会社法ゼロから会社法#14

種類株式と全部取得条項・拒否権付株式

会社法の復習ノートを1ページで通して読む(この回から)→

印刷用PDFを開く

第2章 株式 ⑭/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

旅館の2つの悩み

老舗旅館の会社の2つの悩み(A=社長/B=長女/C=次男・三女/D=投資会社/E=会社/E→B 議決権あり・経営を任せる/E→C 議決権なし・配当で手当て/E→D 残余財産と配当は先・大事な決定は拒否できる) 図:老舗旅館の会社の2つの悩み

  • A=社長
  • B=長女
  • C=次男・三女
  • D=投資会社
  • E=会社
  • E→B 議決権あり・経営を任せる
  • E→C 議決権なし・配当で手当て
  • E→D 残余財産と配当は先・大事な決定は拒否できる

地方で老舗の旅館を営む株式会社があります。創業家の社長が、そろそろ引退を考えています。ここで、2つの悩みが出てきます。1つ目。経営は長女に任せたい。ただ、次男と三女にも、会社の利益はきちんと分けたい。2つ目。改装資金を出したいという投資会社が、条件を3つ出してきました。お金は先に返してほしい。大事な決定には口を出させてほしい。ただし、日々の経営には深入りしない。株式は1株ごとに同じ中身、という感覚が、今日の出発点です。前回見た3つの定めは、会社の全部の株式に、同じ中身を付けるものでした。しかし、株式に種類を作って、種類ごとに違う中身を持たせることもできます。答えを先に言います。1つ目は、経営の議決権を長女の株式に集めます。次男と三女の株式は、議決権を制限して、配当を厚くします。2つ目は、残余財産と配当を先に受け取れる株式にして、さらに拒否権を付けます。そのための道具が、会社法108条1項の、9つの種類株式です。なお、すでにある株式を後から種類株式に変える手続や、相続でどう受け渡すかは、別の話です。今日は、会社が株式にどんな種類を作れるのか、という道具の話に絞ります。

この回の地図(9つを3つの群で持つ/お金の順番=1号 剰余金の配当・2号 残余財産の分配/口の出し方=3号 議決権を行使できる事項・8号 拒否権・9号 取締役等の選任/出入口=4号 譲渡制限・5号 取得請求権・6号 取得条項・7号 全部取得条項/順序=種類株式とは→お金の順番→議決権→拒否権と選任権→出入口→全部取得条項→旅館の悩みに戻る) 図:この回の地図

  • 9つを3つの群で持つ
  • お金の順番=1号 剰余金の配当・2号 残余財産の分配
  • 口の出し方=3号 議決権を行使できる事項・8号 拒否権・9号 取締役等の選任
  • 出入口=4号 譲渡制限・5号 取得請求権・6号 取得条項・7号 全部取得条項
  • 順序=種類株式とは→お金の順番→議決権→拒否権と選任権→出入口→全部取得条項→旅館の悩みに戻る

地図です。9つの種類を、3つの群に分けて持ちます。お金の順番、これは1号と2号。口の出し方、これは3号と8号と9号。出入口、これは4号から7号です。順番に見ます。まず種類株式とは何か。次にお金の順番。口の出し方は2つに分けて、議決権、それから拒否権と選任権。そして出入口、中でも全部取得条項は手続まで丁寧に。最後に旅館の2つの悩みに戻って、使い方を整理します。

種類株式とは何か

108条1項の9つ(限定列挙=会社法が認める事項は9つだけ/1配当・2残余財産・3議決権を行使できる事項・4譲渡制限・5取得請求権・6取得条項・7全部取得条項・8拒否権・9取締役等の選任/同じ種類の株式は同じ内容・違うのは種類と種類の間/9号だけは指名委員会等設置会社と公開会社は不可) 図:108条1項の9つ

  • 限定列挙=会社法が認める事項は9つだけ
  • 1配当・2残余財産・3議決権を行使できる事項・4譲渡制限・5取得請求権・6取得条項・7全部取得条項・8拒否権・9取締役等の選任
  • 同じ種類の株式は同じ内容・違うのは種類と種類の間
  • 9号だけは指名委員会等設置会社と公開会社は不可

条文です。108条1項。

条文会社法108条1項

会社法第108条第1項(柱書・1号・2号・3号・4号) 株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。ただし、指名委員会等設置会社及び公開会社は、第九号に掲げる事項についての定めがある種類の株式を発行することができない。 一 剰余金の配当 二 残余財産の分配 三 株主総会において議決権を行使することができる事項 四 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。

柱書に注目してください。ここに並ぶ事項について、異なる定めをした、内容の異なる2以上の種類の株式。これが種類株式です。続きの5号から9号です。

条文会社法108条1項

会社法第108条第1項(5号・6号・7号・8号・9号) 五 当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。 六 当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。 七 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること。 八 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第四百七十八条第八項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの 九 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。次項第九号及び第百十二条第一項において同じ。)又は監査役を選任すること。

認められるのは、この9つの事項だけです。限定列挙なので、自由に新しい中身を作ることはできません。同じ種類の株式の内容は、みな同じです。違うのは、種類と種類の間。たとえば、配当は他より先に受ける種類と、議決権のない種類、という具合です。前回、種類株式を発行している会社、と呼んだものがありました。条文では、種類株式発行会社と言います。2条13号です。

条文会社法2条13号

会社法第2条第13号 種類株式発行会社 剰余金の配当その他の第百八条第一項各号に掲げる事項について内容の異なる二以上の種類の株式を発行する株式会社をいう。

前回の3つ、譲渡制限と取得請求権と取得条項は、全部の株式型として107条にありました。同じものが、108条1項の4号から6号にも並んでいます。こちらは、ある種類にだけ付ける形です。出入口の群で、改めて見ます。

種類株式を作るには(108条2項=各号に定める事項と発行可能種類株式総数を定款で定める/発行可能種類株式総数=各種類ごとの発行できる数の上限/108条3項=「何について違いを設けるか」は定款で決め切る・配当の額などの細目は初めて発行する時までに株主総会〔取締役会設置会社は取締役会でも可〕で決めてよい〔定款には内容の要綱を定める〕) 図:種類株式を作るには

  • 108条2項=各号に定める事項と発行可能種類株式総数を定款で定める
  • 発行可能種類株式総数=各種類ごとの発行できる数の上限
  • 108条3項=「何について違いを設けるか」は定款で決め切る・配当の額などの細目は初めて発行する時までに株主総会〔取締役会設置会社は取締役会でも可〕で決めてよい〔定款には内容の要綱を定める〕

では、種類株式を作るには、何が要るでしょうか。108条2項です。

条文会社法108条2項柱書

会社法第108条第2項(柱書) 株式会社は、次の各号に掲げる事項について内容の異なる二以上の種類の株式を発行する場合には、当該各号に定める事項及び発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。

各号に定める事項と、発行可能種類株式総数を、定款で定めます。発行可能種類株式総数とは、各種類について発行できる株式の数の上限のことです。各号に定める事項は、たとえば1号なら、配当財産の価額の決定方法や配当の条件。3号なら、議決権を行使できる事項と、行使の条件です。発行の時点で条件を全部決め切れなくても、機動的に発行するための措置があります。108条3項です。

条文会社法108条3項

会社法第108条第3項 前項の規定にかかわらず、同項各号に定める事項(剰余金の配当について内容の異なる種類の種類株主が配当を受けることができる額その他法務省令で定める事項に限る。)の全部又は一部については、当該種類の株式を初めて発行する時までに、株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)の決議によって定める旨を定款で定めることができる。この場合においては、その内容の要綱を定款で定めなければならない。

一定の事項は、その種類の株式を初めて発行する時までに、株主総会などの決議で決める、と定款で定めてよい。その場合、定款には内容の要綱、つまりあらましを書けば足ります。押さえどころは、何について違いを設けるかは、定款で決め切る。配当の額のような細目は、発行前までに決めればよい。この2段です。要綱で済ませられる事項は、括弧書きで限られています。全部が後回しにできるわけではありません。たとえば旅館の会社で、投資会社向けの種類について、優先配当の額は、投資会社が決まってから株主総会で決める、と定款に書いておく。こういう使い方ができます。もう1つ。1つの種類に、複数の号を重ねることもできます。配当は優先で、議決権はない種類。これは1号と3号の組み合わせです。旅館の次男と三女の株式が、まさにそれです。

お金の順番

お金の順番(1号 剰余金の配当=優先株式〔他より先に配当を受ける〕・劣後株式〔後〕・基準は普通株式/優先とは「配当するなら先に」=会社が配当を決めない限り請求できない〔453条・454条〕/2号 残余財産の分配=会社を畳むときの順番・失敗したら先に返す約束) 図:お金の順番

  • 1号 剰余金の配当=優先株式〔他より先に配当を受ける〕・劣後株式〔後〕・基準は普通株式
  • 優先とは「配当するなら先に」=会社が配当を決めない限り請求できない〔453条・454条〕
  • 2号 残余財産の分配=会社を畳むときの順番・失敗したら先に返す約束

1つ目の群、お金の順番です。1号は剰余金の配当、つまり利益を株主に配るときの順番。2号は残余財産の分配、会社を畳むとき、借金を返した後に残る財産を、株主にどう配るかの順番です。1号の典型が、優先株式です。他の株式より先に配当を受けます。逆に、後に回る株式を劣後株式。基準になる株式を、実務では普通株式と呼びます。優先株式でも、決まった額の配当を必ずもらえるわけではありません。そこが落とし穴です。優先株主も株主です。前に見たとおり、配当は、会社が配当を決議して、金額が決まったときに、初めて請求できる権利になります。優先株主でも、会社が決めない限り、請求できません。453条と454条です。優先とは、配当するなら先に、という意味です。

優先配当の計算(優先株式500株〔1株4万円で引受・優先配当1株2,000円〕/普通株式2,500株/配当総額1,000万円/優先額を先に配る=2,000円×500株=100万円→残り900万円/非参加型=優先額が上限・残り900万円は全て普通株主=1株3,600円/参加型=残り900万円を全3,000株で割る=1株3,000円・優先株主は100万円+150万円=250万円・普通株主は750万円〔合計1,000万円〕) 図:優先配当の計算

  • 優先株式500株〔1株4万円で引受・優先配当1株2,000円〕
  • 普通株式2,500株
  • 配当総額1,000万円
  • 優先額を先に配る=2,000円×500株=100万円→残り900万円
  • 非参加型=優先額が上限・残り900万円は全て普通株主=1株3,600円
  • 参加型=残り900万円を全3,000株で割る=1株3,000円・優先株主は100万円+150万円=250万円・普通株主は750万円〔合計1,000万円〕

数字で見ます。旅館の会社に、投資会社が入りました。優先株式を500株、1株4万円で引き受けています。優先の配当額は、1株2,000円です。普通株式は2,500株。ある年、配当に回せる総額が1,000万円だとします。まず優先株主へ。2,000円掛ける500株で、100万円。残りは900万円です。ここで型が分かれます。優先額が上限で、それを超えては受けられないのが、非参加型。この場合、残りの900万円は、全部普通株主へ行きます。2,500株で割って、1株3,600円です。優先額を受けたうえで、残りの配当にも、普通株主と同じ条件で加われるのが、参加型。残りの900万円を、優先と普通の合計3,000株で割ります。1株3,000円。優先株主は、最初の100万円と、3,000円掛ける500株で出る150万円を足して、250万円。普通株主は、3,000円掛ける2,500株で、750万円。合わせて1,000万円です。

参加型だと、優先株主は二度おいしいんです。その分、普通株主の取り分は減ります。どちらにするかは、定款で定めます。

累積と非累積(前の年は無配・今年配当する/累積型=不足額が翌年度に繰り越される→優先株主は1株4,000円〔計200万円〕を先に受けてから普通株主へ/非累積型=繰り越されない→今年分の1株2,000円〔計100万円〕のみ/参加・非参加と累積・非累積は別の軸/非参加かつ累積=リターンがほぼ固定的・社債に近い) 図:累積と非累積

  • 前の年は無配・今年配当する
  • 累積型=不足額が翌年度に繰り越される→優先株主は1株4,000円〔計200万円〕を先に受けてから普通株主へ
  • 非累積型=繰り越されない→今年分の1株2,000円〔計100万円〕のみ
  • 参加・非参加と累積・非累積は別の軸
  • 非参加かつ累積=リターンがほぼ固定的・社債に近い

もう1つの軸が、累積です。ある年度に、優先額の全額が配当されなかったとします。不足額が翌年度に繰り越されるのが、累積型。繰り越されないのが、非累積型です。前の年は無配で、今年は配当する場合を考えます。累積型なら、優先株主は、前の年の不足分も含めて、1株4,000円、合計200万円を先に受け取ります。そのあとで普通株主です。非累積型なら、今年分の1株2,000円、合計100万円だけです。参加と累積は、別の軸です。参加は、優先額を受けた後の残りに加われるか。累積は、優先額の不足が繰り越されるか。混ぜないでください。ちなみに、非参加で累積の組み合わせは、受け取る額がほぼ決まった額になります。リターンが固定的な点で、社債に近い性格を持ちます。

残余財産の優先(2号=会社を畳むときの分配の順番/投資会社の種類500株は1株4万円を先に返す〔計2,000万円〕/残余財産2,500万円→投資会社の種類に2,000万円・普通株主に500万円/残余財産1,200万円→全額が投資会社の種類・普通株主は0円/配当と残余財産は別々に決められる) 図:残余財産の優先

  • 2号=会社を畳むときの分配の順番
  • 投資会社の種類500株は1株4万円を先に返す〔計2,000万円〕
  • 残余財産2,500万円→投資会社の種類に2,000万円・普通株主に500万円
  • 残余財産1,200万円→全額が投資会社の種類・普通株主は0円
  • 配当と残余財産は別々に決められる

2号は、会社を畳むときの順番です。投資会社は、失敗したら先に返してほしい、と言っています。そこで、投資会社の種類の500株について、1株4万円、合計2,000万円を、普通株主より先に返す、と定めます。清算の後の残りが2,500万円なら、まず投資会社の種類に、2,000万円。残りの500万円が普通株主へ行きます。残った財産が1,200万円しかなければ、全額が投資会社の種類へ行き、普通株主は0円です。配当と残余財産は、別々に決められます。配当は優先で、残余財産は普通、という種類も作れます。配当に制限のある種類も作れます。前に、105条2項で、配当と残余財産の両方を全く与えない定めは無効、片方だけなら作れる、と見ました。その片方だけの株式を作るのが、この1号と2号です。たとえば、配当は受けないが、会社を畳むときの分配は受ける種類です。両方とも全く与えない種類は、作れません。お金の順番の群は、誰が先に取るか、です。

議決権の中身と上限

3号 議決権を行使できる事項(種類ごとに議決権を行使できる「事項」を変える/全ての事項に議決権がない=無議決権株式/定款には議決権を行使できる事項〔イ〕と行使の条件〔ロ〕を定める/条件の例=優先配当を2期続けて受けられなかったら議決権が生じる/議決権の制限と配当の優先は組み合わせが多いが法律の要請ではない) 図:3号 議決権を行使できる事項

  • 種類ごとに議決権を行使できる「事項」を変える
  • 全ての事項に議決権がない=無議決権株式
  • 定款には議決権を行使できる事項〔イ〕と行使の条件〔ロ〕を定める
  • 条件の例=優先配当を2期続けて受けられなかったら議決権が生じる
  • 議決権の制限と配当の優先は組み合わせが多いが法律の要請ではない

2つ目の群、口の出し方です。まず3号。株主総会で議決権を行使できる事項について、種類ごとに別の定めをするものです。たとえば、役員の選任には議決権がない種類。そして、すべての事項に議決権がない種類を、無議決権株式と言います。定款には、議決権を行使できる事項と、行使の条件を定めます。条件の例は、優先配当を2期続けて受けられなかったら、議決権が生じる、という定めです。旅館の1つ目の悩みは、これで応えられます。次男と三女の株式は、無議決権で、配当は優先。経営の議決権は、長女の株式に集まります。よくある組み合わせですが、法律がセットを要求しているわけではありません。議決権が制限されていて、配当の優先もない株式も、作ることはできます。引き受ける人がいるかは、別の話です。ほかの使い道もあります。経営に関心のない出資者に、配当だけを狙って出資してもらう。法令で議決権の保有が制限される金融機関に、出資してもらう。そんな場面です。

議決権の数は変えられない、でも単元で近づける(3号が認めるのは「事項」の違いだけ・複数議決権株式〔1株10議決権〕は不可/188条3項=種類株式発行会社の単元株式数は株式の種類ごとに定める/甲種=1株で1単元・乙種=10株で1単元→同じ1,000株でも甲種は議決権1,000個・乙種は100個/単元株式数の上限=1,000と発行済株式総数の200分の1に当たる数) 図:議決権の数は変えられない、でも単元で近づける

  • 3号が認めるのは「事項」の違いだけ・複数議決権株式〔1株10議決権〕は不可
  • 188条3項=種類株式発行会社の単元株式数は株式の種類ごとに定める
  • 甲種=1株で1単元・乙種=10株で1単元→同じ1,000株でも甲種は議決権1,000個・乙種は100個
  • 単元株式数の上限=1,000と発行済株式総数の200分の1に当たる数

1株で10個分の議決権を持つ株式は、作れません。3号が認めているのは、議決権を行使できる事項の違いだけです。議決権の数の違いは認めていません。複数議決権株式は不可、です。ただし、近づける方法があります。種類株式発行会社では、単元株式数を、株式の種類ごとに定めなければなりません。188条3項です。

条文会社法188条3項

会社法第188条第3項 種類株式発行会社においては、単元株式数は、株式の種類ごとに定めなければならない。

単元は、前に見た、議決権1個のまとまりです。甲種は1株で1単元、乙種は10株で1単元と定めます。同じ1,000株を持っていても、甲種なら議決権は1,000個、乙種なら100個です。乙種を、議決権の薄い株式にできます。1株あたりの議決権の数を変えたのと、近い結果になります。単元株式数には上限があります。会社法施行規則34条です。

条文会社法施行規則34条

会社法施行規則第34条 法第百八十八条第二項に規定する法務省令で定める数は、千及び発行済株式の総数の二百分の一に当たる数とする。

1,000と、発行済株式総数の200分の1に当たる数、この2つが定められています。どちらも超えられないので、低いほうが上限になります。

公開会社の上限 115条(種類株式発行会社が公開会社で、議決権制限株式の数が発行済株式総数の2分の1を超えるに至ったとき→直ちに2分の1以下にするための必要な措置をとる義務/超えた発行が無効になるのではない/数値例=発行済2,000万株・議決権制限株式1,200万株〔2分の1は1,000万株を超過〕→議決権のある普通株式を400万株発行→2,400万株中1,200万株=ちょうど2分の1で「以下」を満たす/理由=少ない出資で経営者が支配するのを防ぐ) 図:公開会社の上限 115条

  • 種類株式発行会社が公開会社で、議決権制限株式の数が発行済株式総数の2分の1を超えるに至ったとき→直ちに2分の1以下にするための必要な措置をとる義務
  • 超えた発行が無効になるのではない
  • 数値例=発行済2,000万株・議決権制限株式1,200万株〔2分の1は1,000万株を超過〕→議決権のある普通株式を400万株発行→2,400万株中1,200万株=ちょうど2分の1で「以下」を満たす
  • 理由=少ない出資で経営者が支配するのを防ぐ

議決権を制限した株式には、公開会社だけにかかる上限があります。115条1項です。

条文会社法115条1項

会社法第115条第1項 種類株式発行会社が公開会社である場合において、株主総会において議決権を行使することができる事項について制限のある種類の株式(以下この条において「議決権制限株式」という。)の数が発行済株式の総数の二分の一を超えるに至ったときは、株式会社は、直ちに、議決権制限株式の数を発行済株式の総数の二分の一以下にするための必要な措置をとらなければならない。

条件は2つです。公開会社であること。議決権制限株式が、発行済株式の総数の2分の1を超えたこと。そのとき会社は、直ちに、2分の1以下に戻す措置をとる義務を負います。問いです。公開会社で、議決権制限株式が、発行済株式の2分の1を超えてしまいました。その発行は無効になるでしょうか。それとも、別の義務が生じるでしょうか?条文は、無効とは書いていません。措置をとらなければならない、とあるので、是正する義務が生じるのだと思います。無効になるのではなく、措置をとる義務です。数字で見ます。発行済みの株式が2,000万株。そのうち議決権制限株式が1,200万株です。2分の1は1,000万株ですから、超えています。ここで、議決権のある普通株式を、新たに400万株発行します。発行済みは2,400万株になり、議決権制限株式の1,200万株は、ちょうど2分の1。以下を満たします。条文は、超えたら動き出し、戻す先は、以下です。等号の位置に注意してください。なぜ上限があるのか。多くの投資家が株主になれる公開会社で、経営者が議決権のない株式を大量に発行すれば、少ない出資で会社を支配できてしまうからです。その歯止めです。旅館の会社は、すべての株式に譲渡制限を付けた、公開会社でない会社とします。公開会社でない会社には、この上限はありません。

拒否権と選任権

8号 拒否権付株式(株主総会〔取締役会設置会社は取締役会でも〕で決議すべき事項のうち、その種類の種類株主総会の決議も必要とするもの/種類株主総会の決議がなければその事項は効力を生じない〔323条〕/ただし書=その種類株主総会で議決権を行使できる種類株主が存しない場合は除く/俗称=黄金株/旅館の例=投資会社の種類に「定款の変更・事業の全部の譲渡・新たな出資の受け入れ」の拒否権) 図:8号 拒否権付株式

  • 株主総会〔取締役会設置会社は取締役会でも〕で決議すべき事項のうち、その種類の種類株主総会の決議も必要とするもの
  • 種類株主総会の決議がなければその事項は効力を生じない〔323条〕
  • ただし書=その種類株主総会で議決権を行使できる種類株主が存しない場合は除く
  • 俗称=黄金株
  • 旅館の例=投資会社の種類に「定款の変更・事業の全部の譲渡・新たな出資の受け入れ」の拒否権

口の出し方の続きです。8号は、拒否権付株式。株主総会で決議すべき事項のうち、その決議のほかに、この種類の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの、です。効き方は、323条に書いてあります。種類株主総会は、その種類の株主だけで開く総会です。

条文会社法323条

会社法第323条 種類株式発行会社において、ある種類の株式の内容として、株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、第四百七十八条第八項に規定する清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項について、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とする旨の定めがあるときは、当該事項は、その定款の定めに従い、株主総会、取締役会又は清算人会の決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

種類株主総会の決議がなければ、その事項は、効力を生じません。株主総会で可決していても、です。実質的な拒否権で、俗に、黄金株とも呼ばれます。ただし書があり、その種類株主総会で議決権を行使できる種類株主がいない場合は、この限りではありません。たとえば、その種類の株式を、全部、会社自身が持っている場合です。会社が持つ自分の株式には、議決権がありません。旅館の会社で、投資会社の種類に、定款の変更、事業の全部の譲渡、新たな出資の受け入れ、この3つについて拒否権を付けたとします。大株主が賛成して、株主総会で可決しても、投資会社の種類株主総会が反対すれば、その事項は効力を生じません。投資会社は、日々の経営には深入りせず、大事な決定にだけ口を出せます。悩みの2つ目の、残りの条件に応える形です。同じ仕組みは、買収防衛にも使われます。買収者が議決権の過半数を集めても、拒否権付株式の株主が反対すれば、定めた事項は効力を生じない、という帰結になるからです。

拒否権付株式の定款には、種類株主総会の決議を必要とする事項と、その条件を定めます。2項8号のイとロです。

9号 取締役・監査役の選任権付株式(その種類の種類株主総会で取締役または監査役を選任する/定款には選任する旨と数〔2項9号イ〕・他の種類株主と共同して選ぶときはその種類と数〔ロ〕/旅館の例=投資会社の種類が監査役1人を自分たちの種類株主総会で選ぶ/俗称=クラス・ボーティング) 図:9号 取締役・監査役の選任権付株式

  • その種類の種類株主総会で取締役または監査役を選任する
  • 定款には選任する旨と数〔2項9号イ〕・他の種類株主と共同して選ぶときはその種類と数〔ロ〕
  • 旅館の例=投資会社の種類が監査役1人を自分たちの種類株主総会で選ぶ
  • 俗称=クラス・ボーティング

9号は、取締役または監査役の選任権付株式です。その種類の種類株主総会で、取締役や監査役を選びます。俗に、クラス・ボーティングとも呼ばれます。定款には、選任する旨と、その数を定めます。ほかの種類の株主と共同して選ぶなら、その種類と数も書きます。旅館の会社なら、投資会社の種類が、監査役を1人、自分たちの種類株主総会で選ぶ、という形です。選任や解任の手続と、種類株主総会そのものの決議要件は、別の回で扱います。

公開会社の2つの歯止め(115条=議決権制限株式は発行済株式総数の2分の1まで/108条1項ただし書=9号の株式は指名委員会等設置会社と公開会社は発行できない/対象=公開会社〔115条〕・指名委員会等設置会社と公開会社〔ただし書〕/公開会社の理由=経営者が少ない出資や選任権で会社を支配するのを防ぐ/9号を使える会社=公開会社でなく指名委員会等設置会社でもない会社・監査等委員会設置会社は発行できる) 図:公開会社の2つの歯止め

  • 115条=議決権制限株式は発行済株式総数の2分の1まで
  • 108条1項ただし書=9号の株式は指名委員会等設置会社と公開会社は発行できない
  • 対象=公開会社〔115条〕・指名委員会等設置会社と公開会社〔ただし書〕
  • 公開会社の理由=経営者が少ない出資や選任権で会社を支配するのを防ぐ
  • 9号を使える会社=公開会社でなく指名委員会等設置会社でもない会社・監査等委員会設置会社は発行できる

ところで、この9号は、誰でも使えるわけではありません。さきほどの108条1項のただし書です。指名委員会等設置会社と公開会社は、9号の株式を発行できません。公開会社が除かれる理由は、115条と同じです。公開会社で、経営者が自分の支配のために、取締役の選任権を持つ株式を使えば、濫用のおそれがあるからです。使えるのは、公開会社でなく、かつ、指名委員会等設置会社でもない会社です。監査等委員会設置会社は、取締役でつくる監査等委員会が監査をする会社です。ただし書に挙がっていないので、9号の株式を発行できます。9号の括弧書きも、監査等委員会設置会社で、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役を選ぶ場面を書いています。

公開会社に置かれた歯止めは2つです。1つ目、議決権制限株式は、発行済株式総数の2分の1まで。これが115条。2つ目、公開会社は、9号の株式を発行できない。これがただし書です。どちらも、経営者による会社支配の濫用を防ぐための歯止めです。口の出し方の群は、誰が決めるか、です。

出入口の3つを種類株式にすると

出入口 4〜7号(4号 譲渡制限・5号 取得請求権・6号 取得条項の中身と手続は前回のとおり/種類株式にすると起きること=①譲渡制限のない株式が1種類でもあれば公開会社〔2条5号〕②取得の対価に他の種類の株式を使える〔108条2項5号ロ・6号ロ〕③取得条項で一部だけ取得するときの決め方〔108条2項6号イ〕) 図:出入口 4〜7号

  • 4号 譲渡制限・5号 取得請求権・6号 取得条項の中身と手続は前回のとおり
  • 種類株式にすると起きること=①譲渡制限のない株式が1種類でもあれば公開会社〔2条5号〕②取得の対価に他の種類の株式を使える〔108条2項5号ロ・6号ロ〕③取得条項で一部だけ取得するときの決め方〔108条2項6号イ〕

3つ目の群、出入口です。4号から7号。4号は譲渡制限、5号は取得請求権、6号は取得条項。この3つの中身は、前回見たので、繰り返しません。足すのは、種類株式にしたときだけ起きることを、3つです。1つ目。公開会社の定義です。前に見たとおり、公開会社は、全部または一部の株式の内容として、譲渡制限を設けていない会社でした。つまり、譲渡制限のない株式が1種類でもあれば、公開会社です。旅館の会社が、投資会社の種類にだけ、譲渡制限を付けなかったとします。ほかの種類が全部、譲渡制限付きでも、会社は公開会社になります。すると、さきほどの115条の上限がかかります。9号の監査役の選任権も、付けられなくなります。2つ目。取得の対価です。前回、全部の株式型では、対価に別の株式は出てこない、と言いました。全部の株式が同じ中身なので、渡せる別の種類の株式が、そもそも無いからです。種類株式の会社には、別の種類があります。だから、使えます。108条2項の5号ロと6号ロです。定款には、他の株式の種類と、種類ごとの数、またはその算定方法を定めます。使い道を2つ挙げます。1つ目は、投資会社の優先株式に取得請求権を付けて、対価を普通株式にする形です。投資会社は、いつでも、優先株式を普通株式に換えてもらえます。転換です。2つ目は、取得条項で、定めた日の到来を事由にして、対価を普通株式にする形です。その日に、優先の仕組みが終わります。

3つ目。取得条項で、一部の株式だけを取得するときの決め方です。前回見た、一部だけ取得する定めは、種類株式でも使えます。108条2項6号イです。取得する株式をどう決めるかは、持株数に応じた按分や抽選など、株主平等の原則、つまり、株主を、持っている株式の内容と数に応じて平等に扱う、という原則に沿うべきだ、という見解が有力です。条文の要件ではないので、見解として押さえてください。手続は、前回と同じです。取得請求権は請求した日に、取得条項は事由が生じた日に、会社が取得します。出入口の群は、誰が出入りするか、です。

全部取得条項

取得条項と全部取得条項の比較(行=取得条項〔6号〕/全部取得条項〔7号〕/列=①取得のきっかけ=定款に書いた事由が生じたとき/株主総会の決議で会社が決めたとき ②対象=一部でも全部でもよい/その種類の株式の全部 ③対価・日の決め方=定款にあらかじめ定める/総会で決める ④株主の守り方=付けるときにその種類の株主全員の同意〔111条1項〕/付けるときは決議+反対株主の買取請求・取得するときは価格決定の申立てと差止め) 図:取得条項と全部取得条項の比較

  • 行=取得条項〔6号〕/全部取得条項〔7号〕/列=①取得のきっかけ=定款に書いた事由が生じたとき/株主総会の決議で会社が決めたとき
  • ②対象=一部でも全部でもよい/その種類の株式の全部
  • ③対価・日の決め方=定款にあらかじめ定める/総会で決める
  • ④株主の守り方=付けるときにその種類の株主全員の同意〔111条1項〕/付けるときは決議+反対株主の買取請求・取得するときは価格決定の申立てと差止め

7号に入る前に、前回の問いを思い出してください。全部の株式に、取得条項を後から付けるには、決議はどれくらい重かったでしょうか? なぜそこまで重いのでしょうか?株主全員の同意でした。取得条項が付くと、株主は、自分の意思にかかわらず、株主の地位を奪われるおそれがあるからです。では、株主の地位を、株主総会の決議で奪える仕組みがあったら、どうでしょう。それが7号、全部取得条項付種類株式です。7号は、その種類の株式の全部を、会社が、株主総会の決議によって取得できる、という定めです。取得請求権は、株主が請求する。取得条項は、事由が生じたら取得する。7号は、会社が総会の決議で決める。きっかけが違います。定款には、取得対価の価額の決定方法と、総会の決議ができるかどうかの条件を定めます。前回、取得条項の決議の話で触れたことを回収します。全部取得条項は、種類株式に付ける別の制度で、決議で付けられ、反対した株主には買取請求がある。ある種類の株式に7号の定めを付ける定款変更では、種類株主総会の決議と、反対株主の買取請求が出てきます。今日はそこを深追いしません。取得条項との違いは、表のとおり4つです。きっかけ、対象、対価と日の決め方、そして株主の守り方。取得条項は、付けるときに、同意で守ります。前回の110条は、全部の株式に付ける場合で、株主全員の同意でした。種類株式の取得条項は、111条1項です。

条文会社法111条1項

会社法第111条第1項 種類株式発行会社がある種類の株式の発行後に定款を変更して当該種類の株式の内容として第百八条第一項第六号に掲げる事項についての定款の定めを設け、又は当該事項についての定款の変更(当該事項についての定款の定めを廃止するものを除く。)をしようとするときは、当該種類の株式を有する株主全員の同意を得なければならない。

発行したあとで6号の定めを付けるには、その種類の株主全員の同意が要ります。取られる人に決めさせる、という軸は、前回と同じです。全部取得条項は、付けるときは、全員の同意までは要らず、決議で足ります。そのとき反対した株主には、買取請求という出口があります。そのうえで、取得するときに厚く守ります。守るのは、株主の地位そのものではなく、その値段です。追い出されること自体は止められなくても、対価が安すぎれば、裁判所に公正な価格を決めてもらえる。その中身を、手続の順に追います。

全部取得の手続(特別決議で対価・割当て・取得日を定める〔171条1項・309条2項3号〕→取締役の理由説明〔171条3項〕・割当ては持株数に応じて〔171条2項〕→事前開示〔171条の2〕→取得日の20日前までにその種類の株主全員へ通知または公告〔172条2項・3項〕→価格決定の申立て〔172条1項〕/取得の差止め〔171条の3〕→取得日に会社が全部を取得〔173条1項〕→事後開示〔173条の2〕) 図:全部取得の手続

  • 特別決議で対価・割当て・取得日を定める〔171条1項・309条2項3号〕→取締役の理由説明〔171条3項〕・割当ては持株数に応じて〔171条2項〕→事前開示〔171条の2〕→取得日の20日前までにその種類の株主全員へ通知または公告〔172条2項・3項〕→価格決定の申立て〔172条1項〕
  • 取得の差止め〔171条の3〕→取得日に会社が全部を取得〔173条1項〕→事後開示〔173条の2〕

まず、取得の決議です。171条1項。

条文会社法171条1項

会社法第171条第1項(柱書・2号・3号) 全部取得条項付種類株式(第百八条第一項第七号に掲げる事項についての定めがある種類の株式をいう。以下この款において同じ。)を発行した種類株式発行会社は、株主総会の決議によって、全部取得条項付種類株式の全部を取得することができる。この場合においては、当該株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。 二 前号に規定する場合には、全部取得条項付種類株式の株主に対する取得対価の割当てに関する事項 三 株式会社が全部取得条項付種類株式を取得する日(以下この款において「取得日」という。)

株主総会の決議で、全部を取得できます。その決議で、取得対価についての事項、対価の割当て、取得日を定めます。この決議は、特別決議です。普通の決議より重く、原則として、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が要ります。309条2項3号。取締役は、総会で、全部を取得する必要がある理由を説明しなければなりません。171条3項です。対価の割当ては、持株数に応じて行います。171条2項です。次に、事前開示。171条の2。対価の相当性などを書いた書面を、本店に備え置いて、株主が見られるようにします。そして、取得日の20日前までに、その種類の株主全員へ通知します。公告で代えることもできます。172条2項と3項です。

条文会社法172条2項・3項

会社法第172条第2項・第3項 2 株式会社は、取得日の二十日前までに、全部取得条項付種類株式の株主に対し、当該全部取得条項付種類株式の全部を取得する旨を通知しなければならない。 3 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

ここからが、不満な株主の守り方です。1つ目は、裁判所への、取得価格の決定の申立てです。

条文会社法172条1項

会社法第172条第1項 第百七十一条第一項各号に掲げる事項を定めた場合には、次に掲げる株主は、取得日の二十日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、株式会社による全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定の申立てをすることができる。 一 当該株主総会に先立って当該株式会社による全部取得条項付種類株式の取得に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該取得に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。) 二 当該株主総会において議決権を行使することができない株主

取得日の20日前の日から、取得日の前日までの間に申し立てます。申立てができるのは、2種類の株主です。1号は、総会に先立って、取得に反対する旨を会社に通知し、かつ総会で反対した株主。ただし、その総会で議決権を行使できる株主に限ります。2号は、その総会で議決権を行使できない株主。こちらは、通知も反対も要りません。無議決権株式の株主が、典型です。買取請求との違いに注意してください。前に見た買取請求は、会社に対する請求でした。全部取得では、会社ではなく、裁判所に価格を決めてもらう申立てです。裁判所が決めた価格には、取得日後の法定利率の利息が付きます。会社は、決定までに、公正と認める額を仮払いすることもできます。守り方の2つ目は、差止めです。

条文会社法171条の3

会社法第171条の3 第百七十一条第一項の規定による全部取得条項付種類株式の取得が法令又は定款に違反する場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、当該全部取得条項付種類株式の取得をやめることを請求することができる。

取得が法令または定款に違反して、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、取得をやめることを請求できます。最後に、取得日です。取得日に、会社が全部の株式を取得します。173条1項。株主は、定められた対価を受け取る立場になります。173条2項。取得の後は事後開示です。取得日から6か月、書面を本店に備え置きます。173条の2です。対価が金銭などのときは、461条1項4号により、分配可能額の範囲内で行います。

全部取得の事例(A=創業家〔甲種9,000株〕/B=地域の株主M〔乙種〕/C=乙種が議決権のない種類のときの株主N/D=製造会社/乙種に全部取得条項/A側の総会の特別決議で乙種の全部を取得・対価は金銭/B=会社へ事前に反対を通知+総会で反対→取得日の20日前の日から前日までに裁判所へ価格決定の申立て/C=通知も反対も不要で申立てができる) 図:全部取得の事例

  • A=創業家〔甲種9,000株〕
  • B=地域の株主M〔乙種〕
  • C=乙種が議決権のない種類のときの株主N
  • D=製造会社
  • 乙種に全部取得条項
  • A側の総会の特別決議で乙種の全部を取得・対価は金銭
  • B=会社へ事前に反対を通知+総会で反対→取得日の20日前の日から前日までに裁判所へ価格決定の申立て
  • C=通知も反対も不要で申立てができる

数字で見ます。旅館とは別に、地方の製造会社を考えます。発行済み1万株。創業家が甲種を9,000株持っています。地域の10人の株主が、乙種を合計1,000株持っていて、乙種に全部取得条項が付いています。創業家は、この10人に金銭を払って、会社から退出してもらいたい。総会の特別決議で、乙種の全部を取得し、対価は金銭、と定めます。反対する株主のMさんは、総会の前に会社へ反対を通知し、総会でも反対します。そして、取得日の20日前の日から前日までの間に、裁判所へ申し立てます。もし乙種が議決権のない種類なら、乙種の株主は、通知も反対もしないまま、申立てができます。

少数派の株主を、金銭で会社から退出させる。これをキャッシュ・アウトと言います。生まれた経緯もお話しします。全部取得条項は、もとは、債務超過の会社の再建のために構想されました。株主総会の特別決議で、株式の全部を無償で取得してしまう、という仕組みです。成立した会社法では、債務超過は要件ではなく、有償でもよいことになりました。そのため、キャッシュ・アウトの手段として、広く使われました。注意が1つあります。対象の種類に、大株主の株式も含まれていると、大株主の株式も取得されます。割当ては持株数に応じて行うからです。たとえば、製造会社で、創業家の株式も地域の株主の株式も同じ種類だったとします。その種類の全部を取得すれば、創業家の株式まで会社に取られます。そこで、対価を別の種類の株式にして、創業家には1株以上が割り当たり、地域の株主には1株に満たない端数しか割り当たらない比率にし、端数を金銭に換える、という工夫が使われてきました。キャッシュ・アウトの他の方法との比較や、価格決定の判断の枠組みは、別の回で扱います。

旅館の悩みに戻る

使い方の4場面(ベンチャー・事業投資=1号2号の優先+8号拒否権+9号選任権+5号転換/事業承継=議決権を後継者に集め〔3号〕ほかの相続人には配当で手当て〔1号〕/買収防衛=8号拒否権/キャッシュ・アウト=7号全部取得条項/旅館の例=長女の普通株式+次男・三女の無議決権・配当優先の種類/投資会社の種類=1・2・8・9・5号を重ねる) 図:使い方の4場面

  • ベンチャー・事業投資=1号2号の優先+8号拒否権+9号選任権+5号転換
  • 事業承継=議決権を後継者に集め〔3号〕ほかの相続人には配当で手当て〔1号〕
  • 買収防衛=8号拒否権
  • キャッシュ・アウト=7号全部取得条項
  • 旅館の例=長女の普通株式+次男・三女の無議決権・配当優先の種類
  • 投資会社の種類=1・2・8・9・5号を重ねる

冒頭の悩みに戻ります。1つ目。経営は長女に、利益は3人に。長女の株式は、議決権のある普通株式。次男と三女の株式は、議決権のない、配当優先の種類です。3号と1号を重ねます。旅館の会社は公開会社でないので、115条の上限もかかりません。2つ目。投資会社の種類は、残余財産と配当が優先で、2号と1号。大事な事項に拒否権、8号。監査役を1人選ぶ、9号。そして、将来、普通株式に換えられるよう、取得請求権を付けて、対価は普通株式、5号。1つの種類に、5つの号を重ねています。使い道を、4つの場面で整理します。ベンチャーや事業への投資は、優先、拒否権、選任権、転換。事業承継は、議決権を後継者に集めて、ほかの相続人には配当で手当てする、という組み立て。買収防衛は、拒否権。キャッシュ・アウトは、全部取得条項です。事業承継については、議決権の違いと配当の違いを作れる、というところまでです。どう受け渡すかは、別の話でした。3つの群で通します。お金の順番は、誰が先に取るか。口の出し方は、誰が決めるか。出入口は、誰が出入りするか。

今日の地図(保存版)

まとめ(種類株式=108条1項の9つの事項について内容の異なる2以上の種類の株式・限定列挙/種類株式発行会社〔2条13号〕/お金の順番〔1・2号〕=優先は配当するなら先に・参加と累積は別の軸/口の出し方〔3・8・9号〕=複数議決権は不可・単元で近づける〔188条3項〕・115条は措置義務・拒否権は種類株主総会の決議がなければ効力を生じない・9号は指名委員会等設置会社と公開会社は不可/出入口〔4〜7号〕=対価に他の種類の株式・譲渡制限のない株式が1種類でもあれば公開会社・全部取得は特別決議→20日前通知→価格決定の申立て・差止め) 図:まとめ

  • 種類株式=108条1項の9つの事項について内容の異なる2以上の種類の株式・限定列挙
  • 種類株式発行会社〔2条13号〕
  • お金の順番〔1・2号〕=優先は配当するなら先に・参加と累積は別の軸
  • 口の出し方〔3・8・9号〕=複数議決権は不可・単元で近づける〔188条3項〕・115条は措置義務・拒否権は種類株主総会の決議がなければ効力を生じない・9号は指名委員会等設置会社と公開会社は不可
  • 出入口〔4〜7号〕=対価に他の種類の株式・譲渡制限のない株式が1種類でもあれば公開会社・全部取得は特別決議→20日前通知→価格決定の申立て・差止め

まとめです。種類株式は、108条1項の9つの事項について、内容の異なる2以上の種類を作るものです。9つは、お金の順番、口の出し方、出入口の3つの群で持ちます。短答では、次が問われます。9つの号と、その定義。種類株式発行会社の定義。優先は、配当するなら先に、という意味で、参加と累積は別の軸であること。複数議決権は作れないが、種類ごとの単元株式数で近づけられること。115条は、公開会社で議決権制限株式が2分の1を超えたら、直ちに措置をとる義務であること。拒否権は、種類株主総会の決議がなければ効力を生じないこと。108条1項のただし書で、指名委員会等設置会社と公開会社は9号を使えないこと。全部取得の手続、つまり特別決議、20日前の通知、価格決定の申立て、差止めも、押さえてください。

論文では、キャッシュ・アウトや事業承継の事例で、どの種類株式を使い、どの手続が要るのかを組み立てる土台になります。

参照条文

  • 会社法108条1項
  • 会社法2条13号
  • 会社法108条2項柱書
  • 会社法108条3項
  • 会社法188条3項
  • 会社法施行規則34条
  • 会社法115条1項
  • 会社法323条
  • 会社法111条1項
  • 会社法171条1項
  • 会社法172条2項・3項
  • 会社法172条1項
  • 会社法171条の3

会社法 全体ロードマップへ →

会社法 の復習ノートを1ページで通して読む(この回から)→