刑法 ゼロから刑法#61

横領罪①前編——自己の占有する他人の物・委託信任関係・不法原因給付

⬇ 印刷用PDF

第12章 財産に対する罪 ⑪/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

横領の罪 総論——奪取罪との対比 〔短答・論文〕

1. 横領の罪 総論——奪取罪との決定的な違い。これまでの財産犯(窃盗〜恐喝)=相手方の占有を侵害して奪う「奪取罪」(保護法益=占有)。横領の罪=自己の占有する他人の物を領得する罪=占有侵害を伴わない犯罪類型。ゆえに①保護法益が占有でなく所有権その他の本権(通説)、②「占有侵害」が要件にない代わりに、委託信任関係への背信が処罰根拠になる。★暗記すべき規範(短答・論文共通)=「横領の罪=自己の占有する他人の物を領得する罪。占有侵害を伴わず、保護法益は所有権その他の本権。委託信任関係の背信が処罰根拠。」自前の喩え=奪取罪は「他人の家に押し入って物を持ち去る」/横領は「鍵を預かった隣人が、留守中にその家を売り払う」=外から奪うのでなく、内から裏切る。

一つ目、横領の罪の総論です。奪取罪と、何が違うか。まず奪取罪。窃盗から恐喝まで、全部です。守る保護法益は、占有でした。自分が占有する、他人の物を領得する。奪ってないんです。だから二つ、変わります。一つ、保護法益が、占有ではなくなる。所有権その他の本権です。占有でなく、所有権。占有侵害が、要件にない。その代わりが、あります。委託信任関係への、背信です。これが処罰根拠。預けてくれた人との、信頼関係です。奪取罪は、外から奪う。横領は、内から裏切る。覚える規範は、占有侵害なし、保護法益は本権。

奪取罪/横領の罪 対比表 〔短答・論文〕

🔴 奪取罪/横領の罪 対比表。行=奪取罪(窃盗・強盗・詐欺・恐喝)/横領の罪(横領)。列=「占有侵害の要否」「保護法益」「処罰根拠」。奪取罪=占有侵害:あり/保護法益:占有/処罰根拠:他人の占有の侵害。横領の罪=占有侵害:なし(自己の占有する物)/保護法益:所有権その他の本権/処罰根拠:委託信任関係への背信。★この一枚で「横領は奪取罪と発想が逆」を確定。自前の喩え=財産を取る二つの道。奪取罪=他人の家に押し入って持ち去る(外から侵害)/横領=鍵を預かった隣人が留守中に家を売り払う(内から裏切る)。

表にします。奪取罪と、横領の罪を並べます。見る列は三つ。占有侵害、保護法益、処罰根拠。占有侵害は、あり。保護法益は、占有。他人の占有を、侵害したこと。占有侵害は、なし。自分が占有する物だから。所有権その他の本権。占有じゃない。委託信任関係への、背信です。横領は、奪取罪の鏡写し。

刑法252条(横領)条文全文・主体 〔短答・論文〕

刑法252条(横領)=第1項「自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の拘禁刑に処する。」第2項「自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。」→ハイライト=自己の占有する/他人の物/横領した/五年以下の拘禁刑/公務所から保管を命ぜられた。🔴 1項=単純横領(委託物横領)。条文文言に解釈を加えると、成立には「自己の(委託に基づき)占有する他人の物を横領」が必要(委託に基づく占有である点は文言外の要件=後述の委託信任関係)。主体=他人の物の占有者に限られる=占有者という身分を要する真正身分犯。2項=公務所から保管を命ぜられた自己の物(差押物の保管者など)=短答用。法定刑は五年以下の拘禁刑(e-Gov現行140AC0000000045・2025年6月施行の拘禁刑統一後表記=旧「懲役」は使わない)。

条文を全文で出します。252条、横領罪。第1項。自己の占有する他人の物を横領した者は。五年以下の拘禁刑に処する。これが単純横領です。懲役ではなく、拘禁刑。古い教材の懲役は使いません。そこです。条文に、はっきり書いてあります。うまい。文言が、横領の本質を語っています。文言に、解釈を一つ足します。「委託に基づき」占有する、という限定です。預かった物、という意味です。これは後で詳しく。いいえ。他人の物の、占有者に限られます。占有者という身分が要る、真正身分犯です。第2項は、短答用の話です。公務所から保管を命ぜられた、自己の物。差押えを受けた物を、自分で保管している場合など。そこだけ、押さえておけば足ります。

客体①物——財物(動産・不動産)/電気は不可罰 〔短答〕

2. 客体①物——財物(動産・不動産)。横領の「物」=財物。動産も不動産も含む。財産上の利益は客体でない(利益横領という概念はない)。🔴 さらに、電気を財物とみなす245条が横領の章に準用されていない=有体性説を前提とする限り、電気の横領は単純横領(252)として不可罰(窃盗・詐欺は245準用で電気も客体になるのと違う、重要な対比点)。★暗記すべき規範(短答)=「横領の『物』=財物(動産・不動産)。財産上の利益・電気(245準用なし)は客体でない。」※OCR崩れ「縦型横領」は「単純横領」の誤読・正用語で。

三つ目、客体です。何を横領すれば、犯罪か。物は、財物のこと。動産も不動産も含みます。含みません。横領に、利益横領という概念はない。ここで、窃盗・詐欺との違いが一つ。電気です。横領では、電気は客体になりません。電気を財物とみなす、245条があったから。横領の章には、準用されていないんです。不可罰です。窃盗・詐欺と、扱いが違う。条文が準用されているか、を見る論点です。

客体②占有——事実的支配+法律的支配〔論証39〕 〔短答・論文〕

3. 🔴 客体②占有〔論証39〕——窃盗の占有との決定的な違い。横領の「占有」は、窃盗の占有(事実的支配)と異なり、広く法律的支配をも含む(判例・通説)。実質的根拠=本罪の「占有」は他人の物の処分可能性を意味し、その処分可能性は事実的に支配している場合だけでなく、法律的に支配している場合(例=不動産の登記名義人)にも認められるから。★暗記すべき規範(論文)=「横領罪の『占有』とは行為者に他人の物の処分可能性があることをいい、処分可能性は事実的支配のみならず法律的支配(例=登記名義)にも認められる。よって『占有』は事実的支配のみならず法律的支配をも含む(判例・通説)。」🔴 占有の意義(事実的支配)・本権説/占有説そのものは#54窃盗既出=ここでは「横領は法律的支配まで含む」で対比のみ。自前の喩え=家を手で抱えていなくても、家のリモコン(=登記名義)一つで売れる人は、その家を支配している=占有がある。

四つ目、占有です。窃盗の占有は、事実的支配でした。でも横領の占有は、もっと広いんです。法律的支配も、含みます。判例・通説。例えば、不動産の登記名義人を考えてください。その人は、土地を手で抱えてはいません。でも、名義があれば、その土地を売れますよね。そこです。横領の占有の正体は、処分可能性なんです。処分できるなら、現実に持ってなくても占有あり。喩えると、家のリモコンです。家を抱えていなくても、リモコン一つで売れる人。その人は、家を支配している=占有がある。横領になりうる。占有が、あるからです。占有とは、処分可能性。それは事実的支配だけでなく。だから占有は、事実的支配と法律的支配を含む。

占有=事実的支配+法律的支配 範囲図 〔短答・論文〕

🔴 占有=事実的支配+法律的支配 範囲図(論証39)。中心=事実的支配(手元・現実の支配=窃盗と共通)。その外側に広げて=法律的支配(不動産の登記名義人・他人の物を法律上処分できる地位=現実に物を持たなくても処分可能)。横領の「占有」はこの外側まで含む=窃盗の占有より広い。中央に共通の核として「処分可能性」を置く=事実的支配も法律的支配も、結局「その物を処分できるか」という一点に還元される(判例・通説)。自前の喩え=家のリモコン(登記名義)を持つ人は家を抱えていなくても売れる=処分可能性=占有あり。

図で、占有の範囲を見ます。真ん中が、事実的支配。手元の支配です。その外側に、法律的支配が広がります。横領の占有は、外側まで含む。窃盗より広い。処分可能性、です。これが両方を貫く核。手元にあっても、名義だけでも、処分できる。

客体②委託信任関係——無ければ占有離脱物横領254 〔短答・論文〕

4. 客体②委託信任関係——252と254を分ける軸。本罪の占有は、委託信任関係に基づくことが必要。なぜなら横領の処罰根拠が「委託の背信」だから、そもそも委託がなければ背信もない。委託に基づかない占有物(落とし物・誤って配達された物など)を領得した場合は、委託信任関係がないので単純横領(252)ではなく占有離脱物横領罪(254)になる(254の法定刑は一年以下の拘禁刑など=252より軽い。詳細は#62へ送り)。★暗記すべき規範(短答・論文共通)=「横領の占有=委託信任関係に基づくもの。委託に基づかない占有物の領得=占有離脱物横領254。」🔴 委託信任関係の所在は、後編の『盗品等の横領』(窃盗犯人との委託信任関係が保護に値するか)でも効く伏線。

五つ目、委託信任関係です。占有の、条件の話。横領の占有は、委託に基づくことが必要です。理由は、処罰根拠を思い出すと分かります。委託がなければ、そもそも背信もない。そこで、委託がない占有物を領得したら、どうなるか。落とし物や、間違って配達された物です。単純横領ではなく、占有離脱物横領になります。254条。委託があるかないかで、罪が分かれるんです。254は252より軽い。詳しくは#62で。後編の、盗品等の横領で効いてきます。

客体③金銭の他人性——3類型〔論証40〕 〔短答・論文〕

5. 🔴 客体③他人性・金銭の3類型〔論証40〕——預けた金は誰の物か。「他人の物」にあたるには、その金銭が委託者(預けた側)の物でなければならない。3類型で判断。(a) 封金=封をして預けた金=所有権は寄託者のまま=「他人の物」にあたる(横領成立)。※封を解いて中の現金を取り出して領得すると、その現金は受寄者が新たに占有を取得するため「自己の占有する物」といえず窃盗罪になりうる(占有の所在が変わる)。(b) 消費寄託(民666条)=預かった金を自由に使ってよく同種同額を返せばよい類型(例=銀行預金)=所有権は受寄者に移る=「他人の物」にあたらない=横領不成立=背任罪の問題へ。(c) 使途を定めて委託された金銭〔論証40〕=見解対立(後述)。

六つ目、他人性です。特に、金銭がやっかい。預かった金を使い込んだら、横領か。それが、簡単じゃないんです。前提を確認します。他人の物にあたるには、その金が預けた側の物でないと。でも金は、誰の物かが、状況で変わるんです。一つ目、封金。封をして預けた金です。その金の所有権は、預けた人のまま。だから他人の物。ただ、封を解いて中身を取り出すと、変わります。中の現金を、受け取った側が新たに占有する。すると「自己の占有する物」といえず、窃盗。封を解いた瞬間に、占有の所在が動くんです。二つ目が、消費寄託です。自由に使ってよく、同じ額を返せばいい類型。銀行預金です。預けた金を、銀行は運用しますよね。だから所有権は、受け取った側に移ります。だから「他人の物」でない=横領不成立。横領ではなく、背任罪の問題になります。三つ目が、一番の論点。使途を定めた金銭です。

使途を定めた金銭——論証40 〔論文〕

5-2. 🔴 使途を定めて委託された金銭〔論証40〕。事案=AがBに「Cへの支払いに使ってくれ」と100万円を渡したが、BがそれをBの借金返済に費消した。Bにこの100万円について横領罪が成立するか=この金が「他人の物」といえるか。否定説=民法上、金銭は所有と占有が一致する(金を持っている者がその金の所有者)=Bが占有する以上Bの物=「他人の物」でない=横領不成立。肯定説(判例・通説)=民法で金銭の所有と占有が一致するとされるのは、金銭の流通に関する動的安全の保護(取引の相手は金の出所を気にせず受け取ってよい)のためであり、所有者の内部的所有権の保護を目的とする横領罪の解釈には妥当しない=使途を定めて委託された金銭も、なお「他人の物」にあたる(最判昭26・5・25)。★規範=「確かに民法上、金銭は所有と占有が一致する。しかしそれは金銭の流通に関する動的安全保護のためであり、所有者の内部的所有権保護を目的とする横領罪の解釈には妥当しない。よって使途を定めて委託された金銭もなお『他人の物』にあたる(最判昭26・5・25)。」

三つ目、使途を定めた金銭。事案で考えます。AがBに、Cへの支払いに使ってくれと、百万円を渡す。ところがBは、それを自分の借金返済に使った。それが、悩ましいんです。否定説から見ます。民法では、金銭は所有と占有が一致するんです。金を持っている人が、その金の所有者、という原則。そうなると、「他人の物」でない=横領不成立。そこで、肯定説。判例・通説です。金銭の所有と占有が一致するのは、なぜか、を問います。金が、世の中をスムーズに流れるためです。店で釣り銭をもらうとき、出所を気にしませんよね。それが動的安全の保護。流通を、守るためのルール。でも横領罪が守るのは、流通じゃない。預けた人の、内部的な所有権です。目的が違う。流通を守る民法ルールは、横領には当てはまらない。最判昭26・5・25。これが肯定説です。趣旨が違えば、結論も変わる。ここが肝です。

金銭の他人性 3類型フロー 〔短答・論文〕

🔴 金銭の他人性 3類型フロー(論証40)。預かった金銭の費消→「どの類型か?」で分岐。(a) 封金→所有権は寄託者→「他人の物」○=横領成立(※封を解いて中の現金を取り出し領得すると占有が移り窃盗)。(b) 消費寄託(民666・銀行預金等)→所有権は受寄者へ→「他人の物」×=横領不成立→背任の問題へ。(c) 使途を定めて委託された金銭→否定説(金銭は所有と占有が一致=他人の物でない)vs 肯定説(判例・通説)=金銭の所有占有一致は流通の動的安全保護の理論で、内部的所有権を守る横領罪には妥当しない→なお「他人の物」○(最判昭26・5・25)。

フローで、三類型を整理します。預かった金を使い込んだ。まず、どの類型か。所有権は預けた人。他人の物、丸。横領成立。占有が移って、窃盗に変わります。注意点です。所有権は受け取った側。他人の物、バツ。横領不成立。最後、使途指定。ここだけ説が分かれる。否定説は、金は所有占有一致で、他人の物でない。一致は流通保護の理論で、横領には妥当しない。一枚で、預けた金の行方が全部見えます。

不法原因給付と横領〔論証41・42〕 〔論文〕

6. 🔴🔴 客体③不法原因給付と横領〔論証41否定説/論証42折衷説・論文最重要〕。事案(典型2類型)=①AがBにCの殺害を依頼し報酬の前払金100万円を交付→Bが着手せず費消/②XがYにZへの贈賄を依頼し賄賂用100万円を預ける→Yが費消。問題の所在=詐欺では「財産的損害」要件で不法原因給付が問題になった(#59前)が、横領では「他人の物」要件で問題になる。AやXの交付は不法原因給付(民708条本文)=返還請求権を失い、その反射的作用として所有権が給付を受けた者に移るとすると、給付物は「他人の物」でなくなり横領不成立になりうる。【肯定説=旧判・最判昭23・6・5】返還請求権は失うが所有権はなお失っていない=「他人の物」にあたる=横領成立。※この判例は、不法原因給付物の所有権は受給者に帰属するとした民事の最高裁判例(最大判昭45・10・21)より前に出た旧判=現在は支持されにくい。【否定説〔論証41〕】民法上、給付物の所有権は受給者に移る。法秩序の統一の見地からこの解釈は刑法上も妥当=「他人の物」にあたらない=横領不成立(単独出題ならこれで足りる)。【折衷説〔論証42〕】民708条本文の「給付」とは終局的な利益の移転をいう(民法通説)。終局的移転があれば「他人の物」でなくなるが、物が寄託されたにすぎない場合は「他人の物」といえる→当てはめ=①殺害報酬の前払=終局的移転=「他人の物」でない=横領不成立/②贈賄用に寄託されたにすぎない=終局的移転なし=「他人の物」=横領成立。

不法原因給付と横領です。事案を、二つ用意しました。一つ目。AがBに、Cの殺害を依頼して、報酬を前払いした。ところがBは、何もせず、その金を使った。二つ目。XがYに、Zへの賄賂に使ってと金を預けた。それを、Yが使い込んだ。さて、横領になるか。ここで、まず問題の所在を確認します。この交付は、不法原因給付です。民法708条。違法な目的で渡した金は、返してもらえない。返還請求できないなら、所有権も移った、とすると。すると「他人の物」でなくなって、横領不成立。そこが、悩みどころです。三つの説を見ます。まず、肯定説。古い判例、最判昭23・6・5です。返還請求権は失うが、所有権はまだ失っていない、と。ただ、これは旧判なんです。注意が要る。後に、所有権は受け取った側に移る、という民事判例が出た。だから今は、支持されにくい。次、否定説。民法で、所有権は受け取った側に移る。法秩序の統一です。法律全体で、矛盾しないように。だから横領不成立。単独で問われたら、これで十分。でも、もう一歩進んだのが、折衷説です。民法708条の「給付」って、何か、を問い直します。民法の通説は、終局的な利益の移転、と読みます。渡しきりなら、もう他人の物でない。そこです。ただ寄託された、預けただけの場合。終局的な移転がない=まだ「他人の物」といえる。二つの事案に、当てはめましょう。渡しきり、終局的移転です。だから他人の物でない。賄賂用の金は。終局的移転がない=まだ他人の物。うまい。同じ前提でも、渡し方で結論が分かれる。

不法原因給付と横領 分岐フロー 〔論文〕

🔴 不法原因給付と横領 分岐フロー(論証41/42)。事案=①殺害報酬の前払/②贈賄用に寄託→「給付物は『他人の物』か?」で分岐。【否定説 論証41】所有権が受給者に移る+法秩序の統一→「他人の物」でない→横領不成立。【折衷説 論証42】民708の「給付」=終局的利益移転か?を問う→①終局的移転あり(渡しきり)=「他人の物」×=不成立/②寄託にとどまる(預けただけ)=終局的移転なし=「他人の物」○=横領成立。脇に注記=肯定説=旧判・最判昭23・6・5(所有権はまだ失わない/民事判例より前の旧判)。試験戦略=単独出題は否定説で足り、盗品等の横領とセット出題なら折衷説が書きやすい(給付/寄託の区別が盗品の論点に接続)。

フローで、分岐を整理します。まず否定説。所有権が移る、法秩序の統一。折衷説は、給付が終局的移転か、を問う。他人の物でない=不成立。寄託にとどまれば。脇に、肯定説の旧判も注記しておきます。単独で問われたら、否定説で足ります。盗品等の横領とセットなら、折衷説が書きやすい。両方書けるように、しておくと安心です。

短答ひっかけ

ここはひっかかる(横領罪①前編のまとめ)。①🔴総論=横領は奪取罪と逆=自己の占有する他人の物を領得=占有侵害なし/保護法益=所有権その他の本権/処罰根拠=委託信任関係への背信。②条文252=「自己の(委託に基づき)占有する他人の物を横領」(五年以下の拘禁刑)/主体=占有者=真正身分犯。③物=財物(動産・不動産)/電気は245準用なく不可罰。④🔴占有〔論証39〕=処分可能性=事実的支配+法律的支配(登記名義人も占有・判例通説)。⑤委託信任関係=委託の有無で252/254を分ける。⑥🔴金銭3類型〔論証40〕=封金○/消費寄託×(背任へ)/使途指定=動的安全保護の私法理論は横領に妥当せず他人の物○(最判昭26・5・25)。⑦🔴🔴不法原因給付〔論証41/42〕=民708の「給付」=終局的利益移転かで「他人の物」を分ける(否定説=不成立/折衷説=寄託にとどまれば成立/肯定説=旧判昭23・6・5)。★全体の軸=横領は「奪う」でなく「預かった物を裏切って自分の物にする」=占有侵害でなく委託の背信。占有も金銭も不法原因給付も「他人の物といえるか」の一点で考える。

整理します。①総論は、横領は奪取罪と逆。②条文は、自己の占有する他人の物を横領。③物は、財物。電気は不可罰。④占有は、処分可能性=事実的支配+法律的支配。⑤委託信任関係で、252と254が分かれる。封金は丸、消費寄託はバツで背任、使途指定はなお他人の物。⑦不法原因給付が、最重要。否定説は不成立、折衷説は寄託なら成立。横領は、奪う罪でなく、預かった物を裏切る罪。

📝 論文の型

★コア規範|横領罪の占有の意義(論証39)。「横領罪の『占有』とは行為者に他人の物の処分可能性があることをいい、処分可能性は事実的支配のみならず法律的支配(例=登記名義)にも認められる。よって『占有』は事実的支配のみならず法律的支配をも含む(判例・通説)」。逐語固定は太字(処分可能性/法律的支配)のみ・あとは趣旨から復元。復元キー=①横領の占有の実質=処分可能性→②処分可能性は事実的支配だけでなく法律的支配(登記名義人は登記で不動産を支配可能)にも認められる→③ゆえに占有=事実的支配+法律的支配→④当てはめ=登記名義人に占有あり。プレースホルダ=yokoryo_senyu_kihan.png(compose_ronsho/visual-director が作成)。

論文の型、一つ目。占有の意義、論証39です。二つだけ。処分可能性、法律的支配。占有の実質は、処分可能性。登記名義人は、登記で不動産を支配できる。

答案の型|横領罪の占有の意義(論証39)。【事例】Aは、B所有の甲土地につき登記名義のみを有していたところ、これを奇貨として、事情を知らないCに甲土地を売却し、登記をCに移転した。Aに横領罪(252条1項)が成立するか、Aに甲土地の「占有」が認められるかが問題となる。【問題提起】Aは甲土地を現実に支配していないが、横領罪の「占有」が認められるか。「占有」の意義が問題となる。【規範】横領罪の「占有」とは行為者に他人の物の処分可能性があることをいい、処分可能性は事実的支配のみならず法律的支配(例=登記名義)にも認められる。よって「占有」は事実的支配のみならず法律的支配をも含む(判例・通説)。【あてはめ】Aは甲土地の登記名義を有し、これにより甲土地を法律上処分することが可能である。よってAに甲土地の「占有」が認められ、その売却・登記移転は横領にあたる。

答案の型です。登記名義だけのAが、土地を売った設例。現実に支配していないAに、占有が認められるか。あてはめ。Aは登記名義で、法律上処分できる。

論文の型:使途を定めた金銭の他人性 〔論文〕

★コア規範|使途を定めた金銭の他人性(論証40)。「確かに民法上、金銭は所有と占有が一致する。しかしそれは金銭の流通に関する動的安全保護のためであり、所有者の内部的所有権保護を目的とする横領罪の解釈には妥当しない。よって使途を定めて委託された金銭もなお『他人の物』にあたる(最判昭26・5・25)」。逐語固定は太字(動的安全保護/内部的所有権保護/なお『他人の物』にあたる)のみ・あとは趣旨から復元。復元キー=①金銭=所有と占有が一致(民法)→他人の物でないとも思える→②しかしそれは動的安全保護の趣旨→③横領罪は内部的所有権保護が目的=趣旨が違う→④私法理論は横領に妥当しない→⑤なお「他人の物」。プレースホルダ=yokoryo_kinsen_kihan.png(compose_ronsho/visual-director が作成)。

論文の型、二つ目。使途を定めた金銭、論証40です。三つ。動的安全保護、内部的所有権保護、なお他人の物。金は所有占有一致で、他人の物でないとも思える。横領は内部的所有権保護=趣旨が違う。

答案の型|使途を定めた金銭の他人性(論証40)。【事例】Aは、知人Bから「Cへの支払いに充ててほしい」と依頼され、その費用として100万円を預かった。ところがAは、これを自己の借金の返済に費消した。Aに横領罪(252条1項)が成立するか、この100万円が「他人の物」にあたるかが問題となる。【問題提起】民法上、金銭は所有と占有が一致するとされるところ、Aが占有する本件100万円が「他人の物」にあたるか。【規範】確かに民法上、金銭は所有と占有が一致する。しかしそれは金銭の流通に関する動的安全保護のためであり、所有者の内部的所有権保護を目的とする横領罪の解釈には妥当しない。よって使途を定めて委託された金銭もなお「他人の物」にあたる(最判昭26・5・25)。【あてはめ】本件100万円は、Cへの支払いという使途を定めて委託されたものであるから、なお委託者Bの「他人の物」にあたる。これを自己の借金返済に費消したAには横領罪が成立する。

答案の型です。Cへの支払い用に預かった百万円を、使い込んだ設例。金は所有占有一致なのに、これが他人の物といえるか。あてはめ。使途を定めて委託された=なお他人の物。

論文の型:不法原因給付と横領 〔論文〕

★コア規範|不法原因給付と横領(論証41否定説/論証42折衷説)。【否定説 論証41】「不法原因給付物の所有権は受給者に移り、法秩序の統一の見地からこの解釈は刑法上も妥当する。よって『他人の物』にあたらず横領不成立」。【折衷説 論証42】「民708条本文の『給付』とは終局的な財産上の移転をいう。よって物が給付されたにすぎない場合(寄託にとどまる場合)はなお『他人の物』といえる」。逐語固定は太字(法秩序の統一/給付/終局的な財産上の移転/寄託にとどまる)のみ・あとは趣旨から復元。復元キー=①不法原因給付(民708)→返還請求権喪失→反射的に所有権が受給者へ→②法秩序の統一で刑法も同じ→③〔否定説〕ゆえに他人の物でない→不成立/③'〔折衷説〕しかし「給付」=終局的利益移転→④寄託にとどまれば終局的移転なし=なお他人の物→⑤当てはめ(殺害報酬前払=終局的移転で不成立/贈賄用寄託=他人の物で成立)。脇=肯定説(旧判・最判昭23・6・5)。プレースホルダ=yokoryo_fuhougeninkyufu_kihan.png(compose_ronsho/visual-director が作成)。

論文の型、三つ目。不法原因給付と横領、論証41と42。まず否定説。逐語は、法秩序の統一。だから他人の物でない=不成立。給付、終局的な財産上の移転、寄託にとどまる。当てはめで、殺害報酬と贈賄用が分かれます。

答案の型|不法原因給付と横領(論証42折衷説)。【事例】Xは、Yに対しZへの贈賄資金として使うよう100万円を預けたが、Yはこれを自己の遊興費に費消した。Yに横領罪(252条1項)が成立するか、この100万円が「他人の物」にあたるかが問題となる。【問題提起】Xの交付は不法原因給付(民708条本文)にあたり、その反射的作用として所有権がYに移るとすれば「他人の物」にあたらないとも思えるが、なお「他人の物」といえるか。【規範】民法708条本文の「給付」とは終局的な財産上の移転をいう。よって、物が給付されたにすぎない場合(寄託にとどまる場合)はなお「他人の物」といえる。【あてはめ】本件100万円は、Zへの贈賄資金として使うようYに寄託されたにすぎず、終局的な財産上の移転があったとはいえない。よってなお「他人の物」にあたり、これを費消したYには横領罪が成立する。(※殺害報酬の前払のように渡しきり=終局的移転がある場合は「他人の物」にあたらず横領不成立となる点と対比。)

答案の型です。贈賄資金として預けた百万円を、使い込んだ設例。問題提起は、不法原因給付で他人の物でないとも思えるが。あてはめ。贈賄資金として寄託=終局的移転なし。殺害報酬の前払なら渡しきり=不成立、と対比します。

今日の地図(保存版)

#61 横領罪①前編 まとめ。軸=横領は「奪う」罪でなく「預かった物を裏切って自分の物にする」罪=占有侵害でなく委託の背信が処罰根拠(保護法益=所有権その他の本権)。①総論=奪取罪と逆(占有侵害なし・対比表)。②条文252=自己の(委託に基づき)占有する他人の物を横領(五年以下の拘禁刑)/主体=占有者=真正身分犯。③物=財物(動産・不動産)/電気は245準用なく不可罰。④🔴占有〔論証39〕=処分可能性=事実的支配+法律的支配(登記名義人も占有・判例通説)。⑤委託信任関係=委託の有無で252/254を分ける。⑥🔴金銭3類型〔論証40〕=封金○/消費寄託×(背任へ)/使途指定=動的安全保護の私法理論は横領に妥当せず他人の物○(最判昭26・5・25)。⑦🔴🔴不法原因給付〔論証41/42〕=民708の「給付」=終局的利益移転かで「他人の物」を分ける(否定説=不成立/折衷説=寄託にとどまれば成立/肯定説=旧判昭23・6・5)。→次回#61後(c12-12)=横領行為・不法領得の意思〔論証48〕・盗品等の横領〔論証43/44〕・横領と背任の区別〔論証52入口〕。

まとめます。軸は、横領は奪う罪でなく、裏切る罪。①総論は、奪取罪と逆。③物は財物、電気は不可罰。⑤委託信任関係で、252と254が分かれる。⑦不法原因給付が、最重要。否定説は不成立、折衷説は寄託なら成立。次は#61の後編、c12-12です。横領「行為」そのものと、不法領得の意思。それと、盗品等の横領、背任との区別もやります。お疲れさまでした。後編で、横領を完成させましょう。

刑法 全体ロードマップへ →