刑法 ゼロから刑法#3

刑法の2つの機能

刑法の2つの向き=法益保護機能(成立へ)と自由保障機能(不成立へ)の綱引きを扱う回。保護法益は条文解釈の出発点、自由保障は罪刑法定主義の母体(憲31条)。

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第1章 刑法の基礎 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

軸(この回の背骨)

刑法は 2つの向きに引っ張られている=綱引き

  • 法益保護機能=守りたい利益を守るため、なるべく処罰したい(「成立」へ引っ張る)。
  • 自由保障機能=何が罪かを先に明示し、書いていない行為の自由を市民に保障する(「不成立」へ引っ張る)。

だから刑法は「善良な市民の味方」であり、同時に「犯罪者の味方」でもある。そして刑法の論点の多くは、この綱引きをどこで止めるかの問題=以後の全論点を見る眼鏡になる。


① 法益保護機能(守る側の顔) 〔短答・論文共通〕

① 法益保護機能

法益=法的に保護される利益。個人的法益(生命・身体・財産)だけでなく、放火罪が守る「公共の安全」のような社会的法益、内乱罪が守る「国家の存立」のような国家的法益もある。 守り方は2段構え=事前に威嚇(予告して思いとどまらせる)+事後に制裁(破った者に刑罰)。

🔴 一番の実益=保護法益 ≒ その条文の趣旨。各条文は「どの法益を守るために置かれたか(保護法益)」を持ち、それが条文の趣旨そのもの。条文の意味で迷ったら「この罪は何を守りたいか」に戻る——論文・短答で条文を解釈する出発点。

▼ 条文(法益保護の具体例・全文)

刑法199条(殺人罪) 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑に処する。

この条文は「生命」という法益を守るために置かれている。軸:守る利益を広く取るほど処罰が広がる=「成立」へ引っ張る力。


② 自由保障機能(市民を守る裏の顔) 〔短答・論文共通〕

② 自由保障機能

刑法は「これが犯罪だ」と先に明示する。裏返せば「書いていない行為は罰せられない」=市民の行動の自由を保障している。 例:道で困っている人を見て見ぬふりをしても、刑法に「助けなかった罪」が無い以上、罰せられない(書いてないことはやってよい)。 趣旨=国家が後から「お前は悪い」と勝手に処罰するのを防ぐ=国家刑罰権への歯止め。だから “犯罪者のマグナカルタ” とも呼ばれる。

制度的帰結=罪刑法定主義の母体。「あらかじめ法律で罪と刑を定めておけ」という罪刑法定主義は、この自由保障機能を制度化したもの。その憲法上の根拠が憲法31条。

▼ 条文(自由保障の制度的根拠・全文=核心カード)

憲法31条(適正手続) 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

軸:明示されたものしか罰しない=「不成立」へ引っ張る力。罪刑法定主義の中身(法律主義・事後法禁止・類推解釈禁止・明確性の原則)は #5 で扱う。


③ 2つの綱引き(緊張関係) 〔短答・論文共通〕

2つの機能の綱引き

法益保護=できるだけ成立へ/自由保障=できるだけ不成立へ。正反対を向く。保護を徹底すれば市民の自由が縮み、自由を重視すれば守れたはずの法益に処罰が及ばない。 この判断の蓄積を学ぶ——因果関係をどこまで認めるか・正当防衛はどこまで許されるか・未遂の処罰範囲——突き詰めれば「保護を取るか・自由を取るか」の綱引き。この眼鏡を持つと「なぜ学者が争うのか」が見える=暗記が理解に変わる


短答ひっかけ

  • 保護法益はその条文の「趣旨」と同義——条文解釈で迷ったら「何を守りたいか」に戻る
  • 自由保障機能は”犯罪者のマグナカルタ”とも呼ばれる(国家刑罰権への歯止め)
  • 法益保護機能は「成立」へ、自由保障機能は「不成立」へ引っ張る——正反対の方向
  • 憲法31条が自由保障機能の制度的根拠(=罪刑法定主義の母体)
  • 法益には個人的法益・社会的法益・国家的法益の3種がある

📝 論文の型

  • 該当なし(導入回)

今日の地図(保存版)

  • 法益保護機能=利益を守る(事前に威嚇+事後に制裁・保護法益≒趣旨)→「成立」へ
  • 自由保障機能=書いてないことは罰しない(国家への歯止め・憲法31条・罪刑法定主義の母体)→「不成立」へ
  • 2つは綱引き(できるだけ成立 ⇄ できるだけ不成立)
  • 論点の多くは、この綱引きをどこで止めるかの問題

次回は #4「客観主義と学派の対立」。

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