商業登記の効力と不実登記
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第1章 総論・会社法総則 ⑨/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
退任した社長との契約
図:退任した社長との契約
- A=会社
- B=会社の代表者として動いた人〔退任した元代表取締役〕
- C=取引の相手方:B→C 会社名義で契約
- C→A 代金800万円を払ってほしい
- A→C 先月退任した・登記も変えてある〔908条1項〕
取引先のCさんは、会社Aと長年取引をしてきました。いつも窓口は、Aの社長のBさんです。今回も、Bさんと新しい契約を結びました。代金は800万円です。ところが、代金を請求すると、Aは言います。「Bは先月、代表取締役を辞めている。登記も変えてある。あの契約はAとは関係ないから、払わない」。Cさんは、Bさんが辞めたことを知りませんでした。Aが代金を払うべきかは、契約をした時期で分かれます。登記を変えた後の契約なら、原則として会社Aが勝ちます。登記を変える前の契約なら、退任を知らなかったCさんが勝ちます。会社法908条です。今日の1問は、会社が登記した事実を、いつ、誰に主張できるのか、です。登記の前は、事情を知らない相手に主張できません。登記の後は、相手が知らなくても、原則として主張できます。さらに、事実と違う登記をしたときは、した側が責任を負います。
図:この回の地図
地図です。まず、登記とは何か、いつ登記が要るのか。次に、登記の効力を、登記の前と後に分けて見ます。そのうえで、民法の表見代理との関係。続いて、事実と違う登記をした場合の責任。最後に、会社の公告です。前回の表見支配人は、肩書きを付けた会社の責任でした。今回の不実の登記も、同じ外観法理の仲間です。第1章の最後に、3つ目の具体例として出てきます。
登記とは何か
図:登記と商業登記簿
- 会社の重要事項を登記所の商業登記簿に記録して公示
- 誰でも手数料を払って登記事項証明書を請求できる
- インターネットでも閲覧できる〔商業登記法10条〕
- 907条=当事者の申請又は裁判所書記官の嘱託
登記とは、会社に関する重要な事項を、登記所の帳簿に記録して、誰でも見られるようにする制度です。町内の掲示板を思い浮かべてください。大事なお知らせを決まった場所に貼っておけば、住民は、そこを見れば足ります。会社にとっての掲示板が、商業登記簿です。取引の相手は、この帳簿で、会社の代表者が誰か、本店はどこか、といったことを確かめられます。手数料を払えば、誰でも登記事項証明書を請求できます。インターネットで見る方法もあります。根拠は商業登記法10条です。登記の基本の条文は、907条です。
条文会社法907条
会社法第907条 この法律の規定により登記すべき事項(第九百三十八条第三項の保全処分の登記に係る事項を除く。)は、当事者の申請又は裁判所書記官の嘱託により、商業登記法(昭和三十八年法律第百二十五号)の定めるところに従い、商業登記簿にこれを登記する。
登記は、当事者の申請か、裁判所書記官の嘱託でされます。申請は、会社が自分で登記所に申し出ることです。嘱託は、裁判所書記官が、職権で、登記所に登記を頼むことです。会社に関する一定の裁判があったときにされるもので、937条です。ここは、名前を知っていれば足ります。登記の前提になるのが、「この法律の規定により登記すべき事項」です。登記は、したければするという制度ではなく、会社法が登記しなさいと定めた事項に限って、効力の話が出てきます。前回の、支配人を選んだときの登記も、その1つです。
登記すべき場合
図:変更の登記
- 915条1項=変更が生じたら2週間以内に本店の所在地で
- 例=代表取締役の氏名・住所は911条3項14号
- 設立のときも登記が必要
登記には期限があります。登記すべき事項に変更が生じたら、2週間以内に、本店の所在地で、変更の登記をしなければなりません。915条1項です。
条文会社法915条1項
会社法第915条第1項 会社において第九百十一条第三項各号又は前三条各号に掲げる事項に変更が生じたときは、二週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない。
例えば、代表取締役の氏名と住所は、911条3項14号の登記事項です。代表取締役が退任すれば、その事項が変わるので、退任の登記を2週間以内にしなければなりません。冒頭のBさんの退任も、これにあたります。設立のときにも登記が要りますが、その中身は、設立の回で扱います。
最近の改正
図:最近の改正
いま、変更の登記は本店の所在地で、と言いました。登記の場所と見え方について、最近の改正を2つ、事実だけ押さえます。1つ目、支店の所在地での登記が廃止されました。2022年9月1日からです。以前は、支店の所在地でも一定の登記をする制度がありましたが、インターネットで本店の登記を確認できるようになり、意義が乏しくなったためです。ただし、本店の所在地で、支店の設置や移転、廃止を登記することは、今も必要です。2つ目、代表取締役などの住所の表示です。2024年10月1日から、株式会社の代表取締役、代表執行役、代表清算人が、登記申請と同時に申し出ると、登記事項証明書などには、住所が市区町村までしか表示されなくなりました。プライバシーを守るための措置で、根拠は商業登記規則31条の3です。登記事項そのものは変わりません。
登記前の効力
図:登記の前
- 時系列:Bが退任〔会社の内部ではこの日に効力〕→登記前〔会社Aは善意のCに対抗できない〕→変更の登記→登記後
- 908条1項前段
冒頭の場面に戻ります。時間の流れで整理します。Bさんが代表取締役を退任します。退任そのものの効力は、会社の中では、その日に生じます。でも、変更の登記をするまでは、登記簿には、まだBさんが代表者として載ったままです。この間の話が、908条1項の前段です。908条の考え方は1つです。さっきの掲示板で言えば、貼り出す前か、後かです。貼る前は、住民は見ても分かりません。貼った後は、見に行けば分かります。登記を済ませて相手が見れば分かる状態にしたかどうかで、事情を知らない相手と会社の、どちらがリスクを負うかが決まります。
条文会社法908条1項
会社法第908条第1項 この法律の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができない。登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは、同様とする。
前段は、登記すべき事項は、登記の後でなければ、善意の第三者に対抗できない、です。善意とは、事情を知らないことです。対抗できないとは、会社の側から、相手に主張できないという意味です。前回の支配人でも、代理権の制限について、同じ読み方をしました。登記をする前の会社の立場が弱いので、消極的効力といいます。冒頭に当てはめます。Bさんが退任し、まだ登記をしていない間に、BさんがA社の名前でCさんと契約しました。CさんがBさんの退任を知らなければ、会社Aは、Bさんはもう代表者ではない、と言えません。だから、Aは契約の責任を負い、800万円を払うことになります。条文が相手に求めるのは、知らないことだけです。落ち度がないことまでは、求めていません。うっかり確かめなかっただけの相手も、守られます。
退任を知っているのも、登記簿を直せるのも、会社です。相手は、登記簿に変わりがなければ、Bさんが代表者のままだと考えるのが自然です。この場面では、相手が調べても退任は分かりません。見ても分からない相手にリスクを負わせるより、公示をしなかった会社に負わせるほうが公平です。会社に、早く登記をさせる動機にもなります。反対向きは自由です。相手の側から、登記がなくても事実は事実だ、と主張することは妨げられません。対抗できないのは、会社の側だけです。また、相手が退任を知っていたなら、善意ではないので、会社は相手にも退任を主張できます。
登記後の効力と正当な事由
図:登記の後
- 時系列:変更の登記〔退任の登記をした〕→登記後〔原則 会社Aが主張できる=積極的効力〕
- 例外=正当な事由〔登記を見ようにも見られなかった客観的な障害〕
- 908条1項後段
次に、後段です。登記をした後の話です。ここで1問です。登記をした後なら、相手が退任を知らなくても、会社が責任を免れられるのは、なぜでしょうか。登記をした後は、相手はいつでも登記簿を見て、確かめられます。会社は日々、多数の相手と取引します。登記を見れば足りるとして、法律関係を画一的に処理したほうが、取引全体が安定します。見られる状態に置いた会社を優先して、相手には、取引の前に登記を見る負担を負わせる、という整理です。今はインターネットでも見られるので、この負担は重くありません。ただし、後段には例外があります。登記の後でも、第三者が正当な事由によって登記があることを知らなかったときは、会社は対抗できません。この正当な事由は、狭く解されています。前回の民法110条の正当な理由とは、言葉は似ていますが、中身が違います。あちらは、相手が信じたことに落ち度がない、という意味でした。こちらは、落ち度がないだけでは足りません。当たるのは、地震や洪水で登記所が閉鎖された、交通が途絶えて登記簿を見ようにも見られなかった、といった客観的な障害です。当たらないのは、病気で入院していた、海外旅行中だった、仕事が忙しかった、という主観的な事情です。決め手は、登記を見ようと思えば見られる状態だったかどうかです。判例を見ます。会社の元代表者が、会社に無断で、約束手形を振り出しました。約束手形は、決まった日にお金を払うと約束する書面です。会社は、その人の代表資格の喪失と取締役退任を、手形が振り出される約1か月前に登記していました。手形を受け取った人は、代表者でなくなったことを知らなかった、と主張しました。最高裁は、この主張を退けました。当時の条文は商法12条で、いまの908条1項です。引用の被上告人が会社、Fが退任した元代表者、Eが、Fから手形を受け取った人です。
判例最高裁判所判決・昭和52年12月23日 集民122号613頁
登記簿を閲覧できる状態なら、正当な事由はない 「被上告人は、昭和四三年一二月二八日Fの代表取締役の資格喪失及び取締役退任の登記をし、遅くとも同四四年一月七日か八日には右登記事項につき登記簿を閲覧することが可能な状態にあつたというのである。右事実関係のもとでは、EがFの代表資格喪失を知らなかつたことにつき商法一二条の正当事由があるものとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができ」
登記が済んで、登記簿を閲覧できる状態になった以上、相手が実際には見ていなくても、正当な事由はない、という判断です。判断の中身は、客観的な障害がなければ認めない、という方向です。なお、下級審には、毎日のように取引している相手に、改めて登記の調査を求めるのは無理だとして、正当な事由を広く認める枠を示したものもありました。最高裁は、その枠を採らず、閲覧できる状態だったことだけで、正当な事由を否定しています。冒頭に当てはめると、退任の登記をした後にCさんが契約したなら、Cさんが退任を知らなくても、登記簿を見られる状態でした。Cさんに正当な事由がなければ、会社Aは、Bさんの退任を主張できます。
登記後に民法112条は使えるか
図:112条と908条1項の対置
- 登記後=民法112条は適用されない〔908条1項が特則〕
- ただし退任者に肩書きの使用を許していた→354条〔表見代表取締役〕=外観・帰責性・信頼
登記の後でも、Cさんが退任を知らず、しかも知らなかったことに落ち度もなかったら、どうでしょうか。民法には、代理権が消えた後の表見代理を定める112条があります。代理人だった人が、代理権がなくなった後に代理人として契約をしたとき、相手が代理権の消滅を知らず、知らなかったことに過失もなければ、本人が責任を負う、という規定です。この112条を、登記後の元代表取締役の契約にも使えるでしょうか。
条文民法112条1項
民法第112条第1項 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
最高裁の判例は、使えない、と判断しました。登記すべき事項には、登記の効力を定める規定、つまり908条1項だけが適用される、という考え方です。登記後は、正当な事由がない限り、善意で無過失の相手にも対抗できます。908条1項は、民法の表見規定の特則として、民法の規定を排除します。理由は、会社の取引は、大量に繰り返され、利害関係をもつ第三者も不特定多数に及ぶからです。一般の私法である民法とは別に、登記に特別の効力を与えて、法律関係を画一的に処理する必要があります。登記の後でも相手が守られる道は、2つあります。1つ目は、正当な事由が認められるときです。2つ目は、会社が、退任した元代表取締役に、社長などの代表者らしい肩書きの使用を続けさせていたときです。会社は、354条の表見代表取締役として、善意の第三者に責任を負います。会社が肩書きという外観を作り、帰責性があるので、外観・帰責性・信頼の3つで受けます。354条は、908条1項後段に優先して適用され、正当な事由がない場合にも使えます。112条との違いは、会社が登記の後も、自分で肩書きを使わせ続けている点です。代表者らしい肩書きを信じた相手に、それでも登記を確かめろと求めるのは、無理があります。それを許せば、会社の責任逃れを助けることにもなります。354条の中身は、別の回で扱います。判例に反対して、登記の後でも民法112条を使える、とする見解もあります。取引のたびに、相手に登記を確かめさせるのは無理だ、という考えからです。908条1項と民法の表見規定は次元の違う別の話で、一方が他方を締め出すことはない、と見るわけです。ただ、会社にとって表見責任のリスクが大きすぎること、今はインターネットで登記を確認できるので、相手に確認を求めても酷ではないことが、判例を支える理由です。
冒頭の事例を解く
図:あてはめ
冒頭の場面を解きます。契約が、退任の登記の前だったなら、Cさんが退任を知らない限り、Aは退任を主張できません。800万円を払う責任を負います。契約が、退任の登記の後だったなら、原則として、Aが勝ちます。Cさんが退任を知らなくても、会社は退任を主張できます。Cさんが勝つには、登記を見ようにも見られなかった客観的な障害が必要です。民法112条は、使えません。ただし、AがBさんに、社長の肩書きの使用を続けさせていたなら、354条が問題になります。登記の前か後か、正当な事由があるか、肩書きの使用を許していたか。この順に当てはめるのが、答案の筋道です。登記の効力と表見代表取締役の関係は、論文で論点になりうるところです。
不実の登記の責任
図:908条2項
- 外観=事実と違う登記がある
- 帰責性=登記した者に故意又は過失がある
- 信頼=相手がその登記を信じた〔善意〕
- 成立要件①不実の事項が登記されている②登記をした者に故意又は過失③相手方が善意
ここで1問です。前回の表見支配人で、肩書きだけで会社が責任を負うために必要だった、外観法理の3つは、何でしたか?外観と、帰責性と、信頼でした。908条2項も、同じ考え方でできています。ここまでの1項は、本当の事実を登記しなかったときの話でした。2項は、事実と違うことを登記したときの話です。条文を読みます。
条文会社法908条2項
会社法第908条第2項 故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。
外観法理の3つに当てはめます。外観は、事実と違う登記があることです。帰責性は、登記した者に故意または過失があることです。信頼は、相手がその登記を信じたことです。登記を申請したのは会社ですから、帰責性は、会社に問われます。これは条文の文言から出てくる成立要件です。1つ目、不実の事項が登記されていること。2つ目、登記をした者に故意または過失があること。3つ目、相手方が善意であること。善意とは、不実であることを知らないことです。効果は、登記した者が、不実であることを善意の第三者に対抗できなくなることです。例を2つ挙げます。1つ目、実際には代表取締役でない人を、代表取締役として登記しました。その人が会社を代表して契約したとき、相手が代表取締役でないと知らない限り、会社は責任を免れません。2つ目、会社が、ある人を代表取締役に選んだとして登記しました。取締役会のある会社では、代表取締役は、取締役の中から、取締役会の決議で選ばれます。ところがその後、その取締役会の決議に欠陥があり、無効とされました。または、そもそもその人を取締役に選んだ株主総会の決議が、無効とされたり、取り消されたりしました。この人は、初めに遡って、代表取締役でなかったことになります。それでも、登記を信じた善意の相手には、会社は、代表取締役でないと主張できません。会社が自分で申請した登記が、外観を作ったからです。
1項は、本当の事実が生じたのに、登記をしなかったときです。登記簿に載っていないので、相手は知りようがありません。2項は、事実と違う内容を、登記簿に載せたときです。登記簿には間違いが載っていて、相手はそれを信じました。どちらも、登記の外観を信じた善意の相手を守る点は同じで、登記をしない落ち度と、間違った登記を作った落ち度を、会社が負う形です。
無権限の者が勝手に登記した場合
図:勝手な不実登記
- B=代表取締役でない取締役が虚偽の議事録で自分を代表取締役とする登記を申請→会社Aの申請に基づかない
- 原則=908条2項は適用されない
- 例外=Aが登記の実現に加功した・不実登記を知りながら是正せず放置した→申請に基づく登記と同視できる特段の事情あり
では、登記を申請したのが会社ではなかったら、どうでしょうか。ある会社の、代表取締役ではない取締役Bが、代表取締役に選ばれた事実がないのに、虚偽の取締役会の議事録を作って、自分を代表取締役とする登記を申請しました。Bは、その肩書きで、会社Aの不動産をCに売りました。Cは、会社の責任を求めました。原審は、会社の責任を認めました。最高裁は、原判決を破棄して、審理を差し戻しました。当時の条文は商法14条で、いまの908条2項です。まず、規範です。引用の上告会社が、会社Aです。
判例最高裁判所判決・昭和55年9月11日 民集34巻5号717頁
908条2項が適用されるための要件 「しかしながら、商法一四条は、不実の事項を登記した者に故意又は過失がある場合には、その登記を信頼して右登記者と取引関係に入つた者を保護し、その限りにおいて不実の登記という外観を作出した者に責任を課した規定であるから、同条が適用されるためには、原則として、右登記自体が当該登記の申請権者の申請に基づいてされたものであることを必要とし、そうでない場合には、登記申請権者がみずから登記申請をしないまでもなんらかの形で当該登記の実現に加功し、又は当該不実登記の存在が判明しているのにその是正措置をとることなくこれを放置するなど、右登記を登記申請権者の申請に基づく登記と同視するのを相当とするような特段の事情がない限り、同条による登記名義者の責任を肯定する余地はないといわなければならない。」
条文には書いていない基準を、判例が立てたものです。908条2項は、不実の外観を作った者に責任を課す規定です。だから、外観を作ったのが会社でなければ、原則として適用されません。ただし、会社が登記の実現に手を貸したり、不実の登記を知りながら直さずに放置していたりしたなら、会社の申請に基づく登記と同視できるので、責任を負います。決め手は、外観を作ったことに会社が関わったかどうかです。外観法理の帰責性と同じ線です。次に、あてはめです。
判例最高裁判所判決・昭和55年9月11日 民集34巻5号717頁
事案へのあてはめ 「前記登記は、結局、上告会社の代表権を有しない者がほしいままに会社代表者名義を冒用してした無効の申請に基づくものであり、上告会社の申請に基づいてされた登記ということができないものである。」 「そうすると、前述したように、本件登記を上告会社の申請に基づく登記と同視することができるような特段の事情のない限り、右登記につき商法一四条を適用して上告会社の責任を肯定することはできない筋合であるところ、原審は、かかる特段の事情の存在を認定することなく、直ちに上告会社に右規定による責任を認めたのであるから、原判決には右規定の解釈適用を誤つた違法があるといわざるをえない。」
最高裁は、会社が当然に勝つとは言っていません。特段の事情の有無を調べさせるために、差し戻したのです。対にして覚えます。会社が全く知らないうちに、Bさんが勝手に登記した場合は、会社は責任を負いません。反対に、会社が議事録の作成を手伝った、あるいは、不実の登記があると分かっていたのに放っておいた場合は、責任を負います。もうひとつ、結論だけ。取締役を辞めたのに、辞任の登記が残ったままの人がいます。その人が、会社に、辞任の登記をしないでおくことをはっきり承諾していたなどの事情があれば、908条2項が、その人にも類推されます。その人は、自分はもう取締役ではない、と善意の第三者に主張できません。登記した会社ではなく、登記された本人が責任を負う場面で、この点は別の回で扱います。
会社の公告
図:公告の3方法
- 939条1項=①官報に掲載する方法②時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法③電子公告のいずれかを定款で定める
- 定めがなければ官報〔4項〕
- 電子公告の予備〔3項〕
- 公告方法は登記事項〔911条3項27号〜29号〕
最後に、公告です。公告とは、株主や債権者など、不特定多数の利害関係者に、一斉に知らせる方法です。例えば、合併のときに、債権者に異議を述べる機会を与えるための公告があります。個別に知らせるのでは、全員に届いたことを確かめにくいので、公告という方法が用意されています。会社は、どの方法で公告するかを、定款で定めます。939条です。
条文会社法939条
会社法第939条 1 会社は、公告方法として、次に掲げる方法のいずれかを定款で定めることができる。 一 官報に掲載する方法 二 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法 三 電子公告 4 第一項又は第二項の規定による定めがない会社又は外国会社の公告方法は、第一項第一号の方法とする。
公告方法は、官報、日刊新聞紙、電子公告のいずれかです。定款に定めがなければ、官報になります。4項です。公告方法は登記事項でもあり、911条3項の27号から29号に載ります。電子公告を定めるときは、事故などで電子公告ができない場合に備えて、官報か日刊新聞紙を併せて定めることもできます。3項です。電子公告とは、インターネットのウェブサイトに公告を載せる方法です。載せっぱなしでは意味がないので、一定の期間、続けて行わなければなりません。940条1項です。
条文会社法940条1項
会社法第940条第1項 株式会社又は持分会社が電子公告によりこの法律の規定による公告をする場合には、次の各号に掲げる公告の区分に応じ、当該各号に定める日までの間、継続して電子公告による公告をしなければならない。
各号の中身は、公告の種類ごとに定められています。例えば、異議を述べることができる旨の公告なら、その異議の期間を経過する日までです。ウェブサイトの故障などで短い中断があっても、一定の要件を満たせば、公告の効力に影響しません。例えば、中断の時間が公告期間の10分の1を超えないこと、などです。電子公告が適法に行われたかどうかは、法務大臣の登録を受けた調査機関が調べます。941条で、名前を知っていれば足ります。
整理の表
図:整理の表
- 908条1項前段=登記前
- 会社は主張できない
- 相手は善意〔無過失は不要〕|908条1項後段=登記後
- 会社は主張できる〔原則〕
- 相手に正当な事由があれば別〔客観的な障害に限る〕|908条2項=不実の登記
- 登記した者は不実を主張できない
- 相手は善意
整理します。登記の前、つまり908条1項前段は、会社が主張できない場面で、相手に求められるのは善意だけです。登記の後、つまり後段は、会社が原則として主張できる場面で、相手が勝つには、正当な事由が必要です。事実と違う登記、つまり2項は、登記した者が不実を主張できない場面で、相手に求められるのは善意だけです。条文どおりの部分と、判例で足した部分も分けて覚えてください。1項と2項の要件は条文どおりです。登記後は民法112条が使えないこと、会社の申請に基づかない登記では特段の事情が要ること、この2つは判例です。正当な事由を客観的な障害に限る読み方は、条文の解釈として一般にとられている考え方で、最高裁も、登記簿を閲覧できる状態になった以上、正当な事由はないと判断しています。条文の部分は条文が根拠になり、判例の部分は、なぜそう考えるかという理由が根拠になります。
図:外観法理の一族
最後に、外観法理の一族です。名板貸の9条は、名前を使わせた会社の責任でした。表見支配人の13条は、肩書きを付けた会社の責任でした。908条2項は、事実と違う登記をした者の責任です。外観、帰責性、信頼の3つで受ける形は、3つとも同じです。第1章は、この考え方を3回見て終わります。
今日の地図(保存版)
図:まとめ
- 908条1項前段=登記前は善意の第三者に対抗できない
- 後段=登記後は原則対抗できる・正当な事由は客観的な障害のみ
- 登記後は民法112条を排除〔肩書きの使用を許したなら354条〕
- 908条2項=不実の登記は善意の第三者に対抗できない・申請に基づかない登記は特段の事情が要る
- 公告=官報・日刊新聞紙・電子公告
今日の1問に答えます。会社は、登記した事実を、いつ、誰に主張できるのか。登記の前は、善意の第三者に主張できません。事情を知らない相手には、知る手段がなかったからです。登記の後は、原則として、相手が知らなくても主張できます。登記を見れば分かる状態にしたからです。相手が勝つには、地震などで見ようにも見られなかった、という客観的な障害が必要です。民法112条は、登記後には使えません。ただし、肩書きの使用を許していれば、354条の道があります。事実と違う登記をしたときは、908条2項により、登記した者が、善意の第三者に不実を主張できません。外観と、登記した者の帰責性と、相手の信頼でできています。会社の申請に基づかない登記は、会社が加功したか放置した、という特段の事情がなければ、責任を負いません。
冒頭のCさんの800万円は、契約が退任の登記の前なら払ってもらえて、登記の後なら、原則払ってもらえないんですね。登記の後でも、Cさんが守られるのは、登記を見られなかった客観的な障害があるときか、Bさんに肩書きの使用を許していたときです。
参照条文
- 会社法907条
- 会社法915条1項
- 会社法908条1項
- 民法112条1項
- 会社法908条2項
- 会社法939条
- 会社法940条1項