株主有限責任と残余権者としての株主
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第2章 株式 ⑫/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
銀行はAさんの家計から返してもらえるか
図:清算の按分
- A=Aさん〔出資100万円・株主〕
- B=銀行〔貸付500万円〕
- C=小麦店〔未払い100万円〕
- D=パン工房の会社〔資産を換価して300万円〕
- D→B 250万円
- D→C 50万円
- A→B 返済の請求は届かない〔104条〕
小さなパン工房の株式会社を考えます。Aさんが100万円を出資して株主になりました。銀行のBさんが500万円を貸しました。小麦店のCさんには、100万円の未払い代金があります。ところが、パンが売れず、会社は行き詰まりました。借金が返せません。銀行のBさんは言います。株主のAさんの預金から返してもらえないのか、と。答えを先に言います。返してもらえません。Aさんの損は、出した100万円で止まります。足りない分は、Bさんたち債権者がかぶります。ここから、もう1つの問いが生まれます。損をかぶりやすいのは債権者です。それなのに、会社を動かす取締役を選ぶ権利は、なぜ債権者ではなく、Aさんの側にあるのでしょうか。これが今日の1問です。答えの方向を先に言うと、株主は、借金を返した残りを全部受け取る立場だからです。ただし、それがいつも正しいとは限りません。
図:この回の地図
- 1.損が止まる仕組み〔全額払込み〕
- 2.債権者がかぶる場面
- 3.有限責任の便益と費用
- 4.株主と債権者の3つの違い
- 5.残余権者
- 6.なぜ株主が会社を動かすのか
- 7.本当に正しいのか
- 8.現実の問題へ
地図です。前半は、責任の側です。損が出資額で止まる仕組みと、そのときに損をかぶる人を見ます。後半は、株主と債権者を並べて、なぜ株主に会社を動かす権利があるのかを、数字で確かめます。最後に、その原則が本当に正しいのかを考えます。
損が止まる仕組み
図:払ってから株主になる
- 出資の履行=株主になる前に全額〔設立 34条・63条/株式発行 208条/新株予約権 281条〕
- 履行しない=株主になれない〔設立・株式発行は失権〕
- 株主になる時期〔設立=成立の時〔50条・102条〕/株式発行=払込期日または払い込んだ日〔209条〕/新株予約権=行使した日〔282条〕〕
- 株主になった後=追加の義務なし
有限責任は、前に見ました。株主の責任は、有する株式の引受価額が上限、という原則です。今日は、これを中から見ます。
条文会社法104条
会社法第104条 株主の責任は、その有する株式の引受価額を限度とする。
引受価額とは、株式を引き受けるときに払うと約束した金額のことです。Aさんの場合は、100万円です。104条の上限は、引受価額まで追加で払う義務が残っている、という意味ではありません。ここが大事です。払い終わってから、株主になるのです。会社設立後に新しく株式を発行する場合で見ます。208条です。
条文会社法208条1項
会社法第208条第1項 募集株式の引受人(現物出資財産を給付する者を除く。)は、第百九十九条第一項第四号の期日又は同号の期間内に、株式会社が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所において、それぞれの募集株式の払込金額の全額を払い込まなければならない。
条文会社法208条5項
会社法第208条第5項 募集株式の引受人は、出資の履行をしないときは、当該出資の履行をすることにより募集株式の株主となる権利を失う。
引受人は、払込金額の全額を払い込みます。この払込金額が、104条の引受価額にあたります。履行しないと、株主となる権利を失います。つまり、払い込まない人は、そもそも株主にならないのです。株主になる時期は、次の209条1項が定めています。
条文会社法209条1項
会社法第209条第1項 募集株式の引受人は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める日に、出資の履行をした募集株式の株主となる。 一 第百九十九条第一項第四号の期日を定めた場合 当該期日 二 第百九十九条第一項第四号の期間を定めた場合 出資の履行をした日
会社が払込みの日を1日に決めたならその日、期間で決めたなら実際に払い込んだ日です。払い込んだ後に株主になる。だから、原則として、株主になった後に、追加で払う義務は残りません。設立のときも同じです。会社をつくる中心になる発起人は34条1項、つくるときに外から募った引受人は63条1項で、全額を払い込みます。決まった値段で株式を受け取れる権利、新株予約権を行使するときも、281条1項で、行使に際して全額を払い込みます。払い込まなければ株主になれない、という形は共通です。引受人の側からは、できません。208条3項が、払込みと会社への債権との相殺を禁じています。
条文会社法208条3項
会社法第208条第3項 3 募集株式の引受人は、第一項の規定による払込み又は前項の規定による給付(以下この款において「出資の履行」という。)をする債務と株式会社に対する債権とを相殺することができない。
相殺を認めると、お金が会社に入らないまま、株主になれてしまいます。払込みは、現実に会社の財産へ入る必要があります。281条3項も同じ形です。ここで1つ、混同しないでください。会社が銀行から借りるとき、銀行が経営者に個人保証を求めることがあります。その保証は、保証契約という別の根拠に基づく責任です。104条の例外ではありません。また、払込みを仮装した場合や、お金でなく物で出資する現物出資の価値が足りない場合には、全額払込みを担保する別のルールがあります。これは後の回で扱います。今日は、払い込んだうえで株主になる、というところまでです。
債権者がかぶる場面
図:解散から配当まで
- 解散→清算→財産が債務を完済するのに足りないことが明らか→清算人は直ちに破産手続開始の申立て〔484条1項〕→同一順位の債権者へ債権額の割合で配当〔破産法194条2項〕→残りの債務について株主は責任を負わない
- 例=資産300万円・債務600万円〔銀行500万円・小麦店100万円〕→銀行250万円・小麦店50万円・不足300万円は債権者の負担
では、冒頭のパン工房に戻ります。会社は解散して清算に入ります。清算とは、会社の財産を現金にして、債務を払っていく手続です。パン工房の資産を全部現金にしたら、300万円でした。債務は、銀行に500万円と、小麦店に100万円で、合計600万円です。
条文会社法484条1項
会社法第484条第1項 清算株式会社の財産がその債務を完済するのに足りないことが明らかになったときは、清算人は、直ちに破産手続開始の申立てをしなければならない。
財産が足りないと明らかになったら、清算を進める清算人は直ちに、破産手続開始の申立てをします。破産手続とは、裁判所の監督のもとで、残った財産を債権者に分ける手続です。破産手続では、同じ順位の債権者に、債権額の割合に応じて配当します。
条文破産法194条2項
破産法第194条第2項 同一順位において配当をすべき破産債権については、それぞれその債権の額の割合に応じて、配当をする。
数字で見ます。300万円を、銀行500万円と小麦店100万円の比、つまり5対1で分けます。銀行が250万円、そして小麦店が50万円です。足りない300万円は、そのまま債権者の損になります。Aさんは、その不足分を追加で払いません。Aさんにも、損はあります。出した100万円は、すでに会社に入って使われています。それは返ってきません。Aさんが負う損は、そこで止まる、という意味です。もう1点、注意があります。この按分は、同じ順位の債権者の間の話です。ほかに優先する順位の債権もあります。例えば、税金や従業員の給料の一部は、先に払われます。担保を持つ債権者は担保から別に回収できます。今日の数字は、無担保で同じ順位と置いて、按分だけを見せています。
有限責任の便益と費用
図:有限責任はタダではない
- 便益=出資額以上は失わないので多数の人から出資を募りやすい
- 費用=損を債権者に負わせる分、融資の条件は厳しくなりうる・債権者に経営を見張る動機も生まれる
- 契約で債権者になる人〔銀行・取引先〕=担保や個人保証で自衛できる
- 不法行為の被害者=事前に交渉できず自衛できない
この仕組みの良い点から言います。出資額以上は失わない、と分かれば、多くの人が安心して出資できます。大きな事業に、たくさんの人から資金を集められます。ただ、有限責任は良いことばかりではありません。損を債権者にかぶせている、という面があるからです。銀行は、パン工房が行き詰まると、株主に請求できないと知っています。だから、貸すときの条件を厳しくするかもしれません。出資は受けやすくなっても、融資は受けにくくなる。全体として資金を集めるコストが下がるかどうかは、自明ではありません。一方で、別の見方もあります。損をかぶる可能性があるから、銀行は貸す前に会社をよく調べ、貸した後も経営を見張ります。株主が何万人もいる大きな会社では、1人ひとりの株主が経営を見張ることは、なかなか期待できません。融資を通じて見張る銀行のほうが、効果的かもしれない、と考えられます。問題は費用の側です。会社が株主の利益のために、債権者を犠牲にして、危ない事業へ進むおそれがあります。これは、後で数字で見ます。債権者にも2種類あります。契約で債権者になる銀行や取引先は、担保を求めたり、経営者に個人保証を求めたりして、自衛できます。ところが、不法行為の被害者、例えば、パン工房の配達の車にはねられた歩行者は、被害に遭う前に条件を交渉できません。自衛できないのです。不法行為の被害者には、株主が無限に責任を負うべきだという立法論もあります。ただ、現行法は採っていません。その代わりに、配当の規制や、役員の第三者に対する責任などで、債権者を守ります。中身は、別の回で見ます。
株主と債権者の3つの違い
図:比較表
- 債権者=取り分は契約で確定〔期限・利率〕
- 清算では先に弁済
- 経営には契約を通じて関与 ‐ 株主=配当はいつ・いくらか決まらず決議で具体化〔454条〕
- 清算では債権者の後〔502条〕・存続中も分配可能額規制
- 株主総会で取締役を選任・解任〔329条1項・339条1項〕
ここから、株主と債権者を並べます。先に、復習を1問だけします。剰余金の配当を受ける権利と、株主総会の議決権は、それぞれ自益権と共益権のどちらでしょうか?配当は自益権で、議決権は共益権です。お金を出す人には、株主になる人と、債権者になる人がいます。債権者は、貸した銀行だけではありません。賃金をもらう従業員も、代金をもらう取引先も、債権者です。この2者の違いは、3つあります。1つ目は、取り分が未確定なことです。債権者の取り分は、契約で決まっています。返済の期限と、利率です。例えば銀行のBさんは、500万円と決まった利息を、決まった日に返してもらう約束です。株主には、剰余金の配当を受ける権利がありますが、いつ、いくら受け取れるかは、事前には決まっていません。配当のたびに、株主総会の決議で決まります。454条1項が、その都度、株主総会の決議によって定める、と定めています。パン工房が儲かった年でも、決議がなければ、Aさんは配当を請求できません。取締役会が決められる場合もありますが、その要件は別の回で見ます。2つ目は、劣後です。劣後とは、後回しになる、ということです。会社が清算するとき、先に払うのは債権者です。
条文会社法502条
会社法第502条 清算株式会社は、当該清算株式会社の債務を弁済した後でなければ、その財産を株主に分配することができない。ただし、その存否又は額について争いのある債権に係る債務についてその弁済をするために必要と認められる財産を留保した場合は、この限りでない。
債務を弁済した後でなければ、株主に分配できません。さっきのパン工房の清算では、300万円は全部、銀行と小麦店に回り、Aさんには1円も来ませんでした。会社が続いている間も同じ方向です。461条などの分配可能額の規制で、資産が負債を上回っていなければ、株主は配当を受けられません。この計算の中身は、後の回で見ます。3つ目は、経営のコントロールです。株主は、共益権の1つである議決権で、取締役を選びます。
条文会社法329条1項
会社法第329条第1項 役員(取締役、会計参与及び監査役をいう。以下この節、第三百七十一条第四項及び第三百九十四条第三項において同じ。)及び会計監査人は、株主総会の決議によって選任する。
条文会社法339条1項
会社法第339条第1項 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
選任も解任も、株主総会の決議です。会社を経営するのは、基本的に取締役です。第1章で見た、所有と経営の分離です。株主は、取締役の選任と解任を通じて、経営を間接的にコントロールします。このことを、株主は会社の実質的な所有者だ、と言うことがあります。契約を通じて、例えば、決算書を毎年見せる、という条件を付けることはできます。ただ、パン工房の取締役を選ぶのは株主のAさんで、銀行のBさんではありません。
残余権者
図:取り分の階段
- 債務1,200万円の会社
- 資産900万円→債権者900万円・株主0円
- 資産2,000万円→債権者1,200万円・株主800万円
- 資産5,000万円→債権者1,200万円・株主3,800万円
- 債権者=上限あり・株主=上限なし
1つ目と2つ目を合わせると、株主の立場が見えてきます。株主の取り分は、会社の資産から、債権者の取り分を引いた残り全部です。これを、残余権者といいます。残余とは、残りのことです。前に見た、残余財産の分配を受ける権利は、まさにこの残りを、清算のときに受け取る権利です。数字で見ます。債務の額が1,200万円の会社です。資産が900万円なら、債権者が900万円を取り、株主はゼロです。資産がもし2,000万円なら、債権者は1,200万円で、株主が800万円です。資産が5,000万円なら、債権者は同じ1,200万円で、株主は3,800万円です。
債権者には上限があります。株主には上限がありません。資産が増えるほど、増えた分は全部、株主のものになります。この上限の有無が、次の2つの話の鍵です。
なぜ株主が会社を動かすのか
図:数値例②
- 資産2,000万円・債務1,200万円のパン工房
- 新店舗=95%で資産6,000万円・5%で資産600万円
- 会社全体=2,000万円→期待5,730万円〔得〕
- 株主=800万円→期待4,560万円〔賛成〕
- 債権者=1,200万円→期待1,170万円〔反対〕
ここで、今日の1問に近づきます。資産が2,000万円、債務が1,200万円のパン工房です。このまま続ければ、債務は確実に完済できます。そこに、新店舗を出す提案が来ました。成功の確率は95%で、成功すれば資産は6,000万円になります。失敗の確率は5%で、資産は600万円まで減ります。問いです。株主と債権者は、賛成するのはどちらでしょうか?理由も考えてください。数字で確かめます。期待値という道具を使います。それぞれの結果に確率をかけて足した、平均の見込みの金額です。会社全体では、現状の2,000万円が、期待値で0.95かける6,000万円と、0.05かける600万円で、5,730万円になります。大きく増えます。社会にとって得な事業です。株主は、成功なら6,000万円から債務の1,200万円を引いた4,800万円、失敗ならゼロです。期待値は4,560万円で、現状の800万円を大きく上回ります。賛成です。債権者はどうでしょうか。成功すれば1,200万円で、今と同じです。失敗すると、600万円しか回収できません。期待値を出すと、0.95かける1,200万円と、0.05かける600万円で、合計1,170万円です。今の1,200万円より低い。取り分が増える見込みはなく、損の可能性だけが加わります。だから反対です。つまり、債権者に決めさせると、社会にとって得な事業が行われません。株主に決めさせると行われます。これが、取締役を選ぶ権利を残余権者に置く、一応の理由です。債権者は、決まった取り分さえ確保できればよく、それ以上には関心がありません。株主は、資産が増えた分を全部受け取るので、会社の価値を上げる動機が最も強いのです。通常は、株主に任せるのが、社会の富を増やす経営につながります。効率的だ、と言います。
それは本当に正しいのか
図:数値例③
- 資産600万円・債務1,200万円〔債務超過〕
- 大型機械の投資=10%で資産5,000万円・90%で資産0円
- 会社全体=600万円→期待500万円〔損〕
- 株主=0円→期待380万円〔賛成〕
- 債権者=600万円→期待120万円〔大きく損〕
- 同じ「やるか」でも状況で結論が逆転
ただし、話はそう単純ではありません。状況を変えてみます。同じに見える問いに、同じ答えが出るでしょうか?会社が債務超過、つまり資産より債務のほうが多いとき、株主の判断はどう変わるか、考えてください。資産が600万円で、債務が1,200万円の会社です。債務超過です。ここで、勝ち目の薄い大型機械の投資の提案が来ました。成功の確率は10%で、資産は5,000万円になります。失敗の確率は90%で、資産はゼロになります。会社全体で見ます。現状は、600万円です。投資すると、期待値は0.1かける5,000万円で、500万円です。減ります。社会の富を減らす、やるべきでない事業です。ところが、株主はどうでしょうか。現状の取り分は、ゼロです。成功なら、5,000万円から1,200万円を引いた3,800万円。失敗してもゼロです。期待値は380万円で、ゼロより大きい。賛成します。
失敗の損は、債権者が負います。債権者の期待値は、現状の、600万円から、0.1かける1,200万円の120万円に減ります。大きな損です。一方、成功の上振れは、全部株主のものです。有限責任のせいで、債務超過の会社では、株主は、成功の確率が低い事業にも賛成してしまいます。先ほどの数値例と並べてください。同じ「事業をやるか」でも、会社の状況で、株主の賛成が社会の得と一致するか、ずれるかが、逆転します。会社法は、これに一定の対処をしています。役員が債権者に対して損害賠償責任を負う、という429条1項などです。中身は、別の回で見ます。
図:契約は不完備
- 債権者の取り分は契約で確定していると言い切れるか
- 取引先=継続取引の将来の数量・代金までは決まっていない
- 従業員=長期雇用の賃金・賞与が採用時にすべて決まっているわけではない
- 将来を見通した契約には限界=契約は不完備
- 事業が成功すれば増え失敗すれば減る→従業員・取引先も一部は残余権者
もう1つ、疑ってみます。債権者の取り分は、契約で決まっている、と言い切れるでしょうか。小麦店は、パン工房と取引を続けるつもりでいます。ですが、来年の注文の数量や代金までは、契約で決めていません。長く働くつもりの従業員も、定年までの賃金や賞与が、採用のときにすべて決まっているわけではありません。人は、将来を見通して契約を結ぶことに限界があります。契約は、不完備になりがちです。将来の取り分は、後の交渉で決まります。会社の事業が成功すれば増え、失敗すれば減ります。つまり、従業員や取引先も、ある程度は残余権者です。
株主の取り分を増やす経営が、従業員や取引先の取り分を減らし、全体の富を減らすこともありえます。そうなると、株主の望むとおりに経営されることが、望ましいとは、言い切れなくなります。
現実の問題へ
図:買収の場面
- パン工房の会社を、時価より高い値段で丸ごと買い取りたい会社が現れる
- 高い値段→株主のAさんは賛成
- 工房を畳んで店を集約するのでは→職人は先行きを案じて反対・小麦店も取引の継続が不安
- 取締役は買収を防ぐ策をとってよいか→この回では結論を出さない
契約の不完備が効く現実の場面を、1つだけ見ます。パン工房の会社を、株式の今の値打ちよりずっと高い値段で、丸ごと買い取りたいという会社が現れました。株主のAさんは、賛成するでしょう。ところが、長く働く職人たちは、買い取った会社が工房を畳んで店を集約するのでは、と心配して反対します。職人の将来の賃金や、工房がこの先も続くかどうかまでは、契約で決まっていません。買収後の交渉で変えられうる、つまり職人も一部は残余権者なので、株主と利害がぶつかるのです。取締役は、買収を防ぐ策をとってよいのでしょうか。この問いに、今日は結論を出しません。持ち帰るのは、次の点です。株主が会社を動かす原則には、経済的な合理性があります。しかし、自明に正しい、とまでは言えません。論文では、例えば、取締役が買収を防ぐ策をとったとき、それが株主のためか、従業員のためか、自分の地位を守るためか、という問いの土台になります。
今日の地図(保存版)
図:まとめ
- 104条=責任は引受価額が上限・払い終えてから株主になる〔208条・相殺不可〕
- 債権者がかぶる=不足分は按分〔484条・破産法194条〕
- 違い3つ=取り分が未確定〔454条〕・劣後〔502条〕・経営のコントロール〔329条・339条〕
- 株主=残余権者→会社の価値を上げる動機が強い
- 限界=債務超過のゆがみ・契約の不完備
今日の1問に答えます。債権者のほうが損をかぶりやすいのに、取締役を選ぶ権利は、なぜ株主にあるのか。株主の損が出資額で止まるのは、払い込んでから株主になるからです。足りない分は、債権者が按分でかぶります。株主と債権者の違いは3つ。取り分が未確定であること、清算でも配当でも債権者に劣後すること、取締役の選任と解任で経営をコントロールすることです。この結果、株主は、資産から債務を引いた残り全部を取る、残余権者になります。取り分に上限がないので、会社の価値を上げる動機が最も強い。だから、株主に会社を動かさせるのが、通常は効率的です。
でも、債務超過の会社では、株主は失うものがないから、危ない事業にも賛成してしまうんですね。それに、従業員や取引先も、ある程度は残余権者だと。冒頭のAさんは、出した100万円で損が止まります。足りない分は、銀行のBさんや小麦店のCさんがかぶります。それでも取締役を選ぶのは、残余権者のAさんです。ただし、それは自明に正しい原則ではありません。短答では、引受価額が上限であること、払込みは株主になる前に全額で相殺できないこと、清算では債権者への弁済が先であること、配当は決議がなければ請求できないこと、取締役の選任と解任は株主総会の決議であることが問われます。論文では、なぜ株主と債権者で扱いが違うのかを説明する土台になります。
参照条文
- 会社法104条
- 会社法208条1項
- 会社法208条5項
- 会社法209条1項
- 会社法208条3項
- 会社法484条1項
- 破産法194条2項
- 会社法502条
- 会社法329条1項
- 会社法339条1項