第三者の意見聴取と開示決定の争い方
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第9章 情報公開・個人情報保護 #123/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
自分の会社の情報が、知らないところで開示されようとしている
図:今日の問い
- 自分の会社の単価や技術の情報が載った文書に、他人から開示請求が出た→反対したら開示は止まる?→取消訴訟を起こしたら止まる?
- 今日の道筋=第三者の立場→13条の3段→2週間→争い方の地図→決定前の差止め→本案で何を主張するか
前回の続きです。架空の乙省に、Bが開示請求をした、あの設例をもう一度使います。検討資料一式には、乙省の取引先であるC社の情報が載っていました。問いを2つ置きます。1つ目。C社の単価や技術の情報が載った文書に、知らないところで、他人から開示請求が出ました。C社が、開示に反対したら、開示は止まるでしょうか。2つ目。C社が、開示決定の取消訴訟を起こしたら、開示は止まるでしょうか。実は、どちらも、そのままでは止まりません。しかも、止め損ねると、取り返しがつきません。今日は、止めるための仕組みを、条文の順に見ていきます。その前に、想起を2問。1つ目。前回の7条は、開示できる情報から、どの号を除いていましたか?2つ目。申請者以外の第三者の意見を聴く機会について、行政手続法10条は、義務でしたか?
7条は、5条1号の2の、匿名加工情報等を除いていました。行政手続法10条は、聴く機会を設けるよう努める、という努力義務でした。この2つが、今日の土台になります。7条は、後で13条2項につながります。10条は、第三者の保護が、一般には薄いという出発点です。
開示される側の立場——取り返せない、二面関係の外にいる
図:三面関係
- B=請求者→A=乙省の長:開示請求
- A→B:開示決定
- C=第三者:文書に情報が載っている・請求の外側にいるのに決定で利益が直接動く
- 開示は実施されたら取り返せない
- 行政手続法は二面関係が基本・第三者は10条の努力義務まで
まず、登場人物を整理します。請求する人がB、決定する乙省の長がAです。今日は、もう1人、文書に情報が載っている取引先のC社を、Cと呼びます。三人目のCです。ここで、Cの立場の特徴が2つあります。1つ目。Cは、BとAのやり取りの外にいます。Bが請求し、Aが決める。Cは何もしていないのに、決定の結果で、利益が直接動きます。2つ目。開示は、一度されたら取り返せません。例えで言います。荷物を預かっている倉庫の人が、預かり主に断りなく、誰かに荷物を引き渡してしまった。引き渡した後で、やっぱり返してください、と言っても、中身を見られた事実は消せません。情報の開示も、同じです。
第三者の声を聞く仕組みとしては、行政手続法10条の公聴会がありました。ただ、許可の要件として第三者の利害を考慮することが定められている処分で、必要に応じて、努めなければならない、というだけでした。行政手続法は、行政庁と申請者の二人の関係が基本で、第三者は少ししか顔を出しません。前回見たとおり、情報公開法の開示請求は、申請です。決定は、申請に対する処分です。けれど、文書に第三者の情報が載るのが、日常的に起きる制度です。そこで、情報公開法は、13条で、第三者のための手続を、独自に置きました。
13条の全体像——3段で読む
図:13条の3段
- 1項=聴くことが「できる」〔任意的意見聴取〕
- 2項=聴かなければ「ならない」〔義務的意見聴取=5条1号ロ・5条2号ただし書・7条のとき〕
- 3項=反対意見書が出ても開示決定は「できる」+決定日と実施日の間に少なくとも2週間+決定後直ちに書面通知
13条は、3項まであります。1項から読みます。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律13条1項
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第十三条(1項) 開示請求に係る行政文書に国、独立行政法人等、地方公共団体、地方独立行政法人及び開示請求者以外の者(以下この条、第十九条第二項及び第二十条第一項において「第三者」という。)に関する情報が記録されているときは、行政機関の長は、開示決定等をするに当たって、当該情報に係る第三者に対し、開示請求に係る行政文書の表示その他政令で定める事項を通知して、意見書を提出する機会を与えることができる。
1項は、聴くことが、できる、です。次に2項です。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律13条2項
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第十三条(2項) 2 行政機関の長は、次の各号のいずれかに該当するときは、開示決定に先立ち、当該第三者に対し、開示請求に係る行政文書の表示その他政令で定める事項を書面により通知して、意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし、当該第三者の所在が判明しない場合は、この限りでない。 一 第三者に関する情報が記録されている行政文書を開示しようとする場合であって、当該情報が第五条第一号ロ又は同条第二号ただし書に規定する情報に該当すると認められるとき。 二 第三者に関する情報が記録されている行政文書を第七条の規定により開示しようとするとき。
2項は、聴かなければ、ならない、です。引き金は、1号と2号の2つです。最後に3項です。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律13条3項
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第十三条(3項) 3 行政機関の長は、前二項の規定により意見書の提出の機会を与えられた第三者が当該行政文書の開示に反対の意思を表示した意見書を提出した場合において、開示決定をするときは、開示決定の日と開示を実施する日との間に少なくとも二週間を置かなければならない。この場合において、行政機関の長は、開示決定後直ちに、当該意見書(第十九条において「反対意見書」という。)を提出した第三者に対し、開示決定をした旨及びその理由並びに開示を実施する日を書面により通知しなければならない。
3項は、反対の意見書が出ても、開示決定はできる。ただし、少なくとも2週間を置き、直ちに書面で通知する。この3段を、順に見ます。先に言葉を一つ。第三者とは、開示請求者以外の者です。国や地方公共団体なども、かっこ書で挙がっています。個人も法人も入ります。
13条1項——聴いて「よい」
図:1項の場面
- 文書にC社の単価・技術の情報が記録されている→Aは意見書提出の機会を与えることが「できる」〔任意〕
- 聴く目的=判断材料を集める〔5条2号イの競争上の地位を害するおそれの有無など〕
- 「開示決定等」=不開示の判断のときも聴ける
1項です。文書に第三者の情報が記録されているとき、Aは、第三者に意見書を出す機会を与えることができます。できる、なので、任意です。設例で言います。検討資料に、C社の単価と製造の工程が載っていたとします。Aは、これを開示してよいのか分かりません。5条2号は、法人の競争上の地位などを害するおそれがある情報を、不開示情報としています。害するおそれがあるかどうかは、C社が一番よく知っています。そこでAは、C社に、請求された文書を通知して、意見を求める。判断の材料を集めるための手続です。1項の段階では、聴かなかったこと自体が、直ちに義務違反になるわけではありません。ただし、決定の中身が適法かどうかは、別に審査されます。もう一つ、1項は、開示決定等と書いてあります。開示と決める場合だけでなく、不開示や一部開示と決める判断のときにも、聴けます。
13条2項——聴かなければならない場面
図:2項の2つの引き金
- 文書に第三者の情報が記録→①5条1号ロ・5条2号ただし書〔人の生命・健康・生活・財産を保護するため公にすることが必要な情報〕に当たると認めて開示しようとするとき
- ②7条の裁量的開示をしようとするとき→開示決定に先立ち書面で通知して意見書の機会を与える義務
- 共通点=号の網にかかる情報をあえて外に出す場面〔ただし書=網から戻る=開示義務/7条=不開示情報のまま長の裁量〕
- 例外=第三者の所在が判明しないとき
2項です。聴くことが、義務になる場面です。1項では、任意でした。2項では、なぜ義務になるのでしょうか。引き金は2つです。1つ目は、5条1号ロ、または5条2号ただし書に当たると認めて、開示しようとするとき。2つ目は、7条の裁量的開示をしようとするときです。5条2号のただし書を、確認します。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号(抜粋)
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第五条(第二号) 二 法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。 イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの
読み方です。2号の本文とイで、法人の競争上の地位などを害するおそれがある情報は、不開示情報です。ただし、人の生命、健康、生活、財産を保護するために、公にすることが必要な情報は、この不開示から除かれます。不開示情報の回で見た、号の網にかかっても、ただし書で戻る、という形です。戻った情報は、開示するのが原則です。個人の情報の1号にも、同じ理由で戻すただし書があります。それが、1号ロです。設例で言います。検討資料に、C社の製品の安全試験の結果が載っていたとします。試験の結果は、C社にとって、競争上の地位に関わる情報です。ところが、この製品には、使った人の健康被害のおそれが指摘されていました。Aは、人の健康を守るため、公にすることが必要だ、と認めて、開示しようとしました。このとき、AはC社に、書面で通知して、意見書を出す機会を与えなければなりません。
理由は、この場面だけ、第三者にとって、不意打ちが最も大きいからです。普通の不開示情報は、そもそも開示されない原則です。ところが、ただし書に当たる、と認めて開く場合は、2号の網にかかる情報を、ただし書で網から戻して、外に出す判断です。事前に、一言も聴かずに出されたら、C社は、反論の機会も無いまま、情報を失います。もう一つの引き金は、7条です。ここで、前回の7条が、つながります。条文で、改めて確認します。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律7条
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第七条 行政機関の長は、開示請求に係る行政文書に不開示情報(第五条第一号の二に掲げる情報を除く。)が記録されている場合であっても、公益上特に必要があると認めるときは、開示請求者に対し、当該行政文書を開示することができる。
7条は、不開示情報に当たっていても、公益上特に必要があるときに、開示できる、という規定でした。こちらは、網から戻すのではありません。不開示情報だと認めたまま、あえて開きます。戻すか、そのまま開くかの違いはありますが、網にかかる情報を外に出す点は、同じです。だから、13条2項2号は、7条による開示にも、意見聴取を義務づけています。整理します。2つの引き金に共通するのは、号の網にかかる情報を、あえて外に出す場面、という点です。ただし書で戻った情報は、もう不開示情報ではないので、開示しなければなりません。7条の情報は、不開示情報のままで、開くかどうかは長の判断です。それ以外の通常の開示、つまり、そもそも号の網にかからないと判断して開く場合は、1項の任意の聴取にとどまります。
第三者の所在が判明しない場合は、義務ではありません。連絡が取れない相手に、通知を出せないからです。この例外は、2項にだけあり、1項にはありません。1項は、そもそも、できる、だからです。
13条3項——反対しても開示はできる、ただし2週間
図:3項の時系列
- 請求→Aが聴く〔1項または2項〕→Cが反対意見書を提出→Aが開示決定→直ちにCへ書面通知〔決定をした旨・理由・開示を実施する日〕→少なくとも2週間→開示の実施
- 争える窓=決定から実施日の前まで
- 反対意見書は拒否権ではない
3項です。その前に、1問。第三者のC社が、開示に反対する意見書を出しました。そのとき、Aは、開示決定をできなくなるでしょうか。第三者が反対の意見書を出したら、開示決定はできなくなるのか。答えは、できなくなりません。反対意見書は、拒否権ではありません。Aは、意見を考慮したうえで、なお開示が相当だ、と判断すれば、開示決定ができます。理由は、C社の意見は、あくまで、判断の材料だからです。決めるのは、Aです。5条の原則は、開示でした。反対意見書を出す意味は、あるのですか。あります。反対意見書が出ると、Aの判断が慎重になりますし、後で争う前提にもなります。そして、3項のねらいは、もう一つあります。それが、2週間です。時系列で言います。Aが、開示決定をします。このとき、決定の日と、開示を実施する日との間に、少なくとも2週間を置かなければなりません。そして、決定の後、直ちに、反対意見書を出した第三者に、書面で通知します。通知する内容は、3つです。開示決定をしたこと。その理由。開示を実施する日。通知の相手は、反対意見書を出した第三者です。1項で聴かれた人すべてではありません。ただし、3項は、1項で聴いた場合にも、2項で聴いた場合にも及びます。条文は、前二項の規定により機会を与えられた第三者、と書いています。設例で言います。Cが反対意見書を出しました。それでもAは、人の健康を守るため、開示が必要だ、と判断して、開示決定をしました。決定の日が月曜日なら、実施は、早くても、2週間後以降です。Aは、決定の直後に、Cへ、決定をしたこと、理由、実施日を、書面で通知します。
逆に、C社が、意見書で、開示されてもかまわない、と答えていたら、どうでしょうか。このときは、3項は働きません。2週間を置く義務も、書面で通知する義務も、ありません。
2週間は何のための時間か——争って止める時間
図:2週間の意味
- 開示は実施されたら取り返せない→実施前に争う必要→取消訴訟・審査請求は提起しただけでは処分の効力を止めない〔執行不停止の原則〕→2週間のうちに「提起」+「執行停止の申立て」まで済ませる
- 実施されると取消訴訟の訴えの利益が失われると解される〔後の回〕
では、この2週間は、何のためにあるのでしょうか。答えは、第三者が、争って止める時間を確保するためです。開示は、実施されたら、取り返せません。C社の情報を見た人の記憶は、消せません。だから、実施の前に、止めなければなりません。それが、2週間です。もし、決定の翌日に実施できるなら、C社は、通知を受け取った時点で、もう間に合いません。2週間の間に、取消訴訟を起こせば、開示は止まるのではないのですか。そこが、最初の問いの答えです。止まりません。取消訴訟は、起こしただけでは、処分の効力を止めない、という原則があります。これを、執行不停止の原則と呼びます。審査請求も、同じです。起こしただけでは、処分の効力は動きません。例えで言います。ベルトコンベアで流れてくる荷物に、異議の紙を貼っても、コンベアは止まりません。止めるには、止めるボタンを押す必要があります。この、止めるボタンが、執行停止です。さらに、開示が実施されると、取消訴訟を起こしていても、訴えの利益が失われる、と考えられています。開示を取り消しても、見られた情報は戻らないからです。この点は、後の回で詳しく見ます。つまり、C社が取るべき行動は、2週間のうちに、提起と、執行停止の申立ての、両方を済ませることです。どちらか一方では、足りません。
第三者の争い方の地図——取消訴訟と審査請求、それぞれ執行停止付き
図:争い方の地図
- 開示決定→C社の手段:①取消訴訟+行訴法25条の執行停止
- ②審査請求+行審法25条の執行停止/どちらも「提起だけでは止まらない・停止の申立てを組み合わせる」
- ③決定の前の差止訴訟は届きにくい〔次節〕/要件の本論は後の回
争い方の地図を描きます。C社が、開示決定を争う道は、2本あります。1本目は、取消訴訟と、行政事件訴訟法の執行停止です。開示決定の取消しを求めて訴えを起こし、同時に、裁判所に、執行停止を申し立てます。行政事件訴訟法25条です。要件の中身は、後の回で扱います。なぜ、申立てまで要るのか。行政事件訴訟法25条1項は、取消しの訴えを起こしても、処分の効力や執行は止まらない、と定めているからです。そして、開示が実施されてしまえば、後で決定が取り消されても、見られた情報は戻りません。だから、実施の前に、止めておく必要があります。2本目は、審査請求と、行政不服審査法の執行停止です。行政不服審査法の審査請求も、処分の効力を止めません。審査庁が、執行停止をするかどうかを決めます。こちらも、細かい要件は、後の回で扱います。この回で押さえるのは、2点です。1つ目。どちらの道でも、起こしただけでは止まらず、執行停止とセットで使うこと。2つ目。それを、実施の前の2週間で済ませること。設例に戻します。月曜日に開示決定の通知が届いたC社は、実施の前の2週間のうちに、取消訴訟と執行停止の申立て、または、審査請求と執行停止の申立てを済ませます。
C社は、2本の道のどちらか一方を選べば足ります。審査請求を経ずに、いきなり取消訴訟を起こすこともできます。大事なのは、どちらの道でも、執行停止とセットにすることです。
決定の前に止められるか——差止訴訟という選択肢
図:決定の前の差止訴訟
- 行訴法3条7項=一定の処分がされようとしている場合にそれをしてはならない旨を命ずる訴え
- 要件=重大な損害を生ずるおそれ・他に適当な方法がないこと〔37条の4第1項〕
- 重大な損害=処分後に取消訴訟+執行停止で容易に救済されず、事前に差し止めるのでなければ救済が困難な損害〔判例〕→反対意見書を出したC社は、3項の通知と2週間があり、決定後に取消訴訟+執行停止で救済できる→重大な損害を生ずるおそれを満たさないと解される
- なぜ=13条3項の通知と2週間が、反対意見書を出した第三者にとって「決定を待って争えば間に合う」ように組まれているから
地図に、もう1本、候補があります。開示決定の前に、止められないか。つまり、差止めの訴えです。差止めの訴えとは、行政庁が一定の処分をすべきでないのに、されようとしている場合に、その処分をしてはならない、と命ずることを求める訴えです。行政事件訴訟法3条7項です。要件は、重大な損害を生ずるおそれがあること、そして、他に適当な方法があるときは、できないことです。37条の4第1項です。
条文行政事件訴訟法37条の4第1項
行政事件訴訟法 第三十七条の四(1項) 差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。
開示は取り返せないのだから、重大な損害に当たる、とはなりません。整理は逆になります。最高裁は、ここでの重大な損害を、次のように言っています。
判例最判平24・2・9 民集66巻2号183頁
重大な損害=事後の取消訴訟と執行停止では容易に救済されない損害 ……差止めの訴えの訴訟要件としての上記「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには,処分がされることにより生ずるおそれのある損害が,処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく,処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要すると解するのが相当である。
つまり、決定がされた後に取消訴訟と執行停止で争っても簡単には救済されず、事前に差し止めるしかない損害のことです。後で間に合うかどうかは、もう一つの要件の、他に適当な方法、ではなく、この重大な損害のほうで見ます。反対意見書を出したC社なら、3項の書面通知と2週間があるので、開示決定がされた後でも、取消訴訟と執行停止で、実施を止められます。決定を待ってから争って間に合うなら、重大な損害を生ずるおそれは満たさない、と解されています。なぜ、反対意見書を出した第三者は、決定を待ってから争って、間に合うのか。それは、13条3項が、そのように組まれているからです。決定の後、直ちに書面で通知し、実施までに少なくとも2週間を置く。争う時間を、制度が先に用意しているわけです。差止訴訟の重大な損害の中身は、後の回で扱います。論文でも論点になりうるところです。
本案で何を主張するか
図:本案の主張
執行停止で止めたとして、訴訟の本案では、何を主張するのでしょうか。主張は、2段です。先に、なぜこの2段で勝てるのかを確認します。5条は、不開示情報が記録されている場合を除いて、開示しなければならない、と定めていました。そして、不開示情報を、それでも開示できるのは、7条の、公益上特に必要なときだけです。ですから、7条によらずに不開示情報を開示すれば、その開示決定は違法になります。1つ目。その情報は、不開示情報に当たる。設例なら、Aがただし書で開こうとした、C社の安全試験の結果は、5条2号イの、競争上の地位を害するおそれがある情報だ、と主張します。2つ目。ただし書に当たらない。人の生命、健康などを保護するため、公にすることが必要だ、とは認められない、と主張します。設例で言います。C社は、安全試験の結果について、すでに対策を済ませており、健康被害のおそれはもう無い、と主張します。そうなれば、ただし書の、公にすることが必要な情報、には当たりません。安全試験の結果は、2号本文とイの網にかかったまま、戻りません。不開示情報のままです。Aは7条を使っていないので、この開示決定は違法になります。つまり、本案の勝負は、不開示情報に当たるか、ただし書に当たるか、の2点です。Aが開こうとした理由が、人の健康を守るためだったからこそ、争点は、ただし書にしぼられます。もし、Aが7条で開こうとしたのなら、Cは、公益上特に必要とは言えない、と主張することになります。
三面関係でまとめる——同じ決定でも、向きが逆
図:三面関係の対比
- B=請求者→A:開示請求
- A→B:決定
- C=第三者→A:意見書〔13条〕
- Bの争い=不開示を争う〔次回〕・Cの争い=開示を争う〔今日〕
- 同じ開示決定でも、BとCで争う向きが逆
- C=取消訴訟+執行停止・審査請求+執行停止
三面関係に戻ります。Bは、Aに開示を求めました。Aが決定します。Bが争うのは、不開示や一部開示のときです。つまり、もっと開示せよ、と争います。一方、Cが争うのは、開示のときです。つまり、開示するな、と争います。同じ、Aの決定でも、BとCとでは、争う向きが逆になります。そして、Cには、13条の意見聴取と、2週間があります。設例を、通して確認します。乙省のAは、検討資料に載ったC社の情報を、どう扱うか。まず、1項で、C社に聴くことができます。そこで、安全試験の結果が、人の健康を守るため必要な情報だ、と認めて開示しようとしました。2号ただし書です。すると、2項1号で、聴くことが義務になります。Cは、反対の意見書を出しました。それでもAは、開示決定をします。3項で、決定の後、直ちに、書面で通知し、実施日は、決定の日から、少なくとも2週間後です。本案では、不開示情報に当たる、ただし書に当たらない、と主張します。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図
- 13条1項=聴くことができる〔任意〕
- 2項=聴かなければならない〔5条1号ロ・2号ただし書・7条/所在不明は除く〕
- 3項=反対でも開示決定可・決定と実施の間に少なくとも2週間・直ちに書面通知
- 2週間=争って止める時間
- 争い方=取消訴訟+執行停止・審査請求+執行停止
- 差止訴訟=反対意見書を出した第三者は3項の通知と2週間で決定後に争って間に合うので重大な損害を満たさないと解される
- 本案=不開示情報に当たる・ただし書に当たらない
- 次回=請求者の救済
最初の2つの問いに戻ります。まず、第三者が反対したら、開示は止まるでしょうか。答えは、止まりません。反対意見書は、拒否権ではないからです。次に、取消訴訟を起こしたら、開示は止まるでしょうか。答えは、起こしただけでは止まりません。執行停止の申立てが要ります。持ち帰るのは、5点です。1つ目。13条1項は、聴くことができる。任意です。2つ目。2項は、聴かなければならない。引き金は、5条1号ロ、5条2号ただし書、7条です。第三者の所在が判明しないときは、除かれます。3つ目。3項は、反対意見書が出ても、開示決定はできる。ただし、決定と実施の間には、少なくとも2週間を置き、直ちに、反対意見書を出した第三者に、書面で通知します。4つ目。2週間は、争って止める時間です。取消訴訟でも審査請求でも、起こしただけでは止まらず、執行停止と組み合わせます。5つ目。決定の前の差止訴訟は、反対意見書を出した第三者なら、3項の通知と2週間があり、決定後に争って間に合うので、重大な損害を満たさない、と解されます。論文でも論点になりうるところです。本案の主張と、差止訴訟の整理です。条文の道と、決め手の理由を、言えるようにしておいてください。
参照条文
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律13条1項
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律13条2項
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律13条3項
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号(抜粋)
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律7条
- 行政事件訴訟法37条の4第1項