刑法 ゼロから刑法#62

横領罪②前編——不動産二重売買〔論証45/46/47〕・二重抵当(背任入口)・横領後の横領〔論証49〕・横領後の詐欺〔論証50〕・不動産の既遂時期

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第12章 財産に対する罪 ⑬/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

不動産二重売買——三者を切り分ける〔論証45/46/47〕 〔論文〕

1. 🔴🔴 不動産二重売買(二重譲渡)〔論証45/46/47〕。事案=Aが自己所有のX土地をBに売却(①)→移転登記がなされる前に、さらにCにも売却(②)→Cが移転登記を具備(③)。刑法では②につき3つの問いが立つ=(b)Aの横領罪〔論証45〕/(c)Aの詐欺罪(Cが善意の場合)〔論証46〕/(d)Cの横領罪共同正犯(Cが悪意の場合)〔論証47〕。🔴 つまづきの核=「民法では先に登記したCが所有権を取るのに、なぜAに横領罪?」=民法=最終的に誰が所有権を取るか/刑法=Aが他人B所有の物を勝手に処分したかを切り分ける。この視点の違いが分かれば3問とも読める。

一つ目、不動産の二重売買。Aが、自分の土地、X土地を持っています。それを、まずBに売りました。これが①。ところが、移転登記がされる前に、です。Aは同じX土地を、今度はCにも売った。これが②。そしてCが、先に移転登記を備えた。これが③。さて、ここで素朴な疑問が出ます。はい、言ってみてください。民法では、Cが所有権を取ります。そこです。一番、引っかかるところ。視点を、切り替えましょう。民法と刑法は違います。民法は、最終的に誰が所有権を取るか、を見る。でも刑法は、Aの行為そのものを見ます。Aが、他人の物を、勝手に処分したか。この切り分けが、できれば全部読めます。まず、Aの横領罪から。

不動産二重売買 三者関係図 〔論文〕

🔴 不動産二重売買 三者関係図(論証45/46/47・最重要)。A→①売却→B(移転登記まだ)/A→②売却→C→③移転登記を具備。下段に3つの問い=「②でAに横領罪?〔論証45〕→他人(B)の物の処分=○」「(Cが善意)AにCへの詐欺罪?〔論証46〕→財産的損害なし=×」「(Cが悪意)Cに横領の共同正犯?〔論証47〕→単純悪意者=× / 背信的悪意者=○」。横に視点の対比=「民法=Cが所有権取得(登記)/刑法=AはB所有物を勝手に処分=横領」。

関係図で、全体を一枚にします。上に、A・B・C。Aから①Bへ売却。Aから②Cへ売却。Cが③登記を備える。Aの横領、Aの詐欺、Cの共同正犯。民法はCが所有権を取る、刑法はAが処分した。

(b) Aの横領罪——他人の物を処分した〔論証45〕 〔論文〕

(b) Aの横領罪〔論証45〕。問い=AがCに売却した②の行為につき、Bを被害者とする横領罪(252条1項)が成立するか。鍵=X土地が②の時点で「他人の物」にあたるか。民法176条=物権の設定・移転は当事者の意思表示のみによって効力を生ずる(意思主義)→売買契約の締結と同時に所有権が移転する(民法判例・通説)。よってAがBに売却(①)した時点でX土地はB所有となる→AにとってX土地は「自己の占有する他人の物」→Cへの売却(②)=他人の物の処分=横領成立(最判昭30・12・26)。★暗記すべき規範〔論証45 core〕=「土地の所有権は売買契約の締結と同時に移転する(民176)。よってAがBに売却した時点でX土地はB所有となり、Cへの売却はAにとって『自己の占有する他人の物』の横領(252条1項)にあたる。」

では、Aの横領罪。論証45です。鍵は、②の時点でX土地が他人の物か。ここで、民法176条を使います。物権の移転は、当事者の意思表示のみで効力を生ずる。これを、意思主義といいます。結論はこう。売買契約を結んだ瞬間に、所有権が移ります。だからAがBに売った①の時点で。ということは、Aにとって。そこへ、Cに売った②。これが横領です。最判昭30・12・26。Cが最後に勝つかどうかは、関係ない。その瞬間に、Aは横領をしている。これが、一番大事な視点でした。

(c) Aの詐欺罪——財産的損害がない〔論証46〕 〔論文〕

(c) Aの詐欺罪〔論証46〕。問い=Cが善意(Bへの売却を知らない)の場合、AにCを被害者とする詐欺罪(246条1項)が成立するか。鍵=詐欺罪の成立には財産的損害の発生が必要(#58既出)。Cは移転登記を備えれば有効に所有権を取得できる(民177で対抗要件を備えれば確定的に権利を得る)=Cには財産的損害が発生しない→詐欺罪は成立しない(通説)。🔴 備考(特段の事情)=「Bに売却済みと知っていればCは買わなかった」といえる特段の事情がある場合は、Aに詐欺罪を成立させてもよい。★暗記すべき規範〔論証46 core〕=「詐欺罪の成立には財産的損害の発生が必要であるところ、Cは移転登記を備えれば所有権を取得できるから財産的損害が生じない。よって詐欺罪は成立しない。」(🔴 内容上「Aの詐欺罪」=論証46が正タイトル)

二つ目の問い、Aの詐欺罪。論証46です。前提は、Cが善意のとき。Aは黙ってCに売った=だましたともいえる。ここで、詐欺罪の要件を思い出してください。#58でやりましたね。損害が、いるんです。考えてみてください。Cは登記を備えれば。お金を払って、ちゃんと土地が手に入る。財産的損害が、発生しないんです。成立しない。これが通説です。一点だけ、例外の注記があります。Bに売却済みと知っていれば、Cは買わなかった。それがあるなら、詐欺を成立させてもいい。

(d) Cの横領罪共同正犯——悪意の種類で分岐〔論証47〕 〔論文〕

(d) Cの横領罪共同正犯〔論証47〕。問い=Cが悪意(Bへの売却を知っている)の場合、CにAの横領罪の共同正犯(60条・252条1項)が成立するか。鍵=民法177条の「第三者」には、自由競争の範囲を逸脱する背信的悪意者は含まれないが、単純悪意者は含まれる(民法判例・通説)。刑法もこれと整合的に解する=Cが単純悪意者なら、民法上保護される自由競争の範囲内=共同正犯は成立しない/Cが背信的悪意者なら、保護に値しない=共同正犯が成立しうる(福岡高判昭47・11・22参照)。🔴 単に事情を知っている=単純悪意者は、買って登記すること自体が自由競争として許される。★暗記すべき規範〔論証47 core〕=「民法177条の『第三者』には、自由競争の範囲を逸脱する背信的悪意者は含まれないが、単純悪意者は含まれる。よって、Cが背信的悪意者である場合には横領罪の共同正犯が成立するが、単純悪意者である場合には成立しない。」

三つ目の問い、Cの共同正犯。論証47です。Bに売られてると、知ってて買った場合。そう感じますよね。そこが、つまづきポイント。ここでまた、民法177条を使います。177条の「第三者」に、誰が含まれるか。ここで、二種類の悪意者を分けます。単純悪意者と、背信的悪意者。単に事情を知ってるだけ=単純悪意者。これは、民法177条の第三者に、含まれます。登記を備えれば、保護される。自由競争の範囲内。だからCが単純悪意者なら。刑法もそれと、整合的に解します。だから共同正犯は、成立しません。自由競争の範囲を、逸脱した人です。Aを困らせる目的で結託した、みたいな。これは177条の第三者に、含まれない。だから背信的悪意者なら、共同正犯が成立しうる。ただこの判例は、参照判例どまり。単純なら否定、背信的なら肯定。ここが分岐です。

Cの共同正犯 単純/背信的悪意者の分岐 〔論文〕

🔴 Cの共同正犯 単純悪意者/背信的悪意者の分岐〔論証47〕。Cは悪意(Bへの売却を知っている)→「民法177条の『第三者』に含まれるか?」→【単純悪意者】単に事情を知っているだけ=第三者に含まれる=登記を備えれば保護される(自由競争の範囲内)=横領の共同正犯は成立しない/【背信的悪意者】自由競争の範囲を逸脱(Aを害する結託等)=第三者に含まれない=保護されない=横領の共同正犯が成立しうる(福岡高判昭47・11・22)。★軸=刑法は民法177条の評価と整合させる=民法で保護される者は共犯にしない。

フローで、分岐を確定します。問いは、177条の第三者に含まれるか。含まれる=保護される=共同正犯は成立しない。含まれない=保護されない=共同正犯が成立しうる。民法で守られる人を、共犯にはしない。

二重抵当——横領でなく背任の問題(入口) 〔短答・論文〕

2. 二重抵当——横領でなく背任の問題(#63リンク・入口のみ)。事案=抵当権設定者Aが、第1抵当権を設定(登記まだ)→登記前にさらに第2抵当権を設定し、第2抵当権者が先に登記を備えた。これは横領か背任か。🔴 結論=背任罪の問題(横領ではない)。理由=二重売買と違い、Aは依然自己の不動産の処分権者であり、「他人の物の処分(領得)」とは構成しづらい。むしろAは第1抵当権者の登記に協力する義務=他人の事務を負っており、その任務に背いた=他人の事務処理者の任務違背=背任の枠(247条)。🔴 二重売買=横領/二重抵当=背任、と必ず区別する。詳細(事務処理者性・図利加害目的・財産上の損害〔論証51/53〕)は#63背任で扱う。本回は「別物だ」という入口だけ。

二つ目、二重抵当。名前が似てますが。全然違います。罪名が、変わります。二重売買は横領、二重抵当は背任です。事案から。Aが、自分の不動産に。まず、第1抵当権を設定した。登記はまだ。その登記の前に、第2抵当権も設定した。で、第2抵当権者が、先に登記を備えた。これは、横領でしょうか、背任でしょうか。引っかかりますよね。でも、違うんです。二重売買と、決定的に違う点があります。抵当権の場合、Aはまだ、自分の物の処分権者です。だから、他人の物を処分した、と言いにくい。じゃあ、Aは何を裏切ったのか。第1抵当権者の、登記に協力する義務です。これは、他人のための事務といえる。だから、背任の枠になるんです。ここは、混同しないでください。試験頻出です。詳しい背任は、#63で。

二重売買 vs 二重抵当 区別表 〔短答・論文〕

🔴 二重売買 vs 二重抵当 区別表。行=二重売買/二重抵当。列=「Aの行為の性質」「成立する罪」「理由」。二重売買=行為:Bに売却済みの(=他人B所有になった)物をCに売却(領得行為)・罪:横領罪(252)・理由:他人の物を処分した。二重抵当=行為:自己物に第2抵当権を設定=登記協力義務に背く(権限内の背信)・罪:背任罪(247)・理由:他人の物の処分でなく、他人(第1抵当権者)のための事務の任務違背。★軸=物が「他人の物」になったか(横領)/自己物のまま義務に背いたか(背任)。詳細(事務処理者・図利加害目的・損害)は#63。

区別表で、二つを並べます。列は、行為の性質、成立する罪、理由。他人B所有になった物を、Cに売る=領得行為。罪は横領。自己物に、第2抵当権=登記協力義務に背く。罪は背任。他人の物になったか、自己物のまま義務に背いたか。この一枚で、混同を防げます。

横領後の横領——侵害の程度が違う〔論証49〕 〔論文〕

3. 🔴 横領後の横領〔論証49〕——抵当権設定後の売却も新たな横領。事案=X所有の不動産の登記名義人であるAが、その地位を利用して、債権者Bのために当該不動産に抵当権を設定・登記(第1行為=横領成立は当然)→その後Aが当該不動産をCに売却・登記(第2行為)。第2行為にも横領罪が成立するか。問題の所在=第2行為は第1横領の不可罰的事後行為(後始末)にすぎず、新たな罪にならないのではないか。🔴 結論=新たな横領罪が成立。理由=抵当権の設定と売却とでは、横領罪の保護法益である所有権に対する侵害の程度が異なる(抵当権設定<売却)。第1の抵当権設定で所有権侵害がすべて評価し尽くされたとはいえない→第2の売却は新たに所有権を侵害=新たな横領(最大判平15・4・23=先行の抵当権設定があることは後行の所有権移転に犯罪の成立を妨げる事情にならない)。★暗記すべき規範〔論証49 core〕=「抵当権の設定行為と売却行為とでは、横領罪の保護法益である所有権に対する侵害の程度が異なる。抵当権設定により所有権侵害がすべて評価し尽くされたとはいえないから、その後の売却行為は新たに所有権を侵害するものとして、新たな横領罪が成立する。」

三つ目、横領後の横領。論証49です。事案。Aが、X所有の不動産の名義人でした。Aがまず、債権者Bのために抵当権を設定した。これだけで、横領は成立します。当然に。その後、Aが今度は、Cに売却した。問題は、この第2行為にも横領がつくか。そこが、つまづきポイントです。反論はこうです。第2行為は、後始末にすぎない。法律用語で、不可罰的事後行為、といいます。でも、結論は新たな横領が成立、です。抵当権設定と、売却を、比べてみてください。所有権への、侵害の程度。どっちが重いですか。抵当権は、重しを乗せただけ。侵害の程度が、違うんです。そこです。抵当権設定で、侵害が完結してない。だから新たな横領が、成立する。最大判平15・4・23も、同じ結論です。侵害の程度が違う=これが軸でした。

横領後の横領 侵害程度フロー 〔論文〕

🔴 横領後の横領 侵害程度フロー〔論証49〕。第1行為=抵当権の設定・登記(横領成立は当然)→第2行為=売却・登記→問い「第1(抵当権設定)で、所有権侵害はすべて評価し尽くされたか?」→【No】抵当権設定<売却で侵害の程度が異なる=第1で評価し尽くしていない→第2の売却は新たな所有権侵害=新たな横領罪が成立(不可罰的事後行為ではない・最大判平15・4・23)。★軸=同じ物への二度の侵害でも、侵害の程度が違えば後行行為も新たな罪。

フローで、整理します。抵当権の設定。これで横領は成立。問いは、第1で侵害を評価し尽くしたか。だから、評価し尽くしてない。Noです。新たな横領罪が、成立。不可罰的事後行為ではない。これが、罪数の一つ目のモノサシです。

横領後の詐欺——法定刑の軽さの趣旨〔論証50〕 〔論文〕

4. 🔴 横領後の詐欺〔論証50〕——返還を欺いて免れても詐欺不成立。事案=AがBから預かった物を売却して横領した後、事情を知らないBから物の返還請求を受け、「泥棒に盗まれた」と欺いてBの請求(返還)を免れた。横領罪に加えて詐欺罪(246条2項)も成立するか。🔴 結論=詐欺罪は成立しない(不可罰的事後行為・通説)。理由=横領罪の法定刑の軽さに着目する。単純横領罪の法定刑(五年以下の拘禁刑)が窃盗・詐欺より軽いのは、「自己の占有する他人の物の横領」という行為の非難可能性の減少を考慮したもの。横領と同一の被害者に対し、横領物を確保するために行われた欺罔行為に重い詐欺罪を成立させると、横領罪の法定刑を軽く定めた法の趣旨を没却する→当該欺罔行為は横領罪の不可罰的(共罰的)事後行為=詐欺罪は成立しない。🔴 限界=あくまで「同一被害者・横領物確保のための欺罔」に限る。別の被害者・別の財産への新たな侵害は別罪になりうる。★暗記すべき規範〔論証50 core〕=「単純横領罪の法定刑が窃盗・詐欺より軽いのは、横領という行為の非難可能性の減少を考慮したものである。その趣旨を没却しないため、横領罪と同一の被害者に対し横領物を確保するために行われた欺罔行為は、横領罪の不可罰的事後行為にあたり、詐欺罪は成立しない。」

四つ目、横領後の詐欺。論証50です。事案。AがBから物を預かっていました。それを売って、横領した。ここまでは横領成立。その後、事情を知らないBが、返してと言う。Aは、泥棒に盗まれた、と嘘をついて免れた。じゃあ、この嘘に詐欺罪がつくか。そう見えますよね。でも、結論は詐欺不成立です。ここで、横領罪の法定刑に注目します。単純横領は、五年以下の拘禁刑。覚えてますか。これ、窃盗や詐欺より、軽いんです。自分が預かってる物に手をつけた=非難の程度が低い。さて、ここに重い詐欺をかぶせたら。せっかく軽くした意味が、消えてしまう。そこです。同一の被害者に、横領物を確保するための嘘。これに重い詐欺をつけると、趣旨を没却する。詐欺罪は、成立しない。横領に吸収されます。いい着眼。横領後の横領は、新たな罪が成立した。モノサシが、違うんです。こっちは、法定刑の軽さの趣旨。最後に、限界も押さえて。同一被害者で、横領物を確保するための嘘に限ります。新たな侵害=別罪になりうる。ここは注意です。

横領後の詐欺 不可罰的事後行為フロー 〔論文〕

🔴 横領後の詐欺 不可罰的事後行為フロー〔論証50〕。横領(第1・売却して横領成立)→Bから返還請求→嘘で免れる(第2=欺罔)→問い「横領物を確保するための欺罔・同一被害者か?」→【Yes】横領罪の法定刑の軽さ(非難可能性の減少)の趣旨を没却しないため=横領罪の不可罰的事後行為=詐欺不成立(横領に吸収)/【No(別被害者・別財産への新たな侵害)】別罪になりうる。★軸=横領後の横領(侵害の程度)と対比=こちらは法定刑の趣旨で詐欺を吸収。

フローで、確定します。返還請求が来て、嘘で免れた。横領物を確保するための嘘で、同一被害者か。法定刑の軽さの趣旨を没却しない=詐欺不成立。別被害者や別の財産なら、別罪になりうる。侵害の程度か、法定刑の趣旨か。二つのモノサシ。

不動産の既遂時期——登記の完了で既遂 〔短答・論文〕

5. 不動産の既遂時期——登記の完了で既遂(登記説)。原則(#61既出)=横領は「不法領得の意思の発現行為で直ちに既遂」(最判昭27・10・17)。ところが不動産の二重譲渡・抵当権設定は、売買・抵当権設定の契約をしただけの段階では、所有権を失わせる危険が具体化したとはいえない→登記の完了をもって既遂とする見解が有力(登記説)。理由=登記によってはじめて所有権を失わせる危険が具体化する。例外=原状回復のための解決金(仮登記抹消料)を得る目的で、不実の抵当権設定仮登記をした場合は、その仮登記をした時点で既遂(最決平21・3・26)。★暗記すべき規範(短答・論文共通)=「不動産の二重譲渡・抵当権設定の横領は、登記の完了をもって既遂(登記説・有力)。原状回復目的の不実の抵当権設定仮登記は仮登記時点で既遂(最決平21・3・26)。」

五つ目、不動産の既遂時期。原則は、#61でやりました。覚えてますか。でも、不動産は別扱いになります。二重譲渡や、抵当権設定の場合です。契約しただけの段階では、どうでしょう。所有権を失わせる危険が、具体化したといえますか。まだ、危険が固まってない。登記の完了をもって、既遂とします。登記説です。登記で、所有権喪失の危険が具体化する。これが有力説です。一つ、例外があります。不実の抵当権設定の、仮登記の場合。原状回復のための解決金を得る目的で、仮登記をした。このときは、仮登記をした時点で既遂です。原則は登記の完了、仮登記の例外は仮登記時点。

短答ひっかけ

ここはひっかかる(横領罪②前編のまとめ)。①🔴🔴不動産二重売買〔論証45/46/47〕=民法(誰が所有権を取るか)と刑法(Aが他人物を処分したか)を切り分ける/Aの横領○〔45〕・Aの詐欺×(財産的損害なし)〔46〕・Cの共同正犯は単純悪意者×/背信的悪意者○〔47〕。②二重抵当=横領でなく背任(自己物に第2抵当=登記協力義務違反=権限内の背信・詳細#63)。③🔴横領後の横領〔論証49〕=抵当権設定<売却で侵害の程度が異なる→第2も新たな横領(最大判平15・4・23)。④🔴横領後の詐欺〔論証50〕=横領罪の法定刑の軽さの趣旨→同一被害者・横領物確保の欺罔は不可罰的事後行為→詐欺不成立。⑤不動産の既遂時期=登記の完了で既遂(登記説)・仮登記は仮登記時点(最決平21・3・26)。★全体の軸=二重売買は民法と刑法を切り分ける/罪数は「侵害の程度」(横領後の横領=新たな罪)と「法定刑の趣旨」(横領後の詐欺=吸収)の2つのモノサシで読む。

整理します。①不動産二重売買は、民法と刑法を切り分ける。Aの横領○、Aの詐欺×、Cの共同正犯は分岐。②二重抵当は、横領でなく背任。③横領後の横領は、侵害の程度が違う。④横領後の詐欺は、法定刑の軽さの趣旨。⑤不動産の既遂時期は、登記の完了で既遂。全体の軸は。侵害の程度と、法定刑の趣旨。これで全部読めました。

📝 論文の型

★コア規範|不動産二重売買(論証45/46/47・三者で1事案)。【論証45 Aの横領】「土地の所有権は売買契約の締結と同時に移転する(民176)。よってAがBに売却した時点でX土地はB所有となり、Cへの売却はAにとって『自己の占有する他人の物』の横領(252条1項)にあたる」。【論証46 Aの詐欺否定】「詐欺罪の成立には財産的損害の発生が必要であるところ、Cは移転登記を備えれば所有権を取得できるから財産的損害が生じない。よって詐欺罪は成立しない」(備考=特段の事情あれば肯定可)。【論証47 Cの共同正犯】「民法177条の『第三者』には、自由競争の範囲を逸脱する背信的悪意者は含まれないが、単純悪意者は含まれる。よって、Cが背信的悪意者なら横領罪の共同正犯が成立するが、単純悪意者なら成立しない」。逐語固定は太字のみ・あとは趣旨から復元。復元キー=〔45〕①X土地は他人の物か→②民176で契約時に所有権移転→③Bへの売却でB所有→④Cへの売却は他人物の処分→⑤横領成立(最判昭30・12・26)/〔46〕①Cが善意のとき詐欺か→②詐欺には財産的損害が必要(#58)→③Cは登記を備えれば有効に取得→④損害なし→⑤詐欺否定/〔47〕①Cが悪意のとき共同正犯か→②民177「第三者」に単純悪意者は含む・背信的悪意者は含まない→③刑法も整合→④単純=自由競争内→否定/背信=肯定(福岡高判昭47・11・22)。プレースホルダ=yokoryo2_nijujototo_kihan.png(compose_ronsho/visual-director が作成)。

論文の型、一つ目。不動産二重売買。三者で一事案です。逐語で覚えるのは、太字だけ。売買契約と同時に移転、B所有、これが太字。財産的損害の発生が必要、生じない。民法177条の第三者、背信的悪意者は含まれない、単純悪意者は含まれる。三つとも、復元キーで組み立てられます。

答案の型|不動産二重売買(論証45/46/47・三者一事案)。【事例】Aは、自己所有のX土地をBに売却したが、移転登記をしないうちに、同じX土地を事情を知るCにも売却し、Cが移転登記を備えた。A・Cの罪責を論ぜよ。【問題提起/規範/あてはめ・Aの横領(論証45)】民176により売買契約と同時に所有権が移転するから、AがBに売却した時点でX土地はB所有となり、Aにとって「自己の占有する他人の物」にあたる。これをCに売却したAには横領罪(252条1項)が成立する。【Aの詐欺(論証46)】仮にCが善意でも、詐欺罪には財産的損害が必要であるところ、Cは移転登記を備えれば所有権を取得でき財産的損害が生じないから、詐欺罪は成立しない。【Cの共同正犯(論証47)】Cが悪意の場合、民177の「第三者」に単純悪意者は含まれ背信的悪意者は含まれない。Cが単純悪意者であれば自由競争の範囲内で保護され横領罪の共同正犯は成立しないが、背信的悪意者であれば共同正犯が成立しうる。

答案の型です。三者一事案を、順番に処理します。民176で契約時にB所有=他人の物=Cへの売却で横領。Cが善意でも、財産的損害なし=詐欺不成立。Cが悪意でも、単純なら否定、背信的なら肯定。

論文の型:横領後の横領 〔論文〕

★コア規範|横領後の横領(論証49)。「抵当権の設定行為と売却行為とでは、横領罪の保護法益である所有権に対する侵害の程度が異なる。抵当権設定により所有権侵害がすべて評価し尽くされたとはいえないから、その後の売却行為は新たに所有権を侵害するものとして、新たな横領罪が成立する」。逐語固定は太字(所有権に対する侵害の程度が異なる/所有権侵害がすべて評価し尽くされたとはいえない/新たに所有権を侵害)のみ・あとは趣旨から復元。復元キー=①第2行為(売却)は不可罰的事後行為か→②抵当権設定と売却で所有権侵害の程度が異なる(抵当権設定<売却)→③第1で侵害を評価し尽くしていない→④第2は新たな所有権侵害→⑤新たな横領成立(最大判平15・4・23)。プレースホルダ=yokoryogo_yokoryo_kihan.png(compose_ronsho/visual-director が作成)。

論文の型、二つ目。横領後の横領、論証49。太字だけ。侵害の程度が異なる、評価し尽くされたとはいえない。第2行為は不可罰的事後行為か、から入る。第1で評価し尽くしてない=第2は新たな侵害。

答案の型|横領後の横領(論証49)。【事例】X所有の不動産の登記名義人Aは、その地位を利用して債権者Bのために抵当権を設定・登記した後、同不動産をCに売却・登記した。Aの売却行為に横領罪が成立するか。【問題提起】抵当権設定により横領罪が成立した後の売却行為は、先行する横領の不可罰的事後行為にすぎず、新たな横領罪は成立しないのではないか。【規範】抵当権の設定行為と売却行為とでは、横領罪の保護法益である所有権に対する侵害の程度が異なる。抵当権設定により所有権侵害がすべて評価し尽くされたとはいえないから、その後の売却行為は新たに所有権を侵害するものとして、新たな横領罪が成立する。【あてはめ】Aの売却行為は、抵当権設定より重い所有権侵害であり、先行行為で評価し尽くされていない。よってAの売却行為には新たな横領罪が成立する。

答案の型です。抵当権設定の後に、売却した設例。規範は、侵害の程度が異なる。売却は抵当権設定より重い=評価し尽くされてない。

論文の型:横領後の詐欺 〔論文〕

★コア規範|横領後の詐欺(論証50)。「単純横領罪の法定刑が窃盗・詐欺より軽いのは、横領という行為の非難可能性の減少を考慮したものである。その趣旨を没却しないため、横領罪と同一の被害者に対し横領物を確保するために行われた欺罔行為は、横領罪の不可罰的事後行為にあたり、詐欺罪は成立しない」。逐語固定は太字(非難可能性の減少/趣旨を没却しない/同一の被害者/横領物を確保するために/不可罰的事後行為)のみ・あとは趣旨から復元。復元キー=①返還免脱の欺罔に詐欺(246Ⅱ)か→②横領罪は法定刑が軽い=非難可能性の減少の趣旨→③重い詐欺を付すと趣旨を没却→④同一被害者・横領物確保の欺罔は不可罰的事後行為→⑤詐欺不成立(限界=別被害者・別財産は別罪)。プレースホルダ=yokoryogo_sagi_kihan.png(compose_ronsho/visual-director が作成)。

論文の型、三つ目。横領後の詐欺、論証50。太字だけ。非難可能性の減少、趣旨を没却しない。同一の被害者、横領物を確保するために、不可罰的事後行為。横領罪は法定刑が軽い、その趣旨から入る。同一被害者・横領物確保の嘘は、不可罰的事後行為。

答案の型|横領後の詐欺(論証50)。【事例】AはBから預かった物を売却して横領した後、事情を知らないBから返還を求められ、「泥棒に盗まれた」と嘘をついてBの返還請求を免れた。Aの欺罔行為に詐欺罪(246条2項)が成立するか。【問題提起】横領後に同一被害者をだまして返還を免れた行為に、別途詐欺罪が成立するか。【規範】単純横領罪の法定刑が窃盗・詐欺より軽いのは、横領という行為の非難可能性の減少を考慮したものである。その趣旨を没却しないため、横領罪と同一の被害者に対し横領物を確保するために行われた欺罔行為は、横領罪の不可罰的事後行為にあたり、詐欺罪は成立しない。【あてはめ】Aの嘘は、同一被害者Bに対し、横領物を確保するために行われたものである。よって横領罪の不可罰的事後行為にあたり、詐欺罪は成立しない。

答案の型です。横領した後、嘘で返還を免れた設例。規範は、法定刑の軽さの趣旨を没却しない。同一被害者・横領物確保の嘘=不可罰的事後行為。

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#62前 横領罪②前編 まとめ。軸=二重売買は民法(誰が所有権を取るか)と刑法(Aが他人物を処分したか)を切り分ける/罪数は「侵害の程度」(横領後の横領=新たな罪)と「法定刑の趣旨」(横領後の詐欺=吸収)の2つのモノサシ。①🔴🔴不動産二重売買〔論証45/46/47〕=Aの横領○(民176で契約時にB所有・最判昭30・12・26)/Aの詐欺×(財産的損害なし)/Cの共同正犯は単純悪意者×・背信的悪意者○(民177「第三者」・福岡高判昭47・11・22)。②二重抵当=横領でなく背任(自己物に第2抵当=登記協力義務違反=権限内の背信・詳細#63)。③🔴横領後の横領〔論証49〕=侵害の程度が異なる→第2も新たな横領(最大判平15・4・23)。④🔴横領後の詐欺〔論証50〕=法定刑の軽さの趣旨→同一被害者・横領物確保の欺罔は不可罰的事後行為→詐欺不成立。⑤不動産の既遂時期=登記の完了で既遂(登記説)・仮登記は仮登記時点(最決平21・3・26)。→次回#62後=横領罪②後編(業務上横領253〔加重・二重身分・65条1項2項〕・占有離脱物横領254〔委託なき横領・占有離脱物の定義・大判大8・4・4〕)。

まとめます。軸は、二つ。一つ、二重売買は民法と刑法を切り分ける。もう一つ、罪数は二つのモノサシ。①不動産二重売買は、三者を切り分ける。②二重抵当は、横領でなく背任。③横領後の横領は、侵害の程度が違う=新たな横領。⑤不動産の既遂時期は、登記の完了で既遂。これで、横領の応用と罪数が、ひととおり完成です。次は#62の後編です。横領の派生類型。業務上横領と、占有離脱物横領です。業務として預かる人が横領した、加重類型です。落とし物を、ネコババしたような場合。委託がない横領。お疲れさまでした。

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