横領罪②前編——不動産二重売買〔論証45/46/47〕・二重抵当(背任入口)・横領後の横領〔論証49〕・横領後の詐欺〔論証50〕・不動産の既遂時期
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第12章 財産に対する罪 ⑬/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
不動産二重売買——三者を切り分ける〔論証45/46/47〕 〔論文〕

一つ目、不動産の二重売買。Aが、自分の土地、X土地を持っています。それを、まずBに売りました。これが①。ところが、移転登記がされる前に、です。Aは同じX土地を、今度はCにも売った。これが②。そしてCが、先に移転登記を備えた。これが③。さて、ここで素朴な疑問が出ます。はい、言ってみてください。民法では、Cが所有権を取ります。そこです。一番、引っかかるところ。視点を、切り替えましょう。民法と刑法は違います。民法は、最終的に誰が所有権を取るか、を見る。でも刑法は、Aの行為そのものを見ます。Aが、他人の物を、勝手に処分したか。この切り分けが、できれば全部読めます。まず、Aの横領罪から。
不動産二重売買 三者関係図 〔論文〕

関係図で、全体を一枚にします。上に、A・B・C。Aから①Bへ売却。Aから②Cへ売却。Cが③登記を備える。Aの横領、Aの詐欺、Cの共同正犯。民法はCが所有権を取る、刑法はAが処分した。
(b) Aの横領罪——他人の物を処分した〔論証45〕 〔論文〕

では、Aの横領罪。論証45です。鍵は、②の時点でX土地が他人の物か。ここで、民法176条を使います。物権の移転は、当事者の意思表示のみで効力を生ずる。これを、意思主義といいます。結論はこう。売買契約を結んだ瞬間に、所有権が移ります。だからAがBに売った①の時点で。ということは、Aにとって。そこへ、Cに売った②。これが横領です。最判昭30・12・26。Cが最後に勝つかどうかは、関係ない。その瞬間に、Aは横領をしている。これが、一番大事な視点でした。
(c) Aの詐欺罪——財産的損害がない〔論証46〕 〔論文〕

二つ目の問い、Aの詐欺罪。論証46です。前提は、Cが善意のとき。Aは黙ってCに売った=だましたともいえる。ここで、詐欺罪の要件を思い出してください。#58でやりましたね。損害が、いるんです。考えてみてください。Cは登記を備えれば。お金を払って、ちゃんと土地が手に入る。財産的損害が、発生しないんです。成立しない。これが通説です。一点だけ、例外の注記があります。Bに売却済みと知っていれば、Cは買わなかった。それがあるなら、詐欺を成立させてもいい。
(d) Cの横領罪共同正犯——悪意の種類で分岐〔論証47〕 〔論文〕

三つ目の問い、Cの共同正犯。論証47です。Bに売られてると、知ってて買った場合。そう感じますよね。そこが、つまづきポイント。ここでまた、民法177条を使います。177条の「第三者」に、誰が含まれるか。ここで、二種類の悪意者を分けます。単純悪意者と、背信的悪意者。単に事情を知ってるだけ=単純悪意者。これは、民法177条の第三者に、含まれます。登記を備えれば、保護される。自由競争の範囲内。だからCが単純悪意者なら。刑法もそれと、整合的に解します。だから共同正犯は、成立しません。自由競争の範囲を、逸脱した人です。Aを困らせる目的で結託した、みたいな。これは177条の第三者に、含まれない。だから背信的悪意者なら、共同正犯が成立しうる。ただこの判例は、参照判例どまり。単純なら否定、背信的なら肯定。ここが分岐です。
Cの共同正犯 単純/背信的悪意者の分岐 〔論文〕

フローで、分岐を確定します。問いは、177条の第三者に含まれるか。含まれる=保護される=共同正犯は成立しない。含まれない=保護されない=共同正犯が成立しうる。民法で守られる人を、共犯にはしない。
二重抵当——横領でなく背任の問題(入口) 〔短答・論文〕

二つ目、二重抵当。名前が似てますが。全然違います。罪名が、変わります。二重売買は横領、二重抵当は背任です。事案から。Aが、自分の不動産に。まず、第1抵当権を設定した。登記はまだ。その登記の前に、第2抵当権も設定した。で、第2抵当権者が、先に登記を備えた。これは、横領でしょうか、背任でしょうか。引っかかりますよね。でも、違うんです。二重売買と、決定的に違う点があります。抵当権の場合、Aはまだ、自分の物の処分権者です。だから、他人の物を処分した、と言いにくい。じゃあ、Aは何を裏切ったのか。第1抵当権者の、登記に協力する義務です。これは、他人のための事務といえる。だから、背任の枠になるんです。ここは、混同しないでください。試験頻出です。詳しい背任は、#63で。
二重売買 vs 二重抵当 区別表 〔短答・論文〕

区別表で、二つを並べます。列は、行為の性質、成立する罪、理由。他人B所有になった物を、Cに売る=領得行為。罪は横領。自己物に、第2抵当権=登記協力義務に背く。罪は背任。他人の物になったか、自己物のまま義務に背いたか。この一枚で、混同を防げます。
横領後の横領——侵害の程度が違う〔論証49〕 〔論文〕

三つ目、横領後の横領。論証49です。事案。Aが、X所有の不動産の名義人でした。Aがまず、債権者Bのために抵当権を設定した。これだけで、横領は成立します。当然に。その後、Aが今度は、Cに売却した。問題は、この第2行為にも横領がつくか。そこが、つまづきポイントです。反論はこうです。第2行為は、後始末にすぎない。法律用語で、不可罰的事後行為、といいます。でも、結論は新たな横領が成立、です。抵当権設定と、売却を、比べてみてください。所有権への、侵害の程度。どっちが重いですか。抵当権は、重しを乗せただけ。侵害の程度が、違うんです。そこです。抵当権設定で、侵害が完結してない。だから新たな横領が、成立する。最大判平15・4・23も、同じ結論です。侵害の程度が違う=これが軸でした。
横領後の横領 侵害程度フロー 〔論文〕

フローで、整理します。抵当権の設定。これで横領は成立。問いは、第1で侵害を評価し尽くしたか。だから、評価し尽くしてない。Noです。新たな横領罪が、成立。不可罰的事後行為ではない。これが、罪数の一つ目のモノサシです。
横領後の詐欺——法定刑の軽さの趣旨〔論証50〕 〔論文〕

四つ目、横領後の詐欺。論証50です。事案。AがBから物を預かっていました。それを売って、横領した。ここまでは横領成立。その後、事情を知らないBが、返してと言う。Aは、泥棒に盗まれた、と嘘をついて免れた。じゃあ、この嘘に詐欺罪がつくか。そう見えますよね。でも、結論は詐欺不成立です。ここで、横領罪の法定刑に注目します。単純横領は、五年以下の拘禁刑。覚えてますか。これ、窃盗や詐欺より、軽いんです。自分が預かってる物に手をつけた=非難の程度が低い。さて、ここに重い詐欺をかぶせたら。せっかく軽くした意味が、消えてしまう。そこです。同一の被害者に、横領物を確保するための嘘。これに重い詐欺をつけると、趣旨を没却する。詐欺罪は、成立しない。横領に吸収されます。いい着眼。横領後の横領は、新たな罪が成立した。モノサシが、違うんです。こっちは、法定刑の軽さの趣旨。最後に、限界も押さえて。同一被害者で、横領物を確保するための嘘に限ります。新たな侵害=別罪になりうる。ここは注意です。
横領後の詐欺 不可罰的事後行為フロー 〔論文〕

フローで、確定します。返還請求が来て、嘘で免れた。横領物を確保するための嘘で、同一被害者か。法定刑の軽さの趣旨を没却しない=詐欺不成立。別被害者や別の財産なら、別罪になりうる。侵害の程度か、法定刑の趣旨か。二つのモノサシ。
不動産の既遂時期——登記の完了で既遂 〔短答・論文〕

五つ目、不動産の既遂時期。原則は、#61でやりました。覚えてますか。でも、不動産は別扱いになります。二重譲渡や、抵当権設定の場合です。契約しただけの段階では、どうでしょう。所有権を失わせる危険が、具体化したといえますか。まだ、危険が固まってない。登記の完了をもって、既遂とします。登記説です。登記で、所有権喪失の危険が具体化する。これが有力説です。一つ、例外があります。不実の抵当権設定の、仮登記の場合。原状回復のための解決金を得る目的で、仮登記をした。このときは、仮登記をした時点で既遂です。原則は登記の完了、仮登記の例外は仮登記時点。
短答ひっかけ

整理します。①不動産二重売買は、民法と刑法を切り分ける。Aの横領○、Aの詐欺×、Cの共同正犯は分岐。②二重抵当は、横領でなく背任。③横領後の横領は、侵害の程度が違う。④横領後の詐欺は、法定刑の軽さの趣旨。⑤不動産の既遂時期は、登記の完了で既遂。全体の軸は。侵害の程度と、法定刑の趣旨。これで全部読めました。
📝 論文の型

論文の型、一つ目。不動産二重売買。三者で一事案です。逐語で覚えるのは、太字だけ。売買契約と同時に移転、B所有、これが太字。財産的損害の発生が必要、生じない。民法177条の第三者、背信的悪意者は含まれない、単純悪意者は含まれる。三つとも、復元キーで組み立てられます。

答案の型です。三者一事案を、順番に処理します。民176で契約時にB所有=他人の物=Cへの売却で横領。Cが善意でも、財産的損害なし=詐欺不成立。Cが悪意でも、単純なら否定、背信的なら肯定。
論文の型:横領後の横領 〔論文〕

論文の型、二つ目。横領後の横領、論証49。太字だけ。侵害の程度が異なる、評価し尽くされたとはいえない。第2行為は不可罰的事後行為か、から入る。第1で評価し尽くしてない=第2は新たな侵害。

答案の型です。抵当権設定の後に、売却した設例。規範は、侵害の程度が異なる。売却は抵当権設定より重い=評価し尽くされてない。
論文の型:横領後の詐欺 〔論文〕

論文の型、三つ目。横領後の詐欺、論証50。太字だけ。非難可能性の減少、趣旨を没却しない。同一の被害者、横領物を確保するために、不可罰的事後行為。横領罪は法定刑が軽い、その趣旨から入る。同一被害者・横領物確保の嘘は、不可罰的事後行為。

答案の型です。横領した後、嘘で返還を免れた設例。規範は、法定刑の軽さの趣旨を没却しない。同一被害者・横領物確保の嘘=不可罰的事後行為。
今日の地図(保存版)

まとめます。軸は、二つ。一つ、二重売買は民法と刑法を切り分ける。もう一つ、罪数は二つのモノサシ。①不動産二重売買は、三者を切り分ける。②二重抵当は、横領でなく背任。③横領後の横領は、侵害の程度が違う=新たな横領。⑤不動産の既遂時期は、登記の完了で既遂。これで、横領の応用と罪数が、ひととおり完成です。次は#62の後編です。横領の派生類型。業務上横領と、占有離脱物横領です。業務として預かる人が横領した、加重類型です。落とし物を、ネコババしたような場合。委託がない横領。お疲れさまでした。