支配人と表見支配人
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第1章 総論・会社法総則 ⑧/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
支店長の契約で会社は払う?
図:肩書きの場面
- Y=会社
- A=大阪支店長の名称を付けた使用人
- X=内装工事をした業者:Y→A 支店長の名称を付ける
- A→X 肩書きを見て工事を発注
- X→Y 工事代金1,000万円を払ってほしい〔13条〕
内装工事の業者Xさんが、会社Yの大阪支店の改装を請け負いました。発注したのは、名刺に「大阪支店 支店長」と書かれたAさんです。工事が終わり、代金は1,000万円です。ところがYは言います。「Aに契約をする権限は与えていない。社内規程で、支店長が決められる金額は300万円までだ。1,000万円の契約は無効だから、払わない」。会社法の答えは、Yは払う責任を負う、です。支店長という名称を付けた使用人は、包括的な代理権を与えられていなくても、その支店の事業に関する裁判外の行為をする権限があるものとみなされます。会社法13条の、表見支配人です。
今日の1問は、なぜ代理権を与えていない支店長の契約で、会社が責任を負うのか、です。答えを先に言います。支店長という肩書きを付けたのは会社自身であり、その肩書きを信じた相手を守るべきだからです。ただし、相手が権限のないことを知っていたときは、守られません。重大な過失があるときも、知っていたのと同じに扱われます。
図:この回の地図
地図です。会社の使用人とは誰か。次に、本当に包括的な代理権をもつ支配人。そして山場の、肩書きだけで権限が認められる表見支配人。最後に、部長や課長、店員の場合です。全部を、取引の相手は使用人の権限をどこまで信じてよいか、という、ひとつの問いにぶら下げます。前回は、会社の名前を貸した場合の名板貸を見ました。今回は、名前ではなく肩書きを付けた場合です。同じ考え方が、また出てきます。
会社の使用人と支配人
図:使用人と支配人
- 使用人=会社の指揮・監督のもとで事業に従事する者〔機関ではない〕
- 支配人=本店又は支店の事業について包括的な代理権をもつ者として選任された使用人
- 10条
使用人とは、会社の指揮と監督のもとで、事業に従事する人のことです。つまり、従業員です。代表取締役などの業務執行をする人から、仕事の一部を任されて動きます。株主総会や取締役のような、会社の意思を決める機関ではありません。会社法の総則が決めているのは、取引の相手から見た使用人の権限の範囲と、支配人の義務だけです。雇用の条件そのものは、民法や労働法の世界です。そのなかで、いちばん強い権限をもつのが支配人です。10条です。
条文会社法10条
会社法第10条 会社(外国会社を含む。以下この編において同じ。)は、支配人を選任し、その本店又は支店において、その事業を行わせることができる。
支配人とは、本店または支店の事業について、包括的な代理権をもつ者として選ばれた使用人です。包括的とは、事業に関する行為を、個別に授権されなくても、ひとまとめに任されているという意味です。支配人を置くかどうかは、会社の自由です。選任と解任は、取締役会のある会社なら取締役会の決議で行います。362条4項3号です。支配人を選んだとき、また代理権がなくなったときは、本店の所在地で登記します。918条です。ここは、条番号まで押さえれば足ります。
支配人の権限
図:11条
- 1項=一切の裁判上又は裁判外の行為
- 2項=他の使用人の選任・解任
- 3項=代理権の制限は善意の第三者に対抗できない
支配人の権限は、11条です。
条文会社法11条
会社法第11条 1 支配人は、会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。 2 支配人は、他の使用人を選任し、又は解任することができる。 3 支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
1項は、支配人の権限が、裁判上の行為と裁判外の行為の両方に及ぶと定めています。裁判上の行為とは、訴えを起こすなどの訴訟行為です。範囲は、選ばれた本店または支店の事業の単位です。大阪支店の支配人なら、大阪支店の事業の範囲です。2項は、他の使用人を選んだり、やめさせたりできる、という内容です。3項が大事です。会社が支配人に、社内の取り決めで制限を付けても、その制限を知らない第三者には言えません。善意とは、事情を知らないことです。民法の代理では、代理人の権限は本人が与えた範囲だけで、それを超えた行為は、原則として本人に効果が及びません。だから、相手が権限を確かめるのが原則です。ところが、商売の取引は、数が多く、速さが求められます。取引のたびに、会社の中の制限を調べさせると、商売が止まってしまいます。そこで会社法は、支配人という名前の通った立場については、内部の制限を善意の相手に持ち出せないことにしました。冒頭に戻ると、Aさんが支配人なら、300万円までという社内規程を、規程を知らなかったXさんに対して持ち出せません。ところがAさんは、支配人ではなく、包括的な代理権を与えられていない、ただの支店長です。この場合を、13条が受けます。
支配人の義務
図:12条
- 会社の許可なしに禁止:①自ら営業を行う②自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引③他の会社又は商人の使用人となる④他の会社の取締役・執行役・業務を執行する社員となる
- 2項=②違反で得た利益の額は会社の損害の額と推定
支配人は、会社の事業について大きな権限をもつ分、義務も重くなります。12条です。
条文会社法12条
会社法第12条 1 支配人は、会社の許可を受けなければ、次に掲げる行為をしてはならない。 一 自ら営業を行うこと。 二 自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をすること。 三 他の会社又は商人(会社を除く。第二十四条において同じ。)の使用人となること。 四 他の会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。 2 支配人が前項の規定に違反して同項第二号に掲げる行為をしたときは、当該行為によって支配人又は第三者が得た利益の額は、会社に生じた損害の額と推定する。
会社の許可なしにできないのは、自分で営業をする、会社と同じ部類の取引をする、他の会社や商人の使用人になる、他の会社の取締役などになる、の4つです。支配人は、その労力を、もっぱら会社のために注ぐべきだという考えで、精力集中義務といいます。例えば、会社Yの大阪支店の支配人が、会社に黙って自分の店を開き、Yと同じ種類の商品を売るとします。自分で営業しているので1号に、Yの事業と同じ部類の取引なので2号にも当たります。この取引で支配人がもうけた額が、Yの損害の額と推定されます。取締役にも、競業を制限する356条1項1号があります。取締役の義務は、後の回で詳しく見ます。でも、制限されるのは、会社と同じ部類の取引をする場合だけです。12条は4つの行為を禁じていて、支配人のほうが広く縛られます。2項は、2号の競業取引に違反したとき、支配人や第三者が得た利益の額を、会社の損害の額と推定する、という規定です。競業で会社がどれだけ損をしたかは、証明しにくいので、立証を楽にして、競業を防ごうとしています。この義務は、会社が許可すれば負わなくてよい、任意の規定です。
表見支配人の趣旨
図:11条と13条の対置
- 11条=権限はある。内部の制限は善意の第三者に対抗できない
- 13条=権限はないが肩書きがある。権限があるものとみなす
ここで1問です。前回の名板貸で、会社が責任を負うために必要だった3つの条件は、何でしたか?誤認させる外観と、会社がその外観を作ることに関わったことと、相手がそれを信頼したことでした。外観、帰責性、信頼でした。前回、外観法理と呼んだ考え方です。13条も、同じ考え方でできています。11条3項は、権限があるのに制限された場面でした。13条は、反対に、権限がないのに肩書きがある場面です。条文を読みます。
条文会社法13条
会社法第13条 会社の本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、当該本店又は支店の事業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
支店長、支社長、営業所長のように、本店や支店の事業の主任者だと分かる名称を付けた使用人は、支配人でなくても、その支店の事業に関する裁判外の行為の権限があるものとみなされます。みなす、とは、反証を許さず、あるものとして扱うことです。反証を許す推定とは違います。権限がないことを証明しても、相手が悪意でない限り、結論は変わりません。効果は、裁判外の行為の権限だけです。11条1項の支配人と違って、訴えを起こすなどの裁判上の行為は含まれません。外観法理の3つに当てはめます。外観は、支店長という名称です。帰責性は、会社がその名称を付けたことです。信頼は、相手がその名称を見て、権限があると信じたことです。名前を貸した会社の責任と同じ形で、肩書きを付けた会社の責任が生まれています。
13条の要件と悪意
図:13条の要件
- ①本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使用人=外観・帰責性②その本店又は支店の事業に関する行為③相手方が悪意でない〔ただし書〕=信頼
- 重過失は悪意と同視=解釈
ここで1問です。支店長の肩書きだけで会社が責任を負うために、相手の側に必要なことは、何でしょうか。知らないこと、つまり悪意でないことで足ります。注意して調べたこと、つまり落ち度がないことまでは要りません。普通の不注意で気づかなかっただけなら、守られます。ただ、ひどい不注意だけは別に扱います。この後で見ます。要件を整理します。これは条文の文言から出てくる成立要件です。1つ目、本店または支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使用人であること。2つ目、その本店または支店の事業に関する行為であること。3つ目、相手方が悪意でないこと。これはただし書です。ただし書は、本文の原則に対する例外です。例外にあたる事実は、その例外で得をする側が示します。だから、相手が悪意だったことは、責任を免れたい会社の側が証明します。ここでの悪意とは、その使用人に権限がないことを知っていたことです。条文は、悪意としか書いていません。ところが、重大な過失がある相手も、悪意と同じに扱うと解されています。前回の名板貸と同じ考え方です。これは、判例が13条について明示したものではなく、条文の趣旨からの解釈です。相手が権限のないことを知らなくても、少し調べれば誰でも分かる状況で、確かめもしなかったような場合は、保護に値しない、という理由です。冒頭の例では、Aさんは支店長の名称を付けた使用人で、大阪支店の内装工事は、その支店の事業に関する行為です。会社の側は、Xさんが権限のないことを知っていたと証明しなければなりません。
ただ、2つ目の要件と、名称のところには、判例が補った基準があります。順に見ます。
支店といえるか
図:営業所の実質
- 名称=支社長+事務所の設備があっても、保険契約の締結・保険料の徴収・保険金の支払を独立してする権限・組織がなければ「支店」ではない
- 比較:出張所長が表見支配人とされた例=独自に営業活動を決定し対外的に取引できる組織があった
名称が支社長でも、その場所が会社の支店といえなければ、13条は使えません。事案は、保険会社の支社です。この支社は、新しい保険契約の募集と、最初の保険料の取次ぎだけをしていました。保険契約を結ぶ、保険料を集める、保険金を払う、といった保険会社の基本の仕事は、独立してできる権限も組織もありませんでした。当時の条文は商法42条で、いまの会社法13条にあたります。最高裁は、こう判断しました。
判例最高裁判所判決・昭和37年5月1日 民集16巻5号1031頁
「支店」といえるには営業所の実質が要る 「商法四二条にいう「本店又ハ支店」とは商法上の営業所としての実質を備えているもののみを指称すると解するのを相当とするから、右のような実質を欠き、ただ単に名称・設備などの点から営業所らしい外観を呈するにすぎない場所の使用人に対し支配人類似の名称を付したからといつて、同条の適用があるものと解することはできない。」
あてはめも見ます。
判例最高裁判所判決・昭和37年5月1日 民集16巻5号1031頁
支社のあてはめ 「D支社は、被上告会社の主たる事務所と離れて一定の範囲において対外的に独自の事業活動をなすべき組織を有する従たる事務所たる実質を備えていないものであるから、商法四二条の支店に準ずるものではなく、したがつて、同支社長Eも同条にいわゆる支店の営業の主任者に準ずるものでないと解すべきであり」
引用の被上告会社が保険会社、D支社がその支社、Eが支社長です。これは、条文に書かれていない基準を、判例が立てたものです。名称と設備がそろっていても、独自に対外的な事業活動をする組織という実質がなければ、支店ではありません。前回、営業所とは営業活動の拠点で、本店のほかの営業所を支店という、と見ました。支店も営業所の一つです。そこで独立して営業する実体がなければ、営業所とも支店ともいえません。なぜ実質が要るのか。13条がみなすのは、その支店の事業についての権限です。独立して事業をしない場所には、任されるはずの事業がありません。名前と設備がそろっていても、みなす権限の中身がないのです。肩書きを信じた相手は守りますが、支店でない場所を支店として扱うことまでは、外観では決まりません。これは、会社の中の決まりを相手に調べさせる話ではなく、そもそも13条が当てはまる場所かどうかの話です。比べると、出張所の所長が表見支配人にあたるとされた例があります。そこでは、出張所が独自に営業活動を決めて、対外的に取引できる組織をもっていました。名前ではなく、実体で分かれます。
事業に関する行為か
図:事業に関する行為
- 営業の目的たる行為+営業のため必要な行為
- 行為の性質・種類等を勘案し客観的・抽象的に観察して決する
- 内部の禁止事項違反・権限濫用の意図は妨げない
- 別の枠=背任的意図を知る相手→判決当時は民法93条ただし書の類推・いまは民法107条(代理権の濫用)〔悪意とは対象が違う〕
次は、2つ目の要件、事業に関する行為かどうかです。冒頭で、会社は社内規程に反した、と言いました。社内規程に反した行為も、事業に関する行為になるのでしょうか。事案を、自分の言葉でまとめます。信用金庫の支店長Dが、私的な借金の返済資金を作りたかったのです。そこで、預けたお金が一切ないのに、日付を先にした、自分の信用金庫宛ての小切手を2通振り出して、Fに渡しました。信用金庫宛ての小切手は、客がお金を預けると、信用金庫が自分を支払う側として出す、現金代わりの紙です。信用金庫にとっては、ふだんの業務の一つです。日付を先にするとは、実際より後の日付を書いておくことです。小切手を手に入れた人が、信用金庫に金額を請求しました。原審は、資金の預入れがないのに先日付の小切手を出す権限は、支配人にもない、として請求を退けました。最高裁は、原判決を破棄して、審理を差し戻しました。当時の条文は商法42条と38条で、いまの会社法の13条と11条にあたります。まず、規範です。
判例最高裁判所判決・昭和54年5月1日 集民127号1頁
営業に関する行為の判断基準 「右の営業に関する行為は、営業の目的たる行為のほか、営業のため必要な行為を含むものであり、かつ、営業に関する行為にあたるかどうかは、当該行為につき、その行為の性質・種類等を勘案し、客観的・抽象的に観察して決すべきものである、と解するのが相当である」
次に、内部のルールに反していた点です。引用の被上告人が信用金庫です。
判例最高裁判所判決・昭和54年5月1日 集民127号1頁
内部の禁止事項に違反しても妨げない 「前記のように、Dがなんぴとからも資金の預入れがないにもかかわらず、しかも先日付で、本件小切手を振り出したことは、それが、被上告人の支店長として職務上遵守すべきことを要請されている内部的な禁止事項に違反し又は正当な業務の執行の在り方に反することとなる点において同人に職務上の義務違反を生じさせるものであり、同時に同人の権限濫用の意図を推測させる資料となりうるものであるとしても、被上告人の営業に関する行為とみるべきかどうかが前に述べたとおり当該行為を客観的・抽象的に観察して決すべきものである以上、右振出しが被上告人の営業に関する行為としてDの権限の範囲内のものであるとすることを妨げるものではないというべきである。」
これは、判例が立てた基準です。事業に関する行為かどうかは、その行為の種類や性質から、外から見て決めます。社内規程に反するかどうか、本人の目的が私的かどうかは、決め手になりません。なぜ内部の事情を見ないのか。外から見える行為の種類で決めないと、相手は取引のたびに、会社の内部事情まで調べなければならなくなるからです。13条の趣旨は、肩書きを信じた相手に、会社の中の決まりまで調べさせないことにありました。別の枠があります。判決は、こう続けています。
判例最高裁判所判決・昭和54年5月1日 集民127号1頁
背任的意図を知っていた場合は別の問題 「このようなDの背任的意図についての知情が民法九三条但書の類推適用により右Fに対する関係において被上告人をして本件小切手についての責めを免れさせることがありうること……は格別、右知情とDが商法四二条一項によつて有するものとみなされる代理権そのものの欠如についての同条二項の定める悪意とは、それぞれ対象とするところを異にする問題である。」
引用の中のFが、小切手を受け取った相手です。支店長の振り出しは、みなされた権限の範囲の中の行為です。ただ、自分の借金のためという、会社を害する目的でした。権限の中の行為を、自分や他人の利益のためにすることを、代理権の濫用といいます。相手がその目的を知っていた、または知ることができたなら、その相手を守る必要はありません。いまは民法107条が、この場合を権限のない人の行為として扱い、会社は責任を免れます。判決当時は、この規定がありませんでした。そこで、本心でない意思表示を相手が見抜けたときは無効とする民法93条ただし書を、類推して借りていました。類推とは、条文がそのままは当てはまらない場面に、似ているからという理由で、その条文を当てはめることです。前回の名板貸でも出てきました。これは、13条ただし書の悪意とは別の問題です。13条の悪意は、権限そのものがないことを知っていたことです。背任的な意図を知っていたことは、対象が違うので、13条の悪意には当たりません。ここで1問です。支店長が社内規程に反して契約したことは、事業に関する行為かどうかの判断に影響するでしょうか。
影響しない、でしょうか。行為の種類で、客観的に見るので。内部の規程に反しても、事業に関する行為かどうかは変わりません。
冒頭の事例を解く
図:あてはめ
冒頭の場面を解きます。1つ目、大阪支店 支店長は、支店の事業の主任者であることを示す名称で、会社が付けたものです。2つ目、内装工事の契約は、大阪支店の事業に関する行為です。客観的に、行為の種類から見れば、そうなります。3つ目、300万円までという社内規程は、会社の中の事情です。13条は、支店の事業に関する一切の裁判外の行為の権限があるとみなすので、相手が悪意でない限り、会社はこの規程を持ち出せません。だから、Yは1,000万円の工事代金を払う責任を負います。残る問いは、Xさんの側です。Xさんが、300万円までという社内規程を、工事の前から知っていたらどうなるか。13条ただし書の悪意は、権限がないことを知っていたことです。規程の存在を知っていたなら、Aさんにこの契約を結ぶ権限がないことを、知っていたことになる余地があります。この点が、決め手になります。表見支配人の事例は、論文で論点になりうるところです。
部長・課長と店員
図:14条と15条
- 14条=ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は当該事項に関する一切の裁判外の行為の権限
- 代理権の制限は善意の第三者に対抗できない
- 15条=物品の販売等を目的とする店舗の使用人は店舗に在る物品の販売等の権限をみなす〔悪意なら別〕
ここで1問です。前回の名板貸で、相手に重大な過失があったとき、責任はどうなると判断されていましたか?重大な過失は悪意と同じに扱われるので、責任はなくなります。この考え方が、次の14条にも出てきます。
条文会社法14条
会社法第14条 1 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。 2 前項に規定する使用人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
部長、課長、係長のように、ある事項の仕事を任された使用人です。13条との違いは、14条の使用人は、その事項の処理を実際に任されている点です。任された事項については、裁判外の行為をする権限を、14条1項が法律で与えます。権限があるうえで、制限が善意の相手に対抗できません。13条は、肩書きという外観だけで、権限があるものとみなされました。最高裁の判例が、2つのことを示しています。1つ目、重大な過失のある第三者は、悪意と同じに扱われ、会社は責任を免れます。善意でよく、無過失までは要らない、ただし重過失は別、という線です。2つ目、立証責任です。会社に責任を問う側が証明すべきなのは、2点だけです。まず、その人が、販売や購入といった特定の仕事を会社から任されていたこと。次に、問題の取引が、外から見て、その仕事の範囲に入ること。その取引をする代理権を会社が渡していたことまでは、証明しなくてよいとされました。任された事項の範囲なら、14条1項が権限を与えるので、会社が別に代理権を渡したかどうかは問わない、ということです。事案は、会社の係長です。担当していたのは、洋装衣料品の売買取引の業務でした。この係長が担当した取引について、相手方が会社に責任を問いました。原審は、係長は当時の商法43条、いまの会社法14条の使用人にあたり、相手方に重大な過失も無いとして、請求を認めました。最高裁はこれを維持し、会社の責任が認められました。
民法の表見代理、たとえば110条では、相手が権限を信じたことに正当な理由が要ります。知らず、しかも落ち度がないこと、つまり善意無過失まで必要とされています。14条が、それより手厚く相手を守るのはなぜか。商取引は、反復的で、大量に行われるからです。取引のたびに、無過失を求めると、商売が回りません。最後に15条です。
条文会社法15条
会社法第15条 物品の販売等(販売、賃貸その他これらに類する行為をいう。以下この条において同じ。)を目的とする店舗の使用人は、その店舗に在る物品の販売等をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
店に入った客は、店員に代理権があるかどうかを、確かめなくてよいということです。13条と同じく、みなす、悪意なら別、の形です。
整理の表
図:整理の表
- 9条名板貸=名前を使わせた会社
- 連帯して取引から生じた債務を弁済|11条=支配人
- 一切の裁判上又は裁判外の行為
- 制限は善意の第三者に対抗できない|13条=主任者の名称を付した使用人
- 裁判外の行為をみなす
- 悪意なら別(重過失は悪意と同視=解釈)|14条=ある事項の委任を受けた使用人
- その事項の裁判外の行為
- 制限は善意の第三者に対抗できない(重過失は悪意と同視=判例)|15条=店舗の使用人
- 店舗に在る物品の販売等をみなす
- 悪意なら別
整理します。会社が事業や事項を実際に任せていて、その範囲の権限を条文が与える人が、11条の支配人と、14条の使用人です。この2つは、制限を善意の相手に対抗できません。権限が実際にはないのに、あるとみなされる人が、13条の表見支配人と、15条の店員です。この2つは、悪意なら別、の形です。裁判上の行為まで含むのは、11条の支配人だけです。13条、14条、15条は、裁判外の行為の権限です。縦に、前回の9条を並べると、外観法理の仲間です。9条は、名前を貸した会社が連帯責任を負いました。13条と15条は、権限があるものとみなします。どれも、外観と、会社の関わりと、相手の信頼でできています。条文どおりの部分と、解釈や判例で足した部分も分けて覚えてください。13条の重過失は解釈、14条の重過失と立証責任は判例、営業所の実質と事業に関する行為の客観的判断も判例です。前回と同じで、条文の部分は条文が根拠になり、解釈や判例の部分は、なぜそう考えるかという理由が根拠になるからです。なお、会社法には、使用人とは別に、会社のために取引の代理や媒介をする代理商という立場があります。保険代理店が例です。独立した事業者である点が、使用人との違いです。使用人ではないので、今日の10条から15条は当たらず、16条から後に別の決まりがあります。
今日の地図(保存版)
図:まとめ
- 11条=支配人は包括的な代理権・制限は善意の第三者に対抗できない
- 12条=精力集中義務
- 13条=肩書き・外観・帰責性・信頼・悪意なら別
- 判例=営業所の実質・客観的抽象的観察
- 14条・15条
今日の1問に答えます。なぜ代理権を与えていない支店長の契約で、会社が責任を負うのか。支店長という肩書きを付けたのは会社自身だからです。会社は、その肩書きで、相手に権限があると信じさせる外観を作りました。外観を信じた相手を守らないと、取引のたびに、会社の内部の権限を調べなければならなくなります。ただし、守られるのは、権限がないことを知らない相手だけです。知っていたときは、責任を負いません。重大な過失があるときも、知っていたのと同じに扱われます。会社Yは、Xさんに内装工事の代金を支払う責任を負います。肩書きの名称を付けたのは会社で、内装工事は支店の事業に関する行為で、社内規程は会社の中の事情にすぎず、悪意でない相手には持ち出せないからです。次の回は、会社の登記と公告に入ります。
参照条文
- 会社法10条
- 会社法11条
- 会社法12条
- 会社法13条
- 会社法14条
- 会社法15条