略取・誘拐罪と人身売買罪——「連れ去り」の体系と解放減軽
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第10章 自由・私生活の平穏に対する罪 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
略取・誘拐とは何か(総説) 〔短答・論文共通〕

まず総説。略取・誘拐の罪とは何かを定義します。人を、保護された生活環境から離脱させて、自分や第三者の支配下に移す罪です。たとえで言うと、植え替えのイメージです。人を、生活圏という土から根ごと引き抜いて、自分の鉢に移し替える。その引き抜き方が二通りある。略取と誘拐です。略取は、暴行または脅迫を手段にする。つまり力ずく。まさにそれ。一方、誘拐は、欺罔または誘惑が手段。嘘で誘ったり、甘い話で釣ったりして連れ出す。そして両者を合わせて、拐取と呼びます。手段は違っても、引き離す効果はほぼ同じ。ここを押さえてください。
🔴 連れ去りの罪の全体像——行為×目的マトリクス 〔短答頻出〕

全体像のマトリクスです。でも見方は簡単。横は連れ去り方、縦は何のために、です。横軸は、どの行でも共通。略取か、誘拐か。それだけ。差がつくのは縦軸、目的です。上から下へ、だんだん悪質に。一番上、224条は目的が要らない基本類型。客体は未成年者。その下、225条は目的犯。営利・わいせつ・結婚・加害の目的。さらに下、225条の2は身代金目的。一気に重くなって無期もある。そして国外移送が226、人身売買が226の2。下ほど重い。この一枚を頭に入れれば、多すぎる条文がただの表になります。
🔴 核①——保護法益は2つ(本人の自由+監護権) 〔短答・論文共通〕

では核①。なぜ本人が同意しても誘拐になるのか。鍵は保護法益です。この罪が守るものは、実は2つあります。一つ目は、連れ去られた本人の自由。生活環境や移動の自由ですね。そして二つ目。親などの、監護権です。親が子を監護する権利。これも守られているんです。図を見てください。拐取者は、子の自由を侵害する。これが一つ目。それと同時に、親の監護権も侵害している。これが二つ目。そこです。だから法益は二元、つまり2つあると言われる。だから本人が同意しても、親の監護権を侵害すれば成立しうる。なお、客体が成年者なら、守るのは本人の自由だけです。
🔴 核①の帰結——未成年者の同意と最決平17・12・6 〔短答・論文共通〕

核①の帰結を、有名な最高裁の判例で確かめます。最決平17・12・6です。事案はこう。両親が別居していて、子は母と暮らしている。父も母も、共同で親権を持っている。共同親権者です。その父が、母が監護している2歳の子を、無断で力ずくで連れ去った。そこが論点です。最高裁はこう言いました。共同親権者の一方でも――他方の監護権を侵害する以上、未成年者略取罪の構成要件に該当する。「親だから何をしてもいい」わけではない。いい疑問です。だから二段構えなんです。まず構成要件に該当する。そのうえで、親子という関係から違法性が阻却されるかを、別に検討する。ただし本件では、その違法性阻却は否定されました。本人の同意があっても、結論は変わりません。
条文を確認——224条(未成年者略取及び誘拐) 〔約束③(条文全文)〕

では核心の条文を全文で確認します。まず224条。未成年者を略取し、又は誘拐した者は、三月以上七年以下の拘禁刑に処する。目的が要らない基本類型です。条件は「未成年者であること」だけ。18歳未満です。民法の改正で、20歳から18歳に下がりました。今は18歳未満が正解。ここは要注意です。
核②——225条 営利目的等略取・誘拐罪(目的犯) 〔短答頻出〕

次に核②。目的が悪質になると、罪が重くなる話です。まず225条。225条は目的犯。次の四つの目的のどれかが要ります。一つ目、営利の目的。自分や他人の、財産上の利益を得る目的。二つ目、わいせつの目的。性的自由を侵害する目的。三つ目、結婚の目的。結婚させる目的で、事実婚も含みます。四つ目、生命・身体への加害の目的。殺傷や暴行を加える目的。客体も「人」に広がる。未成年者でも成年者でも対象です。刑も1年以上10年以下と、224より重くなる。目的が悪質だから。いい質問。その場合、224は225に吸収されます。225一本で処理する。
条文を確認——225条(営利目的等略取及び誘拐) 〔約束③(条文全文)〕

225条の条文も全文で見ます。営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で――人を略取し、又は誘拐した者は、一年以上十年以下の拘禁刑。さっきの四つが、ここに書いてある。客体は「人」。目的と客体、二点を224と対比して押さえてください。
核②——225条の2 身代金目的略取等罪 〔短答頻出〕

核②の頂点が、225条の2。身代金目的です。1項は身代金目的の連れ去り、2項は連れ去った後の要求行為。ここで一つ、特殊な言葉が出ます。「安否を憂慮する者」。被拐取者の安否を、身内として心配するのが当然な、特殊な関係の人。でも判例、最決昭62・3・24は、もう少し広げました。たとえば、銀行の頭取を連れ去り、幹部に身代金を要求する場合。でも、幹部が頭取の安否を身内のように憂慮するのは社会通念上当然。家族に限らない。そこが押さえどころです。それでも成立します。これは「目的」の問題だから。目的犯なので、犯人の主観の中身が問題になるんです。
条文を確認——225条の2第1項(身の代金目的略取等) 〔約束③(条文全文)〕

225条の2、1項の条文を全文で確認します。近親者その他、安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、財物を交付させる目的で――人を略取し、又は誘拐した者は、無期又は三年以上の拘禁刑。人質の生命を危険にさらす、極めて悪質な罪だからです。なお2項は、最初は身代金目的でなく連れ去った後、要求した場合も同様。1項が連れ去り型、2項が後発の要求型、と整理してください。
226〜227——人身売買・事後従犯(マトリクスの残り) 〔短答〕

残りの条文を、表でまとめて見渡します。226は、国外に送り出す目的での連れ去り。拉致のイメージです。226の2が人身売買罪。これは次の表で詳しく見ます。226の3は、連れ去ったり売買した人を、実際に国外へ移送する罪。そして227。これは少し毛色が違います。事後従犯です。連れ去った犯人を助ける目的で、被害者を引き渡したり匿ったり。本犯の目的が身代金や営利だと、227の刑も重くなります。
226条の2——人身売買罪の項構造 〔短答〕

人身売買罪、226の2の項構造を表で見ます。でも考え方は一つ。基本は1項、人を買い受けること。そこから、悪質さに応じて加重されます。2項、客体が未成年者なら重くなる。3項、悪質な目的があれば、さらに重く。4項は、買うほうでなく売り渡すほう。5項は国外移送目的の買受け。基本の呉先生の本だと重要性は低いとされますが――条文構造そのものは短答で問われうる。だから表で整理しておきます。
🔴 核③——解放減軽(228条の2) 〔短答頻出・論文共通〕

いよいよ核③。三つ目の軸、解放減軽です。228条の2。なぜこんな規定があるか。趣旨から入りましょう。身代金目的の犯人は、人質を、その後に殺害してしまうことが少なくない。そこで、犯人に「後戻りの道」を作るんです。今ならまだ間に合う、と。政策的な減軽です。流れは三段。図で見ましょう。①まず、対象の罪を犯すこと。225条の2、つまり身代金が中心。ここで重要な引っかけ。224・225・226は、対象外です。違います。身代金まわりの罪だけ。225の2と、227の2項・4項。②次に、公訴が提起される前に、安全な場所に解放すること。いえ、定義があります。最決昭54・6・26ですね。救出されるまでの間に、具体的・実質的な危険にさらされるおそれのない場所。たとえば、人通りのある交番の前で解放するような。③そして効果。その刑を、必ず減軽する。必要的減軽です。「公訴提起前・安全な場所・必要的減軽」。この三点セットです。

228条の2の条文も全文で確認します。225条の2、又は227条2項・4項の罪を犯した者が――公訴が提起される前に、安全な場所に解放したときは、その刑を減軽する。条文に225の2、227の2項・4項と書いてある。それ以外は使えない。捕まって起訴される前なら、まだ間に合う。後戻りの道です。
予備・親告罪(締め) 〔短答〕

締めに、未遂・予備・親告罪を確認します。未遂は広く処罰されます。228条で各類型をまとめて未遂罰。予備もあります。身代金目的の連れ去りの予備、228条の3。ただし、実行に着手する前に自首すれば、刑は必要的に減免。ここで一点、混同しやすい所。解放減軽と、この自首減免。解放減軽は、連れ去った後、公訴提起前に安全な場所へ解放して減軽。自首減免は、予備の段階で、実行に着手する前に自首して減免。最後に親告罪。229条です。連れ去りの罪のうち、一部だけが親告罪です。2017年の改正で範囲が縮みました。営利目的や身代金目的は、非親告罪。被害が重大で公益性が高いから。古い本だと範囲が違うので注意。逆に親告罪に残るのは、224の未成年者略取誘拐罪が中心です。それと、224を幇助する目的の227条1項、これらの未遂。ここだけ告訴が要る。
短答ひっかけ

短答でひっかかる所を整理します。①全体は行為×目的のマトリクス。②保護法益は本人の自由と監護権の二元。224は目的不要の基本類型。③本人が同意しても、監護権侵害で構成要件該当。平17・12・6。④225の2の「安否を憂慮する者」は、特殊な関係者。昭62・3・24。⑤解放減軽は、対象が225の2と227の2項4項のみ。224・225・226は対象外。この五つで、略取誘拐の短答はかなり戦えます。
📝 論文の型

ここから論文の型です。核①を、答案で書ける形に落とします。逐語で覚えるのは、太字のキーワードだけ。あとは趣旨から復元します。核心はこう。本罪の保護法益は、本人の自由と、親権者等の監護権。だから本人が同意しても、監護権を侵害する以上、構成要件に該当する。そのうえで、親権者の連れ去りは、違法性阻却を別途判断する。復元の鎖はこう。まず保護法益が二元だと述べる。次に、だから本人同意でも監護権侵害で構成要件該当、と理由を述べる。butとして、親だから自由ではない、違法性阻却は別途、と限定する。

答案の型で、流れを実演します。事例は平17・12・6型。まず問題提起。親権者の連れ去りに、224条の構成要件該当性が認められるか。次に規範。保護法益は二元、本人同意でも監護権侵害で構成要件該当。最後にあてはめ。甲は、母の監護権を同意なく侵害して連れ去った。そのうえで違法性阻却を別途検討するが、本件では否定される。
今日の地図(保存版)

まとめます。略取・誘拐は、人を生活環境から引き離して支配下に移す罪。略取は暴行脅迫、誘拐は欺罔誘惑。全体は行為×目的のマトリクスでした。核①、保護法益は本人の自由と監護権の二元。客体の未成年者は18歳未満。224は目的不要の基本類型。核②、目的犯の段階的加重。225の2の「憂慮する者」は特殊関係者。公訴提起前に安全な場所へ解放すれば、必要的減軽。第10章のつづき、性的自由に対する罪へ進みます。