株式会社の特徴・所有と経営の分離と株主の有限責任
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第1章 総論・会社法総則 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
「出したお金を返して」は通るか
図:「お金を返して」の場面
- A=株主・B=会社・C=買い手
- A→B「返してほしい」は原則として通らない×
- A→C「株式を売る」で回収できる○
Aさんが、ある株式会社の株式を100万円で買ったとします。ところが会社の業績が悪くなりました。Aさんは、会社にこう言います。「出したお金を返してください」。この請求は、原則として通りません。会社は返さなくてよいのです。持ち主なのに、です。Aさんがお金を取り戻す道は、株式をCさんのような別の人に売ることです。しかも、持ち主であるAさんは、会社の経営を自分ではしません。持ち主なのに、返してもらえなくて、経営もしない。なんだか持ち主らしくないです。その違和感が、この回の入口です。今日の1問は、なぜ株式会社はこんな作りなのか、です。答えを先に言います。見知らぬ多数の人から、長く使えるお金を集めるためです。株式会社の4つの特徴は、この1つの目的から順につながっています。
図:この回の地図
- 1.株式会社は何のための器か
- 2.所有と経営の分離
- 3.株主の有限責任
- 4.株式の譲渡性
- 5.機関の分化
- 6.4つはどうつながっているか
地図はこの6つです。まず目的を確かめます。そこから特徴を1つずつ導き、最後に4つのつながりを見ます。冒頭のAさんの請求の答え合わせも、最後にします。
株式会社は何のための器か
図:目的から4つが出てくる
- 目的=互いを知らない多数の出資者から長く使えるお金を集める
- 出資者が多数→全員では経営できない
- 上限が不明だと出せない→責任に上限
- 払戻しがないと長く使えない→売って回収
- 任せた経営者→見張る仕組み
前に、株式会社が大きな共同事業に向く理由を見取り図として見ました。持分会社は、顔の見える少人数で、出資する人が経営もする会社でした。今日はその逆側から入ります。シリーズの最初の回で見た4つは、株式会社が大きな事業に向く理由でした。今日の4つは、法律の作りとしての特徴です。経営を任せる話が、分離と機関の2つに分かれます。利益の計算と開示は後の章で扱います。想像してください。1000人が少しずつお金を出して、工場を建てる会社です。互いに顔も知りません。出資者は途中で入れ替わります。この会社には、何が必要でしょうか。
決め方の問題と、損の上限の問題。どちらも正しい指摘です。ほかに、お金の使い方の問題があります。工場は何年も使います。出資者が「やっぱり返して」と言うたびに会社のお金が減れば、事業は続きません。ここまでの条件を並べると、必要なものが順に出てきます。多数だから、経営は誰かに任せる。上限が分からないと出せないので、責任に上限を付ける。返してもらえない代わりに、売って回収する道を作る。任せた相手が勝手をしないように、見張る仕組みも置く。この4つが、所有と経営の分離、株主の有限責任、株式の譲渡性、機関の分化です。バスの積立旅行にたとえると、見知らぬ参加者が大勢いて、運転は専門の運転手に任せ、枠は人に譲れて、運転手を見張る係も決める、という作りです。
4つを1つの目的から出てくる歯車として見ると、1つ外したときに何が困るかも見えてきます。順番に確かめましょう。
所有と経営の分離
図:所有と経営の分離
- A=株主が多数→株主総会で選ぶ→取締役→会社の経営
- 株主=出資する人・取締役=経営する人
- 取締役は株主でなくてよい・株主が取締役を兼ねてもよい
1つ目は、所有と経営の分離です。出資者である株主と、経営を担う取締役を、制度として分けます。取締役は、株主総会の決議で選ばれます。329条1項です。前回の持分会社は、所有と経営の一致と呼ぶ形でした。株式会社では、そこを切り離します。切り離すと、2つの得があります。出資者が何千人いても経営が動くこと。そして、お金はあるが経営の腕はない人は専門家に任せられ、腕はあるがお金のない人は取締役として事業に関われることです。さっきの1000人の工場の会社なら、出資者の中から経営に向く人を探す必要はありません。工場の運営に詳しいDさんを、取締役に選べます。Dさんが株式を1株も持っていなくても構いません。切り離しを、条文で確かめます。取締役の資格を定めた331条2項です。
条文会社法331条2項
会社法第331条(2項) 2 株式会社は、取締役が株主でなければならない旨を定款で定めることができない。ただし、公開会社でない株式会社においては、この限りでない。
本文は、取締役は株主でなくてよい、という意味です。定款に「取締役は株主に限る」と書いても、原則として効力がありません。ただし書は、公開会社でない株式会社なら書いてよい、という例外です。公開会社でない株式会社とは、すべての株式に譲渡の制限が付いている会社のことです。裏返せば、譲渡の制限が付いていない株式が1種類でもあれば、公開会社です。定義の細部は、後の回で扱います。譲渡を制限する会社は、仲間うちで経営を続けたいことが多いはずです。身内の小さな会社では、株主が取締役を兼ねるのも普通です。兼ねることは、株式会社でも妨げられていません。ここで1問。取締役を株主に限る旨を定款に定めたいとき、それができるのは、公開会社でしょうか、公開会社でない株式会社でしょうか。
公開会社でない株式会社、です。公開会社では、株主でない人にも取締役への道を開いておくのが、原則の姿です。ただし、分けたことで新しい心配が生まれます。任された取締役が、出資者の利益どおりに動くとは限りません。この心配への答えが、4つ目の機関の分化です。先に、2つ目と3つ目を見ます。
株主の有限責任
図:有限責任が効く理由
- 104条=責任は引受価額が上限
- 上限が先に決まる
- 一緒に出資する株主の財産を調べなくてよい→誰が株主でも他の株主は困らない
- 困る人=会社債権者→会社財産を守るルール
2つ目に入る前に、前回の内容から1問。株主は会社の借金に対して、いくらまで責任を負うでしょうか。持分会社の無限責任社員とは、どこが違うでしょう?株主は、株式の引受価額までです。無限責任社員は、会社の財産で払えない分を、自分の財産から上限なく払います。104条の定めです。
条文会社法104条
会社法第104条 株主の責任は、その有する株式の引受価額を限度とする。
引受価額は、前回見たとおり、株式を引き受けるときに出すと約束した額です。会社の財産で払えない借金があっても、その額を出し終えていれば、株主はそれ以上を払いません。今日の問いは、この上限がなぜ多数の出資を集めるのに効くのか、です。理由は2つ考えられます。1つ目は、失う額が先に決まることです。倒産しても、失うのは出した分までと分かって、初めて安心して出せます。2つ目は、少し見えにくい点です。仮に無限責任だとします。会社が潰れたとき、払えない分は株主が負担します。すると、一緒に出している他の株主にお金があるかどうかで、自分の負担が変わりかねません。出す前に、他の株主にどれだけ財産があるかまで調べる必要が出てきます。
有限責任なら、自分の負担は出した額で止まります。だから、他の株主が誰であるかを見張らなくてよい、と考えられます。つながります。誰が株式を持っていても、他の株主の負担は変わらない、と考えられます。この点が、次の譲渡性の土台になります。一方で、困る人もいます。会社債権者です。株主の財布を当てにできず、会社の財産しか頼れません。そこで法律は、会社の財産を守るルールを用意します。資本や分配に関する規制で、中身は後の章で見ます。今日は、有限責任には、その裏に債権者の負担がある、とだけ押さえてください。なお、有限責任は株式会社だけのものではありません。合同会社の社員も有限責任でした。株式会社の特徴は、有限責任が、分離や譲渡性と組み合わさっている点にあります。
株式の譲渡性
図:出資の回収の2つの道
- 会社から払戻しを受ける×=株式会社の株主には原則としてない・持分会社の退社に伴う払戻しは606条・611条
- 株式を他人に売る○=127条
- 会社は集めたお金を事業に使い続けられる
3つ目です。冒頭のAさんの話に戻ります。株式とは、株主としての地位のことでした。持分会社の持分に当たります。出資を回収する道は、2つ考えられます。1つ目は、会社から払戻しを受けることです。持分会社の社員は、退社、つまり、会社から抜けることができました。606条などです。抜けた社員は、出資の払戻しを受けられます。こちらは611条です。ところが株式会社の株主には、この意味の払戻しの制度が、原則としてありません。会社が、集めたお金を事業に使い続けられなくなります。工場を建てた後で出資者が次々に返還を求めたら、事業が止まってしまいます。長く使えるお金だからこそ、大きな事業ができます。それに、さっきの会社債権者も困ります。会社の財産だけが頼りなのに、出資者が自由にお金を引き揚げられたら、当てにしていた財産が消えてしまいます。その代わりの2つ目の道が、株式を他人に売って回収することです。会社のお金は動かず、持ち主だけが入れ替わります。127条です。
条文会社法127条
会社法第127条 株主は、その有する株式を譲渡することができる。
短い条文ですが、重要です。株式の譲渡は、原則として自由です。そこで、さっきの有限責任と分離が効きます。誰が株主になっても、他の株主の責任は増えません。経営も、任された取締役が行います。株主が誰かは、会社や他の株主にとって大きな問題にならない作りになっている、と考えられます。だから、譲渡を原則自由にできると説明されます。ただし、例外があります。少人数で信頼関係のある会社は、知らない人が入るのを嫌います。そこで定款に定めれば、株式の譲渡による取得に、会社の承認を要するとできます。全部の株式についてなら107条1項1号、権利の中身が違う種類株式を発行して、その一部についてだけなら108条1項4号です。承認の手続や効力は、後の回で扱います。
同じ株式会社でも、定款の定め1つで、知らない人が入ってこられるかどうかが分かれます。逆に言えば、上場、つまり証券取引所で誰でも売り買いできるようにする株式には、譲渡が自由であることが、上場の条件として求められます。不特定多数が市場で売り買いするので、当然です。最後に、株式が、均等に細分化された割合的な単位であることも、一言だけ。たとえば全部で100株の会社で、同じ内容の株式を10株持つ人は、1割分の権利を持ちます。持株の割合で権利の大きさが測れるので、評価や売買がしやすくなります。ここに、今日の1問の答えが出ています。見知らぬ多数から長く使えるお金を集めるから、会社は払い戻さず、その代わりに誰に売ってもよい形にしたのです。
機関の分化
図:機関の最小形と大きな会社の見取り図
- 最小形=株主総会+取締役1人以上
- 大きな会社=株主総会が取締役・監査役・会計監査人を選ぶ→取締役会が代表取締役を監督・監査役が取締役を見張る・会計監査人が計算書類を確かめる
4つ目です。機関とは、会社の意思決定や運営に関わる組織のことです。株主総会、取締役、取締役会、監査役、会計監査人などがあります。役割を分け、互いに選び、見張らせる。それが機関の分化です。まず、最小の形です。株式会社には、株主総会のほかに、取締役を置かなければなりません。326条1項です。定款で置ける機関も、2項に並んでいます。
条文会社法326条
会社法第326条 1 株式会社には、一人又は二人以上の取締役を置かなければならない。 2 株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等を置くことができる。
株主総会と、取締役1人。株式会社は、これだけでも成り立ちます。大きな会社では、見取り図が厚くなります。株主総会が、取締役や監査役、会計監査人を選びます。取締役会は、業務を執行する代表取締役を監督します。監査役は取締役の仕事を見張り、会計監査人は計算書類、つまり、会社の1年の財産や損益をまとめた決算の書類をチェックします。1000人の工場の会社で言えば、株主総会で取締役を3人選び、その3人で取締役会を作って、社長にあたる代表取締役を選びます。監査役は、その社長たちの仕事ぶりをチェックします。向きに注目してください。矢印は、選ぶと、見張るの2種類だけです。
公開会社には、取締役会を置く義務があります。327条1項1号です。株式が自由に売り買いされ、株主が次々に入れ替わる会社では、株主が自分で経営を見張り続けるのは難しいので、取締役どうしが会議で決め、互いに見張る仕組みを必ず置かせる、と説明されます。この回は条番号を頭に置くだけで構いません。どの機関を組み合わせられるかという設計のルールと、各機関の権限は、後の章で扱います。1つだけ、締め括りに。株主総会は、株主が集まって会社の事項を決める場です。取締役会を置く会社では、決められる事項が法律と定款で定めた事項に絞られます。295条です。経営の決定は取締役会に任せ、株主総会は取締役を選ぶような大事な事項に専念する、という分け方です。分離を一歩進めた形です。
4つはどうつながっているか
図:4つの歯車
- 中心=見知らぬ多数から長く使えるお金
- 分離・有限責任・譲渡性・機関がかみ合う
- 芯=誰が株主かが会社と他の株主に影響しない
- 外側=困る人と手当ての方向:債権者→会社財産を守るルール、少数派・任せた株主→機関の監督と株主の権利
4つを、歯車として並べ直します。中心は、見知らぬ多数から、長く使えるお金を集める、という目的です。誰が株主でも、経営は任された取締役が行います。責任は出した額で止まります。売り買いは自由です。見張る仕組みもあります。4つを貫く芯は、誰が株主かが会社や他の株主に影響しない、という考え方です。これは、条文に書かれたルールではなく、4つのつながりを覚えるための見方として持ち帰ってください。たとえば有限責任がなければ、他の株主が気になって、譲渡を自由にするのは難しいと考えられます。譲渡がなければ、払戻しに頼るしかなく、お金を長く使えません。機関がなければ、任せた経営者を誰も見張れません。互いに支え合っています。1000人の工場の会社が無限責任だったら、株式を買おうとする人は、ほかの999人の財布まで調べないと、安心して買えません。
会社債権者は、会社の財産を守るルールで手当てされます。総会の多数決で押し切られやすい少数派の株主や任せた株主は、機関の監督や株主の権利で守られます。どちらも中身は後の章です。小さな会社なら、緩められます。譲渡制限を付けられ、取締役会を置かない形にもできます。大きな会社向けの作りが、小さな会社では緩むのです。冒頭に戻ります。Aさんの「出したお金を返して」は、原則として通りません。Aさんは、株式をCさんに売って回収します。その仕組みは、有限責任と分離に支えられています。次の回では、株式会社を読むときのキーワードに進みます。
参照条文
- 会社法331条2項
- 会社法104条
- 会社法127条
- 会社法326条