指名回避・随意契約の争い方
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第6章 行政契約・行政指導・行政計画 #70/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
長年呼ばれてきた会社が、ある年から呼ばれなくなった
図:今日の問い
- A市が小学校の改修工事の指名競争入札に長年呼んできた市外の建設会社Bを、ある年度から呼ばなくなった
- 理由=市内の業者を育てたいから
- Bは何という訴えで、何を言って争えるか
今日は、その問いから始めます。設例は、前回と同じ、架空のA市です。A市は、小学校の改修工事を、指名競争入札で発注してきました。市外の建設会社Bは、その入札に、長年呼ばれていました。ところが、ある年度から、Bだけが呼ばれなくなりました。市の説明は、市内の業者を育てたいから、です。前回、自治体の契約は、一般競争入札が原則で、指名競争入札と随意契約は、政令で定める場合に限る、と見ました。その縛りが、現実の場面でどう効いてくるのか。縛りを破られたと感じた業者が、裁判所に何を求められるのか。それが今日の話です。結論から言うと、Bは、取り消せ、とは言えません。取消訴訟が使えないからです。では何を使うのか。そこから先に、今日の問いが全部で六つあります。まず、大きな三つを挙げます。一つ目、どんな訴えで争うのか。二つ目は、その訴えで何を主張するのか。三つ目、縛りに反して結ばれた契約は、無効になるのか。六つの問いを通して、一本の筋が出てきます。違法と無効は別、という筋です。市のやり方が違法だとしても、それだけで取消しができるとは限りませんし、結ばれた契約が無効になるとも限りません。この筋を、最後まで持ち歩いてください。
図:今日の道順
- 1 指名回避は取消訴訟の対象か
- 2 争う道は二つ
- 3 確認訴訟の難点と答えの筋
- 4 地元優先はいつ許されるか
- 5 随意契約が許される場合
- 6 違法な契約は無効か
- 7 まとめ
道順です。まず、指名回避が取消訴訟の対象になるのかを確かめます。次に、残る二つの争い方。三つ目に、その一つの難点。四つ目に、本案、つまり市のやり方の中身がどう審査されるか。五つ目は、随意契約が許される場合です。六つ目に、違法な契約の効力。最後に、短答の誤り肢で締めます。
指名回避は取消訴訟の対象になるか
図:設例の関係図
- A=A市
- B=市外の建設会社〔長年指名→指名回避〕
- C=市内の業者〔優先して指名〕
- 指名・指名回避は契約を結ぶ前の準備行為
一つ目の問いです。Bが取消訴訟を起こせるのは、市の行為が、処分に当たる場合だけです。取消訴訟の対象になる処分とは、公権力の行使に当たる行為のことです。第3章で見た、処分を見分ける3つの物差しの、3つ目です。法律が行政に、相手の同意がなくても一方的に決めてよい、と権限を与えている。それが公権力でした。詳しい当てはめは、取消訴訟の対象の回で見ます。今日は、指名回避が処分に当たるかどうかを、結論と理由の一言で押さえます。結論は、当たりません。指名や指名回避は、契約を結ぶ前の準備行為です。市が、誰と契約するかを決めるための、段取りにすぎません。契約そのものは、民法上の契約で、申込みと承諾の合意で成り立ちます。相手の意思に委ねられていて、市が一方的に、相手の権利や義務を決める話ではありません。Bが争っているのは、契約ではなく、呼ばれなくなったことです。ただ、呼ぶか呼ばないかは、市が誰と契約するかを選ぶ途中の一歩です。この一歩で、Bが何かを命じられたり、禁じられたりするわけではありません。段取りの段階で、公権力を使っているわけではない、というのが理由です。
⭐ 論文で書く規範:判例の整理:契約の準備行為である指名・指名回避は、取消訴訟の対象となる処分に当たらない (短答)
なお、指名の処分性を認める余地を示す見解もありますが、否定するのが一般的な理解です。たとえば、地域の大会に、どの選手を招くかを、主催者が決める場面を考えてみます。誰を招くかは、主催者の側の段取りです。招かれなかった選手の権利を、主催者が判定で一方的に奪ったわけではありません。指名もそれと同じで、契約という本番の前の、選び方の問題です。判例も、同じ筋を示しています。ある市が、市営の施設の移管先を決めるために、事業者を公募しました。応募した者は、市長から、提案について決定に至らなかった、という趣旨の通知を受けました。この通知が処分かどうかが争われました。判決の言葉を読みます。
判例最判平23・6・14 集民237号21頁
契約の相手を選ぶための募集に応募した者への、契約しない旨の通知は処分でない 以上によれば,紋別市長がした本件通知は,上告人が,契約の相手方となる事業者を選考するための手法として法令の定めに基づかずに行った事業者の募集に応募した者に対し,その者を相手方として当該契約を締結しないこととした事実を告知するものにすぎず,公権力の行使に当たる行為としての性質を有するものではないと解するのが相当である。したがって,本件通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないというべきである。
カードの上告人は、通知をした市のことです。ポイントは二つです。一つ目、募集は、法令の定めに基づいておこなったものではなく、契約の相手を選ぶための手法でした。二つ目、通知は、あなたとは契約しないことにした、という事実を知らせるだけでした。だから、公権力の行使に当たらず、抗告訴訟の対象となる処分ではない、と結論づけています。抗告訴訟とは、取消訴訟のように、行政庁の公権力の行使に不服を言う訴えの総称です。この判決の事案は、指名回避そのものではありません。契約の相手を選ぶための募集で、契約しないと伝えた通知です。ですから、指名回避は処分でない、と言い切った判決ではなく、同じ筋を支える一枚として読んでください。選び方の段階の行為は、公権力の行使でない。この筋が、指名回避にも及びます。ここで、通しの筋の最初の一点です。指名回避が違法かどうかと、取消訴訟で争えるかどうかは、別の問題です。違法でも、取消訴訟の入口で、門前払いになりえます。では、Bには、もう道がないのでしょうか。
残る道は二つ——賠償と地位の確認
図:二つの争い方の比較
二つ目の問いです。取消訴訟が使えないなら、道は二つ残ります。一つ目は、国家賠償請求です。指名回避が違法で、そのせいで損害が出たとして、その賠償を求めます。外された年度の入札で、受注できていれば得られたはずの利益などです。過去に出た損害を、お金で埋め合わせる道です。二つ目は、公法上の当事者訴訟としての、確認訴訟です。競争に参加する地位がある、と確認してもらう訴えです。将来の入札に、また呼ばれる立場を取り戻すための道です。条文を読みます。
条文行政事件訴訟法4条
行政事件訴訟法第4条 この法律において「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。
前半は、処分に関する法律関係を争う型で、形式的当事者訴訟と呼びます。今日使うのは、後半です。公法上の法律関係に関する確認の訴え、つまり、実質的当事者訴訟の一つとしての、確認訴訟です。公法上の関係で、ある地位があるのか、ないのかを、裁判所に確かめてもらう訴えです。今日のBで言えば、民法ではなく、地方自治法と施行令の入札のルールが決めている、市との関係です。詳しい定義や使い方は、当事者訴訟の回で見ます。二つを比べます。国家賠償は、求めるものが損害の賠償で、手に入るのは、過去の損害の埋め合わせです。確認訴訟は、求めるものが、競争に参加する地位の確認で、手に入るのは、次の入札から、堂々と呼ばれる立場です。時間の向きが違います。一方は過去、もう一方は将来です。判例上の位置づけも、違います。国家賠償は、後で見る、指名回避の判決が、実際に審理した型です。確認訴訟のほうは、学説が提案している筋です。前回見たとおり、入札のルールは、税金の使い方だけでなく、参加の機会を均等にする公正性のためにも置かれています。そうなら、そのルールは、業者が公正に扱われる立場も守っている、と読めます。自治体の契約のルールによって、公共の契約の相手方として公正に扱われる地位が、法的に守られる利益だと認められるなら、その地位の確認を求められる。これが、理屈の筋です。判例が、この型を確立している、とは言えません。この区別は、答案でも大事です。
主催者の選び方そのものを取り消せ、とは言えなくても、この二つなら求められます。
⭐ 論文で書く規範:解釈(学説上の整理):指名回避を受けた業者は、国家賠償請求のほか、競争に参加する地位の確認を求める公法上の当事者訴訟を考えられる (論文の骨格)
国家賠償請求で、違法かどうかをどう判断するかは、国家賠償の回で見ます。今日は、賠償の訴えの中身として、指名回避が違法かが審査された、という形で見ていきます。もう一点、確認しておきます。国家賠償で求めるのは、お金です。市が結んだ契約を無効にしたり、Bを必ず呼ばせたりする訴えではありません。違法と無効は別、という筋は、ここでも出てきています。
確認訴訟の難点と、答えの筋が二つ
図:確認の利益の難点と答えの筋
- 難点=争っている間に別の業者が落札したら確認しても意味が無いのでは
- 筋①=取消判決の拘束力の規定が当事者訴訟に準用される→勝てば入札のやり直しを求める根拠になる
- 筋②=事情が変わらない限り今後も外され続けると見込まれる→将来の指名回避を防ぐ意味がある
- どちらも学説上の解釈の筋
三つ目の問いです。確認訴訟には、難点があります。確認の利益、つまり、判決で確認してもらう意味があるか、という点です。Bが、競争に参加する地位の確認を求めて、訴えを起こしたとします。裁判には時間がかかります。その間に、問題の小学校の改修工事は、別の業者が落札して、契約も済んでしまいました。いまさら地位を確認してもらっても、その工事に間に合うわけではありません。確認する意味が無いのでは、という疑いです。別の業者が落札して契約も済んだ工事について、いまさら地位を確認する意味があるのか。この疑いに対する、答えの筋が二つあります。いずれも、学説上の解釈の筋です。判例が、確認の利益は当然にある、と結論を出したわけではありません。一つ目の筋を説明するために、条文を二つ読みます。
条文行政事件訴訟法33条1項
行政事件訴訟法第33条第1項 処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。
条文行政事件訴訟法41条1項
行政事件訴訟法第41条第1項 第二十三条、第二十四条、第三十三条第一項及び第三十五条の規定は当事者訴訟について、第二十三条の二の規定は当事者訴訟における処分又は裁決の理由を明らかにする資料の提出について準用する。
33条1項は、取消判決が、行政庁を拘束する、という定めです。取消訴訟で勝ったら、行政庁は、判決の趣旨に従って動かなければなりません。そして41条1項は、その33条1項を、当事者訴訟にも準用する、つまり、借りてくる、と定めています。ここから、解釈の筋が出てきます。確認訴訟でBが勝てば、その判決の拘束力が市にも及ぶ。判決の趣旨は、Bには競争に参加する地位がある、ということです。市はその地位を前提に、改めて判断しなければならず、Bを外したまま決めた結果を、そのままにしておけません。これが、入札のやり直しを求める根拠です。だから、すでに別の業者が落札していても、確認の利益は残る、という筋です。二つ目の筋です。事情が変わらない限り、市は今後も、Bを呼ばないだろうと見込まれます。今回の工事が終わっても、次の年も、その次の年も、Bは外され続けるかもしれません。そうなら、地位の確認には、将来の指名回避を防ぐ意味があります。だから、確認の利益はある、という筋です。
⭐ 論文で書く規範:解釈(学説上の整理):確認訴訟の確認の利益は、①取消判決の拘束力の規定が当事者訴訟に準用される(行訴法41条1項・33条1項)ので、勝てば入札のやり直しを求める根拠になる、②事情が変わらない限り将来も外され続けると見込まれる、の二つの筋から認められうる (論文の骨格)
ここで、短答の注意です。確認の利益が当然に認められると判例が述べた、という選択肢は、誤りです。確認の利益の一般的な判断のしかたは、確認の利益の回で見ます。今日は、この場面への当てはめまでです。
本案——地元優先はいつ許されるか
図:本案の出発点
- 地方自治法・施行令の趣旨=機会均等・公正性・透明性・経済性
- 一般競争入札が原則・指名競争入札と随意契約は例外〔政令の場合に限る〕
- 指名競争入札を認める施行令167条=一〜三号が列挙
四つ目の問いです。国家賠償でも、確認訴訟でも、本案、つまり市のやり方が違法かどうかが問われます。何を理由に、地元優先が許され、何を理由に許されないのか。指名回避が実際に争われた判決で、見ていきます。出発点で、1問です。前回見た、自治体が契約の相手を選ぶ方法の原則は、何でしたか?一般競争入札です。指名競争入札と随意契約は、例外でした。例外の根拠になる条文を、もう一度読みます。
条文地方自治法234条2項
地方自治法第234条第2項 前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。
指名競争入札が許される場合は、政令、つまり施行令の167条が、一号から三号まで列挙しています。個別の細かい号は、板で確かめてください。覚える対象は、条文の中身ではなく、これから見る判決の考え方です。判決は、まず、この縛りの趣旨を確認します。経費が住民の税金で賄われることなどから、機会均等の理念に最も適合して公正で、価格の有利性を確保できる一般競争入札を原則とし、それ以外は例外的な位置づけだ、と読みます。そして、地方自治法などの法令は、入札について、機会均等、公正性、透明性、経済性を確保しようとしている、とまとめています。前回の三つの理由、経済性、公正性、透明性と、同じ言葉です。そのうえで、地元優先の指名をどう見るか。ここで、前に学んだ審査を一つ思い出してください。処分の裁量で、考慮すべき事項を考慮したかを見る審査を、何と呼びましたか?
判断過程審査です。結果ではなく、結論に至る道筋を見る審査です。契約の場面でも、同じ手法が使われます。指名の相手を選ぶ権限は、契約担当者の裁量に委ねられています。ただ、その裁量にも、考慮すべきことを考慮しているか、という縛りがかかります。判決の言葉を読みます。
判例最判平18・10・26 集民221号627頁
地元優先の指名の合理性と、一律の運用の限界 確かに,地方公共団体が,指名競争入札に参加させようとする者を指名するに当たり,①工事現場等への距離が近く現場に関する知識等を有していることから契約の確実な履行が期待できることや,②地元の経済の活性化にも寄与することなどを考慮し,地元企業を優先する指名を行うことについては,その合理性を肯定することができるものの,①又は②の観点からは村内業者と同様の条件を満たす村外業者もあり得るのであり,価格の有利性確保(競争性の低下防止)の観点を考慮すれば,考慮すべき他の諸事情にかかわらず,およそ村内業者では対応できない工事以外の工事は村内業者のみを指名するという運用について,常に合理性があり裁量権の範囲内であるということはできない。
カードの村内業者は、発注した村の地元の業者、村外業者は、そうでない業者のことです。この文章を、順にほどきます。前半は、地元優先に合理性がある、という部分です。理由は二つ。一つ目、現場に近くて、現場の知識があれば、契約の履行を確実に期待できる。二つ目、地元の経済の活性化に役立つ。この二つから、地元の企業を優先する指名には、合理性が認められます。後半は、ただし、という部分です。この二つの理由は、地元外の業者にも当てはまりえます。地元に営業所や機材があり、同じ条件を満たす地元外の業者も、いるかもしれません。しかも、指名する業者を減らせば、競争が弱まり、価格の有利性が損なわれます。ですから、地元の業者では対応できない工事以外は、地元の業者だけを指名する、という運用は、他の事情にかかわらず、常に合理的で裁量の範囲内とは言えない、と判断しました。
図:地元優先の境界
- 合理性あり=急な屋根の修理に現場へ常駐できる市内業者
- 疑わしい=市内に営業所・機材・人員を備えたBを、市外に本店があるというだけで外す
境界を、A市の例で確かめます。こういう場合は、地元優先に合理性があります。急に傷んだ小学校の屋根を、すぐ直さなければならず、現場に常駐できる市内の業者でなければ、確実に間に合わない場合です。現場への近さが、履行の確実さに直結しています。反対に、合理性が疑われるのは、こういう場合です。市内に営業所を構え、機材も人員も、市内の業者と同じ条件で用意できるBがいるのに、市外に本店がある、というだけで、他の事情を一切見ずに外すこと。履行の確実性も、地元経済への寄与も、Bについて検討されていません。
⭐ 論文で書く規範:判例の読み方:地元企業を優先する指名には、履行の確実性と地元経済への寄与から合理性がある。しかし条件を満たす地元外業者もありうるので、地元外であることだけで一律に外す運用は、常に裁量の範囲内とはいえない (短答・論文共通)
次の部分です。判決は、村が、形式的に地元外と判断して、それだけを理由に、他の条件を問わず、一切指名しない措置をとっていたとすれば、どうなるかを述べています。
判例最判平18・10・26 集民221号627頁
地元外であることのみを重視する措置は、裁量の逸脱濫用を否定できない ……考慮すべき事項を十分考慮することなく,一つの考慮要素にとどまる村外業者であることのみを重視している点において,極めて不合理であり,社会通念上著しく妥当性を欠くものといわざるを得ず,そのような措置に裁量権の逸脱又は濫用があったとまではいえないと判断することはできない。
図:一律に外す措置の読み方
- 考慮すべき事項を十分考慮しない
- 地元外という一つの要素だけを重視
- →極めて不合理・裁量の逸脱濫用を否定できない
- 差戻し=違法の確定ではない
読み方は三段です。考慮すべき事項を十分考慮していない。地元外であることという、一つの要素だけを重視している。だから、極めて不合理で、裁量の逸脱や濫用がなかったとは言えない、です。考慮すべきを考慮したか、という判断過程審査の手法が、契約の場面にも及んでいます。第5章の2段で言えば、地元外という一つの材料だけを重く見て、ほかの材料を入れていない。材料を選ぶ段の考慮不尽と、重さを付ける段の過大な評価に、またがる型です。なぜ、そう結論づけられるのか。決め手は、地元外であるという一つの要素が、履行の確実性にも、地元経済への寄与にも、直接は結びついていない点です。そのような一点だけで、他の条件を問わず外すと、機会均等と、価格の有利性という、入札の趣旨が損なわれるからです。
地元の業者かどうかの判定基準がはっきりしない運用は、どう評価されるのか。判決は、この点にも触れています。何が地元の業者にあたるのか、判定の基準が明らかに定められていない運用は、担当者の恣意的な運用を可能にします。それは、入札の趣旨にも反する、という指摘です。結論です。この判決は、平成12年度以降の指名回避に関する部分について、原判決を破棄して、差し戻しました。ここが大事です。村の指名回避が違法だと、確定したわけではありません。他の事情も含めて、職務上の義務に違反する違法があったのかどうかを、審理し直させる、という差戻しです。違法と、違法の確定は別、ということも、持ち帰ってください。
随意契約が許される場合
図:随意契約の許される場合
- 根拠=地方自治法234条2項〔政令で定める場合に限る〕
- 施行令167条の2第1項=少額〔1号〕・性質又は目的が競争入札に適しない〔2号〕・緊急〔5号〕・競争入札が不利〔6号〕など
- 縛りはあるが、当てはめには契約担当者の合理的な裁量
五つ目の問いです。次は、随意契約です。前回、例外も条文で縛られている、と見ました。地方自治法の234条2項が、政令で定める場合に限る、と絞っていました。その政令の中身を見ます。
条文地方自治法施行令167条の2第1項(柱書・第2号の抜粋)
地方自治法施行令第167条の2第1項(柱書・第2号の抜粋) 地方自治法第二百三十四条第二項の規定により随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。 二 不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。
骨格は、随意契約ができる場合として、少額のとき、性質や目的が競争入札に適しないとき、緊急のときなどを、列挙しているというものです。号は9号まであります。今日はそのうち、2号を使います。問題は、競争入札に適しない、とは、どういう場合か、です。競争入札が不可能な場合に限るのか。それとも、もう少し広いのか。判決の答えは、二つの部分に分かれます。競争入札に適しない、とはどういう場合か。そして、それに当たるかを、誰がどう決めるのか、です。この点を判断した判決を読みます。なお、カードの中の同項一号は、判決当時の番号で、中身は、いま読んだ2号と同じです。覚えるのは、今の2号です。
判例最判昭62・3・20 民集41巻2号189頁
「競争入札に適しない」は、不可能な場合に限らない ……競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが、不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も同項一号に掲げる場合に該当するものと解すべきである。
まず、競争入札に適しない場合は、競争入札が不可能か、著しく困難な場合だけではない。競争に付すことも、できなくはないが、相応の資力、信用、技術、経験を持つ相手を選んで契約したほうが、契約の目的を果たすうえでより妥当で、自治体の利益にもつながる、と合理的に判断される場合も含む、と読みます。続きを読みます。
判例最判昭62・3・20 民集41巻2号189頁
当たるかどうかは、契約担当者の合理的な裁量判断で決める ……そして、右のような場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている前記法及び令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である。
次に、そうした場合にあたるかどうかは、法令の趣旨を踏まえたうえで、一件ごとに、種類、内容、性質、目的などの事情を考慮して、契約担当者の合理的な裁量判断で決める、とします。競争入札が不可能でなくても随意契約にできるとなると、随意契約の範囲が広がりすぎないか、という心配が出ます。広がり過ぎないための歯止めが、二つあります。一つは、2号という条文の枠があること。もう一つは、合理的に判断されること、という要件です。縛りはあるが、当てはめには裁量がある。これが、この判決の筋です。境界を、A市の例で確かめます。合理性が認められやすいのは、こういう場合です。市の庁舎の、古い管理システムの保守を、そのシステムを作った会社に頼む。競争に付すことも、不可能とまでは言えません。でも、仕組みを知る会社に任せたほうが、確実で、結局は市の利益になります。認められにくいのは、こういう場合です。大規模な工事を、市長の知り合いだから、という理由で、直接頼む。相手を選ぶ理由が、契約の目的に結びついていません。前回の冒頭の、市長の知り合いの会社から、消防車を言い値で買う話も、同じ型です。
⭐ 論文で書く規範:判例の規範:「競争入札に適しない」とは、競争入札が不可能又は著しく困難な場合に限らない。相応の資力・信用・技術・経験等を有する相手を選ぶ方が契約の性質や目的に照らしより妥当で、自治体の利益につながると合理的に判断される場合も含む。該当性は、法令の趣旨を勘案し、契約ごとに、契約担当者の合理的な裁量判断で決める (短答)
結論です。この事件では、随意契約を違法とした原判決を破棄して、差し戻しました。その余の違法事由を、審理させるためです。短答では、随意契約が許されるのは、競争入札が不可能又は著しく困難な場合に限る、は誤りです。
違法な契約は無効か
図:違法と無効は別
- 随意契約の制限に反して結ばれた契約=違法
- 原則=私法上は有効
- 無効になるのは、無効としなければ法令の趣旨を没却する特段の事情がある場合に限る〔例=何人の目にも明らか/相手方が知り又は知り得た〕
- 無効でないなら履行行為は違法でなく、住民訴訟での差止めは認められない
- 是正の道=契約をした長らの責任を問う住民訴訟〔別の回〕
六つ目、最後の問いです。随意契約の制限に反して、契約が結ばれてしまったとします。その契約は、無効になるのでしょうか。ここで1問です。第1章で、行政法規に違反した契約の効力を見ました。行政法規に違反した契約が、有効か無効かは、何で決まるのでしたか?法令の趣旨と目的を踏まえて、個々の取引ごとに決まります。強行規定は、違反すれば契約まで無効にする規定。取締規定は、決まりを守らせるための規定で、違反しても効くのは行政の側でした。今日の判決は、強行か取締かのラベルは貼りません。第1章の3つの問いのうち、規定の趣旨と、無効にする必要、無効にして困る人を、この場面の言葉で問います。だから、無効になる特段の事情も、第1章の和解契約の判決のような、公序良俗違反の性質を帯びるか、ではありません。無効にしないと、規定の趣旨が台無しになるか、です。答えは、二つの部分に分かれます。一つは、契約そのものが有効か。もう一つは、その結果、住民が支払いを止められるか、です。まず一つ目を読みます。
判例最判昭62・5・19 民集41巻4号687頁
違法な随意契約も、原則は私法上有効——無効になるのは特段の事情がある場合に限る かかる違法な契約であつても私法上当然に無効になるものではなく、随意契約によることができる場合として前記令の規定の掲げる事由のいずれにも当たらないことが何人の目にも明らかである場合や契約の相手方において随意契約の方法による当該契約の締結が許されないことを知り又は知り得べかりし場合のように当該契約の効力を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える前記法及び令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に限り、私法上無効になるものと解するのが相当である。
構造は三段です。一つ目、制限に反した契約は違法です。二つ目、それでも、私法上、当然に無効にはならない。三つ目、無効になるのは、無効としなければ、随意契約を制限する法令の趣旨を没却してしまう、つまり台無しにしてしまう、特段の事情がある場合に限る、です。特段の事情の例が、判決に二つあります。例なので、この二つに限るわけではありません。一つ目は、令の掲げる事由のどれにも当たらないことが、何人の目にも明らかな場合です。たとえば、A市が、少額でもなく、緊急でもなく、競争に適さない事情も何もない大規模な工事を、理由もなく、特定の会社に直接頼んだ場合です。二つ目は、契約の相手方が、随意契約が許されないことを、知っていたか、知り得た場合です。たとえば、業者自身が、入札を省いてほしいと市長に頼み込み、許されないと分かっていた場合です。
違法な契約が、それでも原則は有効とされるのはなぜか。理由は二つあります。一つ目、法令は、契約の適正を、一般的、抽象的な見地から図るものだからです。個々の契約を、一つ残らず無効にしろ、という趣旨とは限りません。二つ目、相手方は、随意契約の事由に当たるかどうかを、いつも自分で判断できるわけではないからです。当然に無効とすれば、市の判断を信じて工事を終えた業者が、思いがけず代金を請求できなくなり、不測の損害を受けます。取引の安全を守る必要があるのです。買い物の例で考えてみます。店が仕入れの手続を誤ったのに、すでに売り買いの済んだ商品が、あとからすべて無効になったら、客は困ります。違法と無効は別、という筋は、この取引の安全に支えられています。
図:無効でないときの道
- 無効でない→契約上の債務を履行する義務を負う→履行行為〔例=代金の支払い・登記の手続〕は違法でない→住民訴訟で差止めは求められない
- それでも放っておかれない=契約をした市長らの責任を住民訴訟で問う〔市の損害を長らに賠償させる〕
判決の答えの、二つ目です。この事件は、町が町有地を売る契約を結び、住民が、その履行である所有権移転の登記の手続を止めるよう求めた、住民訴訟でした。住民訴訟は、法律の留保の回で触れた、住民が、自分の町の違法な公金の使い方を、裁判で争える仕組みです。判決の言葉を読みます。
判例最判昭62・5・19 民集41巻4号687頁
契約が無効でないとき、履行の差止めは住民訴訟で求められない ……当該契約が仮に随意契約の制限に関する法令に違反して締結された点において違法であるとしても、それが私法上当然無効とはいえない場合には、普通地方公共団体は契約の相手方に対して当該契約に基づく債務を履行すべき義務を負うのであるから、右債務の履行として行われる行為自体はこれを違法ということはできず、このような場合に住民が法二四二条の二第一項一号所定の住民訴訟の手段によつて普通地方公共団体の執行機関又は職員に対し右債務の履行として行われる行為の差止めを請求することは、許されないものというべきである。
結論は、こうです。契約が無効でなければ、自治体は契約に基づく債務を履行する義務を負います。その履行として行われる行為は、この事件では登記の手続ですが、それ自体、違法とは言えません。たとえば工事代金の支払いも、一般則の当てはめとして同じです。ですから、住民が、履行行為の差止めを住民訴訟で求めることは、許されません。この事件では、特段の事情はないとされ、差止めを認めた原判決は破棄されて、請求が棄却されました。では、違法な随意契約は、放っておかれるのか。そうではありません。契約をした市長らの責任を、住民訴訟で問う道があります。市が被った損害を、長らに賠償させる、という形です。名前と役割は、ここで押さえてください。仕組みの詳しい中身は、住民訴訟の回で見ます。違法でも、取消しの対象になるとは限らず、契約が無効になるとも限らない。だから道は、取消しではなく、賠償と地位の確認、そして責任の追及になります。違法と無効は別、という今日の筋は、ここで閉じます。
⭐ 論文で書く規範:判例の規範:随意契約の制限に反して締結された契約は違法だが、私法上当然に無効にはならない。無効としなければ制限を加える法令の趣旨を没却する特段の事情がある場合(何人の目にも明らか、相手方が知り又は知り得たなど)に限り無効となる。無効でなければ、履行の差止めを住民訴訟で求めることはできない (短答・論文共通)
今日の地図(保存版)
図:今日の持ち帰り
- 1 指名・指名回避は準備行為=取消訴訟の対象外
- 2 争う道=国家賠償と確認訴訟〔確認訴訟は学説上の筋〕
- 3 確認の利益の答えの筋二つ=解釈
- 4 地元優先は常には許されない・考慮すべきを考慮したか
- 5 随意契約の該当性は契約担当者の合理的裁量
- 6 違法な随意契約も原則有効・特段の事情で無効
冒頭の問いに答えます。Bは、呼ばなくなった決定を取り消せ、とは言えません。指名回避は、契約の準備行為で、取消訴訟の対象になる処分ではないからです。Bの道は、国家賠償と、競争に参加する地位の確認です。市の説明が、市内の業者を育てたいから、だけで、地元外というだけで一律に外すなら、考慮すべきを考慮していないとして、違法の評価を受けるおそれがあります。持ち帰りは六点です。一点目、指名や指名回避は準備行為で、取消訴訟の対象外。二点目、争う道は、過去の損害を埋める国家賠償と、将来の地位を確認する確認訴訟。三点目、確認訴訟の確認の利益には、取消判決の拘束力の準用と、将来も外され続ける見込み、という解釈の筋が二つある。四点目、地元優先には合理性があるが、一律に外す運用は常には許されず、考慮すべきを考慮したかを見る。五点目、随意契約の該当性は、契約担当者の合理的な裁量で決まる。六点目、違法な随意契約も、原則は有効で、特段の事情があるときだけ無効になる。
図:今日の短答の誤り肢
- 指名回避は取消訴訟の対象となる処分である〔誤り〕
- 地元企業の優先指名は地元外であることを理由とする限り常に適法〔誤り〕
- 随意契約が許されるのは競争入札が不可能又は著しく困難な場合に限る〔誤り〕
- 随意契約の制限に違反した契約は当然に無効〔誤り〕
- 確認の利益は当然に認められると判例が述べた〔誤り〕
最後に、短答の誤り肢を五つ。一つ目。指名回避は、取消訴訟の対象となる処分である。誤りです。契約の準備行為で、処分ではありません。二つ目。地元企業を優先する指名は、地元外であることを理由とする限り、常に適法である。誤りです。優先に合理性は認められても、地元外であることだけで一律に外す運用は、常には許されません。三つ目。随意契約が許されるのは、競争入札が不可能又は著しく困難な場合に限られる。誤りです。相手を選ぶほうがより妥当と合理的に判断される場合も含みます。四つ目。随意契約の制限に違反して締結された契約は、当然に私法上無効である。誤りです。原則は有効で、特段の事情があるときだけ無効です。五つ目。確認訴訟で確認の利益が当然に認められると、判例が述べた。誤りです。今日見た二つの筋は、学説上の解釈です。
参照条文
- 行政事件訴訟法4条
- 行政事件訴訟法33条1項
- 行政事件訴訟法41条1項
- 地方自治法234条2項
- 地方自治法施行令167条の2第1項(柱書・第2号の抜粋)