刑法 ゼロから刑法#54

窃盗罪①——保護法益・占有・死者の占有

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第12章 財産に対する罪 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

核心①=保護法益(本権説 vs 占有説 vs 平穏占有説) 〔論文の骨格〕

核心①=保護法益。問い=235条「窃取」が守るのは所有権(本権)か/占有という事実状態か。ここで結論が分かれるのが「自分の物の取戻し」。本権説=守るのは所有権その他の本権(質権・賃借権など正当な権原)。自分の物の取戻し=本権侵害なし=窃盗不成立。242条の「占有」も本権に基づく占有に限定。占有説(判例)=守るのは占有という事実状態そのもの。盗品でも法禁物でも、占有は占有として保護。自分の物の取戻しも構成要件に該当し、自救行為で阻却の余地のみ。平穏占有説(中間説)=平穏な(合理的理由のある)占有のみ保護。趣旨で勝負=占有説の根拠は自力救済の禁止(実力での取戻しを許すと社会の財産秩序が乱れる・民202条2項の趣旨)。判例=最判昭35・4・26(占有説に立った)。

最初の核心、保護法益です。窃盗罪は、何を守る罪でしょう。問題は、所有権を守るのか、占有を守るのか、です。所有権は、その物を持つ正当な権利。占有は、現に握っている事実。ここで疑問①が効きます。自分の時計を盗まれたとします。その犯人から、黙って取り返したら。あなたは罪に問われますか。それが、立場で分かれるんです。まず本権説。守るのは所有権などの本権。自分の物の取戻しは、本権侵害がない。でも、判例は違う立場です。占有説。守るのは、占有という事実状態そのもの。誰が握っているか、です。盗品でも法禁物でも、占有は占有として保護する。だから自分の物を取り返しても、一旦は窃盗に該当します。核心はここ。自力救済の禁止です。実力で勝手に取り返すのを許すと、世の中が乱れます。だから、まず手続を通せ、と。これが民法202条2項の趣旨です。中間に、平穏占有説もあります。合理的理由のある占有に限る。盗み返しの場面で調整します。大丈夫。表で並べましょう。

保護法益3説の対照表 〔短答・論文共通〕

🔴 保護法益3説の対照表。観点=保護法益/自分の物の取戻し/242条の読み方。本権説=保護法益は所有権その他の本権/自分の物の取戻しは窃盗不成立(本権侵害なし)/242条の「占有」は本権に基づく占有に限定。占有説(判例)=保護法益は占有という事実状態そのもの(盗品・法禁物でも保護)/自分の物の取戻しも構成要件に該当→自救行為で阻却の余地のみ/242条は文字どおり占有していればみなす。平穏占有説=平穏な(合理的理由ある)占有のみ/占有が平穏でないとして調整/平穏な占有に限定してみなす。判例=占有説(最判昭35・4・26)。根拠=自力救済の禁止(民202条2項の趣旨)。だから自分の物を盗み返しても一旦は窃盗に該当→自救行為として違法性阻却の余地が残るにとどまる。

三つの説を、三つの観点で比べます。観点は何でしょう。本権説は本権。占有説は占有自体。平穏占有説は平穏な占有。自分の物の取戻しの結論。本権説なら不成立、占有説なら該当。占有が平穏でない、として調整します。中間的な答えです。242条の読み方。これがそれぞれの立場を映す鏡になります。自己の物でも、他人が占有していれば、他人の物とみなす条文です。占有説は、文字どおり、占有していればみなす、と読む。「占有」を、本権に基づく占有に限定して読みます。判例は占有説。根拠は、さっきの自力救済の禁止です。あとは自救行為として、違法性が阻却される余地が残るだけ。

条文を確認——242条(自己の財物) 〔約束③(条文全文)〕

刑法242条(自己の財物)=自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。→自分の所有物でも、他人が占有していれば窃盗等の客体になる=保護法益=占有説と整合(本権説からは本権に基づく占有に限定)。自分の物の取戻しも一旦は構成要件に該当。e-Gov現行。接続詞(又は)・送り仮名は正文どおり。

核心の条文を全文で見ます。242条です。又は公務所の命令により他人が看守するものであるとき。自分の物でも、他人が握っていれば、他人の物として扱う。占有という事実を守る立場と、整合します。「占有」を、本権に基づく占有に限定して読みます。

客体——他人の財物(利益は窃盗の客体でない) 〔短答〕

客体。窃盗罪の客体=他人の財物(他人が占有する他人の財物)。財物=有体物に限る(#53済)。財産上の利益は窃盗の客体でない=窃盗には2項がない(強盗236②・詐欺246②・恐喝249②と違う)→情報そのものの窃盗は不可(媒体は財物)。電気=財物とみなす(245条)=#53で出した。客体の補足で再掲(電気窃盗の詳細は#55)。不動産は「財物」に含まない=動かせず占有移転を観念しにくい→不動産侵奪罪235の2で拾う(#53で位置づけ済)。242条=自己の財物であっても、他人が占有し…ときは、他人の財物とみなす→自分の物でも他人の占有を侵せば窃盗(保護法益=占有説と整合)。

占有を見る前に、客体を確認します。窃盗で奪うのは何ですか。正確には、他人が占有する他人の財物。占有が前提です。いい質問。窃盗では、利益を奪えません。窃盗に2項がないからです。強盗・詐欺・恐喝には、利益を奪う2項がある。窃盗にはない。ただし、情報を書いた書類やUSBは、有体物=財物です。電気は245条で財物とみなす。これも前回出しました。動かせず、占有を移しにくい。だから窃盗の財物に含まない。客体はここまで。深掘りは、いよいよ占有そのものです。

条文を確認——235条(窃盗罪) 〔約束③(条文全文)〕

刑法235条(窃盗罪)=他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。→「窃取」=他人の占有を、その意思に反して自分(or第三者)に移すこと。占有が無ければ窃盗にならず占有離脱物横領254。e-Gov現行=拘禁刑表記(2025年6月施行の改正後表記に統一)。接続詞(又は)・漢数字は正文どおり。

窃盗罪の本体、235条を全文で見ます。十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。現行は拘禁刑。旧表記は使いません。注意です。窃取とは、他人の占有を、意思に反して移すこと。占有が無い物を持ち去れば、占有離脱物横領になる。

核心②=占有の意義(事実上の支配+支配意思) 〔短答・論文共通〕

核心②=占有の意義。刑法上の占有=客観的要件=事実上の支配+主観的要件=支配意思の2つを総合判断(距離・時間・場所・物の特性・社会通念)。民法の占有(観念的・代理占有・相続で移転)より事実性が強い(刑法は現実の支配を見る)。肯定例=自宅前に置いた自転車/置き忘れたポシェット(約27メートル・最決平16・8・25)/旅館の主人(客の置き忘れ物)/ゴルフ場のロストボール(管理者が回収・再利用予定・最決昭62・4・10)。否定例=列車の網棚に置き忘れて遠ざかった荷物/村役場の机に放置された物 等=占有が切れている→占有離脱物横領254。自前イメージ=占有は「目に見えないリードでつながっている」。すぐ手が届く範囲(自宅前・27m)ならリードはつながっている=占有あり。遠ざかり時間が経つと切れる=占有なし。

では占有の意義です。疑問②、忘れ物の答えに入ります。二つの要素があります。客観的な要素と、主観的な要素。一つ目が、事実上の支配。物を現実に握っている客観的な状態。支配意思。その物を支配しよう、という主観的な意思です。この二つを総合して判断します。距離・時間・場所などで。似て非なるものです。刑法の占有は、もっと事実性が強い。民法は観念的で、代理占有や相続でも移る。刑法は現実の支配を見る。いい例えで言いましょう。占有は、目に見えないリードでつながっている。手元になくても、すぐ手が届く範囲なら、リードはつながっている。自宅前に置いた自転車。すぐ取りに戻れる。リードはつながっている。時間が経ち、遠くへ行くと、リードが切れる。占有なしです。占有が無い物を拾えば、窃盗でなく、占有離脱物横領になる。

占有の2要素図 〔短答・論文共通〕

占有の2要素図。①客観=事実上の支配=物を現実に支配しているという客観的な状態(距離・時間・場所・物の特性・社会通念で判断・手元になくてもすぐ手が届く範囲なら支配あり)。②主観=支配意思=その物を支配しようという主観的な意思(一般的・包括的でよい=自宅の中の物全体に及ぶ支配意思があれば足りる)。→両者を総合判断。民法の占有(観念的・代理占有・相続で移転)より事実性が強い(刑法は現実の支配を見る)。占有あり(○)=窃盗=自宅前自転車/ポシェット約27m/旅館の主人/ゴルフ場のロストボール。占有なし(×)=占有離脱物横領254=列車網棚で遠ざかった荷物/村役場の机に放置。

2要素を図で確認します。左が客観、右が主観です。距離・時間・場所などで判断する。手が届けば支配あり。ここで一つ補足。支配意思は、個々の物を意識しなくていい。自宅の中の物全体に及ぶ、包括的な意思があれば足ります。だから、家の中に置き忘れた物も、占有が及びます。この二つを総合する。それが占有の判断です。

占有の有無 判例マップ 〔短答〕

🔴 占有の有無 判例マップ。占有あり(○)→窃盗=自宅内に置き忘れた物(失念しても支配は及ぶ)/自宅前に置いた自転車(すぐ手が届く範囲)/置き忘れたポシェット(約27メートル離れた時点・最決平16・8・25)/旅館の主人(客が客室に置き忘れた物)/ゴルフ場のロストボール(管理者が回収・再利用予定・最決昭62・4・10)。占有なし(×)→占有離脱物横領254=列車の網棚に置き忘れ降車して遠ざかった荷物/村役場の机に放置された物/道端に長時間落ちていた物。軸=距離・時間が近い/管理意思が及ぶ=占有あり。ポシェットは約27メートル(200mではない)。

判例を、占有あり・なしで並べたマップです。公園のベンチに置き忘れて、約27メートル離れた時点。だから占有あり。それを領得すれば、窃盗です。客が客室に置き忘れた物。主人の管理が及ぶので、主人の占有。管理者が回収して、再利用する予定なら、管理者の占有。列車の網棚に置き忘れ、降りて遠ざかった荷物。リードが切れます。長く放置され、支配が及ばなくなった物です。軸は一つ。距離・時間が近い、管理意思が及ぶなら占有あり。

核心③=占有の帰属(誰の占有か) 〔論文の骨格〕

核心③=占有の帰属。複数人が物に関わるとき、誰の占有か。①対等者間=全員に占有(1人が領得→他者との関係で窃盗)。②上下・主従関係=原則 占有は上位者にのみ・下位者は占有補助者(店員が店の商品を持ち去る→横領でなく窃盗)。②の例外=高度の信頼関係+処分権を委ねられた下位者は例外的に単独占有(→業務上横領)。③封緘物=鍵やのりで封をして預けた物。全体は受託者の占有だが、中身は委託者の占有(封を開けて中身を取れば窃盗)。なぜ窃盗か=下位者は占有補助者にすぎず、物の占有は上位者にある→上位者の占有を侵すから「窃取」。暗記規範=上下主従は原則上位者・下位者は占有補助者/信頼+処分権ある下位者は例外的に単独占有(論証16)。

次は占有の帰属。物に複数人が関わると、誰の占有か問題になります。たとえば、店主と店員。物は一つ、関わる人は二人です。いい問いです。場合を分けます。まず対等者なら、全員に占有。次が、上下・主従の関係。店主と店員は、こちらです。原則、占有は上位者にだけ。下位者は、占有補助者にすぎません。だから、店員が店の商品を持ち去ったら、どうなると思いますか。違います。窃盗です。ここが引っかかりどころ。占有が、店員ではなく店主にあるからです。店員は補助者だけ。自分の占有なら横領ですが、占有は上位者にある。ただし例外があります。高い信頼と、処分権を持つ下位者。売るか貸すか、自分で決めていい権限。それを委ねられた下位者。その場合は、業務上横領になります。例外として押さえてください。もう一つ、封緘物。封をして預けた荷物の話です。全体は、預かった受託者の占有。でも、中身は委託者の占有。だから、封を開けて中身を取れば、委託者の占有を侵す=窃盗。占有が誰にあるか、で結論が決まる。ここでも軸は占有です。

占有の帰属フロー 〔短答・論文共通〕

🔴 占有の帰属フロー。複数人が物に関わる(誰の占有か)。①対等者間=全員に占有(1人が領得→他者との関係で窃盗)。②上下・主従関係=原則 占有は上位者にのみ→下位者=占有補助者(領得すれば横領でなく窃盗・例=店員が店の商品を持ち去る)/例外=信頼+処分権(高度の信頼+処分権ある下位者は例外的に単独占有→業務上横領)。③封緘物=封をして預けた物(鍵・のり)→全体は受託者/中身は委託者(封を開けて中身を取れば窃盗)。★規範=上下・主従関係では原則 占有は上位者・下位者は占有補助者。もっとも高度の信頼関係があり処分権が委ねられた下位者は例外的に単独占有。

帰属をフローで確認します。三つに分岐します。上下主従の下に、さらに二つ。原則と例外です。領得すれば窃盗。例外は、信頼と処分権のある下位者。封緘物は、全体は受託者、中身は委託者の二分です。上下主従は原則上位者、下位者は占有補助者。これが核です。逐語で覚えるのは、そのキーワードだけです。

🔴 核心④=死者の占有(3つの場合分け) 〔論文の骨格〕

🔴 核心④=死者の占有。殺害後に領得意思を生じて死者の財物を奪った場合の罪責。殺害と領得の前後・誰が、で3つに分かれる。(a)最初から奪う意思で殺す=強盗殺人240(暴行で財物を奪取=生きている被害者の占有を暴行で侵害)。(b)殺害後に奪う意思が生じて奪う(犯人本人・近接)=窃盗235(判例・最判昭41・4・8)。(c)無関係の第三者が後から奪う=占有離脱物横領254(死者に占有なし・第三者には保護根拠なし)。判例の論理=死者の占有自体は否定。しかし被害者が生前有した占有は、①被害者を死亡させた犯人との関係では②死亡と時間的・場所的に近接する範囲ではなお刑法的保護に値する→一連の行為を全体的に観察し占有侵害を肯定=窃盗。

疑問③、死者の占有です。設例で考えます。口論の末、Vを殺してしまった。その後で、ふと、Vの腕時計が欲しくなり、抜き取った。さて、Vはもう死んでいます。Vに占有はありますか。直感はそのとおり。占有は、事実上の支配と支配意思でした。原則として、死者の占有自体は否定されます。ところが、判例は窃盗を認めます。ここに論理の工夫があります。死者の占有は否定するが、被害者が生前持っていた占有に注目する。それが、二つの条件のもとで、なお保護に値する、とします。一つ、被害者を死亡させた犯人との関係。つまり、殺した本人。二つ、死亡と時間的・場所的に近接した範囲。この二つを満たせば、殺害から奪取までを一連の行為と見る。全体で見れば、被害者の生前の占有を侵害したと評価できる。リードの比喩で言うと、切れたばかりのリードを横取りする感じ。では、無関係の通りすがりが、翌日この死体から奪ったら。第三者には、保護の根拠が及ばない。死者に占有はないので、占有離脱物横領になります。そして、もう一つの場合。最初から奪う気で殺したら。強盗殺人です。240条。生きている被害者の占有を、暴行で奪う。三つの場合を、図で整理しましょう。

死者の占有 場合分けフロー 〔短答・論文共通〕

🔴 死者の占有 場合分けフロー。登場人物=犯人 甲/被害者 V/無関係の第三者 乙。(a)最初から奪う意思で殺す→強盗殺人罪240(生きている被害者の占有を暴行で侵害して財物を奪う・領得意思が殺害より先)。(b)殺害後に奪う意思が生じて奪う(犯人本人・近接)→窃盗罪235(判例・最判昭41・4・8/死者の占有自体は否定だが被害者の生前の占有を近接範囲で保護→一連の行為を全体的に観察し占有侵害)。(c)無関係の第三者が後から奪う→占有離脱物横領罪254(死者に占有なし・第三者には保護の根拠がない)。★規範(論証17)=死者の占有自体は否定。しかし被害者が生前有した占有は、①被害者を死亡させた犯人との関係で②時間的・場所的に近接した範囲ではなお刑法的保護に値する→一連の行為を全体的に観察し占有侵害を認め窃盗成立(要件を欠けば占有離脱物横領254)。

三つの場合を、甲・V・乙で整理しました。aは、甲が最初から奪う気でVを殺す。これは強盗殺人240。bは、殺した後で奪う気が生じた甲が、その場で奪う。窃盗235。cは、無関係の乙が後から奪う。占有離脱物横領254。軸はずっと占有。占有を侵すか、保護の根拠が及ぶか。

短答ひっかけ

ここはひっかかる(短答・論文まとめ)。①保護法益=占有説(判例・最判昭35・4・26)/本権説・平穏占有説と対立。根拠=自力救済禁止(民202条2項の趣旨)。②242条=自己の物でも他人の占有を侵せば窃盗(占有説と整合)。自分の物の取戻しも構成要件該当→自救行為で違法性阻却の余地のみ。③客体=他人の財物/利益は窃盗の客体でない(2項なし)/電気245/不動産は含まない(235の2へ)。④占有=事実上の支配(客観)+支配意思(主観)の総合判断/占有なし=占有離脱物横領254/ポシェット約27メートルは占有あり=窃盗。⑤占有の帰属=上下主従は原則上位者・下位者は占有補助者(店員→窃盗)/信頼+処分権ある下位者は例外的単独占有/封緘物=中身は委託者。⑥🔴死者の占有=(a)強盗殺人240/(b)窃盗235/(c)占有離脱物横領254。⑦不法領得の意思の当てはめ=権利者排除意思(一時使用は×)+利用処分意思(毀棄目的のみは×)を窃盗事案に当てる(#53総論済)。

整理します。①保護法益は占有説。判例の立場でした。②242条で、自分の物でも他人の占有を侵せば窃盗。③客体は他人の財物。利益は窃盗の客体でない。ポシェットは約27メートルでも占有あり。窃盗です。店員が店の商品を持ち去れば窃盗。封緘物は中身が委託者。最後に、不法領得の意思を窃盗に当てはめます。

不法領得の意思の当てはめ(#53総論済) 〔論文の骨格〕

不法領得の意思の当てはめ(#53総論済・本回は当てはめのみ)。領得罪には故意とは別に不法領得の意思が必要=権利者排除意思(一時使用してすぐ返す不可罰の使用窃盗を除く)+利用処分意思(もっぱら毀棄・隠匿目的の場合を除く)。窃盗事案への当てはめ=自転車を5分借りてすぐ戻す=排除意思なし(不可罰)/高価な自動車を数時間乗り回す=排除意思あり(窃盗・最決昭55・10・30)/嫌がらせで持ち去り捨てる=利用処分意思なし(器物損壊にとどまる)。総論の根拠は#53済=ここは当てはめの軸のみ。使用窃盗の総論的議論・電気窃盗245の詳細は#55。

最後に、前回の不法領得の意思を、窃盗に当てはめます。権利者排除意思は、一時使用を切り落とす装置でした。でも、高価な自動車を数時間乗り回すなら。利用処分意思は、毀棄罪を切り落とす装置。それは窃盗でなく、器物損壊にとどまります。

今日の地図(保存版)

#54 今日のまとめ。軸=窃盗罪の核心は「占有という事実状態の侵害」。占有の有無が窃盗と横領を分ける分水嶺。①保護法益=占有説(判例)=占有自体を守る(自力救済禁止・民202条2項の趣旨)。242条で自己の物も他人の占有なら窃盗・自分の物の取戻しは自救行為で阻却の余地のみ。②客体=他人の財物(利益は客体でない=2項なし/電気245/不動産は含まない)。③占有の意義=事実上の支配(客観)+支配意思(主観)の総合判断(ポシェット27m=占有あり)/占有なし=占有離脱物横領254。④占有の帰属=上下主従は原則上位者・下位者は占有補助者(店員→窃盗)/信頼+処分権ある下位者は例外的単独占有/封緘物=中身は委託者。⑤🔴死者の占有=強盗殺人240/窃盗235(最判昭41・4・8)/占有離脱物横領254の3場合分け(一連の行為を全体的に観察)。次は#55 窃盗罪②(実行の着手・既遂時期・親族相盗例244・使用窃盗・電気窃盗)。

まとめます。①保護法益は占有説。占有自体を守り、自力救済を禁じる。②客体は他人の財物。利益は窃盗の客体でない。ポシェット約27メートルでも占有あり。窃盗です。店員が店の商品を持ち去れば窃盗。封緘物は中身が委託者。強盗殺人240・窃盗235・占有離脱物横領254。一連の行為を全体で観察。着手と既遂の時期に入ります。

📝 論文の型

★コア規範|死者の占有。死者の占有自体は否定される。しかし被害者が生前有した占有は、①被害者を死亡させた犯人との関係では、②死亡と時間的・場所的に近接した範囲では、なお刑法的保護に値する。よって一連の行為を全体的に観察し、占有侵害を認めて窃盗罪が成立する。復元キー=①性質=占有は事実上の支配+支配意思→死者にはもう支配も意思もない(占有は本来否定)②原則=死者の占有は否定(だから第三者が後から奪えば占有離脱物横領254)③限定=もっとも被害者を死亡させた犯人との関係では時間的・場所的に近接した範囲で生前占有を保護④帰結=殺害から領得までを一連の行為として全体的に観察し占有侵害を認め窃盗235⑤場合分け=最初から領得意思で殺害=強盗殺人240/殺害後に領得意思(犯人・近接)=窃盗235/無関係の第三者=占有離脱物横領254。圧縮根拠=逐語固定は採点キーワード(被害者を死亡させた犯人/時間的・場所的に近接/一連の行為を全体的に観察)のみ。

死者の占有。コア規範の三つのキーワードだけ。被害者を死亡させた犯人。そして、一連の行為を全体的に観察。この三つだけ逐語固定。復元キーで、趣旨から組み立てます。まず占有の性質から。だから原則は否定。でも、二つの条件で保護に値する。そして帰結。一連の行為を全体で観察して、窃盗。

答案の型|死者の占有。【事例】甲は、口論の末にVを殺害した後、その場でVの腕時計を奪う意思を生じ、これを抜き取った。甲に窃盗罪が成立するか。【問題提起】Vは既に死亡しており、死者に占有を認められるかが問題となる。認められなければ窃盗罪(占有侵害)は成立せず、占有離脱物横領罪にとどまる。【規範】死者の占有自体は否定。もっとも被害者が生前有した占有は、①被害者を死亡させた犯人との関係で②時間的・場所的に近接した範囲では保護に値し、一連の行為を全体的に観察して占有侵害を認める。【あてはめ】甲はVを死亡させた犯人であり(①充足)、殺害直後にその場で時計を抜き取っており時間的・場所的に近接する(②充足)。殺害から領得までを一連の行為として全体的に観察すれば、Vの生前の占有を侵害したと評価できる。よって甲に窃盗罪が成立する。

答案の型です。さっきの殺害後に時計を抜く設例で通します。認められなければ、占有離脱物横領にとどまる、と立てる。あてはめで、甲は殺した本人=条件①充足。一連の行為として観察すれば、占有侵害。窃盗成立で締める。

論文の型:窃盗罪の保護法益(占有説) 〔論文〕

★コア規範|窃盗罪の保護法益(占有説)。窃盗罪の保護法益は占有自体(占有という事実状態)である(自力救済の禁止=民202条2項の趣旨)。よって自己の財物の取戻しも構成要件に該当し、自救行為による違法性阻却の余地が残るにとどまる。復元キー=①問題=235条「窃取」が守るのは所有権(本権)か占有という事実状態か②本権説=本権を守る→自分の物の取戻しは窃盗不成立/占有説=占有自体を守る(盗品・法禁物でも保護)③占有説の根拠=自力救済の禁止(実力での取戻しを許すと社会の財産秩序が乱れる・民202条2項の趣旨)④242条の裏づけ=自己の財物であっても他人が占有すれば他人の財物とみなす⑤帰結=自分の物の取戻しも一旦は構成要件に該当→自救行為で違法性阻却の余地が残るにとどまる。圧縮根拠=逐語固定は採点キーワード(占有自体/自力救済の禁止/自救行為)のみ。

二つ目の型、保護法益=占有説です。占有自体・自力救済の禁止・自救行為。この三語だけです。本権か占有か、と立てて、占有説を選ぶ。根拠は自力救済禁止。帰結は、自分の物の取戻しも該当して、自救行為で阻却の余地。

答案の型|窃盗罪の保護法益(占有説)。【事例】甲は、自分の自転車を盗んだXの占有下にある同自転車を、Xに無断で持ち去って取り戻した。甲に窃盗罪が成立するか。【問題提起】自転車は甲の所有物であるが、現にXが占有している。窃盗罪の保護法益を占有自体と解するか本権と解するかで結論が分かれる。【規範】保護法益は占有自体(自力救済禁止・民202条2項の趣旨)。242条もこれと整合。自己の物の取戻しも構成要件該当→自救行為で阻却の余地。【あてはめ】自転車は甲の所有物でも、現にXが占有しており、その占有を甲が無断で侵害している。よって構成要件に該当し、窃盗罪が成立しうる(あとは自救行為として違法性が阻却されるか=緊急性・相当性が問題となるにとどまる)。

答案の型です。自分の自転車を盗み返す設例で通します。規範で占有説を採り、242条で裏づける。だから構成要件に該当し、窃盗が成立しうる。自分の物でも一旦は該当する、が書ければ十分です。

論文の型:占有の帰属(上下・主従関係) 〔論文〕

★コア規範|占有の帰属(上下・主従関係)。上下・主従関係においては、原則として占有は上位者にあり、下位者は占有補助者にすぎない。もっとも、高度の信頼関係があり処分権を委ねられた下位者は、例外的に単独占有を有する。復元キー=①問題=複数人が物に関わるとき誰の占有か(占有の所在で窃盗か横領かが分かれる)②対等者間=全員に占有(1人が領得すれば他者との関係で窃盗)③上下・主従=原則 占有は上位者・下位者は占有補助者(店員が店の商品を持ち去る→横領でなく窃盗)④例外=高度の信頼関係+処分権を委ねられた下位者は例外的に単独占有(→業務上横領)⑤封緘物=全体は受託者の占有だが中身は委託者の占有(封を開けて中身を取れば窃盗)。圧縮根拠=逐語固定は採点キーワード(上位者/占有補助者/高度の信頼関係/処分権/単独占有)のみ。

三つ目の型、占有の帰属です。上位者・占有補助者・高度の信頼関係・処分権・単独占有。この五つ。対等なら全員、上下主従なら原則上位者・下位者は補助者。封緘物は、全体は受託者、中身は委託者。これも入れます。

答案の型|占有の帰属(上下・主従関係)。【事例】小売店の店員甲が、店主Xから販売を任されていた店の商品を、客に売ったように装って持ち去った。甲の罪責は窃盗か横領か。【問題提起】甲は店の商品を現実に扱っているが、その占有が店員甲にあるのか店主Xにあるのかで、窃盗罪か横領罪かが分かれる。【規範】上下・主従では原則 占有は上位者・下位者は占有補助者。もっとも高度の信頼+処分権ある下位者は例外的に単独占有。【あてはめ】甲は単なる店員で、商品の処分権を全面的に委ねられてはおらず、占有はなお店主Xにある(甲は占有補助者)。よって甲はXの占有を侵害したものとして窃盗罪が成立する(処分権まで委ねられていた場合は業務上横領となりうる)。

答案の型です。店員が店の商品を持ち去る設例で通します。規範で、原則上位者・下位者は補助者、を立てる。占有は店主にあるから、店主の占有を侵す=窃盗。占有が誰にあるか、を丁寧に当てるのが勝負です。

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