横領罪①前編——自己の占有する他人の物・委託信任関係・不法原因給付
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第12章 財産に対する罪 ⑪/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
横領の罪 総論——奪取罪との対比 〔短答・論文〕

一つ目、横領の罪の総論です。奪取罪と、何が違うか。まず奪取罪。窃盗から恐喝まで、全部です。守る保護法益は、占有でした。自分が占有する、他人の物を領得する。奪ってないんです。だから二つ、変わります。一つ、保護法益が、占有ではなくなる。所有権その他の本権です。占有でなく、所有権。占有侵害が、要件にない。その代わりが、あります。委託信任関係への、背信です。これが処罰根拠。預けてくれた人との、信頼関係です。奪取罪は、外から奪う。横領は、内から裏切る。覚える規範は、占有侵害なし、保護法益は本権。
奪取罪/横領の罪 対比表 〔短答・論文〕

表にします。奪取罪と、横領の罪を並べます。見る列は三つ。占有侵害、保護法益、処罰根拠。占有侵害は、あり。保護法益は、占有。他人の占有を、侵害したこと。占有侵害は、なし。自分が占有する物だから。所有権その他の本権。占有じゃない。委託信任関係への、背信です。横領は、奪取罪の鏡写し。
刑法252条(横領)条文全文・主体 〔短答・論文〕

条文を全文で出します。252条、横領罪。第1項。自己の占有する他人の物を横領した者は。五年以下の拘禁刑に処する。これが単純横領です。懲役ではなく、拘禁刑。古い教材の懲役は使いません。そこです。条文に、はっきり書いてあります。うまい。文言が、横領の本質を語っています。文言に、解釈を一つ足します。「委託に基づき」占有する、という限定です。預かった物、という意味です。これは後で詳しく。いいえ。他人の物の、占有者に限られます。占有者という身分が要る、真正身分犯です。第2項は、短答用の話です。公務所から保管を命ぜられた、自己の物。差押えを受けた物を、自分で保管している場合など。そこだけ、押さえておけば足ります。
客体①物——財物(動産・不動産)/電気は不可罰 〔短答〕

三つ目、客体です。何を横領すれば、犯罪か。物は、財物のこと。動産も不動産も含みます。含みません。横領に、利益横領という概念はない。ここで、窃盗・詐欺との違いが一つ。電気です。横領では、電気は客体になりません。電気を財物とみなす、245条があったから。横領の章には、準用されていないんです。不可罰です。窃盗・詐欺と、扱いが違う。条文が準用されているか、を見る論点です。
客体②占有——事実的支配+法律的支配〔論証39〕 〔短答・論文〕

四つ目、占有です。窃盗の占有は、事実的支配でした。でも横領の占有は、もっと広いんです。法律的支配も、含みます。判例・通説。例えば、不動産の登記名義人を考えてください。その人は、土地を手で抱えてはいません。でも、名義があれば、その土地を売れますよね。そこです。横領の占有の正体は、処分可能性なんです。処分できるなら、現実に持ってなくても占有あり。喩えると、家のリモコンです。家を抱えていなくても、リモコン一つで売れる人。その人は、家を支配している=占有がある。横領になりうる。占有が、あるからです。占有とは、処分可能性。それは事実的支配だけでなく。だから占有は、事実的支配と法律的支配を含む。
占有=事実的支配+法律的支配 範囲図 〔短答・論文〕

図で、占有の範囲を見ます。真ん中が、事実的支配。手元の支配です。その外側に、法律的支配が広がります。横領の占有は、外側まで含む。窃盗より広い。処分可能性、です。これが両方を貫く核。手元にあっても、名義だけでも、処分できる。
客体②委託信任関係——無ければ占有離脱物横領254 〔短答・論文〕

五つ目、委託信任関係です。占有の、条件の話。横領の占有は、委託に基づくことが必要です。理由は、処罰根拠を思い出すと分かります。委託がなければ、そもそも背信もない。そこで、委託がない占有物を領得したら、どうなるか。落とし物や、間違って配達された物です。単純横領ではなく、占有離脱物横領になります。254条。委託があるかないかで、罪が分かれるんです。254は252より軽い。詳しくは#62で。後編の、盗品等の横領で効いてきます。
客体③金銭の他人性——3類型〔論証40〕 〔短答・論文〕

六つ目、他人性です。特に、金銭がやっかい。預かった金を使い込んだら、横領か。それが、簡単じゃないんです。前提を確認します。他人の物にあたるには、その金が預けた側の物でないと。でも金は、誰の物かが、状況で変わるんです。一つ目、封金。封をして預けた金です。その金の所有権は、預けた人のまま。だから他人の物。ただ、封を解いて中身を取り出すと、変わります。中の現金を、受け取った側が新たに占有する。すると「自己の占有する物」といえず、窃盗。封を解いた瞬間に、占有の所在が動くんです。二つ目が、消費寄託です。自由に使ってよく、同じ額を返せばいい類型。銀行預金です。預けた金を、銀行は運用しますよね。だから所有権は、受け取った側に移ります。だから「他人の物」でない=横領不成立。横領ではなく、背任罪の問題になります。三つ目が、一番の論点。使途を定めた金銭です。
使途を定めた金銭——論証40 〔論文〕

三つ目、使途を定めた金銭。事案で考えます。AがBに、Cへの支払いに使ってくれと、百万円を渡す。ところがBは、それを自分の借金返済に使った。それが、悩ましいんです。否定説から見ます。民法では、金銭は所有と占有が一致するんです。金を持っている人が、その金の所有者、という原則。そうなると、「他人の物」でない=横領不成立。そこで、肯定説。判例・通説です。金銭の所有と占有が一致するのは、なぜか、を問います。金が、世の中をスムーズに流れるためです。店で釣り銭をもらうとき、出所を気にしませんよね。それが動的安全の保護。流通を、守るためのルール。でも横領罪が守るのは、流通じゃない。預けた人の、内部的な所有権です。目的が違う。流通を守る民法ルールは、横領には当てはまらない。最判昭26・5・25。これが肯定説です。趣旨が違えば、結論も変わる。ここが肝です。
金銭の他人性 3類型フロー 〔短答・論文〕

フローで、三類型を整理します。預かった金を使い込んだ。まず、どの類型か。所有権は預けた人。他人の物、丸。横領成立。占有が移って、窃盗に変わります。注意点です。所有権は受け取った側。他人の物、バツ。横領不成立。最後、使途指定。ここだけ説が分かれる。否定説は、金は所有占有一致で、他人の物でない。一致は流通保護の理論で、横領には妥当しない。一枚で、預けた金の行方が全部見えます。
不法原因給付と横領〔論証41・42〕 〔論文〕

不法原因給付と横領です。事案を、二つ用意しました。一つ目。AがBに、Cの殺害を依頼して、報酬を前払いした。ところがBは、何もせず、その金を使った。二つ目。XがYに、Zへの賄賂に使ってと金を預けた。それを、Yが使い込んだ。さて、横領になるか。ここで、まず問題の所在を確認します。この交付は、不法原因給付です。民法708条。違法な目的で渡した金は、返してもらえない。返還請求できないなら、所有権も移った、とすると。すると「他人の物」でなくなって、横領不成立。そこが、悩みどころです。三つの説を見ます。まず、肯定説。古い判例、最判昭23・6・5です。返還請求権は失うが、所有権はまだ失っていない、と。ただ、これは旧判なんです。注意が要る。後に、所有権は受け取った側に移る、という民事判例が出た。だから今は、支持されにくい。次、否定説。民法で、所有権は受け取った側に移る。法秩序の統一です。法律全体で、矛盾しないように。だから横領不成立。単独で問われたら、これで十分。でも、もう一歩進んだのが、折衷説です。民法708条の「給付」って、何か、を問い直します。民法の通説は、終局的な利益の移転、と読みます。渡しきりなら、もう他人の物でない。そこです。ただ寄託された、預けただけの場合。終局的な移転がない=まだ「他人の物」といえる。二つの事案に、当てはめましょう。渡しきり、終局的移転です。だから他人の物でない。賄賂用の金は。終局的移転がない=まだ他人の物。うまい。同じ前提でも、渡し方で結論が分かれる。
不法原因給付と横領 分岐フロー 〔論文〕

フローで、分岐を整理します。まず否定説。所有権が移る、法秩序の統一。折衷説は、給付が終局的移転か、を問う。他人の物でない=不成立。寄託にとどまれば。脇に、肯定説の旧判も注記しておきます。単独で問われたら、否定説で足ります。盗品等の横領とセットなら、折衷説が書きやすい。両方書けるように、しておくと安心です。
短答ひっかけ

整理します。①総論は、横領は奪取罪と逆。②条文は、自己の占有する他人の物を横領。③物は、財物。電気は不可罰。④占有は、処分可能性=事実的支配+法律的支配。⑤委託信任関係で、252と254が分かれる。封金は丸、消費寄託はバツで背任、使途指定はなお他人の物。⑦不法原因給付が、最重要。否定説は不成立、折衷説は寄託なら成立。横領は、奪う罪でなく、預かった物を裏切る罪。
📝 論文の型

論文の型、一つ目。占有の意義、論証39です。二つだけ。処分可能性、法律的支配。占有の実質は、処分可能性。登記名義人は、登記で不動産を支配できる。

答案の型です。登記名義だけのAが、土地を売った設例。現実に支配していないAに、占有が認められるか。あてはめ。Aは登記名義で、法律上処分できる。
論文の型:使途を定めた金銭の他人性 〔論文〕

論文の型、二つ目。使途を定めた金銭、論証40です。三つ。動的安全保護、内部的所有権保護、なお他人の物。金は所有占有一致で、他人の物でないとも思える。横領は内部的所有権保護=趣旨が違う。

答案の型です。Cへの支払い用に預かった百万円を、使い込んだ設例。金は所有占有一致なのに、これが他人の物といえるか。あてはめ。使途を定めて委託された=なお他人の物。
論文の型:不法原因給付と横領 〔論文〕

論文の型、三つ目。不法原因給付と横領、論証41と42。まず否定説。逐語は、法秩序の統一。だから他人の物でない=不成立。給付、終局的な財産上の移転、寄託にとどまる。当てはめで、殺害報酬と贈賄用が分かれます。

答案の型です。贈賄資金として預けた百万円を、使い込んだ設例。問題提起は、不法原因給付で他人の物でないとも思えるが。あてはめ。贈賄資金として寄託=終局的移転なし。殺害報酬の前払なら渡しきり=不成立、と対比します。
今日の地図(保存版)

まとめます。軸は、横領は奪う罪でなく、裏切る罪。①総論は、奪取罪と逆。③物は財物、電気は不可罰。⑤委託信任関係で、252と254が分かれる。⑦不法原因給付が、最重要。否定説は不成立、折衷説は寄託なら成立。次は#61の後編、c12-12です。横領「行為」そのものと、不法領得の意思。それと、盗品等の横領、背任との区別もやります。お疲れさまでした。後編で、横領を完成させましょう。