刑法 ゼロから刑法#51

名誉毀損罪の成立要件・侮辱罪(前編)

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第11章 秘密・名誉・信用・業務に対する罪 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

名誉に対する罪の全体像/名誉の3分類 〔短答・論文共通〕

名誉に対する罪の全体像/名誉の3分類。①内部的名誉=その人の客観的な真の価値(人格そのもの)=他人の言葉では害せない=保護法益にしない。②外部的名誉=社会がその人に与えている評価(世間の評判)=🔴保護法益(判例・通説)。③名誉感情=本人が抱く主観的な感情(プライド・自分は尊重されているという気持ち)。整合性の決め手=230条が「公然と」を要求→密室の暴言は名誉感情を害すが社会の評価は下がらない=不可罰。名誉感情説では密室の暴言も処罰できてしまい、条文(公然性を要求)と噛み合わない→外部的名誉説(判通)。たとえ=守るのは「真の価値」でも「プライド」でもなく、世間があなたに貼っている値札(社会的評価)。

まず保護法益です。名誉には、3つの意味があります。一つ目が内部的名誉。その人の、客観的な真の価値です。でも、これは他人の言葉では害しようがない。だから保護法益にはしません。二つ目が外部的名誉。社会がその人に与えている評価、世間の評判です。これが、判例・通説の保護法益です。名誉感情。本人が抱く主観的な感情、いわばプライドです。ここで、なぜ判例が外部的名誉を採るか。決め手があります。230条は「公然と」を要求しています。公然と、です。だから密室で本人に暴言を吐いても、名誉毀損にはならない。密室の暴言は、本人のプライドは傷つけても、社会の評価は下げない。これが外部的名誉説とぴったり噛み合う。名誉感情説だと、密室の暴言も処罰できてしまう。条文と合わないんです。たとえで言うと、守るのは「真の価値」でも「プライド」でもない。世間があなたに貼っている、値札です。社会的評価という値札。本当のことでも、それを公にすれば、値札は下がる。

条文を確認——230条(1項=名誉毀損罪/2項=死者の名誉毀損) 〔約束③(条文全文)〕

刑法230条(名誉毀損)。1項=名誉毀損罪(金色)=公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず(赤強調)、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。2項=死者の名誉毀損(紫・虚偽限定)=死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。「その事実の有無にかかわらず」=真実でも原則成立(救済=230条の2は後編)。接続詞「又は」・漢数字は e-Gov 正文どおり。

核心の条文を全文で見ます。230条です。色分けしましょう。金色が1項、名誉毀損罪。公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は。ここからが大事。その事実の有無にかかわらず。赤い部分です。真実でも虚偽でも、関係なく成立する、という意味です。刑は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金。要注意です。現行は拘禁刑に一本化。古い表記の刑名は使いません。紫が2項。死者の名誉毀損です。これは少し違う。死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示した場合でなければ罰しない。生きている人は真実でも成立。でも死者は虚偽に限る。後でまた触れます。

🔴 成立要件フロー——公然性・事実の摘示・評価低下の危険 〔短答・論文共通〕

🔴 名誉毀損罪の成立要件フロー(230条1項)。①公然性=公然と=不特定または多数人が認識しうる状態(どちらか一方で足りる)。特定少数に告げただけでも、伝播可能性があれば公然性あり。②事実の摘示=社会的評価を低下させる具体的な事実を示すこと。真実か虚偽かを問わず成立(「その事実の有無にかかわらず」)・公知でも可。③社会的評価を低下させる危険=既遂は抽象的危険犯(現実に評価が下がらなくても、下がる危険を生じれば既遂)→名誉毀損罪成立(真実でも!)。「本当のことでも成立するなら救済は?」→真実なら罰しない仕組み=230条の2・真実性の錯誤は後編へ送り。

では成立要件です。3つのステップをフローで通します。一つ目が公然性。「公然と」です。定義はこう。不特定または多数人が認識しうる状態。どちらか一方で足ります。これは後で図で詳しくやります。社会的評価を低下させる、具体的な事実を示すこと。そして真実か虚偽かを問わず成立。公知の事実でも成立しうる。三つ目が、社会的評価を低下させる危険。既遂の話です。そこが大事。これは抽象的危険犯。下がる危険を生じれば既遂です。あとで詳しくやりますが、覚えておいてください。「真実なら救済は?」という疑問は当然出ます。その救済が、230条の2と真実性の錯誤。これは後編で扱います。

🔴 公然性=伝播可能性 〔短答・論文共通〕

🔴 公然性=伝播可能性の自前設例。甲(投稿者)が「Xは不倫している」と3人だけのグループに書き込む(特定少数)→その3人がさらに不特定・多数へ拡散しうる→「特定かつ少数」に告げただけでも、そこから不特定または多数人へ伝播する可能性があれば公然性あり=伝播可能性の理論(判例)。「公然と」=不特定または多数人が認識しうる状態。不特定=相手が限定されない(誰が見るか分からない投稿等)/多数=特定だが多数人。どちらか一方で足りる。

公然性を、図で深掘りします。まず言葉の意味から。不特定とは、相手が限定されないこと。誰が見るか分からない状態です。多数とは、特定だけど、人数が多いこと。どちらか一方で足ります。両方そろう必要はない。いい質問です。そこで伝播可能性、という考え方が出てきます。図を見て。甲が、3人だけのグループに書き込んだとします。一見、公然性はなさそうです。でも、その3人を考えてみて。そこです。特定少数に告げても、不特定または多数へ伝播する可能性がある。これが伝播可能性の理論。判例の立場です。だから「内輪だけ」と思っても、油断できないわけです。

事実の摘示——具体的・真偽不問・公知でも可 〔短答・論文共通〕

事実の摘示=具体的・真偽不問・公知でも可。摘示する「事実」=人の社会的評価を低下させるに足る具体的な事実であること。抽象的な価値判断・罵倒(「バカ」「無能」)=事実の摘示でない→侮辱罪の領域。具体的事実(「在職中に会社の金を横領した」レベル)=名誉毀損罪。🔴真実か虚偽かを問わず成立(230「その事実の有無にかかわらず」)。公知の事実(すでに世間に知られた事実)でも摘示すれば成立しうる(判例)。自前の例=SNSで「Xには昔、前科がある」と投稿→仮に本当でも社会の評価は下がる=原則成立。なぜ真実でも?=守るのは外部的名誉(社会の評価)だから(救済230条の2は後編)。

次に事実の摘示です。ここが侮辱罪との分かれ道になります。社会的評価を低下させる、具体的な事実であること。たとえば「あいつはバカだ」「無能だ」。これは事実ですか。抽象的な価値判断、ただの罵倒です。これは事実の摘示ではない。名誉毀損ではなく、侮辱罪の領域になります。後で対比します。「あいつは在職中に会社の金を横領した」。このレベルの具体性です。そして、ここでも真偽は問わない。本当でも嘘でも成立。さらに、公知の事実でも成立しうる。すでに知られた事実でも、改めて摘示すれば成立しうる。SNSで「Xには昔、前科がある」と投稿する。仮にそれが本当でも。だから原則成立。なぜ真実でも成立するか、思い出して。救済の道は230条の2。これは後編で。

客体(法人も含む)・死者230②・親告罪232 〔短答頻出〕

客体(法人も含む)・死者の名誉毀損230②・親告罪232。客体=特定された人。会社など法人・団体も含む(会社の社会的評価も外部的名誉=外部的名誉説と整合)。集団への摘示=構成員が特定できる範囲で成立しうる(誰を指すか特定できることが必要)。死者の名誉毀損(230条2項)=虚偽の事実の摘示に限る(歴史的評価・表現の自由との調整)。真実を摘示しただけでは死者の名誉毀損は成立しない(生者と違い「虚偽限定」)。親告罪(232条)=告訴がなければ公訴を提起できない。親告罪の理由=訴追すること自体がかえって名誉を害するおそれ→本人(遺族)の意思に委ねる。既遂=抽象的危険犯(大判昭13・2・28)=現実に評価が下がらなくても、下がる危険を生じれば既遂。

客体、つまり誰の名誉が守られるか、です。特定された人。でも、それだけじゃない。法人も含みます。いい指摘です。会社に名誉感情はない。でも社会的評価はある。会社の社会的評価も外部的名誉。だから法人も客体になる。集団に向けた摘示も、構成員が特定できる範囲で成立しうる。次に、さっき触れた死者の名誉毀損。230条2項です。亡くなった人については、嘘の事実を摘示した場合だけ罪になる。歴史的な評価や、表現の自由との調整から、虚偽限定なんです。最後に親告罪。232条で、この章の罪は親告罪です。なぜか。訴追すること自体が、かえって名誉を害しうるからです。だから本人や遺族の意思に委ねる。条文を見ましょう。この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。これが232条です。それと、さっき後回しにした抽象的危険犯の話を、ここで詰めます。「毀損した」は一見、現実に評価が下がる侵害犯に見えます。でも、現実に評価が下がったかを立証するのは、とても難しい。だから、下がる危険を生じさせれば既遂、と解する。これが抽象的危険犯です。

🔴 侮辱罪(231条)——名誉毀損との対比 〔短答・論文共通〕

🔴 名誉毀損罪(230条)vs 侮辱罪(231条・2022改正後)対比表。保護法益=共に外部的名誉(社会の評価・判通/二元説は侮辱を名誉感情とする)。行為=名誉毀損は公然と事実を摘示/侮辱は公然と侮辱(事実を摘示しない)。区別の決め手=具体的事実の摘示の有無(「在職中に横領した」=名誉毀損/「無能」「クズ」=侮辱)。法定刑=230は三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金/231は一年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料。法人への成否=共に○(外部的名誉説と整合・判例)。侮辱罪は2022改正で厳罰化。

ここで疑問②、名誉毀損罪と侮辱罪の違いです。対比表で見ましょう。区別は一点だけ。具体的事実の摘示があるか、ないか。「在職中に横領した」のように具体的事実を示せば、名誉毀損。それは事実を摘示していない。だから侮辱罪になります。条文も見ましょう。231条です。

刑法231条(侮辱・2022改正後)。事実を摘示しなくても(強調)、公然と人を侮辱した者は、一年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。「事実を摘示しなくても」=具体的事実の摘示が不要=名誉毀損との分かれ目。2022年改正で法定刑を引上げ(拘禁刑・罰金を追加・ネット中傷対策)。旧「拘留又は科料」のみは旧表記。接続詞「若しくは/又は」・漢数字は e-Gov 正文どおり。

条文の冒頭。事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は。刑は、一年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金。実はこの法定刑、2022年の改正で引き上げられました。ネット上の中傷が深刻になったからです。昔は軽い刑だけでした。古い本の刑名だけ、というのは改正前の旧表記です。もう一つ大事な点。侮辱罪も、法人に成立します。判例が認めています。会社に名誉感情はないのに、です。そこが学説の決め手です。少しだけ説の対立を見ましょう。判通は外部的名誉説。名誉毀損も侮辱も、守るのは外部的名誉。これに対して二元説。名誉毀損は外部的名誉、侮辱は名誉感情だ、と。231条の法定刑が低いからです。守る利益が違うはずだ、と見る。名誉感情を持たない、幼児や法人への侮辱が成立するか、です。でも判例は、法人への侮辱を認める。外部的名誉説と整合します。

短答ひっかけ

ここはひっかかる(短答まとめ)。①🔴保護法益=外部的名誉(社会の評価・判通)。名誉3分類(内部的名誉/外部的名誉/名誉感情)。②🔴公然性=不特定または多数人が認識しうる状態。特定少数でも伝播可能性で成立しうる。③🔴事実の摘示=具体的・真偽不問(「その事実の有無にかかわらず」)・公知の事実でも可。④既遂=抽象的危険犯(現実の評価低下は不要)。客体=法人も含む。⑤死者の名誉毀損230②=虚偽限定/本章の罪は親告罪232(告訴がなければ起訴できない)。⑥🔴侮辱罪231=事実を摘示しないで公然と侮辱。区別=具体的事実の摘示の有無。⑦侮辱罪は法人にも成立(外部的名誉説と整合)/2022改正で厳罰化(拘禁刑・罰金を追加)。

短答でひっかかる所を整理します。①保護法益は外部的名誉。②公然性は、不特定または多数人。特定少数でも伝播可能性で成立。④既遂は抽象的危険犯。現実の評価低下はいらない。客体は法人も含む。⑥侮辱罪は事実を摘示しない。区別は具体的事実の摘示の有無。この七つで、名誉毀損罪の成立要件は、かなり戦えます。

今日の地図(保存版)

#51前編 今日のまとめ。軸=守っているのは社会が与える評価(外部的名誉)。だから本当のことでも公にすれば原則成立。保護法益=外部的名誉(判通)。名誉3分類=内部的名誉(真の価値)/外部的名誉(社会の評価)/名誉感情。成立要件=①公然性(不特定または多数人・伝播可能性)②事実の摘示(具体的・真偽不問・公知でも可)③社会的評価を低下させる危険(抽象的危険犯=現実の評価低下は不要)。客体=法人も含む/死者の名誉毀損230②=虚偽限定/本章は親告罪232。侮辱罪231=事実を摘示しないで公然と侮辱。区別=具体的事実の摘示の有無/法人にも成立/2022改正で厳罰化。「真実なら救済されないの?」=230条の2・真実性の錯誤は後編 c11-1b/次は#52 信用毀損・業務妨害。

まとめます。守っているのは社会の評価です。だから本当のことでも、公にすれば原則成立する。成立要件は3つ。公然性、事実の摘示、評価低下の危険。既遂は抽象的危険犯。客体は法人も含む。死者は虚偽限定。そして侮辱罪。区別は、具体的事実の摘示があるかないか。侮辱罪は法人にも成立、2022改正で厳罰化されました。そこです。真実なら罰しない仕組み、230条の2と真実性の錯誤。名誉毀損の救済、真実性の証明と錯誤に進みます。

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