不開示決定の争い方①(審査会と裁判所・インカメラ審理)
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第9章 情報公開・個人情報保護 #124/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
黒塗りの文書と、裁判官が見られない文書
図:今日の問い
- 黒塗りの文書を返された B→「中身を見て判断してください」と裁判所に頼む→裁判官は見られる?
- では誰なら見られる?
- 今日の道筋=道は2本→審査請求の特則→審査会は文書を見る→裁判所は見られない→審査会と裁判所の対比
前回の最後に、予告をしました。今日は、開示を求めた請求者の側、つまり、不開示とされた請求者の救済を見ます。問いを置きます。請求者が、黒塗りだらけの文書を返されました。納得できないので、裁判所に、不開示とされた文書の中身を見て、判断してください、と頼みます。裁判官は、その文書を見て判断できるでしょうか。そして、見られないとしたら、誰なら見られるのでしょうか。裁判官は見られない、というのが答えで、直感と逆になります。今日は、その理由を、順に見ていきます。その前に、想起を1問。不開示の決定は、行政手続法でいうと、何にあたりますか。
開示請求は申請で、不開示の決定は、申請に対する処分です。理由の提示が要ります。これが、今日の土台になります。軸を先に言います。文書を見る人は、見たことを、請求者に語れるでしょうか。そして、見られた文書について、請求者は反論できるでしょうか。この2点で、審査会と裁判所の違いが、すべて説明できます。山場は2つあります。審査会は文書を見られること。裁判所は文書を見られないことです。
Bの側から見た、道は2本
図:三面関係の反対側
- B=請求者→A=乙省の長:開示請求
- A→B:不開示・一部開示の決定
- B→審査会:審査請求→A が諮問
- B→裁判所:取消訴訟
- C=第三者は点線=前回の想起
- 道は2本=審査請求・取消訴訟・不服申立前置なし
前回の図の、反対側から入ります。請求する人がB、決定する乙省の長がAです。前回は、文書に情報が載った第三者Cが、開示するな、と争いました。今日は、Bが、もっと開示せよ、と争います。設例を置きます。架空の乙省に、Bが、補助事業の検討資料一式を請求しました。Aは、一部を黒塗りにして、審議や検討に関する情報だとして、5条5号を理由に不開示にしました。Bの道は、2本です。1本目は、行政不服審査法の審査請求。2本目は、行政事件訴訟法の取消訴訟です。全部を開示しない決定でも、存否応答拒否や、文書が無いという決定でも、どれも、申請に対する処分です。一部開示も、黒塗りの部分は、申請の一部を認めない処分です。だから、どの場合も、この2本が使えます。
審査請求を経なければ訴えられない、という決まりを、不服申立前置と言います。この前置は、法律に定めがあるときだけです。情報公開法には、そのような定めがありません。ですから、行政事件訴訟法8条1項本文のとおり、審査請求を経ずに、直ちに取消訴訟を起こせます。
条文行政事件訴訟法8条1項
行政事件訴訟法 第八条(1項) 処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない。
ただし書の、裁決を経た後でなければ、という定めが、情報公開法には無いので、本文が働きます。審査請求の途中でも、訴えを起こせます。そのとき裁判所は、裁決が出るまで、訴訟の手続を止めることができます。8条3項です。そして、前回のCと同じく、Bも、2本のどちらか一方を選べば足ります。取消訴訟だけでも、審査請求だけでも構いません。期間の制限はありますが、数字は、別の回で見ます。では、2本の道の違いは、何でしょうか。ここが今日の主軸です。審査請求の側では、審査会が、文書そのものを見られます。訴訟の側では、裁判所は、文書を見られません。この対比を、順に確かめていきます。
審査請求の特則——審理員を置かない
図:18条1項
- 一般の審査請求=審理員が審理〔審理員=処分に関わっていない職員〕
- 開示決定等の審査請求=行審法の審理員の規定などを適用しない→審査庁=裁決をする行政機関の長が自ら進める→第三者機関に諮問
審査請求から見ます。一般の審査請求では、審理員という、処分に関わっていない職員が、公正に審理します。審理員の中身は、別の回で見ます。今日は、処分に関わっていない職員が審理する仕組み、とだけ思っておいてください。情報公開法の審査請求では、この審理員を置きません。18条1項です。骨格を読みます。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律18条1項
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第十八条(1項) 開示決定等又は開示請求に係る不作為に係る審査請求については、行政不服審査法(平成二十六年法律第六十八号)第九条、第十七条、第二十四条、第二章第三節及び第四節並びに第五十条第二項の規定は、適用しない。
読み方です。開示の決定や、請求への不作為についての審査請求には、行政不服審査法の、審理員を指名する9条などを適用しない、ということです。審理員を置かないなら誰が公正さを担うのか、そこが、制度の肝です。審査庁、つまり、裁決をする行政機関の長は、自分で手続を進めます。その代わりに、第三者機関に、諮問をします。審理員の公正さの役を、外部の審査会が担う、という作りです。
審査会への諮問——19条
図:19条
- 開示決定等の審査請求→裁決をする長は原則として情報公開・個人情報保護審査会に諮問
- 諮問しなくてよい2つ=①不適法で却下②全部認容して文書の全部を開示〔反対意見書が出ているときを除く〕
- 諮問したら審査請求人・開示請求者・反対意見書を出した第三者に通知
- 審査会は総務省に置かれる
諮問の前に、前回の要点を1問。第三者のCが、開示決定を争うとき、取消訴訟を起こしただけでは、開示は止まりませんでした。何と組み合わせるのでしたか?執行停止の申立てです。起こしただけでは、処分の効力は止まらないので、止めるボタンが要ります。今日の話は、開示を求める側の争いで、止める話とは向きが逆です。19条を読みます。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律19条1項
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第十九条(1項) 開示決定等又は開示請求に係る不作為について審査請求があったときは、当該審査請求に対する裁決をすべき行政機関の長は、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、情報公開・個人情報保護審査会(審査請求に対する裁決をすべき行政機関の長が会計検査院の長である場合にあっては、別に法律で定める審査会)に諮問しなければならない。 一 審査請求が不適法であり、却下する場合 二 裁決で、審査請求の全部を認容し、当該審査請求に係る行政文書の全部を開示することとする場合(当該行政文書の開示について反対意見書が提出されている場合を除く。)
原則は、諮問しなければならない、です。例外は2つだけです。1つ目は、審査請求が不適法で、却下する場合。門前払いなので、中身を審査会に見てもらう必要がありません。2つ目は、Bの言い分を全部認めて、文書を全部開示する場合です。Bが勝つだけなので、外部に確認する必要が薄いからです。全部開示でも、その文書の開示について、第三者が反対意見書を出しているときは、全部認容でも諮問が要ります。前回の第三者Cが、開示するな、と意見を出していた場合です。Cの利益に直接関わるので、Aが一人で決めるのではなく、審査会の目を通します。
条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律19条2項
行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第十九条(2項) 2 前項の規定により諮問をした行政機関の長は、次に掲げる者に対し、諮問をした旨を通知しなければならない。 一 審査請求人及び参加人(行政不服審査法第十三条第四項に規定する参加人をいう。以下この項及び次条第一項第二号において同じ。) 二 開示請求者(開示請求者が審査請求人又は参加人である場合を除く。) 三 当該審査請求に係る行政文書の開示について反対意見書を提出した第三者(当該第三者が審査請求人又は参加人である場合を除く。)
諮問をしたら、審査請求人、開示請求者、反対意見書を出した第三者に、諮問した旨を通知します。ここまでが、Aの側の手順です。審査会は、総務省に置かれる、情報公開・個人情報保護審査会です。個人情報保護法の審査請求も扱いますが、そちらは別の回で見ます。なお、一般の審査請求なら、別の審査会に諮問します。これも、別の回で扱います。地方公共団体にも、条例に基づく同じような審査会があります。
山場その1 審査会は、文書そのものを見られる
図:設置法9条
- 1項=審査会は諮問庁に不開示とされた行政文書の提示を求められる+その提示された文書の開示を何人も審査会に求められない〔B にも見せない〕
- 2項=諮問庁は拒めない
- 3項=分類整理した資料の提出を求められる〔ヴォーン・インデックス〕
- 4項=意見書・資料の提出・陳述・鑑定など
ここから、今日の山場です。不開示の当否を判断するには、何が要るでしょうか。文書の中身を見ないと、不開示情報に当たるかどうか、分かりません。ところが、ここに、ジレンマがあります。不開示が正しいかを確かめるために、Bに文書を見せたら、もう開示したのと同じです。判断する前に、結論が出てしまいます。その解決が、審査会の調査権限です。審査会の根拠は、設置法9条です。骨格を読みます。
条文情報公開・個人情報保護審査会設置法9条1項~3項
情報公開・個人情報保護審査会設置法 第九条(1項~3項) 審査会は、必要があると認めるときは、諮問庁に対し、行政文書等又は保有個人情報の提示を求めることができる。この場合においては、何人も、審査会に対し、その提示された行政文書等又は保有個人情報の開示を求めることができない。 2 諮問庁は、審査会から前項の規定による求めがあったときは、これを拒んではならない。 3 審査会は、必要があると認めるときは、諮問庁に対し、行政文書等に記録されている情報又は保有個人情報に含まれている情報の内容を審査会の指定する方法により分類又は整理した資料を作成し、審査会に提出するよう求めることができる。
1項です。審査会は、不開示とされた文書そのものの提示を、諮問庁、つまり、諮問をした乙省の長であるAに、求められます。その代わりに、何人も、その提示された文書の開示を、審査会に求められません。Bにも、見せません。2項で、諮問庁は、この求めを拒めません。例えで言います。箱の中身が、持ち出し禁止のものかどうかを、検査官が調べるとします。検査官は、箱を開けて、中を見ます。ただし、箱を請求者に回して見せることはしません。検査官が、見ることで確かめ、請求者に見せないことで、守る。この、非公開で見る審理を、インカメラ審理と呼びます。3項は、もう一つの道具です。審査会は、文書に記録された情報を、審査会の指定する方法で、分類や整理した資料を作らせて、提出させることができます。これを、ヴォーン・インデックスと呼びます。アメリカの裁判の名前が由来です。
見ることはできても、量が膨大だと、どの部分が、どの号に当たると言っているのか、つかみにくいのです。たとえば、検討資料が数百ページあるとします。審査会は、ここは5号、ここは1号、という対応表を作らせます。そうすれば、不開示の理由が、文書のどこに、どう結びつくかを、効率よく確かめられます。4項では、さらに、意見書や資料の提出、陳述や鑑定など、必要な調査ができます。また、審理員が審理しない代わりの手続保障として、請求人は、口頭で意見を述べる申立てや、意見書の提出ができます。設置法の10条と11条です。
答申——送付、公表、法的拘束力は無い
図:答申の扱い
- 審査会→答申書の写しを審査請求人・参加人に送付+答申の内容を公表〔16条〕
- 答申に法的拘束力は無い
- 裁決書の理由=答申書と異なる主文なら「異なることとなった理由」を含める〔行審法50条1項4号〕→答申と違う裁決は理由が要る=事実上難しい
審査会は、調査をして、答申を出します。16条を読みます。
条文情報公開・個人情報保護審査会設置法16条
情報公開・個人情報保護審査会設置法 第十六条 審査会は、諮問に対する答申をしたときは、答申書の写しを審査請求人及び参加人に送付するとともに、答申の内容を公表するものとする。
答申書の写しは、審査請求人と、参加人、つまり、審査請求に加わった利害関係人、たとえば前回の第三者Cに、送付され、答申の内容は、公表されます。答申に、法的拘束力はありません。決めるのは、審査庁、つまり、裁決をする行政機関の長です。ただし、裁決には、条文上の縛りが、1つあります。行政不服審査法50条1項4号です。
条文行政不服審査法50条1項4号
行政不服審査法 第五十条(1項4号) 四 理由(第一号の主文が審理員意見書又は行政不服審査会等若しくは審議会等の答申書と異なる内容である場合には、異なることとなった理由を含む。)
情報公開法の審査請求では、18条2項が、この条文の語を、情報公開の場面用に差し替えて当てはめています。これを読替えと言います。その読替えで、この答申書が、審査会の答申を指します。答申と違う内容の裁決をするときは、異なることになった理由を、裁決書に書かなければなりません。結果はこうなります。答申は公表され、誰でも読めます。それと違う裁決をするには、公表された答申に反論できるだけの理由が要ります。そのため、拘束力は無くても、実際には、答申と違う裁決は、とても難しくなります。ここが、審査会ルートの値打ちです。
訴訟ルート——取消訴訟と義務付け訴訟の併合
図:訴訟ルート
- B→裁判所:不開示決定の取消訴訟+開示決定の申請型義務付け訴訟=併合して提起〔行訴法37条の3〕
- 開示請求=法令に基づく申請
- 弁論・裁判は原則として分離しない〔例外=取消訴訟だけ先に判決できる〕
- 勝訴要件〔本案〕は後の回
- 判断するのは裁判所
次は、訴訟です。Bが、取消訴訟を起こします。不開示決定を取り消してほしい、という訴えです。ただ、取消判決だけでは、Bの目的は完全には達せられません。取り消されても、Aが、もう一度、不開示にするかもしれないからです。そこで、行政手続の章の、取消し後のやり直しの回でも見たとおり、開示決定を義務づける訴えを、併せて起こします。開示請求は、法令に基づく申請です。申請に対して、行政庁が、拒否の処分をしたとき、その処分が取り消されるべきなら、申請を認める処分を義務づける訴えを起こせます。申請型の義務付け訴訟です。行政事件訴訟法の37条の3です。仕組みの骨格は3つです。1つ目。拒否処分の取消訴訟を併合して提起しなければならない。拒否の処分が残ったままでは、それと逆の、開示せよ、という判決は出せません。だから、拒否処分を取り消す訴えと、必ず一緒に出させます。2つ目。取消訴訟と義務付け訴訟の弁論と裁判は、原則として、分離しないで行う。2つの判断が食い違わないよう、審理も判決も、まとめて行う、という意味です。ただし、取消訴訟の判決だけを先に出すほうが早く解決できるときは、取消訴訟だけ先に判決する例外もあります。3つ目。義務付けが認められる要件は、別の回で見ます。今日は、不開示決定には、この併合の道がある、というところまでです。
山場その2 裁判所は、文書を見られない
図:山場の問い
ここで、1度止めます。審査会は、文書そのものを見られました。では、裁判所は、不開示とされた文書を、Bに見せずに、裁判官だけで見て、判断できるでしょうか。できるか、できないか。そして、その理由は何か。結論から言うと、裁判所は、不開示とされた文書を、Bに見せずに、証拠として調べることはできません。最高裁が、そう判断しました。事案を見ます。外務省が保有する、米軍のヘリコプターの墜落事故をめぐる、日米協議などの文書の開示請求がありました。外務省は、5条の1号、3号、5号を理由に、不開示にしました。請求者は、取消訴訟を起こし、さらに、不開示とされた文書について、検証物提示命令を申し立てました。検証とは、裁判官が、五感で、物の状態を直接調べる証拠調べです。その対象として、文書を裁判所に出させる命令を求めたわけです。検証への立会いは放棄する、調書も内容が分かる形では作らない、と述べて、裁判所に、文書を見てほしいと頼んだわけです。原審は、一部を認めました。最高裁は、破棄して、申立てを却下しました。判旨は、2段に分かれます。判旨の言葉を、先に3つ言います。証拠調べは、判決の中身を決めるために、証拠を調べる手続です。弁論は、法廷で、当事者が主張し、反論することです。弾劾は、反論して、証拠の信用を崩すことです。
判例最決平21・1・15 民集63巻1号46頁(平成20年(行フ)第5号)
情報公開訴訟における、不開示文書の検証とインカメラ審理(検証の受忍) 情報公開法に基づく行政文書の開示請求に対する不開示決定の取消しを求める訴訟(以下「情報公開訴訟」という。)において,不開示とされた文書を対象とする検証を被告に受忍させることは,それにより当該文書の不開示決定を取り消して当該文書が開示されたのと実質的に同じ事態を生じさせ,訴訟の目的を達成させてしまうこととなるところ,このような結果は,情報公開法による情報公開制度の趣旨に照らして不合理といわざるを得ない。
判例最決平21・1・15 民集63巻1号46頁(平成20年(行フ)第5号)
情報公開訴訟における、不開示文書の検証とインカメラ審理(続き=民事訴訟の基本原則) 訴訟で用いられる証拠は当事者の吟味,弾劾の機会を経たものに限られるということは,民事訴訟の基本原則であるところ,情報公開訴訟において裁判所が不開示事由該当性を判断するために証拠調べとしてのインカメラ審理を行った場合,裁判所は不開示とされた文書を直接見分して本案の判断をするにもかかわらず,原告は,当該文書の内容を確認した上で弁論を行うことができず,被告も,当該文書の具体的内容を援用しながら弁論を行うことができない。 ……このように,情報公開訴訟において証拠調べとしてのインカメラ審理を行うことは,民事訴訟の基本原則に反するから,明文の規定がない限り,許されないものといわざるを得ない。
図:インカメラの二段の理由
- ①検証を被告に受忍させる=不開示決定を取り消して開示したのと実質的に同じ→制度の趣旨に照らし不合理
- ②証拠調べとしてのインカメラ審理=当事者の吟味・弾劾の機会を経た証拠だけ、が民事訴訟の基本原則→これに反し、明文がない限り許されない〔原告は内容を確認して弁論できず・被告も具体的に援用できず〕
2段を、言い直します。1段目は、ふつうの検証の話です。ふつうの検証なら、当事者が立ち会えて、見た結果は、調書として訴訟の記録に残ります。不開示の文書を、被告に、検証として受け入れさせれば、中身が、Bにも記録にも出てしまいます。決定を取り消して開示したのと、実質的に同じです。争っている最中に、結論が先に出てしまうので、制度の趣旨に照らして、不合理だ、というのです。そこで、請求者は、立会いを放棄し、調書にも中身を書かない、という工夫をしました。こうすると、裁判官だけが見る、インカメラ審理と同じ形になります。この形を退けたのが、2段目です。2段目が、より根本です。訴訟で使う証拠は、当事者が吟味し、反論する機会を経たものに限る、というのが、民事訴訟の基本原則です。インカメラで、裁判官だけが文書を見て判断したら、どうなるでしょうか。
原告は、中身を知らないので、反論できません。被告も、その文書の具体的な内容を、弁論で使えません。さらに、上級審も、判断の根拠を、確かめられません。例えで言います。試合の審判が、一人だけ、観客席からは見えない箱の中を覗いて、判定を出したとします。双方の選手は、中身を知らないまま、判定を受け入れなければなりません。これでは、審判の判定が公平だったかを、誰も確かめられません。判決も同じです。当事者が確かめられない証拠で、判決を書いてはいけない。それが、基本原則です。
図:裁判所が文書を見る場面の境界
- 明文あり=民事訴訟法223条6項・232条1項の提示手続
- 明文なし=不開示事由を証拠調べとして見るのは許されない
- 立法の経緯=審査会は条文あり・裁判所は定めなかった
境界を確認します。民事訴訟法には、インカメラの手続が、明文で認められている場面があります。文書提出義務や、検証物提示義務が、そもそもあるかどうかを判断するために、提示させる手続です。223条6項と232条1項です。これは、提出義務の有無を決める手続で、本案、つまり、不開示が違法かどうかという中身の判断のための証拠調べとは、別です。一方、不開示事由に当たるかを、証拠調べとして見るのは、明文が無く、基本原則に反するので、許されません。立法の経緯も、決め手になっています。審査会のインカメラ審理は、情報公開法を作ったときに、条文で定めました。ところが、裁判所のインカメラは、定めませんでした。条文が無い以上、裁判所は、見られません。現行の情報公開法も、同じです。
図:インカメラと憲法82条
- 決定は82条を根拠にしていない
- 許されない根拠=民事訴訟の基本原則+明文なし
- 補足意見=泉裁判官・宮川裁判官、立法なら82条に違反しない・法廷意見ではない
- 現行法はまだ規定なし
ここで、憲法の話を整理します。憲法の、裁判の公開の回で見た、82条です。82条は、裁判の公開を保障しています。インカメラは、この82条に違反するから許されないのでしょうか。違います。この決定は、82条違反を理由にしていません。条文も挙げていません。立法の経緯を説明する中で、裁判の公開の原則との関係に、いろいろな考え方がある、と触れるだけです。許されないとした根拠は、民事訴訟の基本原則に反し、明文が無いこと、です。82条が出てくるのは、裁判官の補足意見です。補足意見は、前にも見たとおり、法廷意見ではありません。泉裁判官の補足意見を読みます。
判例最決平21・1・15 泉徳治裁判官の補足意見(宮川光治裁判官の補足意見は、82条に違反しないことは泉裁判官の補足意見のとおりと述べる)
泉裁判官の補足意見(法廷意見ではない・立法によるインカメラ審理の導入と憲法82条) 新たな立法によって情報公開訴訟にインカメラ審理を導入することは,以下に述べるように,裁判の公開を保障する憲法82条に違反するものではなく,訴訟制度構築に係る立法裁量の範囲に属すると考える。 ……裁判を受ける権利をより充実させるものである以上,情報公開訴訟におけるインカメラ審理は,憲法82条に違反するものではないと解すべきである。
補足意見は、立法で、情報公開訴訟にインカメラ審理を導入しても、82条に違反しない、と述べています。宮川裁判官の補足意見も、同じです。だから、立法で入れる余地がある、と読まれています。ただ、現行法には、まだ、規定がありません。いまは、民事訴訟の基本原則と、明文が無いことから、裁判所は、文書を見られません。
審査会と裁判所の対比
図:対比表
- 文書を見られるか=審査会は見られる・裁判所は見られない
- 請求人に見せるか=審査会は見せない・裁判所は見せる前提
- 判断の効力=審査会の答申は法的拘束力なし・公表、裁判所の判決は拘束する
- 根拠=審査会は設置法9条、裁判所は民事訴訟の基本原則+明文なし
- 手続保障=審査会は意見陳述・意見書、裁判所は当事者の吟味・弾劾
今日の軸に戻って、審査会と裁判所を、並べます。審査会は、文書を見られます。請求人には見せません。答申に、法的拘束力は無いので、見られていない請求人が反論できなくても、制度は成り立ちます。その代わり、意見陳述や意見書で、手続保障を、別に用意しています。裁判所は、見られません。裁判官が見たなら、何を見て、どう判断したかを、判決の理由で当事者に語らなければなりません。でも、それを語れば開示になります。判決は、当事者を拘束します。拘束する判断の根拠は、当事者が吟味し、反論できたものに限られます。この違いが、文書を見られるかどうかの違いになっています。
設例——1つの不開示を、最初から最後まで追う
図:設例の通し
- 乙省 A・請求者 B
- 検討資料一式を一部不開示〔5条5号〕
- 審査請求ルート=A は審理員なしで審査会に諮問〔18条・19条〕→審査会が文書を見る・B には見せない・ヴォーン・インデックス〔設置法9条〕→答申は B に送付・公表〔16条〕→違う裁決には理由〔行審法50条1項4号〕
- 訴訟ルート=取消訴訟+義務付けを併合→裁判所は文書を見ない〔最決平21・1・15〕
今日の内容を、設例で通します。各場面で、2つを言います。どの条文の道か。誰が文書を見るか。1つ目は、審査請求ルートです。Bは、検討資料の一部が5条5号で不開示にされ、審査請求を選びます。Aは、審理員を置かず、審査会に諮問します。18条と19条です。審査会は、Aに文書を出させて、自分だけが見ます。Bには見せません。さらに、分類整理した資料を作らせます。設置法9条です。審査会が、不開示部分の一部は開示すべきだ、と答申したとします。答申は、Bに送付され、公表されます。Aが、答申と違う裁決をするなら、異なることになった理由を書かなければなりません。2つ目は、訴訟ルートです。Bは、審査会ルートでは足りない、と考えて、取消訴訟と、開示決定の義務付けを、併合して起こします。ここでは、裁判所は、不開示とされた文書を見られません。Bが、裁判官に文書を見てください、と頼んでも、同じです。見られるのは、審査会だけです。
両方使うこともできます。文書の中身を、審査会に見てもらって、答申で判断を得たうえで、なお不満なら、訴訟に進む、という順序を選ぶ人もいます。ただ、どちらを選ぶかは、請求者の自由です。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図
- 道は2本=審査請求・取消訴訟〔前置なし・行訴法8条1項〕
- 審査請求=審理員なし〔18条〕・審査会に諮問〔19条〕
- 審査会=文書そのものを見る・請求人には見せない・分類整理資料〔設置法9条〕・答申は送付と公表〔16条〕・拘束力なし・異なる裁決には理由〔行審法50条1項4号〕
- 裁判所=インカメラ不可〔民事訴訟の基本原則+明文なし・82条を根拠にしていない・補足意見は立法なら違反でない〕
- 次回=不開示の理由を誰が示すか
最初の問いに戻ります。裁判官は、不開示とされた文書を、見て判断できるでしょうか。答えは、見られません。証拠調べとしてのインカメラ審理は、当事者が吟味、反論できない証拠で判断することになり、民事訴訟の基本原則に反し、明文が無いからです。見られるのは、審査会です。持ち帰るのは、5点です。1つ目。道は2本で、不服申立前置は無く、どちらからでも使えます。2つ目。審査請求は、審理員を置かず、審査会に諮問します。例外は、却下と、全部認容の全部開示で、反対意見書があるときは除きます。3つ目。審査会は、文書そのものを見られ、請求人には見せません。分類整理した資料も作らせられます。4つ目。答申は、送付と公表がされ、拘束力は無く、異なる裁決には理由が要ります。5つ目。裁判所は、インカメラ審理ができません。法廷意見は、民事訴訟の基本原則と、明文が無いことを根拠にしていて、憲法82条を根拠にしてはいません。補足意見が、立法なら違反ではない、と述べています。論文でも論点になりうるところです。審査会と裁判所の違いを、条文の道と、決め手を添えて、言えるようにしておいてください。行政は、文書を見せずに、理由を説明します。
参照条文
- 行政事件訴訟法8条1項
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律18条1項
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律19条1項
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律19条2項
- 情報公開・個人情報保護審査会設置法9条1項~3項
- 情報公開・個人情報保護審査会設置法16条
- 行政不服審査法50条1項4号