併合罪とかすがい現象
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第10章 罪数 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
3年の罪、2年の罪、1年の罪
図:足すのではなく、作り直す
3年の罪、2年の罪、1年の罪を1人が犯したとします。3つやったのだから、刑は合計6年でしょうか。素朴に考えると、そうなりそうです。罪の数だけ刑も積み上がるんじゃないんですか。実はそうなりません。日本の刑法は、複数の罪から刑を足し算しません。いくつもの罪をひとつのグループにまとめて、そのグループから刑をひとつ作り直します。今日はその作り方を、条文の手順どおりに1つずつ見ていきます。
なぜ「併合罪」という枠が要るか
図:4層の地図に、原則の枠を書き込む
罪数の全体地図を、もう一度出します。いちばん上が一罪の層、その下が科刑上一罪の層でした。今日はその下、いちばん下の層、併合罪に入ります。数罪が成立したとき、刑の言い渡し方には2つの考え方があります。1つは併科主義、罪ごとに刑を定めて、数個の刑をそのまま言い渡す考え方です。もう1つは単一刑主義、数罪をグループに分けて、グループごとに1つの刑を言い渡す考え方です。日本の刑法は単一刑主義を採っていて、そのグループの名前が併合罪です。単一刑主義を採る以上、まずグループという単位を決めないと、刑の作りようがありません。だから今日の問いは自動的に2つに割れます。1つめがグループの線引き、2つめがそのグループからの刑の作り方です。
山場①・45条の分断効
図:45条は、グループの線引きを決める条文
グループの線引きを決めているのが、45条です。全文を読みます。
条文刑法45条
刑法45条(併合罪) 「確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について拘禁刑以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。」
前段は、確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする、というだけです。まだ裁判で決着がついていない罪は、全部まとめて1つのグループになります。後段が例外です。ある罪について拘禁刑以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪と、その裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする、と定めています。確定裁判があっても、その中身が拘禁刑未満、つまり罰金などにとどまるなら、後段は働きません。前段のまま、グループは割れません。拘禁刑以上の重い裁判が確定したときだけ、グループが割れます。なぜ拘禁刑以上だけが境目になるかというと、拘禁刑以上の刑が確定すると、身柄を拘束されて生活がいったん断ち切られると理解されています。罰金を払って済む場合と違って、そこで生活に区切りができるので、その前の罪とあとの罪は同じグループにはまとめないと考えられます。
図:A・B・C・D・Eの時系列で、割れ方を見る
この分断の効き方を、時間の流れで確認します。AからEまで、5つの罪を順番に犯したとします。1つめのパターン、確定裁判がまだ無い場合です。この場合はAからEまで全部が、1つの併合罪です。前段どおりです。Cについて、拘禁刑以上の刑に処する確定裁判があった場合です。この場合、AとBとCが1つの併合罪、DとEが別の併合罪になります。1つのグループが、2つに割れます。ではCの確定裁判が、拘禁刑未満、たとえば罰金だった場合はどうなるでしょうか。この場合は、A・B・D・Eが1つの併合罪のままです。Cはすでに別に裁判が確定していますが、その確定が拘禁刑未満だったので、グループを割る力を持ちません。
図:何のために分断するのか
なぜこの分断を気にするかというと、同じグループなら、これから見る47条によって1つの刑にまとめられ、加重に上限が効きます。別のグループに分かれると、それぞれ別々に刑が作られて、あとで併せて執行されます。分断の有無で、被告人に来る結果が変わるのです。確定した裁判の対象になった事実について、あとから別に訴えられるかという問題は、一事不再理として、刑事訴訟法で扱います。
46条・死刑と無期の吸収
図:重い刑が、軽い刑を飲み込む
問い②、刑の作り方に進みます。まず46条です。全文を読みます。
条文刑法46条
刑法46条(併科の制限) 1項「併合罪のうちの一個の罪について死刑に処するときは、他の刑を科さない。ただし、没収は、この限りでない。」 2項「併合罪のうちの一個の罪について無期拘禁刑に処するときも、他の刑を科さない。ただし、罰金、科料及び没収は、この限りでない。」
グループの中に死刑や無期拘禁刑を科す罪があるときは、重い刑が軽い刑を飲み込みます。これを吸収と呼びます。ただし書で残るものが1項と2項で違う、というのがポイントです。死刑のときは没収だけが残り、無期拘禁刑のときは罰金・科料・没収の3つが残ります。なぜかというと、死刑や無期拘禁刑はどちらも自由や生命を奪う刑で、その中に罰金や科料のような財産刑を無理に混ぜる必要がありません。ですが財産刑は自由を奪う刑とは性質がまったく別の制裁です。だから命や自由を奪う刑がどれだけ重くても、財産刑だけは別枠で残るのです。
死刑には、罰金や科料のような比較的軽い財産刑まで併せて科す実益に乏しいという判断です。没収だけは、犯罪に使われた物や得た利益を手元に残さないという別の目的があるので、死刑でも残ります。無期拘禁刑のほうは、本人が生き続ける以上、財産について罰金や科料を科す意味が残ると説明されます。死刑よりも、残るものが多くなるわけです。
山場②・47条の有期の加重
図:有期の加重は、長期を1.5倍する
グループの中身が有期拘禁刑どうしのときは、47条が働きます。全文を読みます。
条文刑法47条
刑法47条(有期拘禁刑の加重) 「併合罪のうちの二個以上の罪について有期拘禁刑に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。」
本文が定めているのは、最も重い罪の長期に、その2分の1を加えたものを新しい長期とする、というルールです。つまり長期が1.5倍になります。さっきの3年・2年・1年の例だと、いちばん重い3年を1.5倍して4年6月、ということですか。そこは、この後の実演で確かめます。まず数字で体を動かしてみましょう。
図:実演①・殺人罪2罪なら30年
殺人罪が2罪、どちらも有期拘禁刑を選ぶべき場合を考えます。殺人罪の有期拘禁刑は5年以上で、有期の上限は20年です。だから最も重い罪の長期は20年、これを1.5倍すると30年になります。有期拘禁刑を加重できる上限は30年と定められていて、殺人罪2罪の併合罪は、ちょうどその上限にぴったり届く計算になります。ここまでが本文です。ただし書はどう効くのでしょうか。ここからが、47条でいちばん理解が要るところです。
図:実演②③・ただし書が効く場合と効かない場合
実演②です。長期3年の罪と長期2年の罪の併合罪を考えます。本文だけなら、最も重い罪の長期3年を1.5倍して4年6月です。ただし書の上限は、それぞれの罪の長期の合計、3年足す2年で5年です。4年6月は5年を超えていないので、ただし書は働かず、本文どおり4年6月が処断刑の長期になります。処断刑とは、前回出てきた、実際に量刑をする前提として組み立てる刑の枠のことです。合計を超えていなければ、そのまま本文が使われるんですね。実演③はどう違うんですか。実演③です。長期10年の罪と長期1年の罪の併合罪を考えます。本文だけなら、最も重い罪の長期10年を1.5倍して15年です。ですがただし書の上限は、それぞれの罪の長期の合計、10年足す1年で11年です。15年は11年を超えてしまうので、ここでただし書が効いて、11年が処断刑の長期になります。
軽い罪をいくら足しても、その合計は本文の1.5倍にはなかなか届きません。ただし書は、そういう場合に、加重の計算が実際の罪の重さから離れすぎないようにする歯止めです。これが、ただし書がある意味です。
図:動くのは長期だけ、短期は動かない
もう1つ、47条で押さえておくことがあります。47条の文言をよく見ると、出てくるのは「長期」という言葉だけです。短期を加重する規定は、条文のどこにも書かれていません。条文に規定が無い以上、短期は加重されません。前回は、最も重い刑で処断しても、処断刑の下限は軽い罪の法定刑の下限より軽くできない、という話でした。どちらも、条文に書いていない向きには下限を動かさない、という共通の筋です。
48条・罰金の併科
図:罰金は、吸収ではなく併科
続いて48条です。全文を読みます。
条文刑法48条
刑法48条(罰金の併科等) 1項「罰金と他の刑とは、併科する。ただし、第四十六条第一項の場合は、この限りでない。」 2項「併合罪のうちの二個以上の罪について罰金に処するときは、それぞれの罪について定めた罰金の多額の合計以下で処断する。」
1項は、罰金と他の刑は併科する、つまり両方とも科す、と定めています。さっきの46条は、重い刑が軽い刑を飲み込む吸収でしたが、48条は逆に、両方を科す方向です。ただし書で、46条1項の場合、つまり死刑を科すときだけは、この併科をしません。2項は、罰金どうしが2つ以上あるときのルールです。それぞれの罪の罰金の多額を合計して、その合計以下で処断します。罰金は合計以下であって、1.5倍という発想がそもそもありません。ここが47条と48条の違いです。
残りの条文——49条・50条・51条・53条
図:一覧で押さえる4つの条文
残りの条文は、一覧で押さえます。49条は没収の付加です。没収は、主刑に付け加えて科す付加刑です。ですから、重い罪について没収を科さない場合でも、他の罪に没収の理由があれば、そちらから付加できます。2個以上の没収があれば、それも併科です。53条は拘留と科料の併科です。拘留・科料と他の刑は併科しますが、46条の場合、死刑や無期拘禁刑のときは併科しません。2個以上の拘留・科料も併科です。拘留と科料は軽い刑なので、48条の罰金と同じ、併科の側です。ただし46条の場合だけは、重い刑に飲み込まれる吸収の側に回ります。
50条は余罪の処理です。併合罪のうちに、すでに確定裁判を経た罪と、まだ経ていない罪があるときは、経ていない罪について、あらためて処断します。これは、45条後段でグループが割れたときの後始末です。すでに裁判が終わった側はそのままにして、まだ裁判を経ていない側だけを、あらためて処断します。51条は刑の執行です。2個以上の裁判があったときは、その刑を併せて執行します。死刑を執行するときは没収を除いて他の刑を執行せず、無期拘禁刑を執行するときは罰金・科料・没収を除いて他の刑を執行しません。51条2項が、45条で分断が起きた場合の話に、まさにつながります。有期拘禁刑の執行も、最も重い罪の長期の1.5倍を超えられないと定めています。つまり、分断されて別々に裁判を受けても、実際に執行される段階で、加重の枠の外に完全に出るわけではないのです。分断すると何が変わるか、という問いへの答えが、ここで閉じます。たとえば、さきほどの長期3年の罪と長期2年の罪が、分断されて別々に裁かれたとしても、執行の段階では4年6月という枠を超えられません。
山場③・狭義の共犯の罪数処理
図:前回の物差しを、もう一度思い出す
続いて、前回から持ち越した論点に入ります。その前に1つ思い出してください。観念的競合で「1個の行為」かどうかを判断するとき、何を基準にすると習いましたか?法的評価をはなれて、構成要件的観点を捨象した、自然的観察で判断する、という基準でした。日常の感覚で1個の動きに見えるかどうか、でした。今日は、この物差しを、共犯者側の行為に当てはめる場面を見ます。
図:頼んだ人と実行した人で、数える基準がズレる
判例の物差しは、2本立てになっています。まず行為の個数は、共犯者本人がした行為を基準に数えます。他方で、成立する共犯の罪の個数のほうは、正犯側に成立した罪の個数を基準に数えます。数える場所が、この2つで別々だということです。共犯には教唆者と正犯という2人の主体がいるので、数える基準の置き場が、罪と行為でズレます。ここが今日の躓きどころなので、同じような事案を2通りに振って、表で対照します。
図:まとめて1回か、日を改めて2回かの対比
設例①です。頼んだ人が1回の電話で、2人を殺してくれと頼み、実行した人がそのとおり2人を殺害したとします。まず実行した人、つまり正犯には、殺人罪が2個成立します。ですから頼んだ人、つまり教唆者にも、殺人教唆が2個成立します。正犯の行為が1個だったか2個だったかは、ここでは影響しません。他方、教唆者がした行為は、1回の電話ですから1個です。行為は1個で、触れている罪名は2個。ですから観念的競合になります。設例②はどう違うんですか。設例②です。今度は、頼んだ人が、ある日に1人めを殺すよう頼み、日を改めてもう1人を殺すよう頼んだとします。正犯に殺人罪が2個成立する点は、①と同じです。教唆者に殺人教唆が2個成立する点も、①と同じです。違うのは、教唆者がした行為が2個あることです。日を分けて2回頼んでいるからです。行為が2個ありますから、こちらは併合罪になります。
ここが今日いちばん見てほしい構造です。片方だけが動きます。行為が1個の場合の判断は、前回渡した自然的観察の基準を、そのまま共犯者側の行為に当てるだけです。新しい暗記は要りません。
山場④・かすがい現象
図:家に上がり込んで2人殺すと、どうなるか
今日最後の論点です。AがXとYを順次殺害したとします。ふつうなら、殺人罪2個の併合罪です。では、XとYが同じ家に住んでいて、Aがその住居に侵入して2人を殺した場合はどうなるでしょうか。ただ、殺人罪が2個ある以上、話はそう単純ではありません。考えうる処理を3つ並べて、比較します。
図:3つの案を、全部並べる
案1、住居侵入と片方の殺人だけを牽連犯として、残るもう片方の殺人と併合罪にする案です。案2、住居侵入がそれぞれの殺人と牽連犯になり、その2つの牽連犯どうしを併合罪にする案です。案3、住居侵入と2つの殺人、全体をまとめて1個の牽連犯にする案です。順に見ていきます。案1には無理があります。住居侵入によって家に入り、2人とも同じように殺されているのに、なぜ片方の殺人とだけ牽連犯になるのか、説明ができません。案2にも無理があります。住居侵入罪は1個しか成立していないのに、その1個を、Xとの関係とYとの関係とで、2回使って罪数評価することになってしまいます。1個しかない罪を二重に働かせることになり、理論的に妥当ではありません。
案1にも案2にも無理がある以上、残るのは案3です。全体を1個の牽連犯とする、つまり科刑上一罪として扱います。判例もこれを認めています。
⭐ 論文で書く規範:【かすがい現象の処理】住居侵入罪と、その住居内で行われた複数の殺人罪は、全体を1個の牽連犯として扱い、最も重い刑1つで処断する。 (規範(最決昭29・5・27))
材木をつなぎ止める、コの字型の金具のことを、かすがいと呼びます。この事案では、軽い罪である住居侵入が、2つの重い殺人罪をつなぎ止めて、全体を1個にまとめてしまいます。この現象を、かすがい現象と呼びます。
図:路上でなら併合罪、家に上がればまとまる
ここに残る不当さを、正面から言います。路上で2人を順次殺害すれば、殺人罪2個の併合罪として、47条により、長期が30年まで加重されることがあります。ところが、家に上がり込んで2人を殺害すれば、全体が1個の牽連犯として、最も重い刑1つ分の枠で処断されます。住居侵入という軽い罪が挟まっただけで、刑の枠がかえって軽くなるのです。それでも判例が案3を採るのには、理由があります。1つは、さっき見たとおり、案1にも案2にもそれぞれ理論的な難点があり、乗り換える先として優れていないことです。もう1つは、殺人罪は法定刑の幅が広く、死刑や無期拘禁刑まで含んでいるので、処断刑の枠が1つ分になっても、実際に何年にするかという量刑の段階で、不当さを回避できるという考え方です。
枠、つまり処断刑の話と、実際に何年にするかという量刑の話は別です。この区別を言葉にできることが、今日いちばんの到達点です。量刑をどう考慮するかという中身そのものは、また別の回で扱います。
締め——第10章の総ざらい
図:4層のどれかに、ミニ事例を振り分ける
第10章の締めくくりに、3回分の内容をミニ事例で振り分けます。業務上横領罪が成立する場合の単純横領罪は、どうなるでしょうか。業務上横領罪の条文が、単純横領罪の場合をまるごと中に含んでいるので、業務上横領罪だけが成立して、単純横領罪はそもそも出番がありません。評価上一罪、法条競合ですね。次に、無免許運転をしながら酒酔い運転もした場合です。1個の運転行為が、無免許と酒酔いという2つの罪名に同時に触れていて、運転している間じゅう重なり続けているので、科刑上一罪、観念的競合です。次に、住居に侵入して1人を殺した場合です。
住居侵入が手段、殺人が目的の関係で、科刑上一罪、牽連犯です。最後に、まったく別の機会に、別の被害者に対して2回、窃盗を行った場合です。行為の重なりも手段・目的の関係も無く、それぞれ独立した罪として扱われるので、併合罪です。単純一罪、評価上一罪、科刑上一罪、併合罪、この4つの層のどれに当たるか判断できれば、罪数論はひととおり身についています。
今日の地図(保存版)
図:刑は足すのではなく、作り直す
今日を振り返ります。45条は、確定裁判が拘禁刑以上のときだけ、グループを2つに割ります。46条は死刑・無期拘禁刑の吸収、47条は有期拘禁刑の長期だけを1.5倍にし合計は超えない加重、48条は罰金の合計以下での併科でした。発展として、狭義の共犯の罪数処理は、罪の個数は正犯を基準に、行為の個数は共犯行為を基準に数え、この2つの基準がズレることで結論が分かれました。そしてかすがい現象は、軽い罪が重い罪をつなぎ止めて、全体が1個の牽連犯になってしまう現象で、その不当さは、枠の話と量刑の話を分けることで説明されます。
3つの罪が同じグループなら、最も重い罪の長期3年に2分の1を加えて、4年6月です。ただし各罪の長期の合計、3年足す2年足す1年で6年を超えることはできません。4年6月は6年を超えていないので、そのまま4年6月が処断刑の長期になります。合計の6年ではなく、条文の手順で作り直した4年6月です。
参照条文
- 刑法45条
- 刑法46条
- 刑法47条
- 刑法48条