横領罪②後編——業務上横領253〔二重身分・65条1項2項併用 最判昭32・11・19〕・占有離脱物横領254〔委託なき横領・大判大8・4・4〕
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第12章 財産に対する罪 ⑭/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
業務上横領253——252の加重類型・二重身分 〔短答・論文〕

まず、業務上横領の条文から。「業務上、自己の占有する、他人の物」——単純横領に「業務上」が付いただけです。法定刑は、十年以下の拘禁刑。252は五年以下でしたから、ちょうど二倍。だから、加重類型といいます。ここに難所があります。主体を、よく見てください。「業務上、他人の物を占有する者」。これ、身分が二つ、重なっているんです。占有しているんだから一つでは、と思いますよね。そこが最初のつまづきポイント。役割を分けて考えます。一つ目、占有者という身分。これがないと、そもそも横領が成立しない。横領を成り立たせる、土台の身分です。これを真正身分、または構成的身分といいます。二つ目、業務者という身分。占有者なら、業務者でなくても横領はできる——単純横領で五年以下。でも業務者だと、刑が重くなる——十年以下。上乗せされる。これを不真正身分、または加減的身分といいます。だから、土台と上乗せで、役割が別。同じ人が両方持っていても、別物として数えます。
二重身分の中身(金庫番のたとえ) 〔短答・論文〕

イメージで、つかみましょう。会社の金庫番。鍵を任された、甲です。身分が二階建てになっています。一階が、占有者身分。金庫の鍵を持っている——これがないと横領できない、土台です。二階が、業務者身分。それが毎日の仕事——反復・継続して預かる立場で、これがあると刑が加重される、上乗せです。一階が土台で、二階が上乗せ。この二階建てが、後で効いてきます。身分のない人が、共犯で加わったとき、土台と上乗せを別々に処理できる。そこが、まさに次のテーマです。
業務上横領253 条文カード 〔短答・論文〕

条文を全文で出します。253条。「業務上、自己の占有する、他人の物を、横領した者」。十年以下の拘禁刑——ここが太字です。旧い表記だと「懲役」ですが、現行は拘禁刑。覚え直してください。252の五年以下の、ちょうど二倍。「業務上」が付くだけで、刑が倍になる。預かるのが仕事の人ほど、責任が重い、という趣旨です。
身分なき者が共犯——65条をどう使うか 〔論文〕

最大の難所です。身分のない人が、共犯になる場合。事案から。甲は、会社の経理担当で、業務者かつ占有者——金庫番の甲です。その甲と、友人の乙が共謀しました。乙は、業務者でも占有者でもない、ただの友人。会社とは無関係です。二人で、会社の金を着服した。甲は業務上横領。問題は、乙です。どんな罪で、どんな刑か。共謀しているから、共同正犯っぽい。ここで、65条を、二階建てで使います。さっきの身分と同じ構造です。まず一階、占有者身分。これは真正身分——横領の土台の身分です。真正身分は、65条1項で、身分なき者にも連帯する。条文は「身分のない者であっても、共犯とする」。だから乙にも、業務上横領の共同正犯が成立します。罪名は、重い方の業務上横領。でも、まだ終わりません。二階、業務者身分。加重の上乗せの方です。これは不真正身分。65条2項を使います。2項は「身分のない者には、通常の刑を科する」。加重は業務者だけに効く——乙には効きません。乙は、業務者じゃないからです。だから乙に科す刑は、単純横領の刑。罪名は業務上横領なのに、刑は単純横領。ここが、引っかかるところ。でも、筋は通っています。罪名は1項で連帯、科される刑は2項で個別、だからです。一階で罪名を決めて、二階で刑を決める。1項と2項の、併せ技。最判昭32・11・19です。この回で、一番大事な処理です。
65条 条文カード 〔論文〕

65条を全文で出します。1項は「身分のない者であっても、共犯とする」——これが真正身分の連帯で、罪名が身分なき者にも乗ります。2項は「身分のない者には、通常の刑を科する」——これが不真正身分の個別作用で、加重は身分ある者だけ。1項で罪名、2項で刑。役割が、きれいに分かれています。65条の理論そのものは#36でやりました。今日は、253への当てはめだけ。条文は出しますが、理論は#36に戻ってください。
二重身分と65条 適用表(甲/乙/丙) 〔論文〕

表で、場合分けを確定します。甲・乙・丙の三人。上段が、甲——業務者かつ占有者。二つとも持っている人で、これは業務上横領の正犯。罪名も刑も、業務上横領です。問題は、下。まず乙。業務者でも占有者でもない——占有者身分がない。でも1項で、業務上横領の共同正犯が成立する。罪名は連帯します。業務者身分もないから、2項で単純横領の刑。次に、丙。ここがちょっとひねり。丙は、占有者だけど、非業務者です。自分も占有者身分は持っているので、単純横領の主体にはなれる。でも、業務者ではない。だから結論は、乙と同じ——1項で業務上横領の共同正犯、2項で単純横領の刑。占有者身分があっても、業務の加重は受けないんです。乙も丙も、科刑は単純横領で揃う。罪名は業務上横領、刑は単純横領。表で一目です。
業務の意義——211の「業務」とは違う 〔短答・論文〕

二つ目、業務の意義。ここもつまづきます。「業務」って、危ない仕事のこと?——多くの人が、業務上過失致死の業務と、ごっちゃにします。あれは、人を傷つけかねない、危険な事務。運転とか、医療とか。危険性が、ベースです。でも253は違う。253の業務は、他人の物の占有・管理を伴う事務——財産を預かる仕事です。経理、出納、質屋、倉庫業、運送業。弁護士が示談金を預かる場合も入ります。危ない仕事ではなく、財産を預かる仕事。方向が、逆なんです。共通点は、社会生活上の地位に基づき、反復継続すること——そこだけ。骨格は同じ、中身は逆。対比表で見ましょう。
211業務 vs 253業務 対比表 〔短答・論文〕

表で、二つの業務を並べます。211と253。列は、業務の中身と、共通点。211の中身は、人の生命・身体に危害を及ぼす、危険な事務。253は、他人の物の占有・管理を伴う、財産的事務。共通点は、社会生活上の地位に基づき反復継続すること——これだけ。骨格は同じで、中身は逆向き。この一枚で、混同を防げます。「業務」と言われたら、どっちの業務か、確認してください。
占有離脱物横領254——委託のない横領 〔短答・論文〕

後半です。占有離脱物横領、254。委託のない横領——落とし物をネコババした場合などです。客体は、占有を離れた他人の物。占有離脱物といいます。条文には「遺失物、漂流物」と書いてありますが、一つ注意。「遺失物横領罪」と覚えないでください。遺失物や漂流物は、あくまで例示なんです。本体は、占有を離れた他人の物、全部。これが2類型あります。一つ目。落として、まだ誰の占有にもない物。道端の落とし物、置き忘れ、風で飛んだ物、逃げた家畜も。持ち主の意思と関係なく、占有を離れた物です。二つ目。委託なく、自分の手元に来た物。つり銭を多くもらって、気付かず持ち帰った——お釣りのもらいすぎ。誤配達された郵便物も、これです。預かったわけじゃないのに、手元に来た物。この二つを合わせて、占有離脱物といいます。遺失物は、その一例にすぎません。
254 条文カード 〔短答・論文〕

条文を全文で。254条。「遺失物、漂流物、その他、占有を離れた他人の物」。法定刑を見てください。一年以下の拘禁刑、又は、十万円以下の罰金。さらに「若しくは科料」まで付きます。罰金で済むこともある——すごく軽い。252は五年、253は十年でしたから、段違いに軽い。なぜか。理由は次のテーマ——委託が、ないからです。
252との区別——委託信任関係の有無 〔短答・論文〕

単純横領252との区別です。252も、自分が占有している他人の物でした。254も、形は似ています。でも、決定的に違う。252は、委託信任関係に基づいて占有している——預けてもらった物です。254は、その委託信任関係がない——落とし物を拾っただけで、預かっていません。だから、法定刑が極端に軽い。さっきの「すごく軽い」理由が、これです。考えてみてください。252は何を裏切るか——預けてくれた人の信頼です。背信があるから、重い。254は、誰からも預かっていない。裏切る相手が、そもそもいない。背信がないから、軽い。背信性の有無が、法定刑を分けるんです。委託信任関係の中身は#61でやりました。ここでは、有るか無いか、の差分だけ。
235(窃盗)との区別——占有があるか 〔短答・論文〕

次は、窃盗235との区別です。落とし物を拾えば、全部254?——それが、つまづきポイント。即断しないでください。まず、見るべきことがあります。占有の有無です。誰かの占有下にある物を奪えば、窃盗235。占有がなければ、254。だから、占有があるかを、先に判定します。具体例。宿泊客Xが、旅館のトイレに財布を置き忘れました。それを、別の客Zが見つけて、持ち去った。落とし物だから占有離脱物横領、と思いますよね。でも、違うんです。旅館の中は、旅館主Yの管理が及んでいます。トイレの忘れ物にも、Yの占有が及ぶ。誰の占有にもない、わけじゃないんです。Yの占有下にある物を、Zが持ち去った——それは窃盗。254ではなく、235です。大判大8・4・4が、この結論です。同じような話が、ありました——ゴルフ場のロストボール。あれもゴルフ場側の占有でした。#54でやった占有論です。占有の中身は#54に戻ってください。ここでは、その占有論を当てはめるだけ。
占有離脱物 2段ふるいフロー 〔短答・論文〕

フローで、三つの罪を交通整理します。252、254、235。物を拾った、手にした、からスタート。第1ふるい——誰かの占有下に、あるか。他人の占有なら、それを奪えば窃盗235。旅館のトイレの忘れ物が、これでした。自己の占有で、委託があれば、単純横領252。第1を抜けたら、第2のふるい。委託信任関係は、あるか。なければ、占有離脱物横領254。これでやっと、254です。落とし物、つり銭のもらいすぎ、誤配の郵便。占有を見て、委託を見る——順番が大事。拾えば全部254、ではなかったんです。二段で、ふるいにかける。これで完成です。
254の行為・他罪との関係(軽く) 〔短答〕

254の行為も、軽く触れます。行為も、横領。不法領得の意思で、自分の支配に置けば既遂です。拾って、自分の物にする気で持てば、もう成立。領得した後の処分——売ったり、使ったり——は、不可罰的事後行為で、別罪にはなりません。法定刑が軽いから、後始末も処罰しない。ここは、短答レベルで押さえれば十分です。
短答ひっかけ

整理します。①業務上横領は、二重身分。占有者が真正、業務者が不真正。身分なき共犯者は、65条の併せ技——1項で業務上横領の共同正犯、2項で単純横領の刑。罪名は連帯、科刑は個別です。②業務は、253と211で意義が逆。253は財産管理、211は危険な事務。③占有離脱物254は、客体が2類型。誰の占有にもない物と、委託なく手元に来た物。④252区別は委託の有無、235区別は占有の有無。旅館トイレの忘れ物は、旅館主の占有で窃盗です。全体の軸は——253は身分も65条も二階建て、254は2段ふるい。二つの軸で、横領が完結します。
論文の型:業務上横領と65条 〔論文〕

論文の型です。業務上横領と、65条。逐語で覚えるのは、太字だけ——真正身分、65条1項、業務上横領の共同正犯、それと、不真正身分、65条2項、単純横領罪の刑。あとは、趣旨から復元します。①253は、占有者と業務者の二重身分犯。②占有者は真正身分で、1項で連帯。③だから、業務上横領の共同正犯が成立。④業務者は不真正身分で、2項で個別。⑤だから、業務者でない者には単純横領の刑。この五ステップで、組み立てられます。最判昭32・11・19が、この処理です。

答案の型です。経理担当甲と、友人乙の設例。問題提起は、二重身分犯に乙が加担=65条1項2項の適用。規範は、さっきのコア規範。あてはめは、二段で。占有者身分なし、でも1項で共同正犯。業務者身分なし、だから2項で単純横領の刑。身分が二つあるから、あてはめも二段。一つの事案を、1項と2項で順に処理します。
📝 論文の型(フル論証・正本)
論点:業務上横領と65条——身分なき者が加担した場合
コア規範(逐語固定)
業務上横領罪における占有者という身分は真正身分であるから、身分なき共犯者にも65条1項により業務上横領罪の共同正犯が成立する。もっとも、業務者という身分は不真正身分であるから、業務者でない共犯者には65条2項により単純横領罪の刑を科すべきである。
逐語で固定するのは太字(真正身分/65条1項/業務上横領罪の共同正犯/不真正身分/65条2項/単純横領罪の刑)だけ。それ以外は、次の復元キーから趣旨で組み立てる。
復元キー(趣旨からの5ステップ)
- 253は、占有者という身分(真正・構成的身分)と業務者という身分(不真正・加減的身分)が重なった二重身分犯である。
- 占有者身分は、これがなければそもそも横領が成立しない構成的身分(真正身分)であるから、65条1項により身分なき共犯者にも連帯する。
- したがって、身分なき共犯者にも業務上横領罪の共同正犯が成立する(=罪名は1項で連帯)。
- 他方、業務者身分は、あれば刑が加重されるにとどまる加減的身分(不真正身分)であるから、65条2項により身分のある者にのみ加重が作用する。
- よって、業務者でない共犯者には単純横領罪(252)の刑を科す(=科刑は2項で個別)。〔最判昭32・11・19 刑集11巻12号3073頁・第三小法廷判決〕
答案の型(事例→問題提起→規範→あてはめ→結論)
- 〔事例〕 会社の経理担当者甲が、業務者でも占有者でもない友人乙と共謀し、甲が業務上占有する会社の金を着服した。乙の罪責を論ぜよ。
- 〔問題提起〕 二重身分犯である業務上横領罪に、身分なき乙が加担した場合、乙にいかなる罪が成立し、いかなる刑が科されるか。65条1項・2項の適用が問題となる。
- 〔規範〕 上記コア規範のとおり。
- 〔あてはめ〕 乙は占有者身分を有しないが、占有者身分は真正身分であるから、65条1項により業務上横領罪の共同正犯が成立する。もっとも、乙は業務者身分を有しないところ、業務者身分は不真正身分であるから、65条2項により乙には単純横領罪の刑が科される。
- 〔結論〕 乙には業務上横領罪の共同正犯が成立し、単純横領罪(252)の刑が科される(罪名は連帯・科刑は個別)。
今日の地図(保存版)

まとめます。軸は、252を真ん中に置く地図。左へ+業務、右へ−委託。①業務上横領253は、加重類型。二重身分で、65条も二階建て。罪名は1項で連帯、科刑は2項で個別——最判昭32・11・19でした。②業務の意義は、253と211で逆。財産管理ベースと、危険性ベース。③占有離脱物254は、客体が2類型。誰の占有にもない物と、委託なく手元に来た物。④252区別は委託、235区別は占有。旅館トイレの忘れ物は、旅館主の占有で窃盗。これで、横領の罪が、ぜんぶ完結です。単純、業務上、占有離脱物——三つそろいました。#61から#62まで、横領を仕上げました。次回は#63、背任罪247条です。前編で、二重抵当のとき出てきました。横領と背任の区別が、いよいよ本番です。横領で土台を作ったから、背任が読めます。次回、背任罪でお会いしましょう。お疲れさまでした。