会社とは何か
印刷のコツ
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第1章 総論・会社法総則 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
友人と出し合ったお金は、どうなる?
図:友人2人で事業を始める場面の3つの不安
友人と100万円ずつ出し合って、新しい事業を始めるとします。うまくいけばいい話ですが、始める前に、3つの不安が浮かびます。1つ目。事業が失敗したとき、出したお金が消えるだけで済むのか。それとも、出した以上の借金まで背負うのか。2つ目は、仲間の1人が結んだ契約の責任を、誰が負うのか。3つ目は、半年後に私は抜けたいと思ったとき、出したお金は戻るのか、です。だから、これらをあらかじめ決めておく入れ物が要ります。会社は、その入れ物の一つなんです。そしてもう1つ、最初に驚いてほしいことがあります。日常では、会社に勤める人を「社員」と呼びますよね。
ところが会社法で「社員」と言えば、従業員のことではありません。出資をした人、つまりお金や物などを出した側を指します。従業員は、出資者ではないんです。会社法の言葉では、雇われて働く人は社員ではありません。この理由は、この回の中で順に分かるようにします。今日の1問は、会社とは結局何なのか、です。答えを先に言うと、共同で事業をするための法的な入れ物の一つで、会社法が用意した4種類のうち、株式会社が大きな事業によく使われる、ということです。シリーズ最初の回なので、この座標軸を持ち帰ってもらいます。ゼロから会社法、始めます。
出資者になる人、ならない人
図:個人企業と共同企業
- A=出資者で事業を営む
- A・B=出資者で共同して事業を営む
- C=お金を貸す人・D=従業員は、事業と契約するが出資者ではない
事業から利益を得る主体を、企業と呼びます。そしてお金を出す人、つまり出資者が1人なら個人企業、複数なら共同企業です。単にお金を渡すのとは、少し違います。出資とは、事業が出す利益を受け取る地位を得るために、資金を提供することです。うまくいった分を受け取れる代わりに、うまくいかなければ、受け取れるものが減る立場に立ちます。たとえば、100万円を出した事業が年に50万円もうければ、その分け前を受け取れます。赤字なら、何も受け取れません。銀行からお金を借りた場合は、出資にならないんですか。なりません。図で見てください。冒頭のあなたをAとします。Aが1人で出資して事業をすれば個人企業です。友人のBと100万円ずつ出し合えば、共同企業です。ここに、お金を貸すCを加えます。Cは、事業が成功しても失敗しても、約束した元本と利息を返してもらう権利を持つだけです。利益の分け前を受け取る立場ではありません。
Dが受け取るのは賃金で、これも約束された金額を受け取る権利です。つまりCもDも、事業と契約を結ぶ相手であって、出資者ではありません。ここで冒頭の話に戻ります。会社法の「社員」は、図でいうAやBのほうです。従業員のDは違います。従業員の地位は、会社と雇用契約を結ぶ立場であって、出資者の地位、つまり社員の地位ではありません。ちなみに、会社と従業員の関係は、主に労働法が規律します。会社法にも10条以下に、使用人、つまり、会社に雇われて働く人の代理権の規定がありますが、これは、会社の代わりに契約を結べる権限の話です。出資者かどうかとは別の問題です。
共同事業の入れ物:組合と会社
図:共同事業の入れ物の比べ方
- 組合=A・Bが契約で結びつく
- 会社=A・Bが出資し、会社という法人がもう一人の主体になる
共同企業にするとして、入れ物は会社だけなんですか。違います。共同事業の入れ物は、いくつかの法律が用意しています。民法にあるのが組合、会社法にあるのが会社です。まず組合の条文を見ましょう。民法667条1項です。
条文民法667条1項
民法第667条第1項 組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。
組合は、当事者どうしの契約で成り立ちます。そして組合員は、組合の債務について、個人として責任を負います。民法675条の話ですが、ここでは名前だけにします。会社には、この条文があります。会社法3条です。
条文会社法3条
会社法第3条 会社は、法人とする。
法人とは、人間ではないのに、権利や義務の主体になれる存在です。会社自身が、契約を結び、財産を持つ主体になります。図でいえば、組合は、AとBが直接つながります。会社は、AとBが出資して、会社という別の主体を作り、取引の相手は、その会社になります。民法で学ぶ団体の形でいえば、組合は法人格の無い形、会社は法人格のある形です。たとえば、冒頭の友人2人の事業で、300万円の機械を買うとします。組合なら、買ったのはあなたと友人の2人で、機械も2人の財産になります。条文の言葉では総組合員の共有ですが、一人で勝手に処分も分割もできない持ち方で、学説では合有と呼びます。代金を払えなければ、最後は2人が自分の財布から払うことになりえます。
買ったのは会社で、機械も会社の財産です。代金を払う義務を負うのも、まず会社です。その先で出資者がどこまで負うかは、会社の種類で変わります。たとえるなら、組合は仲間の名前で持ち合う財布、会社は財布そのものに名義がついた状態です。この違いが、冒頭の3つの不安への答え方を大きく変えます。財布に名義がつくと、何が変わるんですか。そこは、これから先の回で順に見ていきます。今日は、組合は契約、会社は法人、という対比の見取り図だけ持っていてください。
会社法が用意した4種類の会社

条文に書いてあります。会社法2条です。この条文は、言葉の意味を定める規定で、その1号が会社の定義です。
条文会社法2条1号
会社法第2条(柱書・第1号) この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 一 会社 株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社をいう。
株式会社、合名会社、合資会社、合同会社。これ以外に、会社法上の会社はありません。会社法ができる前には、有限会社という種類もありました。いま新しく作れるのは、この4種類です。ここで、冒頭の言葉を整理します。出資者は、どの会社でも社員です。ただし株式会社の社員だけは、特に株主と呼びます。会社法は、会社を、出資した人たちの集まりと見ます。出資者はその集まりの構成員、つまりメンバーなので、社員と呼ぶんです。出資者が一人だけの会社も認められていますが、出資者をメンバーと見る点は変わりません。もう1つ、合名会社、合資会社、合同会社の3つは、まとめて持分会社と呼びます。持分とは、出資者としての地位のことです。民法の共有で出てきた、物に対する割合の持分とは、別の意味です。会社法575条1項が、この総称を決めています。この回は、名前と呼び名までです。責任の違いや、ルールの決め方の違いは、この第1章の中で、改めて見ます。
会社法でいう「社員」にあたるのは、従業員、株主、取引先のうち、どれでしょうか。少し考えてみてください。ヒントは、社員とは出資者のことだという点です。答えは株主です。株式会社の出資者が株主で、会社法の言葉では、これも社員に含まれます。従業員と取引先は、出資者ではないので、社員ではありません。これで、今日の1問の答えの骨組みがそろいました。会社は、共同で事業をするための入れ物の一つで、会社法が用意したのは、この4種類です。
株式会社は、なぜ大きな事業に向くのか
図:株式会社が大きな共同事業に向く4つの理由
大きな事業では、株式会社が主役です。ただ、株式会社と聞くと、上場している大企業を思い浮かべませんか。実は、友人2人が出資して作る小さな株式会社も、同じ株式会社です。出資者が増えても、出資者の地位は、株主として同じ性質です。では、なぜ株式会社は大きな事業に向くのか。見取り図を4つ渡します。名前と位置づけだけです。1つ目。出資者が何千人にもなれば、全員で毎日の経営は決められません。そこで経営を専門家に委ね、それを監督する仕組みが要ります。株主総会や取締役といった機関です。誰が会社の名前で契約を結べるかを決めるのも、この機関の仕組みです。冒頭で挙げた2つ目の不安、相棒が勝手に契約したらどうなるか、への答えはここにあります。2つ目。出資者は、事業のもうけを分けてもらう立場です。だから、利益がいくらかを計算し、見せる仕組みが要ります。
3つ目。株式会社の出資者は、有限責任です。冒頭で挙げた1つ目の不安、出した以上の借金まで背負うのか、への答えはここにあります。会社が借金を返せなくなっても、債権者は、出資者に残りを請求できません。出資者は、出した分を失うだけで済みます。出資者の負担は、出した額で止まります。そのかわり、会社の財産だけが債権者の頼りになります。だから、出資者へのお金の分配には、限度が必要になります。4つ目。出資者は、原則として、出したお金の返還を会社に求められません。会社の財産だけが債権者の頼りなので、出資者が自由に引き揚げられると、債権者が困るからです。そのかわり、出資者の持分を、株式会社では株式と呼び、他人に譲ってお金を回収できます。冒頭の「途中で抜けたい」への答えが、これです。4つとも、ほかの種類の会社と比べると、意味が分かります。たとえば合名会社では、出資者が原則として自分たちで経営し、会社の借金も、最後は自分の財布から払います。持分を他人に譲るにも、ほかの出資者全員の承諾が要ります。株式会社では、経営を任せられて、責任は出した分まで、地位は原則として自由に譲れます。だから、知らない人どうしが大勢で出資できるんです。
図:この回の地図
- 1.事業を始めるとき
- 2.出資者になる人・ならない人
- 3.組合と会社
- 4.会社の4種類
- 5.株式会社が大きな事業に向く理由
- 6.会社法の範囲
- 7.シリーズ12章の地図
どれも、この先の章で詳しく見ます。この回は、会社法という言葉が指す範囲を見て、最後にシリーズ12章の地図で締めます。
「会社法」はどこまでのルールか
図:会社法の範囲
- 中心=会社法
- 細目=会社法施行規則・会社計算規則・電子公告規則
- 特別法=社債株式等振替法・担保付社債信託法・商業登記法
- 関連=民法・商法・金融商品取引法・独占禁止法・法人税法など
「会社法」という言葉には、二通りの意味があります。1つは、会社の組織と運営を定め、会社に関わる人たちの利害を調整するルール全体、という広い意味で、これを実質的意義の会社法と呼びます。もう1つは、会社法という名前の、平成17年にできた法律そのもので、これを形式的意義の会社法と呼びます。どちらも使います。まず、法律そのものの周りを見ましょう。細かい決まりは、法務省令、つまり法務大臣が定めるルールに任されています。書類の書き方のような細目まで法律で決めると、変えるたびに国会の議決が要るからです。会社法施行規則、会社計算規則、電子公告規則です。次に、会社法の特別法、つまり会社法の一部の場面について、別に詳しく定めた法律です。社債、つまり、会社がお金を借りるために出す債券や、株式の振替、担保付きの社債、商業登記を決める法律があります。社債株式等振替法、担保付社債信託法、商業登記法です。さらに、会社に関わる他の法律もあります。民法、商法、消費者契約法、独占禁止法、法人税法などです。金融商品取引法は、株式を市場で売ってお金を集めるときの投資者保護で、特に重要です。板でいえば、真ん中の会社法という法律だけが、形式的意義の会社法です。省令や特別法まで含めた、会社のルールの全体が、実質的意義の会社法です。
試験での位置づけ
図:試験での位置づけ
- 司法試験法3条:論文式の民事系科目=民法・商法・民事訴訟法
- 司法試験の短答式は憲法・民法・刑法
- 予備試験は同法5条:論文式に「商法」・短答式にも商法
試験の科目にも「商法」がありますが、これは、さっき並べた商法という法律より広い枠の名前で、会社法も、その中に入ります。司法試験の論文式では、民事系科目に、民法、商法、民事訴訟法が入っていて、会社法はその商法の中にあります。予備試験の論文式にも、商法があります。論文式は、事例の問題に文章で答える試験です。予備試験は、合格すれば、法科大学院を出なくても司法試験を受けられる試験です。短答式は、選択肢から正しいものを選ぶ試験です。司法試験の短答式は、憲法、民法、刑法の3科目です。だから商法は、司法試験の短答には出ません。一方、予備試験の短答式には、商法が入っています。
シリーズ全体の地図:12章の道のり
図:シリーズ12章の地図
- 1.総論・会社法総則
- 2.株式
- 3.機関
- 4.計算
- 5.資金調達
- 6.設立
- 7.定款変更
- 8.解散・清算
- 9.企業の買収・結合・再編
- 10.企業グループ
- 11.持分会社・組織変更
- 12.国際会社法
では最後に、このシリーズ全体の地図です。12の章に分かれています。最初の章が、この回を含む総論と会社法総則です。次に、株式。出資者の地位がどう細かく決まっているかを見ます。その次が機関で、さっき出てきた、経営を委ねる仕組みの章です。そして計算、資金調達と続きます。株式会社が事業を動かし、お金を集めるまでの話が、ここまでで一通りそろいます。会社を作る話は、第6章です。順番が後ろの理由があります。出来上がった会社が、株式、機関、資金調達でどう動くかを知ってから設立の論点を見たほうが、お金の代わりに物を出す現物出資や、払い込んだふりをする仮装払込みといった論点の意味が分かるからです。そのあと、定款変更、解散と清算、企業の買収や結合や再編と、会社が変わっていく場面が続きます。さらに企業グループ、持分会社と組織変更、最後に国際会社法です。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図・保存版
- 会社=共同事業の入れ物の一つ
- 社員=出資者(株式会社では株主)
- 会社は法人(3条)
- 会社法上の会社は4種類(2条1号)
- 株式会社=大きな事業に向く
最初の1問に戻ります。会社とは結局何なのか。共同で事業をするための法的な入れ物の一つで、会社法が用意した4種類のうち、株式会社が大きな事業に使われる、でした。出資者と、貸主や従業員は別でした。入れ物の選択肢は、契約の組合と、法人の会社。会社は、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社の4種類です。次の回から、この会社が法人である、という点を詳しく見ていきます。
参照条文
- 民法667条1項
- 会社法3条
- 会社法2条1号