株主提案権
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第3章 機関 ㉙/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
株主の提案を、誰のお金で届けるのか
図:招集通知に載る株主提案
- 北斗電機の招集通知〔会社の議案=第1号議案 剰余金の配当の件・第2号議案 取締役2名選任の件/株主の提案=第3号議案 取締役1名選任の件〕
- 問い=この通知や資料を数万人の株主に届ける費用は誰が払うのか
- 答え=会社
- だから要件・上限・濫用の歯止めが要る
- 通しの軸=会社の負担と濫用の危険が大きい権利ほど要件が重い
上場会社の株主総会の招集通知を開くと、会社の議案のあとに、株主提案という議案が載っていることがありますよね。あれは、提案した株主が自分でお金を出して、全国の株主に送っているんですか。違います。通知や資料を作って、数万人の株主に届ける費用は、会社が払います。提案した株主は、一円も払いません。会社が反対するかもしれない提案なのに、会社のお金で届けるんですか。ここが、この回の核心です。株主の提案が、会社の費用で、他の株主に知らされる。だからこそ、誰でも無制限には使えません。要件があり、個数の上限があり、会社を困らせるためだけの提案は許されません。先に答えを言います。会社の負担と、濫用の危険が大きい権利ほど、要件が重い。この一本の筋で、今日の数字は全部説明できます。持株の1パーセントも、300個も、8週間も、10個もです。
図:この回の地図
- ①なぜ株主に提案権があるのか=招集は会社・乗せるのは株主
- ②3つの権利=何を・いつ・誰の費用
- ③要件=取締役会を置く会社だけ重い理由
- ④断れる提案=拒絶事由と10個の上限
- ⑤要件を満たしても許されない提案=権利の濫用
- ⑥会社が取り上げないとき
順番はこうです。まず、なぜこの権利があるのか。次に、3つの権利の違い。そして要件、断れる場合、濫用。最後に、会社が取り上げなかったときの道です。
なぜ株主に提案権があるのか
図:招集は会社・提案は株主
- 流れ=議題・議案は招集する側〔取締役・取締役会〕が決めるのが原則〔会社提案〕→少数の株主の意見は総会に乗らない→自分で招集する道〔297条=議決権の100分の3以上〕→株主が多い会社では集まらず事実上使えない〔例=北斗電機 議決権の総数100万個・3%は3万個・株主Xは5000個〕→そこで「開くのは会社のまま・乗せるのは自分の提案」=株主提案権
- 目的=総会の活性化・株主と経営者の意思疎通
議題と議案の違いを思い出してください。前の回で見ました。議題は、総会で決める課題。取締役選任の件、のようなものです。議案は、その課題への具体案。誰々を取締役にする、という提案です。そして、その議題を決めて総会を招集するのは、原則として、取締役、取締役会を置く会社では取締役会でした。つまり、総会に何が乗るかは、まず経営する側が決めます。これを、会社提案といいます。そこで、前に見た297条です。議決権の100分の3以上を持つ株主は、裁判所の許可を得て、自分で総会を招集できました。ところが、これは株主の多い会社では、現実に使えません。たとえば、議決権の総数が100万個の、北斗電機という上場会社。100分の3は、3万個です。株主のXさんが5000個を持っていても、まったく届きません。仲間を3万個ぶん集めて、請求して、裁判所の許可まで取る。これでは、取締役に反対の意見を、総会に出す道が、閉ざされているのと同じです。
総会を開くのは、会社のままでいい。株主は、自分の議題や議案を、その会社の総会に乗せてもらう。この権利が、株主提案権です。目的は、総会を活性化して、株主と経営者の意思疎通をはかることです。提案が可決されるとは限りません。賛成が少なくても、意見を他の株主に知らせる機会になります。制度の主眼は、そこにあります。会社の費用で届くとなると、会社の負担が気になります。その負担と、濫用の危険を、どこで受け止めるのか。それが、これから見る要件の話です。
3つの権利——議題を足す、議案を出す、議案を知らせる
図:3つの権利の比較表
- 303条=議題提案権:何を=この事項を総会の目的にせよ・いつ=総会前に取締役へ請求・会社の負担=議題が増え通知に書く
- 304条=議案提出権:何を=すでにある議題について具体案を出す・いつ=総会の場で・会社の負担=ほぼ無し
- 305条=議案の要領の通知請求権:何を=自分の議案の要領を招集通知に載せて他の株主に知らせよ・いつ=総会前に取締役へ請求・会社の負担=大〔会社の費用で全株主に周知〕
株主提案権は、実は3つの権利の総称です。条文は303条、304条、305条。何を、いつ、誰の費用で、が違います。1つ目、303条。議題提案権です。この事項を、総会の目的にしてください、と取締役に請求する権利です。たとえば、会社が出した議題は、剰余金の配当の件だけ。株主が、取締役選任の件も議題にしてください、と求める。これが議題提案権です。2つ目、304条。議案提出権です。総会の場で、すでにある議題について、具体案を出す権利です。会社の議題は取締役選任の件で、会社の議案は、甲さんを選ぶ。そこで株主が、会場で、乙さんを選んでください、と出す。いわゆる修正動議です。
議事を進めるための動議、たとえば休憩しましょうとかも、これですか。違います。議長の進め方に関する動議は、議案ではありません。304条は、議題について、何を決めるかの案を出す権利です。
条文会社法304条
会社法第304条 株主は、株主総会において、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次条第一項において同じ。)につき議案を提出することができる。ただし、当該議案が法令若しくは定款に違反する場合又は実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の賛成を得られなかった日から三年を経過していない場合は、この限りでない。
後ろのただし書は、断れる場合です。あとで見ます。ここでは、前半を確認してください。総会の場で、議決権を行使できる事項について議案を出せる。持株の条件も、期限もありません。3つ目、305条。議案の要領の通知請求権です。総会の前に、自分が出したい議案の要領を、招集通知に載せて、他の株主に知らせてください、と請求する権利です。要領とは、議案の中身の要点です。たとえば、さきほどの乙さんを選ぶ議案を、会場で出すのではなく、招集通知に載せて、全株主に前もって知らせてもらう。冒頭の招集通知に、株主の提案として載っていた議案が、これです。
図:3つの権利の関係
- A=提案する株主
- B=会社〔取締役〕
- C=他の株主
- 303条=AからB 議題に加えよ〔総会前〕
- 305条=AからB 議案の要領を招集通知に載せよ→BからC 招集通知で周知〔費用は会社〕
- 304条=A自身が総会の場で議案を出す〔Cも会場で聞く〕
304条があっても、305条は要ります。理由は2つ。1つ目は、準備です。会場でいきなり議案を出されても、他の株主は、賛成か反対か考える時間がありません。前の回の、準備の機会という物差しです。2つ目は、書面で議決権を行使する株主です。前に名前だけ出た、書面投票です。会場に来ない株主は、会場で出された議案に、賛成の票を入れる方法がありません。議案を、通知の段階で知らせておく必要があるのです。負担で見ると、304条は、会社の負担がほぼ無く、303条は議題が増えるだけ。305条は、通知や資料を作って全株主に届ける費用も会社持ちです。負担が最も大きいのは、305条です。この順に、要件が重くなります。
要件——取締役会を置く会社だけが重い理由
図:303条と304条の要件
- 303条議題提案権:取締役会を置かない会社=議決権のある株主なら誰でも・総会の場でも可・期限なし
- 取締役会を置く公開会社=議決権の100分の1以上または300個以上を6か月前から引き続き・総会の日の8週間前までに請求
- 取締役会を置く非公開会社=同上だが6か月の保有期間なし・8週間前までに請求
- 304条議案提出権=どの型でも議決権のある株主なら可・持株・期間・期限の要件なし
- 数字はいずれも定款で下げられる〔8週間・6か月は短くできる〕
復習の問いから入ります。取締役会を置く会社の総会で、議題に無かった事項を、決議できるでしょうか?原則できません。309条5項でした。取締役会を置く会社は、議題を通知に書かせ、それ以外は決議できない。この型の考え方が、今日の要件にも効いてきます。まず、議題提案権の条文です。
条文会社法303条1項
会社法第303条第1項 1 株主は、取締役に対し、一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次項において同じ。)を株主総会の目的とすることを請求することができる。
原則は、これだけです。議決権を行使できる事項なら、議決権のある株主が、誰でも、請求できます。持株の条件も、保有期間も、期限もありません。取締役会を置かない会社なら、総会の場でも、議題を出せます。取締役会を置く会社には、2項で、重い要件がかかります。この2項と3項は、前に、株主の権利の足切りを見たときに、一度読みました。今日は、なぜこの形なのかまで見ます。
条文会社法303条2項・3項
会社法第303条第2項・第3項 2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権又は三百個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができる。この場合において、その請求は、株主総会の日の八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までにしなければならない。 3 公開会社でない取締役会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。
括弧をほどきます。取締役会を置く会社では、議決権の100分の1以上、または、300個以上。この2つのうち、どちらか一方を満たせばよい。それを、6か月前から引き続き持っていること。そして、総会の日の8週間前までに請求すること。100分の1と300個の、どちらかでいいなら、どう違うんですか。具体例です。議決権の総数が4万個の、つばさ精機という上場会社。100分の1は400個です。300個のほうが低いので、300個持てば足ります。反対に、総数が100万個の北斗電機なら、100分の1は1万個。300個のほうが圧倒的に楽です。小さな持株でも提案できるように、個数の道も用意してあるわけです。問いです。つばさ精機に、議決権を200個、3年持っている株主がいます。総会の10週間前に、議題の追加を請求しました。できるでしょうか?
200個は、400個にも300個にも届きません。できないです。期間と期限は満たしていますが、持株の条件に届きません。3項は、非公開会社の特例です。6か月の保有期間が要りません。持株の条件と、8週間前までは、非公開会社でも必要です。前に見たとおり、6か月は、株を買ったばかりの人の濫用を、期間で防ぐ足切りでした。株を買ってすぐに、会社を困らせる提案をする。そういう使い方を、持ち続けた期間で止めます。非公開会社は、株式の譲渡に会社の承認が要るので、そういう人を、入口で止められます。だから、期間で止める必要がないのです。
取締役会を置かない会社が緩く、置く会社にだけ重い要件がかかるのには、理由が3つあります。1つ目は、前から見てきた型の考え方です。取締役会を置かない会社は、株主が経営に関わる前提です。議題を限らず、会場で決められます。株主が議題を出すのは、自然です。2つ目は、会社の負担です。取締役会を置く会社は、議題を通知に書いて、事前に株主へ知らせます。議題が増えれば、通知の準備が増えます。3つ目は、濫用の危険です。株主の多い会社ほど、嫌がらせ目的の提案が混じりやすい。この2つが大きい型にだけ、持株と期間と期限の足切りをかけているのです。もう1点。取締役会を置く会社では、議題にできるのは、総会の決議事項に限られます。前に見た295条2項、法律と定款に書いた事項です。そこに無い事項の決議を求める議題は、請求できません。
図:305条の要件
- 通知請求権:8週間前までの請求=本文=どの型でも必要
- 持株要件=ただし書=議決権の100分の1以上または300個以上を6か月前から引き続き=取締役会を置く会社だけ
- 取締役会を置く非公開会社=6か月の保有期間なし〔2項〕
- 取締役会を置かない会社=1株でも議決権があれば請求できる・ただし8週間前まで
- 比べる=303条1項は期限なし・305条は型を問わず8週間前
次は、305条の要件です。303条と似ていますが、一か所だけ、ずれがあります。
条文会社法305条1項
会社法第305条第1項 1 株主は、取締役に対し、株主総会の日の八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、株主総会の目的である事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知すること(第二百九十九条第二項又は第三項の通知をする場合にあっては、その通知に記載し、又は記録すること)を請求することができる。ただし、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権又は三百個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、当該請求をすることができる。
305条1項です。ここに、答案と短答の落とし穴があります。8週間前までの請求は、本文に書いてあります。ただし書の前です。ですから、取締役会を置かない会社にも及びます。持株と6か月の条件は、ただし書。取締役会を置く会社だけです。303条1項は、取締役会を置かない会社なら、期限がありません。305条は、置かない会社でも、8週間前まで。理由は、305条が、招集通知に載せる請求だからです。通知を作って発送するには、準備の時間が要ります。会社の準備のための期限、と整理できます。305条2項は、303条3項と同じ型です。
条文会社法305条2項
会社法第305条第2項 2 公開会社でない取締役会設置会社における前項ただし書の規定の適用については、同項ただし書中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。
非公開会社では、6か月の保有期間が要りません。持株の条件がかかるのは、取締役会を置く会社だけです。たとえば、あかり工房という、取締役会を置かない、株主3人の会社なら、1株しか持たない株主でも、305条の請求ができます。ただし、請求は、総会の日の8週間前までにしなければなりません。筋は一本です。会社の負担と濫用の危険が大きい、取締役会を置く会社にだけ、持株と期間の足切りがかかる。305条は通知に載せる請求なので、準備の時間として、8週間はどの型にもかかる。
断れる提案——拒絶事由と10個の上限
図:会社が断れる場合
- 拒絶事由=304条ただし書・305条6項で共通
- ①議案が法令・定款に違反する〔例=定款に取締役は5人以内とあるのに7人を選ぶ議案〕
- ②実質的に同一の議案が総株主〔その議案で議決権を行使できない株主を除く〕の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない〔例=去年の賛成3%の議案をまた出す〕→断れる/賛成12%なら断れない/趣旨=蒸し返しで総会の時間と会社の費用を使わせない/10分の1は定款で下げられる
要件を満たした株主の提案でも、会社が断れる場合があります。さきほどの304条のただし書、305条6項も同じ内容です。2つあります。1つ目は、議案が法令か定款に違反する場合です。たとえば、定款に、取締役は5人以内、とあるのに、取締役を7人選ぶ議案。そのまま可決しても、定款違反になるので、断れます。2つ目は、蒸し返しです。実質的に同じ議案が、総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から、3年を経過していない場合。3年と10分の1の数え方を、具体例で確かめます。去年、株主が、社名を変える議案を出して、賛成が3パーセントで否決されました。今年、同じ議案を出してきたら、断れます。賛成が12パーセントあったなら、10分の1を超えているので、断れません。
10分の1という線の趣旨で考えます。あまりに支持のない提案を、毎年、出し続けられると、総会の時間と会社の費用を、そのたびに使わされます。蒸し返しを防ぐためです。では、線をどこに引くか。総株主の議決権の1割の賛成も集められなかった議案は、続けて出しても、通る見込みが小さい。そう考えて、10分の1が線にされたのだと考えられます。線の高さそのものは、前に見た足切りと同じで、論理で1つに決まるものではありません。10分の1も、定款で下げられます。ここまでは、1つ1つの提案を断る話でした。次は、数の上限です。前に、濫用への手当てとして一言だけ触れたものです。令和元年の改正で、305条に入りました。
図:10個の上限と数え方
- 対象=305条の通知請求・取締役会を置く会社
- 10を超える数の議案については305条1項〜3項の適用なし=会社は通知しなくてよい〔全部載せても適法〕
- 数え方=役員等〔取締役・会計参与・監査役・会計監査人〕の選任の議案=全体で1
- 役員等の解任の議案=全体で1
- 会計監査人を再任しない議案=全体で1
- 定款変更の議案=原則は事項ごとに1・ただし異なる議決がされたら矛盾しうるものは1
- どれを外すか=株主が優先順位を定めていればそれに従い・無ければ取締役が定める
- 304条の会場での提出に上限はない
条文会社法305条4項
会社法第305条第4項 4 取締役会設置会社の株主が第一項の規定による請求をする場合において、当該株主が提出しようとする議案の数が十を超えるときは、前三項の規定は、十を超える数に相当することとなる数の議案については、適用しない。この場合において、当該株主が提出しようとする次の各号に掲げる議案の数については、当該各号に定めるところによる。 一 取締役、会計参与、監査役又は会計監査人(次号において「役員等」という。)の選任に関する議案 当該議案の数にかかわらず、これを一の議案とみなす。 二 役員等の解任に関する議案 当該議案の数にかかわらず、これを一の議案とみなす。 三 会計監査人を再任しないことに関する議案 当該議案の数にかかわらず、これを一の議案とみなす。 四 定款の変更に関する二以上の議案 当該二以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には、これらを一の議案とみなす。
305条4項です。取締役会を置く会社の株主が、議案の要領の通知を請求するとき、議案の数が10を超える場合。10を超える部分については、305条1項から3項の規定が適用されません。つまり、会社は、超えた分を、通知に載せなくてよいのです。載せても違法ではありません。数え方がポイントです。取締役選任の議案は、何人分でも、全体で1個。取締役などの役員等を解任する議案も、全体で1個。会計監査人を再任しない議案も、全体で1個。ここまでは、人数を増やしても数は増えません。人数で数えると、取締役を、何人分も選び替える提案だけで、10個がほとんど埋まってしまいかねないからです。会計監査人は、何も決めなければ、そのまま再任されます。だから、再任しない、という議案が別にあります。定款変更は、原則、事項ごとに1個。ただし、異なる議決がされたら、互いに矛盾しうるものは、まとめて1個です。問いです。株主が、取締役3人の選任、取締役1人の解任、定款変更を3つ、提案しました。定款変更の中身は、取締役の員数を3人以内にする案と、5人以内にする案と、本店の場所を変える案です。何個と数えるでしょうか?
選任が1、解任が1。員数の2つは矛盾するので、まとめて1。本店で1。合計4個です。10個以内なので、すべて通知を請求できます。
条文会社法305条5項
会社法第305条第5項 5 前項前段の十を超える数に相当することとなる数の議案は、取締役がこれを定める。ただし、第一項の規定による請求をした株主が当該請求と併せて当該株主が提出しようとする二以上の議案の全部又は一部につき議案相互間の優先順位を定めている場合には、取締役は、当該優先順位に従い、これを定めるものとする。
10を超えると、どれを外すのか。305条5項です。株主が優先順位を定めていれば、それに従って、10個に収めます。定めていなければ、取締役が定めます。会場での提出、304条にも、10個の上限はあるんですか。ありません。上限は、会社が費用で通知に載せる305条の話です。ここでも、会社の負担が大きいところにだけ、歯止めがかかっています。なぜ作られたのか。1人の株主が、極端に多くの議案を出す事例があったからです。その典型が、次の判決です。
要件を満たしても許されない提案——権利の濫用
図:判例の構図
- A=株主〔議決権380個・6か月以上保有・300個の要件を満たす〕
- B=会社〔上場・指名委員会等設置会社・取締役会設置会社〕
- AがBの総会に114個の議案を提案しようとする→Bが総会で対応可能な程度に絞るよう協議を申し入れる→Aは20個に絞るが特定個人の個人的な事柄を対象とする議案を撤回しない→Bは絞った後の一部も招集通知に載せない→Aが損害賠償を請求
- 原審=濫用を否定し請求を一部認める→高裁=濫用を認め請求を棄却→上告棄却・不受理
- 当時は個数制限の規定がない
事案を整理します。上場会社で、取締役会を置く会社です。株主が、議決権を380個、6か月以上前から持っていました。300個以上の要件は満たしています。この株主が、ある総会に、114個の議案を提案しようとしました。会社は、総会で対応できる数に絞るよう、協議を申し入れました。株主は、20個に絞りました。ただ、その中には、特定の個人の、個人的な事柄を対象にする議案が含まれていて、株主は、協議を経ても、それを撤回しませんでした。会社は、絞った後の議案の一部も、招集通知に載せませんでした。そこで株主が、会社に損害賠償を求めたのです。一審は、権利の濫用を否定して、請求を一部認めました。ところが、高裁は、濫用を認めて、請求を退けました。上告は、退けられています。当時は、個数の上限の規定は、ありません。判旨は、まず株主の目的と提案の数を見て、次に会社の側の求めを見て、最後に結論を出します。読みます。
判例東京高判平27・5・19 金判1473号26頁
株主提案権の行使と権利の濫用——正当な目的と提案の数 「72期株主総会に係る提案は,……個人的な目的のため,あるいは,会社を困惑させる目的のためにされたものであって,全体として株主としての正当な目的を有するものではなかったといわざるを得ない。また,72期株主総会に係る提案の個数も,……〔114という非現実的な数を20に減らしたという経緯からみても,〕株主の提案が株主としての正当な権利行使ではないと評価されても致し方ないものであった。」
続きです。会社の側から見た部分と、結論です。
判例東京高判平27・5・19 金判1473号26頁
株主提案権の行使と権利の濫用——会社の求めと結論 「他方,会社の側からみれば,株主に対し,その提案を招集通知に記載可能であり,株主総会の運営として対応可能な程度に絞り込むことを求めることには合理性があるといえるし,……〔会社が株主に協議を申し入れて調整に努めたという経過を経てもなお〕株主が特定個人の個人的な事柄を対象とする……議案を撤回しなかったことは,株主総会の活性化を図ることを目的とする株主提案権の趣旨に反するものであり,権利の濫用として許されないものといわざるを得ない。」 「そして,72期株主総会に係る提案が前記のような目的に出たものと認められることからすれば,その提案の全体が権利の濫用に当たるものというべきであり,……〔上記の措置には〕正当な理由があるから,このことが株主に対する不法行為となるとは認められない。」
持ち帰る点は3つです。1つ目。要件を満たした株主の提案でも、権利の濫用になることがある。根拠は、民法1条3項です。
条文民法1条3項
民法第1条第3項 3 権利の濫用は、これを許さない。
2つ目。判断の中身です。判決は、まず、株主としての正当な目的があったかを見ています。個人的な目的や、会社を困惑させる目的なら、正当な目的がない。次に、提案の個数が非現実的でなかったか。そして、会社が絞り込みを求めたことに合理性があり、協議をしても、株主が応じなかったか。目的と、数と、会社の協議への対応。この3つが、あてはめの材料です。濫用と判断する決め手は、制度の趣旨です。株主提案権は、総会を活性化するための権利です。個人的な事柄を対象にする議案を、多数並べて会社に処理させるのは、活性化に役立ちません。権利が認められた目的に反するので、許されない、という筋です。3つ目。濫用になれば、会社が提案を取り上げなくても、不法行為にはなりません。株主が求めた損害賠償は、認められない、ということです。問いです。要件を満たした株主の提案を、会社が取り上げなかった。常に、会社の不法行為になるでしょうか?
ならないです。濫用なら、許されない提案です。ただし、この判決は、個人的な目的や、会社を困らせる目的が認められた事案です。目的は正当で、数だけが多い提案まで濫用になるかは、この判決からは決まりません。濫用かどうかは一般に、目的という主観の面と、会社の利益を害するかという客観の面の両方から見ます。目的だけを見るのか、総会の運営への影響も見るのかは、議論があります。経営判断を縛る定款変更の提案が、どこまで許されるかも議論があります。答案では、正当な目的の有無と、数や会社の協議への対応の両方に触れておくと安全です。ここは、論文で論点になりうる部分です。
令和元年の改正では、濫用目的の提案を断れる規定も、検討はされました。ただ、その案は国会で削除され、現行法には、個数の上限だけが入っています。濫用目的の提案は、今も、権利の濫用という一般法理で処理します。
会社が取り上げなかったとき
図:会社が取り上げないときの道
- ①総会の前=仮処分で議案の要領の記載等を命じてもらう〔訴訟では間に合わない・保全の必要性の疎明が要る〕
- ②総会の後=決議取消しの理由になりうる〔議案の提出・要領の通知を無視して会社提案だけ可決→その決議は取消しうる/議題提案を無視→その議題の決議が無いので取消しの対象が無い・他の議題の決議は原則取り消せない〕
- ③損害賠償=不法行為〔前節の判決の争点〕
最後に、会社が適法な提案を取り上げなかった場合、株主はどうなるのか。3つの道があります。1つ目。総会の前なら、仮処分です。通常の訴訟では、総会に間に合いません。そこで裁判所に、議案の要領を通知に載せるよう命じてもらう。ただし、急いで救済する必要があることを、示す必要があります。2つ目。総会が終わった後です。決議の取消しの理由になりえます。ここは区別が大事です。議案の提出や、議案の要領の通知の請求を無視して、会社の提案だけが可決された。この場合、その決議は、取消しの理由があります。株主の議案は、同じ議題についての、もう一つの選択肢です。それを検討しないまま、会社の案だけで決めた。その決め方に、欠陥があるのです。一方、議題の提案を無視した場合は、取り消すものが、そもそもありません。株主が求めたのは、その議題について決議をすることです。議題が無視されれば、その議題について決議が無い。取り消す対象が、存在しないのです。他の議題の決議も、原則として、取り消せません。無視されたのは別の議題なので、他の議題の決め方には、欠陥が及ばないからです。ただし、2つの議題が密接に結びついていて、一方を審議するうえで、もう一方を考慮することが必要かつ有益と言え、しかも、会社が経営陣に都合よく進めるために、わざとその議題を取り上げなかった。そういう特別の事情がある場合に限って、取り消しうる、とした裁判例があります。
さきほどの例で言えば、会場で乙さんを選ぶ議案を出したのに無視されて、甲さんの選任だけが可決された。この決議は、取り消しうる。一方、配当の件だけの総会で、取締役選任の件も議題に、と求めたのに無視された。選任の決議は、そもそもありません。配当の決議も、原則として取り消せません。取消しの訴えそのものは、別の機会に見ます。ここでは、取消しの理由になりうる、までを押さえてください。3つ目は、損害賠償です。提案権の侵害は、不法行為になりえます。さきほどの判決も、これが争点でした。ただし、濫用なら、不法行為にはなりません。
株主提案権、もう一度
図:この回のまとめ
- 筋=会社の負担と濫用の危険が大きい権利ほど要件が重い
- なぜあるか=招集は会社・乗せるのは株主〔297条は株主の多い会社では事実上使えない〕
- 3つ=303条議題を足す・304条会場で議案を出す・305条議案の要領を招集通知に載せる〔会社の費用〕
- 要件=304条は誰でも・303条と305条の持株要件〔1%または300個・6か月〕は取締役会を置く会社だけ・非公開会社は6か月不要・8週間前は303条では取締役会を置く会社だけ・305条では型を問わない
- 断れる=法令定款違反・実質同一議案が10分の1未満で否決から3年
- 個数=305条で10個・選任解任は全体で1・定款変更は事項ごと
- 濫用=個人的・困惑目的で正当な目的なし・数・協議への対応
- 取り上げないとき=仮処分・取消しの理由・損害賠償
まとめです。一本の筋は、会社の負担と濫用の危険が大きい権利ほど、要件が重い、でした。株主提案権は、総会を開く権利ではありません。総会の招集は会社に任せたまま、自分の議題と議案を、乗せてもらう権利です。303条が議題、304条が会場での議案、305条が議案の要領の通知。会社の費用で全株主に届く305条が、負担の最も大きい権利です。要件は、取締役会を置く会社だけ重くなります。議決権の100分の1以上、または300個以上を、6か月前から。非公開会社は、6か月が不要。請求は、総会の日の8週間前まで。304条は、型を問わず誰でも。ひっかけは、305条の8週間前が、取締役会を置かない会社にも及ぶ点です。断れるのは、法令か定款に違反する議案と、10分の1未満の賛成から3年たっていない同じ議案。取締役会を置く会社では、通知の請求は10個までで、役員等の選任と解任はそれぞれ全体で1個と数えます。そして、要件を満たしても、個人的な目的や、会社を困らせる目的なら、権利の濫用です。
短答で問われるのは、まず次の数字です。100分の1、300個、6か月、8週間、10分の1、3年、10個。そして、取締役会の有無と非公開会社による差、304条は、型を問わないこと。そして、305条の8週間も型を問わないこと。どれも、よく問われます。議案の数え方もです。論文では、提案の拒絶が適法かどうかを、要件、拒絶事由、個数、濫用の順に検討します。取り上げなかった決議の効力は、議案か議題かで分けて考えます。
参照条文
- 会社法304条
- 会社法303条1項
- 会社法303条2項・3項
- 会社法305条1項
- 会社法305条2項
- 会社法305条4項
- 会社法305条5項
- 民法1条3項