、裁判所が後から好きに決めているわけではありません。考慮すべき事項には、出どころがあります。主なものは、3つに整理できます。ここは、判決を並べて見える整理で、判決の言葉ではありません。1つ目は、根拠法令の趣旨と目的です。日光太郎杉では、付近が国立公園の特別保護地区に指定されている、その指定の趣旨から、景観や風致を最大限に尊重すべき、と導かれました。学校施設では、行政財産を、用途や目的を妨げない限度で許可する、という仕組みが、何を考えて許可すべきかの出発点になりました。2つ目は、関係する権利や利益の性質です。剣道実技では、信仰の核心部分と密接に関連する、真摯な理由があり、退学という不利益の大きさがありました。信教の自由を、間接的に制約する場面でもあります。権利の重さが、より丁寧な考慮を要求するのです。3つ目は、当事者の従前の関係や経緯です。在留資格を変更した経緯や、学校施設の従前の許可の運用が、これに当たります。それまでの経緯を無視して決めれば、考慮すべきものを落とした、と言われます。
図:前々回のヒグマの事件の想起
- ライフル銃の所持許可の取消し
- 危害防止の観点に加えて、市の要請を受けた駆除だったこと=市が実施隊を置いて駆除を頼む仕組みを定めた特措法の趣旨に沿わない事態を招くおそれを事情として考えてよい
- 別の法律の趣旨から考慮してよい事情を導いた例
- 結論=取消しは重きに失する
ここで、前々回に見たヒグマの事件を、思い出してください。ライフル銃の所持許可の取消しで、危害防止の観点に加えて、市の要請を受けた駆除だったことが、別の法律、つまり市が実施隊を置いて駆除を頼む仕組みを定めた特措法の趣旨に沿わない事態を招くおそれを、事情として考えてよい、とされました。考慮してよい事情を、別の法律の趣旨から導いた例です。そして結論は、取消しは重きに失する、つまり処分として重すぎる、でした。処分の重さを測る事情に、市の要請に応じた駆除だったという材料を入れてよい例、と読めます。
図:出どころが決まっている理由
- あと知恵=結果が悪かったあとで事項を増やしていく
- その先=どんな行政の判断もいつか違法にできてしまう
- だから根拠法令の趣旨・権利の性質・経緯という出どころのある事項に絞る
- なお何を考慮してよいかは授権した法令の範囲で決まる法解釈の問題=範囲外の事項を考慮すれば違法
考慮すべき事項の出どころが決まっていることが大事な理由は、あと知恵を防ぐためだ、と整理すると分かりやすいです。結果が悪かったあとで、あれも考えるべきだった、と事項を増やしていけば、どんな行政の判断も、いつか違法にできてしまいます。それでは、行政庁は、判断する前に、何を考えればよいのか分かりません。だから、根拠法令の趣旨、権利の性質、経緯という、出どころのある事項に絞る必要があります。なお、何を考慮してよいかは、授権した法令の範囲で決まる法解釈の問題で、裁判所が自分で答えを出し、範囲外の事項を考慮すれば違法です。出どころのある事項なら、考えるべきだった、と言ってもあと知恵になりません。
審査の濃さ・調査と説明への伸び・つまずきどころ
図:審査の濃さ
- 講学上の整理=判決の言葉ではない
- 考慮事項と重さを細かく確定する→判断代置に近い〔日光太郎杉〕
- 確定が粗い→最小限の審査に近い
- 最高裁は処分の性質や相手方の権利を見て濃さを変える〔剣道実技は濃い〕
- 政策的・技術的な総合判断は裁量を広く認める〔次回〕
最後に、審査の濃さを整理します。これは講学上の整理で、判決の言葉ではありません。裁判所が、考慮すべき事項と、その重さを、どこまで細かく決めるかで、審査の濃さが変わります。日光太郎杉の判決のように、重さまで詳しく決めれば、判断代置に近づきます。反対に、決め方が粗ければ、結論に明らかな行き過ぎがないかだけを見る、最小限の審査に近づきます。前に見た、社会観念審査の基本の形です。
図:審査の濃さを決める2つの軸と3つの段
- 軸1=処分が侵す権利や不利益の重さ
- 軸2=法律がその判断を行政にどこまで任せているか
- いちばん濃い段=裁量の問題にせず、解釈で厳しく絞る
- 次の段=裁量は認めつつ、重視してよい事情や求める配慮を絞る〔剣道実技〕
- 基本の段=明らかな行き過ぎだけを見る
では、どこまで細かく決めるかは、何で決まるのか。前々回、審査の濃さを決める2つの軸を見ました。1つ目は、処分が侵す権利や不利益の重さ。2つ目は、法律がその判断を行政にどこまで任せているか。権利や不利益が重いほど、行政の判断ひとつで失われるものが大きいので、裁判所は、何を考えるべきか、どれをどれだけ重く見るべきかを、細かく決めて点検します。法律が行政に広く任せているほど、逆に、決め方は粗くなります。その濃さを、3つの段に並べました。いちばん濃いのは、裁量の問題にせず、解釈で厳しく絞る段。次が、裁量は認めつつ、重視してよい事情や求める配慮を絞る段。基本が、明らかな行き過ぎだけを見る段です。今日の話は、この濃さの違いを、考慮事項と重さをどこまで決めるか、という道具の側から見直したものです。剣道実技は、信仰に関わり、退学という重い不利益の場面なので、2つ目の段、重視してよい事情を絞る、濃い審査に入っていました。逆に、政策的、技術的な総合判断では、裁量を広く認めます。
図:道筋を見る審査の伸び
- 過程を追う審査は、行政が必要な調査を尽くしたか、説明を尽くしたかを問う方向へ伸びる可能性
- 例=二風谷の、必要な調査を怠ったという指摘
- 調査や説明は、行政調査や説明責任を扱う別の回
方向を1つ言っておきます。過程を追う審査は、行政が必要な調査を尽くしたか、説明を尽くしたかを問う方向へ伸びる可能性があります。二風谷の、必要な調査を怠った、という指摘が、その例です。調査や説明の話は、行政調査や説明責任を扱う別の回で見ます。
図:つまずきどころ
- 1 型②でも裁判所は結論が最善かを決め直さない:見るのは道筋に不合理があるか
- 2 重みづけは行政庁の仕事:裁判所は重さを付け直さず点検する〔最高裁の形では、重みの評価が明らかに合理性を欠くときだけ〕
- 3 他事考慮などの呼び名は判決の言葉ではなく、結論の文を講学上割った呼び名
- 4 考慮すべき事項は、趣旨・権利の性質・経緯から出る
つまずきどころを整理します。1つ目、この型でも、裁判所は、結論が最善かを決め直しません。見るのは、道筋に不合理があるかです。2つ目、重さを付けるのは、行政庁の仕事です。最高裁の形では、重みの評価が明らかに合理性を欠くときに、はじめて違法になります。3つ目、他事考慮などの3つの呼び名は、判決が付けた名前ではありません。結論の文を、講学上、3つに割った呼び名です。4つ目、考慮すべき事項は、趣旨、権利の性質、経緯から出てきます。冒頭の問いに戻ると、裁判所は、重さを自分で付け直しません。何をのせたか、のせた物の重さの付け方に、明らかな不合理がないかを見ます。判断代置と、判断過程審査の線は、ここにあります。判断過程審査は、論文で論点になりうる場面です。
今日の地図(保存版)
図:今日の整理
- 型②=行政庁自身の考慮と重みづけをたどる
- 下級審の原型=過程に誤りがあり判断が左右されれば違法
- 最高裁の形=過程の不合理の結果、社会観念上著しく妥当を欠く
- 3つの下位基準=他事考慮・評価の明白な合理性欠如・考慮不尽〔互いに排他的でない〕
- 考慮すべき事項の出どころ=趣旨・権利の性質・経緯
- 審査の濃さ=考慮事項と重さをどこまで確定するか
冒頭の問いに答えます。何を重く見るかは行政庁の仕事ですが、何を秤にのせたか、のせた物にどれだけの重さを与えたかに不合理があれば、違法になります。巨木を切る道路の事業は、最も尊重すべき景観を軽く見て、考慮すべきでない一時的な交通量を考慮して、判断が左右されたため、違法とされました。最高裁の形は、下級審の原型と違い、過程の不合理の結果、社会観念上著しく妥当を欠くときに違法になる、というものです。学校施設の判決の結論の文は、重視すべきでない考慮要素を重視する、考慮した事項への評価が明らかに合理性を欠く、当然考慮すべき事項を十分考慮しない、の3つを、1つの文に含んでいます。考慮すべき事項は、根拠法令の趣旨、権利の性質、経緯から出てきます。
図:今日の短答の誤り肢
- 日光太郎杉の東京高裁判決は最高裁の判例である〔誤り〕
- 考慮不尽とは考慮すべきでない事項を考慮することである〔誤り〕
- 学校施設の判決は専門機関の検討過程の不合理を理由に不許可を違法とした〔誤り〕
- 剣道実技の判決は代替措置を検討したがその結論が不合理として違法とした〔誤り〕
- 二風谷ダム事件で裁判所は収用裁決を取り消した〔誤り〕
最後に、短答の誤り肢です。日光太郎杉事件の東京高裁判決は、最高裁の判例である、は誤りです。高裁の判決です。最高裁が採った形は、過程の不合理の結果、社会観念上著しく妥当を欠く、というものです。考慮不尽とは、考慮すべきでない事項を考慮することである、も誤りです。考慮すべき事項を十分に考慮しないことです。考慮すべきでない事項を重視するほうが、他事考慮です。学校施設の判決は、専門機関の検討過程の不合理を理由に、不許可を違法とした、も誤りです。型②の事案で、教育委員会自身の考慮の評価が問題になりました。剣道実技の判決は、代替措置を検討したが、その結論が不合理だとして違法とした、も誤りです。判決は、代替措置について何ら検討することもなく、と言っています。考慮不尽の指摘です。二風谷ダム事件で、裁判所は収用裁決を取り消した、も誤りです。請求は棄却され、収用裁決が違法であることが宣言されました。
参照条文
- 土地収用法20条