会社法ゼロから会社法#21

株主名簿と名義書換え

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第2章 株式 ㉑/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

売った株の増えた分は誰のもの

導入の場面(A=名簿上の株主〔100株〕/B=買い手/E=地方の印刷会社〔株券を出さない会社〕/①A→B 売買+代金300万円/Bは名簿の書換えを頼み忘れ/②E 株式分割〔1株→2株〕で増えた100株を名簿上のAに交付/③Aがその100株を150万円で売却/Bの問い=それは私の株では) 図:導入の場面

  • A=名簿上の株主〔100株〕/B=買い手/E=地方の印刷会社〔株券を出さない会社〕
  • ①A→B 売買+代金300万円/Bは名簿の書換えを頼み忘れ
  • ②E 株式分割〔1株→2株〕で増えた100株を名簿上のAに交付
  • ③Aがその100株を150万円で売却/Bの問い=それは私の株では

地方の印刷会社の話です。株主のAさんが、持っている100株を、知人のBさんに売りました。代金は300万円で、Bさんは全額を払っています。ただ、Bさんは、名簿の書換えを会社に頼むのを、うっかり忘れていました。会社の名簿には、Aさんの名前が載ったままです。そのあいだに、会社が株式分割をしました。1株を2株にする分割です。増えた100株は、名簿に載っているAさんに渡されました。Aさんはそれを、そのまま150万円で売ってしまいました。先に答えを言います。Bさんは、自分の株だと会社に対しては言えません。会社は、名簿に載っているAさんに渡せば足りるからです。でも、Aさんとの間では、Bさんが株主です。ですから、Aさんが受け取った分は、Bさんに返させることができます。

一本の筋で見ます。名簿は、会社が、いまの株主は誰かを毎回調べずに済ませるための道具です。だから会社は、名簿どおりに扱えば足ります。けれども名簿は、譲渡を会社に主張するための条件にすぎません。譲渡の効力そのものは、売った人と買った人の間で、もう生じています。この二つを分けて持つと、会社に言えない話と、当事者の間の話が、きれいに分かれます。地図です。まず、名簿の仕組み。次に、書換えが済んでいない譲受人を、会社はどう扱うか。そして、書換えを忘れた場合、いわゆる失念株。さらに、会社が書換えを断った場合。最後に、名簿の時点を決める基準日と、名簿の閲覧請求を見ます。

株主名簿は何のためにあるか

株主名簿の役割(会社は総会の通知・配当のたびに「いまの株主」を調べたくない→名簿に載っている人を相手にすれば足りる/記載事項=①氏名・住所②株式の数③取得した日④株券の番号〔株券が発行されているものに限る〕/書面でも電磁的記録でもよい/通知は名簿の住所に発すれば足りる〔126条1項〕/5年以上続けて届かなければ以後の通知は不要〔196条1項〕) 図:株主名簿の役割

  • 会社は総会の通知・配当のたびに「いまの株主」を調べたくない→名簿に載っている人を相手にすれば足りる
  • 記載事項=①氏名・住所②株式の数③取得した日④株券の番号〔株券が発行されているものに限る〕
  • 書面でも電磁的記録でもよい
  • 通知は名簿の住所に発すれば足りる〔126条1項〕
  • 5年以上続けて届かなければ以後の通知は不要〔196条1項〕

前の回で、道具の1つとして名前を挙げた株主名簿です。株主は、売買のたびに入れ替わります。会社が、総会の通知や配当のたびに、いまの株主は誰かを一人ずつ確かめていたら、仕事が回りません。そこで会社は名簿を作り、名簿に載っている人を相手にすれば足りる、という仕組みにしてあります。

条文会社法121条

会社法第121条 株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。 一 株主の氏名又は名称及び住所 二 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数) 三 第一号の株主が株式を取得した日 四 株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号

書くのは4つです。1つ目は氏名と住所。2つ目は株式の数。3つ目は、その株主が株式を取得した日。4つ目は、株券を出す会社の場合だけ、株券の番号で、株券が発行されている株式に限ります。記載し、又は記録とあるのは、紙の帳簿でも、電磁的記録、つまりデータでもよいからです。通知の宛先が決まります。

条文会社法126条1項

会社法第126条第1項 株式会社が株主に対してする通知又は催告は、株主名簿に記載し、又は記録した当該株主の住所(当該株主が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を当該株式会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先)にあてて発すれば足りる。

通知や催告は、名簿の住所に出せば足ります。引っ越したのに届け出ていない株主がいても、会社は新しい住所まで探さなくてよいのです。名簿に載っていない所在までは、会社に追わせない、という考えです。配当を渡すときも、名簿の住所などに送ります。457条です。

条文会社法196条1項

会社法第196条第1項 株式会社が株主に対してする通知又は催告が五年以上継続して到達しない場合には、株式会社は、当該株主に対する通知又は催告をすることを要しない。

通知が5年以上続けて届かなければ、会社は、以後その株主への通知を省けます。そうした株主の株式は、競売などで売却することもできます。197条と198条です。細かい要件は、今は追いません。自分が株主だと買い手に示す方法として、122条があります。株券を出さない会社の株主は、名簿に書いてある事項を記した書面、または電磁的記録を、会社に請求できます。株券が無いので、自分が株主だと相手に示す手段が要るからです。122条4項で、株券を出す会社にはこの請求の規定を使いません。株券を持っていれば権利者と推定される、と前の回で見たので、それで足りるからです。名簿の管理を外に任せる名簿管理人は123条で、上場会社だと信託銀行が多いです。ここで押さえるのは、名簿は、会社が誰を相手にするかを決める道具だということです。譲渡の効力そのものは、前の回までに見たとおり、別の層の話です。

書換えが済んでいない譲受人を会社はどう扱うか

会社の扱いの対比(原則=書換えが済むまで会社は名簿上の株主を扱えば足りる〔130条〕/会社の側から譲受人を株主として扱うのは可〔昭30〕/承認のない譲渡=会社は譲渡人を扱う義務〔昭63・前の回〕/違いの理由=文言〔2条17号「承認を要する」と130条「対抗できない」〕と趣旨〔承認は会社法が決めた手続・名簿は事務の便宜〕) 図:会社の扱いの対比

  • 原則=書換えが済むまで会社は名簿上の株主を扱えば足りる〔130条〕
  • 会社の側から譲受人を株主として扱うのは可〔昭30〕
  • 承認のない譲渡=会社は譲渡人を扱う義務〔昭63・前の回〕
  • 違いの理由=文言〔2条17号「承認を要する」と130条「対抗できない」〕と趣旨〔承認は会社法が決めた手続・名簿は事務の便宜〕

前の回で見た条文を、もう一度出します。

条文会社法130条1項・2項

会社法第130条第1項・第2項 1 株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。 2 株券発行会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社その他の第三者」とあるのは、「株式会社」とする。

書換えが済むまで、会社は、譲渡を知っていても、名簿上の株主を株主として扱えば足ります。理由は、最初に見た筋のとおりです。日々入れ替わる株主の権利行使を、円滑に処理するためです。前の回で、これには例外がある、と言いました。会社の側から譲受人を扱える場合と、扱わなければならない場合です。この回で、その2つを見ます。対抗できない、というのは、会社が譲受人を株主として扱ってはいけない、ということですか。そこが大事な点です。違います。対抗できないとは、譲受人の側から、会社に、私が株主だと言い張れない、というだけです。逆に、会社の側から、この人を株主として扱おう、と決めてよいかは、別の問題です。身近なたとえで言うと、町内会の回覧板です。回覧板は、配布先の一覧に載っている家に回せば足ります。引っ越した人の新居まで探す必要はありません。でも、一覧に載っているからといって、その家が本当の持ち主とは限りません。そして、町内会が、実際に住んでいる人にも回覧板を回すことは、禁じられていません。一覧は、会社の便宜のためにあるからです。判例を見ます。

判例最高裁判所第一小法廷判決・昭和30年10月20日 民集9巻11号1657頁

会社の側から譲受人を株主として扱うこと 「記名株式の移転は、取得者の氏名及び住所を株主名簿に記載しなければ会社には対抗できないが、会社からは右移転のあつたことを主張することは妨げない法意と解するを相当とする。」 …… 「会社側においては、株主名簿の書換が何らかの都合でおくれていても、右株式の譲渡を認めて譲受人Dを株主として取り扱うことを妨げるものではない。」

結論が先です。会社の側から、書換えの遅れている譲受人を株主として扱うのは、妨げられません。事案は、書換えが遅れていた譲受人に総会の招集通知を出し、総会に出席させた扱いが争われたもので、違法ではないとされました。カードの記名株式は、当時の株式の呼び方で、いまの株式と読んで構いません。条文も、当時の旧商法ですが、いまの130条1項に当たります。理由は、名簿の書換えが、対抗要件にすぎないからです。対抗要件は、言い張る側、つまり譲受人のための条件です。会社が、自分の便宜を使わずに、実際の権利者を相手にするのなら、誰も困りません。反対の見方もあります。会社の代表者が、自分の好みで、株主を選べてしまう。だから一律に、名簿上の株主を扱わせるべきだ、という見方です。恣意を防ぐという理由は分かります。ただ、判例は、妨げないという側に立っています。会社が相手にするのは本当に株を買った人で、名簿に残っている売った人から、何かを奪うわけではないからです。

前の回で見た、承認のない譲渡の話と、並べてみます。

会社の扱いの対比表(行=承認のない譲渡〔譲渡制限株式〕/書換え未了。列=会社の扱い/根拠の文言/趣旨。承認のない譲渡=会社は譲渡人を株主として扱う義務〔裁量なし・昭63〕/「承認を要する」〔2条17号〕/承認は会社法が決めた手続で代表者の裁量で代えさせない。書換え未了=会社は譲受人を扱ってもよい〔昭30〕/「対抗できない」〔130条〕/名簿は事務処理の便宜) 図:会社の扱いの対比表(行=承認のない譲渡〔譲渡制限株式〕/書換え未了。列=会社の扱い/根拠の文言/趣旨。承認のない譲渡=会社は譲渡人を株主として扱う義務〔裁量なし・昭63〕/「承認を要する」〔2条17号〕/承認は会社法が決めた手続で代表者の裁量で代えさせない。書換え未了=会社は譲受人を扱ってもよい〔昭30〕/「対抗できない」〔130条〕/名簿は事務処理の便宜)

承認のない譲渡では、会社は譲渡人を株主として扱わなければならず、選ぶ余地がありません。書換え未了では、会社は譲受人を扱ってもよい。判例の区別は、こう整理できます。まず、何のための仕組みか、です。承認は、請求を受けて承認機関が判断する、会社法が定めた手続で、会社の代表者が自分の裁量で代わりにしてよいものではありません。名簿のほうは、会社の事務処理の便宜にすぎず、使うか使わないかは、会社に任されます。次に、条文の言葉です。譲渡制限株式は、2条17号で、承認を要する株式です。承認がなければ、会社に対して譲渡の効力が生じません。一方、130条は、対抗できない、です。効力が無いことと、主張できないことは、違います。

条文会社法134条1項

会社法第134条 前条の規定は、株式取得者が取得した株式が譲渡制限株式である場合には、適用しない。ただし、次のいずれかに該当する場合は、この限りでない。 …

譲渡制限の回でも見たとおり、前条、つまり133条の、書換えの請求の規定は、譲渡制限株式には適用しません。ただし書の号には、承認を受けた場合などが並んでいます。ここでは、承認を受けていれば請求できる、と押さえてください。ですから、承認をまだ受けていない譲受人は、書換えを請求することもできません。そして会社も、その譲受人を株主として扱ってはいけません。さきほどの、扱ってもよい、には、この例外があります。ここまでで、譲受人の保護は、2つの方向に分かれます。1つは、譲受人が自分で書換えを怠った場合で、当事者の間の話です。もう1つは、会社が書換えを拒んだ、または怠った場合で、会社の側の話です。順に見ます。

書換えを忘れた譲受人——失念株

失念株の関係図(A=名簿上の譲渡人/B=譲受人/E=会社/①A→B 譲渡〔契約・代金支払い済み〕/②E→A 配当・分割株式を交付〔名簿上の株主だから〕/③A→B 不当利得として返す/EとBの間=「対抗できない」の破線) 図:失念株の関係図

  • A=名簿上の譲渡人/B=譲受人/E=会社
  • ①A→B 譲渡〔契約・代金支払い済み〕
  • ②E→A 配当・分割株式を交付〔名簿上の株主だから〕
  • ③A→B 不当利得として返す/EとBの間=「対抗できない」の破線

冒頭の場面に戻ります。Bさんが、書換えを頼み忘れている間に、会社が配当や株式分割、あるいは、持ち株に応じて新しい株式を引き受ける権利を、株主に与えた。こういう株を、失念株と言います。うっかり忘れた間に生じる、という意味です。会社との関係は、さっきのとおりです。会社は、名簿上のAさんに渡せば足ります。Bさんは、会社に、私に渡せとは言えません。Bさんは泣き寝入りですか。違います。名簿は、会社に対する対抗要件にすぎませんでした。譲渡の効力は、契約で、AさんとBさんの間に、もう生じています。つまり、当事者の間では、Bさんが株主です。ですから、Aさんが名簿上の株主として受け取った配当や分割株式は、Bさんのものを、法律上の原因なく得たことになります。これを不当利得と言い、返す義務があります。民法703条、悪意なら704条です。不当利得とは、法律上の原因なく他人の損失で得た利益のことです。得をした人を受益者、損をした人を損失者と呼びます。冒頭では、Aさんが受益者、Bさんが損失者です。まず、配当の判例を見ます。

判例最高裁判所第二小法廷判決・昭和37年4月20日 民集16巻4号860頁

名簿上の株主として受け取った配当と新株 「右株券に表彰される株主権は被上告人に移転すると解すべきであるから、上告人が、右判決確定後本件株式につき被上告人に名義書換がなされるまでの間に、株主名簿上の株主として交付を受けた本件利益配当金及び無償交付の新株(またはその売得金)を不当利得として被上告人に返還すべき義務のあることは明らかである。」

この判決の事案自体は、売買ではなく、刑事の判決で株券が没収されて、株主権が国に移った、という特殊な場面です。名簿が国に書き換わるまでに、名簿上の株主が受け取った分を、国に返すことになりました。ですが筋は同じです。株主権が移ったあと、名簿が変わる前に、名簿上の株主として受け取った配当と、無償で交付された新株は、不当利得として返す。名簿が変わっていなくても、当事者の間では、株主権を得た人のものだ、という考え方です。次に、冒頭のように、株式分割で得た株式を、売ってしまった場合です。

判例最高裁判所第一小法廷判決・平成19年3月8日 民集61巻2号479頁

売却してしまったときに何を返すか 「受益者は,法律上の原因なく利得した代替性のある物を第三者に売却処分した場合には,損失者に対し,原則として,売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うと解するのが相当である。」 …… 「その物の価格が売却後に下落したり,無価値になったときには,受益者は取得した売却代金の全部又は一部の返還を免れることになるが,これは公平の見地に照らして相当ではない」

最高裁が決めたのは、何を返すか、です。売ってしまったなら、売却代金に相当する金銭を返す。冒頭なら、Aさんは、増えた100株を150万円で売りました。ですから、150万円をBさんに返します。返す額を、後の株価で決めない理由が、判決の中にあります。判決のときの価格で返させると、売ったあとで株価が下がった場合、Aさんは代金の一部を返さずに済みます。逆に値上がりした場合は、手元にある利益より多く返すことになる。どちらも公平に反します。売った代金を基準にすれば、値下がりしても値上がりしても、150万円で変わりません。

株主割当ての失念株(判例=返還を認めない〔昭35〕・理由=名簿上の株主に割当ての権利を与えるのは適法/批判=当事者の間では譲受人が株主/返すとしたら何を=①時価と払込金額の差額〔(1,200円−500円)×100株=7万円〕②払込金額5万円を償還して株式100株を受け取る) 図:株主割当ての失念株

  • 判例=返還を認めない〔昭35〕・理由=名簿上の株主に割当ての権利を与えるのは適法
  • 批判=当事者の間では譲受人が株主
  • 返すとしたら何を=①時価と払込金額の差額〔(1,200円−500円)×100株=7万円〕②払込金額5万円を償還して株式100株を受け取る

ここまでは、返す、という結論でした。ところが、同じ失念株でも、結論が逆の場面があります。株主割当てです。株主割当てとは、会社が新しく株式を出すとき、既存の株主に、持っている株数に応じて、引き受ける権利を与える方法です。202条です。

判例最高裁判所第一小法廷判決・昭和35年9月15日 民集14巻11号2146頁

株主割当ての募集株式発行と不当利得 「かかる具体的権利をどのような方法で株主に与えるやは前示商法の規定がある以上株主総会の任意に決定できるところであるから、その権利の帰属者を前示のように一定日時において株主名簿に登録されている株主と限定することは毫も差支なく会社の処置として固より適法であり」 …… 「不当利得も事務管理も成立する余地がなく」

判例の結論は、返還を認めない、です。理由は、新株を引き受ける権利は、総会の決議で生じる具体的な権利で、誰に与えるかは、決議で決めてよいからです。一定の日に名簿に載っている株主だけに与える、と決めるのは適法です。名簿上のAさんが、その権利を取得し、自分でお金を払い込んで株式を得た。だから、法律上の原因が無いとはいえず、不当利得は成り立たない、というわけです。カードの事務管理は、頼まれていないのに他人のために事務をすることです。Aさんは自分の権利として払い込んだので、Bさんのためにした、とも言えません。

株主割当ての判決は、新株を引き受ける権利は、株式に付いて移るものではなく、総会の決議で初めて生まれる権利だとしています。この結論を説明するなら、こう整理できます。配当や分割株式は、株式そのものから生まれるので、当事者の間で株式を持つBさんのものです。引き受ける権利は、会社が与えて初めて生まれ、その与え先が、適法にAさんでした。だから、Aさんの手元には原因がある、という整理です。ただ、この整理には批判が有力です。他の場面と同じく、譲渡の効力は当事者の間で生じているのに、ここだけ譲受人の取り分を認めない根拠が弱い、という見方です。ですから、答案では、判例の結論で書くのか、批判する見方に立つのかを、はっきり示して論じることになります。ここは、論文で論点になりうる部分です。批判する見方に立って返還を認めるとしても、何を返すのかで、考え方が分かれます。数字で見ます。Aさんが、1株500円で100株を払い込み、株式を得ました。その株式の時価は、1株1,200円です。1つ目は、時価と払込金額の差額を、不当利得とみる考え方です。1株700円の差が100株分で、7万円。Aさんが自分で払い込んだ株式そのものは、Aさんのものとして残ります。2つ目は、Bさんが、払込金額、つまり5万円を償還する代わりに、株式100株そのものを渡してもらう考え方です。Bさんの手元に残るのは、1つ目は7万円のお金、2つ目は株式そのものです。この2つ目の考え方をとった、地方裁判所の判決があります。

失念株は、いまは非上場株式の問題です。上場株式は、振替制度、つまり証券会社などの口座の記録で株を移す仕組みで譲渡します。名簿は、振替機関から会社へ届く総株主通知をもとに書き換えられるので、譲受人が自分で書換えを頼む場面が、そもそもありません。ここで、冒頭の答えのうち、Aさんとの間の側がそろいました。会社には言えなくても、配当と分割株式は、Aさんから返してもらえます。売ってしまっていれば、その代金です。判例が返還を認めないのは、株主割当てだけでした。

会社が書換えを拒んだら——不当拒絶

不当拒絶の関係図(A=名簿上の譲渡人/B=譲受人/E=食品卸の会社〔株券を出す会社〕/①B→E 株券を示して単独で書換えを請求/②E→B 「担当者が不在」として何か月も放置〔×〕/③E→A 臨時総会の招集通知〔名簿上の株主だから〕/④Bは取締役選任議案の議決権行使を拒まれる/結果=Bは書換えなしに株主だと会社に主張できる/Bの議決権行使を認めなかった総会の決議は取消しの訴えの対象になりうる) 図:不当拒絶の関係図

  • A=名簿上の譲渡人/B=譲受人/E=食品卸の会社〔株券を出す会社〕
  • ①B→E 株券を示して単独で書換えを請求
  • ②E→B 「担当者が不在」として何か月も放置〔×〕
  • ③E→A 臨時総会の招集通知〔名簿上の株主だから〕
  • ④Bは取締役選任議案の議決権行使を拒まれる/結果=Bは書換えなしに株主だと会社に主張できる/Bの議決権行使を認めなかった総会の決議は取消しの訴えの対象になりうる

ここで、1問です。譲受人が書換えを頼み忘れたのと、頼んだのに会社が応じなかったのとで、会社の立場は同じでしょうか、違うでしょうか?会社が不当に応じなかったのなら、忘れた場合とは扱いが違う。その感覚は、法律の上でも正しいです。どう現れるかを見ます。ただ、設例の前に、前の回の復習を1問。株券を出す会社で、譲受人が名簿の書換えを、譲渡人と一緒ではなく、一人で請求するとき、会社に何を見せればよかったでしょうか?株券を見せるんでした。株券を持っている人は、権利者と推定されるから。では、設例です。食品卸の会社で、株券を出す会社です。株主のAさんから株を買ったBさんが、その株券を見せて、一人で書換えを請求しました。ところが会社は、担当者が不在だと言って、何か月も手続を進めませんでした。そのあいだに臨時総会が開かれ、会社は、名簿上のAさんに招集通知を出しました。Bさんは出席して、取締役を選ぶ議案で議決権を行使しようとしましたが、名簿に載っていないと言われて、拒まれました。

株券を見せれば単独で請求できる、というのは、前の回で見た仕組みです。担当者が不在というのは、会社の内部の事情で、書換えに応じない正当な理由ではありません。何か月も応じなかったのは、不当な拒絶、少なくとも会社の過失です。では、効果はどうなるか。判例は、二つの場面を同じに扱っています。会社が断った場合と、会社が過失で書き換えなかった場合です。あわせて、失念株とは事案が違う、とも述べています。

判例最高裁判所第一小法廷判決・昭和41年7月28日 民集20巻6号1251頁

名義書換えの不当拒絶 「正当の事由なくして株式の名義書換請求を拒絶した会社は、その書換のないことを理由としてその譲渡を否認し得ないのであり……従つて、このような場合には、会社は株式譲受人を株主として取り扱うことを要し、株主名簿上に株主として記載されている譲渡人を株主として取り扱うことを得ない。そして、この理は会社が過失により株式譲受人から名義書換請求があつたのにかかわらず、その書換をしなかつたときにおいても、同様であると解すべきである。」 …… 「所論引用の判例は株式譲受人が会社に対して名義書換請求をすることを失念したいわゆる失念株に関するものであって、本件と事案を全く異にする。」

正当な理由なく書換えを断った会社は、書換えが無いことを理由に、譲渡を否認できません。会社は、譲受人を株主として扱わなければならず、名簿上の譲渡人を、株主として扱えません。会社が、うっかり過失で書換えをしなかったときも、同じです。

不当拒絶の効果と理由(効果=Bは書換えが無くても株主であることを会社に主張できる→Bの議決権行使を認めなかった扱いは違法→総会決議は取消しの訴えの対象になりうる〔831条1項1号=手続の法令違反〕/理由①判例=正当な理由なく書換えに応じなかった会社は、書換えが無いことを理由に譲渡を否認できない/理由②名簿の便宜は会社が書換えの事務を適切に行うことが前提=自分の落ち度で遅らせて権利行使を拒むのは信義則に反する) 図:不当拒絶の効果と理由

  • 効果=Bは書換えが無くても株主であることを会社に主張できる→Bの議決権行使を認めなかった扱いは違法→総会決議は取消しの訴えの対象になりうる〔831条1項1号=手続の法令違反〕
  • 理由①判例=正当な理由なく書換えに応じなかった会社は、書換えが無いことを理由に譲渡を否認できない
  • 理由②名簿の便宜は会社が書換えの事務を適切に行うことが前提=自分の落ち度で遅らせて権利行使を拒むのは信義則に反する

設例に当てはめます。Bさんは、書換えをしてもらえなくても、株主であることを会社に主張できます。Bさんの議決権の行使を認めなかった扱いは違法で、その総会の決議は、831条1項1号、総会の手続が法令に違反するとき、にあたるとして、取消しの訴えの対象になりえます。取消しの中身は、ここでは触れません。判例は、正当な理由なく書換えに応じなかった会社は、書換えが無いことを理由に譲渡を否認できない、と言います。名簿の便宜は、会社が書換えの事務を適切に行うことが前提です。自分の落ち度で書換えを遅らせておいて、書換えが無いことを盾に権利行使を拒むのは、信義則に反します。信義則上、会社は、書換え未了の株主の権利行使を拒めない、と整理できます。判例の事案も見ておきます。向きに注意してください。Aさんが株をBさんに売り、Bさんは、基準日、つまりその日の名簿に載っている株主に新株を割り当てる、と会社が決めた日の前に、適法に書換えを請求しました。ところが、会社の過失で、書換えが行われませんでした。基準日の名簿には、Aさんが残っています。会社は、Aさんに新株1,000株の割当ての通知をして、Aさんは申し込み、申込みのお金である証拠金を払いました。その後、会社は、同じ株式の新株を、Bさんに割り当てました。そこでAさんが、自分に新株を交付せよと訴えましたが、退けられました。名簿上の譲渡人の側が、基準日の株主は自分だ、と言い張れなかった事案です。

この判決は、失念株との違いにも触れています。カードの2つ目の文です。

失念株と不当拒絶の対比表(行=失念株/不当拒絶。列=譲受人の請求/会社の立場/結論。失念株=請求していない/会社は名簿上の譲渡人でよい〔株主割当てでも同じ・昭35〕/譲受人は会社に対抗できない。不当拒絶=請求したのに会社が応じない/譲受人を株主として扱う義務・譲渡人は扱えない〔昭41〕/譲受人は書換えなしに対抗できる) 図:失念株と不当拒絶の対比表(行=失念株/不当拒絶。列=譲受人の請求/会社の立場/結論。失念株=請求していない/会社は名簿上の譲渡人でよい〔株主割当てでも同じ・昭35〕/譲受人は会社に対抗できない。不当拒絶=請求したのに会社が応じない/譲受人を株主として扱う義務・譲渡人は扱えない〔昭41〕/譲受人は書換えなしに対抗できる)

同じ株主割当ての場面でも、結論が逆になります。失念株、つまり譲受人が請求していない場合は、会社は名簿上の譲渡人でよい。不当拒絶、つまり請求したのに会社が応じない場合は、会社は譲受人を株主として扱う義務があり、譲渡人を扱えません。請求したかどうか、そして会社に落ち度があるかが、分かれ目です。非株券発行会社で考えます。Bさんが先に書換えを請求したのに、会社が不当に断りました。その間に、Aさんが同じ株をCさんにも売り、Cさんが書換えを済ませました。Bさんは、会社に対しては、書換えなしに株主だと言えます。では、書換えを済ませたCさんに対してはどうか。ここは考え方が分かれます。1つは、会社の落ち度を第三者に負わせるのは不当なので、原則は対抗できない。ただし、Cさんが不当拒絶を知っていた、つまり悪意なら、Bさんは名簿なしで対抗できる、という考え方です。もう1つは、不当拒絶があれば、第三者にも対抗できる、という考え方です。答案では、前者の、第三者が不当拒絶を知っていたかを当てはめる形が、書きやすいです。なお、株券を出す会社では、会社以外の第三者に対しては株券の交付で決まります。130条2項です。ですから、この問題は、株券を出さない会社だけの話です。

名簿の時点を決める——基準日

基準日の時間軸(3月31日=基準日→名簿に載っている株主を確定/3月16日まで=公告〔基準日の2週間前までに・定款に定めがあれば不要〕/6月27日=定時総会と配当〔基準日から3か月以内〕/基準日後に取得した人=原則その権利を行使できない/例外=議決権に限り、会社が認めればよい〔新株発行で株主になったBは可・基準日後にAから譲り受けたCは不可〕) 図:基準日の時間軸

  • 3月31日=基準日→名簿に載っている株主を確定
  • 3月16日まで=公告〔基準日の2週間前までに・定款に定めがあれば不要〕
  • 6月27日=定時総会と配当〔基準日から3か月以内〕
  • 基準日後に取得した人=原則その権利を行使できない
  • 例外=議決権に限り、会社が認めればよい〔新株発行で株主になったBは可・基準日後にAから譲り受けたCは不可〕

次は、名簿の時点です。株主が頻繁に入れ替わる会社では、総会の日に、誰が名簿上の株主かを確かめるだけでも、手間がかかります。しかも、通知を出す前に、誰に出すかが決まっていなければなりません。

条文会社法124条1項・2項

会社法第124条第1項・第2項 1 株式会社は、一定の日(以下この章において「基準日」という。)を定めて、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主(以下この条において「基準日株主」という。)をその権利を行使することができる者と定めることができる。 2 基準日を定める場合には、株式会社は、基準日株主が行使することができる権利(基準日から三箇月以内に行使するものに限る。)の内容を定めなければならない。

1項です。一定の日を基準日と定め、その日に名簿に載っている株主を、権利を行使できる人と定めます。基準日の後に株式が譲渡されても、名簿が書き換わっても、行使するのは、基準日の名簿に載っていた人です。数字で見ます。定時総会が6月27日で、配当も同じ総会で決めるとします。基準日を3月31日と定めると、3月31日の名簿に載っていた人が、総会で議決権を行使し、配当を受け取ります。要件は3つです。1つ目は、行使できる権利の内容を定めること。2つ目は、その権利が、基準日から3か月以内に行使するものに限られること。理由は、基準日の株主と、実際の株主とが、ずれすぎないようにするためです。3月31日の基準日なら、権利の行使は6月30日までで、6月27日の総会は収まります。

条文会社法124条3項・4項

会社法第124条第3項・第4項 3 株式会社は、基準日を定めたときは、当該基準日の二週間前までに、当該基準日及び前項の規定により定めた事項を公告しなければならない。ただし、定款に当該基準日及び当該事項について定めがあるときは、この限りでない。 4 基準日株主が行使することができる権利が株主総会又は種類株主総会における議決権である場合には、株式会社は、当該基準日後に株式を取得した者の全部又は一部を当該権利を行使することができる者と定めることができる。ただし、当該株式の基準日株主の権利を害することができない。

3つ目は公告です。基準日の2週間前までに、基準日と権利の内容を公告します。3月31日なら、3月16日までです。ただし、定款に、基準日と権利の内容の定めがあれば、公告は要りません。原則は、その権利を行使できません。基準日の名簿で決めるからです。例外が4項です。権利が議決権で、会社が認めるなら、基準日の後に株式を取得した人の全部または一部を、議決権を行使できる人と定めてよい。ただし、基準日株主の権利を害することはできません。設例です。基準日の株主Aさんが100株を持っていました。基準日の後に、会社が新株を発行して、Bさんが株主になりました。これは、会社が認めてよい。Aさんの議決権は、そのままだからです。一方、基準日の後に、Aさんから100株を譲り受けたCさんは、認められません。同じ100株の議決権を、Aさんから奪うことになるからです。失念株も不当拒絶も、どの時点で名簿に載っているかが決め手でした。基準日は、その時点を、会社が自分で固定する仕組みです。さきほどの判例でも、基準日の前に適法に請求していたことが、結論に効いていました。

⭐ 論文で書く規範:基準日の定めに不備のある総会決議 基準日の公告も定款の定めも欠いていた、種類株主総会の議決権の基準日について、その総会の決議は、取消しが認められた。 基準日の制度は、公告で株主に知らせ、株式を取得して書換えをしていない株主に、書換えの機会を与える趣旨。 (東京高等裁判所判決・平成27年3月12日)

さきほどの3月31日の例でいえば、3月16日までに公告があるので、株を買ったのに書換えをしていない人が、それまでに書き換えておこう、と気づけます。冒頭のBさんのような人に、間に合う機会を与える仕組みです。その公告も定款の定めも無いまま基準日を使った総会は、決議の取消しが認められました。

名簿を見せてもらう——閲覧請求と拒絶事由

名簿の閲覧請求(備置き=本店〔名簿管理人がいればその営業所〕〔125条1項〕/請求できる人=株主・債権者〔営業時間内・理由を明らかにして・2項〕・親会社社員は裁判所の許可〔4項・5項〕/なぜ開くか=他の株主に委任状を集めたり共同で権利を行使するには、誰が株主か知る必要がある/原則は拒めない・拒絶は4事由だけ〔3項〕) 図:名簿の閲覧請求

  • 備置き=本店〔名簿管理人がいればその営業所〕〔125条1項〕
  • 請求できる人=株主・債権者〔営業時間内・理由を明らかにして・2項〕・親会社社員は裁判所の許可〔4項・5項〕
  • なぜ開くか=他の株主に委任状を集めたり共同で権利を行使するには、誰が株主か知る必要がある
  • 原則は拒めない・拒絶は4事由だけ〔3項〕

最後は、名簿を他の人にも見せる仕組みです。

条文会社法125条1項・2項

会社法第125条第1項・第2項 1 株式会社は、株主名簿をその本店(株主名簿管理人がある場合にあっては、その営業所)に備え置かなければならない。 2 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。 一 株主名簿が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求 二 株主名簿が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

名簿は本店に備え置き、株主と債権者は、営業時間内なら、理由を明らかにして、閲覧と謄写、つまり見ることと写しを取ることを、請求できます。親会社の社員、つまり親会社の株主などは、裁判所の許可が要ります。4項と5項です。見せる理由があります。株主が、ほかの株主に委任状を集めたり、共同して権利を行使したりするには、誰が株主なのかを知る必要があるからです。ただし、悪用は防ぎたい。そこで、3項で、断れる場合を限っています。

条文会社法125条3項

会社法第125条第3項 株式会社は、前項の請求があったときは、次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができない。 一 当該請求を行う株主又は債権者(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。 二 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。 三 請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。 四 請求者が、過去二年以内において、株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

原則は、拒めない、です。拒めるのは、4つの場合だけです。1つ目は、権利の確保または行使に関する調査以外の目的。2つ目は、会社の業務の遂行を妨げる、または株主の共同の利益を害する目的。3つ目は、知り得た事実を、利益を得て第三者に通報するため。4つ目は、過去2年以内に、利益を得て通報したことがある場合です。短答で気をつける点です。以前の3号には、請求者が競業関係にある場合、という拒絶事由がありました。平成26年の改正で削除されています。いまの条文に、競業は入っていません。どうして削ったんですか。競業者だからと閲覧を封じると、買収を目指す人まで締め出してしまうからです。たとえば、同業の会社が、買収を目指して他の株主に呼びかけようとする場面です。委任状の勧誘や買収を目指す人は、同じ種類の事業をしていることが多いのです。しかも、競業者に名簿を見られて会社にどんな不利益があるのかも、はっきりしませんでした。短答では、競業者は拒める、という選択肢は誤りです。当てはめの場面を3つ、見ておきます。

⭐ 論文で書く規範:閲覧請求を拒めるか ① 報復や嫌がらせの目的の請求は、権利の濫用として拒める。 ② 他の株主に公開買付けへの応募や委任状を勧誘するための請求は、権利の行使に関する調査に当たり、拒めない。 ③ 金融商品取引法上の損害賠償請求訴訟の原告を募る目的は、権利の確保・行使に関する調査に当たらない。 (①最高裁判所判決・平成2年4月17日 集民159号449頁/②東京地方裁判所決定・平成24年12月21日/③名古屋高等裁判所決定・平成22年6月17日)

1つ目は、報復目的です。購読料の名目で会社から定期的に金員を受け取っていた株主が、会社がその支払いを打ち切ったことへの報復や嫌がらせとして、名簿の閲覧を求めた事案です。当時の旧商法には、明文の拒絶事由が無く、裁判所は、権利の濫用として拒みました。いまの条文でいえば、1号や2号に当たる目的です。2つ目は、買収を目指す株主の場合です。他の株主に、公開買付け、つまり広く呼びかけて株を買い集める方法への応募や、委任状を勧誘するための閲覧は、権利の行使に関する調査に当たり、拒めない、とされました。3つ目は、訴訟の原告を募る目的です。金融商品取引法上の損害賠償を求める訴訟の原告を募ることは、株主としての権利の確保や行使の調査に当たらない、とされました。その損害賠償は、株主だから持つ権利ではなく、株を買って損をした投資家として持つ権利だからです。株主として権利を使うための調査なら拒めない、株主の地位と関係のない目的なら拒める。2つ目と3つ目の分かれ目はここです。

今日の地図(保存版)

誰を株主として扱うかの4場面(行=書換え未了〔通常〕/承認のない譲渡〔譲渡制限株式〕/失念株〔書換えを請求していない〕/不当拒絶〔請求したのに会社が応じない〕。列=会社の側/譲受人の側/当事者間。書換え未了=名簿上の譲渡人でよい・譲受人を扱うのも可〔昭30〕/会社に対抗できない/譲受人が株主。承認のない譲渡=譲渡人を扱う義務〔昭63〕・書換えの請求もできない〔134条〕/会社に対して効力なし/譲渡は有効。失念株=配当・割当ては譲渡人でよい/会社には言えない/譲渡人に不当利得返還〔配当・分割株式=昭37・平19/株主割当て=昭35は否定〕。不当拒絶=譲受人を株主として扱う義務〔昭41〕/書換えなしに対抗できる/譲受人が株主) 図:誰を株主として扱うかの4場面(行=書換え未了〔通常〕/承認のない譲渡〔譲渡制限株式〕/失念株〔書換えを請求していない〕/不当拒絶〔請求したのに会社が応じない〕。列=会社の側/譲受人の側/当事者間。書換え未了=名簿上の譲渡人でよい・譲受人を扱うのも可〔昭30〕/会社に対抗できない/譲受人が株主。承認のない譲渡=譲渡人を扱う義務〔昭63〕・書換えの請求もできない〔134条〕/会社に対して効力なし/譲渡は有効。失念株=配当・割当ては譲渡人でよい/会社には言えない/譲渡人に不当利得返還〔配当・分割株式=昭37・平19/株主割当て=昭35は否定〕。不当拒絶=譲受人を株主として扱う義務〔昭41〕/書換えなしに対抗できる/譲受人が株主)

まとめです。一本の筋は、こうでした。名簿は、会社が、いまの株主は誰かを毎回調べずに済ませるための道具です。だから会社は、名簿どおりに扱えば足ります。ただし、名簿は対抗要件にすぎず、譲渡の効力は、当事者の間で、もう生じています。そこから3つの帰結が出ました。会社の側から譲受人を認めるのは構わない。失念株は、会社には言えないが、譲渡人に返させられる。不当拒絶は、会社が名簿を盾にできない。板の表は、4つの場面を並べたものです。行は、書換え未了、承認のない譲渡、失念株、不当拒絶。列は、会社の側、譲受人の側、当事者間です。短答で押さえる点です。121条の4事項と、株券の番号は、発行されているものに限ること。122条4項で、株券を出す会社は除かれること。126条1項の、名簿の住所に出せば足りること。196条の5年。124条の、3か月以内と、2週間前の公告、定款に定めがあれば公告は不要なこと。同条4項ただし書。125条3項の4つの拒絶事由と、競業関係は無いこと。会社の側から譲受人を認めてよい判例と、承認のない譲渡で譲渡人を扱う義務がある判例との対比。そして、失念株の3つの判例の結論で、配当と分割株式は返す、株主割当ては判例は返さない、です。論文では、株式の二重譲渡と名簿、不当拒絶から総会決議の取消しへ、失念株の不当利得で何を返すか、が問われやすい形です。入口の問いは、会社との関係の話か、当事者の間の話か、です。

会社に対しては、書換えをしていないので、私が株主だとは言えません。でも、Aさんとの間では、Bさんが株主です。増えた100株をAさんが売って得た150万円は、不当利得として、Bさんに返させられます。名簿は会社の便宜、譲渡の効力は当事者の間、この二つを分けて考える、ということでした。

参照条文

  • 会社法121条
  • 会社法126条1項
  • 会社法196条1項
  • 会社法130条1項・2項
  • 会社法134条1項
  • 会社法124条1項・2項
  • 会社法124条3項・4項
  • 会社法125条1項・2項
  • 会社法125条3項

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