窃盗罪①——保護法益・占有・死者の占有
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第12章 財産に対する罪 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
核心①=保護法益(本権説 vs 占有説 vs 平穏占有説) 〔論文の骨格〕

最初の核心、保護法益です。窃盗罪は、何を守る罪でしょう。問題は、所有権を守るのか、占有を守るのか、です。所有権は、その物を持つ正当な権利。占有は、現に握っている事実。ここで疑問①が効きます。自分の時計を盗まれたとします。その犯人から、黙って取り返したら。あなたは罪に問われますか。それが、立場で分かれるんです。まず本権説。守るのは所有権などの本権。自分の物の取戻しは、本権侵害がない。でも、判例は違う立場です。占有説。守るのは、占有という事実状態そのもの。誰が握っているか、です。盗品でも法禁物でも、占有は占有として保護する。だから自分の物を取り返しても、一旦は窃盗に該当します。核心はここ。自力救済の禁止です。実力で勝手に取り返すのを許すと、世の中が乱れます。だから、まず手続を通せ、と。これが民法202条2項の趣旨です。中間に、平穏占有説もあります。合理的理由のある占有に限る。盗み返しの場面で調整します。大丈夫。表で並べましょう。
保護法益3説の対照表 〔短答・論文共通〕

三つの説を、三つの観点で比べます。観点は何でしょう。本権説は本権。占有説は占有自体。平穏占有説は平穏な占有。自分の物の取戻しの結論。本権説なら不成立、占有説なら該当。占有が平穏でない、として調整します。中間的な答えです。242条の読み方。これがそれぞれの立場を映す鏡になります。自己の物でも、他人が占有していれば、他人の物とみなす条文です。占有説は、文字どおり、占有していればみなす、と読む。「占有」を、本権に基づく占有に限定して読みます。判例は占有説。根拠は、さっきの自力救済の禁止です。あとは自救行為として、違法性が阻却される余地が残るだけ。
条文を確認——242条(自己の財物) 〔約束③(条文全文)〕

核心の条文を全文で見ます。242条です。又は公務所の命令により他人が看守するものであるとき。自分の物でも、他人が握っていれば、他人の物として扱う。占有という事実を守る立場と、整合します。「占有」を、本権に基づく占有に限定して読みます。
客体——他人の財物(利益は窃盗の客体でない) 〔短答〕

占有を見る前に、客体を確認します。窃盗で奪うのは何ですか。正確には、他人が占有する他人の財物。占有が前提です。いい質問。窃盗では、利益を奪えません。窃盗に2項がないからです。強盗・詐欺・恐喝には、利益を奪う2項がある。窃盗にはない。ただし、情報を書いた書類やUSBは、有体物=財物です。電気は245条で財物とみなす。これも前回出しました。動かせず、占有を移しにくい。だから窃盗の財物に含まない。客体はここまで。深掘りは、いよいよ占有そのものです。
条文を確認——235条(窃盗罪) 〔約束③(条文全文)〕

窃盗罪の本体、235条を全文で見ます。十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。現行は拘禁刑。旧表記は使いません。注意です。窃取とは、他人の占有を、意思に反して移すこと。占有が無い物を持ち去れば、占有離脱物横領になる。
核心②=占有の意義(事実上の支配+支配意思) 〔短答・論文共通〕

では占有の意義です。疑問②、忘れ物の答えに入ります。二つの要素があります。客観的な要素と、主観的な要素。一つ目が、事実上の支配。物を現実に握っている客観的な状態。支配意思。その物を支配しよう、という主観的な意思です。この二つを総合して判断します。距離・時間・場所などで。似て非なるものです。刑法の占有は、もっと事実性が強い。民法は観念的で、代理占有や相続でも移る。刑法は現実の支配を見る。いい例えで言いましょう。占有は、目に見えないリードでつながっている。手元になくても、すぐ手が届く範囲なら、リードはつながっている。自宅前に置いた自転車。すぐ取りに戻れる。リードはつながっている。時間が経ち、遠くへ行くと、リードが切れる。占有なしです。占有が無い物を拾えば、窃盗でなく、占有離脱物横領になる。
占有の2要素図 〔短答・論文共通〕

2要素を図で確認します。左が客観、右が主観です。距離・時間・場所などで判断する。手が届けば支配あり。ここで一つ補足。支配意思は、個々の物を意識しなくていい。自宅の中の物全体に及ぶ、包括的な意思があれば足ります。だから、家の中に置き忘れた物も、占有が及びます。この二つを総合する。それが占有の判断です。
占有の有無 判例マップ 〔短答〕

判例を、占有あり・なしで並べたマップです。公園のベンチに置き忘れて、約27メートル離れた時点。だから占有あり。それを領得すれば、窃盗です。客が客室に置き忘れた物。主人の管理が及ぶので、主人の占有。管理者が回収して、再利用する予定なら、管理者の占有。列車の網棚に置き忘れ、降りて遠ざかった荷物。リードが切れます。長く放置され、支配が及ばなくなった物です。軸は一つ。距離・時間が近い、管理意思が及ぶなら占有あり。
核心③=占有の帰属(誰の占有か) 〔論文の骨格〕

次は占有の帰属。物に複数人が関わると、誰の占有か問題になります。たとえば、店主と店員。物は一つ、関わる人は二人です。いい問いです。場合を分けます。まず対等者なら、全員に占有。次が、上下・主従の関係。店主と店員は、こちらです。原則、占有は上位者にだけ。下位者は、占有補助者にすぎません。だから、店員が店の商品を持ち去ったら、どうなると思いますか。違います。窃盗です。ここが引っかかりどころ。占有が、店員ではなく店主にあるからです。店員は補助者だけ。自分の占有なら横領ですが、占有は上位者にある。ただし例外があります。高い信頼と、処分権を持つ下位者。売るか貸すか、自分で決めていい権限。それを委ねられた下位者。その場合は、業務上横領になります。例外として押さえてください。もう一つ、封緘物。封をして預けた荷物の話です。全体は、預かった受託者の占有。でも、中身は委託者の占有。だから、封を開けて中身を取れば、委託者の占有を侵す=窃盗。占有が誰にあるか、で結論が決まる。ここでも軸は占有です。
占有の帰属フロー 〔短答・論文共通〕

帰属をフローで確認します。三つに分岐します。上下主従の下に、さらに二つ。原則と例外です。領得すれば窃盗。例外は、信頼と処分権のある下位者。封緘物は、全体は受託者、中身は委託者の二分です。上下主従は原則上位者、下位者は占有補助者。これが核です。逐語で覚えるのは、そのキーワードだけです。
🔴 核心④=死者の占有(3つの場合分け) 〔論文の骨格〕

疑問③、死者の占有です。設例で考えます。口論の末、Vを殺してしまった。その後で、ふと、Vの腕時計が欲しくなり、抜き取った。さて、Vはもう死んでいます。Vに占有はありますか。直感はそのとおり。占有は、事実上の支配と支配意思でした。原則として、死者の占有自体は否定されます。ところが、判例は窃盗を認めます。ここに論理の工夫があります。死者の占有は否定するが、被害者が生前持っていた占有に注目する。それが、二つの条件のもとで、なお保護に値する、とします。一つ、被害者を死亡させた犯人との関係。つまり、殺した本人。二つ、死亡と時間的・場所的に近接した範囲。この二つを満たせば、殺害から奪取までを一連の行為と見る。全体で見れば、被害者の生前の占有を侵害したと評価できる。リードの比喩で言うと、切れたばかりのリードを横取りする感じ。では、無関係の通りすがりが、翌日この死体から奪ったら。第三者には、保護の根拠が及ばない。死者に占有はないので、占有離脱物横領になります。そして、もう一つの場合。最初から奪う気で殺したら。強盗殺人です。240条。生きている被害者の占有を、暴行で奪う。三つの場合を、図で整理しましょう。
死者の占有 場合分けフロー 〔短答・論文共通〕

三つの場合を、甲・V・乙で整理しました。aは、甲が最初から奪う気でVを殺す。これは強盗殺人240。bは、殺した後で奪う気が生じた甲が、その場で奪う。窃盗235。cは、無関係の乙が後から奪う。占有離脱物横領254。軸はずっと占有。占有を侵すか、保護の根拠が及ぶか。
短答ひっかけ

整理します。①保護法益は占有説。判例の立場でした。②242条で、自分の物でも他人の占有を侵せば窃盗。③客体は他人の財物。利益は窃盗の客体でない。ポシェットは約27メートルでも占有あり。窃盗です。店員が店の商品を持ち去れば窃盗。封緘物は中身が委託者。最後に、不法領得の意思を窃盗に当てはめます。
不法領得の意思の当てはめ(#53総論済) 〔論文の骨格〕

最後に、前回の不法領得の意思を、窃盗に当てはめます。権利者排除意思は、一時使用を切り落とす装置でした。でも、高価な自動車を数時間乗り回すなら。利用処分意思は、毀棄罪を切り落とす装置。それは窃盗でなく、器物損壊にとどまります。
今日の地図(保存版)

まとめます。①保護法益は占有説。占有自体を守り、自力救済を禁じる。②客体は他人の財物。利益は窃盗の客体でない。ポシェット約27メートルでも占有あり。窃盗です。店員が店の商品を持ち去れば窃盗。封緘物は中身が委託者。強盗殺人240・窃盗235・占有離脱物横領254。一連の行為を全体で観察。着手と既遂の時期に入ります。
📝 論文の型

死者の占有。コア規範の三つのキーワードだけ。被害者を死亡させた犯人。そして、一連の行為を全体的に観察。この三つだけ逐語固定。復元キーで、趣旨から組み立てます。まず占有の性質から。だから原則は否定。でも、二つの条件で保護に値する。そして帰結。一連の行為を全体で観察して、窃盗。

答案の型です。さっきの殺害後に時計を抜く設例で通します。認められなければ、占有離脱物横領にとどまる、と立てる。あてはめで、甲は殺した本人=条件①充足。一連の行為として観察すれば、占有侵害。窃盗成立で締める。
論文の型:窃盗罪の保護法益(占有説) 〔論文〕

二つ目の型、保護法益=占有説です。占有自体・自力救済の禁止・自救行為。この三語だけです。本権か占有か、と立てて、占有説を選ぶ。根拠は自力救済禁止。帰結は、自分の物の取戻しも該当して、自救行為で阻却の余地。

答案の型です。自分の自転車を盗み返す設例で通します。規範で占有説を採り、242条で裏づける。だから構成要件に該当し、窃盗が成立しうる。自分の物でも一旦は該当する、が書ければ十分です。
論文の型:占有の帰属(上下・主従関係) 〔論文〕

三つ目の型、占有の帰属です。上位者・占有補助者・高度の信頼関係・処分権・単独占有。この五つ。対等なら全員、上下主従なら原則上位者・下位者は補助者。封緘物は、全体は受託者、中身は委託者。これも入れます。

答案の型です。店員が店の商品を持ち去る設例で通します。規範で、原則上位者・下位者は補助者、を立てる。占有は店主にあるから、店主の占有を侵す=窃盗。占有が誰にあるか、を丁寧に当てるのが勝負です。