会社の商号と名板貸の責任
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第1章 総論・会社法総則 ⑦/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
名前を貸しただけで払う?
図:看板の場面
- Y=大手の学習塾の会社
- A=教室を実際に営んだ個人
- X=授業料を前払いした保護者:Y→A 看板の名前の使用を許す
- A→X 看板を見て大手の教室と誤認させ前払いを受ける
- X→Y 連帯して払ってほしい
街の一角に、学習塾の大きな看板が出ています。「Yゼミナール 駅前教室」。全国に教室を持つ、大手の塾の名前です。保護者のXさんは、大手の塾の教室だと思って、子どもの1年分の授業料を前払いしました。ところが、この教室を実際に営んでいたのは、大手の塾の会社Yではなく、個人のAさんでした。Aさんは授業料を持ったまま教室を閉めて、姿を消します。Xさんは、前払いした授業料の返還を、Yに求めました。Yは言います。「看板に名前を使わせただけだ。契約したのはAさんで、うちは関係ない」。会社法の答えは、Yは払う責任を負うことがある、です。自分の名前を使って事業をすることを他人に許した会社は、その名前を見て会社の事業だと信じて取引した人に、その他人と連帯して、債務を弁済する責任を負います。会社法9条の、名板貸の責任です。
今日の1問は、なぜ名前を貸しただけの会社が払うのか、です。答えを先に言います。誤認させる外観を作ることに関わった者は、その外観を信じた相手に責任を負うべきだからです。ただし、相手が重大な不注意で信じたときなどは、責任は及びません。この線引きまで、今日は見ます。
図:この回の地図
- 1.会社の居場所=営業所・本店・住所
- 2.会社の名前=商号のルール
- 3.他人の名前を使ってはいけない場合
- 4.自分の名前を使わせたらどうなるか=名板貸
- 5.名板貸の要件と判例
地図は5つです。会社の居場所、会社の名前のルール、他人の名前を使ってはいけない場合、そして自分の名前を使わせたらどうなるか。最後に、名板貸の要件と判例を見ます。全部を、会社の名前を、誰が、どこまで使ってよいか、という、ひとつの問いにぶら下げます。前回までで、会社法の外側の枠組みは見終わりました。今回から、会社法の第一編、総則に入ります。会社の種類の回で、会社には商法の総則に代わって、この第一編が当たる、と見ました。その中身です。その最初が、会社の居場所と名前です。
会社の居場所
図:営業所・本店・支店・住所
- 営業所=営業活動の拠点
- 実質上の本店=全営業を統括する営業所
- 支店=それ以外の営業所
- 形式上の本店=定款で定め登記した所在地
- 住所=形式上の本店の所在地
まず、営業所です。営業所とは、営業活動の拠点になる場所のことです。営業所には、法律上の意味があります。たとえば、お金を払う場所が決まっていないときの履行の場所の基準になります。商法516条です。また、裁判を起こす裁判所を決める基準にもなります。民事訴訟法4条4項です。営業所が複数あるとき、全体の営業を統括する営業所を本店といい、そのほかの営業所を支店といいます。これが、実質上の本店です。実質上、というのは、ほかにも本店があるんですか。あります。会社は、定款で本店の所在地を定めます。27条3号です。そして、本店と支店の所在場所を登記します。911条3項3号です。こうして定款と登記で決まった本店を、形式上の本店といいます。実際に全体を統括している場所と、登記されている本店が、食い違うことがあります。食い違ったとき、どちらを本店として扱うのか。会社法の多くの規定は、形式上の本店で決めます。法律関係を明確にするためです。実際にどこから指揮しているかは、外からは分かりません。登記された所在地なら、誰でも確かめられます。その代表が、会社の住所です。4条です。法人の回で、住所は本店の所在地にある、と見ました。その本店は、形式上の本店です。
条文会社法4条
会社法第4条 会社の住所は、その本店の所在地にあるものとする。
ほかにも、会社の組織に関する訴えは、本店の所在地の地方裁判所の専属管轄になります。835条1項です。ほかの裁判所には訴えられない、という意味です。会社の設立の登記も、本店の所在地で行います。911条1項です。どれも、基準は形式上の本店です。
会社の名前のルール
図:商号の基本
- 会社の名称=商号〔6条1項〕
- 定款で定める〔27条2号〕・登記する〔911条3項2号〕
- 会社の商号は1つ・譲渡できない
- 個人商人は営業ごとに商号をもてる・営業とともに譲渡できる〔商15条1項〕
次は、会社の名前です。会社法は、これを商号と呼びます。6条1項です。
条文会社法6条1項
会社法第6条(1項) 1 会社は、その名称を商号とする。
商号は、定款で定め、登記します。27条2号と、911条3項2号です。会社の商号は1つだけで、会社の名前そのものなので、切り離して譲ることはできません。対比として、個人の商人は、営業ごとに別の商号をもてますし、営業とともに商号を譲ることもできます。商法15条1項です。個人の商人には、本名が別にあります。商号は、本名とは別に、商売ごとに付ける名前です。だから、商売ごとに分けて持てて、商売と一緒に譲れます。ここは、会社との違いを1文で押さえてください。ここで1問です。前に見た回を思い出してください。会社の種類に従って、商号の中に必ず入れなければならない文字は、何でしたか?
株式会社、合名会社、合資会社、合同会社という文字を、種類に合わせて使うんでした。6条2項で、会社の種類のところで全文を見ました。
図:名前の使い方の規制
- 6条3項=他の種類の会社と誤認されるおそれのある文字の禁止
- 7条=会社でない者が会社と誤認されるおそれのある文字を使うことの禁止
- どちらも100万円以下の過料
6条3項です。
条文会社法6条3項
会社法第6条(3項) 3 会社は、その商号中に、他の種類の会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。
株式会社が、商号に合同会社という文字を入れる場合が例です。会社の種類は、責任の範囲など、取引の相手にとって大事な情報です。他の種類と誤認されると困るのです。7条は、相手が会社でない者のときです。
条文会社法7条
会社法第7条 会社でない者は、その名称又は商号中に、会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。
個人事業主が、名前に株式会社をつける場合です。会社でないのに会社と誤認させる名前は、使えません。どちらの条文に違反しても、100万円以下の過料の対象です。過料は、刑罰ではない、お金の制裁です。978条の1号と2号です。ここは、条番号と金額の上限まで押さえてください。
他人の名前を使ってはいけない場合
図:8条
- 何人も、不正の目的をもって、他の会社と誤認されるおそれのある名称・商号の使用が禁止〔1項〕
- 営業上の利益を侵害され、又はそのおそれのある会社は侵害の停止又は予防を請求できる〔2項〕
- 「不正の目的」=不正な活動を行う積極的な意思
ここまでは、自分の会社の名前をどう付けるか、という規制でした。8条は、他の会社と紛らわしい名前を使う人に向けた規制です。
条文会社法8条
会社法第8条 1 何人も、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。 2 前項の規定に違反する名称又は商号の使用によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある会社は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
1項は、何人も、つまり会社でない人も含めて、不正の目的で、他の会社と誤認されるおそれのある名前を使うことを禁じます。2項は、営業上の利益を侵害された会社、またはそのおそれのある会社が、やめさせる請求と、予防の請求をできる、という内容です。違反には、978条3号の過料もあります。似た名前を使えば、全部だめなんですか。違います。ポイントは、不正の目的という要件です。裁判所は、こう言いました。
判例知的財産高等裁判所判決・平成19年6月13日 判例時報2036号117頁
8条の「不正の目的」 「同条にいう「不正の目的」は、他の会社の営業と誤認させる目的、他の会社と不正に競争する目的、他の会社を害する目的など、特定の目的のみに限定されるものではないが、不正な活動を行う積極的な意思を有することを要するものと解するのが相当である。」
これは、条文に書かれていない基準を、判例が示したものです。不正の目的は、特定の目的に限られませんが、不正な活動をする積極的な意思が必要です。事案は、似た名前の会社どうしの争いでした。後から名前を使い始めた側のほうが、活動の歴史も、信用も、知名度も上回っていて、一般的な言葉の組み合わせでもありました。だから、不正な活動をする積極的な意思は認められない、とされたのです。似た名前を使っただけでは、8条違反になりません。目的が要ります。名前は、本来、自由に選べます。似ているだけで禁じると、一般的な言葉の組み合わせを、先に使った会社が独り占めすることになります。だから8条は、目的で絞っているのです。似た制度に、不正競争防止法があります。こちらは、保護の対象が、周知や著名な表示に限られます。2条1項の1号と2号です。8条は、周知でも著名でもなくても守られます。ここが違いです。
自分の名前を使わせたらどうなるか
図:名板貸の三者関係
- Y=名前を貸した会社=名板貸人
- A=借りて事業をした者=名板借人
- X=取引した相手方:Y→A 商号の使用を許諾
- A→X 看板を見て誤認させ取引
- X→Y 連帯して債務を弁済してほしい〔9条〕
6条から8条は、名前を使う側の規制でした。ここからは、反対に、自分の名前を他人に使わせた側の責任です。自分の商号を使って事業をすることを、他人に許すことを、名板貸といいます。許した側を名板貸人、許された側を名板借人といいます。冒頭では、Yが名板貸人、Aさんが名板借人です。禁止はしていません。借りる側は、貸す側の信用や評判を使って、有利に商売をしたい。貸す側は、使用料などを得られます。そこで法は、名前の貸し借りは認めたうえで、取引の相手を守るために、貸した側に責任を置きました。会社が貸したときは会社法9条、会社以外の商人が貸したときは商法14条です。商法14条は、会社法9条と同じ内容です。ここで1問です。前々回、会社法の役割の1つに、取引の相手方を守ることを見ました。それは、具体的にどんなことでしたか?
取引相手を守ること、でした。会社の財産しか当てにできない人のために、開示や資本制度がありました。名板貸も、取引相手を守る仕組みです。ただ、守り方が違います。開示や資本制度は、会社の財産を当てにする人を守りました。名板貸は、看板という見かけを信じた人を守ります。
図:外観法理
- ①誤認させる外観がある=Aの教室に大手の塾の看板
- ②外観の作出にYが関与=名前の使用を許諾〔帰責性〕
- ③Xがその外観を信頼した→外観どおりの責任=取引の安全
では、なぜ貸した側が責任を負うのか。外観法理という考え方です。3つの条件がそろったとき、外観どおりの責任を負わせます。1つ目は、誤認させる外観があること。次に2つ目は、その外観を作ることに、責任を負わされる側が関わったこと。これを、帰責性といいます。そして3つ目は、相手がその外観を信頼したことです。冒頭の場面に当てはめます。大手の塾の看板が出ている教室、これが外観です。看板に名前を使うことをYが許していた、これがYの関わりです。そしてXさんは、その看板を信じて前払いしました。3つそろっています。
表見代理も、本人が代理権を与えたかのような外観を自分で作った場合に、それを信じた相手を守る制度でした。同じ発想です。名前を貸すとは、自分の信用を貼り紙として他人に預けることです。貼り紙を信じてお金を払った人に、中身が違うから知らない、とは言えません。この考え方が、9条の土台です。
9条の成立要件
図:9条の要件と効果
- ①自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した=許諾〔帰責性〕
- ②他人がその商号で事業を行った=外観
- ③当該会社が事業を行うものと誤認して取引をした=信頼/効果=他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任
条文を読みます。その前に1問です。看板の会社が責任を負うために、客が看板を信じたことのほかに、会社の側に必要なことは何でしょうか。名前を使うことを、会社が認めていたことです。許諾が、会社の側の責任の根拠です。条文でそれを確かめます。
条文会社法9条
会社法第9条 自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社は、当該会社が当該事業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。
成立要件は3つです。これは、条文をそのまま読めば出てくる要件です。1つ目は、自己の商号を使用して事業や営業を行うことを、他人に許諾したこと。2つ目は、その他人が、その商号を使って事業を行ったこと。これが外観です。3つ目は、相手方が、その会社が事業を行うものと誤認して、その他人と取引をしたこと。効果は、他人と連帯して、その取引によって生じた債務を弁済する責任です。連帯とは、相手方がどちらにも全額を請求できる、ということです。言葉ではっきり許していなくても、許諾は認められます。判例は、会社が名義の使用を黙認していた事案や、従前の商号の使用を暗黙に許諾していた事案で、責任を認めています。店に看板やゴム印を置いたままにする、といった事実から、黙示の許諾が認められます。許諾には、黙示の許諾も含まれると読んでよい、というのが判例の運用です。冒頭の3要件を当てはめると、Yは看板の名前の使用を許していて、Aさんがその名前で教室を営み、Xさんが大手の塾の教室と思って前払いしました。だから、Yは、Aさんと連帯して、前払いした授業料の返還債務を弁済する責任を負います。名板貸人の責任は、論文で論点になりうるところです。
誤認の程度と重過失
図:誤認の程度
- 誤認が相手の過失によるときも責任は免れない
- ただし重大な過失は悪意と同様に扱う→重過失があれば責任なし
- 重過失の立証責任は名板貸人側〔昭43〕
ここからは、条文の3要件では決まらない部分を、判例で見ます。まず、3つ目の誤認の程度です。相手が少し注意すれば気づけたのに、気づかなかったとき、責任は消えるでしょうか。事案は、こうです。木材を扱う業者が、ある会社の大阪出張所の名義で営業していた者と、約200万円分の木材の継続的な売買をしました。この名義の使用を、会社は黙認していました。木材の代金が払われず、会社に請求した事件です。当時の商法23条が、いまの会社法9条と商法14条にあたります。判決の中の悪意とは、法律の言葉で、事情を知っていたことです。
判例最高裁判所判決・昭和41年1月27日 民集20巻1号111頁
名板貸人の責任と誤認の過失 「商法二三条の名義貸与者の責任は、その者を営業者なりと誤認して取引をなした者に対するものであつて、たとえ誤認が取引をなした者の過失による場合であつても、名義貸与者はその責任を免れ得ないものというべく、ただ重大な過失は悪意と同様に取り扱うべきものであるから、誤認して取引をなした者に重大な過失があるときは、名義貸与者はその責任を免れるものと解するのを相当とする。」
最高裁は、会社を営業主と誤認したことに重大な過失があったとは断定できないとして、会社の責任を認めました。判決が示した基準は2つに分かれます。1つ目、誤認に相手の過失があっても、責任は消えません。無過失までは要りません。2つ目、ただし、重大な過失は悪意と同じに扱い、重大な過失があれば責任は消えます。これは、条文に書かれていない基準を、判例が立てたものです。1つ目で無過失まで求めないのは、商売の取引は、数が多く、速さが求められるからです。看板を見るたびに、本当の営業主を調べさせるのは無理です。だから、少しの不注意があっても、看板を信じた人を守ります。民法の表見代理では、相手が知らず、しかも落ち度がないこと、つまり善意無過失が必要でした。ここが違います。
冒頭の例で比べます。契約書に、教室は個人のAが経営する、と太字で書かれていて、署名した。これは、誤認というより、分かっていたに等しい状況です。重大な過失になるでしょう。一方、看板だけを見て、細かい契約書を読まずに払った程度なら、重大とまでは言いにくいです。決め手は、悪意との並びです。外観を信じた人が守られるのは、信じたことに保護に値する理由があるからです。知っていた人は守られません。知っていたに等しい人も、同じ扱いにするのです。なお、重大な過失があったことは、責任を免れたい名板貸人の側が証明しなければなりません。証明できなければ、名板貸人が負けます。これを、立証責任が名板貸人にある、といいます。これは、次の判例が示しました。
同種の営業
図:同種営業
- 原則=許諾を受けた者の営業が許諾した者の営業と同種であることを要する
- 理由=商号は特定の営業の同一性を表示する
- 例外=特段の事情〔誤認するおそれが十分あった場合〕で異種でも責任
- 例=塾の名前で学習塾→同種〔責任あり〕、塾の名前でラーメン店→異種〔原則責任なし〕
もう1つの論点は、貸した名前と、借りた人の商売が違うときです。冒頭の看板で、Aさんが学習塾でなく、ラーメン店を始めたとします。名前を使わせたYは、責任を負うでしょうか。最高裁は、こう言いました。まず、理由です。
判例最高裁判所判決・昭和43年6月13日 民集22巻6号1171頁
同種営業を要する理由 「商号は、法律上は特定の営業につき特定の商人を表わす名称であり、社会的には当該営業の同一性を表示し、その信用の標的となる機能をいとなむものである。」
商号は、特定の営業を表す名前です。だから、別の営業で使われても、その営業が名前の持ち主のものだと信じる理由が薄いのです。結論は、こうです。
判例最高裁判所判決・昭和43年6月13日 民集22巻6号1171頁
原則として同種の営業に限る 「現に一定の商号をもつて営業を営んでいるか、または、従来一定の商号をもつて営業を営んでいた者が、その商号を使用して営業を営むことを他人に許諾した場合に右の責任を負うのは、特段の事情のないかぎり、商号使用の許諾を受けた者の営業がその許諾をした者の営業と同種の営業であることを要するものと解するのが相当である。」
これも、判例が立てた基準です。原則は同種の営業に限る。ただし、特段の事情があれば、異種の営業でも責任を負います。事案は、電気器具の商売をやめた人が、看板に残っていた従前の商号、名義のゴム印、印鑑、小切手帳を、店に置いたままにしたものです。元の使用人が、同じ店舗で、同じ商号のまま、食料品店を始めることも、知っていました。預金口座も利用させていました。最高裁は、こう述べて、責任を認めました。
判例最高裁判所判決・昭和43年6月13日 民集22巻6号1171頁
特段の事情 「訴外Eが、上告人の廃業後に、上告人の商号および氏名を使用して上告人の従前の営業とは別種の営業を始めたとしても、同訴外人と取引をした被上告人の前身F商店がその取引をもつて上告人との取引と誤認するおそれが十分あつたものというべきであり、したがつて、上告人の営業と訴外Eの営業とが業種を異にするにかかわらず、なお上告人において同訴外人の右取引につき商法二三条所定の責任を負うべき特段の事情がある場合に当たるものと解するのが相当である。」
引用の上告人が名前を貸した側、訴外Eが借りた側です。業種が違っても、同じ店で、同じ名前の看板のまま続けていれば、取引した人が前の商売の続きと思うのも無理はありません。そこで、誤認するおそれが十分あれば、責任を負います。看板が全然違う場所で、塾の名前だけでラーメン店を始めたなら、塾の会社の店と誤認するおそれは小さく、原則どおり責任を負いません。一方、同じ教室の場所で、同じ看板のまま、業種だけ変えて続けていたなら、特段の事情があると見る余地が出てきます。決め手は、取引した人が、前の商売の相手と取引したと誤認するおそれが十分あったかどうかです。この判決は、黙示の許諾も認めました。名前の使用を少なくとも暗黙に許諾していた、という原審、つまり最高裁の1つ前の裁判所の判断を、正当として是認したのです。この判決は、重大な過失の立証責任が、名板貸人の側にあることも示しました。
許諾がなくても責任を負う場合
図:類推適用の2例
- 昭55=営業せず手形だけに名称を使った場合
- 平7=許諾していなくても外観を作出又はその作出に関与した者
9条の条文には、当てはまらない場面もあります。判例は、そうした場面にも、9条を類推して、責任を広げました。類推とは、条文がそのままは当てはまらない場面に、似ているので同じルールを当てはめることです。1つ目は、営業をしていない場合です。ある人が、自分の名称を使って営業を営むことを他人に許しました。ところがその他人は、その名称で店を開かず、許した営業の範囲内の営業のために、その名称の手形を振り出して使っていました。手形とは、一定の金額の支払いを約束する証券のことです。許した人は、それを知りながら、口座への入金手続などをして、黙認していました。その手形を受け取った相手は、同じ名義の手形がそれまで期日にきちんと支払われてきたことを確かめていました。
判例最高裁判所判決・昭和55年7月15日 判例時報982号144頁
営業を行わず、手形だけに名称を使った場合 「Eに「F機器」を冠した自己の名称を使用して営業を営むことを許諾した上告人が、……Eが右の名称を使用して営業を営むことがなかつたにも拘らず、……商法二三条の規定の類推適用により、手形金の支払義務があるものとした原審の判断は、正当として是認することができる。」
9条の2つ目の要件、その名前で事業を行うこと、がなくても、それまでの支払いを確かめて、許した営業の範囲内の手形を受け取った相手を守るため、類推適用で手形金の支払義務を認めました。外観と、名前を許したこと、それを信頼した相手がそろえば足りる、という拡張の一例です。
図:平7の事案
- スーパーの屋上でテナントがペットショップを営む
- 店舗外部=スーパーの商標の大きな看板だけ・テナント名なし
- 館内の案内=「ペットショップ」とだけ表示
- テナントは契約した場所をはみ出して営業し、スーパーは黙認
- 買った客の家族が病気にかかり死亡
2つ目が、いちばん大事です。名前の使用を許していない場合でも、責任を負わされることがあります。事案は、こうです。スーパーの屋上で、テナントがペットショップを営んでいました。買った客の家族が病気にかかって亡くなり、客が、スーパーの責任を問いました。店舗の外には、スーパーの商標の大きな看板だけがあって、テナントの名前はありません。館内の案内も、ペットショップ、とだけ表示でした。テナントは、契約した場所をはみ出して営業していましたが、スーパーは黙認していました。原審は、識別のための措置は一応講じられていた、として責任を否定しました。最高裁は、こう判断しました。判断は、3つの段階に分かれます。外観、その外観を作ることへの関わり、そして責任です。引用の中のBは、スーパー、被上告補助参加人は、テナントです。
判例最高裁判所判決・平成7年11月30日 民集49巻9号2972頁
許諾のない外観作出への類推 「これら事実は、買物客に対し、被上告補助参加人の営業があたかもBの営業の一部門であるかのような外観を与える事実ということができる。」 …… 「一般の買物客が被上告補助参加人の経営するペットショップの営業主体はBであると誤認するのもやむを得ないような外観が存在したというべきである。そして、Bは、前記一の2のように本件店舗の外部にBの商標を表示し、被上告補助参加人との間において、同3の内容の出店及び店舗使用に関する契約を締結することなどにより、右外観を作出し、又はその作出に関与していたのであるから、Bは、商法二三条の類推適用により、買物客と被上告補助参加人との取引に関して名板貸人と同様の責任を負わなければならない。」
最高裁は、スーパーに名板貸の規定が類推適用されると認めました。そして原審の判決を破棄、つまり取り消して、他の争点をもう一度審理させるため、事件を原審に差し戻しました。この判決は、類推適用を肯定したものです。スーパーの責任が確定したわけではありません。3つの段階を、順に確かめます。1つ目、一般の客が営業主体を誤認するのもやむを得ないような外観があること。2つ目、その外観を作り出したか、作り出すことに関わったこと。最後に3つ目、その場合は名板貸人と同様の責任を負うことです。許諾という言葉がなくても、外観と、帰責性と、信頼という外観法理の3つがそろえば、責任を負わせるのです。
表示の仕方しだいで、外観の評価は変わります。店の外の看板にも館内の案内にも、テナントの名前がはっきり出ていれば、一般の客が営業主体はスーパーだと誤認するのもやむを得ない、とは言いにくくなります。この判決の決め手は、外観が、営業主体を区別できない形だったことです。
条文の要件と判例の規範
図:整理の表
- 成立要件〔9条〕=許諾
- その商号での事業
- 誤認して取引→効果=連帯して取引から生じた債務を弁済|判例の規範=昭41 重過失は悪意と同視
- 昭43 重過失の立証責任は名板貸人・原則同種営業・特段の事情で異種も
- 昭55 営業せず手形だけでも類推
- 平7 許諾なしでも外観作出・関与に類推
整理します。左半分は、条文どおりの成立要件です。許諾、その商号での事業、誤認して取引した。これは条文を読めば出てくるので、9条の番号と一緒に押さえます。右半分は、判例が足した基準です。条文には書かれていません。重大な過失があれば責任なし。原則は同種の営業で、特段の事情があれば異種でも。営業をしなくても手形に使われたら類推。許諾がなくても、外観を作った者には類推。出どころの判例と一緒に覚えると、取り違えません。なぜ分けるのか。条文の要件は、条文を示せば根拠になります。判例の基準は、条文に書かれていないので、なぜそう考えるかという理由が根拠になります。重大な過失なら悪意との並び、同種の営業なら商号が営業を表すこと、類推なら外観法理です。
今日の地図(保存版)
図:まとめ
- 4条=住所は形式上の本店の所在地
- 6条3項・7条=誤認させる文字の禁止
- 8条=不正の目的が要る
- 9条=許諾・外観・誤認で連帯責任
- 判例=重過失は責任なし・原則同種営業・外観作出に類推
今日の1問に答えます。なぜ名前を貸しただけの会社が払うのか。誤認させる外観を作ることに関わった者は、その外観を信じた相手に責任を負うべきだからです。名前を貸すとは、自分の信用を他人に預けることです。預けた以上、それを信じた人に、中身が違うとは言えません。ただし、外観を信じてよい範囲に限られます。相手が重大な過失で信じたときは、責任は及びません。貸した名前と無関係な業種のときも、原則として及びません。逆に、許諾がなくても、外観を作るのに関わったなら、責任を負わされることがあります。冒頭のYは、看板の名前の使用を許していたから、Aさんと連帯して払う、でしたね。会社の居場所は形式上の本店、名前は6条から8条の規制、そして9条の名板貸です。次の回は、会社の使用人に入ります。
参照条文
- 会社法4条
- 会社法6条1項
- 会社法6条3項
- 会社法7条
- 会社法8条
- 会社法9条