逮捕罪・監禁罪——「閉じ込められた」と気づいてなくても罪?
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第10章 自由・私生活の平穏に対する罪 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
保護法益——身体活動(移動)の自由 〔短答・論文共通〕

まず保護法益。この罪が守るのは、身体活動の自由です。場所的に移動する自由、と言ってもいい。ここには争いがありません。争うのは「自由」の中身。それが次の山場です。先に、客体にならない者を押さえます。自由を観念できない者です。一つ目は法人。会社のような存在ですね。だから法人は逮捕監禁罪の客体になりません。二つ目は、生まれたばかりの嬰児。これは学説、通説の理解です。そもそも自力で移動できないからです。動けなくしても、奪う自由がない。いい整理です。「動けなくする」罪だから、動ける者が前提なんです。
山場——可能的自由説 vs 現実的自由説 〔短答・論文共通(山場)〕

では山場。「自由」の中身に、二つの説があります。表で見ます。A説は可能的自由説。判例と多数説の立場です。「動こうと思えば、動けたはずの自由」と捉えます。移動できる可能性、選択肢を持っていること自体に価値がある、と。B説は現実的自由説。有力な反対説です。こちらは「現に動こうとしたときに、動ける自由」と捉えます。この一点の違いが、結論を分けます。たとえで言いますね。移動の自由を、いつでも開けられるドアだと思ってください。可能的自由説は、ドアが外から塞がれた瞬間に、自由が奪われたと見る。開けられるはずのドアが塞がれた。その時点でもう侵害だ、と。現実的自由説は、本人がドアを開けようとして初めて、塞がれてると分かる。なぜ判例は可能的自由説か。理由はこうです。移動の自由は、いつでも動ける状態そのものに意味がある。だから、たまたま気づかなかった、寝ていた、という偶然で保護が消えるのはおかしい。そこが核心です。この軸さえ握れば、次の二つの場合分けは一気に解けます。
場合分け①——認識なし(騙して車に乗せ発進) 〔短答頻出〕

場合分け①。冒頭の、騙して車に乗せる話です。事案を関係図で見ましょう。

甲が乙に「駅まで送るよ」と偽って、自分の車に乗せます。発進してから、中央ロックをかけて、乙を降ろさず走り続けた。そこが核心です。乙は拘束を認識していない。さあ、二つの説で見ます。可能的自由説なら、発進した時点で乙の移動の可能性は奪われている。だから発進時に監禁罪が成立。認識は要りません。現実的自由説なら、乙が現に動こうとして初めて自由が侵される。認識が必要になります。ここで判例の出番です。

昭和33年3月19日の決定です。判決じゃなく、決定。被害者を欺いて車に乗せ走行した事案でした。そこで、被害者が認識していなくても監禁罪が成立する、と判断した。これがこの論点の、答えを決める判例です。
場合分け②——意思能力欠如(熟睡・泥酔中に施錠) 〔短答 / 論文の骨格〕

場合分け②。今度は、相手が一時的に意思能力を欠いている場合。例えば、来客が応接間でうたた寝している間に、外から鍵をかける。これも可能的自由説と現実的自由説で分かれます。可能的自由説なら、目が覚めれば動けたはずの可能性を奪った。意思能力を欠いていても、可能性は奪われている。現実的自由説なら、現に動こうと思えない以上、その時点では侵害なし。施錠した時点では、まだ不成立になります。そこです。「自由」をどう捉えるか、この一本で全部決まる。
逮捕と監禁の区別 〔短答・論文共通〕

では、二つ目の疑問。逮捕と監禁の区別です。表で見ます。まず逮捕。人の身体を直接拘束することです。身体そのものを押さえて、移動の自由を直接に奪う。一方、監禁は、間接的な拘束。場所から逃げられなくすることです。一定の区域からの脱出を、不可能か、著しく困難にする。そこが区別の軸です。身体への直接拘束か、場所的な閉じ込めか。そして大事な注意。刑法の逮捕罪は、日常語の逮捕とは別物です。220条は「不法に」逮捕する罪。警察の適法な身柄確保とは違います。
監禁の手段——有形力に限らない(無形力も) 〔短答頻出〕

次に、監禁の手段。これが意外と広いんです。それが有形力。物理的に閉じ込める、典型的な監禁ですね。でも、監禁はそれだけじゃない。無形力でも成立します。例えば、だますこと。欺罔ですね。騙して車に乗せて、降ろしてと言われても無視して走り続ける。走行中の車に乗せ、降車要求を無視する。これも監禁です。もう一つは、脅すこと。脅迫です。例えば、車の中で「降りたら殺す」と脅す。そこです。心理的に脱出を困難にすれば、それも監禁にあたる。
継続犯・逮捕に続く監禁=包括一罪 〔短答〕

ここから短答向けの整理を、軽くまとめます。まず罪質。この罪は継続犯です。拘束を続けている間、ずっと実行行為が続く。帰結が二つ。一つは、公訴時効の起算点。行為が終わった時、つまり拘束が解かれた時から数えます。もう一つは、途中から加わった人。加わった後の拘束について、その人にも共犯が成立します。そのとおり、接続だけです。最後にもう一点、罪数を一つ。逮捕して、そのまま監禁した場合。全体で220条の一罪になります。包括一罪と呼びます。昭和28年の大法廷判決です。深入りはしません。
逮捕・監禁致死傷罪(221条)——結果的加重犯 〔短答(#37接続)〕

最後に221条、逮捕等致死傷罪です。条文を見ましょう。逮捕・監禁の結果、人を死傷させた場合の加重類型です。理論は#37の通りなので、接続だけ。一点だけ確認します。法定刑は「傷害の罪と比較して、重い刑により処断する」。よく覚えてました。数値の法定刑を持たず、傷害罪と比べて重い方を採る。致死傷の結果と、逮捕監禁との間に、因果関係が必要なのも#37通りです。
条文を確認——220条・221条 〔約束③(条文全文)〕

では核心の条文を、全文で確認します。まず220条。「不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の拘禁刑に処する」。区別は態様の違いで、扱いは同じ。そして「不法に」が大事。適法な身柄確保、現行犯逮捕などは、ここに含まれません。条文に「不法に」と明記されているのがポイントです。
短答ひっかけ

短答でひっかかる所を整理します。①保護法益は身体活動の自由。②判例・多数は可能的自由説。動こうと思えば動けた自由を守る。だから認識していなくても、意思能力を欠いていても成立。③逮捕は直接拘束、監禁は場所的拘束。④監禁の手段は無形力も含む。⑤継続犯で時効は行為終了時。逮捕に続く監禁は包括一罪。⑥221致死傷は結果的加重犯。傷害の罪と比較し重い刑により処断。
📝 論文の型

ここから論文の型です。覚える規範を、最小限にしぼります。逐語で覚えるのは、太字のキーワードだけ。あとは趣旨から復元します。核心はこう。保護法益は身体活動、場所的移動の自由。その「自由」とは、移動しようと思えば移動しうる、可能的自由をいう。だから拘束を認識していなくても、本罪は成立する。復元の鎖はこうです。まず保護法益は身体活動の自由。次に「自由」に二説あると示す。可能的自由説と現実的自由説。移動の可能性を有すること自体に意義がある、と。帰結として、認識不要、意思能力欠如でも成立、を導く。

答案の型で、流れを実演します。事例は①の車の話。まず問題提起。乙が気づいていなくても監禁罪が成立するか。次に規範。保護法益は可能的自由だから、認識は不要。最後にあてはめ。甲は乙の移動の可能性を奪っている。この、事例・問題提起・規範・あてはめの流れで書けば、答案になります。
今日の地図(保存版)

まとめます。逮捕・監禁罪は、身体活動の自由を不法に奪う罪。判例・多数は可能的自由説。動こうと思えば動けた自由を守ります。逮捕は直接拘束、監禁は場所的拘束。区別は拘束の態様。監禁の手段は、有形力に限らず、だます・脅すの無形力も含む。221の致死傷は結果的加重犯。傷害の罪と比較し重い刑。可能的自由説、という一点。第10章のつづき、意思決定の自由を侵す罪へ進みます。