罪刑法定主義(後編)
問い:書かれた法律があれば、それで足りるか。文言の明確さ・刑の重さ・刑の定め方・刑の言い渡し方は、どこまで縛られるか。
骨組み
- 1明確性の原則(判例・昭50):あいまい不明確な刑罰法規は違反で無効になりうる。主な理由は2つ=行為をあらかじめ告知する機能を果たさない/運用が恣意に流れる
- 2明確性の判断基準(判例・昭50):通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当たるかの判断を可能にする基準が読みとれるか(どんな場合も白黒が付く完全な基準までは求めない)
- 3徳島市公安条例事件(判例・昭50):「交通秩序を維持すること」=殊更な交通秩序の阻害を避けよと読める → 違反でない。違憲・無罪としたのは一審・原審、最高裁は破棄して有罪
- 4罪刑の均衡(判例・昭49):刑罰規定が罪刑の均衡などから著しく不合理で、とうてい許容し難いときは違憲
- 5残虐な刑罰の禁止:。死刑そのものは残虐な刑罰に当たらない/残虐な執行方法を定める法律は違反(判例・昭23)
- 6刑の定め方(法定刑=不確定刑):絶対的不確定刑=禁止(刑の種類を定めないものも、拘禁刑のように量に幅のある種類だけ書いて量の範囲が無いものも)/相対的不確定刑=許される
- 7刑の言い渡し方(宣告刑=不定期刑):絶対的不定期刑(期間を定めない言渡し)=禁止/相対的不定期刑(長期と短期を定めた言渡し)=許される(少年法52条)
色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文、丸い札(出題)は押すと過去問の肢と正答が出ます。1〜3は同じ判決(徳島市公安条例事件)の理由・基準・当てはめ。6と7は項目7の表で分ける:行=法定刑(条文の書き方)=不確定刑/宣告刑(裁判所の言い渡し方)=不定期刑、列=絶対的(禁止)/相対的(許される)。
1明確性の原則:なぜ不明確な刑罰法規はだめか(最大判昭50・9・10)判例学説
- 罪刑法定主義=何が犯罪となり、どんな刑罰が科されるかを、あらかじめ・成文の法律で決めておかなければならないという原則。「成文」は書かれた法律という意味。
- 書かれていても中身が読み取れない条文は、「成文」の問題ではなく、明確性の原則という別の原則の問題。学説では、明確性と罪刑の均衡(項目4)が、罪刑法定主義から派生する原則として挙げられることがある。
- 判決は、不明確な刑罰法規を違反とする(下の引用)。手続の条文であるがなぜ文言の中身まで縛るのかについて、学説では、同条は手続の適正だけでなく刑罰法規の内容の適正(実体的適正)も求めている、と説明される。
- およそ、刑罰法規の定める犯罪構成要件があいまい不明確のゆえに憲法三一条に違反し無効であるとされるのは、その規定が通常の判断能力を有する一般人に対して、禁止される行為とそうでない行為とを識別するための基準を示すところがなく、そのため、その適用を受ける国民に対して刑罰の対象となる行為をあらかじめ告知する機能を果たさず、また、その運用がこれを適用する国又は地方公共団体の機関の主観的判断にゆだねられて恣意に流れる等、重大な弊害を生ずるからであると考えられる。
- しかし、一般に法規は、規定の文言の表現力に限界があるばかりでなく、その性質上多かれ少なかれ抽象性を有し、刑罰法規もその例外をなすものではないから、禁止される行為とそうでない行為との識別を可能ならしめる基準といつても、必ずしも常に絶対的なそれを要求することはできず、合理的な判断を必要とする場合があることを免れない。
- 「定義の『成文の』法律には、規定の中身が明確であることも含まれる」(中身の明確さは明確性の原則という別の原則の問題)
- 「刑罰法規には、禁止される行為を絶対的に識別できる基準が要求される」(必ずしも常に絶対的な基準は要求できない)
2明確性の判断基準:一般人に基準が読みとれるか(最大判昭50・9・10)判例
- ある刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法三一条に違反するものと認めるべきかどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによつてこれを決定すべきである。
- 基準となる人は、法律の専門家ではなく、通常の判断能力を有する一般人。
「街の美観を損なう行為をした者は、10万円以下の罰金に処する」という条例。ゴミを置く・派手な看板を出す・大声で客引きをする、のどれが当たるか一般人には読み取れない → 基準が読みとれない方向。対象が「ゴミの投棄」「屋外広告物の色や大きさ」のように具体的に書かれていれば話が変わる。
- 「明確かどうかは、法律の専門家が読んで判断できるかで決まる」(基準は通常の判断能力を有する一般人)
3徳島市公安条例事件の当てはめと結論(最大判昭50・9・10)判例
- 約300名の集団示威行進。先頭集団が車道上でだ行進(隊列をくねらせて進む行進)
- 被告人は自らもだ行進をし、先頭の列外で笛を吹き両手を振って、だ行進をさせるようせん動
- 起訴:自らのだ行進=道路交通法違反/せん動=市条例3条3号(「交通秩序を維持すること」)・5条違反
| 審級 | 条例3条3号 | 条例違反の点 |
|---|---|---|
| 第一審 | 明確性を欠きに反する | 無罪(道路交通法違反の点は有罪) |
| 原審 | 第一審の判断に過誤はない | 検察官の控訴を棄却 |
| 最高裁 | に違反しない | 原判決・第一審判決を破棄し、罰金1万円 |
- まず文言を批判:3号は文言だけからすれば義務の内容が具体的に明らかでない。典型的な行為を列挙例示して明確にすることが十分可能だったのに、それをしていない点を「立法措置として著しく妥当を欠く」とした。
- そのうえで判決は、次の順で3号の意味を読んだ:道路での集団行進は、交通秩序を必然的に何程か侵害する可能性を有することを免れない → 条例は届出制(事前の届出を求め、許可制はとらない)を採り、行進の形態から不可避的に生じる交通の障害は忍ぶべきものとして許容している → だから3号が禁じるのは、行進に不可避的に随伴する侵害ではない → 行進が秩序正しく平穏に行われることを求めても表現の自由を不当に制限しない → 3号が禁じるのは、平穏な行進に伴う程度を超えた「殊更な」阻害だ、と。
- 本条例三条が、集団行進等を行おうとする者が、集団行進等の秩序を保ち、公共の安寧を保持するために守らなければならない事項の一つとして、その三号に「交通秩序を維持すること」を掲げているのは、道路における集団行進等が一般的に秩序正しく平穏に行われる場合にこれに随伴する交通秩序阻害の程度を超えた、殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為を避止すべきことを命じているものと解されるのである。
- 例えば各地における道路上の集団行進等に際して往々みられるだ行進、うず巻行進、すわり込み、道路一杯を占拠するいわゆるフランスデモ等の行為が、秩序正しく平穏な集団行進等に随伴する交通秩序阻害の程度を超えて、殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為にあたるものと容易に想到することができるというべきである。
- これが項目2の基準の当てはめ:一般人は、自分の行為が平穏な行進に伴う程度の阻害にとどまるか、殊更な阻害をもたらすものかを考えれば「通常その判断にさほどの困難を感じることはないはず」として、基準は読みとれると判断した。
- さらに判決は、殊更な阻害は集団行進に不可欠な要素ではなく、通常さほどの困難なしに判断できることから、権利の正当な行使が阻害されるおそれや、機関による恣意的な運用を許すおそれは「ほとんど考えられない」とした。
- 本条例三条三号の規定は、確かにその文言が抽象的であるとのそしりを免れないとはいえ、集団行進等における道路交通の秩序遵守についての基準を読みとることが可能であり、犯罪構成要件の内容をなすものとして明確性を欠き憲法三一条に違反するものとはいえない…
- 「明確性を欠かない」ことと「望ましい書き方」であることは別:最高裁は文言を批判したうえで、違反ではないとした。
届出どおり整然と車道を進むだけ → 3号に当たらない。隊列をくねらせるだ行進で車道を広く塞ぐ → 殊更な交通秩序の阻害に当たる。
- 「徳島市公安条例事件で最高裁は、『交通秩序を維持すること』という規定を不明確でに違反するとした」(違憲・無罪としたのは一審・原審。最高裁は破棄して有罪)
- 「最高裁は、規定の文言は十分に具体的で、立法として問題は無いとした」(「立法措置として著しく妥当を欠く」と批判したうえで、基準は読みとれるとした)
4罪刑の均衡(最大判昭49・11・6 猿払事件)判例学説
- 学説では、は手続の適正だけでなく、刑罰法規の内容が適正であることも要求していると説明され(刑罰法規の実体的適正)、罪と刑の均衡はその1つとされる。
- 事件:郵便局に勤める国家公務員が、衆議院議員選挙の際に特定の政党を支持する目的で選挙用ポスターを掲示・配布した。国家公務員法が禁じる政治的行為に当たるとして、その罰則で起訴された。
- 猿払判決は、罰則の合憲性を検討する中で次のように述べ、結論として罰則はに違反しないとした(罪刑の均衡を述べる一文自体は条文を挙げていない。罰則の適用を憲法・違反としたのは第一審で、原審もこれを支持した)。まず原則=法定刑は国会が決める。
- 刑罰規定は、保護法益の性質、行為の態様・結果、刑罰を必要とする理由、刑罰を法定することによりもたらされる積極的・消極的な効果・影響などの諸々の要因を考慮しつつ、国民の法意識の反映として、国民の代表機関である国会により、歴史的、現実的な社会的基盤に立つて具体的に決定されるものであり、その法定刑は、違反行為が帯びる違法性の大小を考慮して定められるべきものである。
- 例外=著しく不合理なら違憲(判決の文では、こちらが先に置かれている)。
- 刑罰規定が罪刑の均衡その他種々の観点からして著しく不合理なものであつて、とうてい許容し難いものであるときは、違憲の判断を受けなければならないのである。
- この事件の結論:問題になった国家公務員法の罰則は合憲とされた。
軽い万引きに死刑を科す法律 → 手続が正しくても、罪と刑が著しく釣り合わない。のように「10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」と幅を持たせておけば、事案の重さに応じて釣り合いを取れる。
出題犯罪に比べて著しく均衡を失する重い刑罰を規定している刑罰法規は違憲である(○)
- 「法定刑をどう定めるかは国会の裁量なので、刑の重さを理由に刑罰法規が違憲とされることはない」(著しく不合理で許容し難いときは違憲)
5残虐な刑罰の禁止:(最大判昭23・3・12)条文判例
- :公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。→ 残虐な刑罰の禁止は、憲法に明文がある。
- 刑罰としての死刑そのものが、一般に直ちに同条にいわゆる残虐な刑罰に該当するとは考えられない。
- ただ死刑といえども、他の刑罰の場合におけると同様に、その執行の方法等がその時代と環境とにおいて人道上の見地から一般に残虐性を有するものと認められる場合には、勿論これを残虐な刑罰といわねばならぬから、将来若し死刑について火あぶり、はりつけ、さらし首、釜ゆでの刑のごとき残虐な執行方法を定める法律が制定されたとするならば、その法律こそは、まさに憲法第三十六条に違反するものというべきである。
| の残虐な刑罰か | |
|---|---|
| 刑罰としての死刑そのもの | 当たらない |
| 時代と環境において人道上残虐な執行方法(火あぶり・はりつけ・さらし首・釜ゆで) | 当たる=それを定める法律は違反 |
- 「残虐な刑罰の禁止は憲法に明文が無く、から導かれるにとどまる」(が明文で禁じる)
- 「判例は、死刑そのものがの残虐な刑罰に当たるとした」(死刑そのものは当たらない。当たるのは、時代と環境において人道上残虐な執行方法)
6刑の定め方:絶対的不確定刑と相対的不確定刑(法定刑)学説条文
- 法定刑=条文があらかじめ定めている刑の範囲。不確定刑は条文の書き方の話。
- 罪刑法定主義のもとでは、犯罪と刑罰はあらかじめ成文の法律で定めておかなければならない。だから、刑の種類や量を法律で定めきっていない絶対的不確定刑は禁止される。
- 絶対的不確定刑=許されない。2つの型がある:(a) 刑の種類も定めず「刑罰を科する」とだけ書く/(b) 拘禁刑のように量に幅のある刑の種類は書くが、その量の上限・下限を書かない(「〜した者は拘禁刑に処する」)。
- 相対的不確定刑=罪刑法定主義に反しない:刑の種類と、刑の量の上限・下限を定める。刑法典の刑は、ほぼすべてこの形。の「十年以下の拘禁刑」のように条文に上限しか無くても、下限は総則の(有期拘禁刑は一月以上二十年以下)で決まる。
- の「死刑に処する」のように刑が一つに決まっているものは、量の幅がそもそも無い=上限・下限の問題(不確定刑の問題)にならない。
「〜した者は拘禁刑に処する」とだけ書き、期間の上限も下限も無い → 刑の種類はあっても絶対的不確定刑=許されない。「6月以上7年以下の拘禁刑に処する」と書き直せば相対的不確定刑=罪刑法定主義に反しない。
- 「『〜した者は拘禁刑に処する』とだけ定める規定は、刑の種類を定めているので罪刑法定主義に反しない」(上限・下限が無ければ絶対的不確定刑)
- 「上限と下限の間で裁判所に幅を残す法定刑は、罪刑法定主義に反する」(相対的不確定刑=反しない)
7刑の言い渡し方:絶対的不定期刑と相対的不定期刑(宣告刑)学説条文
- 宣告刑=裁判所が実際の事件で言い渡す具体的な刑。不定期刑は裁判所の言い渡し方の話。
- 絶対的不定期刑=禁止:刑の期間をまったく定めずに言い渡すこと(「反省するまで施設に入れる」)。
- 相対的不定期刑=許される:判決で長期と短期を定めて言い渡すこと。
- 現行法では少年法52条:有期の拘禁刑で処断すべき少年に、長期と短期を定めて言い渡す(長期は15年・短期は10年が上限)。不定期刑では、短期の3分の1を過ぎれば仮釈放がありうる(少年法58条1項3号)=いつ出るかは、言い渡された範囲内で執行の段階で決まる。
- 18・19歳(特定少年)には、少年法52条の不定期刑は適用されない(少年法67条4項)=「少年なら誰でも不定期刑」ではない。
| 絶対的 | 相対的 | |
|---|---|---|
| 法定刑(条文の書き方)=不確定刑 | 絶対的不確定刑=禁止 刑の種類を定めない/種類だけで量の範囲が無い | 相対的不確定刑=許される 種類と上限・下限を定める(刑法典のほぼすべて) |
| 宣告刑(裁判所の言い渡し方)=不定期刑 | 絶対的不定期刑=禁止 期間をまったく定めない言渡し | 相対的不定期刑=許される 長期と短期を定めた言渡し(少年法52条) |
判決で「立ち直るまで拘禁する」と言い渡す → 期間の定めが無く許されない。「長期4年・短期2年」のように長期と短期を定めて言い渡す → 許される。
出題刑の長期と短期を定めて言い渡し、現実の執行期間をその範囲内で執行機関の裁量に委ねることは許されない(×)
- 「刑の長期と短期を定めて言い渡し、現実の執行期間をその範囲内で執行機関の裁量に委ねることは、許されない」(相対的不定期刑=許される。禁止されるのは期間をまったく定めない絶対的不定期刑)
- 「相対的不確定刑とは、裁判所が幅をもって言い渡す刑をいう」(不確定刑は条文の書き方。幅のある言渡しは不定期刑)