会社の法人性・営利性と権利能力
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第1章 総論・会社法総則 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
定款に書いていない寄付は、無効?
図:定款に書いた事業と無関係な政党への寄付
- 会社=パンの製造販売が目的
- 株主Aの主張①「定款にない。無効だ」②「取締役は会社に弁償しろ」
- 問いは2つ:行為は有効か・取締役は責任を負うか
パンの製造と販売を事業にしている株式会社があるとします。会社の根本のルールを書いた書面を、定款といいます。この会社の定款の目的欄には、パンの製造と販売としか書いてありません。ある年、この会社が、350万円を、地元の政党に寄付しました。これを知った株主のAさんが、株主総会で立ち上がります。「定款に書いていないことに、会社のお金を使うのはおかしい。この寄付は無効だ。それに、決めた取締役は、会社にお金を弁償しろ」と。結論を先に言います。会社の行為は、定款の目的に書いていなくても、まず無効にはなりません。
ただし、だからといって、やってよかったとは限りません。取締役、つまり会社の経営を任された人が責任を負うかどうかは、行為が有効かどうかとは別に判断します。Aさんの主張には、2つの問いが混ざっています。1つは、寄付が会社の行為として有効か。もう1つは、取締役が会社に責任を負うか。この回で、この2つを分けて答えられるようにします。今日の1問は、会社が法人であるとは、何ができて、何ができないことか、です。前回、会社は法人だと見ました。今日は、その中身を開きます。
会社が「法人」だと、何が変わるのか
図:財産の分離
- A・B=社員が出資
- 会社=法人が財産と債務を持つ
- C=取引相手は会社と取引
- A・Bの個人財産は会社の財産と別
前回、会社は法人とする、という条文が出てきました。会社法3条ですね。もう一度見ておきましょう。
条文会社法3条
会社法第3条 会社は、法人とする。
法人とは、人間ではないのに、権利や義務の主体になれる存在でした。今日は、これが具体的に何をもたらすのかを見ます。図で見ましょう。AさんとBさんが出資して会社を作り、取引先のCさんが会社と契約します。このとき、Cさんの相手は誰ですか。会社、です。出資者が1000人いても、Cさんは会社1つとだけ契約すればよいんです。出資者1人ひとりと、誰がどれだけ責任を持つのかを考える必要がありません。これが1つ目のうれしさです。2つ目は、財産が分かれることです。会社が持つ機械や預金は会社のもので、AさんBさんの自宅や貯金は、AさんBさんのものです。
会社の債務は会社のもので、出資者の債務ではない。これが基本の形です。前回見たとおり、株式会社の出資者は有限責任で、出した分を失うだけで済みます。その仕組みは、この先の回で詳しく見ます。今日は、財産と債務の帰属先が会社と出資者で分かれる、という土台だけ押さえてください。前回見たとおり、組合は契約でつながる形で、法人格がありません。会社は、法人格がある形です。周辺も少し見ます。株式会社が法人として成立するのは、設立の登記、つまり法務局の公の帳簿に会社を載せたときで、会社法49条が定めています。住所は、本店、つまり会社の本拠となる営業所の所在地にあるものとされます。これは4条です。商号、つまり会社の名前を変えても、同じ法人のままです。
法人であることに、弱点はないんですか。あります。別の人格だと強く言いすぎると、不都合が出る場面があります。たとえば、会社を借金逃れの道具にされた場合です。そのとき、例外的に別人格を認めない考え方があり、法人格否認の法理と呼ばれます。要件は後の回で扱います。今日は名前だけで十分です。
図:この回の地図
- 1.法人性=帰属点が別
- 2.営利性=利益を社員に配る
- 3.商人性=会社の行為は商行為
- 4.社団性と一人会社
- 5.会社にできること=定款の目的と民法34条
- 6.政治献金=有効性と取締役の責任は別
ここで、この回の地図を見せます。法人性の次に、営利性、商人性、社団性と、会社の性質を順に見ていきます。そのあと、会社にできることの範囲に進み、最後に冒頭の寄付の問題に戻ります。
営利性——儲けを社員に配ること
図:営利法人と非営利法人の比較
- 会社=事業で得た利益を社員に分配する
- 一般社団法人・公益社団法人=分配しない
- 会社の営利性の現れ=105条1項1号2号
会社は営利団体だ、とよく聞きます。お金を稼ぐための団体、という意味ですか。そこが落とし穴です。法律でいう営利は、お金を稼ぐことではありません。事業で得た利益を、構成員、つまり社員に分配することです。たとえば、公益のための一般社団法人が、事業で利益を上げたとします。でも、その利益を社員に配らず、次の活動に使うなら、営利法人ではありません。会社は、利益を社員に分配することが予定されている点で、営利法人です。「稼ぐかどうか」ではなく、「社員に配るかどうか」で分かれます。社員とは出資者のことでしたね。株主の地位を定める105条を見ましょう。
条文会社法105条
会社法第105条 株主は、その有する株式につき次に掲げる権利その他この法律の規定により認められた権利を有する。 一 剰余金の配当を受ける権利 二 残余財産の分配を受ける権利 三 株主総会における議決権 2 株主に前項第一号及び第二号に掲げる権利の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しない。
1号が剰余金の配当、つまり、儲けの分け前です。2号が残余財産の分配で、会社が解散したあとに残った財産の分け前です。この2つが、営利性の中身にあたります。2項が定めているのは、1号と2号の権利を、両方とも全部与えない、という定款の定めは無効だ、ということです。配当は一切出さない。解散後に残った財産も、株主には渡さない。これでは、株主は、出資して分け前を得る地位に立てません。会社の営利性が、なくなってしまいます。片方だけを制限した株式は、作れます。たとえば、配当は受けられないけれど、残余財産は分配を受けられる株式です。種類株式の話は、後の回に回します。条文が禁じるのは、両方を全部与えない定めです。持分会社でも、同じ発想です。利益の配当は621条、残余財産の分配は666条が定めています。ここは名前だけにします。
営利目的だからといって、利益に直結しない活動が全部禁じられるわけではありません。儲けを配る会社でも、世間から見て無理のない額の慈善寄付までは禁じられない、と考えられています。この点は、冒頭の寄付の問題で、もう一度出てきます。
会社の行為は商行為——商人性
図:会社の行為は商行為
- 会社法5条:事業としてする行為・事業のためにする行為=商行為
- 例=パンの販売・事業資金の借入
- 効果=商法の商行為の規定がかかる
商法でいう商人は、自己の名をもって商行為をすることを業とする者です。会社も、そこに入ります。その根拠が、会社法5条です。
条文会社法5条
会社法第5条 会社(外国会社を含む。次条第一項、第八条及び第九条において同じ。)がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、商行為とする。
「事業としてする行為」は、先ほどのパン屋さんなら、パンを売ることです。「事業のためにする行為」は、パンを作る資金を借りることです。この2つが、どちらも商行為になります。だから会社は、商法4条1項の商人に当たります。商行為になると変わるのは、民法ではなく、商法の商行為の規定がかかることです。例を2つ挙げます。1つ目は、商法512条です。商人が営業の範囲内で他人のために行為をしたときは、報酬の約束がなくても、相当な報酬を請求できます。民法では、無償が原則ですが、その特則です。たとえば、パンの会社が、取引先に頼まれて配送を手配したとします。報酬の約束をしていなくても、相当な報酬を請求できます。2つ目は、商法511条1項です。数人の者が、その一人または全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は連帯になります。民法では、債務は分割されるのが原則ですが、その特則です。たとえば、パンの会社と別の会社が、2社で小麦を共同で仕入れたとします。売主は、どちらの会社にも、代金の全額を請求できます。
もう一つあります。商人の行為は、営業のためにするものと推定されます。商法503条2項です。判例も、会社の行為は事業のためにするものと推定されると、述べています。たとえば、パンの会社が小麦粉を買ったなら、パンを作る事業のための買い物だと推定されます。会社の行為を「事業と関係がない」と争う側が、それを証明しなければならなくなります。今日は、商法の中身には入りません。会社の行為には、商行為の規定がかかる、という見取り図まで持ち帰ってください。
社団性と、一人会社
図:社団性と一人会社
- 社団=人の集合体
- 財団=財産の集合体
- 一人会社=社員が1人でも会社として成り立つ
- 株式会社・合名会社・合同会社は1人で設立可・合資会社は最低2人
ここで、前回の内容を一つだけ確認させてください。会社法でいう「社員」にあたるのは、従業員、株主、取引先のうち、どれでしたか?株主、でしたよね。出資者だから。出資者が社員です。この確認を使って、次の性質に進みます。会社は、社団法人だといわれます。社団とは、人の集合体のことです。財産の集合体である財団と、対にして覚えます。実は、社員が1人だけの会社も認められています。一人会社といいます。名前だけ見ると、矛盾して見えますよね。でも、一人会社は、便利さの方が大きく、困る点は少ない、という理由で認められています。社員の数にかかわらず、会社は同じ会社法のルールで運営されるので、1人だからといって困ることは、あまりありません。たとえば、個人事業を会社にして、財産を会社のものと自分のものに分けたいとき、一人会社が便利です。株式会社、合名会社、合同会社は、1人で設立できます。合資会社だけは、会社の借金を自分の財産で限りなく負う無限責任社員と、出資の額を限度に負う有限責任社員が1人ずつ必要なので、最低2人です。ここは名前だけで十分です。
社団法人とは、人の集まりに、その一人ひとりとは別の法人格を与えたものです。「人の集合体」というのは、財団のように財産ではなく、人を土台にする、という意味で、人数の話ではありません。だから、集まりを作る人の数は、1人でもかまいません。それで、社員が1人の一人会社も、社団法人です。たとえば、1人の株主が、保有している株式の一部を人に譲れば、一人会社は、そのまま普通の会社になります。
会社にできること——定款の目的と民法34条
図:会社の権利能力
- 定款の目的は絶対的記載事項=27条1号
- 民法34条=目的の範囲内で権利義務
- 疑問=目的外の行為は無効か
ここから、冒頭の問題に入ります。会社は、何でもできるのでしょうか。会社は定款の目的に書いたことしかできないのか。条文で確かめます。まず、定款に何を書くのか。会社法27条です。
条文会社法27条
会社法第27条 株式会社の定款には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。 一 目的 二 商号 三 本店の所在地 四 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額 五 発起人の氏名又は名称及び住所
1号に、目的があります。定款の目的は、必ず書かなければならない事項です。次に、民法34条です。民法で学んだ条文を、思い出してください。
条文民法34条
民法第34条 法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。
民法の回で見たとおり、この条文は、法人の一般ルールとして会社にも当てはまる、と解されています。目的の範囲外の行為は、会社の代表者が会社のためにしても、効果が会社に帰属しません。ただし、問題は、目的の範囲をどう読むかです。判例は、とても広く読みます。まず事案を見ましょう。不動産などの財産を保存し、運用して増やすこと、つまり利殖を図ることを目的とする会社が、持っていた建物を買主に売りました。買主は、その建物に住んでいる人に、出ていくよう求めました。ところが、一つ前の裁判所、つまり原審は、建物の売却は目的の範囲外で、現実にも売る必要がなかったから、売買は無効だと判断しました。最高裁は、これを破棄して、審理をやり直させました。判旨を見ます。
図:目的の範囲の物差し
判例最高裁判所第二小法廷判決・昭和27年2月15日
目的の範囲と建物の売却 「財産の運用利殖を計るためには、時に既有財産を売却することもあり得ることである」 …… 「仮りに定款に記載された目的自体に包含されない行為であつても目的遂行に必要な行為は、また、社団の目的の範囲に属するものと解すべきであり、その目的遂行に必要なりや否やは、問題となつている行為が、会社の定款記載の目的に現実に必要であるかどうかの基準によるべきではなくして定款の記載自体から観察して、客観的に抽象的に必要であり得べきかどうかの基準に従つて決すべきものと解すべきである。」
ここから、判例の規範が二つ取り出せます。1つ目。定款の目的そのものに含まれない行為でも、目的を遂行するのに必要な行為は、目的の範囲内です。2つ目。必要かどうかは、現実に必要だったかではなく、定款の記載自体から見て、客観的、抽象的に必要でありうるかで判断します。現実に必要だったかどうかは、見ないんですか。見ません。ここが大事です。念のため確認します。目的が「不動産の保存と運用利殖」の会社が建物を売ったとき、範囲内かどうかを判断するのは、現実の必要性ですか、それとも客観的、抽象的な必要性ですか。客観的、抽象的な必要性、です。運用利殖のためには、持っている財産を売ることもありえます。だから、この売却は、範囲内でありうる行為です。では、なぜ、そんなに広く読むのか。判旨の理由を見ます。
判例最高裁判所第二小法廷判決・昭和27年2月15日
広く読む理由 「当該行為がその社団にとつて、目的遂行上、現実に必要であるかどうかということのごときは社団内部の事情で第三者としては、到底これを適確に知ることはできないのであつて、かかる事情を調査した上でなければ、第三者は安じて社団と取引をすることができないとするならば到底取引の安全を図ることはできないからである。」
看板に例えると分かりやすいです。お店の看板に書いていない商品を、店が売ったとします。買ったお客さんが、後から「看板に書いていない商品だから、この売買は無効です」と言われたら、困りますよね。会社は、多数の相手と取引します。相手が、取引のたびに、定款の目的と照らし合わせて調べなければならないなら、安心して取引できません。相手が取引を避ければ、会社や出資者の利益にもなりません。だから、広く読むんです。営利法人の行為が、目的外で無効とされることは、今日では、ほとんどありません。会社の側から目的外を言い出して逃げることを認めると、相手方が、思わぬ損害を受けるからです。民法の回で見たとおり、農協や労働金庫のような非営利法人が会員でない人にお金を貸した場面は、目的の範囲外で無効とされました。違いは、守る相手です。非営利法人では、会員が出し合った財産を守る側に振れますが、会社では、取引の相手を守る側に振り切れます。補足を二つ。民法34条の源流には、能力外法理、つまり、法人は目的の範囲外のことをする能力が、そもそも無いとする考え方があります。今は、そのまま貫かれてはいません。能力外法理は、名前だけで十分です。また、営利法人については、目的による権利能力、つまり権利や義務を持てる資格の制限そのものを、なくすべきだという有力な意見もあります。
政治献金は有効か——会社の行為と取締役の責任
図:政治献金の2段
- 会社の代表取締役が政党に350万円を寄付→株主が取締役の責任を追及する代表訴訟→最高裁は上告棄却
- ①会社の行為として有効か(目的の範囲)②取締役は責任を負うか(忠実義務)
冒頭の寄付の問題に戻ります。実際に、最高裁大法廷まで行った有名な事件があります。民法と憲法の回でも出てきた、八幡製鉄事件です。鉄鋼の製造と販売、およびそれに付随する事業を目的とする会社の代表取締役2人が、会社を代表して、350万円を、政党に寄付しました。株主が、この寄付は目的の範囲外で、取締役の忠実義務にも反するとして、取締役に損害賠償を求めました。株主が、会社に代わって取締役の責任を追及する訴訟です。これを代表訴訟といい、847条が定めていますが、名前だけで十分です。最高裁は、上告を棄却しました。株主の負けです。ここで注意してほしいのは、争われたのは、寄付そのものの効力ではなく、取締役の責任だった、ということです。ただし、判決は、責任を判断する前提として、会社に政治献金をする権利能力があるか、つまり目的の範囲内か、を先に判断しています。
この判決は、2つの問いを順に判断しています。1段目は、会社の行為として有効か。2段目は、取締役が責任を負うか、です。まず1段目から見ます。
判例最高裁判所大法廷判決・昭和45年6月24日
八幡製鉄事件①——目的の範囲 「会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎりにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為であるとするに妨げないのである。」
規範は、先ほどと同じです。必要かどうかを、客観的、抽象的に見ます。会社は社会の構成単位として、社会通念上、期待や要請される行為をすることができます。災害の救援や福祉への寄付が、その例です。それらは、間接的でも、会社が活動していく上で必要な行為と見られます。政党は、議会制民主主義を支える不可欠の要素です。その健全な発展への協力は、会社に期待される行為の一つだと、判旨は考えました。定款に書いていなくても、範囲内です。これが、冒頭の1つ目の問いへの答えです。寄付は、会社の行為として有効です。判旨は、客観的、抽象的に見て、会社の社会的役割を果たすためと認められるかぎり、と限っています。たとえば、災害の被災地への寄付は範囲内です。一方、民法の回で見たとおり、税理士会が政治団体に寄付した事件では、範囲外とされました。会員一人ひとりが自分で決めるべき政治的な選択に、会のお金を使うものだったからです。なお、取締役が私益を図ったかどうかは、2段目の、取締役の責任で問題にします。
憲法の問題はなかったんですか。ありました。憲法の回で見たとおり、人権は性質上可能なかぎり会社にも及び、会社も自然人と同様に、政治資金の寄付を含む政治的行為の自由を持つ、とされました。この判決は、さらに二つ述べています。参政権が自然人だけに認められていても、会社の寄付を妨げる理由にはならない。公序良俗に反する行為を無効とする民法90条に違反する、という主張は、憲法違反を前提にしていて、前提を欠く。憲法の詳しい話は、憲法の回に任せます。

さて、有効だとして、取締役は責任を負わないと言えるでしょうか。ここで立ち止まってください。2段目に進みます。取締役の義務を定める355条を見ましょう。当時の商法の規定にあたるものです。
条文会社法355条
会社法第355条 取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。
判例最高裁判所大法廷判決・昭和45年6月24日
八幡製鉄事件②——取締役の責任 「取締役が会社を代表して政治資金の寄附をなすにあたつては、その会社の規模、経営実績その他社会的経済的地位および寄附の相手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内において、その金額等を決すべきであり、右の範囲を越え、不相応な寄附をなすがごときは取締役の忠実義務に違反するというべきである」
取締役は、会社の規模や経営実績、寄付の相手方など、諸般の事情を考えて、合理的な範囲内で金額を決めなければなりません。この範囲を超えた不相応な寄付は、忠実義務違反です。この事件の寄付は、資本金、純利益、配当の額に照らして、合理的な範囲を超えていない、と判断されました。だから、取締役は責任なしです。たとえば、赤字続きで配当もできない会社が、利益の大半を超える額を寄付したら、その寄付が、会社の行為として有効でも、取締役の忠実義務違反になりえます。範囲内かどうかと、合理的な範囲かどうかは、別の物差しです。もう一つ補足です。取締役が自分や第三者の利益のために献金すれば、当然、忠実義務違反です。また、判旨は、忠実義務は善管注意義務、つまり、その立場の人に一般に求められる注意を尽くす義務を、具体的に、より明確にしたもので、別個の高度な義務ではない、としました。忠実義務違反を主張する側は、具体的な行為を挙げて、立証しなければなりません。
相手が会社の払いとして受け取ってよいかが、1段目。担当者が社内で、経費の使いすぎを問われるかが、2段目。それぞれ別の帳簿です。責任の中身は、取締役の回で詳しく見ます。なぜ分けるのか。1段目は、寄付を受け取った相手を守る物差しです。相手は、会社の内側の事情を知ることができません。2段目は、お金を出した会社と株主を守る物差しです。守る相手が違うから、別々に判断します。持ち帰る型は、これです。1つ目、会社の行為として有効か。客観的、抽象的に見て、会社の社会的役割を果たすためのものなら、範囲内です。2つ目、取締役の責任。規模や業績などに照らして、合理的な範囲を超えていないか。1つ目が通っても、2つ目は別に判断します。この区別が、論文で論点になりえます。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図・保存版
- 法人性=帰属点が出資者と別
- 営利性=利益を社員に分配・105条2項
- 商人性=会社の行為は商行為・5条
- 社団性=一人会社も可
- 目的の範囲=客観的・抽象的に広く
- 政治献金=有効と取締役の責任は別
冒頭の問いに戻ります。会社が法人であるとは、何ができて、何ができないことか。権利や義務の主体になれて、取引の相手が会社1つに決まって、財産も出資者と分かれます。内側の性質としては、営利性、つまり、利益を社員に分配すること。105条2項で、配当も残余財産も両方与えない定めは無効でした。商人性、つまり、会社の行為は商行為で、商法の規定がかかります。社団性は、一人会社も認められる、でした。定款の目的の範囲は、客観的、抽象的に、広く読みます。取引の安全のためです。会社の取引が、目的外で無効になることは、まずありません。
冒頭のAさんの主張に答えを出しましょう。寄付は無効だ、という主張は、通りません。弁償しろ、という主張は、寄付が合理的な範囲を超えていれば通りえます。一つの場面に、有効性と責任という、2つの問いがありました。次の回から、会社の仕組みの、さらに中身へ進みます。
参照条文
- 会社法3条
- 会社法105条
- 会社法5条
- 会社法27条
- 民法34条
- 会社法355条