230条の2 真実性の証明・真実性の錯誤(後編)
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第11章 秘密・名誉・信用・業務に対する罪 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
230条の2の趣旨——表現の自由との調和 〔短答・論文共通〕

まず趣旨です。なぜ230条の2が必要か。真実でも常に処罰、だとしたら、報道はどうなりますか。批判や報道が萎縮してしまう。それは表現の自由、そして私たちの知る権利を痩せさせる。そこで230条の2。一定の言論を不処罰にする。たとえると、こうです。第1段だけだと、裁判で証明しきれなければ即アウト。それでは怖くて、誰も報道しなくなる。3要件で正面から不処罰。そして証明失敗でも救う道。
230条の2を確認——1項(真実性の証明)・2項3項(要件の擬制) 〔約束③(条文全文)〕

核心の条文を全文で見ます。230条の2です。色分けしましょう。金色が1項。真実性の証明による不処罰の規定です。その行為が「公共の利害に関する事実」に係り。「かつ、その目的が専ら公益を図ること」にあった場合。そして「真実であることの証明があったとき」。この3つがそろうと「これを罰しない」。不処罰になります。緑が2項。起訴前の犯罪行為に関する事実の話です。みなす、つまり公共性を擬制する。後で表で整理します。この点はあとで擬制の表で詳しくやります。大事です。真偽不明、確信が生じないときは、被告人の不利益になる。ここが、後の真実性の錯誤につながります。
🔴 3要件——公共性・公益目的(専ら)・真実性 〔短答・論文共通〕

では3要件をフローで通します。一つ目は公共性です。市民が民主的自治を行ううえで、知る必要がある事実です。逆に、単なる好奇心の対象は、これに当たりません。原則はそうです。ただ、例外もあります。政治的に大きな影響力をもつ宗教団体会長の、女性関係。その地位や影響力次第で、公共性を帯びうる。判例の立場です。二つ目が公益目的。「専ら公益を図る目的」です。日常語ではそうです。でも、ここでは違う。主たる動機の意味です。唯一の動機だけで動け、と人に求めるのは非現実的でしょう。だから報道に営利目的が併存しても、それだけでは否定されない。三つ目が真実性。真実であることの証明です。ここで大事なのが、真偽不明のときの扱いです。裁判官に確信が生じないときは、被告人の不利益になる。この3つがそろえば、違法性が阻却され不処罰です。
要件の擬制(2項・3項) 〔短答頻出〕

次に、要件の擬制です。対比表で見ましょう。原則の1項は、3つすべてを立証しなければならない。でも、それは類型によっては重すぎる。そこで擬制です。これは公共性を擬制します。みなしで省く。犯罪報道は、定型的に捜査のきっかけになり、監視にも役立つ。ただし2項では、公益目的と真実性は、なお立証が必要です。次に3項。公務員と、選挙の候補者に関する事実です。公共性に加えて、公益目的も擬制します。二つ省く。公人への批判は、民主政の核心ですから。真実性の証明だけです。ここが落とし穴。真実性は、決して擬制されない。ここを押さえて。
230条の2の法的性質(A論点)——3説 〔短答・論文共通〕

ここで法的性質。230条の2は、何を阻却する規定か、です。これが、次の真実性の錯誤の処理を左右します。説は3つ。一つ目が処罰阻却事由説。犯罪は成立するが、処罰だけしない。230条の「事実の有無にかかわらず」を重く見る説です。表現の自由との調和、という趣旨に反する、と批判されます。構成要件該当性阻却事由説。そもそも構成要件に当たらない、と。230条本文との整合が難しい、と言われます。違法性阻却事由説。これが判例・通説です。名誉と表現の自由を調和させる、という趣旨に最も合うからです。そして、もう一つ大事な意味があります。違法性阻却事由と解すると、真実性の錯誤を錯誤の問題として処理できる。それが次の山場の前提です。判通は違法性阻却事由説、と。
📝 論文の型

一つ目の論文の型です。230条の2の3要件と、法的性質。逐語で覚えるのは、コア規範の核心だけ。3要件と違法性阻却説です。そして法的性質は違法性阻却事由説、判通です。復元キーで、趣旨から組み立て直す。表現の自由との調和から始める。

答案の型も見ましょう。事例から、あてはめまでの流れです。問題提起で、3要件と法的性質が問題、と書く。あてはめで、産地偽装は公共性あり、と当てていく。この型で、3要件の問題は安定して書けます。
🔴 真実性の錯誤——自前設例で考える 〔短答・論文共通〕

設例で考えましょう。報道機関の甲社が、こう報じたとします。しかも、確実な取材資料に照らし、真実だと信じて報じた。ところが、後の裁判で、決め手の証言が覆ってしまう。ここで、第1段の230条の2を思い出して。だから第1段では、甲社を救えない。そこで第2段。真実と誤信したことに、相当の理由があれば。その場合は、故意が阻却され、不可罰になりうる。それが真実性の錯誤。次に、その理屈を3ステップで組みます。
🔴 真実性の錯誤——違法性阻却説からの処理3ステップ 〔論文の骨格〕

では3ステップです。違法性阻却事由説からの処理。ステップ①、性質を決めます。230条の2は違法性阻却事由。だとすると、真実性の錯誤は、違法性阻却事由の錯誤。違法性を否定する事実を誤認している限り、責任故意を阻却する。これは刑法総論で学んだ、事実の錯誤説の応用です。誤認の対象を、引きなおします。ここが少しトリッキー。条文は「真実であることの証明があった」と書いていますよね。そこです。証明は将来の裁判時の話。行為時には認識しようがない。だから、訴訟法的な表現を、実体法的な表現に引きなおす。「事実が証明可能な程度に真実である」こと。これを対象にする。ステップ③、ここで政策的な限定をかけます。何の裏付けもなく、無責任に軽信した場合まで救うと。だから政策的に、確実な資料・根拠に基づく誤信に限る。ここで判例の規範です。これは逐語で覚えてください。真実性の誤信が「確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるとき」。そのときは「犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しない」。夕刊和歌山時事事件、最大判昭44・6・25です。しかもこれは、旧判例を変更したものです。昔は、真実を証明できなければ罪を免れない、としていました。報道の自由を、一歩前に進めた判例なんです。
真実性の錯誤——学説対比(処罰阻却説との帰結の一致) 〔短答・論文共通〕

学説の対比も見ておきましょう。表で整理します。これは、責任故意を阻却する、と考えます。これに対して、処罰阻却事由説からの処理もあります。真実性は、もともと故意の対象ではない、と考える。では処罰されるかというと、そうではない。確実・相当な資料根拠に基づく言論は、35条の正当行為。ここがポイントです。両説の帰結を見比べてください。結論は一致します。違うのは、阻却される中身。だから答案では、判通の違法性阻却説で書けば十分です。
論文の型:真実性の錯誤 〔論文〕

二つ目の論文の型。判例の規範です。「確実な資料、根拠に照らし相当の理由」。採点キーワードは、ここだけ逐語で押さえる。前提は、230条の2が違法性阻却事由であること。3ステップの鎖を、趣旨から再構成すればいい。

答案の型です。さっきの設例で、最後まで通しましょう。問題提起で、真実性の錯誤として否定されないか、と書く。あてはめで、確実な取材資料に照らし誤信、と当てる。この型で、真実性の錯誤は完璧に書けます。
短答ひっかけ

短答でひっかかる所を整理します。①230条の2は3要件で不処罰。②「専ら」は主たる動機。公共性は好奇心の対象は除く。④擬制は、2項が公共性、3項が公共性と公益目的。⑤法的性質は違法性阻却事由説、判通です。旧判例を変更した点も問われます。⑦両説の帰結は一致。この七つで、230条の2まわりは、かなり戦えます。
今日の地図(保存版)

まとめます。第1段が230条の2。3要件で違法性阻却、不処罰。擬制は2項が公共性、3項が公共性と公益目的。法的性質は違法性阻却事由説、判通です。第2段が真実性の錯誤。証明失敗でも救う道。犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しない。3ステップも押さえて。違法性阻却事由の錯誤から始める。これで、報道がなぜ許されるか、完全に説明できます。次は#52。信用毀損罪と、業務妨害罪に進みます。