給水契約の締結強制と「正当の理由」
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第6章 行政契約・行政指導・行政計画 #71/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
500戸のマンションの給水申込みが来た
図:今日の問い
- B市の市営水道に大手のC社が500戸のマンションの給水を申し込んだ
- 問1=「うちの開発の指導に従っていないから水は出さない」と言えるか
- 問2=「このままでは市全体の水が足りなくなるから」なら言えるか
今日は、その素朴な疑問から始めます。設例は、架空のB市です。B市は、水道を市で経営しています。そこへ、大手の不動産会社C社が、500戸のマンションの給水を申し込んできました。ここで、問いが二つあります。一つ目。C社は、B市が出している宅地開発の指導に、従っていません。市は、指導に従わない会社には水は出さない、と断れるでしょうか。二つ目。市の水源には限りがあって、500戸分が増えると、市全体の水が足りなくなりそうです。水が足りなくなるから、という理由なら、断れるでしょうか。結論から言うと、一つ目は断れません。二つ目は、条件がそろえば、断れます。同じ、断る、でも、分かれ目があります。その分かれ目を、今日は一本の筋で通します。その筋は、何のために断るのか、です。断る理由が、水道という事業そのものに関わっているのか。それとも、別の目的を実現するために、水を使っているのか。この問いを、最後まで持ち歩いてください。
図:設例の関係図
- A=B市〔水道事業者〕
- B=C社〔給水契約の申込み〕
- C=マンションの購入者・住民〔入居に水が要る〕
関係を整理します。B市が水道事業者、C社が申込みをする側で、その先にマンションの購入者たちがいます。購入者たちは、入居したら、その日から水が要ります。
図:今日の道順
- 1 給付行政と契約
- 2 水道法15条1項=断れない契約
- 3 場面1 指導要綱に従わない
- 4 場面2 重大な違法建築
- 5 場面3 水不足
- 6 3つの場面の比較
- 7 契約か処分か・措置から契約へ
- 8 まとめ
道順です。まず、給付の場面でなぜ契約が使えるのかを見ます。次に、水道法15条1項が、契約の自由をどう修正しているか。そのうえで、断れるかどうかの三つの場面を、順に見ていきます。三つをならべて比べたあと、最後に、同じ給付でも契約でなく処分になる場合があることを確かめます。
給付の場面で、なぜ契約が使えるのか
図:三つの行政領域と契約
- 調達=民法上の契約が基本
- 規制〔侵害〕=行政行為が中心・契約は例外
- 給付=契約が積極的に使われる〔水道の給水契約・バスの運送契約〕
- 法律の留保が及ばない給付は方式に幅がある
まず、土台の問いです。行政が住民にサービスを出す、給付の場面で、契約がよく使われるのはなぜか。行政が動くのに、法律の根拠が要るか。これが、法律の留保の問いでした。ここで1問です。第1章で見た、侵害留保説は、どんな行政活動に法律の根拠を求める説でしたか?私人の自由と財産を侵害する行為です。それ以外には、法律の根拠は要らない、という説でした。給付は、住民にサービスを出す活動ですから、自由や財産を侵害するわけではありません。侵害留保説に立てば、給付には、法律の留保が及びません。法律の根拠が無くても、行政は給付をおこなえます。したがって、どんな方式で給付を出すかにも、幅があります。その幅の中で、実務は、契約という方式を積極的に使ってきました。この章の最初の回で見た、三つの領域で整理します。調達、つまり消防車を買うような、行政が必要な物を手に入れる場面は、民法上の契約が基本でした。規制、つまり相手に守らせる侵害の場面は、一方的に決める行政行為が中心で、契約は例外です。給付は、契約が積極的に使われます。相手に何かを強いるのではなく、サービスを受けたい人と、出す側が、申込みと承諾で結ぶ形が、よくなじむからです。
留保が及ばないというのは、法律が無くてもできる、という意味です。法律が方式を決めてはいけない、という意味ではありません。現に、法律が契約という方式を選んでいる例があります。水道の給水契約は水道法が、バスの運送契約は道路運送法が、それぞれ契約の形で組んでいます。今日は、そのうち水道を詳しく見ます。なお、規制の領域でも、契約が全く許されないわけではありません。公害を防ぐための約束などがそうです。
⭐ 論文で書く規範:給付行政では、法律の留保が及ばないため方式に幅があり、契約が積極的に使われる。ただし法律が契約や処分の形を選んでいる場合は、その形による (短答)
水道法15条1項——断れない契約
図:15条1項の構造
- 民法521条1項=契約をするかどうかは自由
- ただし法令に特別の定めがある場合を除く→水道法15条1項=申込みを受けたら正当の理由がなければ拒めない〔締結の強制〕
- 理由=公益性〔生活に欠かせない〕+他から買えない〔給水区域は重ならない〕
- 罰則=53条3号
次に、水道の仕組みを確認します。水道事業は、原則として、市町村が経営します。水道事業者は、料金などの供給条件を、供給規程に定めます。そして、実際に水が供給されるのは、水道事業者と需要者の間の、給水契約によります。申込みと承諾で成り立つ、民法上の契約の形です。そうすると、契約自由の原則が気になります。民法の条文を読みます。
条文民法521条1項
民法第521条第1項 1 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
契約をするかどうかは自由です。ただし、法令に特別の定めがある場合は除かれます。水道法15条1項が、まさにその、法令の特別の定めです。
条文水道法15条1項
水道法第15条第1項 1 水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならない。
水道事業者は、給水区域内の需要者から申込みを受けたら、正当の理由がなければ、拒んではなりません。契約自由の原則の修正です。結ぶかどうかの自由が、制限されています。これを、締結の強制、締約強制と呼びます。断れない契約、と覚えてください。ここで1問です。第5章で、この正当の理由を、裁量の観点から見ました。正当の理由のような言葉が条文にあるとき、水道事業者に裁量はあるでしょうか?無いです。拒むと罰則がかかる構成要件になる規定なので、何が正当の理由かは、裁判所が自分で判断します。罰則は水道法53条3号が定めています。刑罰がかかるかどうかを、市の判断に任せるわけにはいきません。だから、市が、これくらいなら正当だろう、と決めるのではなく、裁判所が決めます。今日の三つの場面は、その、裁判所が決めた中身です。
図:水道だけ断れない二つの理由
- 1 公益性=日常生活に直結し健康を守るために欠かせない
- 2 他から買えない=給水区域は他の事業者の区域と重ならない
理由は二つあります。一つ目は、水道の公益性です。条文を読みます。
条文水道法2条1項
水道法第2条第1項 1 国及び地方公共団体は、水道が国民の日常生活に直結し、その健康を守るために欠くことのできないものであり、かつ、水が貴重な資源であることにかんがみ、水源及び水道施設並びにこれらの周辺の清潔保持並びに水の適正かつ合理的な使用に関し必要な施策を講じなければならない。
水は、日常生活に直結して、健康を守るために欠かせません。水が出なければ、人は暮らせません。この条文は、あとで、もう一度使います。水が貴重な資源だ、という部分です。二つ目は、申込みをする側が、ほかから水を買えないことです。しかも、事業者の給水区域は、他の事業者の区域と重ならないことが、認可の要件です。つまり、ある区域の水は、その区域を受け持つ事業者から買うしかありません。たとえてみます。町に、井戸が一つしかない。他に水を汲める場所はありません。その井戸の持ち主が、気に入らない人には汲ませない、と言えたら、断られた人は暮らしていけません。生活に欠かせず、しかも他に選べない。だから、法律が、断れない契約にしたのです。バスも同じ型です。道路運送法は、運送の引受けを、決められた事由のほかは拒んではならない、と定めています。ただ、書き方が違います。水道法は、正当の理由、の一語です。バスは、断れる事由を列挙しています。ここが、今日の、つまずきどころです。締結を強制されると、契約が処分に変わる、と思ってしまう人がいます。変わりません。給水契約は契約のままです。強制されるのは、結ぶか結ばないか、だけです。市が断るとしても、それは契約の締結拒否であって、市が一方的に相手の権利を決める行為ではありません。実際、この点を争った裁判も、取消訴訟の形ではありません。場面1で見る事件は、水道法違反で起訴された刑事事件です。場面3で見る事件は、給水契約の承諾などを求めた、民事の訴えです。民事の訴えの側は、契約の承諾を求める形で、取消訴訟ではありません。
⭐ 論文で書く規範:水道法15条1項は、民法521条1項が言う法令の特別の定めとして、給水契約の締結を強制する。強制されるのは締結の有無だけで、契約は契約のまま。処分に変わるのではない (短答・論文共通)
場面1——指導要綱に従わない事業者への給水拒否
図:場面1の設例
- B市は宅地開発の指導要綱で事業者に指導をおこなっている
- C社は従わない意思を明確に表明
- マンション購入者は入居に水が現実に必要
- 市「従わない会社には給水契約を結ばない」→水を圧力手段にしている
三つの場面に入ります。一つ目は、冒頭の問いの一つ目、指導に従わないから水は出さない、です。設例を、少し具体にします。B市には、宅地開発についての、指導要綱があります。開発をする事業者に、一定の協力を求める内容です。要綱は法律ではありません。従うかどうかは、事業者の任意の判断です。C社は、その要綱に従わない、と市にはっきり伝えました。ところが、マンションの購入者たちは、もう入居の時期が近づいていて、水が現実に必要です。市は、要綱に従わない会社とは、給水契約を結ばない、と言っています。
図:場面1の決定
- 最決平元・11・8=要綱に従う意思はないと表明した建設会社と購入者から給水契約の申込書
- 被告人らが受領を拒絶・水道法違反で起訴
- 判断は二つ=要綱を守らせる断りは正当の理由か・はっきり断らず待たせても断ったことになるか
この場面を扱った、最高裁の決定があります。事案は、これに近い形でした。市の宅地開発に関する指導要綱に従う意思はない、と表明した建設会社と、その購入者から、給水契約の申込書が出されました。水道事業者の側の被告人らは、この申込書の受領を拒絶しました。水道法違反として起訴された事件です。この決定の判断は、二つに分かれます。一つ目は、要綱を守らせるために断ることが、正当の理由になるか。二つ目は、はっきり断らずに待たせることも、断ったことになるか。まず、その一つ目の言葉を読みます。
判例最決平元・11・8 判時1328号16頁
指導要綱を守らせる圧力手段として給水を拒むことは、正当の理由に当たらない 被告人らは、右の指導要綱を順守させるための圧力手段として、水道事業者が有している給水の権限を用い、指導要綱に従わないA建設らとの給水契約の締結を拒んだものであり、その給水契約を締結して給水することが公序良俗違反を助長することとなるような事情もなかったというのである。そうすると、原判決が、このような場合には、水道事業者としては、たとえ指導要綱に従わない事業主らからの給水契約の申込であっても、その締結を拒むことは許されないというべきであるから、被告人らには本件給水契約の締結を拒む正当の理由がなかったと判断した点も、是認することができる。
カードのA建設らは、要綱に従わなかった建設会社などのことです。この文章を、順にほどきます。まず、圧力手段として、という言葉です。要綱を守らせるために、水道事業者が持っている給水の権限を、使ったわけです。水道は、本来、水を供給するための事業です。それを、要綱という別の目的を実現するための、てこにしました。次に、公序良俗違反を助長することとなるような事情もなかった、という部分です。公序良俗は、民法90条の、公の秩序又は善良の風俗を縮めた言葉で、社会の秩序や道徳のことです。助長は、その違反を後押しすることです。この事件では、水を出すこと自体が、何か悪いことの後押しになるわけではありませんでした。この二つがそろった場合には、要綱に従わない事業主からの申込みでも、拒むことは許されない。だから、正当の理由は無い、という結論です。
要綱って、市が出した指導ですよね。従わないと水がもらえないなら、実質、従うしかなくなりませんか。そこが、この決定の核心です。要綱は、従うかどうかが任意のはずの指導です。その指導に従わない相手に水を出さなければ、事実上、従うしかなくなります。任意のはずのものを、水の権限で強制していることになります。決め手を一文で言います。要綱を守らせるという目的は、水道事業そのものの目的ではなく、水をそのために使うことは許されない、です。
図:場面1の二つ目の判断
- はっきり断らず待たせることも断ったことになるか
- 行政指導を続けるための留保も拒んだ行為に当たる
- 「このような時期」に至ったときに限る
二つ目の判断です。この事件では、拒否の形が、はっきり断る形だけではありませんでした。次の決定の言葉を読みます。
判例最決平元・11・8 判時1328号16頁
行政指導を続けるために給水契約の締結を留保することも、拒んだ行為に当たる 原判決が、このような時期に至ったときは、水道法上給水契約の締結を義務づけられている水道事業者としては、たとえ右の指導要綱を事業主に順守させるため行政指導を継続する必要があったとしても、これを理由として事業主らとの給水契約の締結を留保することは許されないというべきであるから、これを留保した被告人らの行為は、給水契約の締結を拒んだ行為に当たると判断したのは、是認することができる。
留保は、引き延ばす、保留にする、ということです。指導を続けたいから、契約は、もう少し待ってほしい。これも、締結を拒んだ行為に当たる、と判断しました。待たせる形でも、水を圧力に使っているなら、断ったのと同じ、ということです。ただし、いつでもこの扱いになるわけではなく、決定は、このような時期に至ったとき、と限っています。事業者が、要綱に従わない意思をはっきり示し、購入者に水が現実に必要になった時期を指しています。ここで、境界を確かめます。拒めない例は、こうです。B市が、要綱に従わない、という理由だけで、C社の500戸分の申込みを受け付けない。要綱を守らせるために、水を使っています。反対に、この決定が残している余地は、水を出すこと自体が、悪い行いの後押しになる場合です。これは、次の場面で見ます。注意してください。要綱違反なら常に拒めない、と覚えるのは危険です。決定の結論は、公序良俗違反を助長する事情もない場合、という留保つきです。
⭐ 論文で書く規範:判例の規範:指導要綱を守らせる圧力手段として給水契約の締結を拒むことは、給水が公序良俗違反を助長することとなるような事情がない限り、正当の理由に当たらない。圧力のために締結を留保することも、拒んだ行為に当たる (短答・論文共通)
なお、要綱に従わせるために金銭を求める話は、また別の問題です。ここでは、水道法の読み方として、水を圧力に使えない、という点だけ押さえてください。
場面2——重大な違法建築を是正させるための拒否
図:場面2の位置づけ
- 場面1の留保=「公序良俗違反を助長することとなるような事情もなかった」→裏返し=給水が公序良俗違反を助長する場合は拒否の余地が論じられる
- 最高裁の判断として覚えない
- 余地は狭い
二つ目の場面です。さきほどの決定には、留保がついていました。公序良俗違反を助長することとなるような事情もなかった、という部分です。決定は、この事情が無いことを、拒めないという結論の前提に置いていました。前提が欠ける場合、つまり、水を出すことが公序良俗違反の助長になる場合には、決定の結論は、そのままは及びません。そこに、拒否の余地が論じられる。これが、この場面です。典型として論じられるのが、重大な違法建築です。たとえば、B市で、建築基準法に著しく違反した建物が建てられ続けているとします。人の命に関わる、重大な違反です。第1章で、建築の確認をだまし取って違法な建物を建てる工事の契約は、著しく反社会性が強く、公序良俗に反して無効だ、とした判決を見ました。違法建築には、公序良俗違反になりうるものがあるわけです。その建物に水が引かれれば、人が住み始めます。水を出すことが、違反の状態を固定し、後押ししてしまう。それなら、拒否が許されるのではないか、という議論です。ここは、慎重に言います。重大な違法建築への給水拒否を、正当の理由があるとした最高裁の判断として覚えるのは、誤りです。余地が論じられる、までです。
違法建築なら、水を止めていいんですか。違います。余地が論じられるのは、かなり狭い場合です。違反の程度が著しく、水を出すことが違反を直接に後押しするような場合です。単に建築基準法に違反している、というだけでは足りません。しかも、違法建築を直すための手段は、本来、別にあります。たとえば、建築基準法は、特定行政庁が是正を命じる仕組みを用意しています。給水を拒むのは、そうした手段では足りない場合に限って議論される、と整理されます。学説の見方は、二つに分かれます。一つ目は、水道法の目的だけで判断する見方です。この見方では、違法建築を直させるために水を使うのは、場面1と同じく、別の目的のてこですから、拒否の余地は小さくなります。二つ目は、公序良俗違反の助長(民法90条)や、権利の濫用、つまり権利の使い方が許される範囲を超えることも含めて考える見方です。この見方では、重大な違反を後押しするような給水は、拒否の余地があります。決定の留保は、二つ目の見方と相性がよいと読まれます。答案では、この二つをならべて当てはめます。違反の程度、水が違反を後押しする直接性、他の是正手段の有無を挙げます。そして、水道法の目的との関係で、拒否の余地を論じます。
⭐ 論文で書く規範:解釈:重大な違法建築の是正のための給水拒否は、場面1の留保(公序良俗違反を助長する場合)から余地が論じられる。違反が著しく給水が違反を直接後押しする場合に限られ、本来の手段は別にある。最高裁の判断として覚えない (論文の骨格)
場面3——水不足を避けるための新規大口申込みの拒否
図:場面3の設例
- B市の水源は限られ水の供給量がひっ迫
- 取水量を増やすことは困難
- 人口は急増の見込み
- 近い将来に水不足が確実に予見される→C社の500戸の分譲目的の申込みを拒めるか
三つ目の場面です。冒頭の問いの二つ目、水が足りなくなるから、です。設例を変えます。B市は、水源が限られています。ダムの水は、すでにぎりぎりです。取水量を増やしたくても、自然の条件が厳しく、簡単には増やせません。一方で、市に引っ越してくる人は急増する見込みです。そこへ、C社が、分譲用の500戸の給水を申し込みました。先に問いです。水不足を理由に拒めるのは、どんな申込みでしょうか。条件を三つ挙げられるか、考えながら聞いてください。この場面の最高裁判決の事案を見ます。
図:場面3の最高裁判決の事案
- 不動産会社が町に420戸分の給水を申込み
- 町は給水規則を根拠に拒否
- 事業者が承諾などを求めて訴えた
- 読む順=正当の理由とは何か・応ずる義務・水不足の場合
マンションの建設を計画する不動産会社が、水道事業をおこなうある町に、420戸分の給水を申し込みました。町は、給水規則が、新たな申込みに対して一定の戸数を超える開発や建築には給水しない、と定めていることを根拠に、拒否しました。事業者が、承諾などを求めて訴えた事件です。判決は、段階を踏んで読みます。まず、正当の理由とは何か。次に、応じる義務という原則と、その例外。最後に、水不足の場面で、どの申込みなら拒めるか。最初の部分を読みます。
判例最判平11・1・21 民集53巻1号13頁
「正当の理由」とは何か——水道法の趣旨・目的に照らして合理的に解釈する 法一五条一項にいう「正当の理由」とは、水道事業者の正常な企業努力にもかかわらず給水契約の締結を拒まざるを得ない理由を指すものと解されるが、具体的にいかなる事由がこれに当たるかについては、同項の趣旨、目的のほか、法全体の趣旨、目的や関連する規定に照らして合理的に解釈するのが相当である。
法は、水道法のことです。二つのことを言っています。一つ目は、正当の理由とは、水道事業者が正常な企業努力をしても、なお契約を拒まざるを得ない理由だ、ということ。企業努力は、できるだけのことをする、という意味です。二つ目は、具体的に何が当たるかは、15条1項の趣旨や、水道法全体の趣旨と目的、関連する規定に照らして、合理的に解釈する、ということです。水道法全体の趣旨と目的から読む。今日の筋の、手がかりになる部分です。
判例最判平11・1・21 民集53巻1号13頁
水道事業者は、供給計画で対応できる限り応ずべき義務がある——ただし給水義務は絶対ではない ……当該供給計画によって対応することができる限り、給水契約の申込みに対して応ずべき義務があり、みだりにこれを拒否することは許されないものというべきである。しかしながら、他方、水が限られた資源であることを考慮すれば、市町村が正常な企業努力を尽くしてもなお水の供給に一定の限界があり得ることも否定することはできないのであって、給水義務は絶対的なものということはできず、給水契約の申込みが右のような適正かつ合理的な供給計画によっては対応することができないものである場合には、法一五条一項にいう「正当の理由」があるものとして、これを拒むことが許されると解すべきである。
前半は、原則です。供給計画で対応できるかぎり、申込みに応ずる義務があり、みだりに拒否できません。後半は、例外です。水は限られた資源です。先ほど水道法2条1項で見た、水が貴重な資源だ、という部分が、ここで効いてきます。給水義務は絶対ではなく、適正かつ合理的な供給計画では対応できない申込みなら、拒めます。
図:水不足で拒める申込み
- 水不足が確実に予見される状況
- 順序=まず給水量を増やす・それでもなお避けられないとき需要の抑制
- 拒める申込み=需要量が特に大きい+住宅を供給する事業者+住宅分譲の目的
そして、水不足の場合を、具体的に述べた部分です。
判例最判平11・1・21 民集53巻1号13頁
水不足が確実に予見される地域では、大口・事業者・分譲目的の申込みを拒むことに正当の理由がある 水の供給量が既にひっ迫しているにもかかわらず、自然的条件においては取水源が貧困で現在の取水量を増加させることが困難である一方で、社会的条件としては著しい給水人口の増加が見込まれるため、近い将来において需要量が給水量を上回り水不足が生ずることが確実に予見されるという地域にあっては、水道事業者である市町村としては、そのような事態を招かないよう適正かつ合理的な施策を講じなければならず、その方策としては、困難な自然的条件を克服して給水量をできる限り増やすことが第一に執られるべきであるが、それによってもなお深刻な水不足が避けられない場合には、専ら水の需給の均衡を保つという観点から水道水の需要の著しい増加を抑制するための施策を執ることも、やむを得ない措置として許されるものというべきである。そうすると、右のような状況の下における需要の抑制施策の一つとして、新たな給水申込みのうち、需要量が特に大きく、現に居住している住民の生活用水を得るためではなく住宅を供給する事業を営む者が住宅分譲目的でしたものについて、給水契約の締結を拒むことにより、急激な需要の増加を抑制することには、法一五条一項にいう「正当の理由」があるということができるものと解される。
長い文章ですから、順にほどきます。前半は、水不足の状況です。供給量はすでにひっ迫している。取水源が乏しく、取水量を増やすのは難しい。一方で、人口は著しく増える見込みで、近い将来、需要が供給を上回ることが確実に見込まれる。そういう地域です。B市の設例は、この状況に当てはめています。次に、市町村がやるべき順序です。第一は、困難な自然的条件を克服して、給水量をできる限り増やすことです。それでもなお深刻な水不足が避けられないときに、はじめて、水の需要の著しい増加を抑える施策が、やむを得ない措置として許されます。順序が決まっています。まず供給を増やす努力、次に需要の抑制です。最後に、抑える施策の一つとして、拒める申込みの範囲です。三つの条件がそろったものです。需要量が特に大きいこと。現に住んでいる住民の生活用水のためではなく、住宅を供給する事業者の申込みであること。そして、住宅分譲の目的であること。この三つです。B市の設例に当てはめます。C社の申込みは、500戸の大口で、不動産会社という事業者の、分譲用です。三つともそろいます。残るのは、B市が給水量を増やす努力を尽くしたか、です。
水が足りないなら、どんな申込みも断れそうですけど、違うんですか。違います。そこが、読み落とされやすい点です。拒否の対象は、限られています。水不足なら誰の申込みでも断れる、のではありません。すでにそこで暮らしている住民の生活用水は、守られます。断れるのは、大口で、事業者の、分譲目的の申込みです。これから新しく入ってくる人の分を、事業者がまとめて申し込むものを、抑えるのです。井戸のたとえで言えば、井戸が枯れそうな年に、町の人が飲む分は守る。大量に汲んで売る商売の人には、汲ませない。これなら、井戸を守るための断りです。もう一点あります。この事件で、町の給水規則は、一定の戸数を超える開発には給水しない、という基準を置いていました。判決は、その基準が正しいと認めたわけではありません。基準の定めにかかわりなく、本件の拒否は、適法だと判断しました。実際の水不足の状況を見て、拒否を適法としたのです。ですから、戸数の基準そのものを暗記するのは、的外れです。決め手を一文で言います。この拒否は、水道事業そのものを守るための、水の需給の均衡を保つための断りだからです。場面1は、要綱という別の目的のために水を使っていました。ここが分かれ目です。
⭐ 論文で書く規範:判例の規範:水不足が確実に予見され、給水量を増やす努力を尽くしてもなお深刻な水不足が避けられないとき、需要量が特に大きく、事業者が分譲目的でした新規の給水申込みを拒むことには、正当の理由がある。対象は限られ、水不足なら誰の申込みでも拒める、のではない (短答・論文共通)
三つの場面の比較と共通の筋
図:三つの場面の比較
- 場面1 指導要綱に従わない=何のための拒否か〔宅地開発を守らせる圧力〕
- 水道事業そのものに関わるか〔いいえ〕
- 正当の理由〔なし〕
- 最決 || 場面2 重大な違法建築=違法建築を是正させる
- いいえ〔境目〕
- 余地が論じられる
- 最高裁の判断として覚えない || 場面3 水需給のひっ迫=水の需給の均衡
- はい
- あり
- 最判
三つの場面を、並べます。比べる前に、1問です。三つの場面のうち、拒否の理由が、水道事業そのものに関わっているのは、どれでしょうか?三つ目の、水不足です。水を足りなくならないようにするための断りだからです。表で確かめます。場面1は、何のための拒否か、宅地開発の指導を守らせる圧力です。水道事業そのものに関わるか、いいえ。だから、正当の理由は、ありません。場面3は、水の需給の均衡を保つためです。水道事業そのものに関わる。だから、正当の理由が、あります。場面2は、違法建築を是正させるための拒否です。水道事業そのものの目的ではありませんが、公序良俗の助長、という留保に触れる。ここが境目で、余地が論じられるにとどまります。共通の筋は、これです。正当の理由は、水道法の枠の中で読む。手がかりは、場面3の判決が、法全体の趣旨と目的に照らして合理的に解釈する、と述べていたことです。水道法の目的は、1条に書かれています。
条文水道法1条
水道法第1条 この法律は、水道の布設及び管理を適正かつ合理的ならしめるとともに、水道の基盤を強化することによつて、清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もつて公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与することを目的とする。
清浄で、豊富で、低廉な水を供給すること。これが、水道法の目的です。この目的に関わる事情、たとえば、水が足りなくなる、という事情なら、正当の理由になりえます。この目的と関わりのない、別の行政目的、たとえば、宅地開発の規制を、水を使って実現しようとするのは、原則として許されません。ただし、言い方には、線引きがあります。別の行政目的は持ち込めない、というのは、場面1と場面3を比べての整理です。場面1の決定には、公序良俗違反を助長する場合という留保がありました。ですから、絶対の規範として覚えるのではなく、水を使って別の目的を実現することは原則として許されない、そして例外の余地は狭い、と覚えてください。
正当の理由は、水道法の目的に照らして読む、と置いて、拒否の理由が水道事業そのものに関わるかを見ます。関われば、水不足の判決の型で、供給を増やす努力を尽くしたか、拒否の対象が限られているかを当てはめます。関わらなければ、要綱の決定の型で、水を圧力に使っていないかを当てはめます。留保に触れそうなら、公序良俗の助長を、狭く論じます。
契約か処分かは個別法で決まる——措置から契約へ
図:同じ給付でも方式が違う
- 水道=給水契約〔水道法〕
- 生活保護=申請→決定・通知〔処分〕
- 保育=認定〔処分〕→利用調整→施設との利用〔契約〕→やむを得ない事由は措置
- どの方式かは個別法が決める
最後に、冒頭に戻ります。水道は、給水契約でした。では、給付は、全部契約なのか。違います。同じ給付でも、法律が、処分の形を選んでいる場合があります。この章の最初の回で、名前だけ挙げた生活保護が、その例です。
条文生活保護法24条3項
生活保護法第24条第3項 3 保護の実施機関は、保護の開始の申請があつたときは、保護の要否、種類、程度及び方法を決定し、申請者に対して書面をもつて、これを通知しなければならない。
申請があったら、保護の実施機関が、要否や程度を決定して、書面で通知します。決定して通知する。これは処分の型です。生活保護は、要件に当たるかを、行政が審査して決める給付です。法律は、その判断を処分の形にしました。処分なら、不服のある人は、審査請求を経て、取消訴訟で争えます。水道は、申し込んだ人に、料金と引き換えに水を出し続ける取引ですから、契約の形が合います。水道は契約、生活保護は処分。どちらの形になるかは、個別の法律が決めます。社会福祉の分野でも、方式の変化があります。かつては、行政が、職権で入所先を決めていました。これを、措置と呼びます。役所が決める、という形です。それが、利用者本位の契約関係へ、移ってきました。措置から契約へ、と呼ばれる流れです。ただし、保育は、単純に契約になったのではありません。処分と契約が組み合わさっています。四段階で見ます。
図:保育の4段階
- 1 認定=保護者が申請→市町村が給付の認定〔処分〕
- 2 利用調整=保育を必要とする子について市町村が調整
- 3 施設の利用=幼稚園などは施設に直接申込み
- 保育は市町村の調整を経て施設と契約→設置者は正当な理由なく拒めない〔契約〕+保護者に施設型給付費
- 4 やむを得ない事由があるとき=市町村が入所の措置
- 保育所は市町村が保育を実施する建前が残る
一つ目は、認定です。保護者が申請して、市町村が、給付の認定をします。子ども・子育て支援法は、これを、申請に対する処分として扱っています。二つ目は、利用調整です。保育を必要とする子どもについて、市町村が、どの子がどの施設を使えるかを調整して割り振ります。三つ目が、施設の利用です。幼稚園などは、保護者が、施設に直接申し込みます。保育を受ける場合は、市町村の調整を経て、施設と契約を結びます。条文を読みます。
条文子ども・子育て支援法33条1項
子ども・子育て支援法第33条第1項 1 特定教育・保育施設の設置者は、教育・保育給付認定保護者から利用の申込みを受けたときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。
水道法15条1項と、同じ型です。申込みを受けたら、正当な理由がなければ拒めない。契約の方式の中に、締結の強制が入っています。保護者には、施設の利用にかかる費用を公費で賄う、施設型給付費が支給されます。四つ目は、やむを得ない事由があるときです。たとえば、虐待などで、保護者が申し込もうとしない場合や、あっせんを受けてもなお施設が見つからない場合です。このときは、市町村が入所の措置をとります。措置は、なくなったのではなく、例外として、残されています。B市の設例で言えば、C社のマンションに入居した家族が、子どもを預けたいとします。まず、B市に申請して、認定を受けます。ここは処分です。次に、B市に利用の希望を出し、調整を経て、認定こども園と契約を結びます。ここは契約で、設置者は、正当な理由なく拒めません。処分と契約が、順に並ぶわけです。
いま見た、認定と施設との契約を組み合わせる形は、認定こども園などの形です。私立の保育所は、少し違います。市町村が保育を実施する、という建前が残っています。保護者が契約する相手も、施設ではなく市町村です。その代わり、施設には、市町村から委託費が払われます。さきほどの条文の、申込みを受けた設置者の拒否の制限などは、保育所には、当分の間、そのまま適用されません。保育所は、市町村が保育を実施する建前が残る、と押さえれば十分です。持ち帰りは、こうです。契約か処分かは、行為の名前でなく、個別の法律が何を選んだかで見ます。
⭐ 論文で書く規範:給付行政でも、契約か処分かは個別法が決める(水道=契約・生活保護=処分)。保育は、認定(処分)・利用調整・施設との利用(契約)・やむを得ない事由の措置が組み合わさる (短答)
今日の地図(保存版)
図:今日の持ち帰り
- 1 給付は留保が及ばず契約が積極的に使われる
- 2 水道法15条1項=断れない契約〔締結の強制〕・契約は契約のまま
- 3 要綱に従わないことを理由に拒めない
- 4 重大な違法建築は余地が論じられるにとどまる
- 5 水不足は大口・事業者・分譲目的の申込みを拒める
- 6 契約か処分かは個別法が決める
冒頭の問いに答えます。一つ目、指導に従わないから水は出さない、は言えません。要綱を守らせるために水を使うのは、水道とは別の目的のてこだからです。二つ目、水が足りなくなるから、は、条件がそろえば言えます。水不足が確実に見込まれ、給水量を増やす努力を尽くしてもなお避けられないとき、大口で、事業者の、分譲目的の申込みなら、拒めます。分かれ目は、何のために断るのか、でした。持ち帰りは六点です。一点目、給付は法律の留保が及ばず、契約が積極的に使われる。二点目、水道法15条1項は断れない契約で、強制されるのは結ぶかどうかだけ、契約のままです。三点目、要綱に従わないことを理由には拒めない。四点目、重大な違法建築は、余地が論じられるにとどまり、最高裁の判断として覚えない。五点目、水不足は、条件を限って拒める。六点目、契約か処分かは、個別法が決める、です。
図:今日の短答の誤り肢
- 要綱を守らせる目的なら拒める〔誤り〕
- 水不足のおそれがあればどの申込みも拒める〔誤り〕
- 給水契約の締結拒否は取消訴訟の対象となる処分〔誤り〕
- 重大な違法建築への給水拒否を適法とした最高裁の判断がある〔誤り〕
最後に、短答の誤り肢を四つ。一つ目。宅地開発指導要綱に従わない事業者からの給水契約の申込みは、要綱を守らせる目的であれば拒める。誤りです。要綱を守らせる圧力手段として給水を拒むことは、公序良俗違反を助長する事情もない限り、正当の理由に当たりません。二つ目。水不足のおそれがあれば、水道事業者はどの申込みも拒める。誤りです。水不足が確実に予見され、給水量を増やす努力を尽くしてもなお避けられないときに、需要量が特に大きい、事業者の分譲目的の申込みに限って、拒めます。三つ目。給水契約の締結拒否は、取消訴訟の対象となる行政処分である。誤りです。締結の強制は、契約を処分に変えません。契約の締結拒否です。四つ目。重大な違法建築への給水拒否を適法とした最高裁の判断がある。誤りです。余地が論じられるにとどまります。
参照条文
- 民法521条1項
- 水道法15条1項
- 水道法2条1項
- 水道法1条
- 生活保護法24条3項
- 子ども・子育て支援法33条1項