財産犯総論——財物・地図・不法領得の意思
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第12章 財産に対する罪 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
問い①=財物の意義(有体性説 vs 管理可能性説) 〔短答・論文共通〕

では問い①、何を奪うか。財産犯の客体は二つです。まず財物。これは何だと思いますか。いい線です。通説は、財物=有体物に限る、とします。固体・液体・気体まで。これが有体性説です。たとえば、ボンベに詰めたガスも有体物=財物です。原則は入りません。ここで対立する説があります。管理可能性説。物理的・事務的に管理できれば、無体物も財物。でも通説は有体性説。理由が、次の245条につながります。その前に二つ補足。情報そのもの、データは財物ですか。でも、それを書いた書類やUSBは有体物=財物です。もう一つ。財産的な価値は、お金の価値だけ要りますか。実は、主観的・感情的な価値でも足ります。思い出のラブレターや、記念の小石でも、財物たりうる。値段がつかなくても保護される。ここも押さえどころです。
問い①=電気=245条の位置づけ 〔短答〕

では疑問②。なぜわざわざ「電気は財物とみなす」と書くのか。逆から考えると、すっきりします。電気は本来、財物ですか。入らないものを、特別に引き入れた。だから「みなす」。有体性説からは、245条は例外規定です。逆に管理可能性説からは、電気はもともと財物。同じ条文を、二つの説が逆向きに読むんです。そして大事なのは、わざわざ書いている事実そのもの。電気は本来入らない=財物は有体物に限る、という裏付けになる。適用は窃盗・強盗・詐欺・恐喝。251条で準用も及びます。それは財物でない、とされます。電気だけが特別扱いです。
条文を確認——245条(電気)・235条の2(不動産侵奪) 〔約束③(条文全文)〕

核心の条文を全文で見ます。まず245条。電気の条文です。たった一文。でも、さっき見たように意味が深い。続いて、不動産の話に移ります。235条の2です。

235条の2。他人の不動産を侵奪した者は、十年以下の拘禁刑。ここで一つ問題。土地は、盗めると思いますか。動かせない=占有を移す、という発想になじまない。でも、土地を勝手に占拠する悪事はありますよね。この不動産侵奪罪235条の2で拾う。空白を埋める専用の罪です。刑名は十年以下の拘禁刑。古い本の表記には注意です。
問い①=法禁物の財物性 〔論文の骨格〕

ここで一つ、論文で問われる論点です。法禁物の財物性。所持すること自体が禁止される物。覚醒剤やけん銃などです。では問います。覚醒剤を盗んだら、財産犯になりますか。いい引っかかり方です。多くの人がそこで止まります。実は、入るんです。理由を説明します。覚醒剤も、国が取り上げるには、没収の手続が要ります。裁判の手続を経て、初めて没収できる。その占有それ自体が、一応は保護されている、ということ。守っているのは、正当な所有権ではない。ここが財産犯の感覚。占有という事実を守るんです。論文では、没収に手続を要する以上、財物、と書きます。
問い①=財産上の利益(2項犯罪) 〔短答・論文共通〕

次に、客体のもう一つ。財産上の利益です。具体例で。借金をチャラにさせる。これは得ですよね。タダでサービスを受ける。支払いを待たせる。これも得。これが財産上の利益。モノでない財産的な得の一切です。いいえ。ここが大事。利益を客体にできる罪は、限られます。強盗・詐欺・恐喝、それぞれの2項。そして背任だけ。強盗は236条、詐欺は246条、恐喝は249条。その2項に利益を書く。逆に窃盗には2項がない。だから利益は窃盗で奪えません。利益を盗っても窃盗にはならない。ここは頻出です。なお、法禁物の返還請求権を免れることも、利益にあたります。騙し取った法禁物の返還を免れる事案で、問題になります。それは強盗や詐欺の回で本格的に。
🔴 問い②③=財産犯の全体地図(三つの軸) 〔短答〕

財産犯の全体地図です。ツリー図で見ましょう。まず軸B、どう扱うか、で割ります。自分のものにするか、ただ壊すか。ここで大きく二つに分かれます。領得罪は、不法領得の意思が要る。後で詳しくやります。毀棄・隠匿罪。不法領得の意思は要らない。刑も相対的に軽い。自分の懐に入れる欲がない分、悪質さが一段下がる、と見るんです。次に領得罪を、占有を移すかどうかで分けます。奪取罪。相手から占有を自分に移す。窃盗・強盗・詐欺・恐喝です。横領罪。もともと自分が預かっている他人の物を、自分のものにする。さらに奪取罪を、相手の意思で分けます。意思に反して奪うのが盗取罪。窃盗と強盗です。交付罪。詐欺と恐喝。騙したり脅したりして、相手に渡させる。これで各罪が、一本のツリーの葉に座りました。
🔴 三つの軸の対応表 〔短答〕

同じ地図を、三つの軸の対応表でも見ておきましょう。軸Aは、何を奪うか。財物だけの罪と、財物プラス利益の罪。財物プラス利益が、強盗・詐欺・恐喝。利益だけが背任です。要るのが領得罪、要らないのが毀棄・隠匿罪。さっきの軸です。個別財産か、全体財産か。ここは少し注意が要ります。一個の財産が減れば成立する罪。窃盗などです。差引きの計算をして、全体として財産が減って初めて成立する罪。たとえば対価を払って買わせても、トータルで損させれば問題。背任です。これが全体財産に対する罪の典型、と覚えてください。詐欺は、通説では個別財産罪です。ここを混同しないように。古い整理で逆に書く本もありますが、通説はこれです。
🔴 問い③=不法領得の意思(なぜ二つ要るか) 〔論文の骨格〕

問い③の山場、不法領得の意思です。疑問③に答えます。駄目なんです。領得罪には、故意とは別の主観要素が要ります。そして、これは二つの気持ちのセットです。一つ目が権利者排除意思。権利者を締め出して自分の物として扱う。利用処分意思。その物を、経済的な用途に従って利用・処分する。そこが核心。それぞれが、何かを切り落とす装置なんです。まず権利者排除意思。これは使用窃盗を切り落とします。ちょっと借りて、すぐ返すつもり。例えば自転車を5分使って戻す。なりません。権利者を締め出す気がない=排除意思なし=不可罰です。一時使用でとどまるなら、刑法は手を出さない、という線引きです。高価で消耗も大きい。数時間でも、実質、権利者を締め出している。判例も、自動車の乗り回しで排除意思を認めた例があります。次に利用処分意思。これは毀棄罪を切り落とします。利用する気がなく、ただ嫌がらせで持ち去って捨てる。利用する気がない=利用処分意思なし。だから窃盗にならない。器物損壊。つまり毀棄罪です。利得目的でないからです。だから二つの装置で、使用窃盗と毀棄罪を切り分けるんです。
📝 論文の型

不法領得の意思。コア規範の定義だけ。権利者を排除して自己の所有物として。前半が権利者排除意思、後半が利用処分意思。逐語はここだけ。復元キーで、趣旨から組み立て直します。まず性質から。次に2要素を挙げ、それぞれの役割を言う。この二つの役割が言えれば、規範の意味を理解した証拠です。

答案の型です。さっきの、嫌がらせで捨てる設例で通しましょう。問題提起で、持ち出しは窃取にあたりうる、と書く。規範で、二要素を定義し、利用処分意思の役割を立てる。だから窃盗罪は成立しない、で締める。この型で、不法領得の意思の問題は安定して書けます。
親族相盗例244の位置づけ 〔短答・論文共通〕

最後に、地図の余白です。家族間の窃盗は、どうなると思いますか。成立はします。でも、処罰はしないんです。これが親族相盗例。244条です。趣旨は一言で表せます。

法は家庭に入らず。家庭の中の財産争いに、刑罰は踏み込まない。1項では、近い親族の間なら、刑を免除します。配偶者・直系血族・同居の親族。この間の窃盗等は刑を免除。それ以外の親族は、告訴がなければ起訴できない。親告罪です。親族でない共犯には、この特例を適用しない、という規定です。ここで性質が大事。これは一身的処罰阻却事由です。犯罪は成立する。でも、その人について処罰しない、という事由です。成立した後、処罰するかという、別レイヤーの問題。準用も一言。詐欺・恐喝と横領にも準用されます。強盗には準用されません。暴行・脅迫を伴うからです。
短答ひっかけ

短答でひっかかる所を整理します。①財物は有体物に限る。②情報は財物でないが、媒体は財物。価値は主観的でも足りる。④法禁物も財物。没収に手続を要するから占有を守る。⑥全体地図は、領得罪と毀棄罪、奪取罪と横領罪、で割る。⑧不法領得の意思は二要素。使用窃盗と毀棄罪を切り分ける。この九つで、財産犯総論はかなり戦えます。
今日の地図(保存版)

まとめます。問い①、財物は有体物に限る。電気は245条で特別扱い。不動産は窃盗の客体でなく、不動産侵奪罪で拾う。三つの軸で並べました。背任が全体財産罪、詐欺は個別財産罪。通説で固める。権利者排除意思で使用窃盗を、利用処分意思で毀棄罪を除く。地図と道具がそろいました。ここから各罪を一つずつ当てます。次は#54。いよいよ窃盗罪①。占有とは何か、保護法益の対立に入ります。