不同意わいせつ罪・不同意性交等罪——2023年改正で何が変わったか
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第10章 自由・私生活の平穏に対する罪 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
総説——保護法益と2023年改正の趣旨 〔短答・論文共通〕

では総説。まずこの罪が守るもの、保護法益から。性的な事柄を、自分で決める自由。性的自己決定権とも言います。そのうえで、改正の趣旨を「軸」として確認します。旧法の中核は、犯人が「暴行又は脅迫」を用いたかどうかでした。現行法は、相手が「同意できる状態だったか」を中核に据えた。

そこです。たとえで言いましょう。旧法は「鍵をこじ開けたか」だけを見ていた。でも現行法は「そもそも本人がイエス・ノーを言える状態だったか」を見る。酔わせる、寝ている隙、地位の悪用。暴行脅迫がなくても捕捉できる。この改正で、旧178条の準強制という条文も消えました。それも176・177に統合・吸収されました。あとで触れます。
176条 不同意わいせつ罪の構成要件 〔短答・論文共通〕

では176条、不同意わいせつ罪の構成要件を、三段で見ます。第一に、8類型のどれか。次のセクションで詳しくやる、原因です。第二に、それによって「困難な状態」が生まれること。同意しない意思を、形成し、表明し、全うすることが困難な状態です。決める、口に出す、貫く。そのどれもが難しい状態、という意味です。ここに二通りある。aは犯人がその状態を生じさせる、生じさせ型。bはもともとある状態に乗じる、乗じ型。寝ている隙に、のように。第三に、その状態で、わいせつな行為をする。これで成立です。法定刑は6月以上10年以下の拘禁刑。「婚姻関係の有無にかかわらず」も明文。それと176条2項。わいせつでないと誤信させたり、人違いに乗じる型もある。これも処罰対象として並んでいます。あとは表で号を一望しましょう。
条文を確認——176条(不同意わいせつ罪) 〔約束③(条文全文)〕

核心の条文を全文で確認します。まず176条。次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により――同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ――又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は――婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑、と続きます。その八号には、地位に基づく影響力の話が書いてあります。13歳以上は「五年以上前の日に生まれた者」に限る、と。後で詳しく。
🔴 8類型(176条1項各号)——同意が困難になる原因のカタログ 〔短答頻出〕

中立的な言葉で淡々と見ます。共通の構造が一つ。各号は「させること/又はそれがあること」の両建て。それを頭に置いて。1号は暴行・脅迫。旧法の中核が、ここに格下げ。2号は心身の障害。障害により判断や抵抗が難しい状態です。3号はアルコールや薬物。強く酩酊させる、あるいは薬物の影響下。4号は睡眠その他、意識が明瞭でない状態。睡眠中や、もうろう。5号は不意打ち。同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない。6号は予想と異なる事態への、恐怖や驚愕。予期せぬ事態でフリーズする。7号は虐待に起因する心理的反応。継続的な虐待による、無力化です。そして8号。経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力による、不利益の憂慮。次のセクションで、図で見ましょう。立場の上下を背景にした類型です。わいせつでないとの誤信、行為者の人違い。これも処罰対象です。
8号 地位に基づく影響力(中立例) 〔短答〕

8号だけ、図で補足します。地位の悪用という、新しい類型です。たとえば、職場で立場が上の者が、その立場を背景に行為に及ぶ。ここで条文の言い方が独特です。「不利益を憂慮させる」。拒んだら立場が悪くなるのでは、と相手に思わせること、と理解してください。そこです。暴行も脅迫もない。でも地位に基づく影響力で不利益を憂慮させる。旧法では捉えにくかった部分が、ここで明文化されました。
176/177の道筋——8類型から行為まで 〔短答・論文共通〕

ここまでを一枚の道筋にまとめます。これが176も177も共通の骨格です。第一段、8類型のいずれか。これが原因です。第二段、その原因を生じさせるか、もともとある原因に乗じるか。第三段、それによって「困難な状態」が生まれる。第四段、その状態で行為する。わいせつな行為なら176、性交等なら177。だから不同意なら何でも、ではない。客観的な道筋で範囲を画す。8類型は、その道筋の入口にある「原因のカタログ」なんです。
177条 不同意性交等罪——性交等の定義拡張 〔短答・論文共通〕

次に177条、不同意性交等罪です。構造は176と同じ。違うのは行為の中身が「性交等」であること。ここで定義が広がりました。性交、肛門性交、口腔性交。ここまでが従来からの三つ。膣や肛門に、身体の一部、ただし陰茎を除く、又は物を挿入する行為。旧法は陰茎挿入の3類型だけでした。それが拡張されたわけです。それと、ここも「婚姻関係の有無にかかわらず」。夫婦間でも成立しうる。法定刑は5年以上の有期拘禁刑。176よりも重い。
条文を確認——177条(不同意性交等罪・性交等の定義) 〔約束③(条文全文)〕

177条の条文も全文で確認します。前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により――困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交等をした者は――だから177でも、同じ8類型が使われます。性交等の定義は、性交、肛門性交、口腔性交、又は身体の一部・物の挿入。そこは正確に。法定刑は五年以上の有期拘禁刑、です。では、その同意年齢の話を、次にフローで見ましょう。
🔴 性交同意年齢の引上げ(176③・177③) 〔短答頻出〕

ここは数字が大事です。性交同意年齢の引上げ。フローで見ます。それが16歳に引き上げられました。軸はこうです。16歳未満の相手には、8類型がなくても成立する。その年齢では、有効に同意できないとみなすからです。三段に分けます。まず13歳未満。これは無条件で成立。次に13歳以上16歳未満。ここは限定がつきます。行為者が5歳以上年長であること。相手が生まれた日より5年以上前に生まれた者。同年代どうしを、一律に処罰しないためです。中高生どうし、などを考えてみて。だから5歳差の要件で絞る。そして16歳以上は、原則どおり8類型が必要。覚え方は「16・13・5」。この三つの数字を押さえてください。
179条 監護者わいせつ罪・監護者性交等罪 〔短答・論文共通〕

次に179条、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪です。三つの要件で見ます。第一に、相手が18歳未満であること。第二に、その者を現に監護する者であること。第三に、影響力に乗じて。ここで重要なのが、8類型も暴行脅迫も同意の有無も問わない点。なぜなら、影響力の下では、そもそも対等な意思決定ができないからです。そこです。だから影響力に乗じたこと自体を捉える。「現に監護する者」とは。それが典型です。ただ、法的な権限の有無では決まりません。生活全般にわたって、監督し保護している者を含みます。それと、これは真正身分犯。監護者という身分がなければ成立しない罪。1項は176条1項の例による、2項は177条1項の例による、と条文が指示します。
条文を確認——179条(監護者わいせつ・監護者性交等罪) 〔約束③(条文全文)〕

179条の条文を全文で確認します。18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる――影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、176条1項の例による。ここがポイント。要件は18歳未満、現に監護、影響力に乗じて、だけ。2項は、同じ枠組みで性交等。こちらは177条1項の例による、です。176や177の法定刑を借りてくる、という言い方です。
🔴 主観的要件——性的意図は要るか(最大判平29・11・29) 〔短答・論文共通〕

ここから論文で書ける論点です。主観的要件、性的意図が要るかどうか。かつての判例、最判昭45・1・29は、これを必要としていました。ところが最大判平29・11・29が、47年ぶりに判例を変更しました。性的意図は、成立要件ではない。つまり、なくても成立しうる、と。軸はこうです。この罪が守るのは、被害者側の性的自由でしたよね。だとすると、侵害があるかは、行為そのものの性質や状況で決まる。そこです。行為者の内心で、成立するかしないかを分けるのは不合理。たとえば、報復や侮辱の目的で、性欲を満たす意図がなかったとしても。わいせつな行為に当たりうる。意図がなくても成立する、ということです。いえ、ゼロではありません。わいせつ該当性を判断する、要素の一つにはなる。現行の176でも、この考え方がそのまま当てはまります。
181条・178削除統合・非親告罪 〔短答〕

残りを手早く整理します。まず181条、致死傷です。結果的加重犯です。一般論は#37でやったので、ここは接続だけ。一点だけ。死傷は、手段の暴行脅迫から生じたものに限りません。「密接に関連する行為」から生じても足ります。最決平20・1・22。次に、旧178条。準強制という条文が消えた話。それは2023改正で、176・177に統合・吸収されました。最後に、これらの罪は非親告罪です。2017年の改正で、すでに非親告罪になっています。要注意です。なお性的姿態の撮影は、2023年の別の特別法で扱います。一言だけ。
短答ひっかけ

短答でひっかかる所を整理します。①現行176/177は8類型から行為への道筋。176は6月以上10年以下、177は5年以上の有期。②性交等は定義拡張。③同意年齢。16・13・5の数字。ここが一番狙われます。④179監護者罪は、18歳未満・現に監護・影響力に乗じて。8類型は不要。⑤主観的要件、性的意図は不要。最大判平29・11・29が判例変更。この六つで、性的自由の罪の短答は、かなり戦えます。
📝 論文の型

ここから論文の型です。さっきの論点を、答案で書ける形に落とします。逐語で覚えるのは、太字のキーワードだけ。あとは趣旨から復元します。核心はこう。わいせつな行為に当たるかは、行為の性質・状況で客観的に判断。そして、行為者の性的意図は、その成立要件ではない。この二つの言い回しを、逐語で押さえておく。復元の鎖はこう。まず保護法益が、被害者側の性的自由だと述べる。次に、侵害があるかは行為の性質・状況で客観的に決まる、と理由を述べる。よって性的意図は成立要件でない。最大判平29・11・29、昭45・1・29を変更。趣旨さえ分かっていれば、その場で組み立てられます。

答案の型で、流れを実演します。事例は平29型です。まず問題提起。性的意図のない甲の行為に、わいせつな行為該当性が認められるか。次に規範。わいせつ該当性は客観的に判断、性的意図は成立要件でない。最後にあてはめ。甲の行為は、性質や態様から客観的に性的な意味をもつ。報復・侮辱目的は、判断要素の一つにとどまり、欠けても成立を妨げない。
今日の地図(保存版)

まとめます。2023改正は、処罰の中核を移した改正でした。176と177は、8類型から困難な状態、そして行為への道筋。性交等は定義が拡張。婚姻関係の有無も問わない。179監護者罪は、18歳未満・現に監護・影響力に乗じて。8類型は不要。旧178の準強制は統合・削除、これらの罪は非親告罪。第10章のつづき、住居侵入罪へ進みます。