株式の内容の特別の定め(譲渡制限・取得請求権・取得条項)
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第2章 株式 ⑬/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
3つの悩みに3つの道具
図:3人の会社の3つの悩み
- A=創業メンバー
- B=株式を売りたい株主
- C=出資してくれた知人
- D=アプリ開発の会社
- E=外部の投資家
- B→E 株式を売りたい→Dの承認が要る〔譲渡制限〕
- C→D 取得を請求〔取得請求権〕
- D→A 事由が生じたら取得〔取得条項〕
友人3人でアプリ開発の株式会社をつくりました。創業メンバーのAさん、Bさんたちに加えて、出資してくれた知人のCさんも株主です。そこへ、3つの悩みが持ち込まれます。1つ目。株主のBさんが、持っている株式を、見知らぬ投資家のEさんに売ろうとしています。会社として止められないでしょうか。2つ目。出資者のCさんが、いつでもお金を返してほしい、と言ってきました。3つ目。創業メンバーが会社を離れるときは、その株式を会社に戻してほしい。そう考えています。答えを先に言います。1つ目は譲渡制限、2つ目は取得請求権、3つ目は取得条項という道具で応えられます。会社法は、株式の中身は法律が決めた一律のものとしながら、この3つだけは、会社のすべての株式の内容として、定款で作り替えることを認めています。ただし、後から付けるなら、決議の重さが違います。特に3つ目の取得条項は、株主全員が賛成しないと付けられません。なぜ3つで重さが違うのか。これが今日の1問です。先に答えの方向だけ言うと、既存の株主から何を奪うかが違うからです。
図:この回の地図
- 1.3つの定め
- 2.選ぶのは誰か
- 3.定款に何を書くか
- 4.後から付けるときの決議の3段階
- 5.取得の実行と財源の歯止め
- 6.全部の株式か、ある種類の株式か
地図です。前半は、3つの定めの中身と、定款に何を書くかを見ます。中盤は、後から付けるときの決議が3つで違う理由を、数字の例で確かめます。後半は、取得がどう実行されるかと、会社の財産を守る歯止め。最後に、種類株式との違いです。
全部の株式に付けられる3つの定め
図:107条1項の3つ
- 全部の株式の内容として定款で定められる=①譲渡による取得に会社の承認を要する〔譲渡制限〕
- ②株主が会社に取得を請求できる〔取得請求権〕
- ③一定の事由が生じたことを条件に会社が取得できる〔取得条項〕
条文です。107条1項。
条文会社法107条1項
会社法第107条第1項 株式会社は、その発行する全部の株式の内容として次に掲げる事項を定めることができる。 一 譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。 二 当該株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。 三 当該株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。
全部の株式の内容として、という言葉に注目してください。会社が発行する株式のすべてが、同じ中身になる、という意味です。株式に種類があって、一部だけに付ける形は、最後に見ます。なぜこの3つだけなのか。配当を多くもらえる、議決権がない、といった中身は、ほかの株式と比べて初めて意味を持ちます。全部の株式が同じ中身なら、比べる相手がいません。これに対して、譲渡に会社の承認が要る、会社に引き取ってもらえる、という定めは、全部の株式が同じでも意味を持ちます。だから、全部の株式の内容として定められるのは、この3つなのです。1号が譲渡制限です。株式を譲渡で手に入れるには、会社の承認が要る、という定めです。冒頭の悩みの1つ目ですね。Eさんが買っても、会社が承認しなければ、会社に対して株主として扱ってもらえません。ここで、前に見た公開会社の定義を思い出してください。公開会社は、この1号の定めがあるかどうかで決まります。
条文会社法2条5号
会社法第2条第5号 公開会社 その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいう。
全部の株式に譲渡制限を付ければ、その会社は公開会社ではなくなります。逆に、譲渡制限のない株式が1種類でもあれば、公開会社です。2号が取得請求権です。前に名前だけ出た取得請求権付株式は、この定めが付いた株式のことです。株主が会社に、私の株式を取得してください、と請求できる定め。3号が取得条項です。一定の事由が生じたら、会社が株主から株式を取得できる定め。
選ぶのは誰か
図:取得請求権と取得条項
- 取得請求権=きっかけを作るのは株主・請求するかしないかは株主が選ぶ・使い道は出資者に出口を約束
- 取得条項=きっかけは事由の発生・株主に選択権はない・使い道はあらかじめ決めた事由で会社が株式を引き取る
問いにします。出資者のCさんが、いつでも返してほしい、と言っています。株主が選べる定めと、会社が選ぶ定めの、どちらで応えるでしょうか?株主が選べるほうだから、取得請求権です。区別の軸は、きっかけを作るのは誰か、です。取得請求権は、請求するかしないかを株主が選びます。Cさんから見れば、いつでも出られる出口を持っている形です。取得条項は逆です。あらかじめ決めた事由が生じれば、株主の意思に関係なく、会社が株式を取得します。冒頭の3つ目、創業メンバーが離れたら株式を戻してほしい、という悩みがこれです。離れたことを事由に定めておけば、本人が手放したくなくても、会社が取得できます。ただし、その事由と対価を前もって定款に定めておくことが前提で、全部の株式に後から設けるには株主全員の同意(110条)も要ります。会社から見れば、引き取る権利を持っている形です。たとえば、会社が別に定める日が来たら取得する、と決めておく使い方があります。名前で整理すると、取得「請求」権は、株主が会社に請求する権利。取得「条項」は、条件が成就したら会社が取得できる、という定めです。会社が株式を取得する点は同じで、きっかけが株主か、事由の発生か、が違います。使い道も並べます。譲渡制限は、知らない人を株主に入れたくない、仲間の会社に向きます。取得請求権は、出資者にいつでも出られる出口を約束して、出資を集めやすくします。取得条項は、決めた事由で株式を会社に戻せるようにしておく、という使い方です。
定款に何を書くか
図:107条2項1号・2号
- 定款で定めなければならない事項
- 1号=譲渡制限:イ承認を要する旨・ロ一定の場合に承認したものとみなすときはその旨と場合
- 2号=取得請求権:イ請求できる旨・ロ〜ホ一株を取得するのと引換えに交付する対価〔社債・新株予約権・新株予約権付社債・株式等以外の財産〕・ヘ請求できる期間
定めは、思いつきで始められません。107条2項が、各号について、定款に書かなければならない事項を決めています。書かなければ、効きません。書かせるのは、今の株主も、これから株式を買う人も、自分の株式にどんな縛りや出口が付いていて、いつ、何と引き換えに会社へ移るのかを、前もって定款で確かめられるようにするためです。骨格を読みます。1号、譲渡制限は、承認を要する旨を書きます。それに、一定の場合は承認したものとみなす、とするなら、その旨と場合も書きます。みなし承認の中身は、別の回で扱います。2号、取得請求権は、まず、請求できる旨。次に、対価です。一株を取得するのと引換えに、会社が何を払うか。社債、新株予約権、新株予約権付社債、そして株式等以外の財産、つまり金銭などです。それぞれ、交付するときは、社債なら種類と金額、新株予約権なら内容と数、金銭などなら内容と額、またはその算定方法を書きます。最後に、請求できる期間です。いつまで請求できるのかを、定款で決めます。この会社の定款なら、たとえば、1株につき10万円の金銭を払う、請求できるのは設立から10年間、と書いておく形です。
図:107条2項3号
- 取得条項:イ一定の事由が生じた日に会社がその株式を取得する旨及びその事由
- ロ会社が別に定める日の到来を事由とするときはその旨
- ハ事由が生じた日に株式の一部を取得するときはその旨と取得する一部の決定の方法
- ニ〜ト対価〔2号と同じ類型〕
3号、取得条項です。イは、一定の事由が生じた日に取得する旨と、その事由。ロは、会社が別に定める日の到来を事由にするなら、その旨。ハは、株式の一部だけを取得するなら、その旨と、取得する株式の決め方。ニからトが対価で、2号と同じ類型です。全部の株式の内容として定める形では、対価に別の株式は出てきません。理由は単純です。全部の株式が同じ中身なので、対価に別の種類の株式を渡す場面が想定されていないからです。別の株式を対価にできるのは、種類株式の場合です。最後に見ます。定めを設けたら、登記もします。発行する株式の内容は、911条3項7号の登記事項です。
後から付けるときの決議の3段階
図:決議の3段階の比較
- 前提=種類株式を発行していない会社が定款変更で後から付ける
- 既存株主から奪うものが大きいほど決議が重い
- 取得請求権=出口が増えるだけ→特別決議〔466条・309条2項11号〕
- 譲渡制限=自由に売る道が狭まる→特殊の決議〔309条3項1号〕+反対株主の株式買取請求〔116条1項1号〕
- 取得条項=株主の地位を奪われうる→株主全員の同意〔110条〕
ここが今日の中心です。会社をつくった後で、この3つを定款に加えたいときを考えます。前提は、種類株式を発行していない会社です。種類株式を発行している会社は、手続が別になります。定款の変更は、株主総会の決議でします。466条です。原則は、特別決議。309条2項11号です。議決権を行使できる株主の議決権の、過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上で可決する決議です。問いです。譲渡制限、取得請求権、取得条項を、後から定款に付けるとき、決議が一番軽いのはどれでしょうか?理由も考えてください。
取得請求権は、特別決議でよいのです。株主から何も奪わず、出口が増えるだけだからです。譲渡制限はどうでしょう。これは、株主から、好きな相手に自由に売って抜ける道を奪います。奪うものがあるので、特別決議では足りません。
条文会社法309条3項1号
会社法第309条第3項 前二項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会(種類株式発行会社の株主総会を除く。)の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。 一 その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設ける定款の変更を行う株主総会
特殊の決議と呼ばれるものです。要件は2つ。議決権を行使できる株主の、半数以上。つまり頭数です。そのうえで、その株主の議決権の、3分の2以上。どちらも定款で重くできます。頭数が入る理由は、数字で見ると分かります。議決権を行使できる株主が11人、議決権の総数が100個です。Aさんが70個、ほか10人は3個ずつ持っています。
図:特殊の決議の数値例
- 議決権を行使できる株主11人・議決権総数100個
- Aさん70個・ほかの10人は3個ずつ
- Aだけ賛成=頭数11人中1人〔半数5.5人に届かない〕・議決権100個中70個〔3分の2以上〕→否決
- Aと他の5人が賛成=頭数11人中6人〔半数以上〕・議決権100個中85個〔3分の2以上〕→可決
Aさんだけが賛成した場合。議決権は70個で、3分の2、つまり66.7個以上を満たします。ところが頭数は、11人中1人。半数の5.5人に届きません。否決です。比べてください。通常の特別決議なら、全員出席の総会で、Aさんだけの賛成で可決できます。頭数の要件がないからです。Aさんと、ほかの5人が賛成した場合。頭数は6人で、11人の半数以上。議決権は85個で、100個の3分の2以上。可決です。譲渡制限が付くと、少数の株主も、自由に売って投下資本、つまり出したお金を回収する道を狭められます。だから、持ち株の多さだけでなく、人数でも賛成を集める必要があります。短答の落とし穴が2つあります。1つ目、分母です。頭数の分母は、議決権を行使できる株主全体で、出席者ではありません。欠席した株主も分母に入ります。出席を基準にする特別決議と、ここが違います。2つ目、半数「以上」なので、ちょうど半数でも足ります。過半数ではありません。株主が10人なら、5人の賛成で頭数を満たします。もう1つ。この決議は、譲渡制限を設ける変更だけが対象です。譲渡制限を廃止する変更は、売る道を広げるだけで何も奪わないので、対象外です。特別決議でできます。譲渡制限には、もう1つの歯止めがあります。決議に反対した株主を、会社に買い取らせる仕組みです。前に見た仕組みです。合併などに反対した株主が、会社に公正な価格で買い取らせる権利は、何と呼ばれていたでしょうか?
株式買取請求権です。譲渡制限を付ける定款変更も、その対象です。前に地図で見た、116条1項の第一の場面が、これです。
条文会社法116条1項1号
会社法第116条第1項(柱書・1号) 次の各号に掲げる場合には、反対株主は、株式会社に対し、自己の有する当該各号に定める株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。 一 その発行する全部の株式の内容として第百七条第一項第一号に掲げる事項についての定めを設ける定款の変更をする場合 全部の株式
反対株主とは、決議の前に反対を通知し、総会でも反対した株主などです。請求は、定款変更の効力が発生する日の20日前から前日までの間にします。出たくない人には出口が用意されている、という形です。譲渡制限は、自由に売る道が狭まる。しかし、いったん買取請求で出ることもできる。ここまでが、特殊の決議と買取請求です。最後に、取得条項です。
条文会社法110条
会社法第110条 定款を変更してその発行する全部の株式の内容として第百七条第一項第三号に掲げる事項についての定款の定めを設け、又は当該事項についての定款の変更(当該事項についての定款の定めを廃止するものを除く。)をしようとする場合(株式会社が種類株式発行会社である場合を除く。)には、株主全員の同意を得なければならない。
株主全員の同意です。理由は、取得条項が付くと、株主は、自分の意思にかかわらず、株主の地位を奪われるおそれがあるからです。多数決で押し付けてよい話ではない、ということです。全員が賛成した定めなら、反対株主はいませんね。買取請求も要らないわけですか。そして、ここが譲渡制限との違いです。譲渡制限なら、株主は、残るか、買取請求で公正な価格で出るかを、自分で選べます。取得条項は、事由が生じれば、株主が選ぶ余地なく、定款で決めた条件のまま株式を取り上げられます。出口を用意すれば済む話ではないので、一人ひとりの同意が要るのです。前に、無理やり株式を取られる場面として、全部取得条項という名前が出ました。あれは種類株式に付ける別の制度で、決議で付けられ、反対した株主には買取請求があります。今日の取得条項とは別物です。ただ、条文の範囲に注意してください。全員の同意が要るのは、定めを設ける場合と、内容を変更する場合です。定めを廃止する場合は、括弧書きで除かれています。廃止は、株主から何も奪いません。取り上げられるおそれが消えるだけです。だから、特別決議でできます。3つをまとめます。奪うものが大きいほど、決議が重い。取得請求権は、出口が増えるだけなので特別決議。譲渡制限は、自由に売る道が狭まるので、特殊の決議に買取請求が加わる。取得条項は、株主の地位そのものを奪われうるので、全員の同意。短答で、この3段階がそのまま問われます。
取得はどう実行されるか
図:取得の実行と財源の歯止め
- 取得請求権=株主が請求した日に会社が取得〔166条・167条1項〕
- 取得条項=事由が生じた日に取得〔170条1項〕・別に定める日が事由なら株主総会〔取締役会設置会社は取締役会〕の決議で日を定め2週間前までに通知または公告〔168条〕・一部取得は取得する株式を決定〔169条〕
- 財源の歯止め=対価の帳簿価額が分配可能額を超えるときは請求できない〔166条1項ただし書〕・取得の規定が適用されない〔170条5項〕
定めを付けたら、実際の取得は、どう進むのでしょうか。骨格だけ見ます。取得請求権は、株主が請求した日に、会社がその株式を取得します。請求は、取得してほしい株式の数を明らかにしてします。対価が社債や新株予約権のときは、請求の日に、株主はその社債権者や新株予約権者になります。取得条項は、事由が生じた日に、会社が株式を取得します。会社が別に定める日の到来を事由にするなら、会社はまず、その日を株主総会の決議で定めます。取締役会のある会社は、取締役会です。そして株主へ、2週間前までに通知か公告をします。株主が、株式を引き取られる日を、前もって知るためです。一部だけ取得するなら、取得する株式を会社が決めます。
会社がお金を払って株主から株式を引き取るなら、会社の財産が減ってしまいます。そこに歯止めがあります。まず取得請求権です。
条文会社法166条1項
会社法第166条第1項 取得請求権付株式の株主は、株式会社に対して、当該株主の有する取得請求権付株式を取得することを請求することができる。ただし、当該取得請求権付株式を取得するのと引換えに第百七条第二項第二号ロからホまでに規定する財産を交付する場合において、これらの財産の帳簿価額が当該請求の日における第四百六十一条第二項の分配可能額を超えているときは、この限りでない。
条文会社法170条5項
会社法第170条第5項 前各項の規定は、取得条項付株式を取得するのと引換えに第百七条第二項第三号ニからトまでに規定する財産を交付する場合において、これらの財産の帳簿価額が同号イの事由が生じた日における第四百六十一条第二項の分配可能額を超えているときは、適用しない。
対価として会社が渡す財産の帳簿価額が、分配可能額を超えるときは、取得請求権は請求できません。取得条項は、取得の規定が適用されません。つまり、取得できません。分配可能額とは、会社が株主に払い出してよい上限の額です。帳簿価額は、会社の帳簿に付けている金額のことです。たとえば、払い出してよい上限が500万円しかないのに、Cさんに800万円の金銭を渡す定めなら、Cさんは請求できません。株主は会社の借金に責任を負わないので、債権者は会社の財産だけが頼りです。株主に会社財産が流れ出て、債権者が害されるのを防ぐためです。前回見た、株主への分配を規制する考え方と同じ方向です。分配可能額の計算や、自己株式の取得の全体像は、別の回で扱います。
全部の株式か、ある種類の株式か
図:107条と108条の違い
- 107条=会社のすべての株式に付ける
- 108条=ある種類の株式にだけ付ける〔種類株式発行会社〕
- 譲渡制限=全部に付ければ公開会社でない会社・一部の種類だけなら公開会社のまま
- 対価に他の株式=107条型は使えない・108条型は使える〔108条2項5号ロ・6号ロ〕
- 後から付ける手続=種類株式発行会社は別〔111条〕
最後に、107条と108条の違いです。同じ3つの定めは、108条1項の4号から6号にも並んでいます。107条は会社のすべての株式に付ける。108条は、ある種類の株式にだけ付ける。前に名前だけ触れた、種類株式を発行している会社の話です。違いを4つ挙げます。1つ目。公開会社でも、一部の種類にだけ譲渡制限を付けられます。その会社は、なお公開会社です。全部の株式に付ければ、公開会社でない会社になります。2つ目。対価です。種類株式の取得請求権と取得条項は、対価に、その会社の別の種類の株式を使えます。108条2項の5号ロと6号ロです。さっき見たとおり、全部の株式型では、全部の株式が同じ中身なので、対価に別の種類の株式を渡す場面が想定されていません。3つ目。使い勝手です。全部の株式に取得請求権や取得条項を付けると、全員が同じ出口、同じ引き取られ方になります。たとえば、Cさんのような出資者向けの種類にだけ出口を付ければ、創業メンバーの株式には付けずに済みます。この形のほうが、実務では多く使われます。4つ目。手続です。種類株式を発行している会社では、定款変更の決議要件が変わります。309条3項は、種類株式発行会社の株主総会を除いていますし、110条も、種類株式発行会社を除いています。今日見た3段階は、種類株式を発行していない会社の話です。手続が変わるのは、種類株式の会社では、定めの影響を受けるのが、主にその種類の株主だからです。そこで、会社全体の決議に加えて、その種類の株主の同意や、その種類の株主を中心とする種類株主総会の決議が求められます。奪われる人に決めさせる、という軸は、ここでも同じです。
対象が全部か一部かで、対価と手続が変わります。
今日の地図(保存版)
図:まとめ
- 3つの定め=譲渡制限〔承認を要する〕・取得請求権〔株主が請求〕・取得条項〔事由で会社が取得〕
- 選ぶのは誰か
- 定款に書く事項〔107条2項〕
- 後から付ける決議=取得請求権は特別決議・譲渡制限は特殊の決議+買取請求・取得条項は株主全員の同意〔廃止は除く〕
- 財源の歯止め
- 107条は全部の株式・108条は一部の種類
今日の1問に答えます。3つの定めを後から付けるとき、決議の重さがなぜ違うのか。既存の株主から、何を奪うかが違うからです。冒頭の悩みに戻ります。見知らぬ投資家への売却を止めたいなら、譲渡制限。特殊の決議で、反対株主には買取請求が用意されます。いつでも返してほしい出資者には、取得請求権。特別決議で付けられます。創業メンバーが離れたら株式を戻したいなら、取得条項。ただし株主全員の同意が要ります。取得請求権は株主が選ぶ、取得条項は会社が選ぶ。その違いが、決議の重さにもつながるんですね。短答では、3つの区別、107条2項の骨格、全部の株式型は対価に他の株式を使えないこと、そして3段階の決議が問われます。頭数の分母が、議決権を行使できる株主全体であること、取得条項は廃止なら全員の同意が要らないことも押さえてください。論文では、種類株式を発行していない会社の定款変更で、どの定めを付けるなら、どの決議が要り、買取請求があるのか、を当てはめる土台になります。
参照条文
- 会社法107条1項
- 会社法2条5号
- 会社法309条3項1号
- 会社法116条1項1号
- 会社法110条
- 会社法166条1項
- 会社法170条5項