不開示情報②(国の安全・公共の安全・審議検討・事務事業)
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第9章 情報公開・個人情報保護 #121/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
外交の記録と審議会の議事録、裁判所が見るものは同じか
図:今日の問い
- 外交交渉の記録を請求したら
- 審議会の議事録を請求したら
- どちらも「公にすると支障が出るおそれ」で不開示になりうる
- 裁判所が見る中身は同じか→今日は5条の3号・4号・5号・6号
前回の最後に、予告をしました。今日は、5条の3号から6号です。国の安全、公共の安全、審議や検討、事務や事業。そして、不開示情報の判断に、行政機関の長の裁量があるのかを見ます。問いを置きます。他国との外交交渉の記録を、開示請求しました。もう1つ、審議会の議事録も請求しました。どちらも、公にすると支障が出るおそれがある、という理由で、不開示になりました。請求した人が裁判所に訴えたとき、裁判所が見る中身は、この2つで同じでしょうか。外交交渉の記録と審議会の議事録では、同じおそれでも、裁判所が見る中身が違います。そして、その違いは、条文の書き方から読み取れます。今日は、その読み方を持ち帰ってください。その前に、想起を2問。1つ目。前回の2号イは、おそれがあるかどうかを、誰が判断すると言いましたか。2つ目。要件裁量と判断代置は、何が違いましたか。
2号イは、裁判所が、要件に当たる事情を客観的に判断します。要件裁量は、行政庁の判断に幅を認めること。判断代置は、裁判所が自分で判断して、行政庁の判断に置き換えることです。この2つの言葉が、今日の軸になります。
号の地図、後半の4つ
図:5条の号の地図・後半
- 3号=国の安全等
- 4号=公共の安全等
- 5号=審議・検討・協議
- 6号=事務・事業
- 前回=1号・1号の2・2号
- 今日の見どころ=3号・4号だけ書き方が違う・5号は「不当に」・6号は柱書が中心
地図を確認します。3号は、国の安全や外交に関する情報。4号は、犯罪の捜査など、公共の安全と秩序に関する情報。5号は、役所の内部での審議や検討の情報。6号は、役所の事務や事業の遂行に関する情報です。見どころを先に言います。3号と4号は、条文の書き方が、他と違います。5号は、不当に、という言葉で絞られています。6号は、柱書が中心で、イからホは例示です。判断の型は、前回と同じ2段です。号の網にかかるか。ただし書があれば、そこで開示に戻らないか。3号から6号には、ただし書はありません。号の網にかかるかどうかが、そのまま勝負になります。
3号——国の安全、外交の信頼、交渉上の不利益
図:3号の構造
- 公にすることにより①国の安全が害されるおそれ
- ②他国・国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ
- ③他国・国際機関との交渉上不利益を被るおそれ/のいずれかがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報
3号を出します。骨格を読みます。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第五条(第三号) 三 公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報
おそれは3つ。国の安全、他国との信頼関係、交渉上の不利益です。例で言います。他国との交渉で、日本が、どこまで譲れるかを書いた方針のメモ。公にすれば、相手に手の内が見えて、交渉で不利になります。3つ目に当たりえます。相手国が、内密に、と言って渡してきた情報を公にすれば、2つ目の信頼関係が傷つきます。3号の条文の終わり方が、今日の中心です。前回の2号イを、思い出してください。法人などの、権利や競争上の地位を、公にすることにより、害するおそれがあるもの。情報の性質だけが書かれていました。3号は、そのあいだに、行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある、という言葉が挟まっています。この挟まった言葉が、後で効いてきます。
4号——犯罪の捜査など、公共の安全と秩序
図:4号の構造
- 公にすることにより
- 犯罪の予防・鎮圧・捜査
- 公訴の維持
- 刑の執行
- その他の公共の安全と秩序の維持
- に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報=3号と同じ形
次は4号です。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条4号
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第五条(第四号) 四 公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報
公訴の維持とは、起訴した事件で、裁判を続けていくことです。例です。ある事件の、捜査に協力した人が、誰か特定できる記録。公にすれば、協力者が危険にさらされ、以後の捜査に誰も協力しなくなる。4号に当たりえます。注目してください。形は3号と同じです。おそれがあると、長が認めることにつき、相当の理由がある。3号と4号は、同じ型の書き方をしています。
「相当の理由」の読み方
図:2号イと3号・4号の審査の違い
- B=請求者がA=行政機関の長に開示請求→Aが不開示と判断→BがC=裁判所に取消訴訟
- 2号イの線=Cが「おそれ」の有無を自分で判断
- 3号・4号の線=Cが「Aの判断に相当の理由があるか」を判断
中心の論点です。その前に、第5章を思い出す1問です。要件裁量が認められる判断には、どんな系統があったでしょうか?専門技術的な判断や、政治的・政策的な判断など、行政庁に任せたほうがよい判断でした。そうでしたね。それを頭に置いて、図を見ます。請求者をB、行政機関の長をA、裁判所をCと呼びます。BがAに請求し、Aが不開示と決めました。BはCに、取り消しを求めて訴えました。2号イのとき、Cは、おそれがあるかどうかを、自分で判断しました。自分で事情を調べ、自分で、おそれがあると認めるか決めます。Aの判断に、置き換えて判断するわけです。3号・4号のとき、Cが見るのは、別のことです。おそれが実際にあるかを、自分で決めるのではありません。Aが、おそれがあると認めたことに、相当の理由があるか。つまり、Aの判断が合理的か、を見ます。
たとえで言います。店長が、この商品は危ないので棚から下げた、と言ったとします。2号イの型は、本部の監査役が、商品を自分で検査し直して、危ないかどうか決める。3号・4号の型は、検査し直すのではなく、店長がそう判断した理由が、筋の通ったものか、を確かめる。筋が通っていれば、下げたことは認められます。後者が、要件裁量を認めた形です。相当の理由、という書き方を、審査がほとんど無い、と読むのは、よくある誤解です。審査はされます。長の判断が、合理的でなければなりません。おそれがあるという理由が、筋の通ったものでなければ、不開示は違法になります。審査が無いのではなく、審査の対象が、おそれそのものではなく、長の判断の合理性になる、ということです。店長の例なら、なぜ下げたのかと聞かれて、なんとなく危ない、としか言えなければ、筋の通った理由とはいえません。下げたことは認められない、ということです。冒頭の外交交渉の記録で言えば、長が、公にすると相手国との関係が損なわれる、と判断したとします。ところが、その判断の基礎にした重要な事実が誤っていた。あるいは、判断が明らかに筋の通らないものだった。この場合は、長の判断に、相当の理由があるとはいえません。これは、第5章の、裁量の逸脱・濫用の審査と同じ方向の見方です。裁量があっても、無制限ではない、でしたね。要点を1行にします。3号・4号は、裁判所が代わりに判断しない。長の判断が合理的かを見る。
なぜ3号・4号だけなのか——号ごとの対比
図:号ごとの裁量対比
- 号
- 条文の書き方
- 裁判所の見方
- 1号・2号・5号・6号=おそれ等を情報の性質として書く→裁判所が自分で判断〔判断代置〕
- 3号・4号=長が認めることにつき相当の理由→長の判断に相当の理由があるかを審査〔要件裁量〕
- 原則=開示が原則・専門技術性を要しない
ここで、1問です。3号・4号と、2号イで、条文の書き方は、どこが違うでしょうか。そのために、裁判所の見方は、どう変わるでしょうか。3号・4号には、長が認めることにつき相当の理由がある、という言葉があります。2号イには、ありません。だから、2号イは裁判所が自分で判断して、3号・4号は長の判断の合理性を見ます。では、対比表を出します。1号、2号、5号、6号は、おそれなどを、情報の性質として書いています。裁判所が、自分で解釈して判断します。3号、4号だけが、長が認めることにつき相当の理由がある、と書いています。ここで、長の判断に合理性があるかを見ます。
3号・4号だけ、長の判断を見る書き方になっている理由は、2段で考えます。まず、他の号が原則どおりな理由。1つ目は、情報公開法は、開示が原則で、不開示は例外だから、と説明されます。例外を広げる方向に、長の判断を尊重する、という扱いは、取りにくいのです。2つ目は、不開示情報に当たるかどうかの判断は、必ずしも専門技術性を要しないから、と説明されます。裁判所が、条文を読み、事情を見れば、判断できます。だから原則は、裁判所が自分で判断します。不開示情報該当性に、行政庁の要件裁量は、認められません。冒頭の審議会の議事録で言えば、委員が率直に話せなくなるかは、議事録の中身と、審議がどこまで進んだかを見れば、裁判所にも判断できます。その上で、3号・4号は例外です。第5章で、不開示情報は、不確定な言葉があっても裁判所が意味を決める例、として見ました。そのとき、5条の中でも、号によって審査の仕方が違うものがある、と言いました。それが、この3号・4号です。国の安全、外交、犯罪の捜査。さきほど思い出した、政治的な判断や、専門技術的な判断が、まさに要る分野です。冒頭の外交交渉の記録なら、公にしたとき相手国がどう受け取るかは、交渉の現場にいる長でないと見通しにくい。その性質から、長の判断を尊重する趣旨だと読めます。第5章では、と認めるとき、と書いてあるだけでは、裁量があるとは決まらない、と見ました。3号・4号は、そこが違います。相当の理由がある、と、裁判所が何を審査するかまで、条文が書いています。答案では、第5章と同じく、条文の書き方、分野の性質、長の判断に委ねる趣旨、結論、の順で書きます。
5号——審議・検討・協議に関する情報
図:5号の構造
- 主体=国の機関・独立行政法人等・地方公共団体・地方独立行政法人の内部又は相互間
- 対象=審議・検討・協議に関する情報
- 3つのおそれ=①率直な意見の交換・意思決定の中立性が不当に損なわれる②不当に国民の間に混乱を生じさせる③特定の者に不当に利益を与え・不利益を及ぼす
- すべて「不当に」
- 「長が認める」の書き方は無い
5号です。役所が、物事を決めるまでの、内部の検討を守る号です。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条5号
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第五条(第五号) 五 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの
まず主体です。国の機関、独立行政法人等、地方公共団体、地方独立行政法人。その内部、または相互間の、審議、検討、協議に関する情報です。おそれは3つ。意見交換や中立性、国民の混乱、特定の者への利益や不利益です。3つとも、不当に、がついています。これが、5号の加重です。加重とは、支障のおそれがあるだけでは足りず、条件が1つ重くなっている、ということです。不当に、とは、正当化できないほどに、という意味です。開示には、国民が行政の中身を知る、という利益があります。その利益と比べても、なお弊害のほうが上回ると評価できるとき、はじめて不開示になります。
審議会が、ある制度の案を、検討している途中だとします。途中の議事録に、まだ固まっていない案が、いくつも書かれている。これを公にすると、委員が、批判を恐れて、率直に意見を言えなくなるかもしれません。まだ決まっていない案を、決まったことのように受け取って、世間が混乱するかもしれません。これが、不当に、損なわれる、混乱を生じさせる、の場面です。ところが、審議会が結論を出したあとは、事情が変わります。意見の交換を守る必要も、混乱のおそれも、大きく薄れます。そこで、結論が出た後は、原則として、5号の不開示情報では、なくなります。原則として、と言うのは、例外があるからです。結論が出た後でも、公にすると、将来予定されている同じ種類の審議で、率直に意見を言えなくなる。そういうおそれがあれば、なお5号に当たりえます。時間の軸で整理します。審議や検討の途中。不当にの比較で、弊害が上回れば、不開示。結論が出る。原則として、5号から外れる。分かれ目は、いま、その情報が、審議や検討の途中のものか、です。裁量の面を、確認します。5号は、長が認める、とは書いていません。おそれは、裁判所が自分で判断します。3号・4号とは、そこが違います。
6号——事務・事業に関する情報
図:6号の構造
- 柱書=国の機関・独立行政法人等・地方公共団体・地方独立行政法人が行う事務・事業に関する情報
- 公にすることにより「次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」
- イ~ホは例示
- 柱書が中心
6号です。柱書から読みます。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条6号柱書
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第五条(第六号・柱書) 六 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
中心は、柱書です。役所が行う事務や事業に関する情報で、公にすることで、その事務や事業の、適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの。その前に、次に掲げるおそれその他、とあります。つまり、イからホは、例示です。イからホに当たらなくても、柱書の要件を満たせば、6号に当たります。
図:6号イ~ホの5類型
- イ=監査・検査・取締り・試験・租税の賦課徴収→正確な事実の把握を困難に
- 違法不当な行為を容易に・発見を困難に
- ロ=契約・交渉・争訟→財産上の利益・当事者としての地位を不当に害する
- ハ=調査研究→公正かつ能率的な遂行を不当に阻害
- ニ=人事管理→公正かつ円滑な人事の確保に支障
- ホ=企業経営→企業経営上の正当な利益を害する
5つの類型を、条文で読みます。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条6号イ〜ホ
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第五条(第六号・イからホ) イ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ ハ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ ニ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ ホ 独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ
イの例です。抜き打ちの検査の予定を事前に公にすれば、検査の相手が準備して、実態が分からなくなります。ロの例です。入札の前に予定価格を公にすれば、その価格に合わせた入札になって、国が損をします。ハは、調査研究。ニは、人事管理。ホは、独立行政法人等や、地方公共団体が経営する企業などの、企業経営上の正当な利益です。イからホに当たらない場合でも、6号になるのですか。なります。柱書の、事務や事業の性質上、適正な遂行に支障を及ぼすおそれ、を満たすなら当たります。イからホは、典型を並べたものです。この6号の情報は、行政運営に関する情報、と呼ばれることもあります。名前が違っても、中身はこの6号です。6号の裁量も、確認します。柱書に、長が認める、という書き方はありません。おそれは、裁判所が判断します。ただ、判断の中身は、次の判決で見るように、具体的な事情の認定が要ります。
最高裁が示した、6号の「おそれ」の認定
図:判例の事案
- 機能性表示食品の届出資料の分析方法を検証する事業〔消費者庁が外部機関に委託〕→報告書の開示請求→検証の手法・基準・検証結果・考察・問題点が6号柱書・イで不開示
- 原審=不開示は適法
- 最高裁=破棄差戻し
6号について、最近の最高裁の判決があります。事案から見ます。機能性表示食品という、事業者が、科学的な根拠を届け出て、機能を表示できる食品があります。消費者庁は、その届出資料の分析方法が妥当か、検証する事業を、外部の機関に委託しました。届け出るときの根拠の示し方は、消費者庁が、ガイドラインという指針で定めています。届け出た後も、消費者庁は、届け出られた内容を見て、必要があれば撤回や変更を促します。これを、事後監視と言います。その事業の報告書を、開示請求した人がいます。報告書のうち、検証の手法や基準、検証結果、考察、問題点にあたる部分が、6号の柱書とイを理由に、不開示にされました。不開示の理由は、こうです。開示すれば、消費者庁が、ガイドラインのどこを中心に事後監視をしているか、推測される。事業者が、監視や問題点の指摘を、免れやすくなる。原審は、これを認めて、不開示は適法としました。最高裁は、原審の判断を破棄して、差し戻しました。なぜ破棄されたのか。判旨を読みます。
判例最三小判令和7・6・6(令和6年(行ヒ)第94号)
6号のおそれは、具体的事情の認定説示を要する ……本件ガイドラインにおいて、機能性表示食品に求められる科学的根拠の水準は、我が国の消費者の意向、科学的な観点等を十分に踏まえたものでなければならないなどとされるにとどまっていることも考慮すると、本件検証事業において用いられた上記の知見が事業者においても通常知り得るような一般的なものである可能性は否定し難い。そうすると、本件検証機関において、機能性関与成分の分析方法や機能性表示食品の表示内容につき、どのような場合に問題視したか等が事業者に推知されたとしても、そのことによって、事業者において消費者庁の事後監視や検証機関による問題点の指摘を免れることを容易にさせるおそれがあるものと直ちにいうことはできない。
続けて、結論の部分を読みます。
判例最三小判令和7・6・6(令和6年(行ヒ)第94号)
6号のおそれは、具体的事情の認定説示を要する(その2) ……以上によれば、上記の諸点について認定説示することなく、本件各不開示箇所を開示することにより事業者において消費者庁の事後監視や検証機関による問題点の指摘を免れることを容易にさせるおそれがあるなどとして、本件各不開示箇所に記録された情報が情報公開法5条6号柱書き及び同号イ所定の不開示情報に該当するとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
図:判旨の読み方
- 消費者庁の事後監視の重点が推知される
- 事業者が事後監視・指摘を免れやすくなる→と言うには①報告書に委託先がガイドラインにどう依拠したかを示す情報が記録されているか②用いた知見が事業者に通常知り得ないものか→この2点を認定説示すべきなのに原審はしていない→破棄差戻し
- 6号=おそれを抽象的に言うだけでは足りない
読み方を、2点に絞ります。1点目。事業者が監視を免れやすくなる、と言うには、2つの事情を、認定して示す必要がありました。報告書に、委託先がガイドラインにどう依拠したかを示す情報が、記録されているか。そして、用いられた知見が、事業者には通常知り得ないものか。1つ目が要るのは、報告書に、ガイドラインのどこをどう使ったかが書かれていなければ、開示しても、消費者庁がどこを重点に見ているかが推測されるおそれがあるとは、直ちにはいえないからです。最高裁は、後者について、事業者も知りうる一般的な知見である可能性は、否定し難い、と言いました。知りうる一般的な知見なら、推測されても、監視を免れやすくなるとは、直ちにはいえません。2点目。結論です。この2点を認定説示せずに、おそれがあるとした原審の判断は、法令違反だ。だから、破棄差戻しです。6号の、おそれは、抽象的に言うだけでは足りません。具体的な事情を、記録に基づいて認定して、はじめて判断されます。
不開示が、違法だと確定したのですか。違います。差し戻しなので、認定を、やり直させる判断です。開示せよ、と最高裁が決めたのではありません。結論の短答は、破棄差戻し、です。
図:補足意見の位置づけ
- 補足意見=裁判官個人の意見・法廷意見ではない
- 宇賀裁判官の補足意見=6号イの「おそれ」は名目的では足りず実質的なもの・法的保護に値する程度の蓋然性が必要・「おそれ」の判断に行政機関の長の裁量は認められず
- これらに異論がないと述べる
もう1つ、注意があります。この判決には、補足意見がついています。宇賀裁判官は、6号イのおそれは、名目的なものでは足りず、実質的なものでなければならない。法的保護に値する程度の蓋然性が必要で、おそれの判断に、行政機関の長の裁量は認められない、と述べています。これらに、異論はないとも述べています。ただし、これは補足意見です。法廷意見ではありません。法廷意見は、さきほどの判旨です。補足意見は、法廷意見を理解する助けにはなりますが、判例としての、判断そのものとは、分けて覚えてください。この判決を、今日の軸に重ねます。6号は、長が認める、と書かれていません。おそれは、裁判所が自分で、記録に基づいて、具体的に認定する形になります。
設例——省に届いた5つの文書を振り分ける
図:設例の振り分け表
- 架空の甲省・B=請求者がA=甲省の大臣に開示請求
- ①他国との交渉方針のメモ→3号→Aが認め、Cは相当の理由を審査
- ②捜査協力者が特定できる記録→4号→同
- ③審議会の途中の議事録・結論後の議事録→5号→途中は検討・結論後は原則外れる→Cが自分で判断
- ④入札の予定価格の積算資料→6号ロ→Cが自分で判断
- ⑤翌年度の資格試験の問題案→6号イ→Cが自分で判断
設例で振り分けます。架空の甲省に、開示請求がありました。請求者をB、甲省の大臣をA、裁判所をCと呼びます。請求された文書は5種類です。それぞれ、どの号の網にかかるか。そして、誰が何を判断するか。順に見ます。先に、2つ考えてみてください。1つ目は、他国との交渉方針を書いたメモ。2つ目は、入札の予定価格の積算資料です。どの号で、誰が何を判断するでしょうか。交渉方針のメモは、3号だと思います。Aが、おそれを認めて、Cは、相当の理由があるかを審査します。予定価格は、契約に関わるので、6号のロです。Cが自分で判断します。残りも、順に。1つ目、交渉方針のメモ。3号。Aが、おそれがあると認め、Cは、その判断に相当の理由があるかを審査します。2つ目、捜査協力者が特定できる記録。4号。同じく、相当の理由の審査です。3つ目、審議会の議事録。途中の議事録と、結論後の議事録で、結論が分かれます。途中のものは、5号の検討の情報で、不当にの比較で、弊害が上回れば不開示。結論後のものは、原則として、5号から外れます。どちらも、Cが自分でおそれを判断します。4つ目、入札の予定価格の積算資料。6号ロ。契約に係る財産上の利益を、不当に害するおそれ。Cが自分で判断します。5つ目、翌年度の資格試験の問題案。6号イ。試験に係る事務で、正確な事実の把握を困難にするおそれ。これもCが自分で判断します。
1つの文書が、複数の号に当たることもありますか。あります。たとえば、捜査関係の文書に、個人の氏名が出ていれば、4号に加えて、前回の1号も、見ます。文書ごとではなく、情報ごとに、どの号の網にかかるか、を見る。これが、基本です。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図
- 3号・4号=長が認めることにつき相当の理由→長の判断の合理性を審査〔要件裁量〕
- 他の号=裁判所が自分で判断〔判断代置〕
- 理由=開示が原則・専門技術性を要しない
- 5号=不当にで加重・結論後は原則外れる
- 6号=柱書が中心・イ〜ホは例示・抽象的なおそれでは足りない
- 次回=開示請求の手続と開示のしかた
最初の問いに戻ります。外交交渉の記録と、審議会の議事録。裁判所が見る中身は、同じでしょうか。答えです。外交交渉の記録は、3号です。条文が、長が認めることにつき相当の理由がある、と書いているので、裁判所は、長の判断の合理性を見ます。審議会の議事録は、5号です。長が認める、という書き方がないので、裁判所は、おそれを自分で判断します。同じおそれでも、条文の書き方が、審査の仕方を決めるのです。持ち帰るのは、4点です。1つ目。3号と4号は、長が認めることにつき相当の理由がある、という書き方で、審査は、長の判断の合理性です。ただし、何でも通るわけではありません。2つ目。他の号は、裁判所が自分で判断します。理由は、開示が原則であること、専門技術性を要しないこと、と説明されます。3つ目。5号は、不当に、で加重されていて、結論が出た後は、原則として外れます。4つ目。6号は、柱書が中心で、イからホは例示です。おそれは、具体的な事情の認定で判断されます。論文でも論点になりうるところです。不開示情報の該当性に、行政機関の長の裁量があるのか。条文の書き方と、分野の性質から、答えてください。
参照条文
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条4号
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条5号
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条6号柱書
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条6号イ〜ホ