行政法ゼロから行政法#115

手続の瑕疵と取消し

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第8章 行政手続 #115/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

中身は正しいのに手続が誤った

今日の問い(処分の中身は正しい/しかし手続が守られていない/それでも処分は取り消されるのか、結果オーライか/手続の種類によって判例の結論の出し方は違う→今日は1枚の表にして、分かれ目を読む) 図:今日の問い

  • 処分の中身は正しい
  • しかし手続が守られていない
  • それでも処分は取り消されるのか、結果オーライか
  • 手続の種類によって判例の結論の出し方は違う→今日は1枚の表にして、分かれ目を読む

処分の中身は正しいのに、手続だけが間違っていた。それでも、処分は取り消されるのでしょうか。それとも、結果が正しいのだから、結果オーライなのでしょうか。今日は、この問いを見ます。結果が正しいなら取り消さなくてよい、という見方にも、半分は理由があります。ただ、判例は、手続の種類によって、答えを出す道筋を変えています。理由の提示の不備は、結果を問わず取り消されます。意見を述べる機会の欠けは、結果に影響しうるかどうかが顔を出します。審議会への諮問の不備は、重大な瑕疵があるかで決まります。今日は、この3つを1枚の表にします。そのうえで、なぜ分かれるのかを、手続は何のためにあるのか、という一本の軸で読みます。最後に、行政手続法ができてからの扱いと、答案の型まで通します。

設例——3つの場面

設例(架空の家庭用蓄電池設置業法/県知事A→登録を受けた設置事業者B:登録の取消し/Bの安全基準違反は実際にあった=処分の中身は正しい/場面1=通知書に「安全基準違反」とだけ/場面2=聴聞でBに施工記録について述べさせる機会がなかった/場面3=取消し前に専門家の審査会Cへの諮問が要るが、Cは提出資料の不足を指摘する機会を設けなかった〔Bの手元にそれ以上の資料はない〕) 図:設例

  • 架空の家庭用蓄電池設置業法
  • 県知事A→登録を受けた設置事業者B:登録の取消し
  • Bの安全基準違反は実際にあった=処分の中身は正しい
  • 場面1=通知書に「安全基準違反」とだけ
  • 場面2=聴聞でBに施工記録について述べさせる機会がなかった
  • 場面3=取消し前に専門家の審査会Cへの諮問が要るが、Cは提出資料の不足を指摘する機会を設けなかった〔Bの手元にそれ以上の資料はない〕

設例を置きます。架空の、家庭用蓄電池設置業法です。蓄電池を設置する事業者は、県の登録を受けます。県知事をA、登録を受けた事業者をBとします。Bの施工が安全基準に違反していたとして、Aは、Bの登録を取り消そうとしています。大事な前提です。Bの違反は、実際にありました。つまり、処分の中身は正しいのです。そのうえで、手続に欠けがある場面を3つ置きます。場面1。取消しの通知書に、安全基準違反、とだけ書かれていました。場面2。取消しの前に、言い分を聴く手続が開かれました。ところが、違反の有無の核心である施工記録について、Bに述べさせる機会がありませんでした。場面3。この取消しの前には、法律上、専門家でつくる審査会Cへの諮問が必要です。Cは、Bの提出資料の不足を指摘する機会を設けませんでした。ただし、Bの手元には、もともとそれ以上の資料がありません。

違反があっても取り消されるのはどの場面か。それが、今日の最後の演習です。先に、判例を見ましょう。

規定は無い——2つの考え方

2つの考え方(手続の瑕疵が処分の取消事由になるかは行手法に規定なし=解釈に委ねられる/考え方1=手続の公正さ自体に価値がある・取消しが無ければ手続を守らせる手段が無い/考え方2=手続は正しい結論を得る手段にすぎない・やり直しても同じ処分なら無駄/反論=取り消してやり直せば判断が変わることもある/行政調査の瑕疵=当然には取消事由にならない→同じ型の問い) 図:2つの考え方

  • 手続の瑕疵が処分の取消事由になるかは行手法に規定なし=解釈に委ねられる
  • 考え方1=手続の公正さ自体に価値がある・取消しが無ければ手続を守らせる手段が無い
  • 考え方2=手続は正しい結論を得る手段にすぎない・やり直しても同じ処分なら無駄
  • 反論=取り消してやり直せば判断が変わることもある
  • 行政調査の瑕疵=当然には取消事由にならない→同じ型の問い

まず、前提です。手続に瑕疵があったとき、処分は取り消されるのか。行政手続法には、この点を定めた規定がありません。ですから、解釈に委ねられています。考え方は2つあります。1つ目。手続の公正さ自体に価値がある、という見方です。手続が破られても取消しにならないなら、役所に手続を守らせる手段が無くなってしまいます。2つ目。手続は、正しい結論にたどり着くための手段にすぎない、という見方です。中身が正しく、やり直しても同じ処分になるなら、取り消す意味がありません。ただし、2つ目には反論があります。取り消しても、役所がもう一度同じ内容の処分を出すかは、決まっていません。やり直しの中で、判断が変わることもあります。ここで、以前の回を思い出してください。行政調査の違法は、当然には処分の取消事由にならず、重大な違法のときに処分も違法になる、という整理でした。手続の違法が、処分の違法に及ぶのか。今日も同じ型の問いです。ここで問いです。取消事由と無効事由の回を思い出してください。取消しで足りる違法と、無効になる違法の線は、何だったでしょうか?

重大かつ明白な瑕疵があるときが無効で、それに届かない違法は、取消しの対象でした。今日は、無効には届かない違法が、取消しになるかを見ます。

表を先に見る——手続の種類で分かれる

仕分け表(理由の提示の不備=結果への影響を問わず取消し〔青色申告の理由付記・旅券の理由付記・東京都条例の非開示通知・行手法14条の一級建築士事件〕/意見陳述の機会の欠け=異なる判断に到達する可能性がなかったとはいえない→違法・原審の取消し維持〔個人タクシー事件〕/諮問手続の瑕疵=諮問を要求した趣旨に反する重大な瑕疵があれば違法〔群馬中央バス事件=ただし当該事案は取り消さず〕/最終列=手続の趣旨は後で埋める) 図:仕分け表

  • 理由の提示の不備=結果への影響を問わず取消し〔青色申告の理由付記・旅券の理由付記・東京都条例の非開示通知・行手法14条の一級建築士事件〕
  • 意見陳述の機会の欠け=異なる判断に到達する可能性がなかったとはいえない→違法・原審の取消し維持〔個人タクシー事件〕
  • 諮問手続の瑕疵=諮問を要求した趣旨に反する重大な瑕疵があれば違法〔群馬中央バス事件=ただし当該事案は取り消さず〕
  • 最終列=手続の趣旨は後で埋める

今日の背骨になる表です。手続の種類ごとに、最高裁の結論の出し方を並べます。1行目、理由の提示の不備。結果への影響を問わず、取り消されます。2行目、意見を述べる機会の欠け。個人タクシー事件です。聴いていれば、異なる判断に至る可能性がなかったとはいえない、という理由で、却下処分は違法とされ、原審の取消しが維持されました。3行目、諮問手続の瑕疵。群馬中央バス事件です。諮問の趣旨に反する重大な瑕疵があれば違法ですが、この事案では、取り消されませんでした。この表を、1行ずつ埋めていきます。判決の事案は、前に見たとおりです。今日は、不備があったときに取り消されたのか、という結論の部分だけを見ます。

理由の提示の不備は結果を問わず取り消される

理由の提示の不備(青色申告の更正処分の理由付記判決=記載を欠くにおいては処分自体の取消しを免れない/旅券の理由付記判決=旅券法の理由付記の要件を欠く→取消請求認容/東京都条例の非開示通知判決=後日の口頭説明で付記不備の瑕疵は治癒されない/一級建築士事件=行手法14条1項の理由提示の要件を欠き取消しを免れない/切り分け=理由が足りない→手続の違法/理由が間違っている→実体の違法) 図:理由の提示の不備

  • 青色申告の更正処分の理由付記判決=記載を欠くにおいては処分自体の取消しを免れない
  • 旅券の理由付記判決=旅券法の理由付記の要件を欠く→取消請求認容
  • 東京都条例の非開示通知判決=後日の口頭説明で付記不備の瑕疵は治癒されない
  • 一級建築士事件=行手法14条1項の理由提示の要件を欠き取消しを免れない
  • 切り分け=理由が足りない→手続の違法
  • 理由が間違っている→実体の違法

1行目から見ます。理由の提示です。条文を、全文で読みます。

条文行政手続法14条1項

行政手続法 第十四条(不利益処分の理由の提示)(1項)   行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。

条文には、理由を示さなければならない、とあるだけです。示さなかったらどうなるかは書いてありません。そこで、判例を見ます。青色申告の更正処分に、理由を付ける決まりがあった事件です。判旨を、全文で読みます。

判例最判昭38・5・31 民集17巻4号617頁

青色申告の更正処分の理由付記の事件——趣旨と取消し 一般に、法が行政処分に理由を附記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものであるから、その記載を欠くにおいては処分自体の取消を免かれないものといわなければならない。

前半に、趣旨が2つあります。判断の慎重と合理性を担保して恣意を抑えること。理由を知らせて、不服申立ての便宜を与えること。そして後半が結論です。記載を欠くにおいては、処分自体の取消しを免れない。ここには、処分の中身が正しかったか、という言葉がありません。決め手は、趣旨の働き方です。たとえば、領収書です。金額が合っていても、領収書が無ければ、何に払ったのかを、あとから確かめる手がかりがありません。確かめられること自体に、意味があります。理由の提示も同じです。理由が示されて初めて、役所は、自分の判断を点検できます。相手も、どこを争えばよいかを知れます。この2つの働きは、処分の中身が結果として正しかったかとは、別に働きます。逆に考えてみます。中身が正しければ維持する、というルールにしたとします。すると、役所は、理由を書かなくても済んでしまいます。慎重さの確認も、争う手がかりも、働かなくなります。だから、理由の提示は、欠ければ取り消されるのです。程度が不十分な場合も、同じです。旅券の発給拒否に、旅券法のこの号に該当する、とだけ書いた通知書が、理由付記の要件を欠くとして取り消されました。また、東京都の条例の非開示決定で、通知書の理由が不十分だった事件では、後日の口頭の説明では、その瑕疵は治りませんでした。理由付記の程度は、相手が知っていたかどうかや、後からの説明では埋まらない、というのが判決の立場です。

行政手続法14条の理由の提示については、前に見た一級建築士の事件です。公にされていた処分基準のどれを、どう当てはめたのかが、通知書から読み取れなかった事件でした。結論部分を、もう一度確認します。

判例最判平23・6・7 民集65巻4号2081頁

一級建築士の免許取消しの事件——結論 このような本件の事情の下においては,行政手続法14条1項本文の趣旨に照らし,同項本文の要求する理由提示としては十分でないといわなければならず,本件免許取消処分は,同項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法な処分であるというべきであって,取消しを免れないものというべきである。

理由提示の要件を欠く以上、取消しを免れない。判決は、免許取消しの中身が正しいかには立ち入りませんでした。青色申告の事件と、同じ型です。ここで、境界を確かめます。理由はきちんと書かれていて、しかし、書かれた事実が間違っていた場合はどうでしょうか。理由は示されているので、手続の違法ではないです。間違った事実に基づく処分なので、実体の違法になります。足りないのが手続の違法、間違っているのが実体の違法、と、理由の提示の回で切り分けました。今日扱うのは、前者の、足りない、のほうです。設例の場面1に当てはめます。通知書に、安全基準違反、とだけ書かれていました。Bの違反が実際にあっても、どの基準のどの行為なのかが分からなければ、争う手がかりになりません。理由の程度として足りないと判断されれば、処分は取り消されます。程度の物差しは、理由の提示の回で見たとおり、通知書の記載そのものから、どの事実で、どの根拠によって処分されたのかが分かるかどうかです。

意見を述べる機会の欠け——個人タクシー事件

個人タクシー事件の結論部分(免許申請を却下された申請人/公正な手続によって免許の許否の判定を受けるべき法的利益→これに反する審査手続による却下は処分の違法事由/重要・微妙な認定を要する事項について聴かず主張と証拠の提出の機会を与えなかった/聴いていれば異なる判断に到達する可能性がなかったとはいえない→審査手続にかし→却下処分は違法/注意=この「聴聞」は道路運送法上のもので行手法の聴聞ではない) 図:個人タクシー事件の結論部分

  • 免許申請を却下された申請人
  • 公正な手続によって免許の許否の判定を受けるべき法的利益→これに反する審査手続による却下は処分の違法事由
  • 重要・微妙な認定を要する事項について聴かず主張と証拠の提出の機会を与えなかった
  • 聴いていれば異なる判断に到達する可能性がなかったとはいえない→審査手続にかし→却下処分は違法
  • 注意=この「聴聞」は道路運送法上のもので行手法の聴聞ではない

2行目です。個人タクシー事件。事案は前に見ました。個人タクシーの免許の申請を、却下された人の事件です。結論の部分だけ読みます。まず、一般論の結びです。

判例最判昭46・10・28 民集25巻7号1037頁

個人タクシー事件——公正な手続を受ける法的利益 ……免許の申請人はこのような公正な手続によつて免許の許否につき判定を受くべき法的利益を有するものと解すべく、これに反する審査手続によつて免許の申請の却下処分がされたときは、右利益を侵害するものとして、右処分の違法事由となるものというべきである。

申請人には、公正な手続で判定を受ける法的利益があります。これに反する手続でされた却下処分は、その利益を侵害するものとして、処分の違法事由になる。手続の瑕疵が、処分の違法に結びつく道筋が、ここで書かれています。次に、当てはめです。

判例最判昭46・10・28 民集25巻7号1037頁

個人タクシー事件——当てはめ ……これらの点に関する事実を聴聞し、被上告人にこれに対する主張と証拠の提出の機会を与えその結果をしんしやくしたとすれば、上告人がさきにした判断と異なる判断に到達する可能性がなかつたとはいえないであろうから、右のような審査手続は、前記説示に照らせば、かしあるものというべく、したがつて、この手続によつてされた本件却下処分は違法たるを免れない。

構造は3段です。重要な、または微妙な認定を要する事項について、申請人に、主張と証拠を出す機会を与えなかった。機会を与えていれば、異なる判断に至る可能性がなかったとはいえない。だから、審査手続にかしがあり、却下処分は違法です。この事件では、却下の決め手になった2つの点、ほかに事業を自営している場合に転業が困難でないか、と、運転歴が7年以上あるか、を、担当官は申請人から聴いていませんでした。変わっていたはずだ、とまでは言っていません。変わる可能性がなかったとはいえない、という言い方です。ここは大切です。判決は、結果への影響の可能性を、取消しの理由づけに使っています。ただ、それを取消しの条件として言い切ったわけではありません。なぜ可能性を見るのか。言い分を聴く手続は、相手の事情を、判断の材料に入れさせるためにあります。聴いていれば判断が変わりえたなら、その働きが、現に奪われたことになるからです。短答の注意が1つあります。この事件の聴聞は、道路運送法上の聴取で、行政手続法の聴聞ではありません。行政手続法の聴聞や弁明は、不利益処分をする前に、言い分を聴く手続です。申請に対する処分と不利益処分の回で見たとおり、免許の申請を拒否する処分は、不利益処分に入りません。だから、行政手続法の聴聞や弁明の対象にならないのです。

諮問手続の瑕疵——群馬中央バス事件

群馬中央バス事件の結論部分(一般論=諮問を経た場合でも審理・答申の過程に重大な法規違反→答申自体に諮問を要求した趣旨に反する瑕疵があれば処分も違法として取消しを免れない/当てはめ=公聴会審理が十分でなかったことは認めた→しかし具体的に指摘して資料提出を促しても判断を左右する意見・資料を追加提出できた可能性は認め難い→重大な違法とするには足りず取り消さない/陸運局長の聴聞=補充的な意義しか持たない場合は瑕疵があっても取り消すほどの違法ではない) 図:群馬中央バス事件の結論部分

  • 一般論=諮問を経た場合でも審理・答申の過程に重大な法規違反→答申自体に諮問を要求した趣旨に反する瑕疵があれば処分も違法として取消しを免れない
  • 当てはめ=公聴会審理が十分でなかったことは認めた→しかし具体的に指摘して資料提出を促しても判断を左右する意見・資料を追加提出できた可能性は認め難い→重大な違法とするには足りず取り消さない
  • 陸運局長の聴聞=補充的な意義しか持たない場合は瑕疵があっても取り消すほどの違法ではない

3行目です。群馬中央バス事件。バス事業の免許の申請を、運輸大臣が審議会の答申に基づいて、拒否した事件でした。事案は前に見ました。一般論から読みます。

判例最判昭50・5・29 民集29巻5号662頁

群馬中央バス事件——一般論 行政処分が諮問を経ないでなされた場合はもちろん、これを経た場合においても、当該諮問機関の審理、決定(答申)の過程に重大な法規違反があることなどにより、その決定(答申)自体に法が右諮問機関に対する諮問を経ることを要求した趣旨に反すると認められるような瑕疵があるときは、これを経てなされた処分も違法として取消をまぬがれないこととなるものと解するのが相当である。

諮問を経たときでも、審理や答申の過程に重大な法規違反があって、諮問を要求した趣旨に反する瑕疵があれば、処分も違法で、取消しを免れません。ここでの基準は、重大な法規違反と、諮問の趣旨に反するかどうかです。ここでの重大は、取り消されるかの線です。無効の、重大かつ明白、とは別の物差しです。次に、当てはめです。

判例最判昭50・5・29 民集29巻5号662頁

群馬中央バス事件——当てはめ 仮に運輸審議会が、公聴会審理においてより具体的に上告人の申請計画の問題点を指摘し、この点に関する意見及び資料の提出を促したとしても、上告人において、運輸審議会の認定判断を左右するに足る意見及び資料を追加提出しうる可能性があつたとは認め難いのである。してみると、右のような事情のもとにおいて、本件免許申請についての運輸審議会の審理手続における上記のごとき不備は、結局において、前記公聴会審理を要求する法の趣旨に違背する重大な違法とするには足りず、右審理の結果に基づく運輸審議会の決定(答申)自体に瑕疵があるということはできないから、右諮問を経てなされた運輸大臣の本件処分を違法として取り消す理由とはならないものといわなければならない。

前提として、判決は、審議会の公聴会審理が、申請人に主張と立証の機会を与えるうえで、必ずしも十分でなかったことは認めています。そのうえで、判断が分かれました。より具体的に問題点を指摘し、資料の提出を促しても、審議会の判断を左右するほどの意見や資料を、追加で出せた可能性は認め難い。だから、重大な違法とするには足りない、と結論しました。喩えるなら、出荷前の検品です。検品の抜けが見つかっても、出荷した品物が元から合格品なら、検品を設けた趣旨は害されていません。ただし、これは、検品が形だけではなかった場合の話です。重大な法規違反があって、諮問の趣旨に反するなら、別です。同じ判決は、もう1点を述べています。この事件では、審議会の公聴会とは別に、陸運局長も聴聞をしていました。行政機関の回で見たとおり、陸運局長は、運輸大臣の補助機関です。言い分を聴く中心の場は、大臣から独立した審議会の公聴会のほうで、陸運局長の聴聞は、それを補う、補充的な意味しかもちません。だから、その聴聞に瑕疵があっても、最終的な処分を取り消すほどの違法とはいえない、という判断です。

並べて見る——分かれ目は結果が変わりえたか

比較(個人タクシー=重要事項について聴いていない・聴いていれば異なる判断に至る可能性がなかったとはいえない→違法・原審の取消し維持/群馬中央バス=公聴会審理に不備はあるが判断を左右する資料を追加で出せた可能性は認め難い→取り消さず/どちらも手続の不備は認定した/表の1行目=理由の提示は結果への影響を問わない→2・3行目とは出し方が違う) 図:比較

  • 個人タクシー=重要事項について聴いていない・聴いていれば異なる判断に至る可能性がなかったとはいえない→違法・原審の取消し維持
  • 群馬中央バス=公聴会審理に不備はあるが判断を左右する資料を追加で出せた可能性は認め難い→取り消さず
  • どちらも手続の不備は認定した
  • 表の1行目=理由の提示は結果への影響を問わない→2・3行目とは出し方が違う

2つを並べます。どちらも、手続の不備は認めました。ここで問いです。それなのに、結論が分かれました。何が違ったでしょうか?個人タクシーは、聴いていれば、異なる判断になる可能性がなかったとはいえない。群馬中央バスは、資料を追加で出せた可能性が認め難い。結果に影響しうるかどうか、だと思います。ここまでは、結果への影響が分かれ目に見えます。ところが、1行目の理由の提示は、結果への影響を問いませんでした。同じ手続の瑕疵なのに、なぜ出し方が違うのでしょうか。次の節でほどきます。その前に、下級審の例を見ておきます。

下級審——結果を問わず取り消した例

下級審の例(個別法の聴聞で、処分原因である具体的な違反事実の告知を欠いた→聴聞制度の目的に反する重大な瑕疵として、処分の実体的適法性にかかわらず取消事由/法定の聴聞を実施しなかった→重大な瑕疵として、結果への影響を問うまでもなく取消事由/傾向=手続の公正さ自体を守る手続は結果への影響を問わない方向) 図:下級審の例

  • 個別法の聴聞で、処分原因である具体的な違反事実の告知を欠いた→聴聞制度の目的に反する重大な瑕疵として、処分の実体的適法性にかかわらず取消事由
  • 法定の聴聞を実施しなかった→重大な瑕疵として、結果への影響を問うまでもなく取消事由
  • 傾向=手続の公正さ自体を守る手続は結果への影響を問わない方向

下級審には、結果を問わずに取り消した例があります。個別法の聴聞で、処分の原因である具体的な違反事実を告げなかったことを、聴聞制度の目的に反する重大な瑕疵として、処分の中身が正しいかにかかわらず、取消事由とする、という考え方を示した裁判例があります。別の裁判例には、法律で決まっている聴聞を、そもそも開かなかったことを、重大な瑕疵として、結果への影響を問うまでもなく、取り消したものがあります。名前は覚えなくて構いません。傾向だけつかんでください。聴聞が、相手方に言い分を述べさせる手続としての意味をもつ場合、それを欠けば、結果を問わず取り消す方向です。個人タクシー事件との違いは、欠け方にあります。個人タクシーは、申請人から話を聴いたうえで、決め手の2点を聴かなかった事件でした。下級審の2件は、聴聞を開かなかった、あるいは、何について言い分を言えばよいかを告げなかった事件です。言い分を述べる機会が、丸ごと失われていました。

分かれ目の読み方——その手続は何のためにあるか

分かれ目の軸(手続の公正さ自体を確保するための手続=瑕疵があれば取消事由〔結果への影響を問わない方向〕/処分の内容の適正を担保するための手続=結果への影響を見る方向/理由の提示=相手方に知らせ争う手がかりを与え恣意を抑える=公正自体の側/意見陳述の機会=決定内容の形成に関与する可能性の確保〔個人タクシーは公正な手続による判定を受ける法的利益〕/諮問=処分の客観的な適正妥当と公正を担保する手段=内容の側に寄る/結果への影響は取消しの必要条件とまでは言い切れない) 図:分かれ目の軸

  • 手続の公正さ自体を確保するための手続=瑕疵があれば取消事由〔結果への影響を問わない方向〕
  • 処分の内容の適正を担保するための手続=結果への影響を見る方向
  • 理由の提示=相手方に知らせ争う手がかりを与え恣意を抑える=公正自体の側
  • 意見陳述の機会=決定内容の形成に関与する可能性の確保〔個人タクシーは公正な手続による判定を受ける法的利益〕
  • 諮問=処分の客観的な適正妥当と公正を担保する手段=内容の側に寄る
  • 結果への影響は取消しの必要条件とまでは言い切れない

軸を1本立てます。その手続は何のためにあるのか。大きく2つに分けます。1つ目は、手続の公正さ自体を確保するための手続。2つ目は、処分の内容を正しくするための手続です。1つ目なら、瑕疵があるだけで、取消事由になる方向です。手続そのものが守る価値が、結果と別にあるからです。2つ目なら、結果への影響を見る方向です。内容を正しくするための手続なら、欠けても内容が変わらなかった場合、その手続を設けた趣旨は、害されていないからです。表の最終列を埋めます。理由の提示は、相手に知らせて争う手がかりを与え、役所の判断の恣意を抑えます。領収書と同じで、確かめる手がかりがあること自体に、価値があります。公正自体の側です。意見を述べる機会は、両方の側にまたがります。1つは、決定の内容の形成に関与する可能性を、相手に確保することです。個人タクシーは、公正な手続によって判定を受ける法的利益、という言い方でした。ここは、公正自体の側です。もう1つは、相手の事情を判断の材料に入れて、内容を正しくすることです。こちらは、内容の側です。両方の側にまたがるから、判決は、法的利益と言いながら、結果に影響しうる可能性にも触れたのです。諮問は、処分の客観的な適正妥当と公正を担保するための手段です。出荷前の検品と同じで、品物が元から合格品なら、検品の趣旨は害されません。内容の側に寄っています。

結果への影響を考えなくてよいのは、理由の提示だけとは限りません。下級審の例のとおり、聴聞の機会そのものを奪えば、結果を問わない方向もあります。ここは、傾向としての整理です。そして、結果への影響は、判例が理由づけに使うことはあっても、取消しの必要条件とまでは言い切れません。一般には、意見を述べる機会や諮問の瑕疵について、判例は、瑕疵がなければ結論が変わりえたときに取り消す立場だ、と整理されます。短答では、この整理で答えてください。ただ、判決自身は、それを取消しの条件として言い切ってはいません。表を丸暗記せず、手続の趣旨から結論を導く。それが答案の筋です。

行政手続法ができたあとは

行手法施行後(ここまでの判例は行手法制定前の個別法上の手続に関するもの/これまでのところ、行手法上の手続の瑕疵について最高裁が判断を示したのは理由の提示〔一級建築士事件〕のみ/理由の提示は引き続き厳格とみられる・他は未確定/学説=行政庁の義務とされた手続〔告知・聴聞/理由の提示/文書閲覧/審査基準の設定・公開=適正手続の4原則〕の瑕疵は取消事由とする有力説・軽微な瑕疵や結果に影響しないことが明らかな場合の例外の余地/下級審=重要な手続を履践しない処分は特段の事情がなければ取消しを免れない) 図:行手法施行後

  • ここまでの判例は行手法制定前の個別法上の手続に関するもの
  • これまでのところ、行手法上の手続の瑕疵について最高裁が判断を示したのは理由の提示〔一級建築士事件〕のみ
  • 理由の提示は引き続き厳格とみられる・他は未確定
  • 学説=行政庁の義務とされた手続〔告知・聴聞/理由の提示/文書閲覧/審査基準の設定・公開=適正手続の4原則〕の瑕疵は取消事由とする有力説・軽微な瑕疵や結果に影響しないことが明らかな場合の例外の余地
  • 下級審=重要な手続を履践しない処分は特段の事情がなければ取消しを免れない

ここまでの判例の多くは、行政手続法ができる前の、個別法上の手続のものです。行政手続法の手続の瑕疵にも、そのまま当てはまるとは限りません。これまでのところ、行政手続法上の手続の瑕疵について最高裁が判断を示したのは、理由の提示だけです。先ほどの一級建築士の事件です。理由の提示は、引き続き厳格に、直ちに取り消されるとみられます。それ以外の手続について、最高裁の立場は、まだはっきりしていません。学説の整理があります。行政手続法で、行政庁の義務として定められた手続は、瑕疵があれば、原則として取消事由になる、という有力な考え方です。義務を課した意味が、失われるからです。対象は、適正手続の4つの原則です。告知と聴聞、理由の提示、文書閲覧、審査基準の設定と公開です。どれも、この章で1つずつ見てきた手続です。ただし、この考え方にも留保があります。瑕疵がごく軽いときや、処分の内容に影響しないことが明らかなときは、取消事由にならないと考える余地もあります。下級審にも、行政手続法の定める重要な手続を履践しない処分は、申請が不適法であることが一見して明白であるなど、特段の事情がなければ、取消しを免れない、という考え方を示した裁判例があります。ここも、名前は覚えず、傾向だけをつかんでください。

論文の型

答案の型(手続の趣旨は公正自体の確保か内容の適正の担保か→瑕疵が趣旨をどの程度害するか〔重要事項か・機会を実質的に奪ったか〕→(評価の一事情として)瑕疵がなければ結論が変わりえたか→取消し/取り消さない/理由の提示は趣旨から取消し・結果への影響は問わない) 図:答案の型

  • 手続の趣旨は公正自体の確保か内容の適正の担保か→瑕疵が趣旨をどの程度害するか〔重要事項か・機会を実質的に奪ったか〕→(評価の一事情として)瑕疵がなければ結論が変わりえたか→取消し
  • 取り消さない
  • 理由の提示は趣旨から取消し・結果への影響は問わない

答案の型です。ここは、論文で論点になりうる所です。

⭐ 論文で書く規範:解釈(判例の傾向をふまえた一つの整理):手続の瑕疵が処分の取消事由になるかは、まず手続の趣旨を確認し、次に瑕疵がその趣旨をどの程度害するかを見て、そのうえで評価の一事情として、瑕疵がなければ処分の内容が変わりえたかを考慮する。理由の提示は、趣旨から、結果への影響を問わず取り消される (論文の骨格)

3歩です。1歩目、その手続は、公正さ自体の確保か、内容の適正の担保か。2歩目、瑕疵は、その趣旨をどれだけ害したか。重要な事項だったか、機会を実質的に奪ったか。3歩目、評価の一事情として、瑕疵がなければ結論が変わりえたか。変わらないことが明らかなら、取消しを免れる方向に働きます。注意が1つあります。結果への影響は、取消しの要件と断定せず、判決の言い方に合わせて、考慮される事情として書くのが安全です。判例は、理由づけに使っても、必要条件とは言い切っていません。

演習——3場面を判定する

演習の答え(場面1=理由の提示の程度の不備→Bの違反が実際にあっても取消し/場面2=聴聞で施工記録について述べさせず→行手法の聴聞について最高裁は未確定だが個人タクシーの趣旨と学説から取消し/場面3=審査会が資料提出を促さず・Bの手元にそれ以上の資料なし→群馬中央バス事件の型で取り消さない〔ただし資料があれば別〕/3場面の違い=手続の趣旨と影響の見え方) 図:演習の答え

  • 場面1=理由の提示の程度の不備→Bの違反が実際にあっても取消し
  • 場面2=聴聞で施工記録について述べさせず→行手法の聴聞について最高裁は未確定だが個人タクシーの趣旨と学説から取消し
  • 場面3=審査会が資料提出を促さず・Bの手元にそれ以上の資料なし→群馬中央バス事件の型で取り消さない〔ただし資料があれば別〕
  • 3場面の違い=手続の趣旨と影響の見え方

演習です。冒頭の設例に戻ります。どの場面でも、Bの違反は実際にあります。場面1から順に、取り消されるかを判定します。場面1。通知書に、安全基準違反、とだけ書かれていました。場面2。聴聞で、違反の有無の核心である施工記録について、Bに述べさせませんでした。場面3。審査会Cが、Bに資料の提出を促しませんでした。ただし、Bの手元には、それ以上の資料がありません。ただし、Bの手元に、判断を左右しうる資料が実際にあったなら、結論は変わりえます。3場面で結論が違った理由は、手続の趣旨と、影響の見え方が違うからです。

今日の地図(保存版)

今日の地図(問い=中身が正しくても手続の瑕疵で取り消されるか/規定は無く解釈/理由の提示=結果を問わず取消し/意見陳述の機会=異なる判断に至る可能性がなかったとはいえない→違法・原審の取消し維持/諮問=趣旨に反する重大な瑕疵なら違法〔群馬中央バスは取り消さず〕/分かれ目=手続の趣旨+行手法施行後は4原則の瑕疵を取消事由とする有力説・これまでのところ最高裁が判断を示したのは理由の提示のみ) 図:今日の地図

  • 問い=中身が正しくても手続の瑕疵で取り消されるか
  • 規定は無く解釈
  • 理由の提示=結果を問わず取消し
  • 意見陳述の機会=異なる判断に至る可能性がなかったとはいえない→違法・原審の取消し維持
  • 諮問=趣旨に反する重大な瑕疵なら違法〔群馬中央バスは取り消さず〕
  • 分かれ目=手続の趣旨+行手法施行後は4原則の瑕疵を取消事由とする有力説・これまでのところ最高裁が判断を示したのは理由の提示のみ

冒頭の問いに戻ります。処分の中身が正しくても、手続の瑕疵で、処分は取り消されるのか。手続の種類によって、答えが違いました。持ち帰るのは3点です。1つ目。手続の瑕疵が取消事由になるかは、行政手続法に規定がなく、解釈で決まります。2つ目。理由の提示の不備は、結果を問わず取り消されます。意見を述べる機会の欠けと、諮問の不備は、結果への影響や、重大な瑕疵かどうかが、考慮されます。3つ目。分かれ目は、その手続が、何のためにあるか。行政手続法ができたあとは、行政庁の義務とされた手続の瑕疵は、取消事由になるとする有力説があります。ただし、これまでのところ、最高裁が判断を示したのは、理由の提示だけです。

参照条文

  • 行政手続法14条1項

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