名誉毀損罪の成立要件・侮辱罪(前編)
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第11章 秘密・名誉・信用・業務に対する罪 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
名誉に対する罪の全体像/名誉の3分類 〔短答・論文共通〕

まず保護法益です。名誉には、3つの意味があります。一つ目が内部的名誉。その人の、客観的な真の価値です。でも、これは他人の言葉では害しようがない。だから保護法益にはしません。二つ目が外部的名誉。社会がその人に与えている評価、世間の評判です。これが、判例・通説の保護法益です。名誉感情。本人が抱く主観的な感情、いわばプライドです。ここで、なぜ判例が外部的名誉を採るか。決め手があります。230条は「公然と」を要求しています。公然と、です。だから密室で本人に暴言を吐いても、名誉毀損にはならない。密室の暴言は、本人のプライドは傷つけても、社会の評価は下げない。これが外部的名誉説とぴったり噛み合う。名誉感情説だと、密室の暴言も処罰できてしまう。条文と合わないんです。たとえで言うと、守るのは「真の価値」でも「プライド」でもない。世間があなたに貼っている、値札です。社会的評価という値札。本当のことでも、それを公にすれば、値札は下がる。
条文を確認——230条(1項=名誉毀損罪/2項=死者の名誉毀損) 〔約束③(条文全文)〕

核心の条文を全文で見ます。230条です。色分けしましょう。金色が1項、名誉毀損罪。公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は。ここからが大事。その事実の有無にかかわらず。赤い部分です。真実でも虚偽でも、関係なく成立する、という意味です。刑は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金。要注意です。現行は拘禁刑に一本化。古い表記の刑名は使いません。紫が2項。死者の名誉毀損です。これは少し違う。死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示した場合でなければ罰しない。生きている人は真実でも成立。でも死者は虚偽に限る。後でまた触れます。
🔴 成立要件フロー——公然性・事実の摘示・評価低下の危険 〔短答・論文共通〕

では成立要件です。3つのステップをフローで通します。一つ目が公然性。「公然と」です。定義はこう。不特定または多数人が認識しうる状態。どちらか一方で足ります。これは後で図で詳しくやります。社会的評価を低下させる、具体的な事実を示すこと。そして真実か虚偽かを問わず成立。公知の事実でも成立しうる。三つ目が、社会的評価を低下させる危険。既遂の話です。そこが大事。これは抽象的危険犯。下がる危険を生じれば既遂です。あとで詳しくやりますが、覚えておいてください。「真実なら救済は?」という疑問は当然出ます。その救済が、230条の2と真実性の錯誤。これは後編で扱います。
🔴 公然性=伝播可能性 〔短答・論文共通〕

公然性を、図で深掘りします。まず言葉の意味から。不特定とは、相手が限定されないこと。誰が見るか分からない状態です。多数とは、特定だけど、人数が多いこと。どちらか一方で足ります。両方そろう必要はない。いい質問です。そこで伝播可能性、という考え方が出てきます。図を見て。甲が、3人だけのグループに書き込んだとします。一見、公然性はなさそうです。でも、その3人を考えてみて。そこです。特定少数に告げても、不特定または多数へ伝播する可能性がある。これが伝播可能性の理論。判例の立場です。だから「内輪だけ」と思っても、油断できないわけです。
事実の摘示——具体的・真偽不問・公知でも可 〔短答・論文共通〕

次に事実の摘示です。ここが侮辱罪との分かれ道になります。社会的評価を低下させる、具体的な事実であること。たとえば「あいつはバカだ」「無能だ」。これは事実ですか。抽象的な価値判断、ただの罵倒です。これは事実の摘示ではない。名誉毀損ではなく、侮辱罪の領域になります。後で対比します。「あいつは在職中に会社の金を横領した」。このレベルの具体性です。そして、ここでも真偽は問わない。本当でも嘘でも成立。さらに、公知の事実でも成立しうる。すでに知られた事実でも、改めて摘示すれば成立しうる。SNSで「Xには昔、前科がある」と投稿する。仮にそれが本当でも。だから原則成立。なぜ真実でも成立するか、思い出して。救済の道は230条の2。これは後編で。
客体(法人も含む)・死者230②・親告罪232 〔短答頻出〕

客体、つまり誰の名誉が守られるか、です。特定された人。でも、それだけじゃない。法人も含みます。いい指摘です。会社に名誉感情はない。でも社会的評価はある。会社の社会的評価も外部的名誉。だから法人も客体になる。集団に向けた摘示も、構成員が特定できる範囲で成立しうる。次に、さっき触れた死者の名誉毀損。230条2項です。亡くなった人については、嘘の事実を摘示した場合だけ罪になる。歴史的な評価や、表現の自由との調整から、虚偽限定なんです。最後に親告罪。232条で、この章の罪は親告罪です。なぜか。訴追すること自体が、かえって名誉を害しうるからです。だから本人や遺族の意思に委ねる。条文を見ましょう。この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。これが232条です。それと、さっき後回しにした抽象的危険犯の話を、ここで詰めます。「毀損した」は一見、現実に評価が下がる侵害犯に見えます。でも、現実に評価が下がったかを立証するのは、とても難しい。だから、下がる危険を生じさせれば既遂、と解する。これが抽象的危険犯です。
🔴 侮辱罪(231条)——名誉毀損との対比 〔短答・論文共通〕

ここで疑問②、名誉毀損罪と侮辱罪の違いです。対比表で見ましょう。区別は一点だけ。具体的事実の摘示があるか、ないか。「在職中に横領した」のように具体的事実を示せば、名誉毀損。それは事実を摘示していない。だから侮辱罪になります。条文も見ましょう。231条です。

条文の冒頭。事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は。刑は、一年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金。実はこの法定刑、2022年の改正で引き上げられました。ネット上の中傷が深刻になったからです。昔は軽い刑だけでした。古い本の刑名だけ、というのは改正前の旧表記です。もう一つ大事な点。侮辱罪も、法人に成立します。判例が認めています。会社に名誉感情はないのに、です。そこが学説の決め手です。少しだけ説の対立を見ましょう。判通は外部的名誉説。名誉毀損も侮辱も、守るのは外部的名誉。これに対して二元説。名誉毀損は外部的名誉、侮辱は名誉感情だ、と。231条の法定刑が低いからです。守る利益が違うはずだ、と見る。名誉感情を持たない、幼児や法人への侮辱が成立するか、です。でも判例は、法人への侮辱を認める。外部的名誉説と整合します。
短答ひっかけ

短答でひっかかる所を整理します。①保護法益は外部的名誉。②公然性は、不特定または多数人。特定少数でも伝播可能性で成立。④既遂は抽象的危険犯。現実の評価低下はいらない。客体は法人も含む。⑥侮辱罪は事実を摘示しない。区別は具体的事実の摘示の有無。この七つで、名誉毀損罪の成立要件は、かなり戦えます。
今日の地図(保存版)

まとめます。守っているのは社会の評価です。だから本当のことでも、公にすれば原則成立する。成立要件は3つ。公然性、事実の摘示、評価低下の危険。既遂は抽象的危険犯。客体は法人も含む。死者は虚偽限定。そして侮辱罪。区別は、具体的事実の摘示があるかないか。侮辱罪は法人にも成立、2022改正で厳罰化されました。そこです。真実なら罰しない仕組み、230条の2と真実性の錯誤。名誉毀損の救済、真実性の証明と錯誤に進みます。